説明

高分子電解質組成物

【課題】良好な長期安定性を有する固体高分子型燃料電池を実現し得る高分子電解質膜を得ることができる、高分子電解質組成物を提供する。
【解決手段】下記何れかの高分子電解質組成物及び燃料電池(用部材)の提供。
<1>以下の成分(A)と、成分(B1)及び/又は成分(B2)と、を含有する高分子電解質組成物。
(A)高分子電解質
(B1)白金との親和度が10%以上である化合物
(B2)窒素原子、リン原子及び硫黄原子からなる群より選ばれる非共有電子対を有する原子を少なくとも二種類、分子内に有する化合物
<2>上記高分子電解質組成物から調製される燃料電池用部材(高分子電解質膜等)及び該部材を具備する燃料電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質組成物に関する。より詳しくは固体高分子形燃料電池の部材を得る上で好適な高分子電解質組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池(以下、場合により「燃料電池」という。)は、水素と酸素の化学的反応により発電させる発電装置であり、次世代エネルギーの一つとして電気機器産業や自動車産業等の分野において大きく期待されている。燃料電池は、高分子電解質膜の両面にそれぞれ触媒層を備えた膜−電極接合体(以下、場合により「MEA」という)を基本単位として構成されている。そして、この触媒層には通常、触媒成分として、白金又は白金系合金の微粒子が用いられている。
【0003】
燃料電池に使用される高分子電解質膜としては、従来のフッ素系高分子電解質に代わって、安価で、耐熱性に優れた炭化水素系高分子電解質が注目されてきている。この炭化水素系高分子電解質の中でも、イオン伝導性成分を有するイオン性セグメントと、イオン伝導性成分を有さない非イオン性セグメントと、がミクロ相分離した高分子電解質膜を形成し得る高分子電解質は、高分子電解質膜中において、イオン性セグメントが良好なイオン伝導経路を形成し、優れたイオン伝導性を発現するといった好適な特性を有するため、これまで種々検討されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
ところで、炭化水素系高分子電解質からなる高分子電解質膜は、フッ素系高分子電解質からなる高分子電解質膜と比較して、燃料電池の長期の運転安定性(以下、「長期安定性」と呼ぶ)が低い場合がある。この長期安定性を低くする要因としては、様々の原因が推定されているが、その1つとして、燃料電池作動時に発生する過酸化物(例えば、過酸化水素等)又は該過酸化物から発生するラジカルによる高分子電解質膜の劣化が知られている。それゆえ、このような過酸化物やラジカル(以下、場合により、これら過酸化物及びラジカルをまとめて「過酸化物成分」という)に対する高分子電解質膜の耐久性(以下、「ラジカル耐性」という)を向上させることが、燃料電池の長期安定性に繋がる1つの対策とされている。
【0005】
また、近年、燃料電池の長期安定性を低くする要因として、燃料電池作動中に、触媒層にある白金の一部が高分子電解質膜内で析出し、この析出した白金の近傍で過酸化物成分が発生し易くなることが報告されている。同文献には、このような過酸化物成分によって高分子電解質膜の劣化が助長されることも報告されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−31232号公報
【特許文献2】特開2003−113136号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】長谷川直樹等,第49回電池討論会予稿集(2008年),19頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
燃料電池作動中に発生する過酸化物成分により劣化した高分子電解質膜を備えた燃料電池は、その発電性能が低下する傾向がある。これは、劣化した高分子電解質膜のイオン伝導性が低下していることに起因する。
一方、高分子材料分野では従来から、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤等の酸化防止剤が、加工時の溶融劣化や、経時的に生じる酸化劣化を抑制する目的で用いられている。しかしながら、ラジカル耐性の向上を求めて、このような酸化防止剤を燃料電池用の高分子電解質膜に用いたとしても、燃料電池の長期安定性の改善には不十分であった。このような長期安定性を良好にすることは、燃料電池の実用化に向けた重要な課題であり、長期安定性に優れる燃料電池を得ることができる燃料電池用部材、特に高分子電解質膜の実現が切望されていた。
このような状況下、本発明は、長期安定性に優れた燃料電池を実現する燃料電池用部材、特に高分子電解質膜を得ることができる高分子電解質組成物を提供することを目的とする。さらには、該高分子電解質膜を用いてなる、長期安定性に優れた燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、以下の<1>を提供するものである。

<1>以下の成分(A)と、
以下の成分(B1)及び成分(B2)からなる群より選ばれる少なくとも1種の成分(B)と、
を含有する高分子電解質組成物。
(A)高分子電解質
(B1)白金との親和度が10%以上である化合物
(B2)窒素原子、リン原子及び硫黄原子からなる群より選ばれる少なくとも2種の非共有電子対を有する原子を分子内に有する化合物

本発明者等は、白金との親和度(以下、「白金親和度」という)が特定量以上の化合物[成分(B1)]を含む高分子電解質組成物によれば、燃料電池用部材、特に高分子電解質膜を調製したとき、非特許文献1で報告されているような膜内での白金の析出を防止できることを見出した。このように燃料電池作動により生じる白金の析出を防止することは、長期安定性に優れた燃料電池を実現し得るものである。

なお、以下の説明において、このような長期安定性に優れた燃料電池を実現する高分子電解質膜を「長期安定性に優れた高分子電解質膜」ということがある。
【0010】
また、本発明者等は、特定の非共有電子対を有する原子分子内に有する化合物[成分(B2)]を含む高分子電解質組成物によれば、得られる高分子電解質膜自体のラジカル耐性を著しく向上できることを見出した。このようにラジカル耐性に優れた高分子電解質膜は、長期安定性に優れた燃料電池を実現し得るものである。したがって、本発明は、以下の<2>〜<4>を提供する。
<2>前記成分(B)が、前記成分(B2)である請求項1記載の高分子電解質組成物;
<3>前記成分(B2)が、硫黄原子を含む官能基としてチオ基又はメルカプト基を有し、且つ窒素原子を含む官能基としてアミノ基又はイミノ基を有する化合物である、<1>又は<2>の高分子電解質組成物;
<4>前記成分(B2)が、前記非共有電子対を有する原子のうち少なくとも1つを含む複素環を有する化合物である、<1>〜<3>の何れかの高分子電解質組成物;
【0011】
既述のように、成分(B1)は高分子電解質膜中の白金の析出を十分防止得るものであり、以下の<5>をさらに提供する。
<5>前記成分(B)が、前記成分(B1)である<1>の高分子電解質組成物;
【0012】
さらに、本発明者等は、非共有電子対を有する原子として窒素原子及び硫黄原子を分子内に有し、しかも白金親和度が10%以上となる化合物として、フェノチアジン類を見出した。すなわち、本発明は以下の<6>を提供する。
<6>前記成分(B)が、以下の式(10)で表されるフェノチアジン類である<1>〜<4>の何れかの高分子電解質組成物;

(式中、A環及びB環は同一あるいは異なって、ベンゼン環又はナフタレン環を表す。A環に結合するR10、B環に結合するR20は、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のハロゲン化アルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数1〜10のアルキルチオ基、炭素数6〜10のアリール基又はハロゲン原子を表す。a1及びa2は同一あるいは異なって0〜2の整数を表す。a1が2である場合、2つのR10は同一でも異なっていてもよく、a2が2である場合、2つのR20は同一でも異なっていてもよい。R30は、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のハロゲン化アルキル基又は炭素数6〜10のアリール基を表す。)
前記式(10)表されるようフェノチアジン類は、前記成分(B1)としても、前記成分(B2)としても、用いることができるものであり、高分子電解質膜中での白金の析出を防止しつつ、該高分子電解質膜自体のラジカル耐性を向上することもできる。
【0013】
さらに、本発明は前記何れかの高分子電解質組成物に係る具体的な実施態様として、以下の<7>〜<9>を提供する。
<7>前記成分(A)100重量部に対して、前記成分(B)が0.1〜30重量部である、<1>〜<6>の何れかの高分子電解質組成物;
<8>前記成分(A)が、炭化水素系高分子電解質である、<1>〜<7>の何れかの高分子電解質組成物;
<9>さらに以下の成分(C)を含む、<1>〜<8>の何れかの高分子電解質組成物;
(C)触媒成分
【0014】
また、本発明は前記何れかの高分子電解質組成物を用いる、以下の<10>〜<14>を提供する。
<10><1>〜<8>の何れかの高分子電解質組成物から調製される高分子電解質膜;
<11><10>の高分子電解質膜を有する、膜−電極接合体;
<12><9>の高分子電解質組成物から調製される触媒層;
<13><12>の触媒層を有する、膜−電極接合体;
<14><11>又は<13>の膜−電極接合体を備えた、燃料電池(固体高分子形燃料電池);
【発明の効果】
【0015】
本発明の高分子電解質組成物によれば、良好な長期安定性を有する燃料電池を実現し得る高分子電解質膜等の燃料電池用部材を得ることができる。該燃料電池用部材を備えた燃料電池は長期安定性に極めて優れるものとなるので、工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の高分子電解質組成物は、以下の成分(A)と、
以下の成分(B1)及び成分(B2)からなる群より選ばれる成分(B)と、
を含有することを特徴とする。
(A)高分子電解質
(B1)白金との親和度が10%以上である化合物
(B2)窒素原子、リン原子及び硫黄原子からなる群より選ばれる非共有電子対を有する原子を少なくとも二種類、分子内に有する化合物
以下、これらのうち、成分(B1)を含む高分子電解質組成物を本発明の第1の実施形態として、成分(B2)を含む高分子電解質組成物を本発明の第2の実施形態として、成分(B1)及び成分(B2)を含む高分子電解質組成物を本発明の第3の実施形態として説明する。
【0017】
<第1の実施形態>
上述のとおり、本発明の第1の実施形態である高分子電解質組成物は、以下の成分(A)及び(B1)を含有するものである。
【0018】
<成分(B1)>
成分(B1)は、白金親和度が10%以上である化合物である。本発明者等は、長期安定性に優れた高分子電解質膜を得る手段として、非特許文献1で報告されたような高分子電解質膜内での白金析出を抑制する方法に関して種々検討したところ、白金親和度が特定の範囲である化合物が、高分子電解質膜内での白金析出を十分抑制し得ることを見出した。
【0019】
本発明でいう白金親和度とは、白金との親和性の大きさを表す指標であり、特にイオン化した白金と結合又は吸着による親和性を示すものである。
白金親和度を求める方法に関し、ある特定の化合物(化合物A)の白金親和度を求めることを例に取って具体的に説明する。まず、化合物A10mgに対し、HPt(Cl)水溶液(白金濃度として10ppmの白金標準溶液)5mlを添加して測定サンプルを調製する。この測定サンプルを室温(約23℃)下で2時間放置する。放置後に、用いた白金の総重量に対する、化合物Aと結合又は吸着した白金の総重量の割合を求める。ここでは、化合物Aが白金と結合又は吸着によって生成した生成物が、該測定サンプル中で析出する場合について記す。すなわち、使用した白金標準溶液における白金の濃度をX、放置後の測定サンプルにおける液相の白金の濃度をYとしたとき、白金親和度(Z)は以下の式で算出できる。
(Z)={(X―Y)/X}×100
このようにして求められる白金親和度が10%以上の化合物を、高分子電解質と合わせて使用することにより、長期安定性に優れた高分子電解質膜を得ることができる。該白金親和度は高いほど良好であり、20%以上であれば好ましく、30%以上であれば、より好ましく、50%以上であれば、さらに好ましい。白金はイオン化(帯電)すると、[Pt(Cl)2−や[Pt(OH)2−等の適当なアニオンがイオン結合又は配位結合してなる溶存種を形成することが知られている。白金親和度が前記の範囲の化合物は、このようなイオン化した白金の電子を受け取ることにより、白金と結合し得る化合物と見ることができる。
【0020】
本発明者等は、成分(B1)として用いる特定の白金親和度を有する化合物は、燃料電池作動中に生じ得る高分子電解質膜内での白金析出を良好に防止している。このような特性が発現される原因は必ずしも明らかではないが、次のような推定メカニズムを提案する。すなわち、高分子電解質膜内で析出し得る白金は、燃料電池作動中に、前記触媒層の触媒成分である白金の一部が、酸化あるいは錯化によりイオン化(帯電)し、このイオン化した白金が、高分子電解質膜中へ浸入し(白金侵入)、高分子電解質膜内で再析出していると考えられる。成分(B1)は上述のように白金との親和性を有しているので、イオン化した白金と結合又は吸着することにより、高分子電解質膜内への白金侵入を抑制しているか、イオン化した白金と結合又は吸着することにより、高分子電解質膜内で、その析出を妨げていると推定される。成分(B1)の作用は、このような推定メカニズムにより限定されるものではないが、特定の白金親和度を有する化合物が長期安定性に優れた高分子電解質膜の実現を成し遂げられることは、本発明者等の独自の知見に基づくものである。
【0021】
白金親和度が特定量以上の化合物を得るには、たとえば以下のようにすればよい。金属イオン又は金属と、有機塩基と、の親和性は、酸・塩基の「かたさ」・「やわらかさ」で判定されることがある(渡部 正利等著,「錯体化学の基礎 ウェルナー錯体と有機金属錯体」,65〜70頁,(株)講談社,1989年5月20日発行)。白金、特にイオン化した白金(酸化数2又は4の白金)は、「やわらかい酸」に分類されるものであり、「やわらかい塩基」と親和性を有する。この「やわらかい塩基」としては、硫黄原子を含む官能基(チオ基、メルカプト基等)を有する化合物やリン原子を含む官能基(ホスフィノ基等)を有する化合物が知られている。したがって、硫黄原子及び/又はリン原子を有する化合物の中から、上述の白金親和度測定方法により白金親和度を求めて、該白金親和度が10%以上の化合物を選択することにより、前記成分(B1)に適用可能な化合物を選択することができる。特に、錯体の形成し易さは、いわゆるキレート効果による影響も大であるため、
硫黄原子又はリン原子を分子内に複数個有する化合物;
硫黄原子及びリン原子を分子内に有する化合物;
硫黄原子又はリン原子を少なくとも1個有し、さらにその他の配位結合を形成し得る原子(酸素原子又は窒素原子)を1個以上有する化合物;
の中から、白金親和度を求めて、該白金親和度が10%以上の化合物を選択することが好ましい。
【0022】
また、本発明の高分子電解質組成物から高分子電解質膜を得たとき、使用した成分(B1)の少なくとも一部が、得られた高分子電解質膜の表面又は表面近傍に存在するような化合物を用いると好ましい。このような化合物を成分(B1)として用いた高分子電解質膜は、燃料電池作動中に当該成分(B1)がイオン化した白金と高分子電解質膜表面又はその近傍において結合又は吸着し、高分子電解質膜の内部への白金侵入を抑制することが期待される。
なお、高分子電解質膜の表面又は表面近傍に、成分(B1)が存在するかどうかは、各種表面分析法により判定することができる。該表面分析法としては、例えば、XPS分析、SIMS分析、反射吸収法分析等が挙げられ、用いた成分(B1)の種類により適宜、これらの中から最適な表面分析法を選択することができる。
【0023】
<第2の実施形態>
上述のとおり、本発明の第2の実施形態である高分子電解質組成物は、成分(A)及び成分(B2)を含有するものである。
【0024】
<成分(B2)>
本発明者等は、同一分子内に、窒素原子、リン原子及び硫黄原子からなる群より選ばれる少なくとも2種の原子を有し、これらの原子がいずれも非共有電子対を有する原子である化合物を、高分子電解質と合わせて用いた高分子電解質組成物が、燃料電池用部材、特に高分子電解質膜を得たとき、該高分子電解質膜のラジカル耐性を良好にすることを見出した。このような成分(B2)は、燃料電池作動中に発生する過酸化物成分を分解したり、捕捉したりして、不活性化したり、することにより、高分子電解質膜等のラジカル耐性を良好にする。その理由は必ずしも明らかではないが、本発明者等は次のように推定している。該過酸化物成分は、その周囲にある高分子電解質膜を構成する高分子電解質(成分(A))やその他の添加剤等の影響を受けて、様々な形態で存在する。成分(B2)は上述のように複数種の非共有電子対を有する原子を有しているので、2種以上の原子による相乗効果が効率的に発現して、様々な形態で存在している過酸化物成分を分解、捕捉又は不活性化すると考えられる。
【0025】
前記成分(B2)に使用される好適な化合物において、前記非共有電子対を有する原子は、該原子を含む官能基として存在している。以下、具体的に、これらの官能基の好適なものを例示する。
硫黄原子を含む官能基として、メルカプト基(−SH)、チオ基(−S−)や、後述する硫黄原子を含む複素環を有するようなチエニル基が挙げられる。窒素原子を含む官能基として、アミノ基(−NR2,Rは水素原子であるか、任意の有機基であり、2つのRは同じであっても異なっていてもよく、2つのRが結合して環を形成してもよい。)、イミノ基(=NH)や、後述する窒素原子を含む複素環を有するようなピリジル基や、イミダゾリル基が挙げられる。リン原子を含む官能基としては、ホスフィノ基のような3価のリン原子を有する官能基が挙げられる。
【0026】
より具体的に成分(B2)として好適な化合物を例示する。
【0027】
窒素原子を含む官能基と、硫黄原子を含む官能基とをともに有する化合物としては、フェノチアジン、2−メトキシフェノチアジン、2−メチルチオフェノチアジン、2-エチルチオフェノチアジン、2−クロロフェノチアジン、2−(トリフルオロメチル)フェノチアジン、メチレンブルー、ベンゾイルロイコメチレンブルー、2−メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプト−5−メチルベンズイミダゾール、5−アミノ−2−メルカプトベンズイミダゾール、2−(メチルチオ)ベンゾイミダゾール、2−(4−チアゾリル)ベンゾイミダゾール、ベンゾチアゾール、2,5−ジメチルベンゾチアゾール、6−アミノ−2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプト−6−ニトロベンゾチアゾール、アセトンベンゾチアゾリル−2−ヒドラゾン、6−メルカプトプリン、6−メチルメルカプトプリン、2,6−ジメルカプトプリン、2−チオキサンチン、6−チオグアニン、2−アミノベンゼンチオール、2−メチルチオアニリン、4−メチルチオアニリン、4−アミノベンゼンチオール、2−メルカプトピリジン、4−メルカプトピリジン、2,2'−ジピリジルジスルフィド、4,4'−ジピリジルジスルフィド、1,8−ビス(2−ピリジル)−3,6−ジチアオクタン、8−メルカプトキノリン塩酸塩、S−メチルチオバルビツル酸、2−エチル−3−(メチルチオ)ピラジン、2−アミノフェニルフェニルスルフィド、ビス(2−アミノフェニル)スルフィド、ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、N−tert−ブチルベンゼンスルファミド、2−(2−チエニル)ピリジン等が挙げられる。
【0028】
硫黄原子を含む官能基と、リン原子を含む官能基とをともに有する化合物としては、トリ(2−チエニル)ホスフィン、下記構造式で表される化合物(ALDRICH社製RCL R469378)、

等が挙げられる。
【0029】
窒素原子を含む官能基と、リン原子を含む官能基とをともに有する化合物としては、ジフェニル−2−ピリジルホスフィン、4−(ジメチルアミノ)フェニルジフェニルホスフィン、4,6−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェノキサジン等が挙げられる。
【0030】
これらの中でも、窒素原子を含む官能基と、硫黄原子を含む官能基とをともに有する化合物が好ましく、メルカプト基及び/又はチオ基と、アミノ基及び/又はイミノ基と、を有する化合物がより好ましい。例示した化合物の中では、フェノチアジン、2−メトキシフェノチアジン、2−メチルチオフェノチアジン、2-エチルチオフェノチアジン、2−クロロフェノチアジン、2−(トリフルオロメチル)フェノチアジン、2−メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプト−5−メチルベンズイミダゾール、5−アミノ−2−メルカプトベンズイミダゾール、2−(メチルチオ)ベンゾイミダゾール、2−(4−チアゾリル)ベンゾイミダゾール、6−アミノ−2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプト−6−ニトロベンゾチアゾール、アセトンベンゾチアゾリル−2−ヒドラゾン、6−メルカプトプリン、6−メチルメルカプトプリン、2,6−ジメルカプトプリン、2−チオキサンチン、6−チオグアニン、2−アミノベンゼンチオール、2−メチルチオアニリン、4−メチルチオアニリン、4−アミノベンゼンチオール、2−アミノフェニルフェニルスルフィド、ビス(2−アミノフェニルスルフィド)等が、成分(B)として好適に用いられる。
【0031】
成分(B2)として、特に好ましくは、前記非共有電子対を有する原子のうち少なくとも1つを含む複素環を有する化合物(以下、「複素環化合物」という)を挙げることができる。このような複素環化合物は、成分(A)高分子電解質と、比較的混合し易いという利点があり、このような複素環化合物を用いてなる高分子電解質組成物は、高分子電解質膜等の燃料電池用部材を得たとき、当該部材中に複素環化合物が、ほぼ均一に存在することになる。このように高分子電解質膜を得たときには、該高分子電解質膜にほぼ均一に該複素環化合物が存在しているとは、換言すれば、該高分子電解質膜の表面又は表面近傍にも、該複素環化合物の少なくとも一部が存在することになる。前記MEAにおいて、高分子電解質膜のうち触媒層に接している部分では、燃料電池作動中に過酸化物成分による影響が大になることが予想されるため、該高分子電解質膜の表面又は表面近傍に該複素環化合物(成分(B2))が存在することは、ラジカル耐性を良好にする点でも有効であることが期待される。
【0032】
かかる複素環化合物としては、
前記非共有電子対を有する原子を1個含む複素環を分子内に複数個有するような化合物でもよいし、非共有電子対を有する原子を2個以上含む複素環を含むような化合物でもよい。
ここで、非共有電子対を有する原子を1個以上含む複素環としては、
ピロリジン環、ピペリジン環、ピロリン環、ピロール環、ピリジン環、イミダゾール環、ピラゾール環、ピリミジン環、ピラジン環に代表される窒素原子を1個以上有する複素環;
チオラン環、チアリジン環、チオフェン環、ジチアリジン環に代表される硫黄原子を1個以上有する複素環;
ホスファベンゼン環に代表されるリン原子を1個以上有する複素環
が例示される。
また、異種の非共有電子対を有する原子を2個以上含む複素環としては、
チアジン環、チアゾール環に代表される窒素原子及び硫黄原子を有する複素環が例示される。
なお、これらの複素環は、その共鳴により電子が非局在化する場合があるが、成分(B2)に使用するに当たっては、該複素環がその共鳴構造のうち1つでも、窒素原子、硫黄原子又はリン原子が非共有電子対を有する構造を有するのであれば、非共有電子対を有する原子を含むものとし、当該複素環を含む複素環化合物は成分(B2)として好適に使用することができる。
【0033】
特に成分(B2)として好適な複素環化合物としては、フェノチアジン、2−メトキシフェノチアジン、2−メチルチオフェノチアジン、2-エチルチオフェノチアジン、2−クロロフェノチアジン、2−(トリフルオロメチル)フェノチアジン、2−メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプト−5−メチルベンズイミダゾール、5−アミノ−2−メルカプトベンズイミダゾール、2−(メチルチオ)ベンゾイミダゾール、2−(4−チアゾリル)ベンゾイミダゾール、6−アミノ−2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプト−6−ニトロベンゾチアゾール、アセトンベンゾチアゾリル−2−ヒドラゾン、6−メルカプトプリン、6−メチルメルカプトプリン、2,6−ジメルカプトプリン、2−チオキサンチン、6−チオグアニンが挙げられ、中でも、フェノチアジン、2−メチルチオフェノチアジン、2-エチルチオフェノチアジン、2−メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプト−5−メチルベンズイミダゾール、5−アミノ−2−メルカプトベンズイミダゾール、6−メチルメルカプトプリン、2,6−ジメルカプトプリン等が挙げられる。
【0034】
<フェノチアジン類>
また、本発明者等は前記複素環化合物として、特に前記式(10)で表されるフェノチアジン類が有用であり、該フェノチアジン類は前記白金親和度も10%以上となることを見出している。換言すれば、このフェノチアジン類は、本発明の第1の実施形態(高分子電解質組成物)においては成分(B1)として、本発明の第2の実施形態(高分子電解質組成物)においては成分(B2)として、使用できる極めて有用な化合物といえる。
ここで、繰り返しになるが、この式(10)を以下に示すことにする。

式中、A環及びB環は同一あるいは異なって、ベンゼン環又はナフタレン環を表す。一般には、フェノチアジン類とは、A環及びB環がともにベンゼン環である場合を指すが、本発明においては、A環及びB環の一方、又は両方がナフタレン環である場合も、「フェノチアジン類」と呼ぶことにする。
A環に結合するR10、B環に結合するR20は、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のハロゲン化アルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数1〜10のアルキルチオ基、炭素数6〜10のアリール基又はハロゲン原子を表す。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基等が挙げられ、これらは直鎖、分岐鎖でもよく環を形成していてもよい。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基等が挙げられ、これらは直鎖、分岐鎖でもよく環を形成していてもよい。アルキルチオ基としては、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ブチルチオ基、ヘキシルチオ基、オクチルチオ基、デシルチオ基が挙げられ、これらは直鎖、分岐鎖でもよく環を形成していてもよい。アリール基としては典型的にはフェニル基、ナフチル基等が挙げられ、ハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。
30は、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のハロゲン化アルキル基、炭素数6〜10のアリール基を表す。アルキル基、アリール基の例示は、R10やR20の場合と同じである。ハロゲン化アルキル基としては、前記に例示したアルキル基において、炭素原子に結合している水素原子の一部又は全部が、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子に置き換わった基が挙げられる。
a1及びa2は同一あるいは異なって、0〜2の整数を表わす。a1が2である場合、2つのR10は同一でも異なっていてもよく、a2が2である場合、2つのR20は同一でも異なっていてもよい。
【0035】
また、本発明者等が検討したところ、このフェノチアジン類は、上述の白金親和度を求める方法において説明したように、白金と結合又は吸着することにより測定サンプル中で析出するものであることを確認している。該フェノチアジン類は複素環化合物の一つであることから、高分子電解質膜中に均一に存在し易く、該高分子電解質膜の表面又は表面近傍に存在する。そして、イオン化した白金が高分子電解質膜へと侵入しようとしても、このイオン化した白金を表面又は表面近傍で補足、不活性化し、高分子電解質膜の劣化を抑制することが期待され、成分(B1)として特に有効である。また、このフェノチアジン類は白金親和度を求めることも容易であり、市場から容易に入手し易いという利点もある。
さらに、該フェノチアジン類は、分子内に窒素原子及び硫黄原子を有し、これらの原子はいずれも非共有電子対を有している。したがって、これらの原子の相乗効果が効率的に発現して、様々な形態で存在している過酸化物成分を分解、捕捉又は不活性化すると考えられ、成分(B2)としても有効である。
【0036】
本発明に用いる成分(B2)として、好適な複素環化合物、特にフェノチアジン類について説明したが、かかる複素環化合物から誘導されるモノマー単位からなる高分子化合物も成分(B2)として使用可能である。このような高分子化合物であっても、窒素原子、リン原子及び硫黄原子から選ばれる少なくとも2種の非共有電子対を有する原子を分子内に有する限り、当該高分子化合物を用いることによって、良好なラジカル耐性の高分子電解質膜等を得ることができる。
【0037】
以上、成分(B1)を含む高分子電解質組成物及び成分(B2)を含む高分子電解質組成物に関して説明し、さらに成分(B1)としても成分(B2)としても有用であるフェノチアジン類を詳細に説明したが、たとえば、窒素原子、リン原子及び硫黄原子からなる群より選ばれる少なくとも2種の非共有電子対を有する原子を分子内に有する化合物[成分(B2)]と、白金親和度が10%以上である化合物[成分(B1)]と、を併用することもできる。このように、成分(B1)及び成分(B2)を併用して用いる場合を、本発明の第3の実施形態である高分子電解質組成物とする。なお、以下の説明において、本発明の第1の実施形態である高分子電解質組成物、本発明の第2の実施形態である高分子電解質組成物及び本発明の第3の実施形態である高分子電解質組成物を総称して、「本発明の第1〜第3の実施形態の高分子電解質組成物」ということがある。
【0038】
前記本発明の第1〜第3の実施形態において、前記成分(B1)及び前記成分(B2)からなる群より選ばれる少なくとも1種の成分(B)は、溶媒に可溶であることが好ましい。その理由は、後述する溶液キャスト法に本発明の高分子電解質組成物を用いるとき、このような成分(B)は、成分(A)高分子電解質とともに溶媒に溶解して、溶液組成物(高分子電解質溶液)を調製し易いためである。このような溶媒もしくは高分子電解質溶液に不溶である化合物を、成分(B1)又は成分(B2)として使用すると、高分子電解質組成物を製膜して高分子電解質膜を得ることが比較的困難となる傾向がある。かかる不都合を回避する観点から、成分(B)に適用する化合物としては溶媒に可溶であることが好ましい。前記フェノチアジン類は溶媒に十分可溶であり、このような溶媒可溶性の点でも好ましいものである。
【0039】
本発明の高分子電解質組成物における成分(B)の配合量は、成分(A)高分子電解質が有しているイオン伝導性等の特性を著しく損なうことない範囲で選択される。好適には、成分(A)100重量部に対して、成分(B)が0.1〜30重量部であり、0.5〜25重量部であるとさらに好ましい。成分(B)の配合量が、この範囲であると燃料電池の長期安定性を達成できるだけでなく、高分子電解質(成分(A))の特性を著しく損なわないことから、高分子電解質膜の発電性能等を著しく低下させることはない。
【0040】
<成分(A)>
次に、前記本発明の第1〜第3の実施形態に共通して用いられる成分(A)高分子電解質について説明する。
該高分子電解質としては、Nafion(デュポン社登録商標)、旭化成製のAciplex(旭化成登録商標)、旭硝子製のFlemion(旭硝子登録商標)等の高分子電解質膜を構成するようなフッ素系高分子電解質や、脂肪族炭化水素や芳香族炭化水素にスルホン酸基(−SO3H)、カルボキシル基(−COOH)、ホスホン酸基(−PO32)、スルホニルイミド基(−SO2NHSO2−)等の酸性基を導入した炭化水素系高分子電解質などが用いられる。ただし、前記背景技術に記したように、炭化水素系高分子電解質はラジカル耐性が低いことが懸念されるので、成分(A)が炭化水素系高分子電解質である場合、本発明が奏する、優れたラジカル耐性を有する高分子電解質膜等が得られるという効果をより享受できる。また、フッ素系高分子電解質に比して、低コストの観点からも炭化水素系高分子電解質は有利である。
【0041】
炭化水素系高分子電解質としては、酸性基を有する構造単位と、イオン交換基(酸性基及び塩基性基)を有さない構造単位とを有するものであると、高分子電解質膜としたとき、耐水性や機械強度に優れる傾向があるので好ましい。この2種の構造単位の共重合様式は、ランダム共重合、交互共重合、ブロック共重合、グラフト共重合の何れでもよく、これらの共重合様式の組み合わせでもよい。
なお、炭化水素系高分子電解質とは、当該高分子電解質を構成する元素重量含有比で表してハロゲン原子が15重量%以下である高分子電解質を意味する。このような炭化水素系高分子電解質は、前記のフッ素系高分子電解質と比較して安価であるという利点を有するため、より好ましい、特に好適な炭化水素系高分子電解質とは実質的にハロゲン原子を含有していないものであり、燃料電池の作動時に、ハロゲン化水素等を発生して、他の部材を腐食させたりするおそれがないという利点がある。
【0042】
炭化水素系高分子電解質の中でも、芳香族系高分子電解質は、より機械強度に優れ、高耐熱性であることからも好ましい。
【0043】
該炭化水素系高分子電解質は、主として酸性基を有する構造単位からなるイオン性セグメントと、主としてイオン交換基を有さない構造単位からなる非イオン性セグメントと、を有し、共重合様式がブロック共重合又はグラフト共重合である高分子電解質であると、後述するミクロ相分離構造の高分子電解質膜を形成し易い傾向があり、好ましい。加えて、酸性基を有するセグメントが密な相が膜厚方向に連続相を形成できれば、よりプロトン伝導性に優れる高分子電解質膜が得られるといった利点があるので、より好ましい。
【0044】
ここで、イオン性セグメントとは、酸性基が、該セグメントを構成する構造単位1個あたりで平均0.5個以上含まれているセグメントであることを意味し、構造単位1個あたりで平均1.0個以上含まれているとより好ましい。
一方、非イオン性セグメントとは、イオン交換基が、該セグメントを構成する構造単位1個あたりで平均0.5個未満であるセグメントであることを意味し、構造単位1個あたりで平均0.1個以下であるとより好ましく、平均0.05個以下であるとさらに好ましい。
典型的には、イオン性セグメントと非イオン性セグメントとが、直接結合で結合されているか、適当な原子又は原子団で結合された形態のブロック共重合体である。
【0045】
本発明に適用する高分子電解質においては、プロトン伝導性を担う酸性基の導入量は、イオン交換容量で表して、0.5meq/g〜4.0meq/gが好ましく、更に好ましくは1.0meq/g〜3.0meq/gである。イオン交換容量が前記の範囲であると、燃料電池用高分子電解質として、十分なプロトン伝導性が発現され、比較的耐水性も良好である傾向がある。
【0046】
また、好適な芳香族系高分子電解質としては、イオン性セグメントにおいて、該イオン性セグメントの主鎖に芳香族環を有し、さらに芳香族環を有する側鎖を有してもよく、主鎖の芳香環か側鎖の芳香族環の少なくとも1つが該芳香族環に直接結合した酸性基を有する形態であると好ましい。このように酸性基が芳香環に直接結合している芳香族系高分子電解質が、より優れたプロトン伝導性が発現されることは、本出願人が見出し、特開2007−177197号公報で提唱している。
【0047】
酸性基の具体的な例示は前記のとおりであるが、これら酸性基の中でもスルホン酸基が特に好ましい。
【0048】
より具体的には、本発明に用いる高分子電解質は、イオン性セグメントとして、下記式(1a)、(2a)、(3a)又は(4a)[以下、「式(1a)〜(4a)」と略記することがある]


(式中、mは5以上の整数を表す。Ar1〜Ar9は同一あるいは異なって、主鎖に芳香族環を有し、さらに芳香族環を有する側鎖を有してもよい2価の芳香族基を表す。該主鎖の芳香族環か側鎖の芳香族環の少なくとも1つが該芳香族環に直接結合した酸性基を有する。
Z、Z’は同一あるいは異なって、CO又はSO2を表し、X、X’、X”は同一あるいは異なって、O又はSを表す。Yは直接結合もしくは下記式(1c)で表される基を表す。pは0、1又は2を表し、q、rは同一あるいは異なって、1、2又は3を表す。)
で表されるセグメントの1種以上と、
非イオン性セグメントとして、下記式(1b)、(2b)、(3b)又は(4b)[以下、「式(1b)〜(4b)」と略記することがある]

(式中、nは5以上の整数を表わす。Ar11〜Ar19は同一あるいは異なって、側鎖としての置換基を有していてもよい2価の芳香族基を表す。Z、Z’は同一あるいは異なって、CO又はSO2を表し、X、X’、X”は同一あるいは異なって、O又はSを表す。Yは直接結合もしくは下記式(1c)で表される基を表す。p’は0、1又は2を表し、q’、r’は同一あるいは異なって、1、2又は3を表す。)
で表されるセグメントの1種以上と、
を有する高分子電解質が挙げられる。


(式中、Ra及びRbは同一あるいは異なって、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜18のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜18のアリールオキシ基又は置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基を表し、RaとRbとが連結してそれらが結合する炭素原子と共に環を形成していてもよい。)
【0049】
式(1a)〜(4a)におけるAr1〜Ar9は、2価の芳香族基を表す。2価の芳香族基としては、例えば、1,3−フェニレン、1,4−フェニレン等の2価の単環性芳香族基、1,3−ナフタレンジイル、1,4−ナフタレンジイル、1,5−ナフタレンジイル、1,6−ナフタレンジイル、1,7−ナフタレンジイル、2,6−ナフタレンジイル、2,7−ナフタレンジイル等の2価の縮環系芳香族基、ピリジンジイル、キノキサリンジイル、チオフェンジイル等のヘテロ芳香族基等が挙げられる。好ましくは2価の単環性芳香族基である。
【0050】
また、Ar1〜Ar9は、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基又は置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基で置換されていてもよい。
【0051】
式(1a)のセグメントを構成する構造単位におけるAr1及び/又はAr2、式(2a)のセグメントを構成するAr1〜Ar3のうち少なくとも1つ、式(3a)のセグメントを構成する構造単位におけるAr7及び/又はAr8、式(4a)のセグメントを構成する構造単位におけるAr9には、主鎖を構成する芳香環に少なくとも一つの酸性基を有する。酸性基としては、上述のようにスルホン酸基がより好ましい。
【0052】
式(1b)〜(4b)におけるAr11〜Ar19は、2価の芳香族基を表す。2価の芳香族基としては、例えば、1,3−フェニレン、1,4−フェニレン等の2価の単環性芳香族基、1,3−ナフタレンジイル、1,4−ナフタレンジイル、1,5−ナフタレンジイル、1,6−ナフタレンジイル、1,7−ナフタレンジイル、2,6−ナフタレンジイル、2,7−ナフタレンジイル等の2価の縮環系芳香族基、ピリジンジイル、キノキサリンジイル、チオフェンジイル等のヘテロ芳香族基等が挙げられる。好ましくは2価の単環性芳香族基である。
また、これらの2価の芳香族基は置換基を有していてもよく、この置換基の説明は前記Ar1〜Ar9の場合と同様である。
【0053】
本発明の成分(A)としては、後述のミクロ相分離構造を有する高分子電解質膜が得られる範囲であれば、ブロック共重合体、グラフト共重合体の何れか、或はこれらを組み合わせて使用することができる。但し、製造上の容易さを勘案すると、ブロック共重合体が好ましい。より好ましいブロック共重合体におけるセグメントの組み合わせとしては、下記表1に示すようなものが挙げられ、これら中でも、<イ>、<ウ>、<エ>、<キ>又は<ク>が好ましく、<キ>又は<ク>が特に好ましい。
【0054】
【表1】

【0055】
また、前記のブロック共重合体としては、イオン性セグメントである式(1a)〜(4a)における構造単位の繰り返し数m、非イオン性セグメントである式(1b)〜(4b)における構造単位の繰り返し数n、はともに5以上であるが、好ましくは、5〜1000の範囲であり、さらに好ましくは10〜500の範囲である。繰り返し数がこの範囲である高分子電解質は、イオン伝導性(プロトン伝導性)と、機械強度及び/又は耐水性との、バランスに優れ、各々のセグメントの製造自体も、容易であることから好ましい。
【0056】
具体的に、好適なブロック共重合体を例示すると、以下のものが挙げられる。
【0057】

【0058】

【0059】

【0060】
なお、前記(1)〜(13)は、括弧内の構造単位からなるブロックを有し、その共重合様式がブロック共重合であり、Gは2つのブロックを連結する結合、原子又は2価の原子団を表す。具体的に、Gを例示すると、直接結合、スルホニル基、カルボニル基、酸素原子、硫黄原子、2価の芳香族基又はこれらの組み合わせによる2価の基が挙げられる。
【0061】
より好ましいブロック共重合体型高分子電解質としては、例えば前記の例示の中では、(3)、(5)、(9)〜(13)が好ましく、特に好ましくは、(3)、(5)、(9)、(10)、(11)、(12)が挙げられる。
【0062】
また、該高分子電解質の分子量は、ポリスチレン換算の数平均分子量で表して、5000〜1000000であることが好ましく、15000〜400000であることが特に好ましい。
【0063】
当該高分子電解質としては、例えば特開2005−126684号公報及び特開2005−139432号公報に準拠して得られるブロック共重合体や、特開2007−177197号公報で本出願人が開示したブロック共重合体が挙げられる。
【0064】
前記ブロック共重合体の高分子電解質から得られる高分子電解質膜は、イオン性セグメントの密度が、非イオン性セグメントの密度より高い相(以下、「親水性セグメント相」と呼ぶことがある。)と、非イオン性セグメントの密度が、イオン性セグメントの密度より高い相(以下、「疎水性セグメント相」と呼ぶことがある。)とを含む、ミクロ相分離構造を形成し易い。このようなミクロ相分離構造を有する高分子電解質膜は、親水性セグメント相が優れたプロトン伝導性を発現し、疎水性セグメント相は機械強度等を向上できるので、このような親水性セグメント相と疎水性セグメント相とがミクロ相分離構造を形成する高分子電解質膜は、本発明において特に好ましい。
【0065】
<高分子電解質膜>
次に、前記本発明の第1〜第3の実施形態の高分子電解質組成物から高分子電解質膜を製膜する方法を説明する。この製膜方法としては、溶液状態より製膜する方法(いわゆる溶液キャスト法)が特に好ましく使用される。また、以下の説明においては、本発明の第2の実施形態を例にとって説明することにする。
まず、成分(A)と成分(B2)とを、必要に応じて高分子電解質以外の高分子、添加剤等の他の成分と共に適当な溶媒に溶解して高分子電解質溶液を得る。次に、この高分子電解質溶液を、ガラス基板、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム等の支持基材上に流延塗布(キャスト製膜)し、溶媒を除去することにより支持基材上に高分子電解質膜を製膜する。その後、該支持基材を剥離等によって除去することで、高分子電解質膜を製造する。
なお、前記添加剤としては、通常の高分子に使用される可塑剤、安定剤、離型剤等や、保水剤として添加される、無機あるいは有機の微粒子が挙げられる。
【0066】
製膜に用いる溶媒は、成分(A)、成分(B2)及び必要に応じて添加される他の成分が溶解可能であり、その後に除去し得るものであるならば特に制限はなく、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の非プロトン性極性溶媒、あるいはジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテルが好適に用いられる。これらは単独で用いることもできるが、必要に応じて2種以上の溶媒を混合して用いることもできる。中でも、DMSO、DMF、DMAc、NMP等が高分子電解質の溶解性が高いので、好ましく使用される。
【0067】
得られた高分子電解質膜の厚みは、特に制限されるものではないが、実用的には5〜300μmが好ましい。膜厚が5μm以上の膜では実用的な強度がより優れるため好ましく、300μm以下の膜では膜抵抗自体が小さくなる傾向があるので好ましい。膜厚は、高分子電解質溶液の高分子電解質濃度や支持基材上への塗布厚により制御できる。
【0068】
本発明の高分子電解質組成物から得られる高分子電解質膜は、上述のように親水性セグメント相と、疎水性セグメント相とを含む、ミクロ相分離構造を有するものが好ましく、このようなミクロ相分離構造の高分子電解質膜は、極めて優れたイオン伝導性と、成分(B2)の作用により良好なラジカル耐性が発現して、燃料電池の長期安定性を達成できる。本発明者らが検討した結果、このようなミクロ相分離構造において、燃料電池の作動によって発生する過酸化物成分は、主として親水性セグメント相を構成する酸性基を有するセグメントを劣化させて、結果として高分子電解質膜自身の経時劣化を生じさせることが判明した。本発明の第2の実施形態の高分子電解質組成物は、高分子電解質膜のラジカル耐性、特に親水性セグメント相のラジカル耐性を著しく向上させることができる。その理由は、必ずしも定かではないが、本発明者らは次のように推定している。すなわち、成分(B2)は、前記のように、非共有電子対を有する原子を複数含んでいるので、過酸化物やラジカルといった多様な劣化要因成分に対して、これら複数の原子が効果的に作用し得うると推定される。また、成分(B2)は、該複数の原子が同一分子内にあることから、高分子電解質膜内で官能基同士が近傍にも存在し易いといえるため、これらの官能基同士がより協同的に作用し得る。成分(B2)の中でも、アミノ基やイミノ基と言った窒素原子を有する官能基は親水性が高く、かつ高分子電解質の酸性基との相互作用が強いため、親水性セグメント相、もしくは疎水性セグメント相と親水性セグメント相の界面に、製膜直後の状態から存在するか、もしくは燃料電池作動中に、たとえば疎水性セグメント相から親水性セグメント相に移動して、効果的に高分子電解質膜の劣化を抑制する。なお、成分(A)として、イオン性セグメント及び非イオン性セグメントを有するブロック共重合体又はグラフト共重合体を用いた場合、たとえばイオン性セグメントを分解せず、非イオン性セグメントを分解し得る薬剤(分解剤)を用い、該非イオン性セグメントを選択的に分解した後、残部の主としてイオン性セグメントを含む分解物の分子量をGPC(ゲルパーミエイションクロマトグラフィー)分析等により分析することで、親水性セグメントの分解の度合いを判定することができる。前記に例示した好適なブロック共重合体(1)〜(13)では、非イオン性セグメントとしてポリエーテル系ポリマーセグメントを有し、イオン性セグメントとしてポリフェニレン系ポリマーセグメントを有しているので、該ポリエーテル系ポリマーセグメントを選択的に分解できる分解剤としては水酸化4級アンモニウムが適用可能である。この水酸化4級アンモニウムを、メタノールやエタノール等の低級アルコールに溶解してから分解剤(水酸化4級アンモニウム低級アルコール溶液)として使用すると好ましい。そして、このような水酸化4級アンモニウム低級アルコール溶液にブロック共重合の高分子電解質を加え、100℃程度の反応温度で所定時間、加温するという操作で、イオン性セグメントを含む分解物を得、この分解物の分子量を測定すればよい。なお、このような高分子電解質分解における反応時間は以下のようにして求められる。すなわち、分解反応途中の反応液を適宜サンプリングして、高分子量成分の分子量低下の度合いを求め、該度合いがほぼ飽和した時点を分解反応の終点とすればよい。このようにして反応時間は適宜調整できれば、通常は0.5〜3時間程度で分解反応を終了できるように、反応時間、反応温度及び使用する分解剤の使用量を調整することができる。
【0069】
前記ミクロ相分離構造は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)で見た場合に、親水性セグメント相(ミクロドメイン)と、疎水性セグメント相(ミクロドメイン)とが混在し、各ミクロドメイン構造のドメイン幅すなわち恒等周期が数nm〜数100nmであるような構造を指す。好ましくは5nm〜100nmのミクロドメイン構造を有するものが好ましい。なお、TEMによる分析手段によれば、高分子電解質膜がミクロ相分離構造を有していることが容易に確認できるので、このようなミクロ相分離構造が発現するようにして、成分(A)と成分(B2)との配合量を最適化することもできる。
【0070】
また、該高分子電解質組成物から調製される高分子電解質膜の強度や柔軟性、耐久性のさらなる向上のために、該高分子電解質組成物を多孔質基材に含浸させ複合化することにより、複合膜とすることも可能である。複合化方法は公知の方法を使用し得る。
多孔質基材としては、上述の使用目的を満たすものであれば特に制限は無く、例えば多孔質膜、織布、不織布、フィブリル等が挙げられ、その形状や材質によらず用いることができる。多孔質基材の材質としては、耐熱性の観点や、物理的強度の補強効果を考慮すると、脂肪族系高分子、芳香族系高分子、又は含フッ素高分子が好ましい。
複合膜を得る場合、多孔質基材の膜厚は、好ましくは1〜100μm、さらに好ましくは3〜30μm、特に好ましくは5〜20μmであり、多孔質基材の孔径は、好ましくは0.01〜100μm、さらに好ましくは0.02〜10μmであり、多孔質基材の空隙率は、好ましくは20〜98%、さらに好ましくは40〜95%である。
多孔質基材の膜厚が1μm以上であると、複合化後の強度補強の効果あるいは、柔軟性や耐久性を付与するといった補強効果がより優れ、ガス漏れ(クロスリーク)が発生しにくくなる。また、該膜厚が100μm以下であると、電気抵抗がより低くなり、得られた複合膜が固体高分子型燃料電池のイオン伝導膜として、より優れたものとなる。該孔径が0.01μm以上であると、本発明の共重合体の充填がより容易となり、100μm以下であると、共重合体への補強効果がより大きくなる。空隙率が20%以上であると、イオン伝導性の抵抗がより小さくなり、98%以下であると、多孔質基材自体の強度がより大きくなり補強効果がより向上するので好ましい。
また、このような複合膜の場合は、TEMによる分析手段において、複合膜中の高分子電解質膜が形成されている部分を観察して、前記ミクロ相分離構造が形成されていることを確認すればよい。
【0071】
以上、本発明の第2の実施形態の高分子電解質組成物から調製される高分子電解質膜又は複合膜に関し説明したが、この説明において成分(B2)を成分(B1)に置き換えれば、本発明の第1の実施形態の高分子電解質組成物からも、高分子電解質膜又は複合膜を調製することができる。同様に、成分(B2)を、成分(B2)及び成分(B1)の混合物に置き換えれば、本発明の第3の実施形態の高分子電解質組成物からも、高分子電解質膜又は複合膜を調製することができる。
【0072】
<燃料電池>
次に、前記本発明の第1〜第3の実施形態の高分子電解質組成物を用いてなる燃料電池について説明する。以下の説明では、これらを総称して「本発明の高分子電解質組成物」と呼ぶことにする。
本発明の燃料電池は、本発明の高分子電解質組成物からなる高分子電解質膜(又は複合膜)の両面に、触媒および集電体としての導電性物質を接合することにより製造することができる。
ここで触媒としては、水素又は酸素との酸化還元反応を活性化できるものであれば特に制限はなく、公知のものを用いることができるが、白金又は白金系合金の微粒子を触媒として用いることが好ましい。白金又は白金系合金の微粒子はしばしば活性炭や黒鉛などの粒子状または繊維状のカーボンに担持されて用いられることもある。
また、カーボンに担持された白金又は白金系合金を、パーフルオロアルキルスルホン酸樹脂の溶剤と共に混合してペースト化したもの(触媒インク)を、ガス拡散層に塗布・乾燥することにより、ガス拡散層と積層一体化した触媒層が得られる。得られた触媒層を、高分子電解質膜に接合させるようにしれば、燃料電池用の膜−電極接合体を得ることができる。具体的な方法としては例えば、J. Electrochem. Soc.: Electrochemical Science and Technology, 1988, 135(9), 2209 に記載されている方法等の公知の方法を用いることができる。また、触媒インクを、高分子電解質膜又は高分子電解質複合膜に塗布・乾燥して、この膜の表面上に、直接触媒層を形成させても、燃料電池用の膜−電極接合体を得ることができる。
ここで、触媒層に使用する高分子電解質として、前記のパーフルオロアルキルスルホン酸樹脂の代わりに、本発明の高分子電解質組成物を用い、触媒組成物とすることもできる。この触媒組成物を用いて得られる触媒層は、前記の高分子電解質膜と同様に、成分(A)高分子電解質の特性を著しく損なうことなく、良好な長期安定性を発現できるため、触媒層として好適である。
集電体としての導電性物質に関しても公知の材料を用いることができるが、多孔質性のカーボン織布、カーボン不織布またはカーボンペーパーが、原料ガスを触媒へ効率的に輸送するために好ましい。
このようにして製造された本発明の燃料電池は、燃料として水素ガス、改質水素ガス、メタノールを用いる各種の形式で使用可能である。
【0073】
かくして得られる燃料電池は、長期安定性に優れたものとなるので、工業的に極めて有用である。
【実施例】
【0074】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0075】
参考例1〜5
本発明の白金親和度を満たす成分(B1)として、
下記構造式で表されるフェノチアジン、


下記構造式で表される1,8−ビス(2−ピリジル)−3,6−ジチアオクタン、

下記構造式で表されるトリ(2−チエニル)ホスフィン、

の白金親和度を測定した。
また、成分(B1)に対する比較例に使用する化合物として、
下記構造式で表されるViosorb04770(アミン系酸化防止剤,共同薬品株式会社製)


下記構造式で表されるCyanox1790(フェノール系酸化防止剤,サイテック社製)


の白金親和度を測定した。
白金親和度を以下のようにして測定した。10mlガラススクリュービンに被測定化合物[成分(B1)]10mgを添加し、続いて市販の原子吸光用白金標準溶液(和光純薬工業製、濃度:1000ppm、存在形態:HPt(Cl))を100倍に希釈した溶液5mlを添加する。成分(B)と白金標準溶液を振り混ぜた後、2時間放置し、上澄み液を回収して、ICP発光装置で白金濃度を測定した。そして、被測定化合物の添加前と添加後で測定された白金濃度から白金親和度を求めた。結果を表2に示す。フェノチアジンは、白金親和度が50%であり、1,8−ビス(2−ピリジル)−3,6−ジチアオクタンは、白金親和度が11%であり、トリ(2−チエニル)ホスフィンは、白金親和度が32%であり、白金との親和性が認められた。一方、白金との親和性が認められたが、Viosorb04770、Cyanox1790は、白金との親和度が1%程度であり、白金との親和性は極めて低いといえるものであった。
【0076】
【表2】

【0077】
実施例1
成分(A)高分子電解質としては、特開2007−284653号公報記載の方法を参考にして、スミカエクセルPES 5200P(住友化学株式会社製、Mw=73,000)を使用して合成した、下記

で示される繰り返し単位からなる、スルホン酸基を有するセグメント(イオン性セグメント)と、下記



で示される、非イオン性セグメントとを有するブロック共重合体1(イオン交換容量=2.50meq/g、Mw=340,000、Mn=160,000)を用いた。このブロック共重合体1と、前記フェノチアジンとを、ジメチルスルホキシドに約8.5重量%の濃度(ブロック共重合体1/フェノチアジンの重量比=95重量%/5重量%)になるように溶解させて、高分子電解質溶液を調製した。次いで、この高分子電解質溶液をPET基材上に均一に塗り広げた。塗布後、高分子電解質溶液を80℃で常圧乾燥した。それから、得られた膜を2N硫酸に浸漬、洗浄した後、イオン交換水で洗浄し、更に常温乾燥した後、PET基材から剥離することで高分子電解質膜1を得た。
【0078】
(触媒インクの製造)
市販の5重量%ナフィオン溶液(溶媒:水と低級アルコールの混合物)11.4mLに、白金が担持された白金担持カーボン(SA50BK、エヌ・イー・ケムキャット製、白金含有量;50重量%)を1.00g投入し、さらにエタノールを50.20g、水を7.04g加えた。得られた混合物を1時間超音波処理した後、スターラーで5時間攪拌して触媒インクを得た。
【0079】
(膜−電極接合体の製造)
次に、上述した製造方法で得られた高分子電解質膜の片面の中央部における5.2cm角の領域に、スプレー法により前記の触媒インクを塗布した。この際、吐出口から膜までの距離は6cmとし、ステージ温度は75℃に設定した。同様の方法で8回の重ね塗りを行った後、塗布物をステージ上に15分間放置し、これにより溶媒を除去してアノード触媒層を形成させた。得られたアノード触媒層は、その組成と塗布重量から算出して0.6mg/cm2の白金を含有する。続いて、高分子電解質膜のアノード触媒層と反対側の面にも同様に触媒インクを塗布して、0.6mg/cm2の白金を含むカソード触媒層を形成した。これにより、膜−電極接合体を得た。
【0080】
(燃料電池セルの製造)
市販のJARI標準セルを用いて燃料電池セルを製造した。すなわち、前記の膜−電極接合体の両外側に、ガス拡散層としてカーボンクロスと、ガス通路用の溝を切削加工したカーボン製セパレータとをこの順で配置し、さらにその外側に集電体及びエンドプレートを順に配置し、これらをボルトで締め付けることによって、有効電極面積25cm2の燃料電池セルを組み立てた。
【0081】
(燃料電池セルの特性評価[負荷変動試験])
得られた燃料電池セルを80℃に保ちながら、低加湿状態の水素(70mL/分、背圧0.1MPaG)と低加湿状態の空気(174mL/分、背圧0.05MPaG)をセルに導入し、開回路と一定電流での負荷変動試験を行った。この条件で燃料電池セルを200時間作動させた後、膜−電極接合体を取り出してエタノール/水の混合溶液に投入し、さらに超音波処理することで触媒層を取り除いた。そして、残った高分子電解質膜の親水セグメントの分子量を次の手順で測定した。すなわち、膜中のポリアリーレン系ブロック共重合体4mgに対し、ジメチルスルホキシド8mlを添加し溶解させた後、テトラメチルアンモニウム水酸化物の25%メタノール溶液10μLを100℃で2時間反応させ、放冷後、得られた溶液の分子量をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した。負荷変動試験前と試験後の親水セグメントの重量平均分子量、及び、負荷変動試験前後の高分子電解質膜の重量平均分子量の維持率を表3に示す。この維持率が高いほど、高分子電解質膜の劣化が小さいことを意味する。なお、GPCの測定条件は下記の通りとした。
・カラム:TOSOH社製 TSK gel GMHHHR−M1本
・カラム温度:40℃
・移動相溶媒:N,N−ジメチルホルムアミド(LiBrを10mmol/dm3になるように添加)
・溶媒流量:0.5mL/分
【0082】
(負荷変動試験前後の高分子電解質膜に存在する白金量の分析方法)
負荷変動試験前後の膜−電極接合体を1.25cm×1.25cmの大きさに切り出し、膜−電極接合体の表面をエタノール/水の混合溶媒を塗布した綿棒で剥ぎ取ることで触媒層を取り除いた。残った高分子電解質膜をビーカーに入れ、王水10mlを添加し、80℃ホットプレートで30時間加熱し、高分子電解質膜中に存在する白金を溶解した。放冷後、20mlメスフラスコに定容し、ICP発光装置(SII製 SPS3000)で白金の濃度を測定した。負荷変動試験前と試験後の高分子電解質膜に存在する白金量、及び、負荷変動前後での高分子電解質膜の白金増加量を表4に示す。
【0083】
比較例1
高分子電解質膜の製造において、フェノチアジンを添加しない以外は実施例1と同様の方法で燃料電池セルを組立て、負荷変動試験を実施した。負荷変動試験前と試験後の親水セグメントの分子量、及び、負荷変動試験前後の、高分子電解質膜の分子量の維持率を表3に示す。また、負荷変動試験前と試験後の高分子電解質膜に存在する白金量、及び、負荷変動前後での高分子電解質膜の白金増加量を表4に示す。
【0084】
比較例2
高分子電解質膜の製造において、フェノチアジンに代え、アミン系酸化防止剤であるViosorb04770を用いる以外は実施例1と同様の方法で燃料電池セルを組立て、負荷変動試験を実施した。負荷変動試験前と試験後の親水セグメントの分子量、及び、負荷変動試験前後の高分子電解質膜の、分子量の維持率を表3に示す。また、負荷変動試験前と試験後の高分子電解質膜に存在する白金量、及び、負荷変動前後での高分子電解質膜の白金増加量を表4に示す。
【0085】
比較例3
高分子電解質膜の製造において、フェノチアジンに代え、フェノール系酸化防止剤であるCyanox1790を用いる以外は実施例1と同様の方法で燃料電池セルを組立て、負荷変動試験を実施した。負荷変動試験前と試験後の、親水セグメントの分子量及び負荷変動試験前後の高分子電解質膜の分子量の維持率を表3に示す。また、負荷変動試験前と試験後の高分子電解質膜に存在する白金量、及び、負荷変動前後での高分子電解質膜の白金増加量を表4に示す。
【0086】
【表3】

【0087】
【表4】

【0088】
本発明の成分(B1)、すなわち前記白金親和度が高いフェノチアジンを用いて調製された高分子電解質膜は、負荷変動試験前後でもイオン性セグメントの分子量が十分維持されており、優れた長期安定性を有することが判明した。
一方、白金親和度が1%程度のViosorb04770やCyanox1790を用いた場合(比較例2,3)や、成分(B)を用いなかった場合(比較例1)では、オン性セグメントの分子量が維持率で表して、47〜56%まで低下しており、長期安定性が低いものであった。
また、高分子電解質膜に侵入した白金量を検討(表4)した結果、実施例1の高分子電解質膜では白金の侵入量は極めて低く、白金の侵入を良好に抑制していることも判明した。
【0089】
実施例2〜3
高分子電解質膜の製造において、フェノチアジンに代え、1,8−ビス(2−ピリジル)−3,6−ジチアオクタン又はトリ(2−チエニル)ホスフィンを用いる以外は実施例1と同様の方法で燃料電池セルを組立て、負荷変動試験を実施すれば、これらの成分(B1)の白金親和度はいずれも10%以上であるので、負荷変動試験前後でもイオン性セグメントの分子量が十分維持されており、優れた長期安定性を有する高分子電解質膜を得ることができる。これは、これらの高分子電解質膜が、白金の侵入を良好に抑制しているためである。
【0090】
実施例4
成分(A)高分子電解質として、スミカエクセルPES 5200P(住友化学株式会社製、Mw=73,000)の代わりに、スミカエクセルPES 3600P(住友化学株式会社製、Mw=46,000)を使用してブロック共重合体2(イオン交換容量=2.60meq/g、Mw=250,000、Mn=120,000)を合成した。このブロック共重合体2をブロック共重合体1の代わりに用いた以外は、実施例1と同様に燃料電池セルを組立て、負荷変動試験を実施した。負荷変動試験前と試験後の親水セグメントの重量平均分子量、及び、負荷変動試験前後の高分子電解質膜の重量平均分子量の維持率を表5に示す。また、負荷変動試験前と試験後の高分子電解質膜に存在する白金量、及び、負荷変動前後での高分子電解質膜の白金増加量を表5に示す。
【0091】
比較例4
高分子電解質膜の製造において、フェノチアジンを添加しない以外は実施例2と同様の方法で燃料電池セルを組立て、負荷変動試験を実施した。負荷変動試験前と試験後の親水セグメントの分子量、及び、負荷変動試験前後の、高分子電解質膜の分子量の維持率を表5に示す。また、負荷変動試験前と試験後の高分子電解質膜に存在する白金量、及び、負荷変動前後での高分子電解質膜の白金増加量を表6に示す。
【0092】
【表5】

【0093】
【表6】

【0094】
この実施例4及び比較例4の結果から、高分子電解質を変更した場合であっても、フェノチアジンによるラジカル耐性は良好になることが判明した。
また、高分子電解質膜に侵入した白金量を検討(表6)した結果、実施例2の高分子電解質膜においても、白金の侵入量は極めて低く、白金の侵入を良好に抑制していることも判明した。
【0095】
実施例5
実施例1で製造した高分子電解質膜に対し、以下のような試験条件でラジカル耐性を評価した。結果を表7に示す。
(ラジカル耐性評価1)
3%過酸化水素に鉄イオン濃度が8ppmになるように塩化第一鉄を溶解した塩化第一鉄水溶液を準備した。該塩化第一鉄水溶液に、高分子電解質膜を投入し、そのまま60℃で2時間保温した。その後、高分子電解質膜を取り出し、付着している水分を十分拭き取ってから、その重量を測定した。そして、塩化第一鉄水溶液浸漬前後での重量変化率を求めることにより耐ラジカル性の評価を行った。なお、重量維持率(%)は、浸漬後の高分子電解質膜の重量を、浸漬前の高分子電解質膜の重量で除した値×100(%)で示す。
【0096】
比較例5
高分子電解質膜の製造において、フェノチアジンを用いない以外は、実施例5と同様の方法によりラジカル耐性を評価した。結果を表7に示す。
【0097】
【表7】

【0098】
フェノチアジンを成分(B2)として使用していない比較例5の高分子電解質膜は、塩化第一鉄水溶液中で生成した過酸化物成分等により、ほとんど分解されることが判明した。それに対し、フェノチアジンを成分(B2)として使用した実施例5の高分子電解質膜は、重量維持率が約40%と、極めて過酸化物成分の発生し易い塩化第一鉄水溶液中においても、その重量を維持し、ラジカル耐性に優れることが判明した。
【0099】
実施例6
高分子電解質膜の製造において、フェノチアジンに代え、Irganox565を用いる以外は実施例1と同様の方法で高分子電解質膜を調製した。この高分子電解質膜に対し、実施例5(ラジカル耐性評価1)よりも温和な条件でラジカル耐性を評価した。具体的には、以下のような試験条件である。その結果を表8に示す。なお、このIrganox565(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製)は以下の構造式で示される硫黄原子と窒素原子を分子内に含有し、


(ラジカル耐性評価2)
3%過酸化水素に鉄イオン濃度が4ppmになるように塩化第一鉄を溶解した塩化第一鉄水溶液を準備した。該塩化第一鉄水溶液に、高分子電解質膜を投入し、そのまま60℃で2時間保温した。その後、高分子電解質膜を取り出し、付着している水分を十分拭き取ってから、その重量を測定した。そして、塩化第一鉄水溶液浸漬前後での重量変化率を求めることにより耐ラジカル性の評価を行った。なお、重量維持率(%)は、浸漬後の高分子電解質膜の重量を、浸漬前の高分子電解質膜の重量で除した値×100(%)で示す。
【0100】
比較例6
比較例5で用いた高分子電解質膜についても、実施例6と同様にしてラジカル耐性の評価を行った。重量維持率を表8に示す。
【0101】
【表8】

【0102】
Irganox565を成分(B2)として使用した場合も、使用しない場合に比して、ラジカル耐性は向上することが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分(A)と、
以下の成分(B1)及び成分(B2)からなる群より選ばれる少なくとも1種の成分(B)と、
を含有する高分子電解質組成物。
(A)高分子電解質
(B1)白金との親和度が10%以上である化合物
(B2)窒素原子、リン原子及び硫黄原子からなる群より選ばれる少なくとも2種の非共有電子対を有する原子を分子内に有する化合物
【請求項2】
前記成分(B)が、前記成分(B2)である請求項1記載の高分子電解質組成物。
【請求項3】
前記成分(B2)が、硫黄原子を含む官能基としてチオ基又はメルカプト基を有し、且つ窒素原子を含む官能基としてアミノ基又はイミノ基を有する化合物である、請求項1又は2に記載の高分子電解質組成物。
【請求項4】
前記成分(B2)が、前記非共有電子対を有する原子のうち少なくとも1つを含む複素環を有する化合物である、請求項1〜3の何れかに記載の高分子電解質組成物。
【請求項5】
前記成分(B)が、前記成分(B1)である請求項1記載の高分子電解質組成物。
【請求項6】
前記成分(B)が、以下の式(10)で表されるフェノチアジン類である請求項1〜5の何れかに記載の高分子電解質組成物。


(式中、A環及びB環は同一あるいは異なって、ベンゼン環又はナフタレン環を表す。A環に結合するR10、B環に結合するR20は、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のハロゲン化アルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数1〜10のアルキルチオ基、炭素数6〜10のアリール基又はハロゲン原子を表す。a1及びa2は同一あるいは異なって0〜2の整数を表す。a1が2である場合、2つのR10は同一でも異なっていてもよく、a2が2である場合、2つのR20は同一でも異なっていてもよい。R30は、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のハロゲン化アルキル基又は炭素数6〜10のアリール基を表す。)
【請求項7】
前記成分(A)100重量部に対して、前記成分(B)が0.1〜30重量部である請求項1〜6の何れかに記載の高分子電解質組成物。
【請求項8】
前記成分(A)が炭化水素系高分子電解質である請求項1〜7の何れかに記載の高分子電解質組成物。
【請求項9】
さらに以下の成分(C)を含む請求項1〜8の何れかに記載の高分子電解質組成物。
(C)触媒成分
【請求項10】
請求項1〜9の何れかに記載の高分子電解質組成物から調製される高分子電解質膜。
【請求項11】
請求項10に記載の高分子電解質膜を有する膜−電極接合体。
【請求項12】
請求項9に記載の高分子電解質組成物から調製される触媒層。
【請求項13】
請求項12に記載の触媒層を有する膜−電極接合体。
【請求項14】
請求項11又は13に記載の膜−電極接合体を備えた固体高分子形燃料電池。

【公開番号】特開2009−227979(P2009−227979A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−42118(P2009−42118)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】