説明

高制振性靴ソール

【課題】 高分子材料を主体とした、簡便に製造可能で、軽量で、より優れた制振性を発揮する靴ソールを提供する。
【解決手段】 ジカルボン酸成分構成単位とジオール成分構成単位からなるポリエステル樹脂に導電性材料および/またはフィラーを分散させてなる樹脂組成物であって、該ポリエステル樹脂が特定の式を満足する該樹脂組成物をシート状に成形することによって得られる制振性靴ソール。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた制振性を有する靴ソールに関し、歩行や走行の際の足と地面との衝突あるいは足と床との衝突を緩和するのに好適であり、紳士靴や婦人靴、スポーツ靴やサンダル等に使用される靴ソールに好適に適用できる。
【背景技術】
【0002】
従来、靴底(ソール)には衝撃振動吸収材としてゴム材料が主に使用されてきた。これらのゴム材料は、一般の高分子材料の中では最も減衰性(振動エネルギーの伝達絶縁性能、あるいは伝達緩和性能)に優れてはいるものの、ゴム材料単独で使用するには制振性(振動エネルギーを吸収する性質)が低い上に比重が高いという問題があった。さらに近年の靴の軽量化に伴って、靴の中で最も重い部分である靴底のゴム厚は薄くなり、制振性は悪くなっている。
【0003】
制振性を補うために、ソール部に空気層を設けたもの(例えば、特許文献1参照。)やゲル状液体を挟み込んだもの(例えば、特許文献2参照。)、発泡した材料をミッドソールあるいはインナーソールに組み込んだもの(例えば、特許文献3参照。)等の改良が行われている。しかし、ゴム材料を使用した靴ソールやゲル状液体を挟み込んだ材料では確かに制振性は向上するものの、充分な性能を有しているとは言えない。また、発泡樹脂材料は、それ自体の制振性が低く、床あるいは地面からの衝撃を充分緩和することができなかった。
【0004】
【特許文献1】特開平6−165702号公報
【特許文献2】特開平9−182603号公報
【特許文献3】特開2005−60552号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、高分子材料を主体とした、簡便に製造可能で、軽量で、より優れた制振性を発揮する靴ソールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成する為に鋭意検討した結果、ジカルボン酸成分構成単位とジオール成分構成単位からなるポリエステル樹脂に導電性材料および/またはフィラーを分散させてなる樹脂組成物を用いた制振性靴ソールにおいて、該ポリエステル樹脂を特定することにより優れた制振性を有する靴ソールが得られることを見出し、本発明に至ったものである。
すなわち、本発明は、ジカルボン酸成分構成単位とジオール成分構成単位からなるポリエステル樹脂に導電性材料および/またはフィラーを分散させてなる樹脂組成物であって、該ポリエステル樹脂が下記式I:
0.5≦(A1+B1)/(A0+B0)≦1 (I)
(式中、A0は全ジカルボン酸成分構成単位数、B0は全ジオール成分構成単位数、A1は主鎖中の炭素原子数が奇数であるジカルボン酸成分構成単位数、およびB1は主鎖中の炭素原子数が奇数であるジオール成分構成単位数をあらわす)
を満足する該樹脂組成物をシート状に成形することによって得られる制振性靴ソールに関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の制振性靴ソールによれば、簡便に製造可能で、軽量で、より優れた制振性を有する靴ソールを提供することが可能となり、本発明の工業的意義は大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の制振性靴ソールは、高分子材料としてジカルボン酸成分構成単位とジオール成分構成単位からなるポリエステル樹脂を用いており、下記式I:
0.5≦(A1+B1)/(A0+B0)≦1 (I)
(式中、A0はジカルボン酸成分構成単位数、B0はジオール成分構成単位数、A1は主鎖中の炭素原子数が奇数であるジカルボン酸成分構成単位数、およびB1は主鎖中の炭素原子数が奇数であるジオール成分構成単位数をあらわす)
を満足するポリエステル樹脂に導電性材料および/またはフィラーを分散させた時に、より高い制振性能が得られる。ここで、“ジカルボン酸成分構成単位(ジオール成分構成単位)の主鎖中の炭素原子数”とは、一つのエステル結合(−C(=O)−O−)と次のエステル結合に挟まれたモノマー単位において、ポリエステル主鎖に沿った最短経路上に存在する炭素原子の数である。
比、(A1+B1)/(A0+B0)は0.7〜1が好ましく、ジカルボン酸成分構成単位の主鎖中の炭素原子数およびジオール成分構成単位の主鎖中の炭素原子数は1、3、5、7、9が好ましい。
【0009】
ポリエステル主鎖中の炭素原子数が奇数となるジカルボン酸成分構成単位の例としては、イソフタル酸、マロン酸、グルタル酸、ピメリン酸、アゼライン酸、ウンデカン二酸、ブラシル酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸などに由来する構成単位が挙げられる。中でも、イソフタル酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸に由来する構成単位が好ましく、イソフタル酸に由来する構成単位がさらに好ましい。ポリエステル樹脂は、上記ジカルボン酸に由来する1種または2種以上の構成単位を含んでいてもよい。2種以上の構成単位を含む際には、イソフタル酸およびアゼライン酸に由来する構成単位を含むことが好ましい。
【0010】
ポリエステル樹脂の主鎖中の炭素原子数が奇数であるジオール成分構成単位の例としては、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ペンタンジオール、1−メチル−1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,3−ヘキサンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,5−ヘキサンジオール、2−エチル−1,5−ペンタンジオール、2−プロピル−1,5−ペンタンジオール、メタキシレングリコール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,3−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,3−デカヒドロナフタレンジメタノール、テトラリンジメタノール、ノルボルナンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロドデカンジメタノールなどに由来する構成単位が挙げられる。中でも、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、メタキシレングリコール、1,3−シクロヘキサンジオールに由来する構成単位が好ましく、1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、ネオペンチルグリコールに由来する構成単位がさらに好ましい。ポリエステル樹脂は、上記ジオールに由来する1種または2種以上の構成単位を含んでいてもよい。
【0011】
さらに、ポリエステル樹脂が下記式II:
0.5≦A1/A0≦1 (II)
(式中、A0およびA1は上記と同じ)、および
下記式III:
0.5≦B2/B0≦1 (III)
(式中、B0は上記と同じであり、B2は式(1):
【化1】


(式中、nは3または5であり、複数個のRは同一であっても異なっていてもよく、それぞれ水素原子または炭素数1〜3のアルキル基をあらわす)で表されるジオールに由来する構成単位の合計数である)
を満足することが好ましい。
さらに下記条件AおよびB:
(A)トリクロロエタン/フェノール=40/60(重量比)混合溶媒中、25℃で測定した固有粘度が0.2〜2.0dL/gであり、
(B)示差走査熱量計で測定した降温時結晶化発熱ピークの熱量が5J/g以下である
を満足すると、より高い制振性を得ることができるため好ましい。
【0012】
(1)式で表されるジオールの例としては、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ペンタンジオール、1−メチル−1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,3−ヘキサンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,5−ヘキサンジオール、2−エチル−1,5−ペンタンジオール、2−プロピル−1,5−ペンタンジオールなどが挙げられる。中でも1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、ネオペンチルグリコールが好ましい。
【0013】
またさらには、ポリエステル樹脂が、式II、下記式IV:
0.7≦B2/B0≦1 (IV)
(式中、B0およびB2は上記と同じ)
を満足すると、より高い制振性を得ることができるため好ましい。
【0014】
またさらには、ポリエステル樹脂が下記式V:
0.5≦A2/A0≦1 (V)
(式中、A0は上記と同じであり、A2はイソフタル酸、マロン酸、グルタル酸、ピメリン酸、アゼライン酸、ウンデカン二酸、ブラシル酸、および1,3−シクロヘキサンジカルボン酸からなる群より選ばれたジカルボン酸に由来する構成単位の合計数である)
を満足すると、より高い制振性を得ることができるため好ましい。
【0015】
またさらには、ポリエステル樹脂が、下記式VI、
0.7≦A2/A0≦1 (VI)
(式中、A0およびA2は上記と同じである)
を満足すると、より高い制振性を得ることができるため好ましい。
【0016】
またさらには、ポリエステル樹脂が下記式VII:
0.5≦A3/A0≦1 (VII)
(式中、A0は上記と同じであり、A3はイソフタル酸に由来する構成単位数である)
を満足すると、より高い制振性を得ることができるため好ましい。
【0017】
さらに、ポリエステル樹脂が、式V、下記式VIII:
0.5≦B3/B0≦1 (VIII)
(式中、B0は上記と同じであり、B3は1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、およびネオペンチルグリコールから選ばれたジオールに由来する構成単位の合計数である)
を満足すると、より高い制振性を得ることができるため好ましい。
【0018】
またさらには、ポリエステル樹脂が、式V、下記式IX:
0.7≦B3/B0≦1 (IX)
(式中、B0およびB3は上記と同じである)
を満足すると、より高い制振性を得ることができるため好ましい。
【0019】
本発明で用いられるポリエステル樹脂は、前記したジカルボン酸成分構成単位およびジオール成分構成単位に加えて、本発明の効果を損なわない程度に他の構成単位が含まれていても良い。その種類に特に制限はなく、ポリエステル樹脂を形成し得るすべてのジカルボン酸およびそのエステル(他のジカルボン酸)、ジオール(他のジオール)あるいはヒドロキシカルボン酸およびそのエステル(他のヒドロキシカルボン酸)に由来する構成単位を含むことができる。他のジカルボン酸の例としてはテレフタル酸、オルトフタル酸、2−メチルテレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸、ペンタシクロドデカンジカルボン酸、イソホロンジカルボン酸、3,9−ビス(2−カルボキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンなどのジカルボン酸あるいはジカルボン酸エステル;トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、トリカルバリル酸などの三価以上の多価カルボン酸あるいはその誘導体が挙げられる。また、他のジオールの例としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどの脂肪族ジオール類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコールなどのポリエーテル化合物類;グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの3価以上の多価アルコール類;1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,2−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,4−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,5−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,6−デカヒドロナフタレンジメタノール、2,7−デカヒドロナフタレンジメタノール、5−メチロール−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサン、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカンなどの脂環族ジオール類;4,4’−(1−メチルエチリデン)ビスフェノール、メチレンビスフェノール(ビスフェノールF)、4,4’−シクロヘキシリデンビスフェノール(ビスフェノールZ)、4,4’−スルホニルビスフェノール(ビスフェノールS)などのビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物;ヒドロキノン、レゾルシン、4,4’―ジヒドロキシビフェニル、4,4’―ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’―ジヒドロキシジフェニルベンゾフェノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物のアルキレンオキシド付加物などが挙げられる。また、他のヒドロキシカルボン酸としては、例えばヒドロキシ安息香酸、ジヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシイソフタル酸、ヒドロキシ酢酸、2,4−ジヒドロキシアセトフェノン、2−ヒドロキシヘキサデカン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、4−ヒドロキシフタル酸、4,4’−ビス(p−ヒドロキシフェニル)ペンタン酸、3,4−ジヒドロキシけい皮酸などが挙げられる。
【0020】
本発明に用いるポリエステルを製造する方法に特に制限はなく、従来公知の方法を適用することができる。一般的には原料であるモノマーを重縮合することにより製造できる。例えばエステル交換法、直接エステル化法などの溶融重合法または溶液重合法を挙げることができる。エステル交換触媒、エステル化触媒、エーテル化防止剤、また重合に用いる重合触媒、熱安定剤、光安定剤などの各種安定剤、重合調整剤なども従来既知のものを用いることができる。エステル交換触媒として、マンガン、コバルト、亜鉛、チタン、カルシウムなどの金属を含む化合物、またエステル化触媒として、マンガン、コバルト、亜鉛、チタン、カルシウムなどの金属を含む化合物、またエーテル化防止剤としてアミン化合物などが例示される。重縮合触媒としてはゲルマニウム、アンチモン、スズ、チタンなどの金属を含む化合物、例えば酸化ゲルマニウム(IV);酸化アンチモン(III)、トリフェニルスチビン、酢酸アンチモン(III);酸化スズ(II);チタン(IV)テトラブトキシド、チタン(IV)テトライソプロポキシド、チタン(IV)ビス(アセチルアセトナート)ジイソプロポキシドなどのチタン酸エステル類が例示される。また熱安定剤としてリン酸、亜リン酸、フェニルホスホン酸などの各種リン化合物を加えることも有効である。その他光安定剤、耐電防止剤、滑剤、酸化防止剤、離型剤などを加えても良い。また、原料となるジカルボン酸成分は、前記のジカルボン酸成分構成単位が由来するジカルボン酸の他にそれらのジカルボン酸エステル、ジカルボン酸塩化物、活性アシル誘導体、ジニトリルなどのジカルボン酸誘導体を用いることもできる。
【0021】
本発明で使用する樹脂組成物にはポリエステル樹脂の他に導電性材料および/またはフィラーを分散させる。
導電性材料は既知のものを用いることができる。例えば、無機系では銀、鉄、鉛、銅、銅合金、ニッケル、低融点合金などの金属粉末や金属繊維;貴金属を被覆した銅や銀の微粒子;酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウムなどの金属酸化物の微粒子やウイスカー;各種カーボンブラック、カーボンナノチューブなどの導電性カーボン粉末;PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相成長黒鉛などのカーボン繊維、有機系では低分子界面活性剤型帯電防止剤;高分子系帯電防止剤;ポリピロール、ポリアニリンなどの導電性ポリマー;金属を被覆したポリマー微粒子などが例示できる。これらは単独であるいは2種以上を併せて使用することができる。
【0022】
中でも、導電性材料として各種カーボンブラック、カーボンナノチューブなどの導電性カーボン粉末、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相成長黒鉛などのカーボン繊維から選ばれる少なくとも1種類以上の炭素材料を使用した方が好ましい。
【0023】
さらに、導電性材料として導電性カーボン粉末を少なくとも使用した場合に、より高い制振性が得られるため特に好ましい。
【0024】
導電性材料の含有量に特に制限はないが、樹脂組成物の0.01〜25質量%である場合に高い制振性が得られる。0.01質量%未満では導電性材料による制振性の向上効果が現れず、25質量%を超えると導電性材料の含有量が多いわりに制振性があまり向上せず且つ成形性に乏しくなってしまう。さらに高い制振性が得られるのは、樹脂組成物に導電性材料を1〜20質量%含んでいる場合であり、さらに好ましくは5〜20質量%である。
【0025】
ポリエステル樹脂と導電性材料との配合比率は、樹脂組成物の体積抵抗率が10E+12Ω・cm以下になるように調整することが好ましい。体積抵抗率が10E+12Ω・cm以下である場合により高い制振性能を得ることができるためである。本発明における体積抵抗率の測定はJIS K6911の方法に従って行う。
【0026】
また、本発明で使用する樹脂組成物には、上記ポリエステル樹脂に振動エネルギー吸収を向上させる目的でフィラーを充填させることが好ましい。本発明で使用されるフィラーとしては鱗片状の無機充填材を用いることが好ましく、例えばマイカ鱗片、ガラス片、セリサイト、グラファイト、タルク、アルミニウムフレーク、窒化硼素、二硫化モリブデン、黒鉛、などの鱗片状充填材が例示できる。これらの中でも、フィラーとしてマイカ鱗片を使用した場合に、より高い制振性能が得られるため好ましい。また、その他形状の異なるフィラーも、本発明の効果を損なわない程度に充填することができる。鱗片状以外の形状を有するフィラーとしては、例えばガラスファイバー、カーボンファイバー、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、二酸化ケイ素、チタン酸ストロンチウム、バライト、沈降硫酸バリウム、マグネシウムスリケート、アルミニウムシリケート、フェライト、クレー、ヒル石、モンモリロナイト、ステンレスフレーク、ニッケルフレーク、シリカ、硼砂、キルン灰、セメント、ドロマイト、鉄粉、鉛粉、銅粉などが挙げられるが、これに限定されない。
【0027】
フィラーの含有量は、樹脂組成物全体に対して10〜80質量%であることが好ましい。10質量%未満ではフィラーを充填させた場合の制振性の向上効果が現れず、80質量%を超えると制振材料中におけるフィラーの含有量が多いわりに制振性があまり向上せず且つ成形性に乏しくなってしまう。
【0028】
本発明で使用する樹脂組成物はポリエステル樹脂と導電性材料および/またはフィラーとを主成分とするものであるが、ポリエステル樹脂と導電性材料および/またはフィラーとの組合せからなるものには限定されない。必要に応じて、1種以上の添加剤、例えば、分散剤、相溶化剤、界面活性剤、帯電防止剤、滑剤、可塑剤、難燃剤、架橋剤、酸化防止剤、老化防止剤、耐候剤、耐熱剤、加工助剤、光沢剤、着色剤(顔料、染料)発泡剤、発泡助剤などを本発明の効果を阻害しない範囲で添加することができる。また、他の樹脂とのブレンドまたは成形後の表面処理なども、本発明の効果を阻害しない範囲で行うことができる。ブレンドに用いられる他の樹脂としては、従来から靴のソール基材として使用されるイソプレンゴムやブタジエンゴム、スチレン―ブタジエンゴムなどのゴム系材料や樹脂が好適であるが、これに限定されない。
【0029】
本発明で使用する樹脂組成物は、ポリエステル樹脂、導電性材料および/またはフィラー、必要に応じてその他の添加剤を混合することで得られるが、混合方法は既知の方法を用いることができる。例えば、熱ロール、バンバリーミキサー、二軸混練機、押出機などの装置を用いて溶融混合する方法が挙げられる。その他、ポリエステル樹脂を溶剤に溶解あるいは膨潤させ、導電性材料および/またはフィラーを混入させた後に乾燥する方法、各成分を微粉末状で混合する方法なども採用することができる。なお、導電性材料、フィラー、添加剤などの添加方法、添加順序などは特に限定されない。
【0030】
本発明の制振性靴ソールは、上記樹脂組成物をシート状に成形することによって得られる。シートを成形する方法に特に制限はなく、当該技術分野で従来公知の方法を適用することができる。たとえば、金型成形、Tダイを使った押出成形、ロール成形、プレス成形などによってシートを作製することができる。また、必要によっては接着剤にて靴に固定されるが、使用する接着剤に特に制限はなく当該技術分野で使用される従来公知の接着剤が使用できる。
【0031】
本発明の制振性靴ソールは、歩行や走行の際の足と地面との衝突あるいは足と床との衝突を緩和するのに好適であり、紳士靴や婦人靴、スポーツ靴やサンダル等に使用される靴ソールに好適に適用でき、特に、インナーソールや靴底部のミッドソールあるいはアウターソールとしても適用可能である。
【実施例】
【0032】
以下に実施例を示すが本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
ポリエステル樹脂および制振性靴ソールの評価は以下の方法によった。
(1)(A1+B1)/(A0+B0)、A1/A0、B2/B0、A2/A0、A3/A0、B3/B0
400MHz−H−NMRスペクトル測定結果の積分値の比から算出した。
(2)ポリエステルの構成単位のモル比
400MHz−H−NMRスペクトル測定結果の積分値の比から算出した。
(3)体積抵抗率
JIS K6911の方法によって測定した。
(4)固有粘度
ポリエステル樹脂の固有粘度([η])は、トリクロロエタン/フェノール=40/60(重量比)混合溶媒にポリエステル樹脂を溶解させ25℃に保持して、キャノンフェンスケ型粘度計を使用して測定した。
(5)降温時結晶化発熱ピークの熱量
ポリエステル樹脂の降温時結晶化発熱ピークの熱量(以下「ΔHc」という)は、島津製作所製DSC/TA−50WS型示差走査熱量計を使用して測定した。試料約10mgをアルミニウム製非密封容器に入れ、窒素ガス気流中(30ml/分)、昇温速度20℃/分で280℃まで昇温、280℃で1分間保持した後、10℃/分の降温速度で降温した際に現れる発熱ピークの面積から求めた。
(6)制振性試験(衝撃加速度)
ポリエステル樹脂に導電性材料などを分散させた試料を熱プレスにより200℃で成形し、所定の厚みのシートとした。得られたシートを半径450mmの円状に切り出して試験片とし、これを重さ3kg、半径450mmの円柱状鉄製重り下部に貼り付けた。試験片を貼り付けた重りを一定高さ(約50mm)からコンクリート床に向けて自由落下させ、重りに発生する衝撃加速度のピーク値を測定した。衝撃加速度は重り上部に取り付けた振動ピックアップ(PCB Piezotronics社製、ICP型加速度計352C22型)で測定し、これをFFTアナライザー(株式会社小野測器製、DS−2100)で解析した。試験は23℃、50%RHの恒温恒湿室で20回測定を行い、得られたピーク値の平均値をとった。
【0033】
<実施例1>
充填塔式精留塔、攪拌翼、分縮器、全縮器、コールドトラップ、温度計、加熱装置および窒素ガス導入管を備えた内容積30リットル(L)のポリエステル製造装置に、イソフタル酸(エイ・ジイ・インターナショナル・ケミカル株式会社製)8292.1g(50.25モル)、アゼライン酸(コグニス社製EMEROX1144:ジカルボン酸99.97%、アゼライン酸93.3モル%)4480.7g(24.75モル)、2−メチル−1,3−プロパンジオール(大連化学工業株式会社製)13520g(150.0モル)を加え、常圧、窒素雰囲気下で225℃迄昇温して3.0時間エステル化反応を行った。イソフタル酸の反応転化率を85モル%以上とした後、チタン(IV)テトラブトキシド,モノマー(和光純薬株式会社製)12.2g(初期縮合反応生成物の全質量に対するチタンの濃度が72ppm)を加え、昇温と減圧を徐々に行い、2−メチル−1,3−プロパンジオールを系外に抜き出しつつ、最終的に240〜250℃、0.4kPa以下で重縮合反応を行った。徐々に反応混合物の粘度と攪拌トルク値が上昇し、適度な粘度に到達した時点あるいは2−メチル−1,3−プロパンジオールの留出が停止した時点で反応を終了した。得られたポリエステル樹脂の性状は[η]=0.70(dL/g)、ΔHc=0(J/g)であった。このポリエステル樹脂((A1+B1)/(A0+B0)=1.0;(A1/A0)=1.0;(A2/A0)=0.67;(B2/B0)=1.0;(B3/B0)=1.0)36重量部と、導電性カーボン粉末(ケッチェンブラックインターナショナル株式会社製、商品名:ケッチェンブラックEC)4重量部、マイカ鱗片(山口雲母株式会社製、商品名:B−82)60重量部を二軸混練機を用いて200℃で混練した。得られた樹脂組成物中の導電性カーボン粉末の含有量は4質量%、マイカ鱗片の含有量は60質量%である。得られた樹脂組成物の体積抵抗率は6.8E+6Ω・cmであった。この樹脂組成物を熱プレスにより200℃で成形し、厚み約1mmの靴ソールとした。表1に制振性試験の結果を示す。
【0034】
<実施例2>
ジカルボン酸成分構成単位の原料としてイソフタル酸(エイ・ジイ・インターナショナル・ケミカル株式会社製)/コグニス社製EMEROX1144(ジカルボン酸99.97%、アゼライン酸93.3モル%)=73/27(モル比)混合物を使用し,ジオール成分構成単位の原料として1,3−プロパンジオール(シェル・ケミカルズ・ジャパン株式会社製)を使用した以外は実施例1と同様な方法でポリエステル樹脂を得た。得られたポリエステル樹脂の性状は[η]=0.75(dL/g)、ΔHc=0(J/g)であった。このポリエステル樹脂((A1+B1)/(A0+B0)=1.0;(A1/A0)=1.0;(A2/A0)=1.0;(B2/B0)=1.0;(B3/B0)=1.0)36重量部と、導電性カーボン粉末(ケッチェンブラックインターナショナル株式会社製、商品名:ケッチェンブラックEC)4重量部、マイカ鱗片(山口雲母株式会社製、商品名:B−82)60重量部を二軸混練機を用いて200℃で混練した。得られた樹脂組成物中の導電性カーボン粉末の含有量は4質量%、マイカ鱗片の含有量は60質量%である。得られた樹脂組成物の体積抵抗率は6.7E+6Ω・cmであった。この樹脂組成物を熱プレスにより200℃で成形し、厚み約1mmの靴ソールとした。表1に制振性試験の結果を示す。
【0035】
<実施例3>
ジオール成分構成単位の原料として1,5−ペンタンジオール(和光純薬株式会社製)を使用した以外は実施例1と同様な方法でポリエステル樹脂を得た。得られたポリエステル樹脂の性状は[η]=0.69(dL/g)、ΔHc=0(J/g)であった。このポリエステル樹脂(((A1+B1)/(A0+B0)=1.0;(A1/A0)=1.0;(A2/A0)=1.0;(B2/B0)=1.0;(B3/B0)=1.0)36重量部と、導電性カーボン粉末(ケッチェンブラックインターナショナル株式会社製、商品名:ケッチェンブラックEC)4重量部、マイカ鱗片(山口雲母株式会社製、商品名:B−82)60重量部を二軸混練機を用いて200℃で混練した。得られた樹脂組成物中の導電性カーボン粉末の含有量は4質量%、マイカ鱗片の含有量は60質量%である。得られた樹脂組成物の体積抵抗率は6.7E+6Ω・cmであった。この樹脂組成物を熱プレスにより200℃で成形し、厚み約1mmの靴ソールとした。表1に制振性試験の結果を示す。
【0036】
<実施例4>
実施例1で使用したものと同様の樹脂組成物を熱プレスにより200℃で成形し、厚み約2mmの靴ソールとした。表1に制振性試験の結果を示す。
【0037】
<比較例1>
円柱状鉄製重りのみで制振性試験を行ったときの結果を表1に示す。
【0038】
<比較例2>
厚さ1mmのブチルゴム製シートを靴ソールとした。表1に制振性試験の結果を示す。
【0039】
<比較例3>
厚さ0.8mmの市販制振材料(シーシーアイ株式会社製、商品名:ダイポルギーFDS、材質:変性ポリエチレン)シートを靴ソールとした。表1に制振性試験の結果を示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1に示すように、実施例の本発明による靴ソールの衝撃加速度は低く、制振性に優れていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸成分構成単位とジオール成分構成単位からなるポリエステル樹脂に導電性材料および/またはフィラーを分散させてなる樹脂組成物であって、該ポリエステル樹脂が下記式I:
0.5≦(A1+B1)/(A0+B0)≦1 (I)
(式中、A0は全ジカルボン酸成分構成単位数、B0は全ジオール成分構成単位数、A1は主鎖中の炭素原子数が奇数であるジカルボン酸成分構成単位数、およびB1は主鎖中の炭素原子数が奇数であるジオール成分構成単位数をあらわす)
を満足する該樹脂組成物をシート状に成形することによって得られる制振性靴ソール。
【請求項2】
ポリエステル樹脂が下記式II:
0.5≦A1/A0≦1 (II)
(式中、A0およびA1は上記と同じ)、
および下記式III:
0.5≦B2/B0≦1 (III)
(式中、B0は上記と同じであり、B2は式(1):
【化1】


(式中、nは3または5であり、複数個のRは同一であっても異なっていてもよく、それぞれ水素原子または炭素数1〜3のアルキル基をあらわす)で表されるジオールに由来する構成単位の合計数である)
を満足する請求項1記載の制振性靴ソール。
【請求項3】
ポリエステル樹脂が下記条件AおよびB:
(A)トリクロロエタン/フェノール=40/60(重量比)混合溶媒中、25℃で測定した固有粘度が0.2〜2.0dL/gであり、
(B)示差走査熱量計で測定した降温時結晶化発熱ピークの熱量が5J/g以下である
を満足する請求項1記載の制振性靴ソール。
【請求項4】
ポリエステル樹脂が、下記式IV:
0.7≦B2/B0≦1 (IV)
(式中、B0およびB2は上記と同じ)
を満足する請求項2記載の制振性靴ソール。
【請求項5】
ポリエステル樹脂が、下記式V:
0.5≦A2/A0≦1 (V)
(式中、A0は上記と同じであり、A2はイソフタル酸、マロン酸、グルタル酸、ピメリン酸、アゼライン酸、ウンデカン二酸、ブラシル酸、および1,3−シクロヘキサンジカルボン酸からなる群より選ばれたジカルボン酸に由来する構成単位の合計数である)
を満足する請求項2記載の制振性靴ソール。
【請求項6】
ポリエステル樹脂が、下記式VI、
0.7≦A2/A0≦1 (VI)
(式中、A0およびA2は上記と同じである)
を満足する請求項5記載の制振性靴ソール。
【請求項7】
ポリエステル樹脂が、下記式VII:
0.5≦A3/A0≦1 (VII)
(式中、A0は上記と同じであり、A3はイソフタル酸に由来する構成単位数である)、
を満足する請求項5記載の制振性靴ソール。
【請求項8】
ポリエステル樹脂が、下記式VIII:
0.5≦B3/B0≦1 (VIII)
(式中、B0は上記と同じであり、B3は1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、およびネオペンチルグリコールから選ばれたジオールに由来する構成単位の合計数である)
を満足する請求項2記載の制振性靴ソール。
【請求項9】
ポリエステル樹脂が、下記式IX:
0.7≦B3/B0≦1 (IX)
(式中、B0およびB3は上記と同じである)
を満足する請求項8記載の制振性靴ソール。
【請求項10】
前記主鎖中の炭素原子数が奇数であるジオール成分構成単位が1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、およびネオペンチルグリコールから群より選ばれた少なくとも1種のジオールに由来する構成単位である請求項1記載の制振性靴ソール。
【請求項11】
前記主鎖中の炭素原子数が奇数であるジカルボン酸成分構成単位が、イソフタル酸に由来する構成単位である請求項1記載の制振性靴ソール。
【請求項12】
前記主鎖中の炭素原子数が奇数であるジカルボン酸成分構成単位が、イソフタル酸およびアゼライン酸に由来する構成単位である請求項1記載の制振性靴ソール。
【請求項13】
前記樹脂組成物が導電性材料を含み、導電性材料が炭素材料である請求項1記載の制振性靴ソール。
【請求項14】
前記樹脂組成物が導電性材料を含み、導電性材料が導電性カーボン粉末である請求項1記載の制振性靴ソール。
【請求項15】
前記樹脂組成物が導電性材料を含み、該組成物中の導電性材料の含有量が、0.01〜25質量%である請求項1記載の制振性靴ソール。
【請求項16】
前記樹脂組成物が導電性材料を含み、該組成物の体積抵抗率が10E+12Ω・cm以下である請求項1記載の制振性靴ソール。
【請求項17】
前記樹脂組成物がフィラーを含み、フィラーが鱗片状の無機充填材である請求項1記載の制振性靴ソール。
【請求項18】
フィラーがマイカ鱗片である請求項17記載の制振性靴ソール。
【請求項19】
前記樹脂組成物がフィラーを含み、フィラーの含有量が、10〜80質量%である請求項1記載の制振性靴ソール。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれかに記載の制振性靴ソールを用いた靴。

【公開番号】特開2007−54235(P2007−54235A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−242260(P2005−242260)
【出願日】平成17年8月24日(2005.8.24)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】