説明

高剛性ポリプロピレン系組成物及び製造法

【課題】剛性、特に剛性と耐熱性に優れた高剛性ポリプロピレン系組成物及びその製造法の提供。
【解決手段】Mw(a)が1,000〜60,000、分子量分布のMw(a)/Mn(a)が1.5〜4.0、DSCによって得られる融点Tm(a)が155×(Mw(a)−582)/(Mw(a)−99)以上、プロピレン連鎖部のmmが98.0%よりも大であるプロピレン重合体(a)10〜50重量%、及びMw(b)が60,000〜1,000,000、DSCによって得られるTm(b)が120〜170℃であるプロピレン単独重合体またはプロピレン・α−オレフィン共重合体(b)90〜50重量%を含有することを特徴とする高剛性ポリプロピレン系組成物及びその製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高剛性プロピレン系組成物及びその製造法に関し、詳しくは、特定の性質を持つ低分子量ポリプロピレン成分とそれよりも分子量が高い特定のポリプロピレン成分とを含有する剛性と耐熱性の改良された高剛性ポリプロピレン系組成物とその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリプロピレンは剛性、強度に優れ、各種射出成形、ブロー、フィルム、シートなどの成形法に広く使用されてきた。しかしながら、用途によっては剛性、強度は未だ十分なものであると言えず、ポリプロピレンの更なる剛性改良のために、これまでにも多くの検討がなされてきた。そのなかでも、ポリプロピレンの分子量を制御することによって剛性を高める方法は、高価な添加物質を用いる必要がないという点でコスト面で優れると共に、近年重要となってきたリサイクル性の観点からも好ましいものと言える。
【0003】
分子量を制御することにより剛性を改良した組成物としては、例えば、極限粘度1.8乃至10のアイソタクティシティが97.5wt%以上の高分子量ポリプロピレンと、極限粘度0.6乃至1.2の低分子量ポリプロピレンを二段重合によって製造する組成物が剛性に優れるものであることが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。また、プロピレンを多段で重合し、一段目と二段目以降で製造される重合体のMFRが特定の関係式を満たすように製造されたポリプロピレンが剛性に優れることが開示されている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、これらの方法においては、極限粘度が極めて大きい、あるいはMFRが極めて小さい成分が多量に必要であり、このような場合には流動性の低下が不可避であり、射出成形のような良好な流動性が要求される分野に用いることができない。
【0004】
他方で、ポリプロピレンにおいて分子量が2,000〜26,000の低分子量成分が剛性の向上に寄与する成分であるとし、この量を特定範囲に制御する方法が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。しかしながら、従来用いられているチーグラー・ナッタ触媒を用いる場合には、低分子量になるほどポリプロピレンの立体規則性が低下し、その結果、むしろ剛性を低下させる軟質成分が多くなってしまう。そのためこの手法においては、剛性の向上は十分でないか、或いは高い剛性を得るためには溶媒可溶成分を抽出したり、低分子量成分を得るために熱分解の手法を用いる必要があり、コストが高くなる問題があった。
また、分子量分布の狭い、分子量1,000乃至50,000、融点120乃至160℃のポリオレフィン成分と、分子量100,000以上のポリオレフィン成分(この成分を構成するオレフィン成分は低分子量のポリオレフィン成分の構成成分と同じでも、または複数のオレフィン成分を用いても良い)との組成物により、剛性の高いポリオレフィンが得られる技術が開示されている(例えば、特許文献4参照。)。しかしながら、この技術においては、低分子量成分の立体規則性が未だ十分に高くないために、組成物の剛性を十分に高めるためには分子量1,000乃至50,000の低分子量成分を多量に用いる必要がある。低分子量成分を多量に用いる場合には、材料は極めて脆くなるという問題がある。
【0005】
さらに、極限粘度が1.0dl/g以上の高分子量ポリプロピレン90〜99.9重量部と、極限粘度が0.1〜0.8dl/gであり、13C−NMRで測定したmmmmペンダッド分率が93%以上である低分子量のポリプロピレン0.1〜10重量部からなるポリプロピレン組成物が開示されている(例えば、特許文献5参照。)。この技術においては、低分子量のポリプロピレンの配合量が少ないために剛性改良の効果は十分ではない。さらに、この技術においては剛性の改良効果を得るために、溶融混練による製造方法が用いられており、この際、十分に均一に混合が進むと、十分な剛性改良効果が得られないことがあるとしている。その理由は明らかとされていないが、ひとつの推測として、低分子量成分がある程度不均一に存在することにより、組成物中に結晶化速度の速い領域と遅い領域が不均一に存在し、その結果結晶性が高く剛性の高い領域が特異的に存在しているために、剛性が向上すると解釈することができる。しかしながら、このような材料の不均一性は、透明性や成形性に悪影響を与えるばかりでなく、延伸性、タフネスに悪影響を与える場合がある。
【特許文献1】特開昭59−172507号公報
【特許文献2】特開平1−254706号公報
【特許文献3】特開平4−356511号公報
【特許文献4】特開平6−9829号公報
【特許文献5】特開平6−248133号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような状況に鑑みて、剛性、特に剛性と耐熱性に優れた高剛性ポリプロピレン系組成物及びその製造法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、剛性の改良効果を有する低分子量成分として、従来技術に比して立体規則性が十分に高く、ある特定の物性を満たすものを用い、これを通常の高分子量のポリプロピレン成分に均一に混合することで、材料全体における低分子量成分の割合が比較的低い場合においても、十分にポリプロピレン系樹脂の剛性、特に剛性と耐熱性を高める効果が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、下記(a−i)〜(a−iv)の特性を有するプロピレン重合体(a)10〜50重量%、及び下記(b−i)〜(b−ii)の特性を有するプロピレン単独重合体またはプロピレン・α−オレフィン共重合体(b)90〜50重量%を含有することを特徴とする高剛性ポリプロピレン系組成物が提供される。
成分(a):プロピレン重合体
(a−i)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって得られる重量平均分子量Mw(a)が1,000〜60,000であること
(a−ii)分子量分布(Mw(a)/Mn(a))が1.5〜4.0であること
(a−iii)示差走査熱量測定(DSC)によって得られる融点Tm(a)が下記式(1)の関係式を満たすこと
155×(Mw(a)−582)/(Mw(a)−99)≦Tm(a) …(1)
(a−iv)13C−NMRによって得られるプロピレン連鎖部のmmが98.0%よりも大であること
成分(b):プロピレン単独重合体またはプロピレン・α−オレフィン共重合体
(b−i)GPCによって得られる重量平均分子量Mw(b)が60,000〜1,000,000であること
(b−ii)DSCによって得られる融点Tm(b)が120〜170℃であること
【0009】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、成分(a)の2,1−挿入に基づく位置不規則性が0.01〜2.00%、1,3−挿入に基づく位置不規則性が0.06〜0.40%であることを特徴とする高剛性ポリプロピレン系組成物が提供される。
【0010】
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、成分(a)がメタロセン系触媒によって製造されたプロピレン重合体であることを特徴とする高剛性ポリプロピレン系組成物が提供される。
【0011】
また、本発明の第4の発明によれば、溶融混練機を用いて、少なくとも2段階で溶融混練させる手法を用い、最初に成分(b)を溶融混練させ、ついで溶融した成分(b)中に成分(a)を添加してさらに溶融混練して製造することを特徴とする第1〜3のいずれかの発明の高剛性ポリプロピレン系組成物の製造法が提供される。
【0012】
また、本発明の第5の発明によれば、第4の発明において、溶融混練機が押出機であり、成分(b)が上流側でフィードされ溶融混練された後、下流側で成分(a)が溶融混練された成分(b)中に異なるフィード口から投入され、連続的に溶融混練されることを特徴とする高剛性ポリプロピレン系組成物の製造法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の高剛性ポリプロピレン組成物は、特定の性質を持つ低分子量ポリプロピレン成分とそれよりも分子量が高い特定のポリプロピレン成分とを含有する組成物であって、低分子量成分の割合を低くでき、材料の脆化を抑える効果が期待でき、また、低分子量成分の立体規則性が高いことにより、材料の剛性がさらに向上することや耐熱性においても優れるようになるため、一般のポリプロピレン系樹脂に比べて剛性、特に剛性と耐熱性が改良されたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、下記(a−i)〜(a−iv)の特性を有するプロピレン重合体(a)と下記(b−i)〜(b−ii)の特性を有するプロピレン単独重合体またはプロピレン・α−オレフィン共重合体(b)とを含有することを特徴とする高剛性ポリプロピレン系組成物及びその製造法である。以下において、本発明における発明群を詳細に説明するために、発明の実施の形態を具体的に詳しく述べる。
【0015】
1.高剛性ポリプロピレン系組成物
(1)成分(a)プロピレン系重合体
本発明の高剛性ポリプロピレン系組成物で用いる成分(a)は、下記特性(a−i)〜(a−iv)を有するプロピレン系重合体である。成分(a)は、融点や立体規則性が極めて高いものを用いることが必要であるため、プロピレンの単独重合体であることが好ましいが、本発明で開示する各種の物性を満足する限り、炭素数3を除く2〜10の少量のα−オレフィンを3重量%以下の範囲で共重合させたものでもよい。
【0016】
特性(a−i)重量平均分子量Mw(a)
成分(a)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される重量平均分子量Mw(a)は、1,000〜60,000であり、好ましくは5,000〜50,000であり、より好ましくは8,000〜45,000の範囲である。Mw(a)の範囲がこれを下回るものは工業的に製造しにくく、また、材料全体の脆化が大きくなるため好ましくない。この範囲を上回る場合には剛性の改良効果が得られなくなる。
GPCによる測定は、従来公知の方法によって測定され、分子量公知の標準試料による検量線を用いて換算することによって得られる。
【0017】
特性(a−ii)分子量分布
成分(a)の分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定された重量平均分子量Mw(a)と数平均分子量Mn(a)の比によって定義され、その範囲は1.5〜4.0であり、好ましくは1.8〜3.7である。分子量分布がより大きい場合には、平均分子量によって規定された分子量よりも極めて大きいまたは小さい分子量の成分が製造されることを意味し、これらは剛性等の物性改良に好ましくない影響を与える。また、分子量分布が上記の範囲より小さいものは事実上製造が困難である。
ここで、GPCによる分子量、分子量分布の測定法は以下のとおりである。
装置:Waters社製GPC(ALC/GPC 150C)
検出器:FOXBORO社製MIRAN 1A IR検出器(測定波長:3.42μm)
カラム:昭和電工社製AD806M/S(3本)
移動相溶媒:o−ジクロロベンゼン
測定温度:140℃
流速:1.0ml/分
注入量:0.2ml
試料の調製:試料はODCB(0.5mg/mLのBHTを含む)を用いて1mg/mLの溶液を調製し、140℃で約1時間を要して溶解させる。
なお、得られたクロマトグラムのベースラインと区間は、図1のように行う。
また、GPC測定で得られた保持容量から分子量への換算は、予め作成しておいた標準ポリスチレンによる検量線を用いて行う。使用する標準ポリスチレンは何れも東ソー(株)製の以下の銘柄である。
F380、F288、F128、F80、F40、F20、F10、F4、F1、A5000、A2500、A1000
各々が0.5mg/mLとなるようにODCB(0.5mg/mLのBHTを含む)に溶解した溶液を0.2mL注入して較正曲線を作成する。較正曲線は、最小二乗法で近似して得られる三次式を用いる。
分子量への換算に使用する粘度式[η]=K×Mαは、以下の数値を用いる。
PS:K=1.38×10−4、α=0.7
PP:K=1.03×10−4、α=0.78
【0018】
特性(a−iii)融点Tm(a)
成分(a)の示差走査熱量測定(DSC)によって得られる融点Tm(a)は、組成物を高剛性化させ耐熱性を高めるために、できるだけ高い方が好ましい。したがって、成分(a)の融点Tm(a)の範囲は下記式(1)を満たすことが必要であり、
155×(Mw(a)−582)/(Mw(a)−99)≦Tm(a) …(1)
好ましくは、下記式(2)を満たし、さらに好ましくは式(3)を満たす。
155×(Mw(a)−582)/(Mw(a)−99)≦Tm(a)≦168×(Mw(a)−582)/(Mw(a)−99) …(2)
157×(Mw(a)−582)/(Mw(a)−99)≦Tm(a)≦166×(Mw(a)−582)/(Mw(a)−99) …(3)
なお測定手法としては、市販の示差走査熱量計(DSC)を用い、試料5.0mgを採り、200℃で5分間保持した後、40℃まで10℃/分の降温速度で結晶化させ、さらに10℃/分の昇温速度で融解させたときの融解ピーク温度をTm(a)とする(単位:℃)。
【0019】
Tm(a)を分子量との関係式によって規定する理由は、以下のとおりである。
通常、ポリプロピレンの融点は、分子の立体規則性の指標として用いられることが普通に行われているが、実際のところは分子の規則性のみならず、ラメラの厚みなどの要因によっても変化することはよく知られている事実である。特に、分子量が小さい場合には、材料中に占める分子の末端の割合が相対的に増え、これが結晶ラメラの表面自由エネルギーを増加させるために、DSC等で得られる見かけの融点は、分子の規則性に関わらず低下する(例えば“ポリプロピレンハンドブック”エドワード.P.ムーアJr著,工業調査会,1998,P147参照。)。本発明で開示する成分(a)のような分子量の範囲では、成分の立体規則性を通常の昇温速度(10〜30℃/分程度)のDSC測定で得られる融点の値そのもので規定するのは全く不十分であり、常に分子量との関係を考慮した上でその範囲を規定しなければならない。
【0020】
一方で、結晶性高分子の分子量と融点に関しては、FloryとVrij(J.Am.Chem.Soc.85,3548(1963))、あるいはWunderlichとCzornyj(Macromolecules 10,906(1977))等により、最も単純には以下の関係式で良好に記述できることが示されている。
Tm=Tm0(x+a)/(x+b)
ここでxは鎖の長さであり、分子量に比例する数であるから、上式は以下のように書き換えることができる。
Tm=Tm0(Mw+a’)/(Mw+b’)
Tm0は、採用したDSC測定条件において、分子量無限大と仮定した場合の融点である。すなわち、式(1)は、融点と分子量の関係を考慮した上での低分子量成分の融点の規定であり、式(1)の左辺の係数155または右辺の係数168は、本発明で開示する低分子量成分が、同じ規則性を有したまま十分に高い分子量を持つと仮定した場合の融点に相当するものである。式(1)に記載のその他の定数は、実験的に求められたものである。
成分(a)の融点がこの式の下限を下回る場合には、低分子量成分の規則性が不十分であり、効果的な剛性及び耐熱性の改良効果が得られない。プロピレン重合体の融点は、その製造の困難性から、168×(Mw(a)−582)/(Mw(a)−99)で算出される値以下であることが好ましく、166×(Mw(a)−582)/(Mw(a)−99)で算出される値以下であることがさらに好ましい。
【0021】
特性(a−iv)13C−NMRによるプロピレン連鎖部のmm
成分(a)は上記で述べたように低分子量成分の規則性を規定するのに、融点による規定のみでは不十分であることから、13C−NMRによるアイソタクチックインデックスmmの規定も必要である。本発明の低分子量成分は、mmが98.0%より大であることが必要であり、好ましくは98.5%以上である。
mm分率は、ポリマー鎖中、頭−尾結合からなる任意のプロピレン単位3連鎖中、各プロピレン単位中のメチル分岐の方向が同一であるプロピレン単位3連鎖の割合である。このmm分率は、ポリプロピレン分子鎖中のメチル基の立体構造がアイソタクティックに制御されていることを示す値であり、高いほど高度に制御されていることを意味する。
【0022】
ここで、mm分率は、下記の13C−NMRスペクトルの測定方法にしたがって測定した値である。13C−NMRスペクトルは、10mmφNMR用サンプル管の中で、250mgの試料をo−ジクロロベンゼン2mlにロック溶媒である重水素化ベンゼン0.5mlを加えた溶媒中で完全に溶解させた後、130℃でプロトン完全デカップリング法で測定する。測定条件は、フリップアングル90°、パルス間隔15秒とする。微量成分の定量の為、炭素核の共鳴周波数として100MHz以上のNMR装置を使用して5,000回以上の積算を行う。ケミカルシフトは頭−尾結合し、メチル分岐の方向が同一であるプロピレン単位5連鎖の第3単位目のメチル基を21.8ppmとして設定し、他の炭素ピークのケミカルシフトはこれを基準とする。この基準では、mmで示されるプロピレン単位3連鎖中の第2単位目のメチル基に基づくピークは21.2〜22.5ppmの範囲に、mrで示されるプロピレン単位3連鎖中の第2単位目のメチル基に基づくピークは20.5〜21.2未満ppmの範囲に、rrで示されるプロピレン単位3連鎖中の第2単位目のメチル基に基づくピークは19.5〜20.5未満ppmの範囲に現れる。
ここで、mm、mrおよびrrはそれぞれ下記の化学構造で表される。
【0023】
【化1】

【0024】
mm分率は、mm、mr、rr各構造の割合から以下の式により算出される。
mm分率(%)=PPP[mm]/(PPP[mm]+PPP[mr]+PPP[rr])×100
ただし、PPP[mm]、PPP[mr]およびPPP[rr]は、それぞれ頭−尾結合したプロピレン単位3連鎖におけるmm、mr、rr各構造の割合を表し、各ピークに帰属される領域の面積から評価される。
【0025】
ここで、重合体がコモノマーとしてエチレンを含む場合には、エチレンユニットを含む部分構造として、mr領域に、プロピレン単位2連鎖にエチレンが結合した3連鎖(PPE)の第2単位目(プロピレン単位)のメチル基(PPE−メチル基)が共鳴(20.9ppm付近)する。また、rr領域に、プロピレン単位に隣接する単位がいずれもエチレン単位である3連鎖(EPE)の第2単位目(プロピレン単位)のメチル基(EPE−メチル基)が共鳴(20.2ppm付近)する。したがって、PPE−メチル基に基づくピーク面積、EPE−メチル基に基づくピーク面積を減ずる必要がある。
PPE−メチル基に基づくピーク面積は、対応するメチン基(31.0ppm付近で共鳴)のピーク面積により評価でき、EPE−メチル基に基づくピーク面積は、対応するメチン基(33.3ppm付近で共鳴)のピーク面積により評価できる。
【0026】
また、位置不規則ユニットを含む部分構造として、下記構造(i)、構造(ii)、構造(iii)および構造(iv)を有することがある。
【0027】
【化2】

【0028】
このうち、炭素A、A’、A”ピークは、mr領域に、炭素B、B’ピークは、rr領域に現れる。さらに炭素C、C’ピークは、16.8〜17.8ppmに現れる。これらのピークのうち、頭−尾結合したプロピレン単位3連鎖に基づかないピークは、PPE−メチル基、EPE−メチル基、炭素A、A’、A”、B、B’、Cおよび炭素C’に基づくピークである。したがって、炭素A、A’、A”、B、B’に基づくピーク面積を減ずる必要がある。
【0029】
炭素Aに基づくピーク面積は、位置不規則部分構造[構造(i)]の炭素F(38.7ppm付近で共鳴)のピーク面積より評価できる。
炭素A’に基づくピーク面積は、位置不規則部分構造[構造(ii)の炭素J(34.1ppm付近で共鳴)のピーク面積の2倍により評価できる。
炭素A”に基づくピーク面積は炭素L(27.7ppm付近で共鳴)のピーク面積により評価できる。
【0030】
炭素Bに基づくピーク面積は炭素Jにより評価できる。また、炭素B’に基づくピーク面積は炭素K(33.7ppm付近で共鳴)により評価できる。
なお、炭素Cピークおよび炭素C’ピークは、頭−尾結合したプロピレン単位3連鎖(PPP)のピークとは別の領域に生じるので考慮する必要はない。
以上によりmm、mrおよびrrのピーク面積を評価することができるので、上記数式に従って、頭−尾結合からなるプロピレン単位連鎖部のアイソタクチックトリアッド分率mmを求めることができる。
【0031】
(2)成分(a)の製造
上記のように融点が高く、立体規則性が高く、分子量分布の狭い成分(a)を得るためには、触媒としてはメタロセン触媒を用いることが好ましい。従来用いられるチーグラー・ナッタ系触媒では、複数の活性点を持つと考えられており、規則性の低いアタクチック成分が生成することが不可避である。しかも、一般的に低分子量成分ほど規則性が低下することが公知であり、融点の高い低分子量成分を得ることは困難である。また、チーグラー・ナッタ系触媒では、一般に分子量分布が大きいものが得られるため、前記した理由により、剛性等の物性改良において好ましくない成分が製造される可能性がある。
【0032】
好ましいメタロセン触媒としては、融点に関わる立体規則性、重合安定性の観点からして、特定のメタロセン系触媒によって製造されることが好ましい。具体的には、下記の成分(A)、成分(B)ならびに必要に応じて成分(C)からなる触媒の存在下でプロピレンを(共)重合させることが好ましい。
成分(A):一般式(I)で表される遷移金属化合物
成分(B):下記(b−1)〜(b−4)から選ばれた一種以上を含有する固体成分
(b−1)アルミニウムオキシ化合物が担持された微粒子状担体
(b−2)成分(A)と反応して成分(A)をカチオンに変換することが可能なイオン性化合物またはルイス酸が担持された微粒子状担体
(b−3)固体酸微粒子
(b−4)イオン交換性層状化合物
成分(C):有機アルミニウム化合物
【0033】
(イ)成分(A)
本発明で使用する遷移金属化合物(A)は、代表例として、架橋した二つの共役五員環配位子を有する、周期律表(短周期型)の第4族の遷移金属によるメタロセン錯体が挙げられ、これらは、下記一般式(I)で表されるものが好ましい。
【0034】
【化3】

【0035】
ここで式(I)中、共役五員環配位子を示すAおよびA’は、同一でも異なっていてもよい、少なくともその2位と4位に以下に説明する特定の置換基を有するインデニル基、アズレニル基、または水添アズレニル基である。2位の置換基は、ハロゲンやケイ素、酸素、硫黄などのヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1〜6の炭化水素基であり、好ましくはメチル、エチル、プロピル基などのアルキル基である。4位の置換基は下記一般式で示されるアリール基であり、R’はハロゲン原子などのヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20の有機ケイ素基、または、ハロゲン原子である。但し、このアリール基の3位、4位、および、5位に存在する少なくとも1つのR’は、ハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数4〜10の分岐状炭化水素基、好ましくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数4〜7の3級の分岐状炭化水素基であるか、または、ハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数3〜10の有機ケイ素基、好ましくはハロゲン原子を含んでもよい炭素数3〜6の3級の有機ケイ素基である。ここで、それぞれの炭化水素基、または、有機ケイ素基が有する複数の置換基は、そのそれぞれにおいて、互いに同じでも異なっていてもよい。アリール基の3位、4位、および、5位に存在する少なくとも1つのR’として、具体的には、トリフルオロメチル基、トリメチルシリル基、t−ブチル基、t−ペンチル基、フェニル基、トリエチルシリル基などを例示できるが、好ましいのは、トリメチルシリル基、t−ブチル基、t−ペンチル基、トリエチルシリル基である。尚、隣り合った二つ以上のR’が連結していてもよい。nは1〜4の範囲である。
【0036】
【化4】

【0037】
これらの中で特に好ましいのは、共役五員環配位子AもしくはA’またはその両方の2位に、炭素数2〜4のアルキル基を有し、4位に、上記一般式によって示されるアリール基を有しており、そのアリール基において、アリール基の3位、4位、5位に存在するR’nのうちの少なくとも一つがハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数4〜7の3級の分岐状炭化水素基、または、ハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数3〜6の3級の有機ケイ素基であって、かつ、当該分岐状炭化水素基及び有機ケイ素基以外の置換基として、メチル基およびハロゲン原子から選択される置換基を少なくとも一つ有している、インデニル基、アズレニル基、または水添アズレニル基である。特に好ましいのはアズレニル基である。nは、2もしくは3であるのが好ましい。
【0038】
これら架橋型インデニル骨格あるいはアズレニル骨格を有するメタロセン錯体における2位、4位の置換基は、以下のように機能していると考えている。尚、これによって、本願発明の作用・効果を限定するものではない。すなわち、2位の置換基は、配位モノマーや中心金属に結合したポリマー末端構造に影響を与えることが知られているが、適当な嵩高さの置換基を選択することで、モノマーの逆挿入反応や連鎖移動反応を抑制することが可能となり、異種結合の低減や分子量の向上に効果がある。
【0039】
また、4位の置換基は、立体構造的に配位モノマーのステレオ選択性や中心金属に結合したポリマー末端構造に影響を与えることが知られているが、2位に置換基を有し、かつ、4位にアリール型構造の置換基を選択することで、ポリマー末端構造の配置を制御することを可能にし、円滑な挿入(重合)反応が高いステレオ選択性で進行し、本発明のように高いメソトリアッド分率(mm)や高い分子量のポリマーを高い活性で得ることを可能にする。つまり、2位と4位の置換基を選択することが、高分子量で高融点のポリマーを得ることを可能にするのである。この様なメタロセン錯体を使用した触媒による重合においては、水素を連鎖移動剤として添加することにより分子量の(a)の様な低分子量のPPでも容易に製造が可能であり、mmの低下も起こらない特徴がある。
【0040】
Qは、二つの共役五員環などの配位子間を任意の位置で架橋する結合性基を表し、共役五員環に直接結合したものが好ましく、炭素数1〜20の炭化水素基、ケイ素含有炭化水素基あるいはゲルマニウム含有炭化水素基が好ましい。具体的には、置換および無置換のアルキレン基、シリレン基あるいはゲルミレン基であり、好ましくは置換シリレン基あるいは置換ゲルミレン基である。ケイ素、ゲルマニウムに結合する置換基は炭素数1〜6の炭化水素基が好ましく、二つの置換基が連結していてもよい。
Mは、周期律表第4族から選ばれる遷移金属の金属原子であり、ジルコニウムとハフニウムが好ましい。
【0041】
XおよびYは、補助配位子であり、成分(B)の助触媒と反応してオレフィン重合能を有する活性なメタロセンを生成させる。したがって、この目的が達成される限りXとYは配位子の種類が制限されるものではなく、各々水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、あるいはヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基などが例示できる。これらのうち好ましいものは炭素数1〜10の炭化水素基、あるいはハロゲン原子である。
【0042】
具体的な化合物の例示としては、ジクロロ{1,1’−ジメチルシリレンビス(2−エチル−4−フェニル−4−ヒドロアズレニル)}ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(4−クロロフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(4−t−ブチルフェニル)−4ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(4−トリメチルシリルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(3−クロロ−4−t−ブチルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(3−メチル−4−t−ブチルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(3−クロロ−4−トリメチルシリルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(3−メチル−4−トリメチルシリルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(3,5−ジクロロ−4−トリメチルシリルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(2−ナフチル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(2−フルオロ−4−ビフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(2−クロロ−4−ビフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(9−フェナントリル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(4−クロロ−2−ナフチル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−i−プロピル−4−(4−クロロフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−n−プロピル−4−(3−クロロ−4−トリメチルシリルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(3−クロロ−4−t−ブチルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルゲルミレンビス{2−エチル−4−(2−フルオロ−4−ビフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルゲルミレンビス{2−エチル−4−(4−t−ブチルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−(9−シラフルオレン−9,9−ジイル)ビス{2−i−プロピル−4−(4−クロロフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−(9−シラフルオレン−9,9−ジイル)ビス{2−エチル−4−(3,5−ジクロロ−4−トリメチルシリルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−(9−シラフルオレン−9,9−ジイル)ビス{2−エチル−4−(3,5−ジメチル−4−トリメチルシリルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(4−t−ブチルフェニル)−4,5,6,7,8−ペンタヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(4−トリメチルシリルフェニル)−4,5,6,7,8−ペンタヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(2−フルオロ−4−ビフェニル)−4、5,6,7,8−ペンタヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ(1,1’−ジメチルシリレンビス[2−エチル−4−{4−クロロ−2−(5,6,7,8−テトラヒドロナフチル)−4,5,6,7,8−ペンタヒドロアズレニル}]ハフニウムなどが挙げられる。
【0043】
上記の化合物は、煩雑な多数の例示を避けて、代表的例示化合物のみ記載して、中心金属がハフニウムの化合物を記載したが、同様のジルコニウム化合物も使用可能であることは言うまでもなく、また、種々の配位子や架橋結合基あるいは補助配位子を任意に使用しうることは自明である。
【0044】
(ロ)成分(B)
成分(B)としては、前述した(b−1)〜(b−4)から選ばれた成分のうち少なくとも一つを使用する。これらの各成分は公知であり、その具体的例示や製造方法については、重複記載を避けるが、例えば、特開2002−284808号公報に詳細な開示がなされている。
略記すれば、(b−1)のアルミニウムオキシ化合物としては、アルミノキサンなどが使用され、(b−2)の化合物は、成分(A)と反応して成分(A)をカチオンに変換することが可能なイオン性化合物またはルイス酸であり、このようなイオン性化合物としては、カルボニウムカチオン、アンモニウムカチオンなどの陽イオンと、トリフェニルホウ素、トリス(3,5−ジフルオロフェニル)ホウ素、トリス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素などの有機ホウ素化合物との錯化物などが挙げられる。また、上記のようなルイス酸としては、種々の有機ホウ素化合物、例えばトリス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素などが例示される。(b−3)の固体酸としては、アルミナ、シリカ−アルミナ、シリカ−マグネシアなどが挙げられる。(b−4)のイオン交換性層状化合物は、粘土鉱物の大部分を占めるものであり、好ましくはイオン交換性層状珪酸塩である。
上述の成分(B)の中で、好ましいものは、(b−4)のイオン交換性層状珪酸塩である。それについては、例えば、特開2002−53609号公報、特開2002−69116号公報あるいは特開2003−105015号公報に、具体的な例示や製造方法についての詳細な開示がなされている。
【0045】
(ハ)成分(C)
成分(C)は有機アルミニウム化合物である。本発明で成分(C)として用いられる有機アルミニウム化合物は、一般式AlR3−pで示される化合物が適当である。本発明では、この式で表される化合物を単独または複数種併用して使用することができることは言うまでもない。この式中、Rは炭素数1〜20の炭化水素基を示し、Xは、ハロゲン、水素、アルコキシ基、アミノ基を示す。pは0より大きくかつ3までの数である。Rとしてはアルキル基が好ましく、またXは、それがハロゲンの場合には塩素が、アルコキシ基の場合には炭素数1〜8のアルコキシ基が、アミノ基の場合には炭素数1〜8のアミノ基が好ましい。したがって、好ましい化合物の具体例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリノルマルプロピルアルミニウム、トリノルマルブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリノルマルヘキシルアルミニウム、トリノルマルオクチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライド、ジエチルアルミニウムセスキクロライド、ジエチルアルミニウムヒドリド、ジエチルアルミニウムエトキシド、ジエチルアルミニウムジメチルアミド、ジイソブチルアルミニウムヒドリド、ジイソブチルアルミニウムクロライドなどが挙げられる。これらのうち、好ましくは、トリアルキルアルミニウムおよびジアルキルアルミニウムヒドリドである。
【0046】
触媒は、上記の各成分を(予備)重合槽内で、同時にもしくは連続的に、あるいは一度にもしくは複数回にわたって、接触させることによって形成させることができる。各成分の接触は、脂肪族炭化水素あるいは芳香族炭化水素溶媒中で行うのが普通である。接触温度は特に限定されないが、−20℃から150℃の間で行うのが好ましい。
接触順序としては目的に沿った任意の組み合わせが可能である。成分(B)としてイオン交換性層状珪酸塩を使用する場合、好ましい態様としては、成分(A)と成分(B)を接触させる前に成分(C)を成分(B)に接触させる方法であり、その場合、過剰の成分(C)を洗浄により除去することが可能である。また、成分(C)は同一の、又は、異なる種類の成分(C)を複数回使用することも可能である。
【0047】
成分(A)、(B)および(C)の使用量は任意である。例えば成分(B)としてイオン交換性層状珪酸塩を使用する場合、成分(A)の使用量は、成分(B)1gに対し、好ましくは0.1マイクロモル〜1000マイクロモル、特に好ましくは0.5マイクロモル〜500マイクロモルの範囲である。成分(B)に対する成分(C)の使用量は、成分(B)1gに対し、好ましくは成分(C)が0.1ミリモル〜5000ミリモル、特に好ましくは0.5ミリモル〜1000ミリモルの範囲である。したがって、成分(A)に対する成分(C)の量は、モル比で好ましくは0.1〜5×10、特に好ましくは1〜2×10の範囲内である。
【0048】
触媒は、これにオレフィンを接触させて少量重合されることからなる予備重合処理に付すことが好ましい。使用するオレフィンは、プロピレンを使用することが好ましい。オレフィンの供給方法は、オレフィンを反応槽に定速的にあるいは定圧状態になるように維持する供給方法やその組み合わせ、段階的な変化をさせるなど、任意の方法が可能である。予備重合温度および時間は、特に限定されないが、各々−20℃〜100℃、5分〜24時間の範囲であることが好ましい。また、予備重合量は、予備重合ポリマー量が成分(B)に対し重量比で、好ましくは0.01〜100、さらに好ましくは0.1〜50である。また、予備重合時に成分(C)を添加または追加することもできる。
予備重合を終了した後に、触媒の使用形態に応じ、そのまま使用することが可能であるが、必要ならば乾燥を行うことも可能である。乾燥を実施する場合は、不純物による被毒を防止するために、成分(C)を添加させることが好ましい。
上記の各成分の接触の際もしくは接触の後に、ポリエチレンやポリプロピレンなどの重合体、シリカやチタニアなどの無機酸化物の固体を共存させるなどの方法も可能である。
【0049】
ここで、メタロセン触媒を使用して本発明の組成物を構成する成分(a)を製造するためには以下のように、触媒および重合条件を適切に選択することが重要である。
一般にメタロセン触媒は、重合温度を上げると分子量の低下や、立体規則性(例えばメソトリアッド)の低下による融点の低下が起こるため、触媒の性能に応じて重合温度条件を適切に選択すべきである。また、選択する触媒にも依るが、モノマー分圧(濃度)が低いと、得られるポリマーの立体規則性の低下や低分子量化を引き起こすことがあるため、重合圧力を適切に選択すべきである。例えば、性能の低い錯体や触媒を使用する場合には、重合圧力を高めの条件に設定することで、触媒性能が劣る点を補償できる場合がある。分子量(MFRが指標となる)の制御には、上述の重合温度の選択以外に公知の分子量調節手法、例えば連鎖移動剤として水素を使用することができる。
【0050】
そして、このような触媒を用いて重合された成分(a)は、アイソタクチックトリアッド分率mmは大きいが、2,1−挿入あるいは1,3−挿入に基づく位置不規則性を有するという特徴を有し、その範囲は、前者においては、0.01〜2.00%、好ましくは0.01〜1.00%、後者においては、0.06〜0.40%、好ましくは0.06〜0.30%である。従来のチーグラーナッタ系触媒を用いて製造する場合にはこの位置不規則性は殆ど観測されない。
【0051】
2,1−結合含有量(2,1−挿入による異種結合量)は、以下の式に従って求める。
【0052】
【数1】

【0053】
上記式中の記号は、以下を意味する。
αβ(i):構造(i)に含まれるαβメチレン炭素(構造図中のG及びG’炭素)に由来するピーク強度であり、36.0ppm付近にダブレットとして生じる。
αβ(ii):構造(ii)に含まれるメチレン炭素(構造図中のH及びI炭素)に由来するピーク強度であり、34.8ppm付近にダブレットとして生じる。
CH(iii):構造(iii)に含まれるメチン炭素(構造図中のK炭素)に由来するピークの強度であり、33.7ppm付近に生じる。
αα:1,2−結合したプロピレン2連鎖にはさまれたメチレン炭素に由来するピーク強度であり、45.5〜47.0ppm付近に生じる。
αγ+αδ:メチン炭素に直接結合、かつ直接結合したメチン炭素とは反対側の最隣接メチン炭素の位置がγ位またはそれより先であるメチレン炭素に由来するピーク強度であり、37.2〜38.4ppm付近に生じる。
βγ:構造(iii)のメチレン炭素Lに由来するピーク強度であり、27.7ppm付近に生じる。
【0054】
1,3−結合含有量(1,3−挿入による異種結合量)は以下の式に従って求める。
【0055】
【数2】

(上式中の記号の意味は前記したとおりである。)
【0056】
(3)成分(b)プロピレン単独重合体またはプロピレン・α−オレフィン共重合体
本発明の高剛性ポリプロピレン系組成物で用いる成分(b)は、下記特性(b−i)〜(b−ii)を有するプロピレン単独重合体またはプロピレン・α−オレフィン共重合体である。プロピレンとα−オレフィン共重合体とは、所謂ランダム共重合体であっても、多段重合によって得られる所謂ブロック共重合体であってもよい。共重合に用いるα−オレフィンとしては、炭素数3を除く2〜10の範囲のいかなるものも用いることができるが、なかでもエチレンが好適に用いられる。また、共重合体としてはPPの立体規則性を制御することによって得られるステレオブロック共重合体であっても良い。
【0057】
特性(b−1)Mw(b)
成分(b)のGPCによって得られるMw(b)の範囲は、60,000〜1,000,000、好ましくは100,000〜800,000、さらに好ましくは150,000〜600,000である。成分(b)の分子量範囲がこれを上回るものでは、組成物の流動性が低下したり、ブツが発生しやすくなるため好ましくない。また、この範囲を下回る場合には、組成物の流動性が実用の範囲を外れることになり好ましくない。
ここで、分子量の測定方法は成分(a)の場合と同じ方法による。
【0058】
特性(b−2)Tm(b)
成分(b)のDSCによって得られる融点Tm(b)の範囲は、120〜170℃であり、好ましくは150〜169℃であり、さらに好ましくは160〜168℃である。この範囲を下回るものは剛性が十分高くなく、本発明の主旨を外れるものである。また、この範囲を上回るものは事実上製造が困難である。なお、成分(b)の分子量の範囲では通常の測定で得られる融点は分子量の影響をあまり受けないため、このような範囲での規定で差し支えない。
ここで、Tm(b)の測定方法は成分(a)の場合と同じ方法による。
【0059】
成分(b)を製造するための触媒に関しては、特に制限は無く、従来公知のチーグラー・ナッタ系触媒やメタロセン触媒等を用いることができるが、本発明の樹脂組成物は高剛性であることを特徴とするものであることから、比較的高融点のポリプロピレン系樹脂を製造できる触媒系を選ぶことが望ましい。したがって、成分(b)をもメタロセン系触媒によって製造する場合には、前記の成分(a)を製造するのと同様の触媒によって製造することが好ましい。
【0060】
(4)成分(a)と成分(b)の組成割合
本発明の高剛性ポリプロピレン組成物物全体に対する成分(a)の重量分率は、10〜50重量%であり、好ましくは15〜45重量%である。成分(a)の割合がこの範囲を下回る場合には剛性改良効果が十分でなく、上回る場合には流動性が実用に適さない範囲になるか、あるいは材料の脆化が激しくなるため好ましくない。これにより組成物全体に対する成分(b)の範囲は、90〜50重量%の範囲であり、好ましくは85〜55重量%の範囲である。
【0061】
2.高剛性ポリプロピレン組成物の製造
本発明の高剛性ポリプロピレン組成物は、上記成分(a)と成分(b)の本質的に高分子量成分と低分子量成分の二成分を含有するものであるが、これを製造するに際してはその手法に特に制限は無く、多段階の重合により二成分を製造する手法、複数の触媒を用いて異なる分子量成分を製造する方法、2種類の異なる活性点を有する単独触媒により製造する方法、溶媒の存在下に二成分を混合した後に溶媒を除去する方法、押出機やブラベンダ−によって溶融混練する手法等が挙げられる。本発明で開示するような極めて分子量の小さい成分と大きい成分が共存するような組成物の場合、一般に均一な組成物を得ることが困難になるが、多段階の重合や、複数の触媒によって重合して該組成物を得る場合には、より均一な組成物を得られやすい。一般的に樹脂組成物を製造する際に用いられる溶融混錬法によって該樹脂組成物を得る場合には、以下の方法が好適に用いられる。
【0062】
溶融混練によって本組成物を製造するに当たっては、溶融混練機を用いて、少なくとも2段階で溶融混練させる手法を用い、最初に成分(b)を溶融混練させ、次いで成分(a)を添加してさらに溶融混練して製造する方法が好ましく用いられる。なぜなら、本発明で開示する組成物には極めて分子量の小さい成分(a)が含まれており、このような組成物を両成分のパウダーまたはペレットをドライブレンドした後に通常の溶融混錬によって製造しようとする場合には、分子量が低く低粘度な成分(a)が混練機内で成分(b)に先んじて溶融してしまい、成分(a)に比べ分子量が高く高粘度な成分(b)に十分な剪断がかからず成分(b)が成分(a)中に分散できないことがあるからである。このような場合には、剛性の改良効果が十分でないばかりか、最終的な組成物にブツが生じたり、延伸性、タフネスが極端に悪くなるといった問題を生じる。このような現象を避けるためには、前記のように、まず粘度の高い成分(b)を溶融混練しておき、溶融している成分(b)にパウダーまたはペレット状の成分(a)を添加することが好ましい。このとき、先に高粘度の成分(b)を溶融混練しておくことで、そこに加えた成分(a)は成分(b)を介して大きな剪断を受けるためその分散性は極めて改良される。
【0063】
溶融混練の手法としては、押出機を用いて、まず成分(b)が上流側でフィードされ溶融混練された後、下流側で成分(a)が溶融混練された成分(b)中に異なるフィード口から投入され、連続的に溶融混練されることが好ましい。
このとき用いられる押出機としては、単軸、二軸その他の連続式の押出機を用いることができるし、さらに、押出機を二機以上接続して用いることもできる。このとき、成分(b)を溶融混練し、さらに、成分(a)を十分分散させるには、少なくとも2箇所のミキシングゾーンを設け、始めに成分(b)をフィードして1番目のミキシングゾーンにおいて溶融混練しておき、成分(a)を最初のミキシングゾーンよりも後ろに設けたフィード孔よりフィードし、2番目以降のミキシングゾーンで両成分を溶融混合させる方法によって製造することが好ましい。
なお、溶融混練時(ミキシングゾーン)の温度範囲としては150℃より大きく300℃以下、好ましくは160℃〜280℃である。
ここで、もっとも好適に用いられるのはL/D≧30(ここでLはスクリュー長、Dはスクリュー直径をあらわす)のかみ合い二軸押出機であり、上流側と下流側に2カ所以上のフィード口を有するものである。
すなわち、単軸押出機を用いる場合、成分(b)を溶融混練させたあとに成分(a)をフィードすると、フィード口ではシリンダ壁からの摩擦がないために移送が悪くベントアップを生じやすいという問題がある。一方、かみ合い二軸押出機ではせん断だけでなく体積移送が働くためベントアップを生じにくく、各種の混練セグメントをそなえることができるため混練能力に優れ分散性が高いという利点を有する。
【0064】
好適に用いられる二軸混練機の代表的な例を図2に示す。図2において、二軸混練機1は、スクリューエレメント部と温度制御部から構成され、2、3はフィード口である。スクリューエレメント部では、4、4’、4”は、フルフライトスクリューであり、5、5’はミキシングゾーンであり、6、6’は逆ねじである。また温度制御部は11〜16が各ゾーンの温度制御部であり、17がアダプタの、18がストランドダイの温度制御部である。ここでのミキシングゾーンとは、二軸押出機のスクリューエレメントにおいて、フルフライトスクリューに比べて混練や分散効果の優れたエレメントを備えた部分であり、所謂ニーディングディスクやローター等二軸押出機に一般的に用いられるエレメントを用いることができる。
さらに、そのスクリュー構成として、ミキシングゾーンでできるだけ樹脂をよく混練するために、逆ねじのスクリューをミキシングゾーンの最後に用いることが好ましい。また、成分(b)を溶融混練したあとに成分(a)をフィードする際には、圧力上昇が生じるとベントアップをおこすためできるだけ移送能力の高い構成を取ることが望ましく、具体的にはピッチの大きいフルフライトスクリューを使用して樹脂を移送することとし、成分(a)の添加は、1番目のミキシングゾーンの後に、このフルフライトスクリューによって溶融樹脂が移送される領域において行うことが好ましい。なお、この領域の温度としては、成分(a)のパウダーあるいはペレットがフィード口付近で溶融付着することを防ぐために、成分(b)が固化しない範囲に制御することが必要であり、50〜160℃、好ましくは60〜150℃の温度であることが好ましい。
【0065】
ニーディングディスクやその他のスクリューエレメントの数や種類の選択は、成分(a)及び(b)を十分に溶融混練するという目的を達成できる限り、使用する二軸押出し機の種類に応じて任意に選択できる。また、押出し機回転数についても同様に、任意に設定してよい。
ただし、二軸混練機の選定に当たっては、上記のようにミキシングゾーンと第二のフィード口3付近で温度を変えることが好ましいため、バレルの位置によって異なる温度での制御が可能な装置を選択することが好ましい。
具体的には、例えば、成分(b)は、混練機の50〜160℃、好ましくは60〜150℃に温度コントロールされた部位にフィードされ混練されたのち、更に150〜300℃、好ましくは160〜280℃に温度コントロールされた部位に混練移送されて溶融混練される。そして、50〜160℃、好ましくは60〜150℃に温度コントロールされた部位に混練移送されたところで、当該成分(b)に成分(a)が添加されて混練されたのち、150〜300℃、好ましくは160〜280℃で温度コントロールされた部位に混練移送されて、当該成分(b)と当該成分(a)とが溶融混練される。
組成物における成分(a)の割合は、あらかじめ測定しておいたフィーダの能力から推定することができるし、或いは成分(a)、成分(b)及び製造された組成物全体の重量平均分子量Mw(a+b)の測定から、以下の式によって計算することも可能である。
Wa=[logMw(a+b)−logMw(b)]/[logMw(a)−logMw(b)]×100
【0066】
本発明の高剛性プロピレン系組成物は、シートやフィルムまたは射出成形品あるいは繊維製品や包装材料などの各種成形品に好適に使用することができるが、中でも高剛性の射出成形品の用途に好適に用いることができる。
これらの用途に用いるに際して、成形法には特に制限はなく、射出成形法や溶融押出成形法などの公知の各種の成形法を用いることができる。また成形に際しては、本発明の主旨を損なわない限り、従来公知の添加剤を、例えば安定剤、酸化防止剤、造核剤、UV吸収剤、光保護剤、金属失活剤、フリーラジカル捕捉剤、フィラー及び強化剤、相溶化剤、可塑剤、滑剤、乳化剤、蛍光像白剤、難燃化剤、顔料、帯電防止剤、発泡剤などを添加しても良い。
【実施例】
【0067】
以下においては、本発明を実施例によって、さらには比較例との対比において、より具体的に詳細に説明する。下記の実施例は、本発明をさらに具体的に説明するためのものであるから、本発明は、これらの実施例によって何ら制約を受けるものではないことは明白である。以下の実施例及び比較例において得られた諸物性の測定方法、組成物の製造方法、組成物の評価方法、使用した成分の製造方法は、次の通りである。
【0068】
1.樹脂物性の測定法
(1)GPC:前述の方法に従って測定した。
(2)DSC:セイコー社製DSCを用い、試料5.0mgを採り、200℃で5分間保持した後、40℃まで10℃/分の降温速度で結晶化させ、さらに10℃/分の昇温速度で融解させたときの融解ピーク温度をTmとした(単位:℃)。
(3)MFR:JIS K6758のポリプロピレン試験方法のメルトフローレート(条件:230℃、荷重2.16kgf)に従って測定した。単位はg/10分である。
(4)成分(a)の重量分率wa:二軸押出し機による造粒工程において、成分(a)および成分(b)を添加する各々のフィーダの能力から算出した。
(5)mmおよび異種結合の量:前述の方法に従って測定した。
【0069】
2.組成物の製造
以下の条件により溶融混練し、ストランドダイから押し出された溶融樹脂を、冷却水槽で冷却固化させながら引き取り、ストランドカッターを用いてストランドを直径約2mm、長さ約3mmに切断することで樹脂組成物原料ペレットを得た。
成分(b)は図2中のフィード口2からスクリューフィーダーを用いて投入し、成分(a)は図2中のフィード口3へスクリューフィーダーにより添加した。フィーダ能力(時間当たりの樹脂の添加量)は各々に対しあらかじめ測定しておき、これから組成物中の成分(a)と成分(b)の割合を決定した。
【0070】
押出機:テクノベル社製KZW−15−45−MG2軸押出機
スクリュー:口径15mm L/D45
スクリュー構成:図2に示すとおり
押出機設定温度:ホッパ下から 100、180、200、130、190、190、190、190(ダイ)℃
スクリュー回転数:400rpm
ダイ:口径3mmストランドダイ 穴数2個
ここで使用した混練機はかみ合い二軸押出機であり、ホッパ下からダイまで、8箇所で独立に温度制御が可能なものである。使用したスクリューエレメントは図2に示すとおりであり、ホッパから投入された成分(b)は、図2の温度制御部12及び13にわたる領域において180℃及び200℃に制御された温度で混練される。混練部ではニーディングブロックが配置してある。二―ディングブロックとは、同一の断面形状を有する複数のニーディングディスクが、それぞれのディスクの幾何学的中心が共通の直線状に位置し、該直線の周りに一定方向に互いに所定の角度のずれを持って順次ずらされて重ねられた形状を有しているものをいう。ニーディングブロックには、連続するニーディングディスクの角度のずれがスクリューの回転に伴い、樹脂をダイの方向に移送する向きに配置されるタイプ(順ねじタイプ)と、互いに90°のずれをもつタイプ(ニュートラルタイプ)と、スクリューの回転に伴い、樹脂をホッパの方向に移送する向きに配置されるタイプ(逆ねじタイプ)とあり、ここではホッパ側から順ねじタイプ2個、ニュートラルタイプ4個、逆ねじタイプ2個の計6個を用いた。混練部の最後には逆ねじのフルフライトスクリューを配置して滞留時間を高め、より強い混練が達成されるようにした。
成分(a)は、130℃に制御された図2の温度制御部14(フィード口3)で投入され、フルフライトスクリュー4’によって190℃に制御された図2の温度制御部15に移送され、両成分が混練される。ここではニーディングブロックを順ねじタイプ2個、ニュートラルタイプ3個、逆ねじタイプ2個を使用し、混練部最後に逆ねじのフルフライトスクリューを配置して滞留時間を高め、より強い混練が達成されるようにした。
【0071】
3.物性試験片の作成
得られた組成物ペレットを、以下の条件により射出成型し、物性評価用平板試験片を得た。
規格番号:JIS−7152(ISO294−1)
成形機:東芝製EC20射出成形機
成形機設定温度:ホッパ下から80,80,160,200,200,200℃
金型温度:40℃
射出速度:200mm/s(金型キャビティー内の速度)
金型形状:平板(厚さ2mm、幅30mm、長さ90mm及び厚さ4mm、幅10mm、長さ80mm)
【0072】
4.組成物物性の測定法
(1)曲げ弾性率:得られた組成物の曲げ弾性率を以下の条件により評価した。
規格番号:JIS K−7171(ISO178)準拠
試験機:精密万能試験機オートグラフAG−20kNG(島津製作所製)
試験片の採取方向:流れ方向
試験片の形状:厚み2.0mm、幅25.0mm、長さ40.0mm
試験片の作成方法:射出成形平板を上記寸法に打ち抜き(成形については成形項を参照)
状態の調節:室温23℃、湿度50%に調節された恒温室内に24時間以上放置
試験室:室温23℃、湿度50%に調節された恒温室
試験片の数:5
支点間距離:32.0mm
試験速度:1.0mm/min
(2)耐熱性:耐熱性は熱変形温度(HDT)にて評価した。HDTは厚さ4mmの射出成形片を用いてJIS K7191−1に準拠して、0.45MPaの条件でフラットワイズで測定した。ただし、測定前の試験片状態調整として、射出成形後、100℃で30分間アニールし、室温まで冷却する操作をおこなっている。
【0073】
5.成分(a)、成分(b)の製造
(製造例1)
(1)メタロセン錯体(r)−ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(3−クロロ−4−トリメチルシリルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウムの合成
(イ)3−クロロ−4−トリメチルシリルブロモベンゼンの合成
3−クロロ−4−ヨード−ブロモベンゼン(3.1g)をジエチルエーテル(100ml)に溶解し、−78℃でn−ブチルリチウムのヘキサン溶液(1.59M 6.1ml)を滴下した。その温度で30分間撹拌後、トリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリル(3.77ml;17.4mmol)を滴下し1時間撹拌した。反応終了後、氷浴下に水を少しづつ加えた後に、エーテルで抽出し、有機相は硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下溶媒を留去した。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(メルク社製シリカゲル、ヘキサン)で2回精製することにより目的物(2.3g)を得た(収率90%)。
H−NMR(CDCl
δ:0.35(s,9H,TMS),7.3−7.4(m,2H,arom),7.50(s,1H,arom)
【0074】
(ロ)配位子の合成
上記の(イ)で得られた3−クロロ−4−トリメチルシリル−ブロモベンゼンをヘキサン(50ml)とジエチルエーテル(50ml)の混合溶媒に溶解し、t−ブチルリチウムのペンタン溶液(1.51M 11.6ml)を−78℃で滴下した。−78℃で30分間撹拌した後、0℃まで昇温し、2−エチルアズレン(1.29g)を一度に添加した後に、すぐに室温まで昇温し1時間撹拌した。テトラヒドロフラン(50ml)、N−メチルイミダゾール(0.02ml)を加え、−5℃でジメチルシリルジクロリド(0.42ml)を滴下した。その温度で1.5時間撹拌した後、反応液に蒸留水を加え、ジエチルエーテルで抽出した。有機層は硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下溶媒を留去した。得られた粗生成物はカラムクロマトグラフィー(メルク社製シリカゲル、ヘキサン/塩化メチレン)で精製し、ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(3−クロロ−4−トリメチルシリルフェニル)−1,4−ジヒドロアズレン}(2.5g)を得た(収率98%)。
【0075】
(ハ)錯体の合成
上記の(ロ)で得られた配位子(2.5g)をジエチルエーテル(15ml)に溶解し、n−ブチルリチウムのn−ヘキサン溶液(1.59M 4.3ml)を−78℃で滴下した。0℃まで昇温し、1時間撹拌した後、トルエン(120ml)を加え、再び−78℃に冷却し、ハフニウムテトラクロリド(1.09g)を添加した。ゆっくり昇温し室温で6時間撹拌した。得られた反応溶液を一度濃縮し、ヘキサンで抽出して再び濃縮乾固した。この固体をさらに−78℃でヘキサン抽出し濃縮乾固後、n−ペンタンで洗浄を繰り返した。さらにジエチルエーテル−ヘキサン(1:3)混合溶媒で洗浄し、塩化メチレンで抽出した。その結果、目的のジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(3−クロロ−4−トリメチルシリルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウムのラセミ体0.20g(収率6%)を得た。
H−NMR(CDCl
δ:0.36(s,18H,TMS),1.00(s,6H,SiMe),1.05(t,J=5.6Hz,6H,2−CHCH),2.5−2.7(m,4H,2−CHCH),5.00(d,J=3.0Hz,2H,4−H),5.8−6.1(m,6H),5.99(s,2H),6.79(d,J=6.0 Hz,2H,7−H),7.2−7.4(m,6H,arom)
【0076】
(ニ)イオン交換性層状珪酸塩の調製
(i)化学処理:
撹拌翼と還流装置を取り付けた3Lセパラブルフラスコに、イオン交換水500gを投入し、さらに水酸化リチウム1水和物249g(5.93mol)を投入して撹拌する。別に、硫酸581g(5.93mol)をイオン交換水500gで希釈し、滴下ロートを用いて上記水酸化リチウム水溶液に滴下する。このとき硫酸の一部は中和反応に消費され系中で硫酸リチウム塩が生成し、さらに硫酸過剰になることにより酸性溶液となる。そこへ、さらに市販の造粒モンモリロナイト(水澤化学社製、ベンクレイSL、平均粒径:24.3μm)を350g添加後撹拌する。その後30分かけて108℃まで昇温し150分維持する。その後、1時間かけて50℃まで冷却した。このスラリーをヌッチェと吸引瓶にアスピレータを接続した装置にて、減圧濾過を実施した。ケーキを回収し、純水を5.0L加え再スラリー化し、濾過を行った。この操作をさらに4回繰り返した。濾過は、いずれも数分かからずに終了した。最終の洗浄液(濾液)のpHは、5であった。回収したケーキを窒素雰囲気下110℃で終夜乾燥した。その結果、275gの化学処理体を得た。蛍光X線により組成分析を行ったところ、主成分であるケイ素に対する構成元素のmol比は、Al/Si=0.20、Mg/Si=0.043、Fe/Si=0.021であった。さらに、少量含まれる水分除去を行うために、減圧下、200℃で2時間乾燥を実施した。
(ii)化学処理モンモリロナイトの有機アルミニウム処理:
内容積1Lのフラスコに上記で得た化学処理モンモリロナイト10.0gを秤量し、ヘプタン64.6mlとトリイソブチルアルミニウムのヘプタン溶液35.4ml(25mmol)を加え、室温で1時間撹拌した。その後、ヘプタンで洗浄し、最後にスラリー量を100mlに調製した。
【0077】
(ホ)触媒の調製
上記で調製した、トリイソブチルアルミニウム処理したモンモリロナイトのヘプタンスラリーにトリイソブチルアルミニウムのヘプタン溶液0.43ml(0.304mmol)を加えて10分間、室温で撹拌した。また別のフラスコ(容積200mL)中で、上記で合成したジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(3−クロロ−4−トリメチルシリルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウムのラセミ体(0.150mmol)にトルエン(30ml)を加えて、上記の1Lフラスコに加えて、室温で60分間撹拌した。次に、上記モンモリロナイトとメタロセン錯体の混合反応物に、さらにヘプタン370mlを追加して内容積1リットルの撹拌式オートクレーブに導入した。オートクレーブ内の温度が40℃で安定したところで、上記調製したメタロセン錯体溶液を加えて、引き続いてプロピレンを238mmol/時(10g/時)の一定速度で120分間供給した。プロピレンの供給終了後、50℃に昇温して2時間そのまま維持し、その後残存ガスをパージして予備重合触媒スラリーをオートクレーブより回収した。回収した予備重合触媒スラリーを静置し、上澄み液を抜き出した。残った固体にトリイソブチルアルミニウムのヘプタン溶液8.5ml(6.0mmol)を室温にて加え、室温で10分間撹拌した後、減圧乾燥して固体触媒を31.6g回収した。予備重合倍率(予備重合ポリマー量を固体触媒量で除した値)は2.08であった。
【0078】
(2)重合
重合槽(内容積3リットルの撹拌機付オートクレーブ)内をプロピレンで十分置換した後に、トリイソブチルアルミニウムのヘプタン溶液2.76ml(2.02mmol)を加え、水素2500ml、続いて液体プロピレン1500mlを導入し、65℃に昇温した。先に調製した予備重合触媒を、固体触媒として20mg(予備重合ポリマーを除く正味の固体触媒の量)圧入して重合を開始した。槽内温度を65℃に維持し、0.5時間重合を実施した。残モノマーのパージを行って重合を終了させ、回収したポリマーを90℃窒素気流下で1時間乾燥した。
その結果、得られたプロピレン重合体は189gであり、固体成分1g・1時間あたりの重合体生成量は18900gであった。GPCによるMwは21,400、Mw/Mnは2.83であった。この重合体のmmは98.8%、2,1結合量は0.12モル%、1,3結合量は0.19モル%であった。
【0079】
(製造例2)
重合槽(内容積3リットルの撹拌機付オートクレーブ)内をプロピレンで十分置換した後に、トリイソブチルアルミニウムのヘプタン溶液2.76ml(2.02mmol)を加え、水素500ml、続いて液体プロピレン1500mlを導入し、65℃に昇温した。重合例1で調製した予備重合触媒を、固体触媒として20mg(予備重合ポリマーを除く正味の固体触媒の量)圧入して重合を開始した。槽内温度を65℃に維持し、アルゴンガスにより希釈した水素混合ガス(濃度:20vol%)を水素として890ml/時間で供給した。重合は1時間実施した。残モノマーのパージを行って重合を終了させ、回収したポリマーを90℃窒素気流下で1時間乾燥した。
その結果、得られたプロピレン重合体は386gであり、GPCによるMwは44,100、Mw/Mnは2.53であった。この重合体のmmは99.0%、2,1結合量は0.10モル%、1,3結合量は0.17モル%であった。
【0080】
(製造例3)
水素添加量を600ml、固体触媒量を30mg、重合時間を1時間とする以外は、製造例1と同様に実施した。その結果、得られたプロピレン重合体は300gであり、GPCによるMwは76,400、Mw/Mnは3.17であった。この重合体のmmは99.4%、2,1結合量は0.10モル%、1,3結合量は0.17モル%であった。
【0081】
(製造例4)
水素添加量を90ml、固体触媒量を40mg、重合時間を1時間とする以外は、製造例1と同様に実施した。その結果、得られたプロピレン重合体は220gであり、GPCによるMwは379,000、Mw/Mnは3.65であった。この重合体のmmは99.5%、2,1結合量は0.09モル%、1,3結合量は0.15モル%であった。
【0082】
(製造例5)
水素添加量を300ml、固体触媒量を30mg、重合時間を1時間とする以外は、製造例1と同様に実施した。その結果、得られたプロピレン重合体は260gであり、GPCによるMwは179,000、Mw/Mnは3.81であった。この重合体のmmは99.7%、2,1結合量は0.10モル%、1,3結合量は0.15モル%であった。
【0083】
(製造例6)
メタロセン触媒として、特開平10−139955号公報の実施例1に記載された方法によって得た予備重合触媒を用いて成分(a)を製造した。重合は、重合槽(内容積3リットルの撹拌機付オートクレーブ)内をプロピレンで十分置換した後に、トリイソブチルアルミニウムのヘプタン溶液2.76ml(2.02mmol)を加え、続いてn−ヘプタンを1500ml、さらに水素500mlを添加する。昇温を開始し、平行してプロピレンを断続的に添加し、65℃で内圧0.5MPaとなるように調整した。先に製造した予備重合触媒を、固体触媒として100mg(予備重合ポリマーを除く正味の固体触媒の量)圧入して重合を開始した。槽内温度を65℃、内圧を0.5MPaに維持し、3時間重合を実施した。残モノマーのパージを行って重合を終了させ、回収したポリマースラリーを減圧ろ過して回収し、ポリマーを90℃減圧下で2時間乾燥した。その結果、得られたプロピレン重合体は230gであり、GPCによるMwは25,000、Mw/Mn=2.20であった。この重合体のmmは95.8%であった。
【0084】
(実施例1〜4、比較例1〜4、6)
製造例において得られた重合体を成分(a)及び成分(b)として表1に記載したように用い、造粒時に成分(a)が表1に記載の割合になるように、フィード量を調節し、上記の方法に従って組成物を製造し、射出成形を行って試験片を作製した。なお、添加剤として、酸化防止剤:テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−プチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン500ppm、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト500ppm、中和剤:ステアリン酸カルシウム500ppmを配合した。結果を表1に示す。表中で使用しないと記載したものは、成分(a)を添加せず、成分(b)のみ単独で造粒、成形して物性を評価したものである。
【0085】
(実施例5)
成分(a)として製造例1を、成分(b)としてチーグラー・ナッタ系触媒で重合されたプロピレン−エチレンブロック共重合体(プロピレン単独重合成分:77wt%、プロピレン−エチレンランダム共重合体成分:23wt%、プロピレン−エチレンランダム共重合体成分中のエチレン含量:40wt%、全体のMFR:30g/10分)を使用し、造粒時に成分(a)が表1に記載の割合になるように、フィード量を調節し、上記の方法に従って組成物を製造し、射出成形を行って試験片を作製した。各種物性値を表1に示す。
【0086】
(比較例5)
成分(a)を添加しなかった以外は実施例5と同様に行った。各種物性値を表1に示す。
【0087】
【表1】

【0088】
実施例及び比較例との対比から明らかなように、本発明で開示する各種物性値を満たす成分(a)を配合した組成物の剛性と耐熱性は、配合しない場合よりも明らかに向上している。比較例2から明らかなように、成分(a)の分子量範囲が本発明の要件を満たさない大きな分子量の場合には、剛性と耐熱性改良効果が見られなくなる。
実施例5と比較例5との対比から明らかなように、成分(b)として共重合体を用いた場合においても、顕著な剛性と耐熱性の改良効果が得られている。
実施例3、4と比較例6との対比より、成分(a)の融点及びmmが十分に高くない場合には、剛性の改良効果は見られるものの顕著ではなく、HDTも添加しない場合とほぼ同等であり、耐熱性が向上しないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の高剛性ポリプロピレン組成物は、一般のポリプロピレン系樹脂に比べて剛性、特に剛性と耐熱性が改良されたものであり、シートやフィルムおよび射出成形品や繊維製品あるいは包装材料などの各種用途に好適に用いることができる。なかでも特に、射出成形品に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】GPCにおけるクロマトグラムのベースラインと区間の説明の図である。
【図2】本発明で用いる二軸混練機の説明図である。
【符号の説明】
【0091】
1 二軸混練機
2、3 フィード口
4、4’、4” フルフライトスクリュー
5、5’ ミキシングゾーン
6、6’ 逆ねじ
11〜18 温度制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a−i)〜(a−iv)の特性を有するプロピレン重合体(a)10〜50重量%、及び下記(b−i)〜(b−ii)の特性を有するプロピレン単独重合体またはプロピレン・α−オレフィン共重合体(b)90〜50重量%を含有することを特徴とする高剛性ポリプロピレン系組成物。
成分(a):プロピレン重合体
(a−i)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって得られる重量平均分子量Mw(a)が1,000〜60,000であること
(a−ii)分子量分布(Mw(a)/Mn(a))が1.5〜4.0であること
(a−iii)示差走査熱量測定(DSC)によって得られる融点Tm(a)が下記式(1)の関係式を満たすこと
155×(Mw(a)−582)/(Mw(a)−99)≦Tm(a) …(1)
(a−iv)13C−NMRによって得られるプロピレン連鎖部のmmが98.0%よりも大であること
成分(b):プロピレン単独重合体またはプロピレン・α−オレフィン共重合体
(b−i)GPCによって得られる重量平均分子量Mw(b)が60,000〜1,000,000であること
(b−ii)DSCによって得られる融点Tm(b)が120〜170℃であること
【請求項2】
成分(a)の2,1−挿入に基づく位置不規則性が0.01〜2.00%、1,3−挿入に基づく位置不規則性が0.06〜0.40%であることを特徴とする、請求項1に記載の高剛性ポリプロピレン系組成物。
【請求項3】
成分(a)がメタロセン系触媒によって製造されたプロピレン重合体であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の高剛性ポリプロピレン系組成物。
【請求項4】
溶融混練機を用いて、少なくとも2段階で溶融混練させる手法を用い、最初に成分(b)を溶融混練させ、ついで溶融した成分(b)中に成分(a)を添加して、さらに溶融混練して製造することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の高剛性ポリプロピレン系組成物の製造法。
【請求項5】
溶融混練機が押出機であり、成分(b)が上流側でフィードされ溶融混練された後、下流側で成分(a)が溶融混練された成分(b)中に異なるフィード口から投入され、連続的に溶融混練されることを特徴とする、請求項4に記載の高剛性ポリプロピレン系組成物の製造法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−45446(P2006−45446A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−231932(P2004−231932)
【出願日】平成16年8月9日(2004.8.9)
【出願人】(596133485)日本ポリプロ株式会社 (577)
【Fターム(参考)】