説明

高可溶形態のクエン酸三カルシウム、並びにその製造方法および使用

本発明者らは、クエン酸三カルシウムを含んでなる組成物であって、クエン酸三カルシウムが、2‐シータ(2θ)値の、約8.236、約16.02、約17.97、約19.75、約21.42、約25.74および約28.65におけるピークを含むX線粉末回折パターンを有している組成物を開示する。該クエン酸三カルシウムは、低水分環境中において高温で生産される。該組成物は飲用水溶液(飲料)に高可溶性(8液量オンス当たり約200mgを超えるもの)であり、クエン酸三カルシウムの既知組成物を用いたときにみられるより高い用量で、カルシウムを用いて飲料(例えばフルーツジュース)または食品を強化するために用いられる。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
本発明は、一般的に、食品加工分野に関する。さらに詳しくは、本発明は新規形態のクエン酸三カルシウム並びにその製造方法および使用に関する。
【0002】
ヒトにおいて、カルシウムは血液凝固、筋肉収縮、神経伝達、骨と歯の形成およびその維持に必須である。年齢19〜50歳の男性および女性についてカルシウムの米国推奨1日許容量(USRDA)は1000mg/kgであり、思春期前の年長の子供、青年期の人および50歳を超えた成人ではさらに高い。しかしながら、何百万人もの米国住民は推奨レベルのカルシウムを摂取していないと思われる。例えば、米国国立健康栄養試験調査によると、2004年4月28日にアクセスされたhttp://www.nichd.nih.gov/milk/whycal/enough_cal.cfmのWorld Wide Webで報告されているように、9〜19歳男性の約半分および9〜19歳女性の約20%が推奨レベルのカルシウムを摂取しているにすぎない。
【0003】
カルシウムの最も一般的な摂取源は、約0.12重量%のカルシウムを含有している、ミルクのような乳製品である。しかしながら、米国消費者の飲料選択として、ミルクは、(他の飲料の中でも)伝統的にカルシウム分をほとんどまたは全く含有していないフルーツジュース、炭酸ソフトドリンクおよび非炭酸ソフトドリンクと競っている。さらに、ラクトース不耐症の人々は大抵、乳製品を避けるようとする。カルシウムに富む他の食品には濃緑色葉野菜、例えばホウレン草およびブロッコリがあるが、すべての消費者がこのような野菜を食べたいわけではない。
【0004】
これらの推奨および観察からみて、カルシウム含有化合物の形態のカルシウムで食品または飲料を強化することに関心がもたれる。ミルクに匹敵するカルシウムのレベルまで食品または飲料を強化するには、カルシウム含有化合物の溶解度、生物学的利用能および味の特徴について検討を要する。
【0005】
毎食一定レベルのカルシウムを保証するには、カルシウム含有化合物は食品または飲料に可溶性であるか、または均一に分散されることが望ましい。透明飲料の場合、カルシウム含有化合物は、飲料の不透明性増加をそこで溶解されたときに招くとしても、ほとんど生じないことが望まれる。飲料でカルシウム含有化合物の溶解度は、他のパラメーターの中でも、飲料のpH、酸含量、タンパク質含量、瓶詰め温度および貯蔵温度、およびカルシウム含有化合物の性質に依存する。
【0006】
カルシウム含有化合物の生物学的利用能とは、カルシウムが必要または有用な機能を発揮する体内の部位にそのカルシウムが到達しうる容易性(またはその欠如)である。摂取カルシウムが相当程度まで吸収されないと、カルシウム強化の効果はほとんどまたは全くない。一般的に、生物学的利用能は溶解度と正の相関があり、即ちカルシウム含有化合物が可溶性であるほど、その生物学的利用能は大きくなる。
【0007】
強化食品または飲料が商業的に容認されるのを改善するには、中性的なまたは快い味の特徴を有することがカルシウム含有化合物にとって望ましい。多くのカルシウム含有化合物は、それで強化された食品または飲料に不快なフレーバーまたは口内感を付与することがわかった。
【0008】
ある公知の強化アプローチは、制限されないが、クエン酸リンゴ酸カルシウム、リンゴ酸カルシウム、クエン酸フマル酸カルシウム、フマル酸カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウムまたは塩化カルシウムなどを含むカルシウム塩による食品および飲料の強化である。Procter & Gamble(Cincinnati,OH)は少なくとも数種の上記カルシウム塩の市販業者である。
【0009】
飲料をカルシウムで強化する他の技術は、カルシウム含有化合物としてクエン酸三カルシウムを用いている。クエン酸三カルシウムはJungbunzlauer AG(Basel,Switzerland)、Mallinckrodt(St.Louis,MO)およびTate & Lyle North America(Decatur,IL)から市販されている。クエン酸三カルシウムは、他のカルシウム含有化合物と比較して、比較的中性の味の特徴および比較的高い生物学的利用能を有している。しかしながら、飲料中におけるクエン酸三カルシウムの溶解度は比較的低い;例えば、溶解度は25℃で水に約0.2g/Lしかない。
さらに高用量の溶解カルシウムを含有したカルシウム強化食品および飲料を得ることが望まれるのである。
【発明の概要】
【0010】
一つの態様において、本発明は、クエン酸三カルシウムを含んでなる組成物であって、クエン酸三カルシウムが、2‐シータ(2θ)値の、約8.236、約16.02、約17.97、約19.75、約21.42、約25.74および約28.65におけるピークを含むX線粉末回折パターンを有している組成物に関する。
【0011】
別の態様において、本組成物は、カルシウム塩として約4モル部〜約2モル部のカルシウムと、約2モル部の無水クエン酸またはクエン酸一水和物とを混合し、混合されたカルシウム塩およびクエン酸を得る方法により製造される。低水分環境下で、混合カルシウム塩およびクエン酸を溶融させ、クエン酸三カルシウムを形成させる。本発明は、別の態様において、この方法により製造された組成物に関する。
【0012】
追加の態様において、本組成物は、飲料をカルシウムで強化するために飲料に溶解される。
さらに別の態様において、本組成物は食品をカルシウムで強化するために食品に分散される。
【0013】
8液量オンスの飲料当たりカルシウム約200mgを超えるカルシウム、例えば8fl.oz当たりカルシウム約300mgより大きい用量で飲料を強化するために本組成物が用いうることを、我々はここで報告している。
【発明の具体的説明】
【0014】
一つの態様において、本発明は、クエン酸三カルシウムを含んでなる組成物であって、クエン酸三カルシウムが、2‐シータ(2θ)値の、約8.236、約16.02、約17.97、約19.75、約21.42、約25.74および約28.65におけるピークを含むX線粉末回折パターンを有している組成物に関する。
【0015】
一つの態様において、X線粉末回折パターンは、2θ値の、8.236(0.02417)、16.02(0.05443)、17.97(0.03134)、19.75(0.03062)、21.42(0.02401)、25.74(0.1259)および28.65(0.08219)におけるピークを含んでいるが、ここで各2‐シータ値に続く括弧は標準偏差である。
【0016】
ここで記載されたX線回折ピークを有するクエン酸三カルシウムに言及しているとき、そのクエン酸三カルシウムは少なくとも95wt%、例えば95wt%、96wt%、97wt%、98wt%、99wt%または100wt%の純度を有している。存在しうるいかなる不純物も、クエン酸三カルシウムのX線回折ピークの2θ位置で何らかの有意な影響を有するとは考えられていない。
【0017】
X線回折ピークおよび2θ値は、当業界で周知のX線回折技術により求められる。我々は例示技術について報告しているが、本開示の利益を受ける熟練者に明らかなように、類似の技術または本技術のバリエーションも用いられる。ガラスキャピラリー管がクエン酸三カルシウムサンプルで満たされ、密封され、次いでX線に曝される。暴露には銅原子から生じるX線を含み、次いでそれは衝突前にビームに平行化され、少なくとも一部のX線についてはサンプルにより散乱された(サンプルから“下流”にある装置の他部分で吸収されるまで、サンプルで散乱されなかったX線は入射ビームと平行なままであった)。散乱X線が、ベリリウム検出器プレートで2θの30°範囲にわたり15分間集められた(θは下流ビーム線と散乱X線との角度である)。次いで我々は2θの散乱パターンを積分し、散乱強度 vs.2θをグラフ化し、ピーク(散乱強度の曲線における局部最大)を観察した。我々は、本発明によるクエン酸三カルシウムが、飲料のカルシウム強化用に商業上使用されているクエン酸三カルシウムとは異なるピークを散乱強度vs.2θで有していることを観察した(比較データが下記例で示されている)。
【0018】
当業者に周知のように、X線が特定入射角から結晶物質と衝突すると、結晶物質は物質の結晶構造により定まるパターンでX線を散乱する。ある範囲の入射角で入射角の関数として散乱パターンを観察することにより、物質の結晶構造が求められる。物質の結晶構造がその散乱強度 vs.2θプロットと相関することは、当業者であればわかるであろう。本発明によるクエン酸三カルシウムの結晶構造は公知クエン酸三カルシウムのものとは異なると考えられる。
【0019】
本組成物は、本発明によるクエン酸三カルシウムから構成しうる。一方、本組成物は、該クエン酸三カルシウムおよび他の物質を含んでもよい。一つの態様において、他の物質は、米国または他の管轄区域の法律または規則下において、食品添加物として使用認可されたものから選択されるか、あるいはGRAS(通常安全とみなされているもの)である。
【0020】
本明細書で用いられる用語「または」は、特に反対に記載されていないかぎり、包括的意味(即ち、口語「および/または」と同様の意味)を有している。
【0021】
一つの態様において、本組成物は飲料安定剤をさらに含んでなる。例示の飲料安定剤としては、特に糖(例えば、特にスクロース、グルコース、デキストロース、フルクトース、高フルクトースコーンシロップまたは転化糖)または多糖(例えば、特にペクチン、アルギン、デンプン、加水分解デンプン、キサンタンゴムまたは他の食用ゴム)、並びに飲料安定剤2種以上の組合せがある。例えば、約5〜約15、例えば約10などのデキストロース当量(DE)を有するマルトデキストリンが用いられる。炭水化物サンプルのDEは、特にHPLCによる糖分布のような公知方法により計算しうる。
【0022】
組成物が炭水化物をさらに含んでなるとき、該組成物は約50乾燥wt%未満の炭水化物を含有しうる。乾燥wt%は組成物中全非水性物質の全体について求められる(即ち、dsb%)。一つの態様において、組成物は約30乾燥wt%未満の炭水化物を含有しうる。別の態様において、組成物は約15乾燥wt%未満の炭水化物を含有しうる。
【0023】
組成物中に含有されうる他の物質には、特にクエン酸、リンゴ酸、フマル酸または乳酸のような有機酸があるが、それらに限定されない。例えば高温で、組成物のプロセッシングに際し、クエン酸から有機酸への変換の結果として、有機酸が組成物中に存在することもある。
【0024】
別の態様において、本発明は上記のような組成物を含んでなる飲料に関する。
飲料はいかなる飲用水溶液でもよい。例示の飲料には、フルーツジュース(例えば、特にリンゴジュース、オレンジジュース、グレープフルーツジュース、グレープジュース、トマトジュースまたはクランベリージュース)、野菜ジュース、フルーツまたは野菜ジュースメドレー(medley)またはカクテル、炭酸ソフトドリンク(例えば、特にコーラ、レモンライム炭酸ソフトドリンク、クラブソーダまたはトニックウォーター、およびカロリー甘味料またはノンカロリー甘味料を含有したもの、およびカフェインを含有したまたはカフェインを含有しないもの)、非炭酸ソフトドリンク(例えば、カロリー甘味料(caloric sweetener)またはノンカロリー甘味料(non-caloric sweetener)を含有したもの、およびカフェインを含有したまたはカフェインを含有しないもの)、コーヒー、コーヒーベース飲料(例えば、特にエスプレッソ、カプチーノまたはエスプレッソを含む他の飲料、およびホット、アイス双方またはブレンド冷凍態様など)、コーヒー添加物(例えば、特に乳クリーマーまたは非乳クリーマー)、ティー、ティーベース飲料、ティー添加物、ミルク、スポーツドリンク、いわゆるエネルギードリンク、アルコール飲料(例えば、特にビール、麦芽飲料、ワイン、スパークリングワイン、強化ワイン、リカー(liquor)、またはプレアセンブルリカーベースカクテル(preassembled liwuor-based cocktail))、アルコール飲料添加物(例えば、特にマルガリータミックス、スウィート・アンド・サワーミックス、コリンズミックス(Collins mix)またはダイキリミックス)、1種以上のビタミンまたはミネラルで強化された水、スパークリングウォーターまたは水が特にあるが、それらに限定されない。上記の一連の記載は包括的または限定的としてみなすべきではない。
【0025】
一つの態様において、飲料はリンゴジュースまたはオレンジジュースである。別の態様において、飲料は非炭酸ノンカロリー甘味ソフトドリンクである。
【0026】
飲料はいかなる量の組成物を含んでもよい。一つの態様において、飲料は8液量オンスの飲料当たり約200mgを超えるカルシウムを含むことができ、その際にカルシウムは本発明によるクエン酸三カルシウムの形態をとる。別の態様において、飲料は8液量オンスの飲料当たり約300mgを超えるカルシウム、8液量オンスの飲料当たり約400mgを超えるカルシウム、または8液量オンスの飲料当たり約500mgを超えるカルシウムを含むことができる。
【0027】
別の態様において、本発明は上記のような組成物を含んでなる食品に関する。
例示の食品には、新鮮、缶詰または冷凍の、肉、野菜、フルーツ、デンプンおよびベークド製品(baked goods);缶詰または再調製のスープ;スパイスおよびストック;前包装された肉、スナックおよびデザートが特に挙げられる。
【0028】
食品はいかなる量の組成物を含んでもよい。一つの態様において、食品は2オンスの食品当たり約200mgを超えるカルシウムを含むことができる。
【0029】
別の態様において、本発明は上記のような組成物を製造する方法に関する。別の態様においては、カルシウム塩として約4モル部〜約2モル部のカルシウムと、約2モル部の無水クエン酸またはクエン酸一水和物とを混合し、混合されたカルシウム塩およびクエン酸を得;低水分環境下で、混合されたカルシウム塩およびクエン酸を溶融させ、クエン酸三カルシウムの形成させる方法により、組成物は製造されうる。無水クエン酸またはクエン酸一水和物は、この態様について記載するとき、「クエン酸」と称することもある。
【0030】
図1は製造方法100のブロック図を示している。
混合ステップ110では、カルシウム塩102と無水クエン酸またはクエン酸一水和物104がいずれか適切な技術で混合される。一つの態様において、カルシウム塩102として約3モル部のカルシウムと、約2モル部の無水クエン酸またはクエン酸一水和物104とが混合されうる。
【0031】
いかなるカルシウム塩102も用いうる。一つの態様において、カルシウム塩102は米国または他の管轄区域の法律または規則下において食品添加物として使用認可されているか、あるいはGRAS(通常安全とみなされているもの)である。しかしながら、カルシウム塩102の多くの割合がクエン酸104と反応するため、具体的管轄区域の法律または規則あるいは本組成物が意図される具体的使用に応じて、カルシウム塩102は食品添加物として認可されていなくてもよく、またはGRASでなくてもよい。一つの態様において、カルシウム塩102は、水酸化カルシウム、炭酸カルシウムまたは酸化カルシウムがある。
【0032】
クエン酸104は公知である。一つの態様において、クエン酸104は無水であり、即ち水素結合相互作用でそれと会合している水分子が実質的にゼロである。一つの態様において、クエン酸104は一水和物であり、即ち水素結合相互作用で1モル部のクエン酸と会合した実質的にゼロモル部〜約1モル部の水を有している。一つの態様において、クエン酸104は粒状であり、即ち約1000ミクロン未満の粒径を有している。
【0033】
一つの態様において、「約2モル部の無水クエン酸またはクエン酸一水和物」とは1.9モル部の無水クエン酸またはクエン酸一水和物104〜2.1モル部の無水クエン酸またはクエン酸一水和物104を意味する。
【0034】
混合は当業界で公知のいずれかの技術により行うことができる。混合工程110で混合されたカルシウム塩およびクエン酸を得る。
【0035】
混合されたカルシウム塩およびクエン酸は、次いで溶融工程120で溶融され、それはクエン酸104が溶融状態にされることを意味する。カルシウム塩102も溶融状態にしてよく、またはそれは溶融クエン酸相内で溶質または懸濁物質としてもよい。溶融工程120は低水分環境下で行えるが、それは水が反応環境分の約50wt%未満で存在している反応環境を意味する。一つの態様において、水は約20wt%未満で存在する。別の態様において、水は約5wt%未満で存在する。
【0036】
一つの態様において、環境の気相に存在しうる水蒸気、および反応剤を製造する適用プロセスの結果として反応剤に存在する液体または気体の水の他には、水が固体、液体または気体として加えられなかった。
【0037】
一つの態様において、溶融工程では、大気圧下、混合されたカルシウム塩およびクエン酸を約150℃を超える温度に加熱する。溶融工程120でクエン酸三カルシウムの形成を行う。加熱は、混合されたカルシウム塩およびクエン酸を適切な温度に上昇させて、混合物をその温度に維持しうる装置で行うことができる。好ましくは、装置は、実質的均質性を、混合されたカルシウム塩およびクエン酸で維持するまたはそれに付与するために、さらに混和または混合することもできる。一つの態様において、溶融工程120は押出機(extruder)で行われる。別の態様において、溶融工程120は加熱ジャケットを有するミキサーで行われる。
【0038】
溶融工程120の一つの態様では、約150℃を超える温度が用いられるが、溶融工程120はどのような時間でもよい。一つの態様において、溶融工程120の温度および時間は、カルシウム塩をクエン酸と実質上完全に反応させてクエン酸三カルシウムを形成させるために十分なものとする。反応容器中で実質的にすべてのカルシウム塩が消失し、反応容器中で実質的にすべてのカルシウムがクエン酸三カルシウムの形をとるため、反応の完了がわかる。反応の完了時に、過剰の無水クエン酸またはクエン酸一水和物が存在してもよい。当業者に明らかなように、溶融工程120の正確な温度および時間は本開示からみて日常的実験の問題である。一つの態様において、溶融工程120の時間は約5秒間〜約6時間である。別の態様において、溶融工程120の時間は約10秒間未満である。
【0039】
一つの態様において、溶融工程120は約175℃〜約185℃の温度で加熱を行う。一つの態様において、溶融工程120は大気圧下の加熱を含んでなる。
【0040】
溶融工程120の生成物は、クエン酸三カルシウムであり、カルシウム塩からのアニオンとクエン酸からのプロトンとの反応の副産物(例えば、カルシウム塩が水酸化カルシウムであるとき、副産物は水である)を伴う。クエン酸三カルシウムは、特に有機酸のような不純物を小さな割合(例えば約5wt%未満)で含むことがある。理論に拘束されることはないが、上記のような溶融工程120で、上記のX線粉末回折2θピークで定められた結晶構造を有するクエン酸三カルシウムに至ることを、我々は提示する。
【0041】
混合工程110および溶融工程120は同時に行ってもよい。
溶融時に、他の物質、例えば、本発明による組成物で使用に適した上記のものも、クエン酸三カルシウムと混合してよい。一つの態様においては、飲料安定剤(beverage stabilizer) がクエン酸三カルシウムと混合される。別の態様においては、飲料安定剤がマルトデキストリンである。別の態様においては、約1重量部以下の飲料安定剤が約1重量部のクエン酸三カルシウムと混合される。別の態様においては、約0.11重量部の飲料安定剤が約1重量部のクエン酸三カルシウムと混合される。
【0042】
いずれか他の物質の溶融および含有後、所望によりクエン酸三カルシウムが冷却され、所望により副産物から精製され、または所望により製粉される。製粉は、飲料または他の別なプロセッシングで溶解に適したクエン酸三カルシウム組成物を得る上で有用なことがある。
【0043】
他の態様において、本発明は、飲料をカルシウムで強化する方法であって、
(i)クエン酸三カルシウムを含んでなる組成物(クエン酸三カルシウムは上記の通りである)を(ii)飲料に溶解させること
を含んでなる方法に関する。
組成物および飲料は上記の通りである。
【0044】
図2は強化方法200のブロック図を示している。
溶解工程210において、「溶解」とはその通常の意味を有している。溶解工程は、熱、攪拌、補助溶媒または当業界で知られた他の技術、またはこれら2以上の組合せの使用により助成される。クエン酸三カルシウム組成物202および飲料204は上記の通りである。
【0045】
本発明によるクエン酸三カルシウムの使用により、一部の態様において、方法200は、8液量オンスの飲料当たり約200mgを超えるカルシウム、例えば8液量オンスの飲料当たり300mgのカルシウム、8液量オンスの飲料当たり400mgのカルシウム、または8液量オンスの飲料当たり500mgのカルシウムを含んでなる飲料を生成しうる。
【0046】
強化飲料は次いで、必要であれば、当業界で知られた技術によりさらなるプロセッシングを受け、次いで小売りで消費者に供給される。
【0047】
別の態様において、本発明は、食品をカルシウムで強化する方法であって、
(i)クエン酸三カルシウムを含んでなる組成物(クエン酸三カルシウムは上記の通りである)を(ii)食品に分散させること
を含んでなる方法に関する。 組成物および食品は上記の通りである。
【0048】
図3は強化方法300のブロック図を示している。
分散工程210において、「分散」とはその通常の意味を有している。分散工程は、粉砕(comminuition)、乾燥混和、湿式混和、攪拌、溶媒処理または当業界で知られた他の技術、またはこれら2以上の組合せの使用により助成される。クエン酸三カルシウム組成物302および飲料304は上記の通りである。
【0049】
本発明によるクエン酸三カルシウムの使用により、一部の態様において、方法300は、2オンスの食品当たり約200mgを超えるカルシウムを含んでなる食品を得られる。
【0050】
強化食品は次いで、必要であれば、当業界で知られた技術によりさらなるプロセッシングを受け、次いで小売りで消費者に供給される。
【実施例】
【0051】
下記例は本発明の好ましい態様を説明するためにある。下記例で開示された技術は、本発明の実施において良好に機能することを本発明者により発見された技術を表わしており、そのためその実施上好ましい態様であるとみなすことができるのは、当業者にとり明らかである。しかしながら、当業者であれば、本開示からみて、開示された具体的態様において多くの変更を行うことができ、本発明の精神および範囲から逸脱せずに同様または類似の結果をなお得られることを理解しうる。
【0052】
例1:押出によるクエン酸三カルシウムの生産
クエン酸三カルシウム組成物を次の技術により製造した。
Ca(OH)および無水細粒クエン酸(モル比約3:2)を一緒に混合した。一部の態様では、Ca(OH)およびクエン酸を10%dsbのStar-Dri(登録商標)10マルトデキストリンと一緒に混合した。次いで、混合物を6ゾーンLeistritz ZSE-18/HP Laboratory Twin Screw Extruderに供給した。押出機(extruder)のゾーン温度は:ゾーン1,20℃;ゾーン2,20℃;ゾーン3,20℃;ゾーン4,175℃;ゾーン5,185℃;およびゾーン6,180℃であった。コンベヤースクリューのみを100rpmで用いた。供給速度は9g/minであった。生成物を集め、冷却し、次いでThomasミルを用いて0.5mmメッシュスクリーンで製粉した。
【0053】
例2:反応凝集により生産されたクエン酸三カルシウム
クエン酸三カルシウム組成物を次の技術により製造した。
Ca(OH)および無水細粒クエン酸(モル比約3:2)を一緒に混合した。混合物をスチームまたはオイルヒーティングジャケット装備のLittlefordミキサーに供給し、少なくとも150℃に加熱した。混合物が溶融し、Ca(OH)およびクエン酸が反応した。混合物をミキサーで数分間混和して、反応を完了させ、次いで取出し、製粉した。
【0054】
例3:飲料中における押出および反応凝集クエン酸三カルシウムの評価
例1または2に従い製造されたクエン酸三カルシウム(TCC)サンプルを飲料に溶解させ、様々な試験および観察に付した。特に、飲料が飽和するまでTCCをリンゴジュースまたはオレンジジュースに加えた。次いで飲料を24時間冷蔵して不溶性微粒子を沈殿させたところ、溶解TCCを含有した飲料上澄が残された。次いで、15gの飲料上澄を集め、3000rpmで5分間遠心した。約1.5〜2gの遠心上澄を0.45μmナイロンフィルターで濾過し、フラスコに入れ、0.5mlの硝酸を加え、全容量を蒸留水で100mlにした。Perkin Elmer Optima 4300DV Optical Emission Spectrometerを用いて、軸方向像(axial view)ICPでカルシウム分について濾過液体を分析した。
【0055】
結果が下記表で示されている。 表3‐1は、市販Musselman’sリンゴジュース中の様々なTCCサンプルのカルシウム溶解度を示している。
【表1】

表3‐1は、約450〜500mg Ca/8fl.oz.で強化されたリンゴジュースを製造するために、例1および2に従い製造されたTCCサンプルが用いうることを示している。
【0056】
表3‐2は、市販Minute Maid Originalオレンジジュース中の様々な押出(extruded)TCCサンプルのカルシウム溶解度を示している。
【表2】

表3‐2は、約425〜500mg Ca/8fl.oz.で強化されたオレンジジュースを製造するために、例1および2に従い製造されたTCCサンプルが用いうることを示している。
【0057】
表3‐3は、室温(25℃)または冷蔵温度(4℃)で12週間の貯蔵前後における、リンゴジュース中TCCサンプルのカルシウム溶解度を示している。貯蔵試験中に微生物増殖を最少に抑えるため、0.6wt/wt%安息香酸を各サンプルに加えた。
【表3】

表3‐3は、約450〜550mg Ca/8fl.oz.で強化されたリンゴジュースを製造するために、例1および2に従い製造されたTCCサンプルが用いられ、強化リンゴジュースが室温または約4℃で約12週間後に溶液中で初期カルシウムレベルの少なくとも約80%を維持しうることを示している。
【0058】
表3‐4は、冷蔵温度(4℃)で12週間の貯蔵前後における、オレンジジュース中TCCサンプルのカルシウム溶解度を示している。貯蔵試験中に微生物増殖を最少に抑えるため、0.6wt/wt%安息香酸を各サンプルに加えた。
【表4】

表3‐4は、約450〜570mg Ca/8fl.oz.で強化されたオレンジジュースを製造するために、例1および2に従い製造されたTCCサンプルが用いられ、強化オレンジジュースが約4℃で約12週間後に溶液中で初期カルシウムレベルの少なくとも約65%を維持しうることを示している。カルシウムレベル(約98%)の維持が飲料安定剤(マルトデキストリン)の使用により高められた。
【0059】
表3‐5は、TCCで強化された市販リンゴジュースの溶液中のカルシウム濃度における、低温殺菌の影響の試験結果を示している。
【表5】

表3‐5は、リンゴジュースに溶解されたとき、例1に従い製造されたTCCが低温殺菌時に比較的沈殿しにくかったことを示している。
【0060】
表3‐6は、TCCで強化された市販オレンジジュースの溶液中のカルシウム濃度における、低温殺菌の影響の試験結果を示している。
【表6】

表3‐6は、オレンジジュースに溶解されたとき、例1に従い製造されたTCCが短い低温殺菌時に比較的沈殿しにくかったことを示している。
【0061】
例4:クエン酸三カルシウムの結晶性
例1‐2に従い製造されたTCCサンプル、および商業者から入手しうる比較TCCをX線散乱に付した。同一の方法およびサンプル調製を用いてサンプルのすべてについて実施した。1.5mmガラスキャピラリー管をクエン酸三カルシウムサンプルで満たした。キャピラリー管を密封し、X線機でサンプルを保持するために用いられる銅管に入れた。30°2θで15分間にわたり銅線を用いてサンプルを走査した。ベリリウム検出器プレートを用いてX線散乱を集めた。得られた散乱を2θで積分し、散乱の強度 vs. 2θのグラフを作成した。これらグラフのピークが表4‐1で要約されている。
【0062】
要約すると、(水溶液中で製造された)比較クエン酸三カルシウムのすべてが、2θ値の、5.686(0.003221)、10.26(0.01458)、11.49(0.002629)、14.05(0.1603)、14.89(0.1556)、17.40(0.06422)、18.66(0.01010)、19.96(0.2104)、22.72(0.00596)におけるピークを有する特徴的回折グラフを生じる特有の結晶構造を有している。2‐シータ値の標準偏差が括弧内に示されている。例1‐2による高温反応クエン酸三カルシウムは、比較クエン酸三カルシウムサンプルとは明確に異なる結晶構造を有している。例1‐2のクエン酸三カルシウムに関する回折グラフは、2θ値の、8.236(0.02417)、16.02(0.05443)、17.97(0.03134)、19.75(0.03062)、21.42(0.02401)、25.74(0.1259)、28.65(0.08219)におけるピークを有している。2‐シータ値の標準偏差が括弧内に示されている。したがって、例1‐2のクエン酸三カルシウムは水溶液中で生産された比較クエン酸三カルシウムとは異なる結晶構造を有している、と結論付けられる。商業的に生産されたクエン酸三カルシウムと高温で反応させたクエン酸三カルシウムとに関するX線回折パターンの比較が図6でみられる。
【0063】
【表7】

【0064】
比較および例示TCCを有機酸分について分析した。Tate & Lyle細粒クエン酸、Jungbunzlauerクエン酸三カルシウム、Mallinckrodtクエン酸三カルシウム、Tate & Lyleクエン酸三カルシウム、例1クエン酸三カルシウムおよび例2クエン酸三カルシウムの各サンプルがクロマトグラフィーにより有機酸分測定を受けた。表4‐2は有機酸分析の結果を示している。例1‐2のクエン酸三カルシウムは、比較クエン酸三カルシウムサンプルと類似した有機酸特徴を有していた。
【表8】

【0065】
本明細書で開示されおよび請求項に記載された組成物および方法のすべてが、本開示に鑑み、過度の実験なしに製造および実施される。本発明による組成物および方法が好ましい態様に関して記載されてきたが、請求項で記載される本発明の概念、精神および範囲から逸脱せずに、ここで開示された組成物、方法および該方法の工程または連続工程に変更を加えうることは、当業者に明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0066】
下記の図は本明細書の一部を形成しており、本発明のある面をさらに説明するために含まれている。本発明は、ここで示された具体的態様の詳細な説明と共に、これら図面の1以上を参照することで、さらに良く理解されるであろう。
【図1】本発明による組成物を製造する方法のブロック図を示している。
【図2】本発明に従い飲料をカルシウムで強化する方法のブロック図を示している。
【図3】本発明に従い食品をカルシウムで強化する方法のブロック図を示している。
【図4】比較クエン酸三カルシウムサンプル、および例1または2に従い生産されたクエン酸三カルシウムサンプルの双方に関するX線粉末回折パターンを示している。ピークの異なる位置および強度が示されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クエン酸三カルシウムを含んでなる組成物であって、
前記クエン酸三カルシウムが、2‐シータ(2θ)値の、約8.236、約16.02、約17.97、約19.75、約21.42、約25.74および約28.65におけるピークを含むX線粉末回折パターンを有している、組成物。
【請求項2】
飲料安定剤をさらに含んでなる、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記飲料安定剤が、マルトデキストリン、スクロース、グルコース、デキストロース、フルクトース、高フルクトースコーンシロップ、転化糖、ペクチン、アルギン、デンプン、加水分解デンプン、キサンタンゴムまたはこれらの2種以上である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物が約50乾燥重量%以下の飲料安定剤を含んでなる、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
前記クエン酸三カルシウムが、(i)カルシウム塩として約4モル部〜約2モル部のカルシウムと、約2モル部の無水クエン酸またはクエン酸一水和物とを混合し、混合されたカルシウム塩およびクエン酸を得;かつ(ii)低水分環境下で、前記混合されたカルシウム塩およびクエン酸を溶融させ、クエン酸三カルシウムを形成させることを含んでなる方法により生産される、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
クエン酸三カルシウムを含んでなる組成物を含んでなる飲料であって
前記クエン酸三カルシウムが、2‐シータ(2θ)値の、約8.236、約16.02、約17.97、約19.75、約21.42、約25.74および約28.65におけるピークを含むX線粉末回折パターンを有している、飲料。
【請求項7】
飲料安定剤をさらに含んでなる、請求項6に記載の飲料。
【請求項8】
前記飲料安定剤が、マルトデキストリン、スクロース、グルコース、デキストロース、フルクトース、高フルクトースコーンシロップ、転化糖、ペクチン、アルギン、デンプン、加水分解デンプン、キサンタンゴムまたはこれらの2種以上である、請求項7に記載の飲料。
【請求項9】
前記組成物が約50乾燥重量%以下の飲料安定剤を含んでなる、請求項7に記載の飲料。
【請求項10】
前記飲料が、8液量オンスの飲料当たり約200mgを超えるカルシウムを含んでなる、請求項6に記載の飲料。
【請求項11】
クエン酸三カルシウムを含んでなる組成物を含んでなる食品であって、
前記クエン酸三カルシウムが、2‐シータ(2θ)値の、約8.236、約16.02、約17.97、約19.75、約21.42、約25.74および約28.65におけるピークを含むX線粉末回折パターンを有している、食品。
【請求項12】
クエン酸三カルシウムを含んでなる組成物の製造方法であって、
(i)カルシウム塩として約4モル部〜約2モル部のカルシウムと、約2モル部の無水クエン酸またはクエン酸一水和物とを混合し、混合されたカルシウム塩およびクエン酸を得、かつ
(ii)低水分環境下で、前記混合されたカルシウム塩およびクエン酸を溶融させ、クエン酸三カルシウムを形成させること
を含んでなる、方法。
【請求項13】
前記クエン酸三カルシウムが、2‐シータ(2θ)値の、約8.236、約16.02、約17.97、約19.75、約21.42、約25.74および約28.65におけるピークを含むX線粉末回折パターンを有している、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記クエン酸三カルシウムを製粉することをさらに含んでなる、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記溶融工程が押出機で行われる、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記溶融工程が約175℃〜約185℃の温度で加熱することを含んでなる、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記飲料安定剤をクエン酸三カルシウムと混合することをさらに含んでなる、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記飲料安定剤が、マルトデキストリン、スクロース、グルコース、デキストロース、フルクトース、高フルクトースコーンシロップ、転化糖、ペクチン、アルギン、デンプン、加水分解デンプン、キサンタンゴムまたはこれらの2種以上である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
約1重量部以下の前記飲料安定剤を約1重量部のクエン酸三カルシウムと混合する、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
飲料をカルシウムで強化する方法であって、
(i)クエン酸三カルシウムを含んでなる組成物であって、前記クエン酸三カルシウムが、2‐シータ(2θ)値の、約8.236、約16.02、約17.97、約19.75、約21.42、約25.74および約28.65におけるピークを含むX線粉末回折パターンを有している、組成物を、(ii)飲料に溶解させること
を含んでなる、方法。
【請求項21】
前記飲料がリンゴジュースまたはオレンジジュースである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記飲料が非炭酸ノンカロリー甘味ソフトドリンクである、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
8液量オンスの飲料当たり約200mgを超えたカルシウムを溶解させることを含んでなる、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
食品をカルシウムで強化する方法であって、
(i)クエン酸三カルシウムを含んでなる組成物であって、前記クエン酸三カルシウムが、2‐シータ(2θ)値の、約8.236、約16.02、約17.97、約19.75、約21.42、約25.74および約28.65におけるピークを含むX線粉末回折パターンを有している、組成物を、(ii)食品に分散させること
を含んでなる、方法。
【請求項25】
2ozの食品当たり約200mgを超えたカルシウムを溶解させることを含んでなる、請求項24に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−501363(P2008−501363A)
【公表日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−527249(P2007−527249)
【出願日】平成17年4月27日(2005.4.27)
【国際出願番号】PCT/US2005/014462
【国際公開番号】WO2005/123648
【国際公開日】平成17年12月29日(2005.12.29)
【出願人】(505410597)テイト アンド ライル イングレディエンツ アメリカス インコーポレイテッド (17)
【Fターム(参考)】