説明

高吸蔵水素吸蔵材料

水素化マグネシウムを有する水素吸蔵材料を示した。前記マグネシウムはホタル石構造内において安定化される。マグネシウムの少なくとも一部は、ホタル石構造内において水素化マグネシウムを安定化する元素で置換されることが好ましい。好適実施例では、水素吸蔵材料は、さらに触媒活物質を有する。また上記水素吸蔵材料を有する、電気化学的に活性な物質および電気化学的セルを示した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素化マグネシウムを有する水素吸蔵材料に関する。本発明はさらに、そのような水素吸蔵材料を有する電気化学セルに関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池は、再利用のため、放電後にもとの充電状態に戻すことができる。二次電池は、近年、電話、携帯型音楽再生機、コンピュータのような携帯型電子機器に使用されている。従来の二次電池は、いわゆる金属水素化物二次電池であって、単位体積当たりの吸蔵能力は比較的高い。そのような金属水素化物電池の例では、電気化学的に活性な物質としてLaNi5を有する電池があり、これは特に負極として活性な物質である。放電状態では、負極はLaNi5からなり、一方充電状態では、前記電極は水素を吸収してLaNi5H6となる。この種類の電池の問題は、単位重量当たりの吸蔵能が比較的低いことである。これは金属水素化物の高比重に起因するものであり、比重は約7g/cm3である。
【0003】
近年、水素吸蔵材料としての利用に適した低比重の金属水素化物に対する研究が進められている。理論的にはマグネシウムは、多量の水素を吸蔵することができるため、水素吸蔵には極めて適している。マグネシウムは、水素量で最大7.65wt%を可逆的に貯蔵し得るため、燃料電池用の水素吸蔵材料の候補材として極めて有望である。しかしながらマグネシウムが充放電することのできる温度は、400℃である。400℃以下での水素交換速度は、水素化マグネシウム中での水素の拡散が遅いため、極めて小さい。
【0004】
一方、マグネシウムニッケル合金は、電気化学的セルに用いられる水素吸蔵材料の候補材に適すると言われている。この合金は、より低い温度での水素貯蔵に利用できるからである。
【0005】
マグネシウムニッケル水素化物を水素吸蔵用材料に用いることは、特許第56114801号明細書に記載されている。この資料によれば、前記材料は高温で安定に水素を貯蔵することができる。マグネシウムニッケル水素化物は、比較的多量の水素を吸収することができるが、電気化学的セル内の電気化学的に活性な物質への利用には、適していない。その一つの理由は、この材料の水素吸収速度および水素放出速度が比較的小さいことにある。
【0006】
水素吸収および水素放出の速度を十分な状態にまで向上させ腐食を抑制するため、マグネシウムニッケル合金に添加するニッケル量を十分に高くしても、従来材料のLaNi5に比べて、わずかの改善しか得られない。
【特許文献1】特許第56114801号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、電気化学的セルに利用することの可能な水素吸蔵材料であって、水素化マグネシウムを有し、単位重量当たりの吸蔵能力の高い、水素吸蔵材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題のため、本発明では、水素化マグネシウムがホタル石型結晶構造内で安定化されることを特徴とする、水素吸蔵材料が提供される。
【0009】
本発明は、水素化マグネシウム中の水素拡散が遅いのは、主として水素化マグネシウムの構造、すなわちルチル型構造によるものであるとの知見に基づくものである。水素は、前記ルチル型構造内では迅速に拡散することはできないが、ホタル石型構造のフッ化カルシウム水素化物中では速やかに拡散する。水素化マグネシウムをホタル石型構造内に安定化させることによって、ハイドライドイオンの迅速な拡散が可能となる。前記迅速な拡散が可能となるのは、ホタル石構造における大きな空の8面体配位置の存在のためであり、イオンはこの配位置を介して高い移動度で移動することができる。ホタル石構造の水素化マグネシウムにおいて、速やかな水素の拡散が可能となる結果、室温においても水素化マグネシウムへの水素の充放電をきわめて容易に行うことができる。その結果、前記水素化マグネシウムを、電気化学的セルの水素吸蔵材料として有意に利用することができる。
【0010】
ここでマグネシウムは、水素化マグネシウムがホタル石構造内で安定化されるように、ある元素と少なくとも一部を置換される。
【0011】
適当な元素は、ホタル石構造の水素化物であって、20から80モル%の範囲のマグネシウムを含む水素化マグネシウムの固溶体を構成する。
【0012】
マグネシウムとの置換に用いられる元素は、VIIIの配位にMg2+の粒子径と同等の粒子径のイオンを有することが好ましい。
【0013】
好適実施例では、元素は、径が0.090乃至1.120nmの範囲にあるイオンを有する。
【0014】
特に元素は、Sc3+、Ti3+、RE3+(希土類元素)、Y3+、Li+、Zn2+、Co2+、Fe2+、Mn2+、In3+、Zr4+およびHf4+で構成される群から選択されたイオンを有することが好ましい。
【0015】
例えば、水素化スカンジウムはホタル石構造を示し、マグネシウム量が0乃至80モル%の水素化マグネシウムの固溶体を構成する。そのような固溶体において水素の欠損が生じた場合、異なる構造への相変態が生じる。XRD回折ではこの構造は、閃亜鉛鉱構造と等しいXRDパターンを有することが示されている。この構造は、ホタル石構造の空の8面体配位置と同様の金属イオン配置を有する。
【0016】
ホタル石構造の水素化マグネシウムチタンを製作することも可能である。Mg50Ti50Pd2.4Hxは、10mA/gで放電した場合、合計で630mAh/gの電荷が取り出せる。同様の代替材であるMg50Sc50Pd2.4Hxの場合は、10mA/gでの放電で770mAh/gの電荷が得られる。Mg50Ti50Pd2.4Hxの調製は以下のように行われる。3.45gのMgH2、6.55gのTiH2および0.2gのPdを、ユニボールミルモードIIにおいて一昼夜500RPM、7barの圧力でミル処理する。さらに0.47gのパラジウムを添加後、さらに同じ条件で5日間ミル処理を継続する。XRD回折の結果から、得られた材料は、実質的に単一の立方晶構造の相からなることが示され、この格子定数は、ホタル石構造のTiH2の格子定数よりわずかに大きい(0.4454nmに対して0.4503nm)。
【0017】
水素の交換速度を向上させるため、水素吸蔵材料は、ある量の触媒活物質を有することが好ましい。
【0018】
そのような触媒活物質として好ましい例は、Ir、Ni、Pd、Pt、RhおよびRuで構成される群から選択される触媒を有するものである。
【0019】
さらに好ましい触媒活物質は、パラジウムおよびロジウムである。
【0020】
また本発明は電気化学的に活性な物質に関し、この物質は上述のような本発明による水素吸蔵材料を有することを特徴とする。
【0021】
本発明による水素吸蔵材料には、燃料電池に使用することができるという利点がある。
【0022】
さらに本発明は、負極を有する電気化学的セルに関する。前記電気化学的セルは、負極が上述の水素吸蔵材料を有することを特徴とする。
【0023】
電気化学セルは、二次電池であることが好ましい。
【0024】
さらに本発明は、少なくとも1の電気化学的セルによって駆動される電子機器に関する。前記電子機器は、少なくとも1の電気化学的セルが上述の電気化学的セルであることを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明は、以下の実施例および単なる例示として示される図面を参照することにより、明確となる。
(実施例1)
ホタル石構造の水素化マグネシウムであって、マグネシウムの一部がスカンジウムに置換された水素化物を、マグネシウム、スカンジウム、および必要に応じて触媒のそれぞれを秤量後、密閉されたモリブデン坩堝内で溶融させて、調製した。
【0026】
石英管に坩堝を設置し、この石英管を管状炉内に設置した。モリブデンボンベの酸化を回避するため、溶融処理を行う前に、石英管内の空気を高純度アルゴンで置換した。
【0027】
試料は、液相線より約100℃高い温度に一晩保持した。この熱処理後、石英管を水槽に浸漬して、試料を「急冷処理」した。その後試料を450℃で4日間保持し、さらに機械的なミル処理によって、モリブデンボンベを除去した。
【0028】
本発明による材料は、相当のエネルギー容量を有する。例えばMg65Sc35Pd2.4Hxは、1225mAh/gの吸蔵容量を示し、Mg80Sc20Pd2.4Hxは、1450 mAh/gの吸蔵容量を示した。
【0029】
図1aには水素欠損型の閃亜鉛鉱構造の概略図を示し、図1bにはホタル石構造の概略図を示す。図1a、1bにおいて、小さな球は金属であり、この場合マグネシウムおよびスカンジウムである。大きな球はハイドライドイオンである。金属イオンの粒径は、0.102nmであるのに対して、ハイドライドイオンの粒径は、0.14nmである。図1では、ホタル石構造内の大きな空の8面体配位置が明確に示されており、ハイドライドイオンは、この配位置を介して高い移動度で移動することができる。ホタル石構造の水素化マグネシウム内での水素の拡散速度が向上する結果、水素化マグネシウムは、室温でも極めて容易に水素の充放電を行うことが可能となる。
【0030】
本発明は、一つの例示および一つの実施例を参照して説明されたが、本発明は、この例示および実施例に限定されるものではないことが理解されよう。一方で本発明は、請求項に記載の本発明の概念に含まれる全ての変更および修正を含むことを意図するものである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】水素欠損型の閃亜鉛鉱構造の概略図である。
【図2】ホタル石構造の概略図である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化マグネシウムを有する水素吸蔵材料であって、前記水素化マグネシウムは、ホタル石型結晶構造内で安定化される、水素吸蔵材料。
【請求項2】
マグネシウムの少なくとも一部は、前記水素化マグネシウムをホタル石型構造に安定化する元素と置換されることを特徴とする請求項1に記載の水素吸蔵材料。
【請求項3】
前記元素は、VIIIの配位置にMg2+の粒径と等しい粒径のイオンを有することを特徴とする請求項2に記載の水素吸蔵材料。
【請求項4】
前記元素は、粒径が0.090乃至1.120nmの範囲にあることを特徴とする請求項2に記載の水素吸蔵材料。
【請求項5】
前記元素は、Sc3+、Ti3+、RE3+(希土類元素)、Y3+、Li+、Zn2+、Co2+、Fe2+、Mn2+、In3+、Zr4+およびHf4+で構成される群から選択されたイオンを有することを特徴とする請求項2に記載の水素吸蔵材料。
【請求項6】
ある量の触媒活物質を有することを特徴とする前記請求項のいずれか一つに記載の水素吸蔵材料。
【請求項7】
前記触媒活物質は、Ir、Ni、Pd、Pt、RhおよびRuで構成される群から選択される少なくとも1の金属を有することを特徴とする請求項6に記載の水素吸蔵材料。
【請求項8】
前記触媒活物質は、パラジウムまたはロジウムを有することを特徴とする請求項6に記載の水素吸蔵材料。
【請求項9】
電気化学的に活性な物質であって、請求項1乃至8のいずれか一つに記載の水素吸蔵材料を有することを特徴とする電気化学的に活性な物質。
【請求項10】
正極と負極を有する電気化学的セルであって、前記負極は、請求項1乃至8のいずれか一つに記載の水素吸蔵材料を有することを特徴とする電気化学的セル。
【請求項11】
少なくとも1の電気化学的セルによって駆動される電子機器であって、前記少なくとも1の電気化学的セルは、請求項10に記載の電気化学的セルであることを特徴とする電子機器。

【公表番号】特表2006−503688(P2006−503688A)
【公表日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−544613(P2004−544613)
【出願日】平成15年10月17日(2003.10.17)
【国際出願番号】PCT/IB2003/004601
【国際公開番号】WO2004/036664
【国際公開日】平成16年4月29日(2004.4.29)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips Electronics N.V.
【住所又は居所原語表記】Groenewoudseweg 1,5621 BA Eindhoven, The Netherlands
【Fターム(参考)】