説明

高周波信号増幅器

【課題】簡単な回路構成によりアンテナに供給する高周波信号の電力を一定に保つことができる高周波信号増幅器を得る。
【解決手段】主増幅器4は高周波信号を増幅する。主増幅器4の出力端子とアンテナ2との間に信号線路5が接続されている。長さ又は終端が異なる結合線路6,7がそれぞれ信号線路5に平行に配置されている。移相器8,10は、結合された信号線路5及び結合線路6,7を介してそれぞれ印加された高周波信号を位相変化させて主増幅器4の入力端子に供給し、移相器8,10はそれぞれ異なる位相変化量を持つ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にマイクロ波・ミリ波領域で動作する高周波信号増幅器に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等の移動体無線装置の普及により、高周波信号増幅器及びアンテナの高性能化が求められている。さらに、高周波信号増幅器から所望の高周波信号の電力がアンテナに供給されるように、高周波信号増幅器の負荷とアンテナの負荷との間でインピーダンス整合が取られている必要がある。
【0003】
しかし、移動体無線装置の状況の違いによってアンテナの負荷が変動する。例えば携帯電話が手で覆われる、絶縁体上に置かれる、導電体上に置かれる、宙に吊り下げられるといった状況の違いによってアンテナの負荷が変動する。このため、想定したインピーダンス整合を実現できず、アンテナに充分な高周波信号電力を供給できないという問題があった。
【0004】
そこで、アンテナの負荷を検出する検出器と、可変容量と、アンテナの負荷に応じて可変容量に電圧を印加する制御用集積回路とを高周波信号増幅器の出力端子に設けることが提案されている(例えば、非特許文献1〜3参照)。これにより、アンテナの負荷変動に応じてインピーダンスを変化させることで、アンテナに供給する高周波信号の電力を一定に保つことができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】”Mobile Phone Performance Improvements using an Adaptively Controlled Antenna Tuner, ”2011 IEEE MTT-S Int. Microwave Symposium Digest, June 2011
【非特許文献2】”CMOS Based Tunable Matching Networks for Cellular Handset Applications,” 2011 IEEE MTT-S Int. Microwave Symposium Digest, June 2011
【非特許文献3】”High Performance Tuners for Handsets, ”2011 IEEE MTT-S Int. Microwave Symposium Digest, June 2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、集積回路である高周波信号増幅器の他に更に制御用集積回路を設けると、移動体無線装置の構成が複雑になる。また、可変容量に印加すべき電圧の判定が困難である。
【0007】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は簡単な回路構成によりアンテナに供給する高周波信号の電力を一定に保つことができる高周波信号増幅器を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る高周波信号増幅器は、入力端子及び出力端子を有し、高周波信号を増幅する増幅部と、前記増幅部の前記出力端子とアンテナとの間に接続された信号線路と、前記信号線路に平行に配置され、それぞれ長さ又は終端が異なる複数の結合線路と、結合された前記信号線路及び前記複数の結合線路を介してそれぞれ印加された高周波信号を位相変化させて前記増幅部の前記入力端子に供給し、それぞれ異なる位相変化量を持つ複数の移相器とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、簡単な回路構成によりアンテナに供給する高周波信号の電力を一定に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態1に係る高周波信号増幅器を示す図である。
【図2】比較例に係る高周波信号増幅器を示す図である。
【図3】アンテナの負荷が50Ωの場合に図1の三重結合線路の通過特性を計算した結果を示す図である。
【図4】アンテナの負荷が短絡の場合に図1の三重結合線路の通過特性を計算した結果を示す図である。
【図5】アンテナの負荷が開放の場合に図1の三重結合線路の通過特性を計算した結果を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態1に係る高周波信号増幅器の変形例1を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態1に係る高周波信号増幅器の変形例2を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態2に係る高周波信号増幅器を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態に係る高周波信号増幅器について図面を参照して説明する。同じ又は対応する構成要素には同じ符号を付し、説明の繰り返しを省略する場合がある。
【0012】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る高周波信号増幅器を示す図である。高周波信号増幅器1はアンテナ2に高周波信号を供給する。高周波信号増幅器1において、入力した高周波信号をドライバ増幅器3が増幅し、それを主増幅器4が更に増幅する。
【0013】
主増幅器4の出力端子とアンテナ2との間に信号線路5が接続されている。この信号線路5に平行に結合線路6,7が配置されている。結合線路6は、線路長が高周波信号の波長の四分の一であり、終端が開放である。結合線路7は、線路長が高周波信号の波長の四分の一であり、終端が短絡である。結合線路6,7は信号線路5に100μm以下まで近接している。結合線路6,7の終端はアンテナ2側である。
【0014】
結合線路6,7の終端や長さに応じて、結合線路6,7と信号線路5の結合度が最も強くなるアンテナ2の負荷が決まる。アンテナ2の負荷が短絡(反射位相が0度)の場合には、終端が開放した結合線路6(反射位相が180度)が信号線路5に強く結合する。この場合には、移相器8は、結合された信号線路5及び結合線路6を介して印加された高周波信号を位相変化させて、主増幅器4の入力端子にフィードバック用増幅器9を介して供給する。
【0015】
一方、アンテナ2の負荷が開放(反射位相が180度)の場合には、終端が短絡した結合線路7(反射位相が0度)が信号線路5に強く結合する。この場合には、移相器10は、結合された信号線路5及び結合線路7を介して印加された高周波信号を位相変化させて、主増幅器4の入力端子にフィードバック用増幅器11を介して供給する。
【0016】
移相器8,10はそれぞれ異なる位相変化量を持つ。より詳細には、移相器8及びフィードバック用増幅器9は、アンテナ2の負荷が短絡である場合に、正帰還に近い帰還が実現されるように設計されている。一方、移相器10及びフィードバック用増幅器11は、アンテナ2の負荷が開放である場合に、正帰還に近い帰還が実現されるように設計されている。
【0017】
続いて、本実施の形態の効果を比較例と比較して説明する。図2は、比較例に係る高周波信号増幅器を示す図である。比較例では、終端がダミー抵抗12に接続された単一の結合線路13を用いる。
【0018】
高周波信号がアンテナ2で強く反射され、アンテナ2へ充分に高周波信号の電力を供給できない場合を考える。この場合、結合線路13を介して反射信号を主増幅器4に帰還させて再び増幅させることで、高周波信号増幅器1の出力電力を向上させることができる。この際、帰還が正帰還に近くなるように通過位相を調整した移相器14及びフィードバック用増幅器15が必要となる。
【0019】
アンテナ2の負荷が開放か短絡かによって、その反射位相は180度異なる。ここで、アンテナ2の負荷が短絡である場合に正帰還に近い帰還が実現され出力電力が向上するように移相器14及びフィードバック用増幅器15を設計したとする。このような増幅器を用いた携帯電話の周囲の状況が変化してアンテナ2の負荷が開放へと変化した場合、主増幅器4に帰還する反射信号の位相は180度変わり、負帰還に近い帰還が実現され、逆に出力電力が低下してしまう。このように、比較例では、帰還によって利得や出力電力が向上するか又は低下するかが、アンテナ2の反射位相に依存するという問題がある。
【0020】
これに対して、実施の形態1では、アンテナ2の負荷が短絡である場合には、結合線路6が信号線路5と結合し、信号が移相器8及びフィードバック用増幅器9を通過して正帰還に近い帰還が実現される。一方、アンテナ2の負荷が開放である場合には、結合線路7が信号線路5と結合し、信号が移相器10及びフィードバック用増幅器11を通過して正帰還に近い帰還が実現される。
【0021】
図3は、アンテナの負荷が50Ωの場合に図1の三重結合線路の通過特性を計算した結果を示す図である。図4は、アンテナの負荷が短絡の場合に図1の三重結合線路の通過特性を計算した結果を示す図である。図5は、アンテナの負荷が開放の場合に図1の三重結合線路の通過特性を計算した結果を示す図である。ここでは、2GHzの周波数帯域を想定して、信号線路5と結合線路6,7からなる三重線路を設計した。|S21|は主増幅器4から移相器8に伝送される高周波信号の通過率であり、|S31|は主増幅器4から移相器10に伝送される高周波信号の通過率である。
【0022】
図3の場合、周波数2GHzの高周波信号に対して何れの通過率も−12dB程度になっている。図4の場合、移相器10への通過率|S31|が0になるのに対して、移相器8への通過率|S21|はアンテナ2の負荷が50Ωの場合よりも増加する。図5の場合、移相器8への通過率|S21|が0になるのに対して、移相器10への通過率|S31|はアンテナ2の負荷が50Ωの場合よりも増加する。
【0023】
このように実施の形態1では、アンテナ2の負荷変動に応じてフィードバック経路が自動的に切り替わる。このため、アンテナ2の負荷変動に応じて高周波信号増幅器1の動作も自動的に変化する。よって、簡単な回路構成によりアンテナ2に供給する高周波信号の電力を一定に保つことができる。
【0024】
図6は、本発明の実施の形態1に係る高周波信号増幅器の変形例1を示す図である。変形例1では五重結合線路を用いる。このように三重以上の結合線路を用いた場合でも上記の効果を得ることができる。
【0025】
図7は、本発明の実施の形態1に係る高周波信号増幅器の変形例2を示す図である。変形例2では二段の三重結合線路を用いる。このように結合線路を二段以上直列接続した場合でも上記の効果を得ることができる。
【0026】
実施の形態2.
図8は、本発明の実施の形態2に係る高周波信号増幅器を示す図である。実施の形態2では、実施の形態1の移相器8,10とフィードバック用増幅器9,11の代わりに、検波器16,17とスイッチ18,19と整合回路20,21が設けられている。
【0027】
検波器16,17は、結合された信号線路5及び結合線路6,7を介してそれぞれ高周波信号が印加されると直流信号を出力する。整合回路20,21はそれぞれ異なるインピーダンス変成量を有する。具体的には、整合回路20は、アンテナ2の負荷が短絡の場合に高周波信号増幅器1とアンテナ2のインピーダンス整合を取るように設計されている。一方、整合回路21は、アンテナ2の負荷が開放の場合に高周波信号増幅器1とアンテナ2のインピーダンス整合を取るように設計されている。
【0028】
スイッチ18,19は、主増幅器4の出力端子と整合回路20,21との間にそれぞれ接続され、検波器16,17からの直流信号に応じてそれぞれオン・オフする。具体的には、スイッチ18,19は、制御端子に直流信号が印加されると、高周波信号を遮断するオフ状態から高周波信号を通過させるオン状態に切り替わる。ただし、アンテナからの反射信号が微弱である場合、スイッチ18,19はオフ状態となり、整合回路20,21は高周波信号増幅器の動作に影響を与えない。
【0029】
アンテナ2の負荷が短絡(反射位相が0度)の場合には、終端が開放した結合線路6(反射位相が180度)が信号線路5に強く結合する。この場合には、結合された信号線路5及び結合線路6を介して高周波信号が印加されるため、検波器16は直流信号を出力し、スイッチ18がオンする。従って、整合回路20がインピーダンス変成を行って高周波信号増幅器1とアンテナ2のインピーダンス整合を取る。
【0030】
一方、アンテナ2の負荷が開放(反射位相が180度)の場合には、終端が短絡した結合線路7(反射位相が0度)が信号線路5に強く結合する。この場合には、結合された信号線路5及び結合線路7を介して高周波信号が印加されるため、検波器17は直流信号を出力し、スイッチ19がオンする。従って、整合回路21がインピーダンス変成を行って高周波信号増幅器1とアンテナ2のインピーダンス整合を取る。
【0031】
このように実施の形態2では、アンテナ2の負荷変動に応じて整合回路20,21の接続が自動的に切り替わる。これにより、高周波信号増幅器1とアンテナ2のインピーダンス整合を自動的に取って、アンテナ2からの反射を抑制することができる。よって、簡単な回路構成によりアンテナに供給する高周波信号の電力を一定に保つことができる。また、アンテナ2からの反射信号が主増幅器4の出力端子に入力するのを防ぐことができるため、バイアス電力から高周波電力への変換効率を向上させることができる。
【0032】
なお、結合線路の終端や長さに応じて結合線路と信号線路5の結合度が最も強くなるアンテナ2の負荷が決まる。従って、実施の形態1,2では、終端が異なる結合線路6,7を用いたが、長さが異なる複数の結合線路を用いてもよい。この場合でも同様の効果を得ることができる。
【0033】
また、実施の形態1,2ではアンテナ2の負荷が短絡又は開放である場合に信号線路5に強く結合する結合線路6,7を用いたが、アンテナ2の負荷が短絡や開放以外のときに強く結合する結合線路を用いてもよい。このような結合線路を作成する場合、その終端の反射位相が以下の式を満たすように設計する。
(結合線路の終端の反射位相)=180度−(アンテナの反射位相)
【0034】
また、実施の形態2では結合線路6,7が信号線路5に強く結合しても、高周波信号増幅器1の出力電力が充分高くなければ、スイッチ18,19が切り替わらない。従って、出力電力が微弱でもアンテナ2の負荷変動に対応させるならば実施の形態1を選択し、特定以上の出力電力でアンテナ2の負荷変動に対応させるならば実施の形態2を選択する。また、実施の形態2において、三重以上の結合線路を用いた場合や、結合線路を二段以上直列接続した場合でも上記の効果を得ることができる。
【0035】
また、ドライバ増幅器3や主増幅器4の材料や構造は任意である。例えば、材料はシリコン、ゲルマニウム、シリコンゲルマニウム、窒化シリコン、砒化ガリウム、窒化ガリウム、燐化インジウムなどである。構造は、電界効果トランジスタ、バイポーラトランジスタ、真空管などである。
【符号の説明】
【0036】
1 高周波信号増幅器
2 アンテナ
4 主増幅器(増幅部)
5 信号線路
6,7 結合線路
8,10 移相器
16,17 検波器
18,19 スイッチ
20,21 整合回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力端子及び出力端子を有し、高周波信号を増幅する増幅部と、
前記増幅部の前記出力端子とアンテナとの間に接続された信号線路と、
前記信号線路に平行に配置され、それぞれ長さ又は終端が異なる複数の結合線路と、
結合された前記信号線路及び前記複数の結合線路を介してそれぞれ印加された高周波信号を位相変化させて前記増幅部の前記入力端子に供給し、それぞれ異なる位相変化量を持つ複数の移相器とを備えることを特徴とする高周波信号増幅器。
【請求項2】
出力端子を有し、高周波信号を増幅する増幅部と、
前記増幅部の前記出力端子とアンテナとの間に接続された信号線路と、
前記信号線路に平行に配置され、それぞれ長さ又は終端が異なる複数の結合線路と、
結合された前記信号線路及び前記複数の結合線路を介してそれぞれ高周波信号が印加されると直流信号を出力する複数の検波器と、
それぞれ異なるインピーダンス変成量を有する複数の整合回路と、
前記増幅部の前記出力端子と前記複数の整合回路との間にそれぞれ接続され、前記複数の検波器からの直流信号に応じてそれぞれオン・オフする複数のスイッチとを備えることを特徴とする高周波信号増幅器。
【請求項3】
前記複数の結合線路の少なくとも1つは終端が短絡又は開放であることを特徴とする請求項1又は2に記載の高周波信号増幅器。
【請求項4】
前記複数の結合線路は前記信号線路に100μm以下まで近接していることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の高周波信号増幅器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−90037(P2013−90037A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226798(P2011−226798)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】