説明

高周波回路基板

【課題】共振周波数が使用周波数から十分離れたバイアス線路を容易に形成することができる高周波回路基板を提供する。
【解決手段】高周波回路基板100では、ブラインドビアホール106、107を用いてバイアス線路11を高周波回路10に電気的に接続するようにすることにより、共振が発生する可能性がある経路を、ブラインドビアホール106、107の端部106a、107aとバイアス線路11を結ぶバイアスラインのみに限定することができる。端部106aから107aまでの経路長を調整することで、使用周波数近傍で共振が発生するのを防止することが可能となる

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層基板を用いて構成された高周波回路基板に関し、特に高周波特性を劣化させないようにバイアス線路を形成する高周波回路基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、高周波回路を搭載する高周波回路基板では、高周波回路への電源供給などのために、バイアス線路が基板側に設けられる(特許文献1)。車載用の高周波パルスレーダ等では、基板の小型化が強く要求されるため、高周波回路を基板の一方の面に搭載し、他方の面にアンテナを搭載することで、基板の小型化が図られる。
【0003】
上記のように、1つの基板に高周波回路とアンテナをともに搭載する場合には、高周波回路のバイアス線路がアンテナからの電波の影響をできるだけ受けないようにする必要がある。そこで、バイアス線路を基板に内蔵させることで、アンテナからの電波の影響を低減させるようにする技術が知られている。バイアス線路を基板に内蔵させるために3層以上の多層基板を用い、バイアス線路を多層基板の内層に設けている。バイアス線路を内層に設けることで、基板に必要となる面積を小さくして小型化を図ることが可能となる。
【0004】
バイアス線路を多層基板の内層に形成した場合には、バイアス線路と高周波回路とを電気的に接続する伝送線路として、マイクロストリップラインやスルーホール等が多層基板に形成される。スルーホールは、基板の厚さ方向に貫通した孔を形成し、その内面に所定の金属をメッキして形成される。このような貫通スルーホールは、その長さが基板の厚さにほぼ等しくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−184900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、高周波回路とバイアス線路とを電気的に接続するのに貫通スルーホールを用いた場合には、貫通スルーホールの端部が開放端あるいは短絡端となり、貫通スルーホール及びそれに接続される線路で共振を発生させてしまうおそれがある。共振周波数が高周波回路の使用周波数に近い場合には、共振が発生すると高周波回路の特性に好ましくない影響を与えてしまう。
【0007】
とくに、高周波回路とアンテナとを基板に一体化した高周波パルスレーダ等では、アンテナから放射される高周波信号が、貫通スルーホールやバイアス線路等で形成されるバイアスラインで共振を発生させてしまうおそれがある。バイアスラインで共振が発生すると、これがバイアスラインを伝播して高周波回路の特性を劣化させてしまうといった問題が生じる。
【0008】
このような共振を回避するためには、バイアスラインの線路長を変えるのがよい。線路長を変えることで、共振周波数を変化させることができる。共振周波数が使用周波数から十分に離れるようにバイアスラインの線路長を変えることで、高周波特性に影響を与えるような共振を防止することができる。しかしながら、貫通スルーホールの長さは基板の厚さで決まることから、これを変えるには基板の厚さを変えなければならなくなり、共振周波数を使用周波数から十分に離すのが極めて難しいといった問題がある。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、共振周波数が使用周波数から十分離れたバイアス線路を容易に形成することができる高周波回路基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の高周波回路基板の第1の態様は、2つの外層と1つ以上の内層を有する3層以上の多層基板の一方の前記外層に高周波回路が配置され、前記一方の外層と前記内層との間にグランド層が設けられ、さらに前記内層の前記グランド層が設けられている面とは別の面に前記高周波回路のバイアス線路のパターンを形成するためのバイアス層が設けられている高周波回路基板であって、少なくとも前記一方の外層から前記バイアス層を有する内層までを貫通して前記バイアス線路に電気的に接続される伝送線路を備え、少なくとも前記伝送線路の前記一方の外層側の端部と前記バイアス線路を含むバイアスラインでの共振周波数が前記高周波回路の使用周波数から十分に離れていると判定するための所定の判定基準を満たすように前記伝送線路が形成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明の高周波回路基板の他の態様は、前記伝送線路は、前記一方の外層側の端部と前記バイアス線路とを電気的に接続するブラインドビアホールであることを特徴とする。
【0012】
本発明の高周波回路基板の他の態様は、前記伝送線路として、前記一方の外層側の端部と前記バイアス線路とを電気的に接続するブラインドビアホール、または前記一方の外層から前記他方の外層まで貫通させて前記バイアス線路と電気的に接続される貫通スルーホールを用い、前記ブラインドビアホールまたは前記貫通スルーホールの前記一方の外層側の端部と前記バイアス線路とを結ぶバイアスラインのいずれかの位置にスタブが接続されていることを特徴とする。
【0013】
本発明の高周波回路基板の他の態様は、前記スタブは、前記判定基準を満たす共振周波数で短絡端となるようにマイクロストリップラインで形成されていることを特徴とする。
【0014】
本発明の高周波回路基板の他の態様は、前記スタブは、前記判定基準を満たす共振周波数で短絡端となるように所定のコンデンサで形成されていることを特徴とする。
【0015】
本発明の高周波回路基板の他の態様は、前記伝送線路として、前記一方の外層から前記他方の外層まで貫通させて前記バイアス線路と電気的に接続される貫通スルーホールを用い、前記貫通スルーホールの前記他方の外層側の端部に所定長さの金属ピンが接続されていることを特徴とする。
【0016】
本発明の高周波回路基板の他の態様は、前記伝送線路として、前記一方の外層から前記他方の外層まで貫通させて前記バイアス線路と電気的に接続される貫通スルーホールを用い、前記貫通スルーホールの周辺に前記2つの外層及び前記内層の誘電率とは異なる誘電率を有する誘電体を配置していることを特徴とする。
【0017】
本発明の高周波回路基板の他の態様は、前記使用周波数をfaとし、前記共振周波数をfとするとき、前記判定基準は、
f<fa×0.8、またはf>fa×1.2
で与えられることを特徴とする。
【0018】
本発明の高周波回路基板の他の態様は、前記他方の外層にはアンテナが配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、共振周波数が使用周波数から十分離れたバイアス線路を容易に形成することができる高周波回路基板を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態に係る高周波回路基板の断面構成図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係る高周波回路基板の断面構成図である。
【図3】本発明の第3実施形態に係る高周波回路基板の断面構成図である。
【図4】本発明の第4実施形態に係る高周波回路基板の断面構成図である。
【図5】本発明の別の実施形態に係る高周波回路基板の断面構成図である。
【図6】本発明のさらに別の実施形態に係る高周波回路基板の断面構成図である。
【図7】従来の高周波回路基板の断面構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の好ましい実施の形態における高周波回路基板について、図面を参照して詳細に説明する。同一機能を有する各構成部については、図示及び説明簡略化のため、同一符号を付して示す。
【0022】
本発明の高周波回路基板との比較のために、まず従来の高周波回路基板の構成を、図7を用いて説明する。図7は、高周波回路を搭載する位置で垂直に切断したときの従来の高周波回路基板900の断面構成図である。高周波回路基板900は、2つの外層901、902の間に1つの内層903が配置された3層からなる多層基板である。以下では、2つの外層をそれぞれ一方の外層901及び他方の外層902とする。一方の外層901と内層903との間には、グランドが形成されたグランド層904が設けられている。
【0023】
高周波回路基板900には、所定の高周波回路10が搭載される。ここでは、高周波回路10が一方の外層901の表面に搭載されるとする。そして、高周波回路10のバイアス線路のパターンが形成されたバイアス層905が、内層903と他方の外層902との間に設けられている。バイアス層905を高周波回路10に電気的に接続するために、従来は、高周波回路基板900を貫通する貫通スルーホール906、907が設けられていた。貫通スルーホール906、907は、一方の外層901、内層903、および他方の外層902を貫通する貫通孔の内面を金属メッキして形成されており、高周波回路10及びバイアス層905と電気的に接続されている。
【0024】
図7において、貫通スルーホール906の一方の外層901側の端部を906aとし、他方の外層902側の端部を906bとする。同様に、貫通スルーホール907の一方の外層901側の端部を907aとし、他方の外層902側の端部を907bとする。また、貫通スルーホール906、907とバイアス層905との接続点を、それぞれ905c、905dとする。さらに、一方の外層901の表面と他方の外層902の表面との間の厚さをA、一方の外層901の表面からバイアス層905までの厚さをA’、貫通スルーホール906と907との間の間隔をBとする。ここで、厚さA、A’は、外層901、902の表面に形成されている導体層908、909の厚さを含むものとする(以下でも、同様とする)。
【0025】
上記のような従来の高周波回路基板900では、他方の外層902側の端部906b、907bがともに開放端となっているが、一方の外層901側の端部906a、907aは、高周波的に開放端(オープン)となるか短絡端(ショート)となるかが高周波回路10によって決まる。そのため、高周波回路10の構成によっては、バイアス層905と貫通スルーホール906、907で構成されるバイアスラインの各端部を結ぶ経路のうち、いずれかで共振が発生するおそれがある。すなわち、各端部を結ぶ経路のうち、共振周波数が使用周波数に近いものがあると、その経路で共振が発生してしまう。このような共振により、バイアス層905に形成されているバイアス線路に不要な高周波信号が重畳してしまい、高周波回路10の特性に悪影響を及ぼす。
【0026】
一例として、使用周波数を26.5GHzとし、厚さA、A’をそれぞれ1.5mm、0.5mm、間隔Bを1.2mmとするとき、以下に説明するように、使用周波数に近い周波数で共振が発生する経路が形成されてしまう。
【0027】
バイアス層905と貫通スルーホール906、907で構成されるバイアスラインでは、共振が発生する可能性のある各端部間の経路として、表1の共振経路の欄に示す6つの経路がある。すなわち、貫通スルーホール906の両端部906a−906bを結ぶ経路、貫通スルーホール907の両端部907a−907bを結ぶ経路、端部906aから接続点905c、905dを経由して端部907aまでの経路、端部906aから接続点905c、905dを経由して端部907bまでの経路、端部907aから接続点905d、905cを経由して端部906bまでの経路、及び端部906bから接続点905c、905dを経由して端部907bまでの経路、の6つの経路で共振が発生する可能性がある。各経路の物理長Si(i=1〜6)を、表1の物理長の欄に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
まず、各経路の物理長Si(i=1〜6)を用いて、それぞれの電気長Li(i=1〜6)を、次式を用いて計算することができる。

ここで、εeffは、外層901、902、及び内層903を形成する誘電体の実効比誘電率である。式(1)の電気長Li(i=1〜6)を用いて、各経路の共振周波数fi(i=1〜6)を以下のように計算する。各経路の共振周波数は、両端部のそれぞれが開放端か、短絡端かによって以下のいずれかの計算式で計算される。
【0030】
まず、経路の一方の端部が短絡端で他方が開放端のときの共振周波数fiは、
fi=c/(4×Li) (2)
で計算される。また、経路の両端部がともに短絡端またはともに開放端のときは、
fi=c/(2×Li) (3)
で計算される。なお、上式でcは光速を表す。
【0031】
貫通スルーホール906、907の一方の外層901側の端部906a、907aが短絡端の場合と開放端の場合について、6つの経路の共振周波数を表1の共振周波数の欄に示す。但し、端部906aが短絡端で端部907aが開放端の場合と、端部906aが開放端で端部907aが短絡端の場合とでは、経路が異なるものの同じ共振周波数が得られることから、表1では端部906aが短絡端で端部907aが開放端の場合のみを示している。
【0032】
表1より、端部906a、907aがともに短絡端、あるいは一方が短絡端で他方が開放端のとき、使用周波数26.5GHzに近い周波数26.1GHzで共振する経路があることがわかる。その結果、26.1GHzでの共振により、高周波回路10に好ましくない影響を与えてしまう。本発明の高周波回路基板は、上記のような使用周波数近傍での共振の発生を防止するように構成されている。
【0033】
(第1実施形態)
本発明の第1の実施の形態に係る高周波回路基板を、図1を用いて以下に説明する。図1は、高周波回路10を搭載する位置で垂直に切断したときの本実施形態の高周波回路基板100の断面構成図である。本実施形態の高周波回路基板100は、2つの外層101、102の間に1つの内層103が配置された3層からなる多層基板である。一方の外層101と内層103との間には、グランドが形成されたグランド層104が設けられている。なお、本実施形態の高周波回路基板100では、内層103を1つだけ有する3層構造の基板としているが、これに限定されず、内層を2以上備える4層以上の多層基板であってもよい。
【0034】
本実施形態では、一方の外層101の表面に高周波回路10が搭載されている。そして、高周波回路10のバイアス線路11のパターンが形成されたバイアス層105が、内層103と他方の外層102との間に設けられている。他方の外層102には、アンテナが配置される。
【0035】
本実施形態では、バイアス層105を高周波回路10に電気的に接続するために、一方の外層101とバイアス層105との間にブラインドビアホール106、107を設けている。ブラインドビアホール106、107は、一方の外層101と内層103とを貫通してバイアス線路11に電気的に接続されており、他方の外層102を貫通していない。また、ブラインドビアホール106、107は、バイアス層105のバイアス線路11以外の線路と接続されないようにするために、グランド層104と切り離されている。これにより、ブラインドビアホール106、107とバイアス線路11で形成されるバイアスラインの端部は、ブラインドビアホール106、107の一方の外層101側の端部106a、107aのみとなる。従って、共振が発生する可能性のある経路は、端部106aと107aとの間のブラインドビアホール106、107とバイアス線路11で形成される経路のみである。
【0036】
図7に示した従来例と同様に、使用周波数を26.5GHzとし、一方の外層101の表面と他方の外層102の表面との間の厚さAを1.5mm、一方の外層101の表面からバイアス層105までの厚さA’を0.5mm、及びブラインドビアホール106、107間の間隔Bを1.2mmとしたとき、ブラインドビアホール106の端部106aとブラインドビアホール107の端部107aとの間の経路で発生する共振周波数は、表2のようになる。表2に示すように、本実施形態では、共振が発生する可能性のある端部106aと107aとの間の経路の共振周波数が、端部106a、107aが短絡端か開放端かによらず、使用周波数26.5GHzから十分に離れている。
【0037】
【表2】

【0038】
使用周波数をfaとするとき、式(2)または(3)で算出される共振周波数fiが使用周波数faから十分に離れていると判断する基準として、
fi<fa×0.8、またはfi>fa×1.2 (4)
を用いることができる。すなわち、共振周波数が使用周波数より20%以上離れているとき、共振周波数が使用周波数から十分に離れていると判断する。この場合には、使用周波数の電波により共振が発生するおそれはなく、仮に共振が発生しても高周波回路10に好ましくない影響を与えるおそれがない。
【0039】
上記説明のように、本実施形態の高周波回路基板100では、ブラインドビアホール106、107を用いてバイアス線路11を高周波回路10に電気的に接続するようにしたことにより、共振が発生する可能性がある経路を、ブラインドビアホール106、107の端部106a、107aとバイアス線路11を結ぶバイアスラインのみに限定することができる。端部106aから107aまでの経路長を調整することで、使用周波数近傍で共振が発生するのを防止することが可能となる。
【0040】
本実施形態の高周波回路基板100では、上記のように使用周波数近傍で共振が発生するのを防止するとともに、周辺からの電波の影響を低減する構造を備えている。本実施形態では、ブラインドビアホール106、107とは別に、他方の外層102側からグランド層104まで別のブラインドビアホール111、112が設けられている。そして、他方の外層102の表面の一部にもグランド層113が形成されている。これにより、グランド層104と113とがブラインドビアホール111、112で電気的に接続され、グランド層104、113、及びブラインドビアホール111、112でバイアス線路11を取り囲む構造となっている。
【0041】
上記のように、他方の外層102側から見て、バイアス線路11とブラインドビアホール106、107で形成されるバイアスラインが、グランド層104、113、及びブラインドビアホール111、112で取り囲まれるように構成することで、他方の外層102の表面の一部に配置されるアンテナからの電波を遮蔽して高周波回路への影響を低減することが可能となっている。
【0042】
(第2実施形態)
本発明の第2の実施の形態に係る高周波回路基板を、図2を用いて以下に説明する。図2は、高周波回路10を搭載する位置で垂直に切断したときの本実施形態の高周波回路基板200の断面構成図である。本実施形態の高周波回路基板200は、図7に示した従来の高周波回路基板900と同様の構造を有しており、2つの外層201、202の間に1つの内層203が配置された3層からなる多層基板で構成されている。一方の外層201と内層203との間には、グランド層204が設けられ、内層203と他方の外層202との間には、バイアス層205が設けられている。
【0043】
本実施形態では、バイアス層205を高周波回路10に電気的に接続するために、従来の高周波回路基板900と同様に、2つの外層201、202と内層203を貫通する貫通スルーホール206、207が設けられている。貫通スルーホール206の一方の外層201側の端部を206aとし、他方の外層202側の端部を206bとする。同様に、貫通スルーホール207の一方の外層201側の端部を207aとし、他方の外層202側の端部を207bとする。また、貫通スルーホール206、207とバイアス層205との接続点を、それぞれ205c、205dとする。
【0044】
本実施形態の高周波回路基板200では、従来の高周波回路基板900と同様の構成に加えて、貫通スルーホール206、207の他方の外層202側の端部206b、207bに、金属ピン211、212が接続されている。このような金属ピン211、212を貫通スルーホールの端部206b、207bに接続することで、貫通スルーホール206、207を経由して共振が発生する経路の電気長を変えることができる。以下では、金属ピン211、212の開放端を、それぞれ211b、212bとする。
【0045】
上記のように、貫通スルーホール206、207の端部206b、207bに金属ピン211、212を接続した場合には、表1に示した6つの共振経路のうち端部が906bまたは907bとなっているものを、それぞれ開放端211b、212bに置き換えたものとなる。これにより、当該共振経路の物理長が、金属ピン211、212の長さ分だけ長くなる。その結果、当該共振経路の共振周波数が変化する。金属ピン211、212の長さをそれぞれ2.5mmとしたとき、高周波回路基板200における6つの共振経路の物理長及び共振周波数は、表3に示すような値となる。
【0046】
【表3】

【0047】
表3に示すように、貫通スルーホール206、207の端部206b、207bに金属ピン211、212を接続することで、6つの共振経路のいずれにおいても、使用周波数26.5GHzに近い共振周波数を有する共振経路はなく、いずれも式(4)の条件を満たしている。その結果、使用周波数近傍で共振が発生するのを防止することができる。
【0048】
(第3実施形態)
本発明の第3の実施の形態に係る高周波回路基板を、図3を用いて以下に説明する。図3は、高周波回路10を搭載する位置で垂直に切断したときの本実施形態の高周波回路基板300の断面構成図である。本実施形態の高周波回路基板300も、図7に示した従来の高周波回路基板900と同様の構造を有しており、2つの外層301、302の間に1つの内層303が配置された3層からなる多層基板で構成されている。一方の外層301と内層303との間には、グランド層304が設けられ、内層303と他方の外層302との間には、バイアス層305が設けられている。また、バイアス層305を高周波回路10に電気的に接続するために、2つの外層301、302と内層303を貫通する貫通スルーホール306、307が設けられている。
【0049】
本実施形態では、第2実施形態で用いた金属ピン211、212に変えて、スタブ311を設けている。スタブ311は、使用周波数に近い共振周波数を有する共振経路がある場合に、その共振経路の途中に接続し、スタブ311の接続点311cが共振周波数において短絡端となるように形成する。本実施形態では、スタブ311を端部306aから貫通スルーホール306、バイアス層305、及び貫通スルーホール307を経由して端部307aに至る経路のいずれかに設ける。図3では、スタブ311の接続点311cを、貫通スルーホール306とバイアス層305とが接続される接続点305cに設けている。
【0050】
スタブ311をマイクロストリップラインで形成した場合、マイクロストリップラインの長さは、式(1)で算出される電気長Liの1/4とする。また、スタブ311をコンデンサを用いて形成した場合、式(2)または(3)で算出される共振周波数fiを有するコンデンサを用いてスタブ311を形成する。
【0051】
上記のようなスタブ311を設けることで、スタブ311の接続点311cが短絡端となる。その結果、共振経路の一端が接続点311cとなり、他端が貫通スルーホール306の両端部306a、306b、及び貫通スルーホール307の両端部307a、307bのいずれかとなる。各共振経路の物理長及び共振周波数を表4に示す。ここでは、3つの共振経路のそれぞれで、スタブ311の接続点311cが短絡端となるように、スタブを形成するマイクロストリップラインの電気長、あるいはコンデンサの共振周波数が設定されているものとして、共振周波数を算出している。
【0052】
【表4】

【0053】
表4に示すように、いずれの共振経路の共振周波数も、式(4)の条件を満たしており、各共振周波数が使用周波数から十分に離れていると判断することができる。これより、本実施形態の高周波回路基板300でも、高周波回路10に悪影響を与えるような共振を防止することが可能となる。なお、本実施形態では、高周波回路10とバイアス層305とを電気的に接続するのに貫通スルーホール306、307を用いていたが、これに代えて、第1実施形態と同様にブラインドビアホールを用いてもよい。
【0054】
(第4実施形態)
本発明の第4の実施の形態に係る高周波回路基板を、図4を用いて以下に説明する。図4は、高周波回路10を搭載する位置で垂直に切断したときの本実施形態の高周波回路基板400の断面構成図である。本実施形態の高周波回路基板400も、図7に示した従来の高周波回路基板900と同様の構造を有しており、2つの外層401、402の間に1つの内層403が配置された3層からなる多層基板で構成されている。一方の外層401と内層403との間には、グランド層404が設けられ、内層403と他方の外層402との間には、バイアス層405が設けられている。また、バイアス層405を高周波回路10に電気的に接続するために、2つの外層401、402と内層403を貫通する貫通スルーホール406、407が設けられている。
【0055】
本実施形態では、貫通スルーホール406、407の周囲に別の貫通孔411、412を設け、その中に外層401、402及び内層403とは異なる誘電率の誘電体を充填させている。このように、貫通スルーホール406、407の周囲に誘電率の異なる誘電体を近接させることで、貫通スルーホール406、407の電気長を変えることができる。別の貫通孔411、412に充填する誘電体の実効比誘電率をεeff’とするとき、各共振経路の電気長Li(i=1〜6)は、各経路の物理長Si(i=1〜6)を用いて次式で計算される。

【0056】
なお、バイアス層405の周辺には外層401、402及び内層403の誘電体のみが配置されているときは、バイアス層405の電気長は式(1)を用いて算出される。バイアス層405の電気長と式(5)用いて算出された貫通スルーホール406、407の電気長から、各経路の電気長を算出する。上記のように、貫通スルーホール406、407の周囲に誘電率の異なる誘電体を近接させることで、貫通スルーホール406、407を経由する経路で発生する共振の周波数を異なる値に変えることができる。
【0057】
誘電率の異なる誘電体の一例として、酸化チタンなどの高い比誘電率を持つ誘電体(実効比誘電率εeff’≒30)を用いた時の共振周波数を表5に示す。
【表5】

【0058】
表4に示すように、いずれの共振経路の共振周波数も、式(4)の条件を満たしており、各共振周波数が使用周波数から十分に離れていると判断することができる。これより、本実施形態の高周波回路基板400でも、高周波回路10に悪影響を与えるような共振を防止することが可能となる。
【0059】
本発明の高周波回路基板のさらに別の実施形態を、図5、6に示す。図5、6は、いずれも高周波回路10を搭載する位置で垂直に切断したときの別の実施形態の高周波回路基板500、600の断面構成図である。高周波回路基板500及び600は、いずれも図7に示した従来の高周波回路基板900と同様の構造を有しており、2つの外層501、502及び601、602と、内層503及び603と、グランド層504及び604と、バイアス層505及び605とをそれぞれ有している。
【0060】
図5に示す高周波回路基板500では、バイアス層505を高周波回路10に電気的に接続するための貫通スルーホール506、507を、ネジ穴状に形成された貫通孔で形成している。このように形成された貫通スルーホール506、507は、基板厚さAより長い物理長を有しており、電気長を変えて共振周波数を変えることができる。その結果、共振周波数を使用周波数から十分に離して高周波回路10に悪影響を与えるような共振を防止することが可能となる。
【0061】
また、図6に示す高周波回路基板600では、バイアス層505を高周波回路10に電気的に接続するための貫通スルーホール606、607を、ミアンダ状に形成された貫通孔で形成している。このように形成された貫通スルーホール606、607は、基板厚さAより長い物理長を有しており、電気長を変えて共振周波数を変えることができる。その結果、共振周波数を使用周波数から十分に離して高周波回路10に悪影響を与えるような共振を防止することが可能となる。
【0062】
上記説明の本発明の高周波回路基板によれば、いずれの実施形態でも共振周波数を使用周波数から十分に離して高周波回路10に悪影響を与えるような共振を防止することが可能な構成となっている。これにより、高周波回路が搭載された面と反対側の基板面にアンテナを搭載してアンテナと高周波回路基板を一体化した場合でも、アンテナからの高周波信号がバイアスラインへ重畳するのを防止することができる。
【0063】
なお、本実施の形態における記述は、本発明に係る高周波回路基板の一例を示すものであり、これに限定されるものではない。本実施の形態における高周波回路基板の細部構成及び詳細な動作などに関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0064】
10 高周波回路
11 バイアス線路
100、200、300、400、500、600 高周波回路基板
101、102、201、202、301、302、401、402、501、502、601、602 外層
103、203、303、403、503、603 内層
104、113、204、304、404、504、604 グランド層
105、205、305、405、505、605 バイアス層
106、107、111、112 ブラインドビアホール
206、207、306、307、406、407、506、507、606、607 貫通スルーホール
211、212 金属ピン
311 スタブ
411、412 別の貫通孔


【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの外層と1つ以上の内層を有する3層以上の多層基板の一方の前記外層に高周波回路が配置され、前記一方の外層と前記内層との間にグランド層が設けられ、さらに前記内層の前記グランド層が設けられている面とは別の面に前記高周波回路のバイアス線路のパターンを形成するためのバイアス層が設けられている高周波回路基板であって、
少なくとも前記一方の外層から前記バイアス層を有する内層までを貫通して前記バイアス線路に電気的に接続される伝送線路を備え、
少なくとも前記伝送線路の前記一方の外層側の端部と前記バイアス線路を含むバイアスラインでの共振周波数が前記高周波回路の使用周波数から十分に離れていると判定するための所定の判定基準を満たすように前記伝送線路が形成されている
ことを特徴とする高周波回路基板。
【請求項2】
前記伝送線路は、前記一方の外層側の端部と前記バイアス線路とを電気的に接続するブラインドビアホールである
ことを特徴とする請求項1に記載の高周波回路基板。
【請求項3】
前記伝送線路として、前記一方の外層側の端部と前記バイアス線路とを電気的に接続するブラインドビアホール、または前記一方の外層から前記他方の外層まで貫通させて前記バイアス線路と電気的に接続された貫通スルーホールを用い、
前記ブラインドビアホールまたは前記貫通スルーホールの前記一方の外層側の端部と前記バイアス線路とを結ぶバイアスラインのいずれかの位置にスタブが接続されている
ことを特徴とする請求項1に記載の高周波回路基板。
【請求項4】
前記スタブは、前記判定基準を満たす共振周波数で短絡端となるようにマイクロストリップラインで形成されている
ことを特徴とする請求項3に記載の高周波回路基板。
【請求項5】
前記スタブは、前記判定基準を満たす共振周波数で短絡端となるように所定のコンデンサで形成されている
ことを特徴とする請求項3に記載の高周波回路基板。
【請求項6】
前記伝送線路として、前記一方の外層から前記他方の外層まで貫通させて前記バイアス線路と電気的に接続された貫通スルーホールを用い、
前記貫通スルーホールの前記他方の外層側の端部に所定長さの金属ピンが接続されている
ことを特徴とする請求項1に記載の高周波回路基板。
【請求項7】
前記伝送線路として、前記一方の外層から前記他方の外層まで貫通させて前記バイアス線路と電気的に接続された貫通スルーホールを用い、
前記貫通スルーホールの周辺に前記2つの外層及び前記内層の誘電率とは異なる誘電率を有する誘電体を配置している
ことを特徴とする請求項1に記載の高周波回路基板。
【請求項8】
前記使用周波数をfaとし、前記共振周波数をfとするとき、前記判定基準は、
f<fa×0.8、またはf>fa×1.2
で与えられる
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の高周波回路基板。
【請求項9】
前記他方の外層にはアンテナが配置されている
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の高周波回路基板。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−216957(P2011−216957A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80463(P2010−80463)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河AS株式会社 (571)
【Fターム(参考)】