説明

高周波用磁性体材料、非可逆回路素子用部品および非可逆回路素子

【課題】非可逆回路素子の部品を小型化することができるとともに、挿入損失を小さくすることにより非可逆回路素子の消費電力を低減し、さらに高温での挿入損失も小さくすることが可能な高周波用磁性体材料と、それを用いた非可逆回路素子用部品および非可逆回路素子を提供する。
【解決手段】高周波用磁性体材料は、組成式(Yz−x−yGdCa)(Fe8−z−a−b−cSnAl)O12−d/2で表わされるガーネット型フェライトを主成分とし、上記のx、y、z、a、b、c、dは、モル比を示し、0.6≦y≦0.8、3.01≦z≦3.07、0.26≦a≦0.36、0.27≦b≦0.35、0.59≦c≦0.74、0.01≦d≦0.08(ただし、d=x−a−2c)を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一般的には高周波用磁性体材料と、それを用いた非可逆回路素子用部品および非可逆回路素子に関し、特定的には、ガーネット型フェライトを主成分とする高周波用磁性体材料と、それを用いたサーキュレータ、アイソレータ等の非可逆回路素子、その非可逆回路素子に用いられる部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機等の通信機器の小型化、高周波化および高機能化が進められている。これに応じて、通信機器の構成部品について小型化に対応するとともに、消費電力を低減することが求められている。このような構成部品の中で、たとえば、サーキュレータ、アイソレータ等の非可逆回路素子に用いられる部品に対して、小型化と、消費電力を低減するために損失を低くすることが要求されている。
【0003】
特に、アイソレータは、一般に、信号の伝送方向には減衰がなく、逆方向には減衰が大きくなる機能を有しており、数100MHz〜数GHzの極超短波帯やマイクロ波帯で使用される携帯電話機、自動車電話機等の移動体通信機器の送受信回路に搭載されている。このアイソレータに用いられる磁性体材料としては、従来より、イットリウム鉄ガーネットYFe12に代表されるガーネット型フェライト系材料が広く使用されている。
【0004】
例えば、特開2005−183409号公報(以下、特許文献1という)には、組成式(Yz−xCa)(Fe8−z−y1−y2−v−wSny1Zry2Al)O12−d/2で表されるガーネット型フェライトを主成分とする高周波用磁性体材料が開示されている。このガーネット型フェライトは、上記の組成式中のSn、Zrの少なくともいずれか一方を含有するとともに、Sn、Zrの両者がいずれも4価元素として作用する。また、上記の組成式にて、x、y1、y2、z、vおよびwは、それぞれ、0<x≦1.60、0<y1+y2≦0.40、3.00<z≦3.09、0<v≦0.70および0≦w≦0.80の関係を満足し、また、dは、0<d<0.12の関係を満足する。
【0005】
このような高周波用磁性体材料では、飽和磁化(4πMs)が13〜120mTの範囲内であり、強磁性共鳴半値幅(ΔH)が3.6kA/m以下であることが特許文献1に開示されている。
【0006】
一方、特開2007−306148号公報(以下、特許文献2という)には、非可逆回路素子として2ポート型アイソレータの構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−183409号公報
【特許文献2】特開2007−306148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に開示されたような磁性体材料を、たとえば、特許文献2に開示されたような非可逆回路素子に組み込んだ場合、特許文献1に開示されたような磁性体材料の飽和磁化の値が広範囲に及ぶため、磁性体を飽和させるために印加される外部磁界を小さく制御することができない。このため、磁性体に生じる内部磁界をほぼ一定にするために必要な磁界を磁性体に与える磁界発生部としての永久磁石の磁力を低く設定することができないので、その永久磁石の厚みを小さく制御することができないという問題がある。
【0009】
すなわち、磁性体の飽和磁界を小さくすると、磁性体を飽和させるために印加される外部磁界を小さくすることができる。そうすると、磁性体に生じる内部磁界をほぼ一定にするために必要な磁界を磁性体に与える永久磁石の磁力を低くすることができるので、永久磁石の厚みを小さくすることができる。しかし、特許文献1に開示されたような磁性体材料の飽和磁界は小さな値から大きな値まで広い範囲にわたっているため、磁性体に生じる内部磁界をほぼ一定にするために必要な磁界発生部としての永久磁石の磁力を低く設定することができないので、厚みを小さく制御することができないという問題がある。
【0010】
したがって、非可逆回路素子の部品として、磁性体の両側を永久磁石で挟んだ構造の部品において、磁性体の厚みをほぼ一定にした場合、永久磁石の厚み寸法を小さくすることができないので、非可逆回路素子の部品を小型化することができないという問題がある。
【0011】
また、特許文献1に開示されたような磁性体材料では、強磁性共鳴半値幅が比較的大きいので、特許文献1に開示されたような磁性体材料を、たとえば、特許文献2に開示されたような非可逆回路素子に組み込んだ場合、挿入損失(インサーションロス)が比較的大きくなる。このため、非可逆回路素子の消費電力を低減することができないという問題がある。
【0012】
さらに、特許文献1に開示されたような磁性体材料を、たとえば、特許文献2に開示されたような非可逆回路素子に組み込んだ場合、低温から室温までの温度範囲での挿入損失に比べて、高温での挿入損失が大きくなるという問題がある。
【0013】
図4は、(Y1.64Ca1.40)(Fe3.86Sn0.230.57Al0.30)O12で表される特許文献1に開示された高周波用磁性体材料を用いて、特許文献2に開示されたような非可逆回路素子を作製して、周囲温度を−35℃、+25℃、+85℃と変化させて測定した挿入損失を示す図である。図4に示すように、挿入損失の最大値は、周囲温度が−35℃のとき0.48dB、周囲温度が+25℃のとき0.55dBであるのに対して、周囲温度が高温の85℃のとき0.86dBと大きくなることがわかる。これは、高温での強磁性共鳴半値幅が大きくなったためと考えられる。
【0014】
そこで、この発明の目的は、非可逆回路素子の部品を小型化することができるとともに、挿入損失を小さくすることにより非可逆回路素子の消費電力を低減し、さらに高温での挿入損失も小さくすることが可能な高周波用磁性体材料と、それを用いた非可逆回路素子用部品および非可逆回路素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明に従った高周波用磁性体材料は、組成式(Yz−x−yGdCa)(Fe8−z−a−b−cSnAl)O12−d/2で表わされるガーネット型フェライトを主成分とし、上記のx、y、z、a、b、c、dは、モル比を示し、0.6≦y≦0.8、3.01≦z≦3.07、0.26≦a≦0.36、0.27≦b≦0.35、0.59≦c≦0.74、0.01≦d≦0.08(ただし、d=x−a−2c)を満たすことを特徴とする。
【0016】
この発明に従った非可逆回路素子用部品は、上述の特徴を有する高周波用磁性体材料によって形成された磁性体と、この磁性体に直流磁界を印加する磁界発生部と、磁性体に配置された第1の中心導体と、この第1の中心導体と電気的絶縁状態で交差して磁性体の周りに1ターン以上巻き回して配置された第2の中心導体とを備える。
【0017】
この発明に従った非可逆回路素子は、上記の非可逆回路素子用部品を備える。
【0018】
この発明の非可逆回路素子は、アイソレータであることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の高周波用磁性体材料では、飽和磁化(4πMs)をある一定値以下に制御して従来の磁性体材料よりも小さくすることができるので、磁性体を飽和させるために印加される外部磁界を小さく制御することができる。このため、磁性体に生じる内部磁界をほぼ一定にするために必要な磁界を磁性体に与える磁界発生部の厚みを小さく制御することができる。したがって、本発明の高周波用磁性体材料を用いることによって、磁性体と磁界発生部とから構成される非可逆回路素子の部品を小型化することができ、さらには非可逆回路素子を小型化することが可能になる。
【0020】
また、本発明の高周波用磁性体材料では、強磁性共鳴半値幅(ΔH)を従来の磁性体材料よりも小さくすることができるので、その材料からなる磁性体を非可逆回路素子に組み込んだ場合、挿入損失(インサーションロス)をより小さくすることができる。このため、本発明の高周波用磁性体材料を用いることによって、非可逆回路素子の消費電力を低減することが可能になる。
【0021】
さらに、本発明の高周波用磁性体材料では、その材料からなる磁性体を非可逆回路素子に組み込んだ場合、高温での挿入損失(インサーションロス)をより小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の高周波用磁性体材料が適用される非可逆回路素子用部品とその部品を組み込んで構成される非可逆回路素子の一つの実施の形態として2ポート型アイソレータを示す分解斜視図である。
【図2】図1の2ポート型アイソレータに組み込まれる磁性体を示す斜視図である。
【図3】図1の2ポート型アイソレータを構成する回路基板の一例を示す分解斜視図である。
【図4】(Y1.64Ca1.40)(Fe3.86Sn0.230.57Al0.30)O12で表される特許文献1に開示された高周波用磁性体材料を用いて、特許文献2に開示されたような非可逆回路素子を作製して、周囲温度を−35℃、+25℃、+85℃と変化させて測定した挿入損失と周波数との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
まず、本発明の高周波用磁性体材料が適用される非可逆回路素子用部品とその部品を組み込んで構成される非可逆回路素子の一つの実施の形態として、2ポート型アイソレータの構成について、図1〜図3を参照して説明する。
【0024】
図1には、本発明の高周波用磁性体材料が適用される非可逆回路素子用部品としてのフェライト・磁石組立体30と、その部品を組み込んで構成される非可逆回路素子の一つの実施の形態が示されている。非可逆回路素子は、2ポート型の集中定数型アイソレータであり、シールド板10と、ヨーク20と、フェライト・磁石組立体30と、回路基板40とから構成されている。
【0025】
フェライト・磁石組立体30は、直方体からなる二つの永久磁石31、31と、この二つの永久磁石31、31から直流磁界が付与される直方体からなるフェライト32とを接着剤層33、33で貼り合わせたものである。すなわち、フェライト・磁石組立体30は、フェライト32の両側側面を二つの永久磁石31、31で挟むことによって構成されている。フェライト32が、本発明の高周波用磁性体材料から形成されている。フェライト32の表面には、第1中心電極35と第2中心電極36が電極膜によって形成されている。なお、フェライト・磁石組立体30は、回路基板40上に以下に説明するような接続状態で搭載され、ヨーク20とシールド板10とによって囲われている。
【0026】
フェライト32は、互いに平行な第1主面32aと第2主面32bを有する直方体からなる。フェライト32の第1主面32aと第2主面32bには、互いに電気的に絶縁された第1中心電極35と第2中心電極36が形成されている。また、永久磁石31の主面31aが、接着剤層33を介して、フェライト32の第1主面32aと第2主面32bのそれぞれに対向するように配置されることにより、フェライト32の第1主面32aと第2主面32bのそれぞれには、永久磁石31、31が接着剤層33によって固着されて一体化されている。このようにして、二つの永久磁石31、31が、フェライト32の第1主面32aと第2主面32bに対して垂直方向に磁界を印加するように配置されている。
【0027】
図2に示すように、第1中心電極35は、フェライト32の第1主面32aにおいて右下から立ち上がって2本に分岐した状態で左上方向に延在し、上面32c上の中継用電極35aを介して第2主面32bの側に回り込み、第2主面32bにおいて第1主面32aと透視状態で重なるように2本に分岐している。第1中心電極35の一端は、フェライト32の下面32dに形成された接続用電極35bに接続されている。また、第1中心電極35の他端は、フェライト32の下面32dに形成された接続用電極35cに接続されている。このようにして、第1中心電極35はフェライト32の周りに1ターン巻回されている。
【0028】
第2中心電極36は、フェライト32の長辺と平行な軸を中心にしてフェライト32の周りに、4ターン巻回されている。すなわち、0.5ターン目36aが第1主面32aにおいて下辺から左上方向に第1中心電極35と交差して延在し、上面32c上の中継用電極36bを介して第2主面32bの側に回り込み、この1ターン目36cが第2主面32bにおいて垂直に下方に延在して第1中心電極35と交差している。1ターン目36cの下端部は下面32dの中継用電極36dを介して第1主面32aの側に回り込み、この1.5ターン目36eが第1主面32aにおいて第1中心電極35と交差して上方に延在し、上面32c上の中継用電極36fを介して第2主面32bの側に回り込んでいる。以下同様にして、2ターン目36g、中継用電極36h、2.5ターン目36i、中継用電極36j、3ターン目36k、中継用電極36l、3.5ターン目36m、中継用電極36n、4ターン目36oがフェライト32の表面にそれぞれ形成されている。なお、第2中心電極36の一端は、フェライト32の下面32dに形成された接続用電極35cに接続されている。また、第2中心電極36の他端は、フェライト32の下面32dに形成された接続用電極36pに接続されている。さらに、第2中心電極36の中継用電極36hは、以下で説明するようにタップ電極37として機能する。
【0029】
第1および第2中心電極35、36は、フェライト32の表面上に形成された銀からなる導体膜である。フェライト32を多層にしてその内部に導体膜を形成することによって第1および第2中心電極35、36を構成してもよい。なお、銅箔を用いてフェライト32の周りに巻きつけることによって第1および第2中心電極35、36を構成してもよい。第1中心電極35と第2中心電極36とは、その間にガラスなどからなる絶縁膜が形成されることにより、互いに絶縁されている。永久磁石31としてはフェライト磁石が用いられる。
【0030】
以上のようにして、本発明の高周波用磁性体材料が適用される非可逆回路素子用部品としてのフェライト・磁石組立体30が構成されている。すなわち、非可逆回路素子用部品としてのフェライト・磁石組立体30は、上述の特徴を有する高周波用磁性体材料によって形成された磁性体としてのフェライト32と、フェライト32に直流磁界を印加する磁界発生部としての永久磁石31、31と、フェライト32に配置された第1の中心導体としての第1中心電極35と、この第1中心電極35と電気的絶縁状態で交差してフェライト32の周りに1ターン以上巻き回して配置された第2の中心導体としての第2中心電極36とを備える。
【0031】
図1に示す回路基板40は、複数枚の誘電体シートに所定の電極を形成して積層し、焼結した多層基板からなる。図3に示すように、回路基板40の内部には、整合用コンデンサC1,C2,C3,CS1,CS2,CP1,CP2、終端抵抗R、インダクタンスL3が内蔵されている。また、回路基板40の上面には端子電極45a〜45eが形成され、回路基板40の下面には外部接続用端子電極46,47,48が形成されている。
【0032】
回路基板40の誘電体シートには、回路素子を構成する各種電極との同時焼成が可能なガラスとアルミナなどのセラミック粉からなる誘電体が原料として用いられている。ガラスエポキシ樹脂、ガラスBT樹脂などの樹脂基板や、樹脂材料にセラミックなどの誘電体粉を添加した材料を用いることも可能である。電極には銅箔を用いてもよい。端子電極45a〜45eや外部接続用端子電極46,47,48にはニッケルメッキや金フラッシュメッキが施されている。
【0033】
図3に示すように、回路基板40の下面に形成された外部接続用端子電極46が入力ポートとして機能し、外部接続用端子電極47が出力ポートとして機能し、外部接続用端子電極48がグラウンドポートとして機能する。そして、図2に示す第1中心電極35の一端である接続用電極35bが、図3に示す回路基板40の上面に形成された端子電極45aと接続されている。図2に示す第1中心電極35の他端および第2中心電極36の一端である接続用電極35cが、図3に示す回路基板40の上面に形成された端子電極45bと接続されている。図2に示す第2中心電極36の他端である接続用電極36pが、図3に示す回路基板40の上面に形成された端子電極45cと接続されている。なお、図2に示す第2中心電極36の中継用電極36h(タップ電極37)は、図3に示す回路基板40の上面に形成された端子電極45dと接続されている。
【0034】
以上のようにして、フェライト・磁石組立体30を備えた非可逆回路素子の一例である2ポート型の集中定数型アイソレータが構成されている。すなわち、2ポート型の集中定数型アイソレータは、直方体からなる永久磁石31、31と、永久磁石31、31により直流磁界が印加される直方体からなるフェライト32と、永久磁石31、31およびフェライト32を保持する回路基板40とを備える。第1中心電極35は、フェライト32に電極膜によって形成され、一端が入力ポート(外部接続用端子電極46)に電気的に接続され、他端が出力ポート(外部接続用端子電極47)に電気的に接続されている。第2中心電極36は、第1中心電極35と電気的絶縁状態で交差してフェライト32に電極膜によって形成され、またフェライト32の長辺と平行な軸を中心にしてフェライト32の周りに1ターン以上巻き回して形成され、一端が出力ポート(外部接続用端子電極47)に電気的に接続されている。タップ電極37は、フェライト32に電極膜によって形成され、第2中心電極36の所定箇所に電気的に接続されるとともにグラウンドに電気的に接続されている。回路基板40は、入力ポートと出力ポートとの間に電気的に接続された第1の整合用コンデンサC1と抵抗Rとからなる並列回路と、第2中心電極36の他端と出力ポートとの間に電気的に接続された第2の整合用コンデンサC2と、第1中心電極35、第2中心電極36およびタップ電極37と電気的に接続するための接続用電極としての端子電極45a〜45dを有する。
【0035】
本発明の高周波用磁性体材料は、組成式(Yz−x−yGdCa)(Fe8−z−a−b−cSnAl)O12−d/2で表わされるガーネット型フェライトを主成分とし、上記のx、y、z、a、b、c、dは、モル比を示し、0.6≦y≦0.8、3.01≦z≦3.07、0.26≦a≦0.36、0.27≦b≦0.35、0.59≦c≦0.74、0.01≦d≦0.08(ただし、d=x−a−2c)を満たす。
【0036】
上記の組成式において、yが0.6未満であれば、その材料からなるフェライト32を非可逆回路素子、たとえば、図1に示すアイソレータに組み込んだ場合、85℃の温度での挿入損失が大きくなり、85℃の温度での挿入損失と25℃の温度での挿入損失の差が増大する。一方、yが0.8を超えると、強磁性共鳴半値幅(ΔH)が大きくなり、その材料からなるフェライト32を非可逆回路素子、たとえば、図1に示すアイソレータに組み込んだ場合、25℃の温度での挿入損失が増大する。
【0037】
上記の組成式において、zが3.01未満であれば、ΔHが大きくなり、その材料からなるフェライト32を非可逆回路素子、たとえば、図1に示すアイソレータに組み込んだ場合、25℃の温度での挿入損失が増大する。また、zが3.01未満であれば、飽和磁化(4πMs)が大きくなるので、フェライト32の両側を永久磁石31、31で挟んだ構造のフェライト・磁石組立体30において、フェライト32の厚みをほぼ一定にした場合、永久磁石31の厚み寸法を小さくすることができないので、図1に示すフェライト・磁石組立体30を小型化することができない。一方、zが3.07を超えると、ΔHが大きくなり、その材料からなるフェライト32を非可逆回路素子、たとえば、図1に示すアイソレータに組み込んだ場合、25℃の温度での挿入損失が増大する。
【0038】
上記の組成式において、aが0.26未満であれば、ΔHが大きくなり、その材料からなるフェライト32を非可逆回路素子、たとえば、図1に示すアイソレータに組み込んだ場合、25℃の温度での挿入損失が増大する。一方、aが0.36を超えると、4πMsが大きくなるので、フェライト32の両側を永久磁石31、31で挟んだ構造のフェライト・磁石組立体30において、フェライト32の厚みをほぼ一定にした場合、永久磁石31の厚み寸法を小さくすることができないので、図1に示すフェライト・磁石組立体30を小型化することができない。
【0039】
上記の組成式において、bが0.27未満であれば、4πMsが大きくなるので、フェライト32の両側を永久磁石31、31で挟んだ構造のフェライト・磁石組立体30において、フェライト32の厚みをほぼ一定にした場合、永久磁石31の厚み寸法を小さくすることができないので、図1に示すフェライト・磁石組立体30を小型化することができない。一方、bが0.35を超えれば、ΔHが大きくなり、その材料からなるフェライト32を非可逆回路素子、たとえば、図1に示すアイソレータに組み込んだ場合、25℃の温度での挿入損失が増大する。
【0040】
上記の組成式において、cが0.59未満であれば、4πMsが大きくなるので、フェライト32の両側を永久磁石31、31で挟んだ構造のフェライト・磁石組立体30において、フェライト32の厚みをほぼ一定にした場合、永久磁石31の厚み寸法を小さくすることができないので、図1に示すフェライト・磁石組立体30を小型化することができない。一方、cが0.74を超えれば、ΔHが大きくなり、その材料からなるフェライト32を非可逆回路素子、たとえば、図1に示すアイソレータに組み込んだ場合、25℃の温度での挿入損失が増大する。
【0041】
上記の組成式において、dが0.01未満であれば、ΔHが大きくなり、その材料からなるフェライト32を非可逆回路素子、たとえば、図1に示すアイソレータに組み込んだ場合、25℃の温度での挿入損失が増大する。一方、dが0.08を超えれば、ΔHが大きくなり、その材料からなるフェライト32を非可逆回路素子、たとえば、図1に示すアイソレータに組み込んだ場合、25℃の温度での挿入損失が増大する。
【0042】
以上のことから、組成式(Yz−x−yGdCa)(Fe8−z−a−b−cSnAl)O12−d/2で表わされるガーネット型フェライトを主成分とし、上記のx、y、z、a、b、c、dは、モル比を示し、0.6≦y≦0.8、3.01≦z≦3.07、0.26≦a≦0.36、0.27≦b≦0.35、0.59≦c≦0.74、0.01≦d≦0.08(ただし、d=x−a−2c)を満たす本発明の高周波用磁性体材料では、飽和磁化(4πMs)をある一定値以下に制御して従来の磁性体材料よりも小さくすることができるので、フェライト32を飽和させるために印加される外部磁界を小さく制御することができる。このため、フェライト32に生じる内部磁界をほぼ一定にするために必要な磁界をフェライト32に与える永久磁石31の厚みを小さく制御することができる。したがって、本発明の高周波用磁性体材料を用いることによって、フェライト32と永久磁石31とから構成される非可逆回路素子の部品の一例であるフェライト・磁石組立体30を小型化することができ、さらには非可逆回路素子の一例である、図1に示すアイソレータを小型化することが可能になる。
【0043】
また、本発明の高周波用磁性体材料では、強磁性共鳴半値幅(ΔH)を従来の磁性体材料よりも小さくすることができるので、その材料からなるフェライト32を図1に示すアイソレータに組み込んだ場合、挿入損失をより小さくすることができる。このため、本発明の高周波用磁性体材料を用いることによって、非可逆回路素子の一例であるアイソレータの消費電力を低減することが可能になる。
【0044】
さらに、本発明の高周波用磁性体材料では、その材料からなるフェライト32を図1に示すアイソレータに組み込んだ場合、高温での挿入損失をより小さくすることができる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の高周波用磁性体材料を作製し、その材料を用いてアイソレータを作製した実施例について説明する。
【0046】
(実施例1)(高周波用磁性体材料の評価)
出発原料として、純度が99%以上の酸化イットリウム(Y)、酸化ガドリウム(Gd)、炭酸カルシウム(CaCO)、酸化鉄(Fe)、酸化錫(SnO)、酸化バナジウム(V)および酸化アルミニウム(Al)を用意し、組成式(Yz−x−yGdCa)(Fe8−z−a−b−cSnAl)O12−d/2においてx〜z、a〜dがモル比率で表1に示す組成比率になるように各原料を秤量した。
【0047】
秤量した各原料を部分安定化ジルコニア(PSZ)製のメディアと一緒にボールミルに投入して、湿式で混合粉砕した。得られたスラリーをボールミルから排出した後、このスラリーを蒸発乾燥し、乾燥した粉末を900〜1150℃の温度で仮焼した。
【0048】
この仮焼物を乾式で粉砕した後、得られた粉砕物に酢酸ビニル系バインダ等を加えて、部分安定化ジルコニア(PSZ)製のメディアと一緒にボールミルに投入して、十分に湿式で混合粉砕した。得られたスラリーをボールミルから排出した後、このスラリーを乾燥、造粒して造粒粉を作製した。
【0049】
この造粒粉をプレス成形によって厚みが1mm程度の円板試料として成形し、200〜500℃の温度で脱脂した後、1200〜1400℃の温度で1〜5時間焼成して評価用の各試料を作製した。
【0050】
評価用の各試料の強磁性共鳴半値幅(ΔH)はJIS‐C2565に準じて測定した。また、評価用の各試料の飽和磁化(Ms)は振動型磁力計を用いて測定した。これらの測定結果を表1に示す。
【0051】
(実施例2)(アイソレータの評価)
実施例1で作製した造粒粉を用いて、所定の厚みで大きさが130mm×130mmの矩形状になるようにプレス成形した。この成形体を実施例1と同様にして、200〜500℃の温度で脱脂した後、1200〜1400℃の温度で1〜5時間焼成した。その後、得られた焼結体が所定の厚みになるように両面を研磨した。次に、スルーホール電極を形成する部分にサンドブラストでスルーホールを形成した。スルーホールにAgペーストを充填した後、図2に示すように第1中心電極35となる部分を、同じAgペーストを用いてスクリーン印刷で形成し、その後、焼き付けを行って、スルーホール電極と第1中心電極35を形成した。
【0052】
次に、第2中心電極36との絶縁を確保するための絶縁体膜を形成するために、第1中心電極35の上からガラスペーストをスクリーン印刷して、焼き付けた。
【0053】
そして、ガラスペーストで形成した絶縁膜の上から第2中心電極36となる部分を、Agペーストを用いてスクリーン印刷で形成し、その後、焼き付けを行って、第2中心電極36を形成した。このようにして、図2に示すようなフェライト32を形成する厚みが0.28mmのマザー基板を作製した。
【0054】
最後に、マザー基板の両側を二つのSr系フェライト磁石で挟むように配置して、エポキシ系の接着剤で二つのSr系フェライト磁石とマザー基板とを接着した後、図1に示すような1単位のフェライト・磁石組立体30の大きさになるように切断した。このようにして、1単位のフェライト・磁石組立体30を作製した。
【0055】
フェライト32に直流磁界を印加する永久磁石31には、コストが安価で、かつ高い残留磁束密度が得られることから、Sr系フェライト磁石が一般的に用いられている。本実施例では、残留磁束密度が400mTのSr系フェライト磁石を用いたが、フェライト32の材料の4πMsに応じて、フェライト32の内部に生じる磁気モーメントを一方向にそろえることが可能な磁石の強さが変わるので、フェライト32に一定の内部磁界を生じさせるために必要な磁石の厚みを変化させることができる。ここでは、実施例1で求めた4πMsの大きさに応じて、厚みが0.27mm〜0.36mmの磁石から適切な磁石を選定して、図1に示すようなアイソレータを構成するためのフェライト・磁石組立体30を作製した。
【0056】
このようなフェライト・磁石組立体30を用いて、図1に示すようなアイソレータを構成し、25℃と85℃の温度での挿入損失(インサーションロス)(IL)をネットワークアナライザーで測定した。また、フェライト・磁石組立体30の厚みを測定した。表1に、25℃と85℃の温度でのILを示す。また、測定したフェライト・磁石組立体30の厚みも表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
具体的には、アイソレータを小型化するために、たとえば、フェライト・磁石組立体30の厚みを所望の0.94mm以下にするためには、フェライト32の4πMsを48mT以下にする必要がある。また、アイソレータの消費電力を従来よりも低減するために、たとえば、25℃の温度でのアイソレータの挿入損失を所望の0.55dB未満にするためには、ΔHを1990A/m(=25 Oe)未満にする必要がある。さらに、85℃と25℃の温度での挿入損失の差を0.1dB以下にする必要がある。
【0059】
このような特性を満たすためには、後述するように表1に示す結果の考察から、フェライト32の材料が、組成式(Yz−x−yGdCa)(Fe8−z−a−b−cSnAl)O12−d/2で表わされるガーネット型フェライトを主成分とし、上記のx、y、z、a、b、c、dは、モル比を示し、0.6≦y≦0.8、3.01≦z≦3.07、0.26≦a≦0.36、0.27≦b≦0.35、0.59≦c≦0.74、0.01≦d≦0.08(ただし、d=x−a−2c)を満たす本発明の高周波用磁性体材料であればよいことがわかる。なお、表1において試料番号に*を付した組成は本発明の範囲外である。
【0060】
いいかえれば、表1に示す結果から、本発明の範囲の高周波用磁性体材料の飽和磁化(4πMs)が48mT以下であるので、永久磁石31の厚みを薄くすることができ、具体的にはフェライト32の厚みを0.25mmとほぼ一定にした場合、フェライト・磁石組立体30の厚みを0.94mm以下にすることができる。また、本発明の範囲の高周波用磁性体材料の強磁性共鳴半値幅(ΔH)は1990A/m未満であるので、その材料からなるフェライト32をアイソレータに組み込んだときの損失を低くすることができ、25℃の温度での挿入損失を0.55dB未満にすることができ、さらに85℃と25℃の温度での挿入損失の差を0.1dB以下にすることができる。
【0061】
表1に示す結果を詳細に考察すると、yを0.40まで減少させると、85℃と25℃の温度での挿入損失の差が0.10dBを超え、0.15dBとなる(試料番号10)。一方、yを0.90まで大きくすると、ΔHが大きくなり、25℃の温度での挿入損失が0.55dB以上となる(試料番号13)。以上のことから、所望の特性を満足するyの範囲は0.60〜0.80である。
【0062】
zを3.00まで減少させると、ΔHが大きくなり、25℃の温度での挿入損失が0.55dB以上となるとともに、4πMsも48mTを超えるので、フェライト・磁石組立体30の厚みが0.94mmを超える(試料番号1)。また、zを3.08まで大きくすると、ΔHが大きくなり、25℃の温度での挿入損失が増加する(試料番号5)。以上のことから、所望の特性を満足するzの範囲は3.01〜3.07である。
【0063】
aを0.24まで減少させると、ΔHが大きくなり、25℃の温度での挿入損失が0.55dBを超える(試料番号14)。また、aを0.38まで増加させると、4πMsが48mTを超えるので、フェライト・磁石組立体30の厚みが0.94mmを超える(試料番号17)。以上のことから、所望の特性を満足するaの範囲は0.26〜0.36である。
【0064】
bを0.25まで減少させると、4πMsが48mTを超えるので、フェライト・磁石組立体30の厚みが0.94mmを超える(試料番号18)。bを0.37まで増加させると、ΔHが大きくなり、25℃の温度での挿入損失が0.55dBを超える(試料番号21)。以上のことから、所望の特性を満足するbの範囲は0.27〜0.35である。
【0065】
cを0.57まで減少させると、4πMsが48mTを超えるので、フェライト・磁石組立体30の厚みが0.94mmを超える(試料番号22)。cを0.76まで増加させると、ΔHが増加し、25℃の温度での挿入損失が0.55dBを超える(試料番号25)。以上のことから、所望の特性を満足するcの範囲は0.59〜0.74である。
【0066】
dを0.00まで減少させると、ΔHが大きくなり、25℃の温度での挿入損失が0.55dBを超える(試料番号6)。dを0.09まで増加させても、同様にΔHが大きくなり、25℃の温度での挿入損失が0.55dBを超える(試料番号9)。以上のことから、所望の特性を満足するdの範囲は0.01〜0.08である。
【0067】
以上の実施の形態や実施例では、本発明の高周波用磁性体材料をアイソレータに適用した例について説明したが、サーキュレータ等の非可逆回路素子にも適用可能である。
【0068】
今回開示された実施の形態と実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は以上の実施の形態と実施例ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正や変形を含むものであることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の高周波用磁性体材料を用いることにより、磁性体と磁界発生部とから構成される非可逆回路素子の部品を小型化することができ、さらには非可逆回路素子、たとえばアイソレータ等を小型化することが可能になり、非可逆回路素子の消費電力を低減することが可能になる。
【符号の説明】
【0070】
30:フェライト・磁石組立体、31:永久磁石、32:フェライト、35:第1中心電極、36:第2中心電極。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式(Yz−x−yGdCa)(Fe8−z−a−b−cSnAl)O12−d/2で表わされるガーネット型フェライトを主成分とし、前記x、y、z、a、b、c、dは、モル比を示し、0.6≦y≦0.8、3.01≦z≦3.07、0.26≦a≦0.36、0.27≦b≦0.35、0.59≦c≦0.74、0.01≦d≦0.08(ただし、d=x−a−2c)を満たすことを特徴とする、高周波用磁性体材料。

【請求項2】
請求項1に記載された高周波用磁性体材料によって形成された磁性体と、
この磁性体に直流磁界を印加する磁界発生部と、
前記磁性体に配置された第1の中心導体と、
前記第1の中心導体と電気的絶縁状態で交差して前記磁性体の周りに1ターン以上巻き回して配置された第2の中心導体と、
を備えた、非可逆回路素子用部品。
【請求項3】
請求項2に記載の非可逆回路素子用部品を備えた、非可逆回路素子。
【請求項4】
当該非可逆回路素子が、アイソレータである、請求項3に記載の非可逆回路素子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−63483(P2011−63483A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216318(P2009−216318)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】