説明

高周波用誘電体磁器組成物、電子部品、誘電体共振器、誘電体フィルタ、誘電体デュプレクサ、および通信機装置

【課題】εrが15以下で、10GHzでのQが1000以上、共振周波数温度特性(τf)が±15ppm/℃の、高周波用の誘電体共振器に用いるのに好適な高周波用誘電体磁器組成物、それを用いた電子部品や通信機装置を提供する。
【解決手段】 フォルステライト(Mg2SiO4)、チタン酸カルシウム(CaTiO3)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、チタン酸マグネシウム(MgTiO3)を含む高周波用誘電体磁器組成物であって、その成分比が、
65重量%≦Mg2SiO4≦87.5重量%
5重量%≦(CaTiO3+SrTiO3)≦15重量%
2.5重量%≦MgTiO3≦20重量%
の条件を満たし、
CaTiO3とSrTiO3の合計に対するCaTiO3の重量比が、
0.25≦{CaTiO3/(CaTiO3+SrTiO3)}≦0.63
の条件を満たすようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波やミリ波などの高周波領域において利用される高周波用誘電体磁器組成物、ならびにそれを用いて構成される電子部品、誘電体共振器、誘電体フィルタ、誘電体デュプレクサ、および通信機装置に関する。
【背景技術】
【0002】
移動体通信に用いられる周波数は高周波化される傾向にあり、それに用いられる共振器などについても高周波に対応したものが要求されている。
【0003】
しかしながら、従来の誘電体(例えば、比誘電率(εr)=21程度の誘電体)を用いて、1/4波長型のTEMモードの共振器を設計すると、周波数が7GHzの場合、誘電体共振器の軸方向寸法は約2.3mmと短くなり、加工や実装に不具合が生じるという問題点がある。
【0004】
このような問題を解決するには、εrが低くて、Q値が大きく、さらに共振周波数温度特性(τf)が±15ppm/℃程度の特性を有する高周波用の誘電体材料が必要である。この観点から、xMgO−ySiO2(40≦x≦85、15≦y≦60、x+y=100)で表される組成を有する磁器組成物に、バリウムもしくはストロンチウムの一方または両方を、それぞれBaCO3もしくはSrCO3に換算して、その合計が0.3〜3.0重量%になるような割合で添加した高周波用磁器組成物が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
この高周波用磁器組成物は、フォルステライト(Mg2SiO4)を主成分としたものであり、εrが6〜8程度で、しかもQの値が高いという特徴を有している。
そして、特許文献1では、高周波用誘電体磁器組成物の組成を、フォルステライトの化学量論比からずらすとともに、バリウムおよびストロンチウムの一方もしくは両方を添加することにより、焼結性を改善し1300〜1400℃の低温での焼結を可能にしている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された高周波用磁器組成物は、共振周波数温度特性(τf)が−70ppm/℃程度で、温度特性の変化率が大きいため、誘電体共振器の用途には適していないという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3446249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するものであり、比誘電率(εr)が15以下で、10GHzでのQが1000以上、共振周波数温度特性(τf)が±15ppm/℃の、高周波用の誘電体共振器に用いるのに好適な高周波用誘電体磁器組成物,それを用いた電子部品、誘電体共振器、誘電体フィルタ、誘電体デュプレクサ、および通信機装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明(請求項1)の高周波用誘電体磁器組成物は、
フォルステライト(Mg2SiO4)、チタン酸カルシウム(CaTiO3)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、チタン酸マグネシウム(MgTiO3)を含む高周波用誘電体磁器組成物であって、
その成分比が、
65重量%≦Mg2SiO4≦87.5重量%
5重量%≦(CaTiO3+SrTiO3)≦15重量%
2.5重量%≦MgTiO3≦20重量%
の条件を満たし、
CaTiO3とSrTiO3の合計に対するCaTiO3の重量比が、
0.25≦{CaTiO3/(CaTiO3+SrTiO3)}≦0.63
の条件を満たすことを特徴としている。
【0010】
また、本発明(請求項2)の電子部品は、請求項1に記載の高周波用誘電体磁器組成物を誘電体として用いたものであることを特徴としている。
【0011】
また、本発明(請求項3)の誘電体共振器は、誘電体磁器が入出力端子に電磁界結合して作動するものである誘電体共振器であって、前記誘電体磁器が、請求項1に記載の高周波用誘電体磁器組成物からなるものであることを特徴としている。
【0012】
また、本発明(請求項4)の誘電体フィルタは、請求項3に記載の誘電体共振器と、前記誘電体共振器の入出力端子に接続される外部結合手段とを備えていることを特徴としている。
【0013】
また、本発明(請求項5)の誘電体デュプレクサは、少なくとも2つの誘電体フィルタと、前記誘電体フィルタのそれぞれに接続される入出力接続手段と、前記誘電体フィルタに共通に接続されるアンテナ接続手段とを備える誘電体デュプレクサであって、前記誘電体フィルタの少なくとも1つが請求項4に記載の誘電体フィルタであることを特徴としている。
【0014】
また、本発明(請求項6)の通信機装置は、請求項5に記載の誘電体デュプレクサと、前記誘電体デュプレクサの少なくとも1つの入出力接続手段に接続される送信用回路と、前記送信用回路に接続される前記入出力手段とは異なる少なくとも1つの入出力接続手段に接続される受信用回路と、前記誘電体デュプレクサのアンテナ接続手段に接続されるアンテナとを備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明(請求項1)の高周波用誘電体磁器組成物は、Mg2SiO4、CaTiO3、SrTiO3、およびMgTiO3を含む高周波用誘電体磁器組成物であって、その成分比が、
65重量%≦Mg2SiO4≦87.5重量%
5重量%≦(CaTiO3+SrTiO3)≦15重量%
2.5重量%≦MgTiO3≦20重量%
の条件を満たし、
CaTiO3とSrTiO3の合計に対するCaTiO3の重量比が、
0.25≦{CaTiO3/(CaTiO3+SrTiO3)}≦0.63
の条件を満たすようにしているので、εrが15以下、10GHzでのQが1000以上、共振周波数温度特性(τf)が±15ppm/℃の、特に高周波用の誘電体共振器に好適な高周波用誘電体磁器組成物を提供することができる。
【0016】
すなわち、フォルステライト(Mg2SiO4)単体は、共振周波数温度特性(τf)が−70ppm/℃と負側に大きいため、τfが±15ppm/℃以内であることが要求される誘電体共振器用途には適していないが、フォルステライト(Mg2SiO4)とは逆に、共振周波数温度特性(τf)が正側に大きい材料であるCaTiO3(εr=170,τf=800ppm/℃)およびSrTiO3(εr=255,τf=1670ppm/℃)を添加することにより、τfを補正することが可能になる。
【0017】
特に、SrTiO3は、τfがCaTiO3の約2倍であるのに対し、εrは1.5倍しかないため、CaTiO3単体で添加した場合よりεrを高めることなく、τfを正側へシフトさせることができる。ただし、SrTiO3はCaTiO3よりQ値が低いため、εr,Q値,τfの全てを誘電体共振器用に適した材料とするためには、本発明の高周波用誘電体磁器組成物のように、SrTiO3とCaTiO3とを共存させることが必要である。
したがって、上述のような本発明の構成とすることにより、εrが15以下、10GHzでのQが1000以上、共振周波数温度特性(τf)が±15ppm/℃の、特に高周波用の誘電体共振器に好適な高周波用誘電体磁器組成物を提供することが可能になる。
【0018】
また、本発明の電子部品は、請求項1に記載の高周波用誘電体磁器組成物を誘電体として用いるようにしているので、εrが15以下、10GHzでのQが1000以上、共振周波数温度特性(τf)が±15ppm/℃という高周波用誘電体磁器組成物の特性を利用した、高周波特性に優れた電子部品を提供することが可能になる。
【0019】
また、本発明の誘電体共振器は、誘電体磁器が入出力端子に電磁界結合して作動する誘電体共振器において、誘電体磁器として、上記の請求項1記載の高周波用誘電体磁器組成物からなる誘電体磁器(すなわち、εrが15以下で、10GHzでのQが1000以上、共振周波数温度特性(τf)が±15ppm/℃である誘電体磁器)を用いるようにしているので、高周波用の誘電体共振器を設計する場合にも、軸方向寸法を過度に小さくする必要がなく、加工や実装が容易で、特性に優れた誘電体共振器を提供することが可能になる。
【0020】
また、本発明の誘電体フィルタは、請求項3に記載の誘電体共振器と、該誘電体共振器の入出力端子に接続される外部結合手段とを備えているので、良好な特性を備えた誘電体フィルタを提供することが可能になる。
【0021】
また、本発明の誘電体デュプレクサは、少なくとも2つの誘電体フィルタと、誘電体フィルタのそれぞれに接続される入出力接続手段と、誘電体フィルタに共通に接続されるアンテナ接続手段とを備える誘電体デュプレクサであって、誘電体フィルタの少なくとも1つとして、請求項4記載の誘電体フィルタを用いているので、良好な特性を備えた誘電体デュプレクサを提供することが可能になる。
【0022】
また、本発明の通信機装置は、請求項5記載の誘電体デュプレクサと、誘電体デュプレクサの少なくとも1つの入出力接続手段に接続される送信用回路と、送信用回路に接続される入出力手段とは異なる少なくとも1つの入出力接続手段に接続される受信用回路と、誘電体デュプレクサのアンテナ接続手段に接続されるアンテナとを備えているので、良好な特性を備えた通信機装置を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の高周波用誘電体磁器組成物を用いて形成された、本発明の実施例にかかる誘電体共振器を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は正面断面図である。
【図2】本発明の実施例にかかる誘電体フィルタを示す斜視図である。
【図3】本発明の実施例にかかる誘電体デュプレクサを示す斜視図である。
【図4】本発明の実施例にかかる通信機装置を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明の実施例を示して、本発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【実施例1】
【0025】
[高周波用誘電体磁器組成物の作製]
(1)出発原料として、フォルステライト(Mg2SiO4)、チタン酸カルシウム(CaTiO3)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、チタン酸マグネシウム(MgTiO3)の各粉末を用意した。そして、これらの原料粉末を表1〜3に示す割合で秤量、配合した。
(2)それから、この混合粉末に、適量のバインダを添加して造粒し、プレス成形して、直径12mm、厚み9mmの成形体を得た。
(3)次に、この成形体を、大気雰囲気中、1200〜1300℃、4時間保持の条件で焼成することにより、焼結体である各高周波用誘電体磁器(試料)を得た。
【0026】
[特性の測定・評価]
それから、得られた高周波用誘電体磁器(以下単に「誘電体磁器」ともいう)について、10〜12GHzにおける誘電特性(Q値および比誘電率(εr))を誘電体共振器法により測定した。
なお、誘電体共振器法では、共振周波数におけるQ値が測定されることから、共振周波数f(GHz)にQ値を掛け合わせたf×Qの値を求めた後、10GHzにおける値に換算するため、その値を10で除算して、Q(10GHz)の値を求めた。
また、測定した共振周波数から、+25〜+55℃の温度範囲における共振周波数の温度係数(τf)を求めた。
各試料の組成と特性の測定結果を表1〜3に示す。なお、表1〜3には,各原料の割合に加えて、「CaTiO3+SrTiO3の合計量」の割合、および、「CaTiO3/(CaTiO3+SrTiO3)」の値を併せて示している。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
【表3】

【0030】
以下、表1〜3を参照しつつ、各試料の組成と特性との関係について説明する。
(1)表1の試料番号1〜4の誘電体磁器について
表1の試料番号1〜4の誘電体磁器は、原料として、MgTiO3を配合せずに、Mg2SiO4、CaTiO3、SrTiO3の3種類の原料のみを配合した高周波用誘電体磁器組成物を焼成して得たものである。なお、試料番号1〜4の誘電体磁器は、CaTiO3とSrTiO3の割合を重量比で1:1に固定し、高周波用誘電体磁器組成物中のCaTiO3とSrTiO3の合計量の割合を増加させていったものである。
【0031】
この試料番号1〜4の誘電体磁器の場合、表1に示すように、共振周波数温度特性τfが、Mg2SiO4(フォルステライト)単体の場合の−70ppm/℃と比べて改善されていることがわかる。
しかし、試料番号1および試料番号2の誘電体磁器は、共振周波数温度特性τfが負側に大きくなっており、好ましくないことが確認された。
なお、試料番号1〜4における共振周波数温度特性τfの傾向からして、CaTiO3+SrTiO3の割合が試料番号1の場合よりも小さくなる(すなわち、2.5重量%未満になる)と、共振周波数温度特性τfがさらに負側へ大きくなることは明白であり、好ましくない。
【0032】
また、試料番号3および試料番号4の誘電体磁器は、共振周波数温度特性τf±15ppm/℃以内という条件を満足するが、Q(10GHz)が400未満と低いため、好ましくない。
【0033】
また、試料番号1〜4におけるQ値の傾向からして、CaTiO3+SrTiO3の割合が試料番号4より多くなっても、Q値の改善の見込みはない。
【0034】
通常、高周波用の誘電体共振器への用途には、Q(10GHz)は少なくとも1000以上は必要であることから,この試料番号1〜4の高周波用誘電体磁器組成物はそのような用途には適していない。
【0035】
これらの結果から、原料として、MgTiO3を配合せずに、Mg2SiO4、CaTiO3、SrTiO3の3種類の原料のみを配合した高周波用誘電体磁器組成物を焼成することにより得られる試料番号1〜4の誘電体磁器では、τfとQ値を両立できないことが確認された。
【0036】
(2)表2の試料番号5〜23の誘電体磁器について
表2の試料番号5〜23の誘電体磁器は、Mg2SiO4、CaTiO3、SrTiO3の3種類の原料にさらにMgTiO3を配合したものであり、Mg2SiO4の一部をMgTiO3で置換した誘電体磁器である。
【0037】
Mg2SiO4の一部をMgTiO3に置換した表2の試料番号5〜23の誘電体磁器は、いずれもQ(10GHz)が大幅に改善されており、試料番号20の誘電体磁器を除いて、誘電体共振器の用途に必要とされるQ(10GHz)≧1000の要件を満足することが確認された。
【0038】
また、この表2の試料番号7〜12,14,15,18,19、および23の誘電体磁器は、τf=±15ppm/℃以内という条件を満足することが確認された。
【0039】
さらに、試料番号7,8,9,10の誘電体磁器の場合、比誘電率εrが10以下と非常に小さく、かつ、Q(10GHz)、τfともに良好な値が得られており、特に優れた誘電体磁器であることが確認された。
(3)表3の試料番号24〜31の誘電体磁器について
表3の試料番号24〜31の誘電体磁器は、基本的には、Mg2SiO4,CaTiO3,SrTiO3,およびMgTiO3を配合した高周波用誘電体磁器組成物であって、CaTiO3とSrTiO3の合計に対するCaTiO3の重量比を変動させたものを焼成することにより得られる誘電体磁器である。なお、表3には、表2に示した試料番号11の誘電体磁器(CaTiO3とSrTiO3の合計に対するCaTiO3の重量比:0.5の誘電体磁器)のデータについても、表3に併せて示している。
【0040】
表3より、試料番号26,27,および28の誘電体磁器においては(試料番号11の誘電体磁器を含めて)、Q(10GHz)、τfともに良好な値が得られていることがわかる。
なお、CaTiO3とSrTiO3の合計に対するCaTiO3の重量比と特性の関係についてみると、CaTiO3/(CaTiO3+SrTiO3)=0.25〜0.63の範囲で良好な電気特性が得られていることがわかる。
【0041】
また、CaTiO3/(CaTiO3+SrTiO3)=0.25〜0.63の範囲ではεrはほとんど変動していないことから、CaTiO3/(CaTiO3+SrTiO3)により、τfを独立して自由に制御することが可能であことがわかる。
【0042】
以上の結果より、フォルステライト(Mg2SiO4)単体は、共振周波数温度特性(τf)が−70ppm/℃と負側に大きいため、±15ppm/℃以内が要求される誘電体共振器用途には適していないが、フォルステライト(Mg2SiO4)とは逆に、共振周波数温度特性(τf)が正側に大きい材料であるCaTiO3(εr=170,τf=800ppm/℃)およびSrTiO3(εr=255,τf=1670ppm/℃)を添加することにより、τfを補正できることが確認された。
【0043】
また、τfがCaTiO3の約2倍であるのに対し、εrが1.5倍しかないSrTiO3とCaTiO3とを共存させることにより、εr,Q値,τfの全ての特性が,高周波用の誘電体共振器に適した誘電体磁器が得られることが確認された。
【実施例2】
【0044】
図1は本発明の高周波用誘電体磁器組成物(例えば、表2の試料番号8の高周波用誘電体磁器組成物)を用いて作製した誘電体共振器を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は正面断面図である。
【0045】
この誘電体共振器10は、誘電体磁器が入出力端子に電磁界結合して作動するタイプの誘電体共振器であって、図1(a),(b)に示すように、貫通孔12を有する直方体形状の誘電体ブロック(誘電体磁器)11と、誘電体ブロック11の外周面に形成された外導体13と、誘電体ブロック11の貫通孔12の内周面に形成された内導体14とを備えている。なお、誘電体ブロック11の一方端面15には外導体13が形成されているが、一方端面15と対向する他方端面16には、外導体は形成されておらず、誘電体セラミックが露出した構造を有している。
また、この実施例2の誘電体共振器10では、内導体14および外導体13の構成材料として卑金属のCuが用いられている。
【0046】
そして、この誘電体共振器10においては、貫通孔12の内周面に形成された内導体14、あるいは誘電体ブロック11の外周面に形成された外導体13をレーザ加工する(内導体14および/または外導体13の一部領域を除去する)ことにより特性の調整(例えば共振周波数の調整)が行われるように構成されている。
【実施例3】
【0047】
図2は本発明の高周波用誘電体磁器組成物(例えば、表2の試料番号8の高周波用誘電体磁器組成物など)を用いて作製した誘電体フィルタを示す斜視図である。
【0048】
この誘電体フィルタ20は、図2に示すように、複数の貫通孔22を有する直方体形状の誘電体ブロック(誘電体磁器)21と、誘電体ブロック21の外周面に形成された外導体23と、誘電体ブロック21の貫通孔22の内周面に形成された内導体24と、上面28から前側端面29aにかけて形成された外部結合手段27a,上面28から後側端面29bにかけて形成された外部結合手段27bを備えている。なお、誘電体ブロック21の一方端面(右側端面)25には外導体23が形成されているが、一方端面(右側端面)25と対向する他方端面(左側端面)26には、外導体は形成されておらず、誘電体セラミックが露出した構造を有している。
また、この実施例3の誘電体フィルタ20においても、内導体24と外導体23の構成材料として卑金属のCuが用いられている。
【0049】
そして、この誘電体フィルタ20においては、貫通孔22の内周面に形成された内導体24、あるいは誘電体ブロック21の外周面に形成された外導体23をレーザ加工することにより特性の調整(例えばフィルタ波形の調整)が行われるように構成されている。
【実施例4】
【0050】
図3は本発明の高周波用誘電体磁器組成物(例えば、表2の試料番号8の高周波用誘電体磁器組成物)を用いて作製した誘電体デュプレクサを示す斜視図である。
【0051】
この誘電体デュプレクサ30は、図3に示すように、複数(4つ)の貫通孔32を有する直方体形状の誘電体ブロック31と、誘電体ブロック31の外周面に形成された外導体33と、誘電体ブロック31の貫通孔32の内周面に形成された内導体34と、上面39から左側端面39bに回り込むように形成された入力接続手段36,出力接続手段37,アンテナ接続手段38を備えている。なお、誘電体ブロック31の一方端面(右側端面)39aには外導体33が形成されているが、一方端面(右側端面)39aと対向する他方端面(左側端面)39bには、外導体は形成されておらず、誘電体セラミックが露出した構造を有している。
また、この実施例4の誘電体デュプレクサ30においても、内導体34と外導体33の構成材料として卑金属のCuが用いられている。
【0052】
この誘電体デュプレクサ30においては、貫通孔32の内周面に形成された内導体34、あるいは誘電体ブロック31の外周面に形成された外導体33をレーザ加工することにより特性の調整が行われるように構成されている。
【実施例5】
【0053】
図4は、図1に示した上記実施例2の誘電体共振器10を用いて構成された通信機装置の一例を示すブロック図である。
【0054】
図4に示す通信機装置40は、誘電体デュプレクサ42、送信用回路44、受信用回路46およびアンテナ48を備えている。
送信用回路44は、誘電体デュプレクサ42の入力接続手段50に接続され、受信用回路46は、誘電体デュプレクサ42の出力接続手段52に接続されている。
また、アンテナ48は、誘電体デュプレクサ42のアンテナ接続手段54に接続されている。
【0055】
通信機装置40を構成する誘電体デュプレクサ42は、2つの誘電体フィルタ56、58を備えている。誘電体フィルタ56、58は、本発明の誘電体共振器10に外部結合手段60を接続することにより構成されるものである。図4に示す実施例では、誘電体共振器10に設けた入出力端子にそれぞれ外部結合手段60を接続することにより、誘電体フィルタ56および58のそれぞれが構成されている。
【0056】
そして、一方の誘電体フィルタ56は、入力接続手段50と他方の誘電体フィルタ58との間に配設され、他方の誘電体フィルタ58は、一方の誘電体フィルタ56と出力接続手段52との間に配設されている。
【0057】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、高周波用誘電体磁器組成物への微量添加物の添加の有無や具体的な焼成条件、誘電体共振器、誘電体フィルタ、誘電体デュプレクサ、および通信機装置の具体的な構成などに関し、発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0058】
上述のように、本発明によれば、εrが15以下で、10GHzでのQが1000以上、共振周波数温度特性(τf)が±15ppm/℃で、高周波用の誘電体共振器に用いるのに好適な高周波用誘電体磁器組成物を提供することが可能になるとともに、この高周波用誘電体磁器組成物を用いることにより、小型で、優れた特性を有する誘電体共振器、誘電体フィルタ、誘電体デュプレクサ、通信機装置などを有利に構成することが可能になる。
したがって、本発明は、誘電体共振器、誘電体フィルタ、誘電体デュプレクサなどの電子部品、および通信機装置などの分野に広く利用することができる。
【符号の説明】
【0059】
10 誘電体共振器
11 誘電体ブロック(誘電体磁器)
12 貫通孔
13 外導体
14 内導体
15 一方端面
16 他方端面
20 誘電体フィルタ
21 誘電体ブロック(誘電体磁器)
22 貫通孔
23 外導体
24 内導体
25 誘電体ブロックの一方端面(右側端面)
26 誘電体ブロックの他方端面(左側端面)
27a、27b 外部結合手段
28 誘電体ブロックの上面
29a 誘電体ブロックの前側端面
29b 誘電体ブロックの後側端面
30 誘電体デュプレクサ
31 誘電体ブロック
32 貫通孔
33 外導体
34 内導体
36 入力接続手段
37 出力接続手段
38 アンテナ接続手段
39 誘電体デュプレクサの上面
39a 誘電体デュプレクサ一方端面(右側端面)
39b 誘電体デュプレクサ他方端面(左側端面)
40 通信機装置
42 誘電体デュプレクサ
44 送信用回路
46 受信用回路
48 アンテナ
50 入力接続手段
52 出力接続手段
54 アンテナ接続手段
56、58 誘電体フィルタ
60 外部結合手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォルステライト(Mg2SiO4)、チタン酸カルシウム(CaTiO3)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、チタン酸マグネシウム(MgTiO3)を含む高周波用誘電体磁器組成物であって、
その成分比が、
65重量%≦Mg2SiO4≦87.5重量%
5重量%≦(CaTiO3+SrTiO3)≦15重量%
2.5重量%≦MgTiO3≦20重量%
の条件を満たし、
CaTiO3とSrTiO3の合計に対するCaTiO3の重量比が、
0.25≦{CaTiO3/(CaTiO3+SrTiO3)}≦0.63
の条件を満たすことを特徴とする高周波用誘電体磁器組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の高周波用誘電体磁器組成物を誘電体として用いたものであることを特徴とする電子部品。
【請求項3】
誘電体磁器が入出力端子に電磁界結合して作動するものである誘電体共振器であって、前記誘電体磁器が、請求項1に記載の高周波用誘電体磁器組成物からなるものであることを特徴とする誘電体共振器。
【請求項4】
請求項3に記載の誘電体共振器と、前記誘電体共振器の入出力端子に接続される外部結合手段とを備えていることを特徴とする誘電体フィルタ。
【請求項5】
少なくとも2つの誘電体フィルタと、前記誘電体フィルタのそれぞれに接続される入出力接続手段と、前記誘電体フィルタに共通に接続されるアンテナ接続手段とを備える誘電体デュプレクサであって、前記誘電体フィルタの少なくとも1つが請求項4に記載の誘電体フィルタであることを特徴とする誘電体デュプレクサ。
【請求項6】
請求項5に記載の誘電体デュプレクサと、前記誘電体デュプレクサの少なくとも1つの入出力接続手段に接続される送信用回路と、前記送信用回路に接続される前記入出力手段とは異なる少なくとも1つの入出力接続手段に接続される受信用回路と、前記誘電体デュプレクサのアンテナ接続手段に接続されるアンテナとを備えていることを特徴とする通信機装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−285319(P2010−285319A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−141097(P2009−141097)
【出願日】平成21年6月12日(2009.6.12)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】