説明

高周波電力増幅器

【課題】出力電力に応じて出力経路を選択することにより、中出力および低出力における電力効率を向上させた高周波電力増幅器を提供する。
【解決手段】PAモジュール100は、HBT101及び102が配置された高出力経路HR1と、HBT103が配置された中出力経路MR1と、HBT104が配置された低出力経路LR1とを含み、HBT103の出力ノードに接続されたインピーダンス変換回路117と、一端が上記出力ノードと出力端子との間に接続され、他端がコンデンサ135に接続されたスイッチ105と、HBT104の出力ノードと出力端子との間に接続されたインピーダンス変換回路116とを具備し、スイッチ105がオフ状態の場合、上記接続ノードから出力端子を見たインピーダンスを50Ωより小さいインピーダンスに変換し、HBT104の出力ノードから出力端子を見たインピーダンスを50Ωより大きいインピーダンスに変換する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話端末をはじめとする移動体通信の送信用に用いられる高周波電力増幅器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話端末の小型・軽量・長時間通話を実現するために、バッテリーの小型化に加えて、電力消費量のウエイトが高い送信用電力増幅器の高効率化(省電力化)が重要とされている。携帯電話端末用の送信用電力増幅器は、PAモジュール(Power Amplifierモジュール)と呼ばれ、高周波特性と電力変換効率に優れるGaAs高周波トランジスタが主に用いられている。このGaAs高周波トランジスタには大別して、電界効果型トランジスタ(以下、FETと記す。)とヘテロ接合型バイポーラトランジスタ(以下、HBTと記す。)とがある。
【0003】
W−CDMA(Wideband−Code Division Multiple Access)をはじめとするCDMA方式では、基地局に到達する高周波電力がほぼ等しくなるように、基地局までの距離や周辺環境に応じて、携帯端末のアンテナから出力する高周波電力を制御する手法が用いられている。一般的には、基地局までの距離が遠い場合には、上記アンテナからの出力電力は高く、逆にその距離が近い場合には、上記アンテナからの出力電力は低い。アンテナからの出力電力は、PAモジュールの出力電力を制御することにより行われる。アンテナからの出力電力は、相対的に低く抑えられて使用される場合が多く、低出力条件におけるPAモジュールの高効率化を実現することは、電力消費量を低減するために極めて重要なことである。しかしながら、電力増幅器においては、高出力時に電力効率が最も高くなるように設計されている。このために、その出力電力以下においては電力効率が低下する。
【0004】
特許文献1では、中出力時の効率を改善する手段として、要求される出力電力に応じて使用する出力経路を切替える2モード切替のPAモジュールが提案されている。
【0005】
図6は、特許文献1に記載されたPAモジュールの回路ブロック図である。以下、この図を参照しながら従来のPAモジュールを説明する。なお、以降、同じ要素には同一の符号を付与して説明を行う。同図に記載されたPAモジュール300は、一例として、出力端子322からの高周波出力が15dBmより大きい場合は高出力経路の回路が動作し、15dBm以下の場合には中出力経路の回路が動作するように設計されている。
【0006】
まず、高出力経路の動作を説明する。入力端子321から入力された高周波電力は、入力整合回路311を通過してHBT301に入力される。HBT301で増幅された高周波電力は、段間整合回路312を通過してHBT302に入力される。HBT302で増幅された高周波電力は、出力整合回路313を通過して出力端子322から出力される。
【0007】
次に、中出力経路の動作を説明する。入力端子321から入力された高周波電力は、入力整合回路314を通過してHBT303に入力される。HBT303で増幅された高周波電力は、出力整合回路315、出力整合回路313を通過して出力端子322から出力される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第7135919号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、図6に記載された従来の2モード切替のPAモジュール300においては、中出力時よりさらに出力レベルの低い低出力動作においては、低消費電力化の実現が困難という問題がある。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑み、回路規模を大きくすることなく、中出力および低出力における電力効率を向上させた高周波電力増幅器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る高周波電力増幅器は、高周波信号を増幅する複数の経路から、出力電力レベルに応じた経路を選択して使用する高周波電力増幅器であって、前記高周波信号が印加される入力端子と増幅された高周波信号が出力される出力端子とに接続され、前記高周波信号を増幅する第1のトランジスタが配置された、高出力レベルが要求された場合に選択される高出力経路と、前記入力端子と前記出力端子とに接続され、前記高周波信号を増幅する第2のトランジスタが配置された、中出力レベルが要求された場合に選択される中出力経路と、前記入力端子と前記出力端子とに接続され、前記高周波信号を増幅する第3のトランジスタが配置された、低出力レベルが要求された場合に選択される低出力経路とを含み、前記第2のトランジスタの出力ノードに接続された第1のインピーダンス変換回路と、一端が、前記出力ノードと前記出力端子との間であって、前記中出力経路上に接続され、他端が、第1のコンデンサを介して接地された第1のスイッチと、前記第3のトランジスタの出力ノードと前記出力端子との間であって、前記低出力経路上の接続ノードに接続された第2のインピーダンス変換回路とを具備し、前記第1のスイッチがオフ状態の場合、前記第1のインピーダンス変換回路は、前記接続ノードから前記出力端子を見たインピーダンスを、50Ωより小さいインピーダンスに変換し、前記第2のインピーダンス変換回路は、前記第3のトランジスタの出力ノードから前記出力端子を見たインピーダンスを、50Ωより大きいインピーダンスに変換することを特徴とするものである。
【0012】
上記構成の高周波電力増幅器によれば、要求される出力電力レベルに応じて、3つの出力経路を選択することができる。具体的には、低出力時には、第1のスイッチをオフ状態とすることで、第1のインピーダンス変換回路により、出力端子のインピーダンスを、一旦50Ωより小さいインピーダンス(Z、Z)に変換する。また、第2のインピーダンス変換回路は、上記50Ωより小さくなったインピーダンスを、50Ωより高いインピーダンスに変換する。これにより、低出力経路における低インピーダンスから高インピーダンスへの変換過程において、インピーダンス不整合による電力ロスを最小限に抑えることができる。よって、従来の2モード切替型のPAモジュールと比較して、電力効率を向上させることが可能となる。
【0013】
また、本発明の一態様は、さらに、前記第1のトランジスタの出力ノードと前記出力端子との間に直列挿入された第2のスイッチと、前記第2のトランジスタの出力ノード及び前記第1のスイッチの接続点と、前記出力端子との間に直列挿入された第3のスイッチとを備えてもよい。
【0014】
これにより、高出力動作時には第3のスイッチをオフさせることで中出力経路が完全に切り離され、また、中出力動作時及び低出力動作時には第2のスイッチをオフさせることで高出力経路が完全に切り離されるので、アイソレーション特性を向上させることができる。
【0015】
また、本発明の一態様は、前記第1のインピーダンス変換回路は、一端が、前記第2のトランジスタの出力ノードに接続された第1のインダクタと、一端が、前記第1のインダクタの他端に接続され、他端が接地された第2のコンデンサとを備えることが好ましい。
【0016】
これにより、従来では、第2のトランジスタから出力される高周波電力がコレクタ電源端子に漏れることを防止するために一般的に設けられるチョークコイルとして機能していた第1のインダクタを、本発明では、低出力増幅時の低インピーダンス化に寄与させるべく、低インダクタンス化することにより小型化に寄与できる。
【0017】
また、本発明の一態様は、前記第1のスイッチがオン状態の場合、前記第1のインダクタのリアクタンスと前記第1のコンデンサのリアクタンスとの和が実質的に0となることが好ましい。
【0018】
これにより、中出力動作時には第1のスイッチをオン状態とすることで、中出力増幅時のリアクタンス成分を除去して、中出力経路のインピーダンスを、50Ωに調整できる。
【0019】
また、本発明の一態様は、前記第2のインピーダンス変換回路は、一端が、前記第2のトランジスタの出力ノードと前記第1のスイッチの一端との間であって前記中出力経路上に接続され、他端が前記第3のトランジスタの出力ノードに接続された第2のインダクタと、一端が、前記第3のトランジスタの出力ノードに接続され、他端が接地された第3のコンデンサとを備えることが好ましい。
【0020】
これにより、第3のトランジスタの出力ノードから出力端子を見たインピーダンスを、50Ωより高いインピーダンスに変換することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、要求される出力電力に応じて、高出力経路と中出力経路と低出力経路を切替えて動作させることで、低出力時の電力効率を改善することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の高周波電力増幅器の実施の形態1に係るPAモジュールの回路ブロック図である。
【図2】実施の形態1に係るPAモジュールの低出力経路におけるZ、Z、Zの関係を示すスミスチャートである。
【図3】実施の形態1に係る比較例を示すPAモジュールの回路ブロック図である。
【図4】実施の形態1に係る比較例を示すPAモジュールの低出力経路におけるZA1、ZB1、ZC1の関係を示すスミスチャートである。
【図5】本発明の高周波電力増幅器の実施の形態2に係るPAモジュールの回路ブロック図である。
【図6】特許文献1に記載されたPAモジュールの回路ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る高周波電力増幅器の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0024】
(実施の形態1)
図1は、本発明の高周波電力増幅器の実施の形態1に係るPAモジュールの回路ブロック図である。同図に記載されたPAモジュール100は、3モード切替型のPAモジュールであり、高出力電力用の経路である高出力経路HR1と、中出力電力用の経路である中出力経路MR1と、低出力電力用の経路である低出力経路LR1とを含む。
【0025】
高出力経路HR1は、入力端子121と出力端子122とに接続され、当該経路には、入力整合回路111と、HBT101と、段間整合回路112と、HBT102と出力整合回路113とが配置されている。HBT101及び102は、入力高周波信号を増幅する第1のトランジスタである。上記構成により、高出力経路HR1は、高出力レベルが要求された場合に選択される。
【0026】
中出力経路MR1は、入力端子121と出力端子122とに接続され、当該経路には、入力整合回路114と、HBT103とが配置されている。HBT103は、入力高周波信号を増幅する第2のトランジスタである。上記構成により、中出力経路MR1は、中出力レベルが要求された場合に選択される。
【0027】
低出力経路LR1は、入力端子121と出力端子122とに接続され、当該経路には、入力整合回路115と、HBT104とが配置されている。HBT104は、入力高周波信号を増幅する第3のトランジスタである。上記構成により、低出力経路LR1は、低出力レベルが要求された場合に選択される。
【0028】
また、HBT103の出力ノードには、第1のインピーダンス変換回路であるインピーダンス変換回路117が接続されている。
【0029】
また、HBT103の出力ノードと出力端子122との間であって、中出力経路MR1上には、スイッチ105の一端が接続されている。スイッチ105の他端は、コンデンサ135を介して接地されている。
【0030】
また、HBT104の出力ノードと出力端子122との間であって、低出力経路LR1上の接続ノードには、第2のインピーダンス変換回路であるインピーダンス変換回路116が接続されている。
【0031】
インピーダンス変換回路117は、インダクタ133及びコンデンサ134で構成される。インダクタ133は、第1のインダクタであり、一端がHBT103の出力ノードに接続され、他端がコンデンサ134の一端に接続されている。コンデンサ134は、第2のコンデンサであり、他端が接地されている。また、インダクタ133とコンデンサ134との接続点には、コレクタ電源端子143が接続されている。インダクタ133のインダクタンス値は、高周波電力がコレクタ電源端子143に漏れることを防止するために一般的に設けられるチョークコイルの値よりも小さく、中出力経路MR1及び低出力経路LR1のインピーダンス整合に影響を与える。
【0032】
上記構成において、中出力動作時にはスイッチ105をオンさせ、低出力動作時にはスイッチ105をオフさせる。
【0033】
インピーダンス変換回路116は、インダクタ131及びコンデンサ132で構成される。インダクタ131は、第2のインダクタであり、一端がHBT103の出力ノードとスイッチ105の一端との間であって中出力経路MR1上に接続され、他端がHBT104の出力ノードに接続されている。コンデンサ132は、第3のコンデンサであり、一端がHBT104の出力ノードに接続され、他端が接地されている。
【0034】
一例として、PAモジュール100は、要求される出力電力である出力端子122からの高周波出力が15dBmより大きい場合は高出力経路HR1が動作し、7dBmより大きく15dBm以下の範囲では中出力経路MR1が動作し、7dBm以下の場合には低出力経路LR1が動作するように設計されている。
【0035】
まず、高出力経路HR1における動作を説明する。入力端子121から入力された高周波電力は、入力整合回路111を通過してHBT101に入力される。HBT101で増幅された高周波電力は、段間整合回路112を通過してHBT102に入力される。HBT102で増幅された高周波電力は、出力整合回路113を通過して出力端子122から出力される。
【0036】
次に、中出力経路MR1における動作を説明する。中出力動作時には、スイッチ105をオンする。その結果、インダクタ133及びコンデンサ135により、中出力経路MR1のインピーダンスは、50Ωに変換される。これは、スイッチ105がオンの場合、インダクタ133のリアクタンスとコンデンサ135のリアクタンスとの和が実質的に0となることで、中出力経路MR1のインピーダンスのリアクタンス成分が打ち消されることによる。この構成により、入力端子121から入力された高周波電力は、入力整合回路114を通過してHBT103に入力され、HBT103で増幅された高周波電力が、出力端子122から出力される。
【0037】
次に、低出力経路LR1における動作を説明する。低出力動作時には、スイッチ105をオフとする。その結果、コンデンサ135がオープン状態となる。ここで、図1の回路ブロック図において、インダクタ131の出力ノードのうちHBT103の出力ノード側の点をAとし、インダクタ131の出力ノードのうちHBT104の出力ノード側の点をBとし、HBT104のコレクタ端子側の点をCとし、HBT103の出力ノードとインダクタ131との接続点をDとし、点Aから点Dを見たインピーダンスをZ、点Bから点Aを見たインピーダンスをZ、及び点Cから点Bを見たインピーダンスをZとする。
【0038】
図2は、実施の形態1に係るPAモジュールの低出力経路LR1におけるZ、Z、Zの関係を示すスミスチャートである。スイッチ105がオフとなりコンデンサ135がオープンとなった結果、インダクタ133の影響によりZのインピーダンスは低インピーダンスとなる。そして、低インピーダンスとなったZから、Zを経て、コンデンサ132により、Zが高インピーダンスへと変換される。
【0039】
つまり、インピーダンス変換回路117は、低出力経路LR1では、スイッチ105をオフとすることで、A点及びB点から出力端子122を見たインピーダンスを、一旦50Ωより小さいインピーダンス(Z、Z)に変換し、インピーダンス変換回路116は、C点から出力端子122を見たインピーダンスを、50Ωより高いインピーダンス(Z)に変換する。
【0040】
上記構成における実施例として、次のような特性改善が得られた。
【0041】
低出力動作において、周波数824MHz、電源電圧3.4V、出力電力7dBmの条件で、−40dBc以下のACLR(隣接チャネル漏洩電力比)と15%以上の効率を得るためには、Zは200Ωに設計する必要がある。この観点から、インダクタ133を8nH(Z=20+j24Ω)、インダクタ131を7nH(Z=20+j62Ω)、コンデンサ132を3pF(Z=205−j6Ω)とすることにより、低出力時の電力効率は、12%から18%へと改善した。インダクタ131を、従来は15nHであったが、7nHと小さくすることで、伝送ロスも小さくなる。また、インダクタ133を、従来のチョークコイルから、インピーダンス整合素子として8nHとすることにより、小型化にも寄与できる。
【0042】
上述した本発明の高周波増幅器に係るPAモジュールに対して、以下、比較例を説明して本発明との構成及び効果の差異を明確にする。
【0043】
図3は、実施の形態1に係る比較例を示すPAモジュールの回路ブロック図である。PAモジュール200は、3モード切替型のPAモジュールであり、高出力電力用の経路である高出力経路HR2と、中出力電力用の経路である中出力経路MR2と、低出力電力用の経路である低出力経路LR2とを含む。図3に記載された比較例に係るPAモジュール200は、図1に記載された本発明のPAモジュール100と比較して、D1点と出力端子122との間に、スイッチ105及びコンデンサ135が接続されていない点、及び、インダクタ133の代わりにチョークコイル233が配置されている点である。
【0044】
高出力経路HR2における動作は、本発明のPAモジュール100の高出力経路HR1における動作と同様であるので、説明を省略する。
【0045】
次に、中出力経路MR2における動作を説明する。入力端子121から入力された高周波電力は、入力整合回路114を通過してHBT103に入力される。HBT103で増幅された高周波電力は、出力端子122から出力される。コレクタ電源端子143は、整合回路217の構成要素であるチョークコイル233を介してHBT103のコレクタに接続されている。このチョークコイル233は、高周波電力がコレクタ電源端子に漏れることを防止するために設けられているものであり十分大きい値であるため、中出力経路MR2及び低出力経路LR2の整合には影響を及ぼさない。
【0046】
次に、低出力経路LR2における動作を説明する。入力端子121から入力された高周波電力は、入力整合回路115を通過してHBT104に入力される。HBT104で増幅された高周波電力は、整合回路216を通過して出力端子122から出力される。整合回路216はインダクタ231及びコンデンサ232で構成されている。
【0047】
図3に記載されたPAモジュール200のブロック図において、インダクタ231の出力ノードのうちHBT103の出力ノード側の点をA1、インダクタ231の出力ノードのHBT104の出力ノード側の点をB1、HBT104のコレクタ端子側の点をC1、HBT103の出力ノードとインダクタ231との接続点をD1とし、点A1から点D1を見たインピーダンスをZA1、点B1から点A1を見たインピーダンスをZB1、点C1から点B1を見たインピーダンスをZC1とする。
【0048】
図4は、実施の形態1に係る比較例を示すPAモジュールの低出力経路LR2におけるZA1、ZB1、ZC1の関係を示すスミスチャートである。チョークコイル233がZA1のインピーダンス変化に寄与しないため、ZA1は50Ωから変化しない。そして、このZから、Zを経て、コンデンサ232により、Zは高インピーダンスに変換される。
【0049】
上述した比較例の構成において、一例として、低出力経路LR2において、周波数824MHz、電源電圧3.4V、出力電力7dBmの条件で、−40dBc以下のACLRと15%以上の効率を得るためには、Zは200Ωに設計する必要がある。この観点から、インダクタ231を15nH(Z=52+j90Ω)、コンデンサ232を1.7pF(Z=205−j13Ω)とすることにより、低出力時の電力効率は12%となった。低出力時の電力効率が改善されない理由として、Zの実部が52Ωであることによるインダクタ231での伝送ロスの影響が挙げられる。
【0050】
また、インダクタ231を最適化した場合のインダクタンス値が大きいことから、MMIC内のインダクタの面積が大きくなるため、チップサイズが大きくなり、結果としてPAモジュールのコストが増大する。また、インダクタ231の伝送ロス成分も大きくなることから、高効率化は困難である。
【0051】
(実施の形態2)
図5は、本発明の高周波電力増幅器の実施の形態2に係るPAモジュールの回路ブロック図である。同図に記載されたPAモジュール150は、3モード切替型のPAモジュールであり、高出力電力用の経路である高出力経路HR3と、中出力電力用の経路である中出力経路MR3と、低出力電力用の経路である低出力経路LR3とを含む。図5に示されたPAモジュール150は、図1に示された実施の形態1に係るPAモジュール100と比較して、高出力経路MR3の出力整合回路113と出力端子122との間に第2のスイッチであるスイッチ106が直列接続されている点、中出力経路MR2の点Dと出力端子122との間に第3のスイッチであるスイッチ107が直列接続されている点、ならびに、コレクタ電源端子141、142及び143がチョークコイル136、137、及びインダクタ133を介して、それぞれ、HBT101、102、及び103に接続されている点が異なる。以下、実施の形態1に係るPAモジュール100と同じ点は説明を省略し、以下、異なる点のみ説明する。
【0052】
スイッチ106は、高出力動作時にオン状態とされ、中出力動作時及び低出力動作時にオフ状態とされる。
【0053】
一方、スイッチ107は、高出力動作時にオフ状態とされ、中出力動作時及び低出力動作時にオン状態とされる。
【0054】
上記構成により、高出力動作時にスイッチ107をオフ状態とすることにより、中出力経路MR3が完全に切り離されるので、アイソレーション特性が向上する。同様に、中出力動作時及び低出力動作時にスイッチ106をオフ状態とすることにより、高出力経路HR3が完全に切り離されるので、アイソレーション特性を向上させることができる。
【0055】
以上のように、本発明の実施の形態1及び2に係る高周波電力増幅器によれば、要求される出力電力レベルに応じて、3つの出力経路を選択することができる。
【0056】
中出力時には、インピーダンス変換回路117及び出力端子122の間のノードであって、当該ノードと接地端子との間に配置されたスイッチ105をオン状態とすることにより、インピーダンス変換回路117が有するインダクタ133及びスイッチ105と接地端子との間に配置されたコンデンサ135により、中出力経路MR1のリアクタンス成分が打ち消され、中出力経路MR1のインピーダンスが50Ωに変換される。よって、中出力時には、中出力経路MR1が選択され、入力端子121から入力された高周波電力は、入力整合回路114を通過してHBT103に入力され、HBT103で増幅された高周波電力が、出力端子122から出力される。
【0057】
一方、低出力時には、スイッチ105をオフ状態とすることにより、出力端子122のインピーダンス(50Ω)を、一旦50Ωより小さいインピーダンス(Z、Z)に変換させた後、インピーダンス変換回路116により、50Ωより高いインピーダンス(Z)に変換させている。これにより、低出力経路における低インピーダンスから高インピーダンスへの変換過程において、インピーダンス不整合による電力ロスを最小限に抑えることができる。よって、従来の2モード切替型のPAモジュールと比較して、電力効率を向上させることが可能となる。
【0058】
また、従来では、チョークコイルとして機能していたインピーダンス変換回路117のインダクタを、上述したように、中出力増幅時のリアクタンス成分の除去、及び、低出力増幅時の低インピーダンス化に寄与させるため、低インダクタンス化することにより、小型化にも寄与できる。
【0059】
さらに、本発明の実施の形態2に係る高周波電力増幅器によれば、高出力動作時にスイッチ107をオフさせること、または、中出力動作時及び低出力動作時にスイッチ106をオフさせることにより、アイソレーション特性を向上させることができる。
【0060】
以上、本発明の高周波電力増幅器について、実施の形態1及び2に基づいて説明してきたが、本発明に係る高周波電力増幅器は、上記実施の形態1及び2に限定されるものではない。実施の形態1及び2における任意の構成要素を組み合わせて実現される別の実施の形態や、実施の形態1及び2に対して本発明の主旨を逸脱しない範囲で当業者が思いつく各種変形を施して得られる変形例や、本発明に係る高周波電力増幅器を内蔵した各種機器も本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の高周波電力増幅器は、低出力条件においても高効率化を実現することができ、携帯電話端末をはじめとする移動体通信の送信装置に利用が可能であり、産業上有用である。
【符号の説明】
【0062】
100、150、200、300 PAモジュール
101、102、103、104、301、302、303 HBT
105、106、107 スイッチ
111、114、115、311、314 入力整合回路
112、312 段間整合回路
113、313、315 出力整合回路
116、117 インピーダンス変換回路
121、321 入力端子
122、322 出力端子
132、134、135、232、234 コンデンサ
131、133、231 インダクタ
141、142、143 コレクタ電源端子
216、217 整合回路
233、136、137 チョークコイル
HR1、HR2、HR3 高出力経路
LR1、LR2、LR3 低出力経路
MR1、MR2、MR3 中出力経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波信号を増幅する複数の経路から、出力電力レベルに応じた経路を選択して使用する高周波電力増幅器であって、
前記高周波信号が印加される入力端子と増幅された高周波信号が出力される出力端子とに接続され、前記高周波信号を増幅する第1のトランジスタが配置された、高出力レベルが要求された場合に選択される高出力経路と、
前記入力端子と前記出力端子とに接続され、前記高周波信号を増幅する第2のトランジスタが配置された、中出力レベルが要求された場合に選択される中出力経路と、
前記入力端子と前記出力端子とに接続され、前記高周波信号を増幅する第3のトランジスタが配置された、低出力レベルが要求された場合に選択される低出力経路とを含み、
前記第2のトランジスタの出力ノードに接続された第1のインピーダンス変換回路と、
一端が、前記出力ノードと前記出力端子との間であって、前記中出力経路上に接続され、他端が、第1のコンデンサを介して接地された第1のスイッチと、
前記第3のトランジスタの出力ノードと前記出力端子との間であって、前記低出力経路上の接続ノードに接続された第2のインピーダンス変換回路とを具備し、
前記第1のスイッチがオフ状態の場合、
前記第1のインピーダンス変換回路は、前記接続ノードから前記出力端子を見たインピーダンスを、50Ωより小さいインピーダンスに変換し、
前記第2のインピーダンス変換回路は、前記第3のトランジスタの出力ノードから前記出力端子を見たインピーダンスを、50Ωより大きいインピーダンスに変換する
高周波電力増幅器。
【請求項2】
さらに、
前記第1のトランジスタの出力ノードと前記出力端子との間に直列挿入された第2のスイッチと、
前記第2のトランジスタの出力ノード及び前記第1のスイッチの接続点と、前記出力端子との間に直列挿入された第3のスイッチとを備える
請求項1に記載の高周波電力増幅器。
【請求項3】
前記第1のインピーダンス変換回路は、
一端が、前記第2のトランジスタの出力ノードに接続された第1のインダクタと、
一端が、前記第1のインダクタの他端に接続され、他端が接地された第2のコンデンサとを備える
請求項1または2に記載の高周波電力増幅器。
【請求項4】
前記第1のスイッチがオン状態の場合、
前記第1のインダクタのリアクタンスと前記第1のコンデンサのリアクタンスとの和が実質的に0となる
請求項3に記載の高周波電力増幅器。
【請求項5】
前記第2のインピーダンス変換回路は、
一端が、前記第2のトランジスタの出力ノードと前記第1のスイッチの一端との間であって前記中出力経路上に接続され、他端が前記第3のトランジスタの出力ノードに接続された第2のインダクタと、
一端が、前記第3のトランジスタの出力ノードに接続され、他端が接地された第3のコンデンサとを備える
請求項3または4に記載の高周波電力増幅器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−26988(P2013−26988A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162655(P2011−162655)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】