説明

高品質果汁及び果実酒の製造法

【課題】
本発明は、果実由来のフレッシュな芳香を有する高品質果汁、及びそれを用いる果実酒の製造法の提供を課題とする。
【解決手段】
1.破砕果実又は果実搾汁粕に加水してエキス分を抽出し、得られた抽出物を減圧濃縮することにより得られる高品質果汁。
2.上記1.記載の高品質果汁を、発酵原料又は発酵工程終了後の果実酒に添加することを特徴とする果実酒の製造法。
3.以下の工程を含む果実酒の製造法。
(a)破砕果実を搾汁した後、果汁と搾汁粕とに分離する第1工程
(b)搾汁前の破砕果実の一部、又は圧搾粕に加水してエキス分を抽出し、抽出物を得る第2工程
(c)抽出物を減圧濃縮し、濃縮液として高品質果汁を得る第3工程
(d)第1工程の果汁又は別途調製した果汁と、第3工程の高品質果汁とを混合し、混合物に酒母を添加して発酵させる第4工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の工程により得られる高品質果汁、及びそれを用いる果実酒の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に果実酒は、原料果実を破砕搾汁して得られた果汁を発酵するか、破砕物をそのまま発酵させる所謂醸発酵により製造される。しかし、その呈味を飲用可能なものに仕上げるため醸発酵期間を短く設定せざるを得ない為、果実のフレッシュな香りの乏しいものになっている。この欠点を改善するためには市販の香料を添加するのが最も容易であり、そのようにして造られた果実酒が販売されている。果実の芳香成分を利用したものとしては香料がある。近年では、多くの香料は合成法によって製造されているが、天然物から製造するものもある。天然香料の製造法としては、一般に圧搾法、蒸留法、抽出法の3つの方法が知られている。
【0003】
従来知られている果実または果実加工副産物から香りを抽出蒸留して果実酒に添加する方法はエチルアルコールを添加して抽出する方法である(特許文献1)。この方法で調整した留出液を果実酒の製造工程に使用した場合、最終製品は果実酒とならないことから、今回目的としているフルーティな香り高い果実酒を得ることが出来ない。
圧搾法は、柑橘類の果皮のように比較的含油量の多い原材料から精油を採取するのに適した方法であり、一般に機械で原材料を圧搾し、浸出してきた芳香成分を集めるという方法が取られている。
蒸留法で最も広く用いられている方法は、水蒸気蒸留法である。これは、蒸留釜に原材料を投入し、底部から水蒸気を吹き込んで蒸留する方法である。ほとんどの精油はこの方法で採取されているが、原材料が加熱されるので、熱による芳香成分の変質を避けることが出来ない。
抽出法は、特にローズやジャスミン等の花から芳香成分を精製する場合に適している。一般に、原材料を裁断した後、揮発性及び不揮発性溶剤に浸漬して芳香成分を抽出する。溶剤としてエタノール等のアルコールを用いることもあるが、石油エーテルやヘキサン、ベンゼン等の揮発性有機溶媒を用いることが多く、食品への応用には問題が多い。
【0004】
しかし、これらの方法で採取した香料を飲料に添加した場合には、香料添加の表示をする必要がある。さらに、このようにして得られた香料を添加し飲料を製造すると、ほとんどの場合、人工的で不自然な風味になる。香料を添加しないで、容易に果実由来のフレッシュな芳香を付与できる方法が求められている。
しかしながら、果実の品種によっては、破砕搾汁だけではフレッシュな芳香を必ずしも十分引き出せない場合がある。また、フレッシュな芳香を十分に引き出すために醸発酵を用いると、欠点となる苦味や渋味が強くなる場合がある。
【0005】
【特許文献1】特開昭55−81580号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、果実由来のフレッシュな芳香を有する高品質果汁、及びそれを用いる果実酒の製造法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下を主要な特徴とする。
1.破砕果実又は果実搾汁粕に加水してエキス分を抽出し、得られた抽出物を減圧濃縮することにより得られる高品質果汁。
2.上記1.記載の高品質果汁を、発酵原料又は発酵工程終了後の果実酒に添加することを特徴とする果実酒の製造法。
3.以下の工程を含む果実酒の製造法。
(a)破砕果実を搾汁した後、果汁と搾汁粕とに分離する第1工程
(b)搾汁前の破砕果実の一部、又は圧搾粕に加水してエキス分を抽出し、抽出物を得る第2工程
(c)抽出物を減圧濃縮し、濃縮液として高品質果汁を得る第3工程
(d)第1工程の果汁又は別途調製した果汁と、第3工程の高品質果汁とを混合し、混合物に酒母を添加して発酵させる第4工程
4.以下の工程を含む果実酒の製造法。
(a)破砕果実を搾汁した後、果汁と搾汁粕とに分離する第1工程
(b)搾汁前の破砕果実の一部、又は圧搾粕に加水してエキス分を抽出し、抽出物を得る第2工程
(c)抽出物を減圧濃縮し、濃縮液として高品質果汁を得る第3工程
(d)発酵工程終了後の醪と、第3工程の高品質果汁とを混合する第4工程
【発明の効果】
【0008】
本発明により、果実由来のフレッシュな芳香を有する高品質果汁、及び果実酒が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
1.高品質果汁
本発明の高品質果汁は、破砕果実又は果実搾汁粕に加水してエキス分を抽出し、得られた抽出物を減圧濃縮することにより得られる。
【0010】
果実は、果実酒の原料として使用されるものであれば特に限定されず、例えばブドウ、リンゴ、ナシ、レモン、メロン等が挙げられる。破砕果実又は果実搾汁粕は、果汁又は果実酒の製造工程で得られるものが使用できる。加水の際は、破砕果実又は果実搾汁粕に対し、例えば1〜5倍量程度の水を加えればよい。また、水は、果実エキスを含むもの、すなわち果汁であってもよい。
減圧濃縮は、フラッシュエバポレ−タ−等の通常の減圧濃縮装置により実施可能である。フラッシュエバポレ−タ−を用いる場合、回収される蒸留液(濃縮液)が、本発明の高品質果汁である。減圧濃縮は、香気成分の損失を防ぐために比較的低い温度、例えば品温24〜45℃で実施することが好ましい。
【0011】
本発明の高品質果汁は、例えば以下に示す第1〜第3工程によって得られる。
(a)破砕果実を搾汁した後、果汁と搾汁粕とに分離する第1工程
(b)搾汁前の破砕果実の一部、又は圧搾粕に加水してエキス分を抽出し、抽出物を得る第2工程
(c)抽出物を減圧濃縮し、濃縮液として高品質果汁を得る第3工程
第2工程における破砕果実の一部とは、例えば、第1工程の破砕果実に対して1〜30%である。
【0012】
2.果実酒の製造法
本発明の果実酒の製造法は、上記の高品質果汁を、発酵原料又は発酵工程終了後の醪に添加することを特徴とする。添加する高品質果汁の量は、原料や果実酒の品質に応じて適宜設定すればよいが、例えば、発酵原料又は発酵工程終了後の醪に対して0.1〜20%(v/w)とすればよい。発酵原料の調製工程、発酵工程及びその他の工程は、通常の果実酒製造法で用いられる方法が採用できる。
高品質果汁を発酵原料に添加する場合の一態様を以下に示す。
(a)破砕果実を搾汁した後、果汁と搾汁粕とに分離する第1工程
(b)搾汁前の破砕果実の一部、又は圧搾粕に加水してエキス分を抽出し、抽出物を得る第2工程
(c)抽出物を減圧濃縮し、濃縮液として高品質果汁を得る第3工程
(d)第1工程の果汁又は別途調製した果汁と、第3工程の高品質果汁とを混合し、混合物に酒母を添加して発酵させる第4工程
また、高品質果汁を発酵工程後の醪に添加する場合の一態様を以下に示す。
(a)破砕果実を搾汁した後、果汁と搾汁粕とに分離する第1工程
(b)搾汁前の破砕果実の一部、又は圧搾粕に加水してエキス分を抽出し、抽出物を得る第2工程
(c)抽出物を減圧濃縮し、濃縮液として高品質果汁を得る第3工程
(d)発酵工程終了後の醪と、第3工程の高品質果汁とを混合する第4工程
【実施例】
【0013】
以下、原料果実としてレモン又はメロンを用いた実施例により、本発明をより具体的に説明する。
1.レモンを用いた高品質果汁及び果実酒の製造法
〔高品質果汁1〕
レモン果実200gをカッター及び手で破砕し、約2〜3倍量の水を加えたものをフラッシュエバポレ−タ−にて湯浴温度60℃で減圧濃縮し、蒸留液150mlを得た。該蒸留液を高品質果汁1とした。
〔サンプルA〕
レモン果実10kgを洗浄後、10〜20mm幅にカットし簡易圧搾機にて搾汁して約2,000mlの果汁を得た。この果汁を総酸(酒石酸換算)が9〜10g/Lとなるよう希釈調整(約4〜5倍希釈)した後、ぶどう糖にて糖度14%になるよう補糖した。これに酒母を添加し15〜20℃で発酵させて果実酒を得た。
〔サンプルB〕
レモン果実5kgを洗浄後10〜20mm幅にカットした後4,000mlの水を加えぶどう糖にて糖度が14%になるよう補糖した。これに酒母を添加し15〜20℃にて醸発酵させ3日目に固形物(レモン果実)を分離し、そのまま発酵工程を終了させて果実酒を得た。
〔サンプルC〕(本発明)
レモン果実10kgを洗浄後、10〜20mm幅にカットし簡易圧搾機にて搾汁して約2,000mlの果汁を得た。該果汁に高品質果汁1を5%(v/w)添加し、更に総酸(酒石酸換算)が9〜10g/Lとなるよう希釈調整(約4〜5倍希釈)した後、ぶどう糖にて糖度14%になるよう補糖した。これに酒母を添加し15〜20℃で発酵させて果実酒を得た。
〔サンプルD〕(本発明)
サンプルAに高品質果汁1を5%(v/w)添加して果実酒を得た。
〔品質評価〕
上記の各サンプルについて、熟練したパネラ−8名により品質評価を行った。結果は表1に示した通りである。本発明(サンプルC及びD)により、レモン由来のフレッシュな芳香を有する果実酒が得られたことが示された。
【0014】
【表1】

【0015】
1.メロンを用いた高品質果汁及び果実酒の製造法
〔高品質果汁2〕
メロン果実10kgを洗浄後30〜40mm幅のさいの目にカットし、7.5kgは簡易圧搾機にて搾汁し約6,000mlの果汁を得た。果汁500mlに対し圧搾粕150gを添加し、フラッシュエバポレーターにて湯浴温度60℃で減圧蒸留し、約100mlの蒸留液を得た。該蒸留液を高品質果汁2とした。
〔サンプルA〕
メロン果実10kgを洗浄後30〜40mm幅のさいの目にカットし、7.5kgは簡易圧搾機にて搾汁し約6,000mlの果汁を得た。果汁にリンゴ酸にて総酸(酒石酸換算)が3.5g/Lとなるよう補酸した後、果汁に対しぶどう糖にて糖度14%になるよう補糖した。これに酒母を添加し15〜20℃で発酵させ果実酒を得た。
〔サンプルB〕
メロン果実2.5kgを洗浄後30〜40mm幅のさいの目にカットし、卓上ジューサーにて軽く破砕した後、ぶどう糖にて糖度が14%になるよう補糖した。これに酒母を添加し15〜20℃にて醸発酵させ5日目に固形物を分離しそのまま発酵を終了させて果実酒を得た。
〔サンプルC〕
メロン果実3kgを洗浄後、30〜40mm幅のさいの目にカットし、簡易圧搾機にて搾汁し約2,400mlの果汁を得た。果汁1,900mlに対し、高品質果汁2を1%(v/w)量添加した後、リンゴ酸にて総酸(酒石酸換算)が3.5g/Lとなるよう補酸し、ぶどう糖にて糖度14%になるよう補糖した。これに酒母を添加し、15〜20℃で発酵させて果実酒を得た。
〔サンプルD〕
サンプルAに対し、高品質果汁2を1%(v/w)添加して果実酒を得た。
〔品質評価〕
上記の各サンプルについて、熟練したパネラ−8名により品質評価を行った。結果は表2に示した通りである。本発明(サンプルC及びD)により、メロン由来のフレッシュな芳香を有する果実酒が得られたことが示された。
【0016】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
破砕果実又は果実搾汁粕に加水してエキス分を抽出し、得られた抽出物を減圧濃縮することにより得られる高品質果汁。
【請求項2】
請求項1記載の高品質果汁を、発酵原料又は発酵工程終了後の醪に添加することを特徴とする果実酒の製造法。
【請求項3】
以下の工程を含む果実酒の製造法。
(a)破砕果実を搾汁した後、果汁と搾汁粕とに分離する第1工程
(b)搾汁前の破砕果実の一部、又は圧搾粕に加水してエキス分を抽出し、抽出物を得る第2工程
(c)抽出物を減圧濃縮し、濃縮液として高品質果汁を得る第3工程
(d)第1工程の果汁又は別途調製した果汁と、第3工程の高品質果汁とを混合し、混合物に酒母を添加して発酵させる第4工程
【請求項4】
以下の工程を含む果実酒の製造法。
(a)破砕果実を搾汁した後、果汁と搾汁粕とに分離する第1工程
(b)搾汁前の破砕果実の一部、又は圧搾粕に加水してエキス分を抽出し、抽出物を得る第2工程
(c)抽出物を減圧濃縮し、濃縮液として高品質果汁を得る第3工程
(d)発酵工程終了後の醪と、第3工程の高品質果汁とを混合する第4工程


【公開番号】特開2006−280292(P2006−280292A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−105658(P2005−105658)
【出願日】平成17年4月1日(2005.4.1)
【出願人】(390032193)マンズワイン株式会社 (14)
【Fターム(参考)】