説明

高圧ガス充填用装置に用いる熱交換器、これを用いた高圧ガス充填用装置および高圧ガスの充填方法

【課題】 比較的単純な構成で、高圧ガスを迅速にかつ安全に高圧ガス使用設備に充填することが可能な高圧ガス充填用装置に用いる熱交換器、これを用いた高圧ガス充填用装置および高圧ガスの充填方法を提供することにある。また、熱交換効率の向上を図り、熱交換器の小型化、これを用いた高圧ガス充填用装置の小型化を図ることにある。
【解決手段】 内部に高圧ガスが流通する高圧ガス流路1と、これに近接し内部に第1伝熱媒体が流通する伝熱媒体流路2と、高圧ガス流路1および伝熱媒体流路2を収容し金属粉粒体と第2伝熱媒体が充填された充填層3と、充填層3の上部に設けられた熱伝導性の高いシール板4と、シール板4の上部に設けられ第2伝熱媒体が流通する空間部5と、これらと外部との熱の移動を防止する断熱層6が設けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧ガス充填用装置に用いる熱交換器、これを用いた高圧ガス充填用装置および高圧ガスの充填方法に関するもので、特に、燃料電池や水素ステーションなどに供給される水素などの高圧ガス使用設備に、該高圧ガスを供給する高圧ガス充填用装置に用いる熱交換器、これを用いた高圧ガス充填用装置および高圧ガスの充填方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境改善のためのクリーンなエネルギー源として、水素エンジンあるいは燃料電池などが急速に実用化されてきている。自動車などの移送手段においても、こうしたエネルギー源の使用が加速しており、例えば、燃料電池車(FCV)の普及には、水素供給インフラとなる水素ステーションの整備が不可欠である。このとき、都市部では敷地面積660m未満のスタンドが大半であり、こうした小さな空間であっても使用できる水素ステーションのコンパクト化がステーション普及には欠かせない。また、住宅密集地にもガソリンスタンドが存在する。その為、水素ステーションのコンパクト化と同時に水素ステーションの安全化が大きな問題になっている。従って、比較的単純な構成で、高圧の水素ガスを急速に、こうした水素使用設備に充填することができ、かつ安全性の高い水素ガス充填用装置が要求される。一方高圧ガス充填用装置に対するこうした要請は、高圧の水素ガスに限らず、メタンガスや天然ガスあるいは不活性ガスや酸素ガスなど様々な種類のガスを充填する装置、またはこうした装置を用いる様々なプロセスにおいて強まっている。
【0003】
こうした要請に対し、例えば、図5に示すような燃料充てん装置40が提案されている(例えば特許文献1参照)。この燃料充てん装置40においては、中間媒体Mが入れられた熱交換器41に液体不活性ガスを供給し、この液体不活性ガスにより中間媒体Mを冷却して、その温度を所定の範囲内に調整し、この中間媒体Mを用いて水素ガスを冷却する。
【0004】
このとき、この燃料充てん装置40に用いられる熱交換器41は、水素ガスを中間媒体Mにより冷却する第1熱交換部42と、中間媒体Mを液体不活性ガスにより冷却する第2熱交換部43とを備えている。第1熱交換部42は、中間媒体Mを収容する第1容器42aと、この第1容器42a内に設けられた水素ガス流通経路42bを備えている。水素ガス流通経路42bは、水素ガス供給経路53に接続されている。また、第2熱交換部43は、中間媒体Mを収容する第2容器43aと、この第2容器43a内に設けられた液体不活性ガス流通経路43bを備えている。液体不活性ガス流通経路43bは、液体不活性ガス供給経路22および液体不活性ガス排出経路31に接続されている。第1容器42aと第2容器43aとは、外部に対して気密に設けられている。また、熱交換器41内の中間媒体Mは、第1容器42aと第2容器43aの間を、第1および第2の連絡経路44、45を介して循環するようになっている(特許文献1段落0030〜0034)。
【0005】
【特許文献1】特開2004−125087号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のような高圧ガス充填用装置に用いる熱交換器、これを用いた高圧ガス充填用装置では、以下の課題が生じることがあった。
(i)高圧ガス充填時の高圧ガスの温度変化
このとき、高圧ガスを所定の容器に充填する場合において、容器内での断熱膨張および断熱圧縮に伴う高圧ガスの温度変化に留意する必要がある。つまり、一般に常温条件下では、ジュール・トムソン効果によって高圧ガス充填時にガス温度が低下するガスが多く一方、水素やヘリウムなどのガスは、いわゆる「逆転温度」が低温(例えば、水素では「−58℃(「水素の有効利用ガイドブック」p.13、独立法人新エネルギー産業技術総合開発機構、平成20年3月)」であり、ヘリウムでは「−173℃」である)であることから常温で充填すると発熱する。こうした高圧ガスの温度変化は、高圧ガス充填装置の温度管理を困難にするとともに、水素のような発火性ガスについては、安全性の点において問題となる可能性がある。特に、住宅密集地にもスタンドが要求される水素ステーションにおいては、さらに高い安全性が求められることから重大が課題となっている。また、FCV用の充填圧力は、従前の35MPaから70MPaへの変更が進められ、さらに高い圧力条件下での安全性が求められている。さらに、設備の設置条件によっては、常温ではなく高温条件での充填の可能性を考慮した高圧ガス充填用装置が要求される場合がある。
【0007】
(ii)高圧ガス充填用装置の小型化
上記プロセス等で使用する高圧ガス充填用装置においては、充填圧力が高いほど圧縮機の大型化は避けられない。また、例えば、FCVに高圧の水素ガスを充填する場合において、直接燃料タンクに供給すると、高圧ガスの温度を安全性の基準温度80℃以下とすることが困難となり、予め冷却する場合においても必要なプレクールシステムの大型化は避けられない。しかしながら、水素ステーションあるいは各種プロセスにおける設置場所には上記のような厳しい制限があり、こうした条件下での高圧ガス充填用装置の小型化は大きな課題となっていた。
【0008】
(iii)高圧ガス充填用装置における充填時間の短縮化
例えば水素ステーションにおいては、高圧ガスの充填時に接続配管を介して充填装置と使用設備を接合する作業が伴い、接続部に水素のような可燃性ガスが高圧条件で流通することから、迅速な充填作業が要求される。しかしながら、例えばFCVへの水素の充填方法にあっては、従前の35MPaから70MPaへの変更に伴う充填時間を5分以内とすることが非常に難しいという課題があった。また、このとき多くの高圧ガス充填用装置は冷凍機方式を用いていることから、かなり大型でコストがかかるとともに、冷凍装置は、その冷却に所定の時間を必要とするので、FCVがスタンドに到着して直ちに充填作業にとりかかることは難しく、作業性を上げるために常に冷凍機を作動させ、いつ来るか分からないFCVのためにスタンバイしておくことはエネルギーロスも大きく経済的な負担も大きくなるという課題があった。
【0009】
本発明の目的は、比較的単純な構成で、高圧ガスを迅速にかつ安全に高圧ガス使用設備に充填することが可能な高圧ガス充填用装置に用いる熱交換器、これを用いた高圧ガス充填用装置および高圧ガスの充填方法を提供することにある。また、熱交換効率の向上を図り、熱交換器の小型化、これを用いた高圧ガス充填用装置の小型化を図ることにある。特に、FCV用の水素ステーションなどのように、危険性の高い高圧ガスに対しても、安全性を確保しながら所望の圧力で安定的に供給することが可能な高圧ガス充填用装置に用いる熱交換器、これを用いた高圧ガス充填用装置および高圧ガスの充填方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、以下に示す高圧ガス充填用装置に用いる熱交換器、これを用いた高圧ガス充填用装置および高圧ガスの充填方法によって上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0011】
本発明は、蓄圧された高圧ガスを高圧ガス使用設備に所定の圧力で供給する高圧ガス充填用装置に用いる熱交換器であって、内部に高圧ガスが流通する高圧ガス流路と、該高圧ガス流路に近接し内部に第1伝熱媒体が流通する伝熱媒体流路と、前記高圧ガス流路および伝熱媒体流路を収容するとともに熱伝導性の高い金属粉粒体および第2伝熱媒体が充填された充填層と、該充填層の上部に設けられた熱伝導性の高いシール板と、該シール板の上部に前記第2伝熱媒体が流通する空間部と、該空間部、前記高圧ガス流路,伝熱媒体流路および充填層への吸熱を防止する断熱層と、を有することを特徴とする。
【0012】
こうした構成を有する熱交換器によって、比較的単純な構成で、高圧ガスを迅速にかつ安全に熱交換を行うことが可能となり、該高圧ガスを迅速にかつ安全に高圧ガス使用設備に充填することが可能な高圧ガス充填用装置を形成することができる。つまり、高圧ガス流路を(i)伝熱媒体流路との近接、(ii)充填層に充填された金属粉粒体との接触、(iii)第2伝熱媒体との接触、という3つの手段との熱交換によって、高圧条件下においても効率よく加熱・冷却を行い、所望の温度の高圧ガスを形成することができる。と同時に、こうした機能の異なる3つの手段の熱交換効率を調整することによって、熱交換効率が向上し、熱交換器の小型化、これを用いた高圧ガス充填用装置の小型化を図ることが可能となるとともに、高圧ガスの充填条件に対応した最適な温度制御を行うことが可能となった。
【0013】
つまり、
(i)第1の手段として、熱交換器に導入された高圧ガスが有する熱量(正負を問わない)が、熱伝導性の高い配管で形成された高圧ガス流路に伝達され、これに近接する熱伝導性の高い配管で形成された伝熱媒体流路を介して内部を流通する第1伝熱媒体に伝達されることによって、高圧ガスと第1伝熱媒体の熱交換を効率よく行うことができる。双方の配管を介しての熱交換であるために緩衝機能を有することから、温度制御の基準温度を確定する機能を果たす。
(ii)第2の手段として、高圧ガスが有する熱量が、高圧ガス流路を介して充填層に充填された金属粉粒体に伝達されることによって、高圧ガスと金属粉粒体の熱交換を効率よく行うことができる。金属粉粒体に伝達された熱量は、充填層に導入された第2伝熱媒体に伝達され、外部に放出される。金属粉粒体との直接的な熱伝達機能を有することから、所望の温度への微調整として迅速な温度制御を行う機能を果たす。金属粉粒体の熱容量が第2伝熱媒体よりも大きいことから、高い温度制御機能を有するとともに、金属粉粒体の間隙が第2伝熱媒体で充当されることから、さらに高い温度制御機能を有する
(iii)第3の手段として、高圧ガスが有する熱量が、高圧ガス流路を介して第2伝熱媒体に伝達されることによって、高圧ガスと第2伝熱媒体の熱交換を効率よく行うことができる。第2伝熱媒体との直接的な熱伝達機能を有することから、所望の温度への微調整として迅速な温度制御を行う機能を果たす
という、3つの異なる機能を有する手段で効率よく熱交換を行うことができ、熱交換器の小型化を図ることが可能となった。
【0014】
本発明は、上記高圧ガス充填用装置に用いる熱交換器であって、前記シール板が通気性とガスの分散機能を有するとともに、前記第2伝熱媒体の供給を加圧条件で行うことを特徴とする。
【0015】
上記のように、本発明に係る熱交換器において、第2伝熱媒体は、高圧ガス流路と金属粉粒体の伝熱媒体としての機能を果すとともに、その流動性によって熱の移送媒体としての機能を果している。つまり、第2伝熱媒体は、第2の手段である(ii)高圧ガス流路と熱伝導性の高い金属粉粒体が充填された充填層との接触を、より効率的に機能させる補助的な役割と、第3の手段である(iii)高圧ガス流路との接触による熱伝導機能による伝熱媒体としての役割を果すとともに、固定的な金属粉粒体の間隙を流動することによって、金属粉粒体あるいは高圧ガス流路の表面において熱交換しながら充填層を対流する。加温された第2伝熱媒体は、シール板に接触することによって冷却され、さらに下流を形成して、循環的に第2、3の手段としての機能を果すことができる。このとき、通気性とガスの分散機能を有するシール板を用いて第2伝熱媒体の均一な流れを強制することによって、こうした機能を高めることができる。また、供給される第2伝熱媒体を加圧することによって、金属粉粒体の間隙をさらに高い伝熱性媒体で充当することができ、さらに熱交換機能を高めることが可能となる。
【0016】
本発明は、上記高圧ガス充填用装置に用いる熱交換器であって、前記熱交換器が、フランジ部を有する蓋部と該フランジ部によって接合・密閉される容器から構成され、該蓋部に前記高圧ガス流路、伝熱媒体流路および第2伝熱媒体の導入・導出部が密閉状に接合されることを特徴とする。
【0017】
上記のように、本発明に係る熱交換器を用いる高圧ガス充填用装置は、35MPaや70MPaといった高圧ガスを取扱うことから、高圧ガス流路は高いシール性や耐圧性が要求されるとともに、法律的な規制の対象となることもあり、点検や保守などが容易であることが要求される。本発明においては、高圧ガス流路を耐圧構造が可能な蓋部に接合し、充填層を有する容器と蓋部をフランジ取合いで接合する構造とし、保守・点検時に該フランジ部を解除することによって、導入部から供出部までの全高圧ガス流路が監視可能な構造を形成している。
【0018】
本発明は、上記いずれかに記載の熱交換器を用い、高圧ガスを高圧ガス使用設備に充填する装置であって、高圧ガスあるいは液化ガスが導入されるガス導入部と、導入された高圧ガスあるいは液化ガスを圧縮する圧縮機と、圧縮された高圧ガスを蓄圧する蓄圧部と、蓄圧された高圧ガスが導入される前記熱交換器と、該熱交換器から供出された供給ガスの圧力および流量を調整する供給ガス調整部と、調整された供給ガスを前記高圧ガス使用設備に充填するガス供給部と、を有することを特徴とする。
【0019】
高圧ガスの充填操作においては、既述のように高圧ガスの発熱や温度変化による安全性や操作性に対する影響を防止する必要がある。本発明は、導入された高圧ガスあるいは液化ガスを圧縮した後、上記のような3段の熱交換機能を有する熱交換器を用い、加圧後の温度条件を安定的に制御することによって、こうした課題を解消した。また、本発明は、さらに圧縮された高圧ガスを蓄圧する蓄圧部を設け、任意の圧力条件で熱交換器に高圧ガスを供給可能とする構成によって、種々の圧力仕様の高圧ガス使用設備に対応可能な高圧ガス充填用装置を提供することができる。さらに、熱交換効率の向上により、熱交換器の小型化が可能となり、これを用いた高圧ガス充填用装置の小型化を図ることが可能となった。
【0020】
本発明は、上記高圧ガス充填用装置であって、前記圧縮機によって圧縮された高圧ガスを異なる圧力で蓄圧可能な複数の蓄圧部と、圧縮機から各蓄圧部への流路に切換弁と、を備え、前記高圧ガス使用設備の所望の圧力に応じて該切換弁を作動させ、前記蓄圧部に蓄圧された高圧ガスが前記熱交換器に導入されることを特徴とする。
【0021】
上記のように、高圧ガス使用設備は種々の圧力仕様となることが多い。本発明は、複数の蓄圧部を備え、圧縮された高圧ガスを複数の圧力条件で蓄圧した後、順次所望の圧力に応じて該当する蓄圧部から高圧ガスを供給することによって、こうした要請に対応することが可能となる。高圧ガス使用設備の圧力仕様の切換に応じて蓄圧部を切換えることによって、迅速に所望の圧力の高圧ガスを高圧ガス使用設備に充填することができる。
【0022】
本発明は、上記高圧ガス充填用装置であって、前記熱交換器から導出された第1伝熱媒体または第2伝熱媒体を、前記圧縮機の動力源として使用することを特徴とする。
【0023】
上記のように、本発明に係る熱交換器においては、第1および第2伝熱媒体という2種類の伝熱媒体を用いるとともに、該伝熱媒体は放熱のために排出される。しかしながら、各伝熱媒体は、それぞれ所定の圧力(エネルギー)を有するものであり、一方、高圧ガスの圧縮機の作動には所定のエネルギーが必要である。本発明は、排出される伝熱媒体のこうしたエネルギーを、圧縮機の動力源として用いることによって、エネルギーの有効活用を図ることができる。
【0024】
また、本発明は、上記いずれかに記載の熱交換器を用い、高圧ガスを高圧ガス使用設備に充填する方法であって、
(1)高圧ガスあるいは液化ガスが、導入される工程
(2)導入された高圧ガスあるいは液化ガスを、圧縮する工程
(3)圧縮された高圧ガスを、蓄圧する工程
(4)蓄圧された高圧ガスを、前記熱交換器に導入し冷却する工程
(5)冷却され前記熱交換器から供出された供給ガスを、圧力および流量調整する工程
(6)調整された供給ガスを、高圧ガス使用設備に充填する工程
を有することを特徴とする。
【0025】
こうしたプロセスを構成することによって、比較的単純な構成で、高圧ガスを迅速にかつ安全に高圧ガス使用設備に充填することが可能な高圧ガスの充填方法を提供することが可能となった。特に、複数の異なる圧力条件で蓄圧された複数の高圧ガスの蓄圧部(例えば、第1設定圧力の蓄圧部と第2設定圧力の蓄圧部)を備えた場合には、(3)圧縮された高圧ガスを、蓄圧する工程において、第1設定圧力での蓄圧、次に第2設定圧力での蓄圧を行い、(4)蓄圧された高圧ガスを、前記熱交換器に導入し冷却する工程において、順次高圧ガス使用設備の仕様に対応した、第1設定圧力の蓄圧部から第2設定圧力の蓄圧部に(あるいは逆に)切換えて高圧ガスを供給することによって、迅速に所望の圧力の高圧ガスを高圧ガス使用設備に充填することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
本発明は、高圧ガスが流通する高圧ガス流路と第1伝熱媒体が流通する伝熱媒体流路が近接し、両流路が熱伝導性の高い金属粉粒体および第2伝熱媒体が充填された充填層に収容され、該充填層の上部から第2伝熱媒体が導入されることを特徴とする熱交換器に係る発明であり、さらに、こうした熱交換器を用い、蓄圧された高圧ガスを高圧ガス使用設備に所定の圧力で供給する高圧ガス充填用装置およびその充填方法に係る発明である。
【0027】
高圧ガスとしては、既述のように、水素ガスや酸素ガス、メタンガスや天然ガスあるいは不活性ガス(ヘリウムやネオン等)など様々な種類のガスを対象とすることができる。特に、高圧条件下(例えば1MPa以上)、常温(例えば20℃付近)での移送によって発熱するガス、具体的には水素(沸点:−253℃)、ヘリウム(沸点:−269℃)あるいはネオン(沸点:−246℃)などを対象とする場合には、非常に効果的である。以下の説明は、主として、FCV用の水素ステーションにおいて供給可能な水素ガス充填用装置に用いる熱交換器、これを用いた水素ガス充填用装置および充填方法にかかる事項を中心とする。
【0028】
第1伝熱媒体としては、例えば通常冷却機などの伝熱媒体として用いられるアンモニア(沸点:−33℃)など以外に、安全性が高く、入手および低温での輸送が容易で、かつ所定の熱容量を有する液体窒素(沸点:−196℃)あるいは液体アルゴン(沸点:−186℃)といった不活性ガス、液体水素を用いることが好ましい。第2伝熱媒体としては、熱伝導性が高く、高い安全性を有し金属粉粒体に対する腐食性がないヘリウムなどの不活性ガスを用いることが好ましい。また、後述するように、こうした伝熱媒体を圧縮機の動力源等に利用することができる場合には、その利用に合致し消耗使用可能なガス、例えば液体窒素などを選択することが好ましい。
【0029】
金属粉粒体としては、熱伝導性が高く、安全で、腐食性の小さいアルミニウムや銅などの金属の粉体あるいは微小粒体(以下「金属粉粒体」という)を用いることが好ましい。また、金属粉粒体の粒径は、良好な伝熱効率を確保するために、0.1mm以下が好ましく、さらに1〜100μmが好ましい。
【0030】
<本発明に係る高圧ガス充填用装置に用いる熱交換器の基本構成例(第1構成例)>
図1は、本発明に係る高圧ガス充填用装置に用いる熱交換器(以下「本熱交換器」という)の基本構成例(第1構成例)を示す概略図である。内部に高圧ガスが流通する高圧ガス流路1と、これに近接し内部に第1伝熱媒体が流通する伝熱媒体流路2と、高圧ガス流路1および伝熱媒体流路2を収容し金属粉粒体と第2伝熱媒体が充填された充填層3と、充填層3の上部に設けられた熱伝導性の高いシール板4と、シール板4の上部に設けられ第2伝熱媒体が流通する空間部5と、こうした構成要素と外部との熱の移動を防止する断熱層6が設けられている。高圧ガス流路1と伝熱媒体流路2は、近接した状態で容器7の側面に密閉状に接合され、断熱層6を介して充填層3に挿入されている。高圧ガス流路1と伝熱媒体流路2は、充填層3内部では、接触時間が大きくなるように螺旋状に旋回し配設されている。容器7の上部は、空間部5を密閉するように、フランジ部7a,8aを介して蓋部8と接合されている。蓋部8には、第2伝熱媒体が導入・導出される伝熱媒体導入部9aと伝熱媒体導出部9b、および充填層3の内部温度をモニタする温度計Toが密閉状に接合されている。さらに、図1においては、充填層3を2層に仕切り第2伝熱媒体が均一に流通するように、仕切部材8bが蓋部8に設けられた構成を例示している。本熱交換器の機能は、以下の3つ手段によって構成される。
【0031】
(i)第1の手段
高圧ガス流路1を伝熱媒体流路2と近接させることにより、高圧ガスと伝熱媒体の間での熱交換を効率よく行うことができる。つまり、高圧ガスは、高圧ガス流路1の内部を流通しながら、最初に常温状態で本熱交換器に導入され、高圧ガス流路1を構成する配管を介して近接する伝熱媒体流路2との熱交換によって冷却される。伝熱媒体流路2を構成する配管を介して伝熱媒体流路2に移送された熱量は、第1伝熱媒体によって本熱交換器から排出される。このとき、高圧ガスと第1伝熱媒体を向流させる方法が、熱交換効率が高く好ましい。高圧ガス流路1に対して他の熱交換手段と合せて機能させることから、第1伝熱媒体の負荷を減少させることができる。また、双方の配管を介しての熱交換であるために緩衝機能を有することから、他の熱交換手段によって所望温度の微小調整を行い、本機能によって制御範囲の中心となる基準温度を確定する機能を果たすことができる。
【0032】
ここで、高圧ガス流路1および伝熱媒体流路2は、熱伝導性の高い配管素材で形成されることが好ましく、例えば銅管やアルミ管などが好適である。また、腐食性の成分が含まれる高圧ガスの場合には、熱伝導性は少し低くなるが、高圧ガス流路1をステンレス鋼によって形成することが好ましい。
【0033】
(ii)第2の手段
高圧ガス流路1を充填層3に充填された金属粉粒体と接触させることにより、高圧ガスと金属粉粒体の間での熱交換を効率よく行うことができる。つまり、高圧ガスは、上記伝熱媒体流路2との近接によって熱交換されながら、充填層3に収容された高圧ガス流路1を構成する配管を介して接触する金属粉粒体との熱交換によって冷却される。金属粉粒体に移送された熱量は、充填層3の上部に移送されシール板4を介して空間部5を流通する第2伝熱媒体に移送されることによって、本熱交換器から排出される。同時に充填層3に充填された第2伝熱媒体あるいは後述する充填層3を流通する第2伝熱媒体に移送されることによって、本熱交換器から排出される。熱伝導性の高い金属粉粒体への直接的な熱伝達機能を有することから、所望の温度への微調整として迅速な温度制御を行うことができる。このとき、金属粉粒体とともに充填層3に充填された第2伝熱媒体は、高圧ガス流路と金属粉粒体の伝熱媒体としての機能を果すとともに、その流動性によって熱量の移送媒体としての機能(対流による移送あるいは第2伝熱媒体の流通による移送を含む)を果すことによって、各々単独での伝熱媒体としての機能では得られない相乗的な熱交換機能を得ることができる。
【0034】
(iii)第3の手段
高圧ガス流路1を充填層3に充填された第2伝熱媒体と接触させることにより、高圧ガスと第2伝熱媒体の間での熱交換を効率よく行うことができる。つまり、高圧ガスは、上記伝熱媒体流路2との近接によって熱交換されながら、充填層3に収容された高圧ガス流路1を構成する配管を介して接触する第2伝熱媒体との熱交換によって冷却される。第2伝熱媒体に移送された熱量は、金属粉粒体から移送された熱量とともに、充填層3内を流動して充填層3の上部に移送されシール板4を介して空間部5を流通する第2伝熱媒体に移送されることによって、あるいは後述するように充填層3を流通する第2伝熱媒体に移送されることによって、本熱交換器から排出される。熱伝導性および流動性の高い第2伝熱媒体への直接的な熱伝達機能を有することから、所望の温度への微調整として迅速な温度制御を行うことができる。このとき、第2伝熱媒体とともに充填層3に充填された金属粉粒体は、高圧ガス流路1に対する伝熱媒体としての機能を果すとともに、その所定の熱容量によって、小さな熱容量の第2伝熱媒体からの熱量の一時的な受皿としての役割を果す補助機能を有し、各々単独での伝熱媒体としての機能では得られない相乗的な熱交換機能を得ることができる。
【0035】
このとき、シール板4は、充填層3からの熱量を第2伝熱媒体に伝達する機能を確保するために、例えば、銅板やアルミニウム板などのように熱伝導性の高い素材を用いて構成することが好ましい。さらに、本熱交換器では、シール板4を通気性とガスの分散機能を有する構成とすることが好ましい。例えばアルミニウムの焼結金属体やメッシュ構造体などをシール板4に用いることによって、図2に示すように、空間部5に導入された第2伝熱媒体M2を均一に充填層3内に流通させることができ、金属粉粒体3aに移送された熱量を効率よく空間部5から排出することができる。これによって、金属粉粒体3aとの接触による熱交換効率をさらに向上させることができる。このとき、第2伝熱媒体M2の供給を加圧条件で行うことが好ましい。図2に示すような金属粉粒体3aの間隙3bを高い伝熱媒体である第2伝熱媒体M2で充当し、空気などの伝熱効率の悪い気体を排除するとともに、充填層3内部の伝熱媒体の密度を上げ、さらに熱交換機能を高めることが可能となる。特に、ヘリウムなどのように原子(分子)径の小さなガスを用いることによって、金属粉粒体3aの細孔部まで高い第2伝熱媒体M2で充当することができ、さらに熱交換機能を高めることができる。これによって、熱交換効率の向上を図ることができ、熱交換器の小型化、これを用いた高圧ガス充填用装置の小型化を図ることが可能となった。
【0036】
〔本熱交換器の他の構成例(第2構成例)〕
本熱交換器は、図3(A)に例示するように、フランジ部7a,8aを有する蓋部8とフランジ部7a,8aによって接合・密閉される容器7から構成され、蓋部8に高圧ガス流路1、伝熱媒体流路2、伝熱媒体導入部9a、伝熱媒体導出部9bおよび温度計Toが密閉状に接合されることを特徴とする。第1構成例と同様の機能を有するとともに、図3(B)に示すように、容器7を蓋部8から取外すことによって高圧ガス流路1の保守・点検を行うことができる。
【0037】
つまり、本熱交換器を用いる高圧ガス充填用装置は、高圧ガス流路1の高いシール性や耐圧性が要求されるとともに、点検や保守などが容易であることが要求される。本熱交換器は、高圧ガス流路1を蓋部8に接合し、充填層3を有する容器7に蓋部8をフランジ取合いで接合する耐圧構造とし、保守・点検時にフランジ部7a,8aを解除することによって、高圧ガスの導入部から供出部までの全高圧ガス流路1が監視可能な構造を形成している。このとき、容器7内部の高圧ガス流路1との接合を、蓋部8に設けられた耐圧性の高い継ぎ手を介して行うことも可能であり、高圧ガス流路1の取外しおよび取付けが容易となり、保守・点検が容易となる。
【0038】
<本熱交換器を用いる高圧ガス供給装置の基本構成例>
図4は、本熱交換器を用いる高圧ガス供給装置(以下「本装置」という)の基本構成例を示す概略図である。本装置は、高圧ガスあるいは液化ガスが導入されるガス導入部10と、導入された高圧ガスあるいは液化ガスを圧縮する圧縮機20と、圧縮された高圧ガスを蓄圧する蓄圧ユニット30と、圧縮された高圧ガスが導入される本熱交換器40と、熱交換器40から供出された供給ガスの圧力および流量を調整する供給ガス調整部50と、調整された供給ガスを高圧ガス使用設備60aに充填するガス供給部60と、本熱交換器40に第1伝熱媒体を供給する第1伝熱媒体供給部70と、から構成される。本装置は、定置型、移動型あるいは可搬型のいずれにも適用可能である。
【0039】
導入された高圧ガスあるいは液化ガスを圧縮した後、上記のような3段の熱交換機能を有する本熱交換器40を用い、加圧後の温度条件を安定的に制御することによって、高圧ガスの発熱や温度変化による安全性や操作性に対する影響を防止し、高圧ガスを迅速にかつ安全に高圧ガス使用設備60aに充填することができる。また、圧縮された高圧ガスを蓄圧する蓄圧部を備えた蓄圧ユニット30を設け、任意の圧力条件で熱交換器40に高圧ガスを供給可能とする構成によって、種々の圧力仕様の高圧ガス使用設備60aに対応可能な高圧ガスを供給することができる。以下、それぞれの構成要素について説明する。
【0040】
〔ガス導入部10〕
高圧ガスは、1次蓄圧部10aを有するガス導入部10から調整弁A1によって供給量が調整され、開閉弁V1を介して供給される。ガス導入部10においては、1次蓄圧部10aから供給される高圧ガスの圧力は圧力計P1によって管理され安全弁S1によって高圧ガス流路1の圧力の過大を防止している。1次蓄圧部10aでの高圧ガスは、通常、常温で1〜20MPaで蓄圧される。なお、供給される高圧ガスの原料は、高圧ガスあるいは液化ガスは問わず、1次蓄圧部10aを冷却し液化ガスとして貯留し、供給時に加温することも可能である。
【0041】
〔圧縮機20〕
導入された高圧ガスは、ガス導入部10の下流に設けられた圧縮機20によって圧縮され、蓄圧ユニット30に供出される。具体的には、1次蓄圧部10aからの高圧ガスが開閉弁V2aおよび圧力計P2aを介して圧縮機本体20aに供給され、圧縮された状態で、蓄圧ユニット30に供出される。圧縮された高圧ガス流路1には圧力計P2bおよび安全弁S2が設けられ、圧力管理と安全性の確保を図っている。本装置に用いる圧縮機20は、予め蓄圧されたクリーンな高圧ガスをさらに圧縮することを目的とし、さらに例えば水素ステーションのように、35MPaや70MPaの高圧条件を形成する必要があることから、例えばブースター式圧縮機が好ましい。また、ピストン式あるいはダイヤフラム式などのレシプロタイプや、ターボ式あるいはロータリー式など使用条件に応じた圧縮機を選択することが可能である。
【0042】
ここで、熱交換器40から導出された第1伝熱媒体または第2伝熱媒体を、圧縮機20の動力源として使用することが好ましい。上記のように、本熱交換器40においては、第1および第2伝熱媒体という2種類の伝熱媒体を用いられ、それぞれ所定の圧力(エネルギー)を有するものであり、排出される伝熱媒体のこうしたエネルギーを、圧縮機20の動力源として用いることによって、エネルギーの有効活用を図ることができる。
【0043】
〔蓄圧ユニット30〕
圧縮機20によって圧縮された高圧ガスは、一定の圧力で安定的に熱交換器40を介して供給ガス調整部50に供給すべく、蓄圧ユニット30に蓄圧される。また、蓄圧ユニット30は、種々の圧力仕様の高圧ガス使用設備60aに対応可能な高圧ガスを供給することを目的として、圧縮機20によって圧縮された高圧ガスを異なる圧力で蓄圧可能な複数の蓄圧部(図4においては、2つの蓄圧部30a,30bから構成される場合を示す)を備えることが好ましい。複数の蓄圧部30a,30bに複数の圧力条件で蓄圧した後、順次所望の圧力に応じて該当する蓄圧部から高圧ガスを供給することによって、迅速に所望の圧力の高圧ガスを高圧ガス使用設備60aに充填することができる。圧縮機20から蓄圧部30a,30bへの流路には、開閉弁V3a,V3bおよびV3cが設けられ、順次開状態にして各蓄圧部30a,30bから高圧ガスが本熱交換器40へ供出される。また、開閉弁V3a,V3bと蓄圧部30a,30bとの間の流路には、圧力計P3a,P3bおよび安全弁S3a,S3bが設けられ、圧力管理と安全性の確保を図っている。
【0044】
蓄圧部30a,30bは、例えば複数のシリンダB1〜Bn(図4においては、蓄圧部30aに4つのシリンダB1〜B4、蓄圧部30bに2つシリンダB5,B6が配設された場合を示す)を配設することによって所望の高圧ガスの容量を確保することができる。つまり、例えば、図4に示すように、所望の圧力が35MPaの場合には、蓄圧部30aに約250Lの4つのシリンダB1〜B4を設けて約40MPaに蓄圧し、所望の圧力が70MPaの場合には、蓄圧部30bに同容量の2つシリンダB5,B6を設けて、約80〜85MPaに蓄圧することによって、同容量の圧力条件の異なる高圧ガスを高圧ガス使用設備60aに充填することができると同時に、圧縮機20からの高圧ガスを同一負荷条件で供給することができる。
【0045】
〔本熱交換器40〕
蓄圧ユニット30から導入された高圧ガスは、開閉弁Vaを介して本熱交換器40に導入され、既述の機能によって安定した低温状態にして(−60℃から−10℃)供給ガス調整部50に供出される。本熱交換器40には、第1伝熱媒体(例えば液体窒素)が、高圧ガス流路1と近接する伝熱媒体流路2に導入されるとともに、第2伝熱媒体(例えばヘリウム)が、圧力調整弁A4a、開閉弁V4、圧力計P4および伝熱媒体導入部9aを介して、第2伝熱媒体供給部40aから導入される。第2伝熱媒体の導入量は、本熱交換器40の伝熱媒体導出部9bからの流路に設けられた調整弁A4bによって調整される。
【0046】
実機において本熱交換器40を用い、高圧ガスとして水素、第1伝熱媒体として液体窒素、第2伝熱媒体としてヘリウム、金属粉粒体としてアルミニウムを使用した場合、圧力70MPaの水素ガスを5kg充填する場合、従前約20〜60分程度必要であった高圧ガスの充填(準備)時間が、5〜10分以内に改善された。また、本熱交換器40の熱交換効率の向上により、従前の同仕様の熱交換器に比較し、数分の1の小型化を図ることが可能となり、これを用いた高圧ガス充填用装置についても、従前の同仕様の装置に比較し、約1/2以下の小型化が可能となった。
【0047】
〔供給ガス調整部50〕
熱交換器40から供出された高圧ガスは、高圧ガス使用設備60aへの供給ガスとして圧力および流量を調整する供給ガス調整部50に導入される。具体的には、所望の圧力以上であることを圧力計P5aで管理しながら、フィルタFおよび開閉弁V5を介して導入され、圧力計P5bをモニタしながら調整弁A5によって所望の圧力および流量に調整される。圧力あるいは流量が調整範囲を超える場合には、蓄圧部30a,30bからの供給量によって、過不足がないように調整される。
【0048】
〔ガス供給部60〕
所望の圧力および流量に調整された供給ガスは、ガス供給部60を介して高圧ガス使用設備60aに充填される。つまり、開閉弁V6を開状態として、供給ガスの切換え時の圧力変動および流量変動を緩和する緩衝部Bfを介して高圧ガス使用設備60aに充填することによって、迅速かつ安定した充填操作を確保することができる。
【0049】
〔第1伝熱媒体供給部70〕
本熱交換器40の伝熱媒体流路2に供給される第1伝熱媒体は、第1伝熱媒体供給部70から導入されるとともに、回収される。具体的には、例えば第1伝熱媒体として液体窒素を用いた場合、液体窒素貯留部70aから切換弁V7aを介して伝熱媒体流路2に液体窒素が供給され、本熱交換器40において高圧ガスとの熱交換に用いられ、本熱交換器40から導出された窒素(気液混合状態)は加温用熱交換器70bによって常温近くに加温され、開閉弁V7bを介して放出される。
【0050】
このとき、図4に示すように、本熱交換器40から導出された第1伝熱媒体(窒素)を、開閉弁V7bを介して放出せずに蓄積し、蓄圧ユニット30に高圧ガスを供給するために圧縮機20を作動させるときに、圧力計P7によって供給圧力をモニタしながら開閉弁V7cおよび調整弁A7を介して圧縮機20に供給し、その動力源として使用することが好ましい。導出された窒素が有するエネルギーを有効に活用することによって、本装置全体のエネルギー効率の向上を図ることができる。また、蓄積された窒素で不十分な場合には切換弁V7aを切換えて本熱交換器40をバイパスして圧縮機20に直接窒素を供給することも可能である。
【0051】
<本装置における操作方法>
本装置においては、上記各構成要素の機能を活かし、以下のプロセスに沿って操作することが好ましい。
(1)高圧ガスあるいは液化ガスが、導入される工程
(2)導入された高圧ガスあるいは液化ガスを、圧縮する工程
(3)圧縮された高圧ガスを、蓄圧する工程
(4)蓄圧された高圧ガスを、前記熱交換器に導入し冷却する工程
(5)冷却され前記熱交換器から供出された供給ガスを、圧力および流量調整する工程
(6)調整された供給ガスを、高圧ガス使用設備に充填する工程
【0052】
つまり、ガス導入部10からの高圧ガスを、所望の圧力を確保できるように圧縮し、少し高めの圧力に蓄圧された高圧ガスを、3つの手段を有する熱交換器を用いて冷却することによって、局部的な断熱膨張および断熱圧縮に伴う高圧ガスの温度変化を防止するとともに、供給ガス調整部50での圧力および流量調整を確保し、高圧ガス消費設備60aの要求仕様に対応した圧力条件で、安全かつ迅速に供給することができる。
【0053】
また、本装置において、図4に示すように複数の異なる圧力条件で蓄圧された複数の高圧ガスの蓄圧部(例えば35MPaの蓄圧部30aと例えば70MPaの蓄圧部30b)を備えた場合には、供給開始に当り、(3)圧縮された高圧ガスを、蓄圧する工程において、35MPaでの蓄圧、次に70MPaでの蓄圧を行い、(4)蓄圧された高圧ガスを、本熱交換器40に導入し冷却する工程において、順次高圧ガス使用設備60aの仕様に対応して、35MPaの蓄圧部から70MPaの蓄圧部に(あるいは逆に)切換えて高圧ガスを供給することが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0054】
上記においては、主として水素ステーションに配設される高圧水素ガスの充填用装置について、その操作方法およびそれに用いる熱交換器の詳細を述べたが、本発明は、こうした水素ステーションに限られず、各種プロセス用の高圧ガスに適用することができる。特に高圧条件下での移送によって発熱するガス、具体的には水素やヘリウムなどを対象とする製造プロセスに対して有用である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係る高圧ガス充填用装置に用いる熱交換器の基本構成例を示す概略図
【図2】本発明に係る熱交換器における熱伝達する機能を例示する説明図
【図3】本発明に係る熱交換器の他の構成例を示す概略図
【図4】本発明に係る熱交換器を用いる高圧ガス供給装置の基本構成例を示す概略図
【図5】従来技術に係る燃料充てん装置を例示する説明図
【符号の説明】
【0056】
1 高圧ガス流路
2 伝熱媒体流路
3 充填層
4 シール板
5 空間部
6 断熱層
7 容器
7a フランジ部
8 蓋部
8a フランジ部
8b 仕切部材
9a 伝熱媒体導入部
10 ガス導入部
20 圧縮機
30 蓄圧ユニット
40 本熱交換器
50 供給ガス調整部
60 ガス供給部
60a 高圧ガス使用設備
70 第1伝熱媒体供給部
To 温度計


【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄圧された高圧ガスを高圧ガス使用設備に所定の圧力で供給する高圧ガス充填用装置に用いる熱交換器であって、
内部に高圧ガスが流通する高圧ガス流路と、該高圧ガス流路に近接し内部に第1伝熱媒体が流通する伝熱媒体流路と、前記高圧ガス流路および伝熱媒体流路を収容するとともに熱伝導性の高い金属粉粒体および第2伝熱媒体が充填された充填層と、該充填層の上部に設けられた熱伝導性の高いシール板と、該シール板の上部に前記第2伝熱媒体が流通する空間部と、該空間部、前記高圧ガス流路,伝熱媒体流路および充填層への吸熱を防止する断熱層と、を有することを特徴とする高圧ガス充填用装置に用いる熱交換器。
【請求項2】
前記シール板が通気性とガスの分散機能を有するとともに、前記第2伝熱媒体の供給を加圧条件で行うことを特徴とする請求項1記載の高圧ガス充填用装置に用いる熱交換器。
【請求項3】
前記熱交換器が、フランジ部を有する蓋部と該フランジ部によって接合・密閉される容器から構成され、該蓋部に前記高圧ガス流路、伝熱媒体流路および第2伝熱媒体の導入・導出部が密閉状に接合されることを特徴とする請求項1または2記載の高圧ガス充填用装置に用いる熱交換器。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の熱交換器を用い、高圧ガスを高圧ガス使用設備に充填する装置であって、
高圧ガスあるいは液化ガスが導入されるガス導入部と、導入された高圧ガスあるいは液化ガスを圧縮する圧縮機と、圧縮された高圧ガスが導入される前記熱交換器と、該熱交換器から供出された供給ガスの圧力および流量を調整する供給ガス調整部と、調整された供給ガスを前記高圧ガス使用設備に充填するガス供給部と、を有することを特徴とする高圧ガス充填用装置。
【請求項5】
前記圧縮機によって圧縮された高圧ガスを異なる圧力で蓄圧可能な複数の蓄圧部と、圧縮機から各蓄圧部への流路に切換弁と、を備え、前記高圧ガス使用設備の所望の圧力に応じて該切換弁を作動させ、前記蓄圧部に蓄圧された高圧ガスが前記熱交換器に導入されることを特徴とする請求項4記載の高圧ガス充填用装置。
【請求項6】
前記熱交換器から導出された第1伝熱媒体または第2伝熱媒体を、前記圧縮機の動力源として使用することを特徴とする請求項4または5記載の高圧ガス充填用装置。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれかに記載の熱交換器を用い、高圧ガスを高圧ガス使用設備に充填する方法であって、
(1)高圧ガスあるいは液化ガスが、導入される工程
(2)導入された高圧ガスあるいは液化ガスを、圧縮する工程
(3)圧縮された高圧ガスを、蓄圧する工程
(4)蓄圧された高圧ガスを、前記熱交換器に導入し冷却する工程
(5)冷却され前記熱交換器から供出された供給ガスを、圧力および流量調整する工程
(6)調整された供給ガスを、高圧ガス使用設備に充填する工程
を有することを特徴とする高圧ガスの充填方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−121657(P2010−121657A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−293738(P2008−293738)
【出願日】平成20年11月17日(2008.11.17)
【出願人】(000109428)日本エア・リキード株式会社 (53)
【出願人】(591036572)レール・リキード−ソシエテ・アノニム・プール・レテュード・エ・レクスプロワタシオン・デ・プロセデ・ジョルジュ・クロード (438)
【Fターム(参考)】