説明

高圧ガス燃料貯蔵容器およびその製造方法

【課題】 ライナの外周面を被覆する補強繊維層の肉厚分布を容器全体で均一化し、容器の耐圧強度を高める。
【解決手段】 円筒状のアルミニウム合金製からなるライナ3の外周面に、帯状の補強繊維束を巻き付けることで補強繊維層5を被覆する。帯状の補強繊維束は、炭素繊維をアルミニウム合金の溶湯中に浸漬させることで、繊維の隙間にライナ3と同材質のアルミニウム合金を含浸させる。その後、含浸させたアルミニウム合金を半硬化状態とした帯状の補強繊維束を、加熱炉中で、フープ巻きおよびヘリカル巻きを行って、ライナ3の外周面を補強繊維層5で被覆する。この際、半硬化状態のアルミニウム合金が加熱されて溶融し同材質のライナ3に溶着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒状のライナと、このライナの外周面を被覆する補強繊維層とをそれぞれ備えた高圧ガス燃料貯蔵容器およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の高圧ガス燃料貯蔵容器としては、例えば下記特許文献1に記載されているように、アルミニウム合金製のシール材となるライナの外周面に、高圧貯蔵時の耐圧性を確保するための補強繊維層を被覆すべく繊維を巻き付けたものがある。そして、この補強繊維層には、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を含浸硬化させている。
【特許文献1】特開2005−36918号公報(段落0032〜0039,図1,2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記した従来の高圧ガス燃料貯蔵容器は、アルミニウム合金製のライナの外周面に巻き付ける補強繊維層として、ライナとは別材質のエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を含浸させているため、この含浸材料がライナに密着しにくく、したがってライナ外周面に繊維を巻き付ける際、特にヘリカル巻きを行う際には、円筒容器の特に湾曲している肩部において滑りやすく、肩部における補強繊維層が薄くなって補強繊維層の厚さが容器全体で不均一になり、使用時に発生する容器部材の内部応力値も容器全体で不均一となる。
【0004】
この結果、応力集中する部位では、高圧ガス燃料貯蔵容器に対する燃料の充填・放出に伴う圧力変化に対する耐圧強度が、他部位に比べて相対的に弱くなり、容器寿命の短縮化を招いている。
【0005】
そこで、本発明は、補強繊維層の肉厚分布を容器全体で均一化し、容器の耐圧強度を高めることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、円筒状のライナと、このライナの外周面を被覆する補強繊維層とをそれぞれ備えた高圧ガス燃料貯蔵容器において、前記補強繊維層は、繊維の隙間に前記ライナと同材質の材料を含浸していることを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ライナの外周面を被覆する補強繊維層を、繊維の隙間にライナと同材質の材料を含浸させたものとしているので、含浸材料がライナに密着しやすく、したがってライナ外周面に繊維を巻き付ける際、特にヘリカル巻きを行う際にも、円筒容器の特に肩部であってもずれにくくなり、肩部における補強繊維層も他の部位と同様の肉厚にでき、補強繊維層の厚さが容器全体で均一となり、高圧ガス燃料貯蔵容器に対する燃料の充填・放出に伴う圧力変化に対する耐圧強度が高まり、容器寿命を長くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
【0009】
図1は、本発明の一実施形態に係わる高圧ガス燃料貯蔵容器1の部分断面図で、図2は高圧ガス燃料貯蔵容器1の製造過程での全体図である。この高圧ガス燃料貯蔵容器1は、例えば燃料電池に供給する水素を高圧で貯蔵するもので、アルミニウム合金製からなる円筒状のシール材となるライナ3と、ライナ3の外周面に被覆した耐圧性を確保するための補強繊維層5との二層構造となっている。
【0010】
ライナ3は、中心部に位置する筒状胴部7と、この筒状胴部7の両端開口を塞ぐように筒状胴部7と一体化する椀状端部9,11とを備えている。図2における上部の椀状端部9の中心には、外部に突出する口金部13が形成され、この口金部13のねじ孔13aには、図示しない配管を接続するか、あるいは開閉バルブや減圧バルブを備えた図示しないバルブ機構を接続し、高圧ガス燃料貯蔵容器1に対して燃料ガスの充填および放出を行う。
【0011】
上記した椀状端部9と反対側の図2中で下部の椀状端部15にも口金部17が形成され、この口金部17の連通孔には図示しない封止プラグを装着して容器内部を封止する。
【0012】
補強繊維層5は、帯状に形成した補強繊維束をライナ3の外周面に巻き付けて被覆する。この際、図2に示すように、ライナ3の筒状胴部7に円周方向に沿って巻き付けるフープ巻きAと、筒状胴部7に加えて図2中で上下両端の椀状端部9,15を含むように螺旋状に巻き付けるヘリカル巻きBとを実施する。
【0013】
なお、図2に示す状態は、帯状の補強繊維束をライナ3の外周面に巻き付けている過程を示しており、最終的には、ライナ3の外周面が外部から見えなくなるように、補強繊維束を何層にも巻き付ける。
【0014】
図3(a)は、上記補強繊維層5を形成する帯状の補強繊維束19の一部を示す断面図で、炭素繊維21の隙間に、ライナ3と同材質のアルミニウム合金製の含浸材料23を含浸してある。
【0015】
このような帯状の補強繊維束19は、含浸材料23を含浸させる前の帯状の繊維素材束を、アルミニウム合金の溶湯中に浸漬させることで、繊維の隙間にライナ3と同材質のアルミニウム合金を含浸材料23として含浸させる。この含浸直後の補強繊維束19Aを図3(b)に示す。
【0016】
その後適宜放置するなどして、含浸材料23であるアルミニウム合金を適度に硬化させ、例えば半硬化状態とした図3(a)に示す帯状の補強繊維束19を、図示しない加熱炉中で、前記したフープ巻きおよびヘリカル巻きを行って、ライナ3の外周面を補強繊層5で被覆し、ライナ3と補強繊維層5の二層構造の高圧ガス燃料貯蔵容器1を得る。
【0017】
上記した帯状の補強繊維束19をライナ3の外周面に巻き付ける際には、繊維の隙間に含浸させてある半硬化状態のアルミニウム合金が、加熱炉内で加熱されることで溶融し、アルミニウム合金からなるライナ3の外周面に溶着する。
【0018】
このため、含浸材料であるアルミニウム合金がこれと同材質のライナ3に密着しやすく、したがってライナ3の外周面に補強繊維束19を巻き付ける際、特にヘリカル巻きを行う際にも、ライナ3の特に肩部(椀状端部9,15)においてもずれにくくなって巻きやすくなり、肩部における補強繊維層5も他の部位(筒状胴部7)と同様の肉厚にできる。
【0019】
この結果、補強繊維層5の厚さが容器全体で均一となって、使用時に発生する容器部材の内部応力値も容器全体で均一となり、高圧ガス燃料貯蔵容器1における燃料の充填・放出に伴う圧力変化に対する耐圧強度が高まり、容器寿命を長くすることができる。
【0020】
図4は、本発明の他の実施形態を示す、前記図1に相当する断面図である。この実施形態は、筒状胴部70と椀状端部90とを備えるライナ30を樹脂製とし、この樹脂製ライナ30の外周面に被覆する補強繊維層50を、炭素繊維などからなる補強繊維の隙間にライナ30と同材質の樹脂を含浸させたものとしている。
【0021】
そして、ここでは、椀状端部90の中心に設けた貫通孔90aに、椀状端部90とは別体となる金属製の口金部材110を固定保持させている。口金部材110は、容器内側に位置してライナ30と一体成形される鍔部110aと、容器外部に突出する円筒形の外部接続部110bとを備え、これら鍔部110aおよび外部接続部110bを貫通するねじ孔110cに、図示しない配管あるいは、開閉バルブや減圧バルブを備えた図示しないバルブ機構を接続する。
【0022】
したがって、ここでは、椀状端部90の中心側に口金部材110の鍔部110aが存在するので、この鍔部110aの外周面にも補強繊維層50を被覆している。
【0023】
上記した補強繊維層50は、前記図1に示した補強繊維層5と同様に、帯状の補強繊維束をライナ30の外周面に巻き付けたものであり、帯状の補強繊維束は、帯状の繊維素材束を、ライナ30と同材質の樹脂の溶湯中に浸漬させることで、繊維の隙間にライナ30と同材質の樹脂を含浸させたものである。
【0024】
そして、含浸させた樹脂を例えば半硬化状態とした帯状の補強繊維束を、図示しない加熱炉中で、前記したフープ巻きおよびヘリカル巻きを行って、ライナ30の外周面を補強繊維層50で被覆し、ライナ30と補強繊維層50の二層構造の高圧ガス燃料貯蔵容器10を得る。
【0025】
この実施形態においても、帯状の補強繊維束をライナ30の外周面に巻き付ける際には、繊維の隙間に含浸させてある半硬化状態の樹脂が、図1の実施形態と同様に加熱されることで溶融し、同材質の樹脂製ライナ30の外周面に溶着する。
【0026】
このため、含浸材料である樹脂がこれと同材質のライナ30に密着しやすく、したがってライナ30の外周面に補強繊維束を巻き付ける際、特にヘリカル巻きを行う際にも、ライナ30の特に肩部(椀状端部90)においもずれにくくなって巻きやすくなり、肩部における補強繊維層50も他の部位(筒状胴部70)と同様の肉厚にできる。
【0027】
この結果、補強繊維層50の厚さが容器全体で均一となって、使用時に発生する容器部材の内部応力値も容器全体で均一となり、高圧ガス燃料貯蔵容器10における燃料の充填・放出に伴う圧力変化に対する耐圧強度が高まり、容器寿命を長くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態に係わる高圧ガス燃料貯蔵容器の部分断面図である。
【図2】図1に示した高圧ガス燃料貯蔵容器の全体図である。
【図3】(a)は、補強繊維層を形成する帯状の補強繊維束の一部を示す断面図、(b)は、(a)の帯状の補強繊維束とする前に、帯状の繊維素材束をアルミニウム合金の溶湯中に浸漬させた直後の状態を示す断面図である。
【図4】本発明の他の実施形態を示す、前記図1に相当する断面図である。
【符号の説明】
【0029】
1,10 高圧ガス燃料貯蔵容器
3,30 円筒状のライナ
5,50 補強繊維層
7,70 筒状胴部
9,15,90 椀状端部
19 帯状の補強繊維束
21 炭素繊維(繊維)
23 アルミニウム合金製の含浸材料(ライナと同材質の材料)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のライナと、このライナの外周面を被覆する補強繊維層とをそれぞれ備えた高圧ガス燃料貯蔵容器において、前記補強繊維層は、繊維の隙間に前記ライナと同材質の材料を含浸していることを特徴とする高圧ガス燃料貯蔵容器。
【請求項2】
前記補強繊維層は、帯状に形成した補強繊維束を前記ライナの外周面に巻き付けて被覆することを特徴とする請求項1に記載の高圧ガス燃料貯蔵容器。
【請求項3】
前記ライナは、筒状胴部と、この筒状胴部の両端開口を塞ぐように筒状胴部と一体化する椀状端部とを備え、この椀状端部および前記筒状胴部の外周面に、前記帯状の補強繊維束をヘリカル巻きしてなることを特徴とする請求項2に記載の高圧ガス燃料貯蔵容器。
【請求項4】
円筒状のライナと、このライナの外周面を被覆する補強繊維層とをそれぞれ備えた高圧ガス燃料貯蔵容器の製造方法において、前記ライナは、筒状胴部と、この筒状胴部の両端開口を塞ぐように筒状胴部と一体化する椀状端部を備えるとともに、前記補強繊維層は、繊維の隙間に前記ライナと同材質の材料を含浸させた帯状の補強繊維束を備え、この帯状の補強繊維束を、前記筒状胴部および椀状端部を含むライナの外周面にヘリカル巻きして被覆することを特徴とする高圧ガス燃料貯蔵容器の製造方法。
【請求項5】
前記帯状の補強繊維束を、前記ライナに巻き付ける際に加熱することで、前記繊維の隙間に含浸した材料を溶融させて前記ライナに溶着させることを特徴とする請求項4に記載の高圧ガス燃料貯蔵容器の製造方法。
【請求項6】
前記帯状の補強繊維束は、帯状の繊維素材束を、前記ライナと同材質の溶融した材料中に浸漬させることで、繊維の隙間に前記ライナと同材質の材料を含浸させることを特徴とする請求項4または5に記載の高圧ガス燃料貯蔵容器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−322590(P2006−322590A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−148090(P2005−148090)
【出願日】平成17年5月20日(2005.5.20)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】