説明

高圧天然ガスの分離方法およびそれに用いる分離装置

【課題】燃料等に用いられるメタンと、石油化学プラント用原料等に用いられる天然ガス中の他の成分とを、これらが消費される場所にオンサイトで安定的に供給することのできる高圧天然ガスの分離方法およびそれに用いる分離装置を提供する。
【解決手段】ガスパイプライン中の高圧の天然ガスまたは都市ガスを原料とし、深冷分離により、その下部側に原料ガス中の高沸点成分を液体状態で溜め、その上部側にメタンリッチガスを溜める精留塔10と、原料ガスを冷却する熱交換器2と、熱交換器2を経由した原料ガスを冷却するリボイラー1と、リボイラー1を経由した原料ガスを断熱膨脹させる原料ガス膨脹手段(原料ガス膨脹弁3)と、精留塔上部のメタンリッチガスを熱交換器2を経由して第1の製品ガスとして外部に導出する第1製品ガス流路Mと、精留塔下部の高沸点成分を熱交換器2を経由して第2の製品ガスとして外部に導出する第2製品ガス流路Eとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスパイプラインから取り出した高圧の天然ガスまたは都市ガスを、メタンとそれ以外の成分とに分離する方法およびそれに用いる分離装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
天然ガスや、天然ガスを原料として製造される都市ガス(13A,12A等)は、メタンを主成分としており、そのなかにエタン,プロパン,ブタンおよびイソブタンなどの軽質炭化水素が含まれている。例えば、日本国内の油田(新潟,秋田等)から産出される天然ガスの成分は、メタン約85〜92%,エタン約4〜7%,プロパン約1〜4%,ブタンおよびイソブタン約1%となっている(非特許文献1を参照)。
【0003】
上記産出された天然ガスは、天然ガス井の周辺に設けられた天然ガス精製所で、硫黄分や不活性ガス,炭酸ガス,水分等の不純物を取り除いたのち、プロパンガス(LPG)等を添加して所定の熱量に調整し、製品(都市ガス)とされる(特許文献1を参照)。そして、この都市ガスは、長距離の輸送(圧送)に充分な高圧(約5〜7MPaG:Gはゲージ圧力、以下同じ)に昇圧され、供給地(ガス井)と需要地(この場合は都市部)との間に敷設された大口径(約600〜750mmφ)の幹線ガスパイプラインを通じて、都市ガス供給事業者や大口需要者等に供給されている。
【0004】
一方、日本国内で消費される都市ガスの原料の大部分を占める、国外から輸入された天然ガスは、需要者や消費者の多い都市部において、ガスパイプライン網により供給されている。この輸入された天然ガスは、国外の供給地(産出地)の液化プラントで、不純物等を取り除いたのち圧縮・冷却されて液化天然ガス(LNG)とされ、LNGタンカー等を用いて、LNGタンク等の保管施設を有するLNG基地まで海上輸送される。貯留された液化天然ガスは、LNG基地(需要地近郊)にある気化プラントあるいは都市ガス製造所で気化され、LPG等を添加して所定の熱量に調整されて、都市ガスとされる(特許文献2を参照)。そして、上記製造された都市ガスは、所定の輸送用高圧(約1〜7MPaG)に昇圧されて、高圧導管(地域幹線ガスパイプライン),高圧ガバナ(整圧器),ガスホルダ,中圧導管,中圧ガバナ,低圧導管,低圧ガバナ等からなる都市ガスパイプライン網を通じて、工業用や家庭用として消費者等に供給されている(非特許文献2を参照)。
【0005】
ここで、上記ガスパイプラインは、ガス輸送量に応じて、1)1.0MPaG以上の圧力に対応する高圧導管、2)0.1〜1.0MPaGの圧力に対応する中圧導管、3)0.1MPaG未満の圧力に対応する低圧導管、の三種類に大別される。また、用途別に分類すれば、高圧導管は、天然ガスまたは都市ガスを供給地から需要地まで輸送(長距離輸送)する「(地域)幹線ガスパイプライン」であり、中圧導管は、上記幹線ガスパイプラインから地域への「供給導管」または大規模需要者への配給導管(支線)であり、低圧導管は、地域内での小規模な最終需要者(消費者)への「配給導管」であると言い換えることもできる。
【0006】
なお、上記地域内での長距離輸送に用いられる高圧導管は、例えば首都圏環状幹線や近畿幹線等のような大口径(600mmφ)で高圧(7MpaG)の「地域幹線ガスパイプライン」を含め、既に全国で約4500km以上(2010年末)敷設されている。また、これらを繋いで列島を縦断する、超高圧(7MPaG以上)の「国土幹線ガスパイプライン」網も計画されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−57962号公報
【特許文献2】特開2007−24489号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】日本化学会編、「化学便覧応用化学編(第6版)」、丸善株式会社、2003年1月、第I分冊 p.104
【非特許文献2】経済産業省 資源エネルギー庁 電気・ガス事業部 ガス市場整備課、「ガスのインフラ整備に向けて」、ガスのインフラ整備に関するワーキンググループ報告書(平成23年3月)、2011年3月、インターネット<URL http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy/gas#infra/1103#houkoku#01.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記天然ガスまたは都市ガスに含まれるエタン,プロパンおよびブタン等の炭化水素類は、石油化学プラントの原料になるため、上記ガスをそのまま都市ガスまたは火力発電用の燃料として使用するよりも、上記炭化水素類を別途取り出して利用した方が、市場において高い価値をもつ場合がある。
【0010】
しかしながら、これらメタンと他の石油化学プラント用原料等との分離は、現状、上記特許文献2のように、LNG基地等にある天然ガス気化プラントあるいは都市ガス製造所等で行われている。そのため、得られたメタンや上記石油化学プラント用の原料等は、これらの製造所等で液化され、ローリートラックや貨車,船舶等を用いて需要者の工場まで運搬されている。ここに改善の余地がある。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、燃料等に用いられるメタンと、石油化学プラント用原料等に用いられる天然ガス中の他の成分とを、これらが消費される場所にオンサイトで安定的に供給することのできる高圧天然ガスの分離方法およびそれに用いる分離装置の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するため、本発明は、天然ガスまたは都市ガスを原料ガスとして精留塔に導入し、深冷分離により上記ガスをメタンとそれ以外の高沸点成分とに分離する方法であって、ガスパイプラインを流れる高圧の原料ガスを対象原料ガスとして取り出し、これを熱交換器および精留塔内に位置するリボイラーを経由させて冷却した後、この冷却された原料ガスを、原料ガス膨脹手段を通して断熱膨脹させる冷却工程と、上記断熱膨脹した原料ガスを精留塔に導入し、深冷分離により、その下部側に原料ガス中の高沸点成分を液体状態で溜め、その上部側にメタン濃度の高いメタンリッチガスを溜める精留工程と、上記精留塔の頂部からメタンリッチガスを取り出し、上記熱交換器を通して、上記精留塔に導入前の原料ガスを冷却するとともにこのメタンリッチガスを昇温させ、昇温したメタンリッチガスを第1の製品ガスとして外部に導出する工程と、上記精留塔の底部から原料ガス中の高沸点成分を取り出し、上記熱交換器を通して、上記精留塔に導入前の原料ガスを冷却するとともにこの高沸点成分を気化させ、気化した高沸点成分を第2の製品ガスとして外部に導出する工程と、を備える高圧天然ガスの分離方法を第1の要旨とする。
【0013】
また、本発明は、ガスパイプラインから取り出した高圧の天然ガスまたは都市ガスを原料ガスとして導入し、深冷分離により、その下部側に原料ガス中の高沸点成分を液体状態で溜め、その上部側にメタン濃度の高いメタンリッチガスを溜める機能をもつ精留塔と、上記原料ガスを、上記精留塔の底部から取り出された液体状の高沸点成分および上記精留塔の頂部から取り出されたメタンリッチガスと熱交換させて冷却する熱交換器と、上記熱交換器を経由した原料ガスを、上記精留塔の下部に溜まる液体状の高沸点成分を用いて冷却するリボイラーと、上記リボイラーを経由した原料ガスを断熱膨脹させる原料ガス膨脹手段と、上記精留塔の頂部から取り出されたメタンリッチガスを、上記熱交換器を経由して第1の製品ガスとして外部に導出する第1製品ガス流路と、上記精留塔の底部から取り出された原料ガス中の高沸点成分を、上記熱交換器を経由して第2の製品ガスとして外部に導出する第2製品ガス流路と、を備える高圧天然ガスの分離装置を第2の要旨とする。
【0014】
すなわち、本発明の発明者らは、前記メタンや石油化学プラント用原料等の輸送において現在主流をなすトラック輸送や貨車輸送は、気象条件や交通事情等の影響を受け易く、輸送費も嵩むという点を鑑み、これに代わる代替輸送手段として、上記原料等の消費地(工場地帯)に隣接して敷設されたガスパイプラインに着目した。そして、高圧ガスやガス分離装置に関する豊富な知識や経験を基に、精留塔や熱交換器等を効率的に組み合わせることにより、高圧ガスのもつエネルギーを無駄なく有効に利用できる比較的小規模なガス分離プラントを、原料等を消費する工場内もしくはその近隣で構築・運用可能なことを見出した。
【0015】
なお、本発明における高圧ガスの「高圧」とは、先に述べたガスパイプライン網における高圧導管中を流れる天然ガスまたは都市ガスに、輸送(圧送)用として付与される1.0MPaG以上のガス圧をいい、好ましくは1〜8MPaG、より好ましくは「幹線ガスパイプライン」に用いられる4〜8MPaGのガス圧をいう。
【発明の効果】
【0016】
本発明の高圧天然ガスの分離方法によれば、ガスパイプラインから取り出した「高圧」の天然ガスまたは都市ガスを、熱交換器およびリボイラーを経由した後、原料ガス膨脹手段で断熱膨脹させる冷却工程と、精留塔内に導入した上記原料ガスを、深冷分離により、メタンと他の高沸点成分とに分離する精留工程とを備えることにより、外部からエネルギー(寒冷等)を投入することなく、上記天然ガス中のメタンとその他の高沸点成分とを、効率的に分離することができる。そして、この精留塔の上部に溜まるメタンリッチガスを、燃料等に用いる第1の製品ガスとして外部に取り出すとともに、上記精留塔の下部に溜まるエタンやプロパン,ブタン等の高沸点成分を、石油化学プラントの原料となる第2の製品ガスとして外部に取り出すことができる。
【0017】
また、本発明の高圧天然ガスの分離方法のなかでも、上記冷却工程におけるリボイラーと原料ガス膨脹手段との間に、この原料ガスを過冷却する過冷却器が配設され、上記メタンリッチガスを精留塔から外部に導出する工程が、上記精留塔の頂部からメタンリッチガスを取り出し、過冷却器を経由して膨脹タービンで膨脹させた後、再度上記過冷却器を通過させ、このメタンリッチガスの冷熱を利用して、上記原料ガス膨脹手段に通す前の原料ガスを過冷却するとともに、ついで、この過冷却器通過後のメタンリッチガスを上記熱交換器に通して、上記リボイラーに通す前の原料ガスを冷却してこのメタンリッチガスを昇温させ、昇温したメタンリッチガスを第1の製品ガスとして外部に導出するようになっている場合は、上記精留塔の頂部から取り出したメタンリッチガスの冷熱エネルギーをより効率的に利用できるため、上記原料ガス膨脹手段における原料ガスの膨脹(膨脹度あるいは膨脹率)を抑えた状態、すなわち言い換えれば、原料ガスの圧力の低下を防いで高圧を保った状態で、上記天然ガス成分の分離(精留)を行うことが可能になる。また、これにより、上記第1および第2の製品ガスを、より高圧で取り出すことができる。
【0018】
つぎに、本発明の高圧天然ガスの分離装置は、ガスパイプラインから取り出した高圧の天然ガスまたは都市ガスを原料ガスとして導入し、深冷分離により、その下部側に原料ガス中の高沸点成分を液体状態で溜め、その上部側にメタン濃度の高いメタンリッチガスを溜める機能をもつ精留塔と、上記原料ガスを、上記精留塔の底部から取り出された液体状の高沸点成分および上記精留塔の頂部から取り出されたメタンリッチガスと熱交換させて冷却する熱交換器と、上記熱交換器を経由した原料ガスを、上記精留塔の下部に溜まる液体状の高沸点成分を用いて冷却するリボイラーと、上記リボイラーを経由した原料ガスを断熱膨脹させる原料ガス膨脹手段と、上記精留塔の頂部から取り出されたメタンリッチガスを、上記熱交換器を経由して第1の製品ガスとして外部に導出する第1製品ガス流路と、上記精留塔の底部から取り出された原料ガス中の高沸点成分を、上記熱交換器を経由して第2の製品ガスとして外部に導出する第2製品ガス流路と、を備える。この構成により、本発明の高圧天然ガスの分離装置は、外部からエネルギー(寒冷等)を投入することなく、上記高圧天然ガスの断熱膨脹により発生する冷熱のみを利用して、上記天然ガス中のメタンとその他の高沸点成分とを、効率的に分離することができる。そして、上記精留塔の上部に溜まるメタンリッチガスを、燃料等に用いる第1の製品ガスとして外部に取り出すとともに、この精留塔の下部に溜まるエタンやプロパン,ブタン等の高沸点成分を、石油化学プラントの原料となる第2の製品ガスとして外部に取り出すことができる。
【0019】
また、本発明の高圧天然ガスの分離装置は、高圧ガスのもつエネルギーを無駄なく有効に利用できることから、付帯設備が少なく比較的小形で、メンテナンス等の手間の少ないガス分離プラントを、メタンや石油化学プラント用原料等が消費される工場内もしくはその近隣で構築・運用することができる。したがって、本発明の高圧天然ガスの分離装置は、燃料等に用いられるメタンと、石油化学プラント用原料等に用いられる天然ガス中の他の成分とを、これらが消費される場所にオンサイトで安定的に供給することが可能となる。
【0020】
なお、本発明の高圧天然ガスの分離装置のなかでも、上記リボイラーと上記原料ガス膨脹手段との間に過冷却器が配設され、この過冷却器に対応する膨脹タービンが配置され、上記リボイラーを経由した原料ガスが、上記過冷却器で過冷却された後、上記原料ガス膨脹手段に導入されるようになっているとともに、上記第1製品ガス流路が、上記精留塔の頂部から取り出されたメタンリッチガスを、過冷却器を経由して膨脹タービンに導入した後、再度上記過冷却器を通過させ、ついで上記熱交換器を経由して、第1の製品ガスとして外部に導出するようになっているものは、上記精留塔の頂部から取り出したメタンリッチガスの冷熱エネルギーをより効率的に利用できるため、上記原料ガス膨脹手段による原料ガスの膨脹を抑えた状態、すなわち、原料ガスを高圧に保った状態で、上記天然ガス成分の分離(精留)を行うことが可能になる。これにより、上記第1および第2の製品ガスを、より高圧で取り出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態における高圧天然ガスの分離装置の概略構成図である。
【図2】本発明の第2実施形態における高圧天然ガスの分離装置の概略構成図である。
【図3】本発明の第3実施形態における高圧天然ガスの分離装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
つぎに、本発明の実施の形態を、図面にもとづいて詳しく説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限定されるものではない。
【0023】
本発明の第1実施形態の高圧天然ガスの分離方法に用いる分離装置は、図1に示すように、ガスパイプライン(地域幹線ガスパイプライン)から取り出した常温で高圧の原料ガス(都市ガス 約5.5MPaG 成分:メタン88%,エタン9%,プロパン2%,ブタン1%)を、単式の精留塔10に導入し、各成分の沸点差を利用して、深冷分離により、メタンリッチガス(ガスA)とそれ以外の成分(ガスB)に分離するものである。
【0024】
そして、この高圧天然ガス(都市ガス)の分離装置は、上記高圧の都市ガスを原料ガス膨脹手段(原料ガス膨脹弁3)で断熱膨脹させた際に発生する冷熱を、上記原料ガスの冷却および精留塔10の寒冷として効率的に利用することにより、装置外部の熱源(冷熱源)を用いることなく、上記都市ガス中のメタンとその他の高沸点成分とを、高純度かつ高回収率で分離することができる。これが、本発明の高圧天然ガスの分離装置の特徴である。
【0025】
上記高圧天然ガスの分離装置の構成について、詳しく説明すると、この高圧天然ガスの分離装置は、図1のように、上記精留塔10と、上記原料ガスを熱交換により冷却する熱交換器2と、上記精留塔10内の下部(底部側)に配置されたリボイラー1と、上記リボイラー1を経由した原料ガスを断熱膨脹させる原料ガス膨脹弁3と、を備える。
【0026】
また、上記高圧天然ガスの分離装置には、ガスパイプラインから取り出した高圧の天然ガスまたは都市ガスを対象原料ガスとして、熱交換器2,リボイラー1,原料ガス膨脹弁3を経由して精留塔10に導入するための原料ガス流路Sと、上記精留塔10の頂部10aから取り出したガス(メタンリッチガス)を、上記熱交換器2を経由して第1の製品ガス(ガスA)として外部に導出するための第1製品ガス流路Mと、上記精留塔10の底部10bから取り出した高沸点成分(エタン,プロパン,ブタンの液化混合物)を、上記熱交換器2を経由して第2の製品ガス(ガスB)として外部に導出するための第2製品ガス流路Eが、形成されている。
【0027】
上記精留塔10は、その内部に、精留棚もしくは充填物(規則充填物,不規則充填物等)と呼ばれる精留手段が設けられており、この精留手段より上部に、上記熱交換器2および精留塔10内のリボイラー1で冷却され、ついで上記精留塔10外部の原料ガス膨脹弁3で断熱膨脹した原料ガスが、供給されるようになっている。
【0028】
上記精留塔10内の下部(上記精留手段より下側)には、上記リボイラー1が配置されており、その周囲は、液体状の上記高沸点成分(エタン,プロパン,ブタン)を溜めておくことのできるスペースになっている。なお、精留塔10の底部10bには、この部位に溜まる上記液体状の高沸点成分を取り出すための高沸点成分導出口が設けられ、ここに上記第2製品ガス流路Eが接続されている。また、上記精留塔10上部(上記精留手段より上側)の頂部10aには、この部位に溜まる高濃度の気体状のメタンリッチガスを取り出すためのメタンリッチガス導出口が設けられ、ここに上記第1製品ガス流路Mが接続されている。
【0029】
つぎに、上記第1実施形態の高圧天然ガスの分離装置を用いた、高圧天然ガスの分離の具体例について述べる。
【0030】
[実施例1]
例えば、原料ガスとして、常温で高圧の都市ガス〔圧力:5.5MPaG 成分:メタン88%,エタン9%,プロパン2%,ブタン1%〕を用いる場合、供給された上記原料ガスは、熱交換器2で約−50℃に冷却された後、リボイラー1で約−55℃まで冷却され、その一部が液化する。ついで、原料ガス膨張弁3で膨脹した原料ガスは、約2.3MPaGまで圧力が低下し、さらに低温(約−90℃)となって、精留塔10に導入される。
【0031】
精留塔10内では、深冷分離により、その上部に気体状態のメタン(沸点:−161.5℃ 大気圧下、以下同じ)が溜まる。同様に、精留塔10の下部には、上記都市ガスの高沸点成分であるエタン(沸点:−88.8℃),プロパン(沸点:−42.2℃),ブタン(沸点:−0.5℃),イソブタン(沸点:−11.7℃)が、液体状態で溜まる。
【0032】
上記精留塔10の上部に溜まったメタン(低温のメタンリッチガス)は、頂部10aのメタンリッチガス導出口から取り出され、第1製品ガス流路Mを通じて、熱交換器2で原料ガスと熱交換して加温された後、製品メタンガス(ガスA 圧力:2.3MPaG)として装置外に導出される。なお、この例においては、導出されるガスA中のメタン濃度は約98%であり、都市ガス中の全メタンに対する回収率は約94%であった。
【0033】
また、上記精留塔10の下部に溜まった高沸点成分(液体状)は、底部10bに設けられた高沸点成分導出口から取り出され、第2製品ガス流路Eを通じて、熱交換器2で原料ガスと熱交換して加温された後、石油化学プラント用の原料(ガスB 圧力:2.3MPaG)として装置外に導出される。なお、この例においては、導出されるガスB中のメタン濃度は約35%、エタン濃度は約44%であり、都市ガス中の全エタンに対する回収率は約77%であった。
【0034】
つぎに、上記第1実施形態の高圧天然ガスの分離装置と同じ原料ガスを用いて、メタンをより高純度・高回収率で分離した例について述べる。
【0035】
[実施例2]
原料ガスとして、上記実施例1と同様に、常温で高圧の都市ガス〔圧力:5.5MPaG 成分:メタン88%,エタン9%,プロパン2%,ブタン1%〕を用いて、供給された原料ガスを、熱交換器2で約−55℃に冷却した後、リボイラー1で約−60℃まで冷却(一部が液化)した。ついで、原料ガス膨張弁3で、実施例1とは異なる約0.2MPaGの低圧まで原料ガスを膨脹させた後、さらに低温(約−120℃)となった原料ガスを精留塔10に導入し、深冷分離させた。
【0036】
実施例1と同様、上記精留塔10の上部に溜まったメタン(低温のメタンリッチガス)を、頂部10aのメタンリッチガス導出口から取り出し、第1製品ガス流路Mを通じて、熱交換器2で原料ガスと熱交換させて加温した後、製品メタンガス(ガスA)として装置外に導出した。この例においては、導出されるガスA中のメタン濃度は約98%であり、都市ガス中の全メタンに対する回収率は約99%であった。
【0037】
また、上記精留塔10の下部に溜まった高沸点成分(液体状)を、底部10bの高沸点成分導出口から取り出し、第2製品ガス流路Eを通じて、熱交換器2で原料ガスと熱交換させて加温した後、石油化学プラント用の原料(ガスB)として装置外に導出した。この例においては、導出されるガスB中のメタン濃度は約1%,エタン濃度が約68%であり、都市ガス中の全エタンに対する回収率は約80%であった。
【0038】
なお、上記第1実施形態の高圧天然ガスの分離装置においては、精留塔底部10bの高沸点成分取出口と熱交換器2との間(第2製品ガス流路E上)に、上記高沸点成分(液体状)を断熱膨脹させる膨張弁等の高沸点成分膨脹手段を配置してもよい。
【0039】
つぎに、深冷分離により得られる、メタンリッチガス(ガスA)とそれ以外の成分(ガスB)とを、上記第1実施形態より高圧で回収することのできる第2実施形態について説明する。
【0040】
図2は、本発明の第2実施形態の高圧天然ガスの分離方法に用いる分離装置の概略構成図である。この高圧天然ガスの分離装置の構造的特徴は、上記第1実施形態におけるリボイラー1と原料ガス膨脹弁3との間(原料ガス流路S上)に、リボイラー1で冷却された原料ガスをさらに冷却する過冷却器4が配設され、この過冷却器4を経由したガス(精留塔10から取り出したメタンリッチガス)を断熱膨脹させる膨脹タービン5を備える点である。また、第1の製品ガス(ガスA)を外部に導出するための第1製品ガス流路Mは、上記精留塔10の頂部10aから取り出した直後の低温のガス(メタンリッチガス)を、上記過冷却器4に通すように形成されているとともに、この過冷却器4を通過したメタンリッチガスを、上記膨脹タービン5を経由して膨脹させた後、再度上記過冷却器4を通過するように構成されている。
【0041】
[実施例3]
上記第2実施形態の高圧天然ガスの分離装置を用いた高圧天然ガスの分離は、例えば、原料ガスとして、前記実施例1と同様の都市ガス〔圧力:5.5MPaG 成分:メタン88%,エタン9%,プロパン2%,ブタン1%〕を用いた場合、供給された上記原料ガスは、熱交換器2で約−40℃に冷却された後、リボイラー1で約−50℃まで冷却され、その一部が液化する。ついで、上記過冷却器4で約−60℃まで冷却された後、原料ガス膨張弁3によって約3.0MPaGまで膨脹して圧力が低下し、さらに低温(約−80℃)となって精留塔10に導入され、深冷分離される。
【0042】
上記精留塔10の上部に溜まったメタン(低温のメタンリッチガス)は、第1製品ガス流路Mを通じて、頂部10aのメタンリッチガス導出口から取り出され、一旦、過冷却器4を通過して原料ガスを過冷却した後、上記膨脹タービン5で約2.4MPaGまで膨脹する。ついで、再び過冷却器4を通って原料ガスを冷却し、さらに熱交換器2で原料ガスと熱交換してこの原料ガスを冷却した後、製品メタンガス(ガスA 圧力:2.4MPaG)として装置外に導出される。この例においては、導出されるガスA中のメタン濃度は約97%であり、都市ガス中の全メタンに対する回収率は約94%であった。
【0043】
また、上記精留塔10の下部に溜まった高沸点成分(液体状)は、前記実施例1と同様、底部10bの高沸点成分導出口から取り出され、第2製品ガス流路Eを通じて、熱交換器2で原料ガスと熱交換して加温された後、石油化学プラント用の原料(ガスB 圧力:3.0MPaG)として装置外に導出される。なお、この例においては、導出されるガスB中のメタン濃度は約36%、エタン濃度は42%であり、都市ガス中の全エタンに対する回収率は約70%であった。
【0044】
なお、上記実施例3(および後記の実施例4)における膨脹タービン5は、原料ガスの膨脹に制限をかける(抑制する)ために設けられているもので、この例においても、上記都市ガス中のメタンとその他の高沸点成分との分離は、装置外部から電力や冷熱等のエネルギーを投入することなく行われている。
【0045】
つぎに、上記第2実施形態の高圧天然ガスの分離装置と同様の装置を用いて、メタンをより高純度・高回収率で分離した例について述べる。
【0046】
図3は、本発明の第3実施形態の高圧天然ガスの分離方法に用いる分離装置の概略構成図である。この高圧天然ガスの分離装置が、構成上、上記第2実施形態の高圧天然ガスの分離装置と異なる点は、ガスパイプラインから取り出した高圧の天然ガスまたは都市ガス(対象原料ガス)を、先に精留塔10内のリボイラー1に導入して冷却した後、他の実施形態における熱交換器2と同じ機能を有する熱交換器2’に通して冷却している点である。そのため、原料ガス流路Sは、上記原料ガスを、リボイラー1,熱交換器2’原料ガス膨脹弁3の順に経由して精留塔10に導入するように構成されている。なお、上記熱交換器2’の配置以外、この第3実施形態の高圧天然ガスの分離装置の構成は、前記第2実施形態の高圧天然ガスの分離装置と同様である。
【0047】
[実施例4]
分離装置として上記第3実施形態の高圧天然ガスの分離装置を用いて、上記実施例3と同様の都市ガス〔圧力:5.5MPaG〕の分離を行う場合、まず、供給された原料ガスをリボイラー1で約+10℃まで冷却した後、熱交換器2’で約−20℃に冷却する。ついで、過冷却器4で約−60℃まで冷却された後、原料ガス膨張弁3によって約1.0MPaGまで膨脹して圧力が低下し、さらに低温(約−100℃)となって精留塔10に導入され、深冷分離される。
【0048】
上記精留塔10の上部に溜まったメタン(低温のメタンリッチガス)は、第1製品ガス流路Mを通じて、頂部10aのメタンリッチガス導出口から取り出され、一旦、過冷却器4を通過して原料ガスを過冷却した後、上記膨脹タービン5で約0.3MPaGまで膨脹する。ついで、再び過冷却器4を通って原料ガスを冷却し、さらに熱交換器2’で原料ガスと熱交換してこの原料ガスを冷却した後、製品メタンガス(ガスA)として装置外に導出される。この例においては、導出されるガスA中のメタン濃度は約98%であり、都市ガス中の全メタンに対する回収率は約99%であった。
【0049】
また、上記精留塔10の下部に溜まった高沸点成分(液体状)は、前記実施例3と同様、底部10bの高沸点成分導出口から取り出され、第2製品ガス流路Eを通じて、熱交換器2’で原料ガスと熱交換して加温された後、石油化学プラント用の原料(ガスB)として装置外に導出される。なお、この例においては、導出されるガスB中のメタン濃度は約1%,エタン濃度は約67%であり、都市ガス中の全エタンに対する回収率は約78%であった。
【0050】
上記各実施形態によれば、本発明の高圧天然ガスの分離装置は、上記高圧の都市ガスを原料ガス膨脹手段(原料ガス膨脹弁3)で断熱膨脹させた際に発生する冷熱を、上記原料ガスの冷却および精留塔10の寒冷として効率的に利用することにより、装置外部の熱源(冷熱源)を用いることなく、上記都市ガス中のメタンとその他の高沸点成分とを、高純度かつ高回収率で分離することができる。
【0051】
また、本発明の高圧天然ガスの分離装置は、上記都市ガスのもつエネルギーを無駄なく有効に利用できることから、付帯設備が少なく比較的小形で、メンテナンス等の手間の少ないガス分離プラントを、上記メタンや石油化学プラント用原料等が消費される工場内もしくはその近隣で、オンサイトに構築・運用することができる。したがって、本発明の高圧天然ガスの分離装置は、燃料等に用いられるメタンと、石油化学プラント用原料等に用いられる天然ガス中の他の成分とを、トラック輸送や貨車輸送等のように気象条件や交通事情等に左右されることなく、これらが消費される場所に、安定的に供給することが可能となる。また、耐震性等の耐久性に優れる高圧導管内のガスを原料としているため、地震等の災害からの復旧が早いというメリットもある。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の高圧天然ガスの分離方法およびそれに用いる分離装置は、ガスパイプラインから取り出した高圧の天然ガスまたは都市ガスを利用して、燃料等に用いられるメタンと、石油化学プラント用原料等に用いられる天然ガス中の他の成分とを、これらが消費される場所にオンサイトで安定的に供給することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 リボイラー
2 熱交換器
3 原料ガス膨張弁
10 精留塔
M 第1製品ガス流路
E 第2製品ガス流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ガスまたは都市ガスを原料ガスとして精留塔に導入し、深冷分離により上記ガスをメタンとそれ以外の高沸点成分とに分離する方法であって、ガスパイプラインを流れる高圧の原料ガスを対象原料ガスとして取り出し、これを熱交換器および精留塔内に位置するリボイラーを経由させて冷却した後、この冷却された原料ガスを、原料ガス膨脹手段を通して断熱膨脹させる冷却工程と、上記断熱膨脹した原料ガスを精留塔に導入し、深冷分離により、その下部側に原料ガス中の高沸点成分を液体状態で溜め、その上部側にメタン濃度の高いメタンリッチガスを溜める精留工程と、上記精留塔の頂部からメタンリッチガスを取り出し、上記熱交換器を通して、上記精留塔に導入前の原料ガスを冷却するとともにこのメタンリッチガスを昇温させ、昇温したメタンリッチガスを第1の製品ガスとして外部に導出する工程と、上記精留塔の底部から原料ガス中の高沸点成分を取り出し、上記熱交換器を通して、上記精留塔に導入前の原料ガスを冷却するとともにこの高沸点成分を気化させ、気化した高沸点成分を第2の製品ガスとして外部に導出する工程と、を備えることを特徴とする高圧天然ガスの分離方法。
【請求項2】
上記冷却工程におけるリボイラーと原料ガス膨脹手段との間に、この原料ガスを過冷却する過冷却器が配設され、上記メタンリッチガスを精留塔から外部に導出する工程が、上記精留塔の頂部からメタンリッチガスを取り出し、過冷却器を経由して膨脹タービンで膨脹させた後、再度上記過冷却器を通過させ、このメタンリッチガスの冷熱を利用して、上記原料ガス膨脹手段に通す前の原料ガスを過冷却するとともに、ついで、この過冷却器通過後のメタンリッチガスを上記熱交換器に通して、上記リボイラーに通す前の原料ガスを冷却してこのメタンリッチガスを昇温させ、昇温したメタンリッチガスを第1の製品ガスとして外部に導出するようになっている請求項1記載の高圧天然ガスの分離方法。
【請求項3】
ガスパイプラインから取り出した高圧の天然ガスまたは都市ガスを原料ガスとして導入し、深冷分離により、その下部側に原料ガス中の高沸点成分を液体状態で溜め、その上部側にメタン濃度の高いメタンリッチガスを溜める機能をもつ精留塔と、上記原料ガスを、上記精留塔の底部から取り出された液体状の高沸点成分および上記精留塔の頂部から取り出されたメタンリッチガスと熱交換させて冷却する熱交換器と、上記熱交換器を経由した原料ガスを、上記精留塔の下部に溜まる液体状の高沸点成分を用いて冷却するリボイラーと、上記リボイラーを経由した原料ガスを断熱膨脹させる原料ガス膨脹手段と、上記精留塔の頂部から取り出されたメタンリッチガスを、上記熱交換器を経由して第1の製品ガスとして外部に導出する第1製品ガス流路と、上記精留塔の底部から取り出された原料ガス中の高沸点成分を、上記熱交換器を経由して第2の製品ガスとして外部に導出する第2製品ガス流路と、を備えることを特徴とする高圧天然ガスの分離装置。
【請求項4】
上記リボイラーと上記原料ガス膨脹手段との間に過冷却器が配設され、この過冷却器に対応する膨脹タービンが配置され、上記リボイラーを経由した原料ガスが、上記過冷却器で過冷却された後、上記原料ガス膨脹手段に導入されるようになっているとともに、上記第1製品ガス流路が、上記精留塔の頂部から取り出されたメタンリッチガスを、過冷却器を経由して膨脹タービンに導入した後、再度上記過冷却器を通過させ、ついで上記熱交換器を経由して、第1の製品ガスとして外部に導出するようになっている請求項3記載の高圧天然ガスの分離装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−64077(P2013−64077A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204123(P2011−204123)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000126115)エア・ウォーター株式会社 (254)
【Fターム(参考)】