説明

高圧放電灯、画像投影装置

【課題】本質的に水銀を含まない高圧放電灯でありながら、画像投影の色再現性に適する色温度の向上を図る。
【解決手段】透明な石英ガラス製のバルブ11内に対向配置し、それぞれの先端にコイル161,162が巻回された一対の電極151,152を備え、少なくともDy、Nd、Sc、Inの1つを含む第1のハロゲン金属と、少なくともZnを含む第2のハロゲン金属と、3気圧以上希ガスを含有し、前記電極間距離が3.5mm以下で、本質的に水銀を含まないとともに、安定時の電力が80W以上で点灯する高圧放電灯を構成する。第1のハロゲン金属の含有量は、1.0×10−3mg/mm以上6.0×10−3mg/mm以下とし、第2のハロゲン金属の含有量は、6.0×10−3mg/mm以上16.0×10−3mg/mm以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高効率、高出力、高集光効率で、且つコンパクトな設計が要求される、例えば液晶プロジェクタのような画像投影装置の光源として使用される高圧放電灯およびこれを用いた画像投影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の高圧放電灯は、環境保護の観点から水銀を含まないだけでなく、ナトリウムの使用を完全に回避するかまたは大幅に低減したものが考えられている。(例えば、特許文献1)
また、水銀を含まず、金属ハロゲン化物と希ガスを封入した高圧放電灯も考えられている。(例えば、特許文献2)
【特許文献1】特開2001−76670公報(第5頁、図2)
【特許文献2】特開2000−90880公報(第5頁、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記した特許文献1の技術は、水銀を含まず、環境に配慮しているが、色温度が2700〜3500Kと低色温度であり、この色温度では色再現性が悪く、6000K以上の色温度を必要とする画像投影用には不向きであった。
【0004】
また、上記した特許文献2の技術は、Naのハロゲン化物と、Inのハロゲン化物と、Tlのハロゲン化物を封入することで、Naの589nm、Inの410nm、451nm、Tlの535nmにスペクトルピークを持たせて、水銀含有の放電灯と同等の特性を得つつ、70lm/Wの高効率を得られた。しかし、特に25〜55Wの主に自動車用前照灯に向くものの、液晶プロジェクタのような画像投影用装置で必要とするスペクトルピークの光源には適さないものであった。
【0005】
この発明の第1の目的は環境に配慮しつつ画像投影用に好適な色温度を得ることで、第2の目的は画像投影用に好適なスペクトルを有する高圧放電灯およびこれを用いた画像投影装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決するために、この発明の高圧放電灯は、透明な石英ガラス製のバルブ内に電極が対向配置され、少なくともDy,Nd,Sc,Inの1つを含む第1のハロゲン金属と、少なくともZnを含む第2のハロゲン金属と、3気圧以上希ガスを含有し、前記電極間距離が3.5mm以下で、本質的に水銀を含まないとともに安定時の電力が80W以上で点灯する放電灯において、前記第1のハロゲン金属の含有量は、1.0×10−3mg/mm以上6.0×10−3mg/mm以下とし、前記第2のハロゲン金属の含有量は、6.0×10−3mg/mm以上16.0×10−3mg/mm以下としたことを特徴とする。
【0007】
また、透明な石英ガラス製のバルブ内に電極が対向配置され、少なくともDy,Nd,Sc,Inを含む第1のハロゲン金属と、少なくともZnを含む第2のハロゲン金属と、3気圧以上希ガスを含有し、前記電極間距離が3.5mm以下で、本質的に水銀を含まないとともに安定時の電力が80W以上で点灯する放電灯において、点灯時の印加電圧/前記電極間距離=12V/mm以上としたことを特徴とする。
【0008】
さらに、透明な石英ガラス製のバルブ内に電極が対向配置され、少なくともDy,Nd,Sc,Inの1つを含む第1のハロゲン金属と、少なくともZnを含む第2のハロゲン金属と、3気圧以上希ガスを含有し、前記電極間距離が3.5mm以下で、本質的に水銀を含まないとともに安定時の電力が80W以上で点灯する放電灯において、点灯安定時の分光分布を、410〜470nm、530〜550nm、600〜640nmにピークを持たせたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、本質的に水銀を含まない高圧放電灯でありながら、画像投影の色再現性に適する色温度の向上を図ることが可能となる。また、画像投影に適する点灯安定時の分光分布を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、この発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、この発明の高圧放電灯の一実施形態について説明するための構成図である。図1において、11は透明な石英ガラス製のバルブであり、ほぼ楕円形状の発光管12とその長手方向の両端部に発光管12と同材料で形成されたバルブ11内を気密の封止部131,132からなる。発光管12には、その長手方向にほぼ円柱状の放電空間14が形成されており、この放電空間14には封止部131,132の内部から延出された、例えばタングステン材で形成される一対の電極151,152が2.0mmの間隔をおいてその先端が対向するように配置されている。電極151,152の軸径はφ0.5mmで、その一端にφ0.2mmのコイル161,162が数ターン巻きつけてある。また、放電空間14には、第1のハロゲン金属と第2のハロゲン金属と、希ガスを含む放電媒体が封入されている。放電媒体には本質的に水銀が封入されていない。
【0011】
第1のハロゲン金属としては、例えば、スカンジウム(Sc)、ジスプロシウム(Dy)、ネオジウム(Nd)、セシウム(Cs)、インジウム(In)などを含む複数種の発光金属のハロゲン化物を用いる。
【0012】
また、第2のハロゲン金属としては、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、アンチモン(Sb)、ベリリム(Be)、レ二ウム(Re)、ガリウム(Ga)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)からなるグループの中から選択された1種または複数種の金属ハロゲン化物を用いることができる。
【0013】
封止部131,132は、圧潰して形成されており、その内部にはモリブデン(Mo)製の金属箔181,182が封着されている。この金属箔181,182のそれぞれの一端は、電極151,152に溶接されており、他端はニッケル製のワイヤ191,192がそれぞれ接続されており、ワイヤ191,192は放電灯外の点灯装置20から電力の供給を受けるための導入導線である。
【0014】
ここで、水銀フリー高圧放電灯における放電媒体は、本質的に水銀が封入されていない。「本質的に水銀が封入されていない」とは、水銀が全く封入されていないというだけでなく、気密容器の内容積1cc当たり2mg未満、好ましくは1mg以下の水銀が存在していることを許容するという意味である。しかし、水銀を全く封入しないことは環境上望ましいことである。従来のように水銀蒸気によって放電灯の電気特性を維持する場合、電極間距離が比較的小さくて小形の高圧金属蒸気放電灯においては、気密容器の内容積1cc当たり20〜40mg、さらに場合によっては50mg以上封入していたことからすれば、水銀量が実質的に少ないといえる。
【0015】
希ガスは、3〜15気圧の圧力で封入されている。なお、希ガスは、好適にはXeである。希ガスの封入圧を5〜10気圧とする理由は、この範囲であれば点灯直後数秒までの光束立ち上がりを早め所望の光度を短時間で得ることができるからである。点灯直後所望の光度を得るまでの時間にあまり不便を感じない場合は、封入圧力を下げることも可能である。
【0016】
以上のように構成される高圧放電灯は、安定点灯時に例えばランプ電力200W以下で点灯させることができる。
【実施例1】
【0017】
以下の実施例1は、この発明の高圧放電灯により点灯される高圧放電灯の具体的な数法を実施例1として図2とともに説明する。
【0018】
・発光管: 中央部の外径L1…10.4mm、最大内径L2…6.0mm、球体長L3…12mm、電極間距離L4…2.0mm、電極軸径L5…0.5mm、電極長L6…9.5mm、電極径大部の直径L7…1.1mm
・放電媒体: 発光金属のハロゲン化物、DyI−NdBr−ScI−InBr−CsI…0.6mg、ZnI…3.0mg、MnI…0.5mg、希ガスXe10気圧セラミックスヒータ
・定格ランプ電力: 100W
【0019】
図3は、第1のハロゲン金属をDy,Nd,Sc,In,Csとして、第2のハロゲン金属をZn,Mnとし、発光管内容積あたりの第1のハロゲン金属と第2のハロゲン金属量を変化させた場合の、色温度の関係を示したものである。
【0020】
図3から明らかなように、第1のハロゲン金属の封入量を増加させていくと、色温度については一定の値以上からは飽和していることが分かる。
【0021】
また、図4は、第1のハロゲン金属をDy,Nd,Sc,In,Csとして、第2のハロゲン金属をZn,Mnとし、発光管内容積あたりの第1のハロゲン金属と第2のハロゲン金属量を変化させた場合の、スクリーン照度の関係を示したものである。なお、スクリーン照度は相対値で示している。
【0022】
図4から明らかなように、スクリーン照度については、第1および第2のハロゲン金属の量の過多により、第1および第2のハロゲン金属が遮光をしてしまい、スクリーン照度は急激に低下してしまう。また、第2のハロゲン金属については、発光管12内容積辺りの封入量を増やしていくと、色温度が低下してしまうことが分かる。
【0023】
従って、第1のハロゲン金属を1.0×10−3mg/mm以上6.0×10−3mg/mm以下の範囲で含有し、第2のハロゲン金属を6.0×10−3mg/mm以上16.0×10−3mg/mm以下の範囲で含有することで、照度を急激に下げることなく、6000K以上の色温度を得ることができる。
【0024】
なお、図4に示す色温度は、6000〜9000K程度の範囲であるが、第1および第2のハロゲン金属のハロゲン化物を変えることにより色温度を9000K以上に設定することが可能である。画像投影用として使用する場合の色温度領域は、12000K以上ではあまり使用されないことから、ここでの画像投影用として用いる色温度領域は6000〜12000Kとした。
【0025】
図5は、第1のハロゲン金属を1.0×10−3mg/mm以上6.0×10−3mg/mm以下の範囲で含有し、第2のハロゲン金属を6.0×10−3mg/mm以上16.0×10−3mg/mm以下の範囲で含有する放電ランプを安定点灯させた場合の発光スペクトルを示すものである。
【0026】
すなわち、図5に示すように、上記第1および第2のハロゲン金属が封入された放電ランプでは、電力100Wにおいて570nm付近にピークを得ることを確認することができた。
【0027】
次に、この発明の高圧放電灯の他の実施形態について説明する。この実施形態は、第1のハロゲン金属のハロゲン化物を変えて色温度を変えたものである。
【0028】
すなわち、図1で示す構成の放電灯の放電空間14に、第1のハロゲン金属としてSc、In等と第2のハロゲン金属としてZn、Mn等と希ガスを含む放電媒体とを封入させ、点灯時のランプ電圧12Vと電極151,152間距離mmの関係を、12V/mm以上としたものである。
【0029】
この実施形態の場合、6000〜15000Kのより高い値までの色温度を得ることができ、水銀入りの放電灯と同等の色特性を得ることができる。
【0030】
図6は、この発明の高圧放電灯のもう一つの他の実施形態について説明するための構成図である。
【0031】
図6において、11は透明な石英ガラス製のバルブであり、ほぼ楕円形状の発光管12とその長手方向の両端部に発光管12と同材料で形成されたバルブ11内を気密の封止部131,132からなる。発光管12には、その長手方向にほぼ円柱状の放電空間14が形成されており、この放電空間14には封止部131,132の内部から延出された、例えばタングステン材で形成される電極151,152が2.0mmの間隔をおいてその先端が対向するように配置されている。電極151,152の軸径はφ0.5mmで、その一端にφ0.2mmのコイル161,162が数ターン巻きつけてある。電極151,152の先端とコイル161,162をそれぞれ溶融し、略半球形状に凝固させ一体化し、アークが集中するように電極先端に突起部171,172がそれぞれ形成される。また、放電空間14には、Dy、Nd、In等の第1のハロゲン金属と、Zn、Mn等の第2のハロゲン金属と、希ガスを含む放電媒体が封入されている。
【0032】
封止部131,132は、圧潰して形成されており、その内部にはモリブデン(Mo)製の金属箔181,182が封着されている。この金属箔181,182のそれぞれの一端は、電極151,152に溶接されており、他端はニッケル製のワイヤ191,192がそれぞれ接続されており、ワイヤ191,192は放電灯外の点灯装置20から電力の供給を受けるための導入導線である。
【0033】
この実施形態の高圧放電灯を安定点灯させた場合は、図3に示すような色温度が6,000〜12,000Kの範囲で、水銀入りのランプと同等の色特性を得られる。また、発光スペクトルは図5に示すようになり、410〜460nm、530〜550nm、600〜640nm付近にピークを得ることも可能である。
【0034】
図7は、図1に構成の高圧放電灯が液晶プロジェクタに搭載された場合の、この発明の画像撮影装置について説明するためのシステム構成図である。
【0035】
図7において、71は液晶プロジェクタであり、この液晶プロジェクタ71は本体72を有し、本体72の前面側には投影開口73が形成される。また、本体72内には光源74が配設され、この光源74は高圧放電灯75と高圧放電灯75に光学的に対向した反射手段としてのリフレクタ76にて形成される。そして、光源74の照射方向の前方には、表示手段としての液晶パネル77が配設され、この液晶パネル77の前方の投影開口73に対応して投影手段としての投影レンズ78が配設されている。投影開口73の前方には、スクリーン79が配設される。
【0036】
さらに、高圧放電灯75には点灯回路80が接続され液晶パネル77には液晶駆動回路81が接続され、点灯回路80および液晶駆動回路81は商用交流電源82が接続される。点灯回路80は高圧放電灯75を直流で点灯するものであっても、交流で点灯するものであっても構わない。
【0037】
上記した構成の画像撮影装置は、まず、点灯回路80から供給される電力で光源74の高圧放電灯75を点灯させる。高圧放電灯75からの光は、直接あるいはリフレクタ76で反射させて液晶パネル77方向に照射される。液晶パネル77は、液晶駆動回路81で表示を変化させ、光源74からの光を透過させて投影レンズ78で投影し、スクリーン79に映像が映し出される。
【0038】
この液晶プロジェクタでは、水銀が含まれない高圧放電灯を使用しながら現行の超高圧放電灯に比べて同等以上の色特性が得られるばかりか、波長ピークを変更させることができることから色再現性を向上させることができる。また、高圧放電灯の色再現性を向上させることで光学設計のマッチング性も取りやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】この発明の高圧放電灯の一実施形態について説明するための構成図。
【図2】図1の要部をさらに説明するための構成図。
【図3】この発明の高圧放電灯の色温度特性について説明するための説明図。
【図4】この発明の高圧放電灯のスクリーン照度について説明するための説明図。
【図5】この発明の高圧放電灯を安定点灯させた場合の発光スペクトルについて説明するための説明図。
【図6】この発明の高圧放電灯の他の実施形態について説明するための構成図。
【図7】この発明の画像投影装置の一実施形態について説明するためのシステム構成図。
【符号の説明】
【0040】
11 バルブ
12 発光管
131,132 封止部
14 放電空間
151,152 電極
161,162 コイル
171,172 突起部
181,182 金属箔
191,192 ワイヤ
20 点灯装置
71 液晶プロジェクタ
72 本体
75 高圧放電灯
79 スクリーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な石英ガラス製のバルブ内に電極が対向配置され、少なくともDy,Nd,Sc,Inの1つを含む第1のハロゲン金属と、少なくともZnを含む第2のハロゲン金属と、3気圧以上希ガスを含有し、前記電極間距離が3.5mm以下で、本質的に水銀を含まないとともに安定時の電力が80W以上で点灯する放電灯において、
前記第1のハロゲン金属の含有量は、1.0×10−3mg/mm以上6.0×10−3mg/mm以下とし、前記第2のハロゲン金属の含有量は、6.0×10−3mg/mm以上16.0×10−3mg/mm以下としたことを特徴とする高圧放電灯。
【請求項2】
透明な石英ガラス製のバルブ内に電極が対向配置され、少なくともDy,Nd,Sc,Inを含む第1のハロゲン金属と、少なくともZnを含む第2のハロゲン金属と、3気圧以上希ガスを含有し、前記電極間距離が3.5mm以下で、本質的に水銀を含まないとともに安定時の電力が80W以上で点灯する放電灯において、
点灯時の印加電圧/前記電極間距離=12V/mm以上としたことを特徴とする高圧放電灯。
【請求項3】
透明な石英ガラス製のバルブ内に電極が対向配置され、少なくともDy,Nd,Sc,Inの1つを含む第1のハロゲン金属と、少なくともZnを含む第2のハロゲン金属と、3気圧以上希ガスを含有し、前記電極間距離が3.5mm以下で、本質的に水銀を含まないとともに安定時の電力が80W以上で点灯する放電灯において、
点灯安定時の分光分布を、410〜470nm、530〜550nm、600〜640nmにピークを持たせたことを特徴とする高圧放電灯。
【請求項4】
請求項1の高圧放電灯と、
前記高圧放電灯を光源とし、該光源から放射される光に基づき画像を投影する画像投影装置本体と、を具備したことを特徴とする画像投影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−149385(P2007−149385A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−338924(P2005−338924)
【出願日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(000111672)ハリソン東芝ライティング株式会社 (995)
【Fターム(参考)】