説明

高密度織物および製造方法

【課題】
従来技術では達成できなかった、生産性に優れ、衣料用織物としたときのソフト感と発色性に優れたポリトリメチレンテレフタレートからなる極細繊維で構成された防風性に優れた高密度織物とその製造方法を提供する。
【解決手段】
タテ糸および/またはヨコ糸にポリトリメチレンテレフタレートからなる単繊維繊度が0.01〜0.5dtexのマルチフィラメントを使用してなる織物であって、タテ糸とヨコ糸の総カバー率が1700以上3500以下で、かつ通気度が1.0cc/cm・s未満であることを特徴とする防風性に優れた高密度織物で、この高密度織物は、海成分ポリマーがポリ乳酸で構成され、島成分ポリマーがポリトリメチレンテレフタレートで構成されている海島型複合繊維を使用して織物を製織後、溶解処理によりポリ乳酸を溶出させることによって得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリトリメチレンテレフタレート極細糸からなる防風性に優れた高密度織物およびその製造方法に関し、さらに詳しくは、溶解処理によってポリトリメチレンテレフタレート極細糸を製造することができるポリ乳酸とポリトリメチレンテレフタレートからなる海島型複合繊維を用いて得られる優れた防風性を有する高密度織物およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリエチレンテレフタレートからなる繊維糸を用いた高密度織物は、防風性や撥水性を有するスポーツ織物として幅広く使用されているが、十分な防風性や撥水性を得るためには高密度化が必要となるため、通常のポリエチレンテレフタレートからなる原糸を用いて製織時の織物密度を多くして製織すると、製織上のトラブルが発生し易く、かつ得られた織物は高密度化により風合いの硬いものであった。また、この高密度化による製織上の問題を解決するために使用する原糸の熱収縮率を上げたものは、生機密度は下げることができるものの、糸収縮が高いため、染色加工後の生地が非常にペーパーライクで風合いが硬くなるという問題点があった。
【0003】
これら風合いの硬さを改善する手段として、ポリエチレンテレフタレートよりもヤング率が低いポリトリメチレンテレフタレートからなる繊維糸を使用した高密度織物が提案されている(特許文献1および特許文献2参照)が、いずれもソフト感の付与にはある程度貢献すると考えられるがなお十分なレベルとは言えず、さらに防風性(通気度)は不満足なレベルのものである。
【0004】
一方、防風性や撥水性を向上させるためには、織物のタテ糸とヨコ糸が交差した織物交錯点とその隣の交錯点との間に生じる隙間を小さくすることが必要であり、このような構造の織物を得るためには繊維糸の構成本数を多くすることが望ましく、さらに風合いのソフト化の相乗効果を狙って、極細繊維が活用されている。このような極細繊維を得る方法として、直接細い糸を製造する方法と、耐薬品性が異なる2種類以上のポリマーを複合紡糸した後に1種類のポリマーを溶出したり、分割を施すことで得る方法とがあるが、従来の後者のポリマーを溶出する方法では、ポリマーの溶出時に形成される単繊維間空隙の影響で、満足できる防風性や撥水性を得ることができず、また一方で前者の直接紡糸による極細繊維の製造の場合には、得られる単繊維繊度に限界のあるのが現状である。
【0005】
これらの極細繊維は、前述のように硬い風合いを改善するために従来から使用されているものであり、特に単繊維繊度が0.5dtex以下のポリエステル極細繊維は、ピーチ調織編物などに用いられているが、ポリエチレンテレフタレートからなる極細繊維糸は屈折率が約1.6と高いため極細繊維にした際の発色性が十分でなく、特に濃色での発色性が劣るため商品展開に制限があったり、またポリマー自体のヤング率が高いため十分なソフト感を付与することが出来なかった。
【0006】
また、ポリエチレンテレフタレートからなる極細繊維の製造方法として、海島型複合繊維あるいは分割型複合繊維からポリエチレンテレフタレートの極細繊維を製造する方法が数多く提案されている。これらの複合繊維では、分割の際にアルカリ処理により、一方の成分を減量・溶出加工することによってポリエチレンテレフタレートからなる極細繊維とするものであるが、減量加工の際に極細繊維とすべきポリエチレンテレフタレート側の減量も同時に進行してしまうため、強度低下が生じ、実用に耐えられない場合があったり、逆に強度低下を抑制するために、減量加工条件を緩やかにすると分割処理が完全に行われないことがあり、製品品位の低下を招くことがあった。
【0007】
一方、前述したポリトリメチレンテレフタレートからなる繊維は、伸長弾性回復率が優れ、ヤング率が低く、染色性が良好で、化学的にも安定しており、古くから知られている(特許文献3および特許文献4参照)。さらに、海島型複合繊維あるいは分割型複合繊維からポリトリメチレンテレフタレートの極細繊維を製造する方法も提案されている(特許文献5および特許文献6参照)。しかしながら、いずれもアルカリ溶出成分として用いられているポリマーは、有機金属塩を共重合したポリエステルであり、アルカリ溶出時間が長く、生産性が悪かったり、また、ポリマー溶融温度がポリトリメチレンテレフタレートよりも高いため、紡糸温度を高く保つ必要があり、そのためにポリトリメチレンテレフタレートの熱劣化が進み、操業性が悪く、さらに、満足する原糸強度や風合いが得られないなどの問題があった。
【0008】
さらに、従来の海島型複合繊維あるいは分割型複合繊維は、易溶出成分に共重合系のポリエステルを使用し、これをアルカリ処理で加水分解して除去させるものが主流のため、加水分解後の廃液が環境に悪影響を及ぼすことが懸念されている。この廃液の環境影響を軽減させるため、溶出成分にポリ乳酸を使用した複合繊維が提案されており(特許文献7参照)、確かに環境への影響は軽減されると考えられるものの前記のとおり、ポリ乳酸を溶出後単繊維間に形成される単繊維間空隙の影響で、満足できる防風性や撥水性を得ることが出来ないものである。
【特許文献1】特開平11−200174号公報
【特許文献2】特開2001−55644号公報
【特許文献3】特開昭52−5320号公報
【特許文献4】特開昭52−8124号公報
【特許文献5】特開平11−123330号公報
【特許文献6】特開2001−348735号公報
【特許文献7】特開平11−302926号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明の目的は、上記従来技術では達成できなかった、生産性に優れ、衣料用織物としたときのソフト感と発色性に優れたポリトリメチレンテレフタレートからなる極細繊維で構成された防風性に優れた高密度織物を提供するものである。
【0010】
本発明の他の目的は、上記のポリトリメチレンテレフタレートからなる極細繊維で構成された防風性に優れた高密度織物を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記本発明の目的は、以下の構成を採用することによって達成することができる。すなわち、本発明の高密度織物は、タテ糸および/またはヨコ糸にポリトリメチレンテレフタレートからなる単繊維繊度が0.01〜0.5dtexのマルチフィラメントを使用してなる織物であって、タテ糸とヨコ糸の総カバー率が1700以上3500以下で、かつ通気度が1.0cc/cm・s未満の高密度織物である。
【0012】
そして、本発明の高密度織物の好ましい態様によれば、前記の通気度は0.8cc/cm・s未満であり、前記のポリトリメチレンテレフタレートからなるマルチフィラメントの単繊維の平均異形度は1.05以上5.0以下であり、そして前記のポリトリメチレンテレフタレートからなるマルチフィラメントは捲縮を有していることが挙げられる。
【0013】
また、本発明の高密度織物の製造方法は、海成分ポリマーがポリ乳酸で構成され、島成分ポリマーがポリトリメチレンテレフタレートで構成されている海島型複合繊維であって、海成分/島成分の複合比率が10/90〜50/50であり、溶解処理によって得られる島成分の単繊維繊度が0.01〜0.5dtexである海島型複合繊維を、タテ糸および/またはヨコ糸に使用して織物を製織後、溶解処理によりポリ乳酸を溶出させることを特徴とする高密度織物の製造方法である。
【0014】
そして、本発明の高密度織物の製造方法の好ましい態様によれば、前記の海成分ポリマーのポリ乳酸を溶解処理で溶出後、島成分ポリマーであるポリトリメチレンテレフタレートからなる単繊維を3%以上収縮させること、および、前記の溶解処理に用いられる溶媒がアルカリであることが挙げられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、衣料用織物としたときのソフト感と発色性に優れた、ポリトリメチレンテレフタレートからなる極細繊維を用いてなる防風性に優れた高密度織物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の高密度織物とその製造方法を実施するための最良の形態について、詳細に説明する。
本発明の高密度織物では、タテ糸および/またはヨコ糸にポリトリメチレンテレフタレートからなる単繊維繊度が0.01〜0.5dtexのマルチフィラメントを使用することが必要である。その理由は、従来のポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメントで構成された高密度織物の硬さと、極細繊維にした際の発色性の不十分さを改善するためであり、単繊維繊度が0.01dtex未満であると単繊維1本1本の精度が低下するため毛羽発生等の品質問題を起こしやすく、一方、単繊維繊度が0.5dtexを超えると目的とするソフト感が得られない。より好ましい単繊維繊度は、0.05〜0.2dtexである。
【0017】
本発明で用いられる単繊維繊度が0.01〜0.5dtexのマルチフィラメントは、トータル繊度で33〜168dtexの範囲で好ましく採用される。
【0018】
本発明の高密度織物は、タテ糸および/またはヨコ糸に0.01〜0.5dtexのポリトリメチレンテレフタレートからなるマルチフィラメントを使用して構成されるが、別の繊維として、ポリエチレンテレフタレートからなる繊維などの合成繊維や天然繊維等が一部に含まれていても問題なく、かつポリエチレンテレフタレートからなる繊維が三角や扁平等のいわゆる異形断面を有するものであっても良い。ここで本発明の防風性に優れた高密度織物を得るためには、前記ポリトリメチレンテレフタレートが重量比で好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上使用されていることが良く、また、織物組織としては織交錯点の拘束力の大きい平系組織(1/1平や片マット等)が望ましい。
次に、本発明では、本発明の目的とする防風性に優れた高密度織物を得るために、高密度織物を構成するタテ糸とヨコ糸の総カバー率が1700以上3500以下で、かつ高密度織物の通気度が1.0cc/cm・s未満であることが必要である。
【0019】
タテ糸とヨコ糸の総カバー率は、織物を構成するタテ糸とヨコ糸の緻密さを表したファクターであり、総カバー率が1700に満たなければ防風性と撥水性が十分でなく、一方、総カバー率が3500を超える織物は、工業生産上安定して得られない領域であり好ましくない。また、さらに好ましい総カバー率の範囲は2000以上3000以下である。ここで言う総カバー率は、次式により算出されるものである。
【0020】
総カバー率=タテ糸のカバー率+ヨコ糸のカバー率
タテ糸のカバー率=タテ糸密度(本/インチ)×(タテ糸繊度(dtex))1/2
ヨコ糸のカバー率=ヨコ糸密度(本/インチ)×(ヨコ糸繊度(dtex))1/2
また、通気度は、本発明の目的とする防風性および撥水性の性能を表す計測値であり、本発明の高密度織物の通気度は1.0cc/cm・s未満であり、さらに好ましくは0.8cc/cm・s未満である。かかる通気度は、高密度織物を衣料として使用したときの機能性を発揮するために必要である。この通気度は、織物を作成する際に通常「カレンダー」加工と呼ばれる高温高圧プレスを掛けると比較的容易に小さくできるものであるが、本発明では得られる高密度織物の風合いがペーパーライクになるため採用は好ましくなく、採用するにしても軽条件での処理に留めることが望ましい。また、前記カレンダー加工の他に、ポリウレタン系の樹脂を織物表面に薄く皮膜コーティングさせる方法も通気度を小さくする手段として採用することが出来る。
【0021】
ここでの通気度は、防風性や撥水性の性能を表すものであるが、2次的な性能としては、高密度織物が緻密であるため、生地そのままあるいは軽い撥水加工等を施すことで花粉などの粉体や粒体がつきにくくさらに落ちやすいため、花粉症等のアレルギー対策衣類等にも利用が可能である。
【0022】
ここで、本発明における高密度織物を構成するポリトリメチレンテレフタレートからなるフィラメントは、その単繊維の平均異形度が1.05以上3.0以下の異形断面であることが好ましい。これは、異形断面繊維はその曲げモーメントの特性上、単繊維1本には曲がり易い方向があり、極端な例として扁平断面繊維はその断面の短軸方向には曲がり易いが、断面の長軸方向には曲がりにくい。この特性は、織物となった際のマルチフィラメントの開繊状態に影響を与え、異形断面の繊維の方が均一な丸断面繊維よりも開繊性が良い傾向にあり、さらに構成単繊維間で異形度にバラツキがあるとさらに良い。この開繊性の高さは、防風性や撥水性を向上させるために必要となるタテ糸とヨコ糸が交差した織物交錯点とその隣の交錯点との間に生じる隙間を小さくする効果がある。この効果を得るための断面の平均異形度は、1.05以上5.0以下であり、平均異形度が1.05未満であると、目的とする開繊性の向上効果が得られ難く、また平均異形度が5.0を超えると逆に非常に扁平度の高い原糸となるため曲がりやすい方向が一定になり、織物上で同一方向に単繊維が並んでしまうため開繊性が悪くなる傾向がある。
【0023】
このような異形断面繊維は、紡糸口金を設定したり、海島型複合繊維の島成分ポリマーの配列、島成分の数、海成分ポリマーと島成分ポリマーの複合比率等を変更することによって、断面を異形とした繊維として得ることができる。
【0024】
また、本発明の高密度織物に使用するポリトリメチレンテレフタレートからなるマルチフィラメントは、捲縮を有していることも好ましい態様である。これはマルチフィラメントが捲縮を有することで、織物とした際、タテ糸とヨコ糸が交差した織物交錯点とその隣の交錯点との間に生じる隙間を小さくする効果が向上し、防風性および撥水性が向上するためである。マルチフィラメントへの捲縮付与方法としては、一般的な仮撚加工方法等を採用することができる。
【0025】
次に、本発明の高密度織物の製造方法について説明する。本発明の高密度織物は、ポリトリメチレンテレフタレートからなる極細繊維で構成されているものであるが、この極細繊維はいわゆる海島型複合繊維から好適に得られるものである。具体的には、海成分にポリ乳酸ポリマーを用い、島成分にポリトリメチレンテレフタレートポリマーを用いた海島型複合繊維を使用して織物を製織後、染色工程あるいはこれに付随する工程で、海成分のポリ乳酸を溶解し除去して、ポリトリメチレンテレフタレートの極細繊維を得るものである。ここで得られる極細繊維は、海成分中に複数の島成分が点在する断面構造であるために、マルチフィラメントとして得られる。
【0026】
本発明で用いられる海島型複合繊維は、海成分としてポリ乳酸を配することが肝要である。ポリ乳酸は、ポリトリメチレンテレフタレートやポリエチレンテレフタレートよりも溶融温度が低いため、溶融温度がポリトリメチレンテレフタレートよりも高い有機金属塩を共重合したポリエチレンテレフタレートを海成分として用いた場合に比べ、紡糸温度を低く押さえることができ、原糸の製造段階から高次加工段階を含めた工程での操業の安定化や、島成分のポリトリメチレンテレフタレートの熱劣化による風合い低下の防止が可能となる。
【0027】
また、ポリ乳酸は、一般的に有機金属塩を共重合したポリエステルよりもアルカリ溶出速度が速いが、さらにポリ乳酸を海成分としポリトリメチレンテレフタレートを島成分とする海島型複合繊維とすることで、ポリ乳酸の配向が抑制され、ポリ乳酸のアルカリ溶出速度がより速くなる。
【0028】
さらに、このようにポリ乳酸とポリトリメチレンテレフタレートとを組み合わせた海島型複合繊維は、海成分のポリ乳酸をアルカリ処理等で除去後、島成分として分割されたポリトリメチレンテレフタレートからなる極細繊維に、収縮性を残すという特異な現象を付与することが可能であり、このため極細繊維となった後に生地織物の織密度を上げさらに緻密化させることができる。
【0029】
この点についてさらに説明する。従来のポリエステル系海島型複合繊維は、海成分にアルカリ加水分解速度の速い有機金属塩を共重合したポリエチレンテレフタレートを用い、島成分には通常のポリエチレンテレフタレートを用いることが一般的である。このような海島型複合繊維を編織物に製編織した後に、海成分を溶出するものである。この有機金属塩を共重合したポリエチレンテレフタレート海島複合繊維は、海成分と島成分の熱セット性がほぼ同じであるため、紡糸/延伸後に海島成分が均一な収縮性を示すものとなる。また、編織物形成後に有機金属塩を共重合したポリエチレンテレフタレートを確実に溶出させるためには、アルカリ処理のみでは溶出不良となり易いことと、海成分と島成分との間のアルカリ加水分解速度が比較的近いため、選択的に海成分のみを分解させるため、あらかじめ編織物を高温の酸で処理して海成分と鞘成分との界面に亀裂を入れた後、アルカリ処理で海成分を溶出する工程を取ることが多い。このため、海成分を溶出した後の島成分には既に収縮性がほとんど残っていない。
【0030】
一方、本発明のように海成分にポリ乳酸ポリマーを用い、島成分にポリトリメチレンテレフタレートポリマーを使用した海島型複合繊維の場合は、まず、ポリ乳酸とポリトリメチレンテレフタレートの熱セット性の違いが特筆される。ポリ乳酸は、比較的低温で熱セットされるのに対し、ポリトリメチレンテレフタレートはポリ乳酸に比較して高温でなければ熱セットされず、ポリ乳酸を熱セットできる温度では収縮性が残るものとなる。また、従来技術の有機金属塩を共重合したポリエチレンテレフタレートに比較し、ポリ乳酸はアルカリ加水分解が早いということと、島成分のポリトリメチレンテレフタレートは通常のポリエチレンテレフタレートに比較してアルカリ加水分解が遅い。そのため、前記の従来技術のように海成分を溶出する際、あらかじめ高温の酸処理等を施さなくとも、比較的低温のアルカリ処理のみで安定して海成分の溶出が可能であり、海成分であるポリ乳酸を溶出後も島成分のポリトリメチレンテレフタレートには収縮性能が残っており、海成分を溶出後さらに生地の密度を緻密化させることができるものとなる。
【0031】
具体的に、海成分であるポリ乳酸を溶出後のポリトリメチレンテレフタレートからなる極細繊維の収縮付与率は、織組織や織密度のようないわゆる織物設計に左右されるために一概に言えないものの、3%以上収縮させることで生地織物の緻密化を図ることができる。
【0032】
これらのポリ乳酸とポリトリメチレンテレフタレートとの組み合わせ効果により、本発明の目的である生産性に優れ、衣料用織物としたときのソフト感と発色性に優れた、ポリトリメチレンテレフタレートの極細繊維からなる防風性に優れた高密度織物が提供できるのである。
【0033】
本発明でいうポリ乳酸は、特に制限されるものではないが、平均分子量は5万〜10万のものが好ましく、かつ純度が95.0%〜99.5%のL−乳酸からなるポリ乳酸であれば、各製造工程での強度を維持できるほか、適度な生分解性が得られることから溶出した後の廃液の環境負荷が小さい。また、さらに、ポリ乳酸としては、L−乳酸やD−乳酸のほかにエステル形成能を有するその他の成分を共重合した共重合ポリ乳酸であってもよい。
【0034】
特に好ましいポリ乳酸としては、高融点と低屈折率の観点から、L−乳酸を主成分とするポリエステルであるポリ乳酸、およびグリコール酸を主成分とするポリエステルであるポリグリコール酸を挙げることができる。L−乳酸を主成分とするとは、構成成分の60重量%以上がL−乳酸よりなっていることを意味しており、40重量%を超えない範囲でD−乳酸を含有するポリエステルであってもよい。
【0035】
ポリ乳酸に共重合可能な他の成分としては、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸類の他、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、グリセリンおよびペンタエリスリトール等の分子内に複数の水酸基を含有する化合物類またはそれらの誘導体、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸および5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸等の分子内に複数のカルボン酸基を含有する化合物類、またはそれらの誘導体が挙げられる。
【0036】
ポリ乳酸の平均分子量は30万を超えない程度に高いほど好ましく、より好ましい平均分子量は5万以上であり、さらに好ましい平均分子量は10万以上である。
【0037】
平均分子量を5万以上とすることで、実用に供し得るレベルの繊維の強度物性を得ることができ、また平均分子量を30万以下とすることでポリマーの粘度の上昇を抑えることができるので紡糸温度も低めに抑えることができ、従ってポリマーの熱分解を防ぎ、安定した紡糸を行うことができる。
【0038】
また、溶融粘度を低減させるため、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、およびポリエチレンサクシネートのような脂肪族ポリエステルポリマーを内部可塑剤として、あるいは外部可塑剤として用いることができる。さらには、艶消し剤、消臭剤、難燃剤、糸摩擦低減剤、抗酸化剤および着色顔料等として無機微粒子や有機化合物を必要に応じて添加することができる。
【0039】
また、島成分として用いられるポリトリメチレンテレフタレートとは、テレフタル酸を主たる酸成分とし、1,3プロパンジオールを主たるグリコール成分として得られるポリエステルである。ただし、20モル%以下、好ましくは10モル%以下の割合で他のエステル結合を形成可能な共重合成分を含むものであっても良い。
共重合可能な化合物としては、酸成分として、例えば、イソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、ダイマ酸およびセバシン酸などのジカルボン酸類が挙げられ、一方、グリコール成分として、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコールなどを挙げることができるが、これらに限られるものではない。
【0040】
また、艶消剤としての二酸化チタン、滑剤としてのシリカやアルミナの微粒子、抗酸化剤としてのヒンダードフェノール誘導体、および着色顔料などを必要に応じて添加することができる。
また、本発明において使用される海島型複合繊維の海成分/島成分の複合比率は、複合形態の安定性、製糸性および生産性の点から、好ましくは10/90〜50/50とするものである。海成分の複合比率が10%未満の場合は、複合異常が発生し分割性不良を生じたり、複合形態が正常であっても海成分の溶解不良による分割性不良を生じ、十分なソフト感を得ることができないことがある。逆に、海成分の複合比率が50%を超えると、生産性が低下するために好ましくない。海島型複合繊維の海成分/島成分のより好ましい複合比率は、15/85〜40/60である。
【0041】
また、本発明で用いられる海島型複合繊維においては、海成分を除去した後の島成分の単繊維繊度は0.01〜0.5dtexであることが好ましい。これは従来のポリエチレンテレフタレートで構成される高密度織物の硬さと、極細繊維にした際の発色性の不十分さを改善するためであり、単繊維繊度が0.01dtex未満であると単繊維1本1本の精度が低下するため品質問題を起こしやすく、一方、単繊維繊度が0.5dtexより大きくなると目的とするソフト感が得られないため望ましくない。さらに好ましい単繊維繊度は、0.05〜0.2dtexである。
【0042】
海成分の除去処理は、好ましくは10〜100g/l、さらに好ましくは20〜80g/lのアルカリ溶液中で行うことができる。アルカリ溶液としては、通常、水酸化ナトリウム溶液を用い、60〜120℃の温度で処理すれば良い。
【0043】
本発明で用いられる海島型複合繊維の断面形状は、丸断面の他、扁平、中空および三角等の異形断面であってもよい。また、海島型複合繊維の繊維表面は、島成分が海成分で完全に覆われていてもよく、島成分が一部露出していてもかまわない。さらに、海成分を除去した後の島成分の断面形状も、丸断面の他、扁平や三角等の異形断面であってもよい。
【0044】
また、本発明で用いられる海島型複合繊維は、例えば、特開昭57−47938号公報に記載の第3図や、特開昭57−82526号公報に記載の第2図に示される装置を好適な一例として使用して製造することができ、海成分となるポリマーと島成分となるポリマーを別々のポリマー導入管から各々の濾過室で濾過した後、口金流入孔を介して口金細孔に分割流の状態で会合(合流)させることが可能な複合紡糸口金を使用することで得ることが出来る。
【0045】
本発明で用いられる海島型複合繊維を製糸するにあたっては、紡糸および延伸工程を連続して行う方法、未延伸糸として一旦巻き取った後、延伸する方法、または高速製糸法など何れの方法も適用することができる。さらに、本発明で用いられる海島型複合繊維については、必要に応じて仮撚や空気交絡等の糸加工を施しても良い。
【0046】
本発明の高密度織物は、防風性や撥水性を活かしたスポーツウエアやカジュアルウエア、また高密度を活かしたダウンジャケットや中綿ジャケット等の表地などに好適に用いられる。
【実施例】
【0047】
以下実施例により本発明をより詳細に説明する。なお実施例中の各特性値は次の方法で求めた。
A.極限粘度[η]
オルソクロロフェノール10mlに対し試料0.10gを溶解し、温度25℃においてオストワルド粘度計を用いて測定した。
B.通気度
JIS L1096(A法)に準じて測定した。
C.平均異形度
繊維断面の切片を作成して写真で観察し、断面形状の最大内接円の直径nと断面の最 大巾mを測定し次式で個々の単繊維の異形度を算出して平均異形度を求めた。
異形度=m/n×100(%)
(実施例1)
ジメチルテレフタル酸19.4kg、1,3−プロパンジオール15.2kgにテトラブチルチタネートを触媒として用い、140℃〜230℃の温度でメタノールを留出しつつエステル交換反応を行った後、さらに、250℃の一定温度の条件下で3.5時間重合を行い、極限粘度[η]が0.96のポリトリメチレンテレフタレートを得た。上記の製法で得られたポリトリメチレンテレフタレートを島成分に用い、海成分として光学純度98.0%のポリ−L−乳酸を用い、海/島=20/80の複合比率にて、島成分数8本、ホール数36の海島型複合用口金を用いて複合紡糸機にて紡糸温度250℃で、引き取り速度1500m/分で巻き取り未延伸糸を得た。続いて、該未延伸糸を、通常のホットロール−ホットロール系延伸機を用いて延伸温度を80℃とし、熱セット温度120℃で延伸糸の伸度が35%となるように延伸倍率を合わせて延伸を行い、66dtex−36フィラメントの延伸糸を得た。得られた延伸糸の強度は3.7cN/dtexであり、沸騰水収縮率は10.0%であった。得られた延伸糸をタテ糸およびヨコ糸に用い、タテ糸密度145(本/inch)、ヨコ糸密度95(本/inch)の平織物を製織し、次いで水酸化ナトリウム30(g/l)濃度の80℃温水中で60分間処理して、海成分のポリ乳酸を溶出し、極細繊維(マルチフィラメント)からなる織物を得た。この段階で、得られた織物のサンプルをカットし走査型電子顕微鏡(SEM)で織物断面を観察し、完全に海成分が溶出していることを確認した。引き続き、150℃の温度でプレセット後、液流染色機を使用してDianix Navy Blue BE−SFを2%owf濃度で用い、120℃の温度で染色/還元洗浄し、140℃の温度で仕上げセットした。得られた織物は、タテ糸密度170(本/インチ)、ヨコ糸密度108(本/インチ)の高密度織物で、通気度は0.5cc/cm・sと防風性が高く、かつソフトな手触りと優れた発色性を有するものであった。このときのタテ糸のカバー率は1235であり、ヨコ糸のカバー率は785であり、総カバー率は2020であった。
【0048】
この高密度織物からマルチフィラメントを分解し、包埋法で繊維断面の切片を採取して断面写真を撮影して平均異形度を算出したところ1.26であった。得られた高密度織物の表面写真を図1に示す。
【0049】
(比較例1)
海成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸4.5モル%共重合した極限粘度[η]が0.56のポリエチレンテレフタレートを用い、島成分に第3成分を共重合していないポリエチレンテレフタレートを用い、実施例1と同様の口金と複合紡糸機を用いて紡糸温度280℃、引き取り速度1500m/分で巻き取り、得られた未延伸糸を実施例1と同様の方法で延伸し延伸糸を得た。得られた延伸糸は66dtex−36フィラメントで、強度は2.5cN/dtexであり、沸騰水収縮率は8.0%であった。得られた延伸糸をタテ糸およびヨコ糸に用い、タテ糸密度145(本/インチ)、ヨコ糸密度95(本/インチ)の平織物を製織し、水酸化ナトリウム30(g/l)濃度の80℃温水中で60分間処理して海成分の共重合ポリエステルの溶出を試み、アルカリ処理後の織物のサンプルをカットし走査型電子顕微鏡(SEM)で織物断面を観察したところ、海成分が完全には溶出せず、分割不良であることを確認した。このため、得られた生機をまず酢酸1(g/l)濃度の130℃熱水条件で30分間酸処理後、中和/水洗し、再度水酸化ナトリウム30(g/l)濃度の80℃温水中で60分間処理して海成分の共重合ポリエステルの溶出を試み、アルカリ処理後の織物のサンプルをカットし走査型電子顕微鏡(SEM)で織物断面を観察したところ、海成分が完全に溶出していることを確認した。引き続き150℃の温度でプレセット後、液流染色機を使用してDianix Navy Blue BE−SFを2%owf濃度で用い、130℃の温度で染色/還元洗浄し、140℃の温度で仕上げセットした。得られた織物はタテ糸密度が153(本/インチ)で、ヨコ糸密度が100(本/インチ)の織物で、通気度は6.7cc/cm・sと防風性は高くなく、ソフトな手触りであるものの、発色が悪いものであった。このときのタテ糸のカバー率は1112であり、ヨコ糸のカバー率は727であり、総カバー率は1839であった。得られた織物の表面写真を図2に示す。
【0050】
(実施例2)
実施例1で用いたものと同じ海島型複合繊維をヨコ糸に用い、タテ糸に56dtex−144フィラメントのポリエチレンテレフタレートの仮撚加工糸を用い、タテ糸密度199(本/インチ)、ヨコ糸密度111(本/インチ)の平織物を製織し、次いで水酸化ナトリウム30(g/l)濃度の80℃温水中で60分間処理して ヨコ糸の海成分のポリ乳酸を溶出し極細繊維(マルチフィラメント)からなる織物を得た。引き続き150℃の温度でプレセット後、液流染色機を使用して130℃の温度で染色/還元洗浄し、160℃での温度仕上げセットした。得られた織物は、タテ糸密度が238(本/インチ)であり、ヨコ糸密度が129(本/インチ)の高密度織物で、その通気度は0.8cc/cm・sと防風性の高いものであった。このときのタテ糸のカバー率は1781であり、ヨコ糸のカバー率は937であり、総カバー率は2718であった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のポリエチレンテレフタレートからなる繊維糸を用いた高密度織物は、今まで以上に高密度化を図ることができ、防風性や撥水性を有するスポーツ織物等に幅広く使用でき有用である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図1は、本発明の実施例1で得られた高密度織物の表面写真である。
【図2】図2は、比較例1で得られた織物の表面写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タテ糸および/またはヨコ糸にポリトリメチレンテレフタレートからなる単繊維繊度が0.01〜0.5dtexのマルチフィラメントを使用してなる織物であって、タテ糸とヨコ糸の総カバー率が1700以上3500以下で、かつ通気度が1.0cc/cm・s未満であることを特徴とする高密度織物。
【請求項2】
通気度が0.8cc/cm・s未満であることを特徴とする請求項1記載の高密度織物。
【請求項3】
ポリトリメチレンテレフタレートからなるマルチフィラメントの単繊維の平均異形度が1.05以上5.0以下であることを特徴とする請求項1または2記載の高密度織物。
【請求項4】
ポリトリメチレンテレフタレートからなるマルチフィラメントが捲縮を有していることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の高密度織物。
【請求項5】
海成分ポリマーがポリ乳酸で構成され、島成分ポリマーがポリトリメチレンテレフタレートで構成されている海島型複合繊維であって、海成分/島成分の複合比率が10/90〜50/50であり、溶解処理によって得られる島成分の単繊維繊度が0.01〜0.5dtexである海島型複合繊維を、タテ糸および/またはヨコ糸に使用して織物を製織後、溶解処理によりポリ乳酸を溶出させることを特徴とする高密度織物の製造方法。
【請求項6】
海成分ポリマーのポリ乳酸を溶解処理で溶出後、島成分ポリマーであるポリトリメチレンテレフタレートからなる単繊維を3%以上収縮させることを特徴とする請求項5記載の高密度織物の製造方法。
【請求項7】
溶解処理に用いられる溶媒がアルカリであることを特徴とする請求項5または6記載の高密度織物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−57219(P2006−57219A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−242322(P2004−242322)
【出願日】平成16年8月23日(2004.8.23)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】