説明

高尿酸血症又はこれに起因する疾患の予防又は治療のための医薬又は食品組成物

【課題】血中尿酸値を低下させるための組成物の提供。さらには、これまで主に皮膚科領域で用いられてきたビオチンの新しい用途の提供。
【解決手段】高尿酸血症又は高尿酸血症に起因する疾患(痛風、腎障害、尿路結石、心血管障害、動脈硬化性疾患、メタボリックシンドローム等)に有効であるためのビオチンを含有する組成物。さらには、肩こり、首すじのこり、手足のしびれ又は手足の冷えを予防又は治療するためのビオチンを含有する組成物、またそれらの医薬及び/又は食品としての利用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビオチンを含有する高尿酸血症又はこれに起因する疾患の予防又は治療するための医薬又は食品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
高尿酸血症とは、血中の尿酸濃度が高い状態である。尿酸の生成と排泄の均衡が破綻した結果、血中尿酸濃度が異常に増加し、血中に溶解しきれなかったものが体内の局所で結晶化すると炎症が惹起される。例えば、尿酸の結晶が関節に溜まると激しい痛みを伴う痛風発作(痛風関節炎)、皮下に溜まると痛風結節、尿中では激しい痛みを伴う腎結石や尿路結石、腎尿細管や腎間質では腎障害の原因となる。
【0003】
また、近年では、高尿酸血症自体が心血管障害の独立した危険因子であるとする報告が増えてきており(非特許文献1参照)、痛風患者に動脈硬化性疾患の患者が多いことも知られている(例えば、非特許文献2参照)。
【0004】
さらに、血中尿酸値とメタボリックシンドロームの危険因子とに非常に良い相関があることも判明している(非特許文献3)。
【0005】
このように、高尿酸血症およびこれに起因する疾患の予防並びに治療は極めて重要なことである。
【0006】
現在、高尿酸血症の治療薬は、アロプリノール等の尿酸生合成抑制薬やベンズブロマロン等の尿酸排泄促進薬が用いられているが、痛風発作時には激烈な痛みのため鎮痛剤が投与されている。
【0007】
一方、ビオチンは水溶性ビタミンの一つであり、古くから皮膚と関係が深いビタミンとして知られ、湿疹や脱毛等の皮膚疾患の治療薬として用いられてきた。また、ビオチンは糖代謝にも関与するため、糖尿病患者にビオチンを投与すると血糖値の低下効果が発現すること(例えば、非特許文献4参照)、また、ビオチンに血中脂質低下作用があること(例えば、非特許文献5参照)や血圧上昇抑制作用があること(非特許文献6参照)等も報告されている。
【0008】
しかし、血中尿酸濃度をビオチンが低下させるという薬理作用を有することは、これまでに知られておらず示唆もされていない。
【非特許文献1】Progress in Medicine, Vol.14, No.12, 1994, p.50-53
【非特許文献2】東京都医師会雑誌, Vol.57, No.5, 2004, p.35-42
【非特許文献3】医薬ジャーナル,Vol. 42, No. 6, 2006, p.125-132
【非特許文献4】ビタミン広報センター, ニュースレター No.106 2003年1月号
【非特許文献5】Journal of Nutritional Biochemistry, Vol.16, No.7, 2005, p.424-427
【非特許文献6】ビタミン, Vol.78, No.3, 2004, p.175-176
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者は、ビオチンの新たな薬理作用を探索すべく鋭意研究を重ねた結果、ビオチンに優れた血中尿酸値の低下作用を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
このことは、これまで主に皮膚科領域で用いられてきたビオチンの新しい用途を提供するものであり、高尿酸血症又は高尿酸血症に起因する疾患(痛風、腎障害、尿路結石、心血管障害、動脈硬化性疾患、メタボリックシンドローム等)にも有効であることを初めて見出したものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、(1)血中尿酸値を低下させるためのビオチンを含有する組成物及び(2)高尿酸血症又はこれに起因する疾患を予防又は治療するためのビオチンを含有する組成物であり、好適には、
(3)高尿酸血症に起因する疾患が痛風、腎障害又は尿路結石である(1)に記載の組成物、
(4)高尿酸血症に起因する疾患が心血管障害、動脈硬化性疾患又はメタボリックシンドロームである(1)に記載の組成物、
(5)高尿酸血症又はこれに起因する疾患の原因を低減させるためのビオチンを含有する組成物、
(6)肩こり、首すじのこり、手足のしびれ又は手足の冷えを予防又は治療するためのビオチンを含有する組成物及び
(7)医薬及び/又は食品として用いるための、(1)乃至(6)から選ばれるいずれか1項に記載の組成物である。
【0012】
また、本発明は、(8)ビオチンによる血中尿酸値を低下させる方法、
(9)ビオチンによる高尿酸血症又はこれに起因する疾患を予防又は治療する方法、
(10)ビオチンによる高尿酸血症又はこれに起因する疾患の原因を低減させる方法、
(11)ビオチンによる肩こり、首すじのこり、手足のしびれ又は手足の冷えを予防又は治療する方法及び
(12)ビオチンを含有する組成物の有効量を哺乳動物に投与する高尿酸血症又はこれに起因する疾患を予防又は治療する方法を提供する。
【0013】
本発明において、「ビオチン」とは、水溶性ビタミンの1種であり、(+)−シス−ヘキサヒドロ−2−オキソ−1H−チエノ−(3,4)−イミダゾール−4−吉草酸のことをいう。ビタミンB7又はビタミンHと呼ばれることもある。
【0014】
本発明において、「高尿酸血症に起因する疾患」とは、血中尿酸濃度が高くなりすぎて、血中に溶けきれなくなった状態に起因して惹起する疾患であればとくに限定はないが、例えば、痛風、腎障害、尿路結石、心血管障害、動脈硬化性疾患、メタボリックシンドロームなどが挙げられる。
【0015】
ここで、「動脈硬化性疾患」は、動脈壁が肥厚し、弾性を失った状態をいい、例えば、アテローム(粥状)硬化、メンケベルグ型動脈硬化、細小動脈硬化の3型がある。
【0016】
また、メタボリックシンドロームとは内臓脂肪症候群とも呼ばれ、高尿酸血症・通風と強い相関があることが良く知られている。
【0017】
本発明において、「高尿酸血症に起因する疾患の原因を低減させる」とは、血中又は組織中の尿酸値を低下させることをいう。
【0018】
本発明において「治療」とは、病気又は症状を治癒させること又は改善させること或いは症状を抑制させることを意味し、「予防」とは、病気又は症状の発現の未然に防ぐことを意味する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の組成物は、優れた血中尿酸値の低下作用を有するので、高尿酸血症又はこれに起因する疾患(痛風、腎障害、尿路結石、心血管障害、動脈硬化性疾患、メタボリックシンドローム等)の予防又は治療に有用である。
【0020】
更に、動脈硬化性疾患に起因する末梢血行障害による、肩こり、首すじのこり、手足のしびれ、手足の冷えの治療又は予防にも有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
ビオチンは医薬品としても食品としても販売・使用されており、容易に入手できる。
【0022】
ビオチンの1回服用又は摂取量は、適応症や年齢により異なるが、通常、0.01mg乃至2mgであり、これを1日に、1乃至3回服用又は摂取する。
【0023】
固形又は半固形の剤形の場合において1回量中に含有されるビオチンの含有量は、通常、0.001mg乃至20mgであり、好適には、0.01mg乃至2mgである。
【0024】
液状又は半液状の剤形の場合において含有されるビオチンの含有量は通常、0.001mg/mL乃至10mg/mLであり、好適には、0.01mg/mL乃至1mg/mLである。
【0025】
本発明においては、上記有効成分の他、必要に応じて、尿酸生成抑制剤(アロプリノールなど)、尿酸排泄促進剤(ベンズブロマロンなど)、HMG−CoAリダクターゼ阻害剤、各種ビタミン類又はビタミン様物質、生薬類等を本発明の効果を損なわない範囲で含有させることができる。
【0026】
これらの具体的な形態としては、例えば、医薬品では錠剤、咀嚼錠剤、細粒剤(顆粒・散剤を含む)、カプセル剤、液剤等、食品ではゼリー剤、クッキー、ガム、チョコレート、キャンデー、ドロップ、マーマレード、マヨネーズ、ドレッシング、パン、プリン、打錠菓子、粉末ジュース、ふりかけ又はトッピング、飲料等をあげることができ、各剤形に適した医薬添加剤、食品添加剤、基材等を適宜使用し、日本薬局方等に記載された通常の方法に従い、製造することができる。
【0027】
例えば、錠剤の場合、乳糖、結晶セルロース等を賦形剤として、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム又は酸化マグネシウム等を安定化剤として、ヒドロキシプロピルセルロース等をコーテイング剤として、ステアリン酸マグネシウム等を滑沢剤として使用することができ、細粒剤及びカプセル剤の場合、乳糖又は精製白糖等を賦形剤として、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム又は酸化マグネシウム等を安定化剤として、トウモロコシデンプン等を吸着剤として、ヒドロキシプロピルセルロース等を結合剤として、使用することができる。その他、各形態において、必要に応じ、クロスポビドン等の崩壊剤、ポリソルベート等の界面活性剤、ケイ酸カルシウム等の吸着剤、三二酸化鉄やカラメル等の着色剤、安息香酸ナトリウム等の安定剤、pH調節剤、香料、更には、砂糖、水あめ、カカオバター、バター、マーガリン、食用油脂、食塩、練乳、小麦粉、その他の食品素材及び食品添加物等を配合することができる。
【実施例】
【0028】
以下に、実施例等を示し、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0029】
(実施例1)錠剤
(1)成分
(表1)
1乃至2錠中 (mg)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
ビオチン 1
乳糖 120
ステアリン酸マグネシウム 8
トウモロコシデンプン 50
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース 適量
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−。
(2)製法
上記成分及び分量をとり、日局製剤総則「錠剤」の項に準じて錠剤を製造する。
【0030】
(実施例2)細粒剤
(1)成分
(表2)
1包中 (mg)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
ビオチン 1
乳糖 300
ステアリン酸マグネシウム 10
D−マンニトール 900
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース 適量
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−。
(2)製法
上記成分及び分量をとり、日局製剤総則「顆粒剤」の項に準じて細粒剤を製造する。
【0031】
(実施例3)カプセル剤
(1)成分
(表3)
1乃至2カプセル中 (mg)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
ビオチン 1
乳糖 90
ステアリン酸マグネシウム 6
トウモロコシデンプン 70
ヒドロキシプロピルセルロース 適量
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−。
(2)製法
上記成分及び分量をとり、日局製剤総則「顆粒剤」の項に準じて細粒剤を製造した後、カプセルに充てんして硬カプセル剤を製造する。
【0032】
(実施例4)シロップ剤
(1)成分
(表4)
60mL中 (mg)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
ビオチン 1
安息香酸ナトリウム 100
ポリビニルアルコール 50
白糖 900
精製水 残部
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−。
(2)製法
上記成分及び分量をとり、日局製剤総則「シロップ剤」の項に準じてシロップ剤を製造した後、褐色ガラス瓶に充てんしてシロップ剤を製造する。
【0033】
(実施例5)ホワイトチョコレート
(1)成分
(表5)
100g中 (g)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
ビオチン 0.001
ビターチョコレート 18
カカオバター 22
全脂粉乳 20
レシチン 0.3
バニリン 微量
砂糖 残部
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−。
(2)製法
上記成分及び分量をとり、通常のチョコレート製造方法に準じて製造する。
【0034】
(実施例6)キャンデー
(1)成分
(表6)
100g中 (g)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
ビオチン 0.001
水あめ 55
クエン酸 適量
香料 微量
砂糖 残部
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−。
(2)製法
上記成分及び分量をとり、通常のキャンデー製造方法に準じて製造する。
【0035】
(実施例7)パン
(1)成分
(表7)
100g中 (g)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
ビオチン 0.001
小麦粉 85
食塩 適量
ショートニング 適量
イースト 3
水 残部
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−。
(2)製法
上記成分及び分量をとり、通常のパン製造方法に準じて製造する。
【0036】
(試験例)
(1)被験物質
ビオチンはDSMニュートリションジャパン(株)製のものを使用した。
(2)動物
試験動物としては、Covance Research Products Inc.からビーグル犬雄を5箇月齢で購入し、約1箇月間の検疫および馴化飼育後に使用した。
(3)投与剤形、製剤の調整方法および製剤の保存方法
試験動物毎の体重をもとに算出した必要量の被験物質を、TORPAC社のゼラチンカプセル(1/2オンス)に充填した。充填後、カプセルは動物毎に区分されたケースに入れ、投与時まで冷蔵保存した。
(4)投与経路および投与期間
被験物質を充填したカプセルは、1日1回9:00〜12:30の間に、試験動物に強制経口投与した。なお、試験動物は投与前2乃至3時間絶食させた。
【0037】
投与期間は11日間とした。
(5)被験試料の調製
カプセル投与前−14および−7日(投与開始前第2週および第1週)、投与後4日、8日、12日に、橈側皮静脈から約10mL採血した。なお、採血前約18時間、試験動物は絶食させた。
【0038】
得られた血液を試験管にとり、室温で30分から1時間放置後、遠心分離(約1600×g、10分間)して得られた血清を用いた。
(6)試験方法
血中の尿酸値は通常に用いられているUricase−POD法を用いて測定した。
(7)試験結果
ビオチン投与における各種検査値は、投与2週間前および1週間前の各種血中検査値の平均を100として換算して求めた。
【0039】
得られた結果を表8に示す。なお、各値とも1群5匹の平均値である。
【0040】
(表8)
被験物質 血中尿酸値の変動率%
(mg/Kg) 投与後4日 投与後8日 投与後12日
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ビオチン(0.5) 103.5 86.6* 81.6**

*:p<0.05 **:p<0.01 (paired t test)
ビオチン投与により顕著な血中尿酸値の低下作用が発現した。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の組成物は、優れた血中尿酸値の低下作用を有するので、高尿酸血症又はこれに起因する疾患(痛風、腎障害、尿路結石、心血管障害、動脈硬化性疾患、メタボリックシンドローム等)の予防又は治療に有用である。
【0042】
更に、動脈硬化性疾患に起因する末梢血行障害による、肩こり、首すじのこり、手足のしびれ、手足の冷えの治療又は予防にも有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
血中尿酸値を低下させるためのビオチンを含有する組成物。
【請求項2】
高尿酸血症又はこれに起因する疾患を予防又は治療するためのビオチンを含有する組成物。
【請求項3】
高尿酸血症に起因する疾患が痛風、腎障害又は尿路結石である請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
高尿酸血症に起因する疾患が心血管障害、動脈硬化性疾患又はメタボリックシンドロームである請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
高尿酸血症又はこれに起因する疾患の原因を低減させるためのビオチンを含有する組成物。
【請求項6】
肩こり、首すじのこり、手足のしびれ又は手足の冷えを予防又は治療するためのビオチンを含有する組成物。
【請求項7】
医薬及び/又は食品として用いるための、請求項1乃至請求項6から選ばれるいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
ビオチンによる血中尿酸値を低下させる方法。
【請求項9】
ビオチンによる高尿酸血症又はこれに起因する疾患を予防又は治療する方法。
【請求項10】
ビオチンによる高尿酸血症又はこれに起因する疾患の原因を低減させる方法。
【請求項11】
ビオチンによる肩こり、首すじのこり、手足のしびれ又は手足の冷えを予防又は治療する方法。
【請求項12】
ビオチンを含有する組成物の有効量を哺乳動物に投与する高尿酸血症又はこれに起因する疾患を予防又は治療する方法。

【公開番号】特開2008−56661(P2008−56661A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−194145(P2007−194145)
【出願日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(306014736)第一三共ヘルスケア株式会社 (176)
【Fターム(参考)】