説明

高強度混和材及び遠心成形用コンクリート組成物

【課題】 低水量配合のモルタルやコンクリートに混和しても凝結性に支障を及ぼすことなく施工や成形に適した流動性を得ることが可能で、高強度のモルタルやコンクリートが容易に得ることができる高強度混和材及びコンクリート成形物を得るために遠心成形を行ってもスラッジ発生量を著しく低下することができ、且つ高い強度発現性を有する該高強度混和材を用いた遠心成形用コンクリート組成物を提供する。
【解決手段】 スラグ100質量部、シリカフューム350〜6000質量部、無水石膏800〜1250質量部及び保水剤0.05〜1質量部を含有してなる高強度混和材、並びに、ポルトランドセメントと前記高強度混和材を含有してなる遠心成形用コンクリート組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モルタルやコンクリートに混和使用して高強度化を行うための高強度混和材及びこれを用いた遠心成形用コンクリート組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
強度の高いモルタルやコンクリートを得る策としては、一般にセメントに対する水の配合量を低くする程強度は高まる。また、低水量配合による分散性や流動性の低下を補う上で減水剤が添加されることが多い。特にコンクリート製品のような高い強度が必要な成形物では、このような低水量配合化に加え、例えば蒸気養生等の加温養生を行えば、より高強度の成形物が得られる。しかし、これだけの方法では、向上できる強度には限界があった。このため、配合成分面からの検討が行われてきた。例えば、蒸気養生処理を経るコンクリート成形物の高強度化の為に、大量の石膏を配合添加することが知られている。(例えば、特許文献1参照。)さらに、石膏に加えて高炉スラグ粉末を配合添加することも知られている。(例えば、特許文献2参照。)何れも長期強度発現性が向上し、より高強度の成形物が得られる。また、石膏に加えてシリカフューム等のポゾラン反応性物質を配合添加して、高い強度と耐久性を得られることも知られている。(例えば、特許文献3参照。)さらに、石膏と高炉スラグとポゾラン反応性物質を配合添加することも知られている。(例えば、特許文献4参照。)このような石膏又は石膏含有物の配合添加によって、低水量配合のコンクリートで施工や成形に適した流動性を確保しようとすると、一般にその添加量を多くする必要があった。また、より低い配合水量にする場合は、このような添加物に加えて減水剤類を併用し、減水剤添加量も増量する必要があった。しかるに、減水剤や無水石膏はその含有量が大くなると、凝結が遅延する。無水石膏等を比較的大量に混和したコンクリートは、水和反応終結までに時間がかかる為、遠心成形を行うとノロ或いはトロと称されるスラッジが成形中に発生し易く、これが成形体内部に絞り出されて保形性が低下する。
【特許文献1】特開昭58−45007号公報
【特許文献2】特開平3−40947号公報
【特許文献3】特開平2−289453号公報
【特許文献4】特開2005−22888号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、低水量配合のモルタルやコンクリートに混和しても凝結性に支障を及ぼすことなく施工や成形に適した流動性を得ることが可能で、高強度のモルタルやコンクリートを容易に得ることができる高強度混和材及びコンクリート成形物を得るために遠心成形を行ってもスラッジ発生が抑制でき、且つ高い強度発現性を有する遠心成形用コンクリート組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者等は、前記課題解決のため検討を進めた結果、無水石膏、スラグ、シリカフューム及び保水剤を特定の割合で含有する混和材を混和したモルタルやコンクリートが高い強度発現性を有し、しかも低水量配合にしても施工や成形に適した流動性が確保可能であったこと。また、この混和材をポルトランドセメントに混和させたコンクリート組成物は成形に適した良好な流動性を呈し、これを遠心成形すると、スラッジ発生量が著しく少なく、保形性等の成形性に優れたコンクリート成形物が得られ、非常に高い強度発現性を有したこと等から、本発明を完成するに至った。
【0005】
即ち、本発明は、以下の(1)で表す高強度混和材及び(2)〜(4)で表す遠心成形用コンクリート組成物である。(1)スラグ100質量部、シリカフューム350〜6000質量部、無水石膏800〜1250質量部及び保水剤0.05〜1質量部を含有してなる高強度混和材。(2)ポルトランドセメント100質量部と前記(1)の高強度混和材5〜30質量部を含有してなる遠心成形用コンクリート組成物。(3)ポルトランドセメントが普通ポルトランドセメントと早強ポルトランドセメントの混合物である前記(2)の遠心成形用コンクリート組成物。(4)さらに、減水剤類を含有する前記(2)又は(3)の遠心成形用コンクリート組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明の高強度混和材は、流動性や硬化性状を低下させることなく、モルタルやコンクリートの強度発現性を飛躍的に高めることができ、例えば普通ポルトランドセメントに混和させると、蒸気養生を経た遠心成形による脱型時で100MPaを超える非常に高い圧縮強度のコンクリート成形物を容易に得ることができる。また、遠心成形の際は、高速回転は勿論、低速回転で行ってもスラッジ発生が殆ど無く、保形性に優れたコンクリート成形物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の高強度混和材に含有するスラグは、潜在水硬性を示し、結合相を増強する作用を有する。含有使用するスラグは特に限定されず、例えば高炉スラグで代表される鉄を始めとする金属精錬で発生する鉱滓、都市ゴミや下水汚泥の溶融スラグなどを挙げることができる。好ましくは、廉価で安定した品質のものが入手し易いことから、高炉スラグの使用が推奨される。また、スラグの粉末度は、かかる作用を円滑に発揮する上でブレーン比表面積が2700〜12000cm2/gの粒子が好ましい。
【0008】
また、本発明の高強度混和材に含有するシリカフュームは何れのものでも使用でき、例えばフェロシリコンや金属シリコンなどの製造時に副産された二酸化珪素を主原料としたもので、BET比表面積20000〜200000cm2/g程度の微粒子を挙げることができる。シリカフュームを含有させると、マイクロフィラー効果によりセメント水和物の間隙に入り込むことによって緻密なコンクリートを得ることができ、加えてポゾラン反応による水和物の生成も起こるため、より高い強度のコンクリートが得易くなる。シリカフュームの含有量は、スラグ100質量部に対し、500〜6000質量部が好ましい。より好ましい含有量は、1000〜4000質量部である。スラグ100質量部に対し、500質量部未満のシリカフゥーム含有量では、主に初期強度の発現性が向上し難くなり、さらにコンクリートの高緻密化も達成し難く、全般に強度発現性の向上が乏しくなるので好ましくなく、また、6000質量部を超えると、コンクリートの混合性や流動性が低下し易くなるので好ましくない。
【0009】
また、本発明の高強度混和材に含有する無水石膏は何れのものでも使用できるが、この中でもII型無水石膏が好適である。II型無水石膏の主要な含有作用は比較的早期から水和反応によってエトリンガイトを生成させて微細構造とし、高強度化に寄与する他、長期強度発現性の確保にも寄与する。無水石膏の含有量は、スラグ100質量部に対し、800〜1250質量部が好ましい。より好ましい含有量は、800〜1100質量部である。無水石膏の含有量がスラグ100質量部に対して800質量部未満では比較的早期の強度発現性が低く、また1250質量部を超えると凝結が遅延したり、硬化後コンクリートに膨張亀裂が生じることがあるので好ましくない。
【0010】
また、本発明の高強度混和材に含有する保水剤は、モルタルやコンクリートに使用できるものであれば特に限定されない。具体的には、例えば、ポリアクリル酸、酢酸ビニル・アクリル共重合体、ポリビニルアルコール、無水マレイン酸共重合体、ポリアクリロニトリル系ケン化物、ポリエチレンオキサイド、デンプン・アクリロニトリルグラフト重合体、デンプン・アクリル酸グラフト重合体、水溶性メチルセルロース架橋物等を有効成分とするものを挙げることができる。保水剤を含有することにより、高強度化のための低水量配合にしてもモルタルやコンクリートに水分が保持され易くなることから早期の乾燥化による未水和反応成分の残存を抑制でき、強固な結合相を得ることができると共に、保水効果による保形性が向上するため、遠心成形を行ってもノロやトロの発生を著しく低減できる。保水剤の含有量は、スラグ100質量部に対し、固型分換算で0.05〜1質量部が好ましい。より好ましい含有量は、0.1〜0.5質量部である。保水剤の含有量がスラグ100質量部に対して0.05質量部未満では強度発現性が十分向上せず、成形時の保形性も低下し易くなるので好ましくなく、また1質量部を超えると流動性が低下するので好ましくない。
【0011】
また、本発明の高強度混和材は、本発明の効果を実質喪失させない限り、前記以外の成分を含有するものであっても良い。このような成分として、例えば何れもモルタルやコンクリートに使用できる繊維、凝結調整剤、水硬性無機粉体、フライアッシュ、メタカオリン等を挙げることができる。
【0012】
また、本発明の遠心成形用コンクリート組成物は、少なくとも前記のような配合の無水石膏、スラグ、シリカフューム及び保水剤を含有する高強度混和材とポルトランドセメントを含有したものであり、更に骨材及び任意含有成分としてモルタルやコンクリートで使用できる他の混和成分を加えたものである。
【0013】
本発明の遠心成形用コンクリート組成物の前記高強度混和材の混和量は、ポルトランドセメント100質量部に対し、5〜30質量部が好ましい。5質量部未満では、遠心成形中のスラッジ発生を十分抑制できないので適当でない。また、30質量部を超える混和量では石膏含有量が増大し過ぎて、凝結遅延や硬化後に遅れ膨張による亀裂発生が起こり易くなるので適当でない。
【0014】
本発明の遠心成形用コンクリート組成物に含有するポルトランドセメントは、何れの種類のポルトランドセメントでも使用でき、例えば普通、早強、超早強、低熱、中庸熱等の各種ポルトランドセメントを挙げられる。また、これらのうち2種以上を併用しても良い。好ましくは、該ポルトランドセメントとして、普通ポルトランドセメントと早強ポルトランドセメントの混合物を使用するのが好ましい。早強ポルトランドセメントの含有により、一般に5〜30μmの粒子が補填され、コンクリートに混和させたときの混合性が良好になり、構成成分が均一化されるまでの混合時間が大幅に短縮される他、水和初期の強度発現に寄与するエーライト(CaO・3SiO2)の量が増すため、初期強度発現性を高めることができる。早強ポルトランドセメントの含有量は、スラグ100質量部に対し、500〜1000質量部が好ましい。早強ポルトランドセメントの含有量がスラグ100質量部に対して500質量部未満では含有効果が殆ど見られず、また1000質量部を超えると混練水注水後の粘性が高くなり過ぎて施工性や成形性の低下に繋がることがあるので適当ではない。
【0015】
また、本発明の遠心成形用コンクリート組成物に使用する骨材は限定されず、例えば川砂、山砂、海砂、岩石砕砂等の天然細骨材、川砂利、山砂利、海砂利、岩石破砕物等の天然粗骨材、鉱物粉や工業材料の副産生成物等を焼成して得た人工の細骨材又は粗骨材、さらに密度に応じて軽量、普通、重量の各骨材の何れでも良い。骨材の使用量も制限されず、例えば、普通細骨材と普通粗骨材を使用する場合、前記ポルトランドセメント100質量部に対し、概ね250〜350質量部が推奨される。
【0016】
また、本発明の遠心成形用コンクリート組成物に使用可能な任意成分としては、モルタルやコンクリートに使用できる混和剤・材であれば、何れのものでも本発明の効果を実質喪失しない範囲で使用することができる。このような混和剤・材として、例えば膨張材、収縮低減剤、増量剤、増粘剤、減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、分散剤、流動化剤、繊維、凝結調整剤、顔料、抗菌剤等を挙げることができる。好ましくは、減水剤類(減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、分散剤、流動化剤等)を含有させる。減水剤類を含有させることによって、特に低い配合水量のコンクリートにしても、成形性に適した流動性や混合による成分均一化が得易くなる。減水剤類を含有させる場合の配合量は、ポルトランドセメント100質量部に対し、固型分換算で0.5〜2.5質量部が好ましい。0.5質量部未満では含有効果が得られ無いことがあり、2.5質量部を超えると凝結遅延を起こすことがあるので適当ではない。
【0017】
また、本発明の遠心成形用コンクリート組成物の混練水量は制限されないが、一般に高い強度発現性を得る上で、低い混練水配合量が推奨され、例えば、前記ポルトランドセメント100質量部に対し、概ね0.5〜2.5質量部が推奨される。
【0018】
また、本発明の遠心成形用コンクリート組成物は、これを遠心成形し、望ましくは蒸気養生処理を経ることによって、非常に高い強度のコンクリート硬化成形物を得ることができる。
【実施例】
【0019】
以下、実施例により本発明を具体的に詳しく説明するが、本発明はここで表す実施例に限定されるものではない。
【0020】
<高強度混和材の作製> 次に表すA〜Eから選定される材料を、表1に表した配合量となるようレーディゲミキサに入れ、約1分間乾式混合し、高強度混和材(本発明品1〜7、参考品11〜16)を作製した。
【0021】
A;高炉スラグ(商品名「ファインセラメント10A」、デイ・シイ社製)
B;シリカフューム(商品名「SF−SILICAFUME」、巴工業社製)
C;II型無水石膏(市販品)
D;保水剤(商品名「SEB−04T」、信越化学工業社製)
E;高性能減水剤(商品名「SEB−04T」、信越化学工業社製)
【0022】
【表1】

【0023】
<コンクリート組成物の作製>
前記の如く作製した高強度混和材、次に表すF〜Jから選定される材料及び水を、表2に表した配合量となるよう2軸型ミキサに一括投入し、約20℃の温度下で、含有材料が均一化されるまでの表2に表す時間での混練を行った。
F;細骨材(山砂)
G;粗骨材(最大粒径20mm、砕石)
H;普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)
I;早強ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)
J;高性能減水剤(商品名「SEB−04T」、信越化学工業社製)
【0024】
【表2】

【0025】
<コンクリート組成物の流動性の評価>
前記の如く混練して得たコンクリート組成物の流動性の評価を、JIS A 1101に準じたスランプ試験により、混練終了1分以内のコンクリート組成物に対して行った。その結果を表3に表す。
【0026】
<コンクリート組成物の圧縮強度の評価>
前記の混練して得たコンクリート組成物を用い、JIS A 1108に準拠した方法でコンクリート供試体の圧縮強度を測定した。ここで、測定に用いる供試体は、内寸直径10cm、高さ20cmの円柱状型枠にコンクリート組成物を振動充填し、充填状態のまま蒸気養生処理(処理条件;前置き時間を4時間とし、15℃/HRで70℃まで昇温させ、70℃で4時間保持し、当該保持後は自然放冷し、約30℃に至った時点で脱型)を行い、更に脱型後は常温下で気中養生を行い、材齢7日の供試体とした。圧縮強度の測定結果も表3に表す。
【0027】
【表3】

【0028】
<遠心成形によるコンクリート成形物の作製>
また、前記の如く混練して得たコンクリート組成物を用い、JIS A1136に準拠し、φ20cm×30cmの小型遠心管を用い、次に示す二種類の条件で遠心成形を行った。
通常遠心成形;遠心力5Gで1分、次いで15Gで2分、更に35Gで8分。
低速回転遠心成形;遠心力2Gで5分、次いで4Gで3分、更に20Gで3分。
【0029】
遠心成形後は、これを常圧蒸気養生した。蒸気養生は、前置き時間を4時間とし、15℃/HRで70℃まで昇温させ、70℃で4時間保持した。当該保持後は自然放冷し、約30℃に至った時点で脱型した。
【0030】
<コンクリート組成物の遠心成形特性の評価>
遠心成形に供したコンクリート組成物の成形特性について、次に示す通常遠心成形における締固め性と低速回転遠心成形における保形性により評価した。これらの結果は、表4に表す。
【0031】
締固め性は、脱型後の成形物を目視し、成形物内面が平滑な曲面となったものを締固め性「良好」と判断し、例えば成形物内面が波打つような面となったもののように平滑な曲面とならなかったものを全て締固め性「不良」と判断した。また併せて、締固め後の成形物内面に残存する脆弱層(ノロ層)の平均厚さをノギスにより測定した。
【0032】
保形性は、脱型後の成形物を目視し、低粘性状態のスラッジの発生が見られず、成形物内面が平滑な曲面となり且つ当該平滑曲面が30分経過後も実質変形なく維持されていたものを保形性「良好」と判断し、それ以外の状況となったものを全て保形性「不良」と判断した。
【0033】
【表4】

【0034】
表3の結果から、本発明の高強度混和材を使用したコンクリートは、低水量配合にしても施工や成形に適した流動性が確保し易く、硬化後は高い強度発現性を有する。さらに表4の結果から、該高強度混和材を適量使用したコンクリート組成物は、遠心成形を行った際のスラッジ発生量も著しく低く、優れた保形性を呈し、しかも非常に高い強度発現性を有する成形物が得られることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラグ100質量部、シリカフューム350〜6000質量部、無水石膏800〜1250質量部及び保水剤0.05〜1質量部を含有してなる高強度混和材。
【請求項2】
ポルトランドセメントと請求項1記載の高強度混和材を含有してなる遠心成形用コンクリート組成物。
【請求項3】
ポルトランドセメントが普通ポルトランドセメントと早強ポルトランドセメントの混合物である請求項2記載の遠心成形用コンクリート組成物。
【請求項4】
さらに、減水剤類を含有する請求項2又は3記載の遠心成形用コンクリート組成物。

【公開番号】特開2008−162843(P2008−162843A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−353733(P2006−353733)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【Fターム(参考)】