説明

高性能ORR(酸化還元反応)PGM(Pt族金属)フリー触媒

ここには、PGMの無い触媒が開示されており、遷移金属フタロシアニン錯体から出発して作られ、触媒的ORRに有用であり、特には、アルカリ性及び酸性媒体中でのORR用陰極材料としてのアルコールに耐性がある触媒に有用であり、過酸化水素の発生が少なく、より優れた性能、安定性及び活性を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ORRに有用なPGMの無い触媒に関し、特には、燃料電池における酸素の電解還元のための陰極材料として有用な電解触媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
燃料電池は、反応の化学エネルギーを電力に直接転換する電気化学的装置である。かかる電池において、燃料(一般には水素、アルコール又は飽和炭化水素)及び酸化剤(一般には空気からの酸素)は、連続的な供給で電極に供給される。理論上、燃料電池は、燃料及び酸化剤が電極に供給されている限り、電気エネルギーを作ることができる。実際には、構成要素の劣化又は機能不良が、燃料電池の実作業を制限する。
【0003】
様々な燃料電池は、異なる開発段階にあり;特に、電解触媒を使用できる燃料電池を考えると、以下のものを例として挙げることができる:Hが燃料の高分子電解質燃料電池(PEFC)、アルコールが燃料の直接酸化燃料電池(DOFC)(直接アルコール燃料電池,DAFC)又はその他の水素含有液体若しくは気体燃料(アルコール、グリコール、アルデヒド、飽和炭化水素、カルボン酸等)が燃料の直接酸化燃料電池(DOFC)、リン酸燃料電池(PAFC)及び溶融炭酸塩燃料電池(MCFC)である。燃料電池は、プロトン及び陰イオン交換膜の双方を採用することができる。
【0004】
本発明によれば、燃料電池には、金属−空気電池も含まれているが、これは、金属−空気電池は、燃料が金属陽極材料それ自体である燃料電池として考えることができるためである。酸素還元反応を利用する他の可能性のある電気化学的装置は、塩アルカリ電解セルである。
【0005】
上述の種類の燃料電池いずれについても必要な構成要素は電極であり、該電極は、一般に、適切な導体に結合した多孔質炭素材料上に支持される金属又は金属粒子を含有する。酸素を還元するのに通常使用される触媒は、少しの例を挙げるだけだが、白金、ニッケル、コバルト、銀等の遷移金属を含む。燃料(例えば、PEFCsのH及びDMFCのメタノール)を酸化するのに通常使用される触媒は、白金、白金−ルテニウム混合物、白金−ルテニウム−モリブデン混合物、及び白金−スズ混合物である。燃料電池は、通常、白金を単独で又は他の金属、好ましくはルテニウムと併せて、陽極にて含有する一方で、陰極は、他の金属を等しく採用できるにもかかわらず、一般に白金により形成されている。一般には高充填での、白金の好ましい存在は、輸送、携帯電話及び一般的な電子装置用の燃料電池の大量生産に重要な経済的制約を示す。実際、白金の高コスト(現在のところ約25〜30USD/g)は、燃料電池により電力を作る費用を、他の電力発生代替手段の費用よりもずっと大きくさせることの一因となる。更に、DMFCの白金系陰極は、メタノールのクロスオーバーに敏感である。伝統的な電力発生装置に比べてより高い燃料電池効率と、それらの環境に優しい性質とを考慮すると、白金又はPGMsを必要としない燃料電池の開発が非常に望まれている。
【0006】
(最新技術)
多孔質炭素材料上にある遷移金属の大環状N4−キレートは、陰極側のPtを置換する潜在的な候補である。
【0007】
酸素還元について最良の活性を示す大環状N4−キレートは、鉄及びコバルトのテトラフェニル−ポルフィリン(TPP)、テトラメトキシフェニル−ポルフィリン(TMPP)、ジベンゾテトラ−アザアヌレン(TAA)、及びフタロシアニン(PC)である。
【化1】

【0008】
これら物質の全ては、Oの電解還元についてPtと同等の活性を示す。しかしながら、それらは、低い電気化学的安定性に悩まされ、そして、それらは、電解質での加水分解又は過酸化物中間体による大環状環の攻撃を通して分解する。
【0009】
幾つかの研究グループは、高面積多孔質炭素支持体上に吸着した遷移金属大環状物の熱処理が、実質的に分解せず、酸素還元用電解触媒としての安定性を著しく向上させ、場合によっては、それらの全体的な触媒活性を高めることを報告している。
【0010】
DE 102005 015572は、1:1の比のアルゴン酸素ガス混合物下で0.1mbarの圧力にて5分間27.12MHzの高振動数により励起されたプラズマ処理を受けた、導電性炭素支持体(Vulcan XC 72 R−Cabot)から作られる担持触媒を記載し、次いで、Ru(tpy)(pydic)は、1:5の質量比で活性炭に混合され、0.1mbarの圧力で5分間処理されるHF−プラズマ(27.12MHZ)でのプラズマ処理を再度受けることを記載する。そのプロセスガスは、アルゴンからなる。
【0011】
WO 2005/69893は、高表面積炭素上に担持された、Pt、Pd等をFe、Co、Cr及びNiからなる群において選択された一種の遷移金属と組み合わせて備えるPGM触媒を記載する。該触媒は、熱処理により得られ、前記遷移金属の前駆体は、フタロシアニンのような金属大環状錯体である。そこには、かかる触媒の調製方法が記載されており、前記方法は、支持体上にPt等の貴金属を分散させる工程を含み、次いで、金属体環状物をも該支持体上に吸着させ、その後、熱処理を行う。
【0012】
JP 59090365は、グラファイト、アセチレンブラック、活性炭又は炭素繊維等の電極電流コレクタ材料が、鉄化合物と、尿素と、ピロメリト酸二無水物、ピロメリトアミド及びピロメリトニトリルの中から選択される少なくとも一種の化合物と混合されることを記載する。上記鉄化合物としては、塩化第一鉄、塩化第二鉄又は硫酸第一鉄のように、ピロメリト酸二無水物、ピロメリトアミド及びピロメリトニトリルの内の少なくとも一種と反応して鉄フタロシアニンポリマーを生成する化合物が採用される。このように調製された混合物は、上記電極電流コレクタ材料上に担持された鉄フタロシアニンポリマーを合成するように、アルゴンガス等の非反応性気体の雰囲気下で反応を受け、それにより、電極材料が得られる。
【0013】
Contamin et al.(Electrochimica Acta 45(1999),pp.721−729)は、活性木炭煤の存在下でのコバルトテトラアザアヌレンの熱分解によるコバルト含有電極触媒の調製について報告する。調製の最初にチオ尿素を加える場合、著者は、触媒活性の有意な増加を観測した。活性中心は、C−S架橋により炭素マトリックスに結合して向かい側に位置した二つのコバルト原子からなる。
【0014】
H.A.Gasteiger et al.(Applied Catalysis B:Environmental 56,(2005),9−35)は、公表されたPGMフリー触媒を概説する(pag.29−33)。酸性ORRについて、安定性及び活性双方の分野でのある程度の成功は、遷移金属イオン、典型的にはFe又はCoが芳香族又はグラファイト様の炭素構造中に結合した幾つかの窒素により安定された材料群により達成されている。炭素の適切な形態は、一般に、ヘモグロビンの補欠分子族と類似の有機高分子の重合(多くの場合、熱分解)に由来していた。かかる大環状物触媒の例は、Feフタロシアニン(FePC)及びCoメトキシテトラフェニルポルフィリン(CoTMPP)を重合したものである。かかる材料の活性は、典型的に、大環状物前駆体から大部分の水素及び多くの窒素を除去するのに十分高い温度での熱処理後に向上し、構造がまだ解明されていない活性部位をもたらす。
【0015】
M.Lefevreらは、J.Phys.Chem.B(2000)において、PEM燃料電池の酸素還元用触媒材料が、前駆体化合物としてのFe<II>アセタートから出発し、窒素前駆体化合物としてのNH存在下で有機化合物としてのペリレンテトラカルボン酸二無水物(PTCDA)と混合し、800℃を超える高温で熱分解して、調製されることを記載する。金属及び窒素の無いPTCDAの重合は、インサイチューで、多孔質伝導性炭素マトリックスをもたらし、その中には、個々の鉄原子が、電子供与体として、また4個の窒素原子により配位した鉄キレートとして吸着により結合されている。その論文は、キレート触媒材料の触媒活性が鉄含有量及び熱分解温度を手段として影響を受け得ることを示す。しかしながら、これは、とりわけ相対的に低い到達多孔度に基づいたあらゆる商業的用途に対し不十分である。更に、十分な安定性を達成することができない。その上、合成においては、遷移金属に加えて、マトリックス形成要素及びそこから分離される窒素供与体を使用することが必要である。
【0016】
WO 03/004156(US特許2004/0236157A1,H.Tributsch,P.Bogdanoff et al.)この特許は、チオ尿素、Coテトラメトキシフェニルポルフィリン(CoTMPP)(フタロシアニンではない)及びFeシュウ酸塩のブレンドの熱分解による非担持陰極触媒の調製を記載する。伝導性多孔質炭素材料を使用していない。チオ尿素は、触媒活性の有意な増加を与えるため、使用される。CoTMPPに対して大過剰のFeシュウ酸塩を用いるが、Fe2+は、活性Co−Nコアの電子供与体として作用し、シュウ酸塩は、熱分解時に気体を生成しながら分解するために発泡剤として使用され、このようにして、CoTMPP重合時のナノ細孔充填材料として作用する。従って、得られた非常に多孔質の炭素マトリックスは、インサイチューで形成され、活性表面の拡大による触媒活性の増大に貢献する。合成時にFeシュウ酸塩から生じるFeのほんの一部は、炭素マトリックスに結合したままであり、大部分は、炭素マトリックスのインサイチューでの生成時に、ナノ細孔形成充填材料としての機能を果たし、その形成後に、触媒調製方法の酸性処理(アルゴン下1N HCl中での30分間の沸騰)において洗い流される。この触媒は、従来の標準的なPt陰極触媒とほぼ同一の活性を示す。
【0017】
US 6245707 B1には、メタノールに耐性のある触媒材料及びその製造方法を提供することが記載されている。該触媒材料は、少なくとも二種類の異なる遷移金属含有窒素キレートを一緒に混合し熱処理することで得られた。窒素キレートは、遷移金属含有テトラフェニルポルフィン等の金属ポルフィンを含む。好ましい遷移金属は、鉄、コバルト、ニッケル、銅、マンガン、ルテニウム、バナジウム及び亜鉛であるが、白金又はパラジウム以外の遷移金属のいずれでもよい。該材料は、メタノールクロスオーバー後に燃料電池の陰極で起こり得るため、メタノール存在下での向上した触媒的酸素還元を提供する。
【0018】
Sawai,K.et al.Electrochem.75(2007)163は、不活性雰囲気下で遷移金属ヘキサシアノメタラート前駆体を熱処理することにより調製された、白金フリーの空気陰極担持触媒を開示する。浮き電極及び回転リングディスク電極技術を用いて、酸素還元の触媒活性を試験した。3d−遷移元素に基づいた幾つかのPtフリー触媒の中でも、コバルト又は銅を鉄と併せて含有する触媒が、酸素還元に対して高い活性を示し、銅及び鉄を含有する触媒は、酸素還元時での過酸化水素の生成が非常に少ないことを示した。
【0019】
還元に対する異なる金属大環状物の活性が、Zagal,J.H.;et al.“Linear versus volcano correlations between electrocatalytic activity and redox and electronic properties of metallophtalocyanines”,Electrochimica Acta 44[1998]1349−1357において比較された。Co(III)/Co(II)フタロシアニンについては、酸化還元電位が、フルオロ置換基の電子求引効果により、未置換CoPCと比べて、より正の値へシフトすることが観測された。
【0020】
熱分解時に形成される電解触媒中心の組成及び構造を決定するために、多くの努力をささげてきたが、幾つかの論争が依然として存在しており、熱分解材料の増大した活性及び安定性を説明するのに、多種多様な仮説が提案されてきた:
化学的表面官能基を有する非常に活性のある炭素の形成。この仮説では、遷移金属原子が増大した酸素還元能力に直接関与しないが、その代りに、非常に活性のある炭素表面の形成に触媒作用を及ぼす。
熱分解処理後でさえも金属−N4活性部位構造の保持。
主として熱処理大環状物から生じる残留窒素との相互作用を介した、遷移金属イオンを吸着する変性炭素表面の形成。
【0021】
上記のことを考慮すると、より性能の高い新規のPGMフリー触媒を利用できるようにする必要性が明らかであるといえる。本発明の目的は、触媒的ORRに有用なPGMの無い触媒、特にはアルカリ性及び酸性媒体中でのORR用陰極材料としてのアルコールに耐性のある触媒を提供することにあり、該触媒は、より優れた性能と、高い安定性及び活性とを有し、過酸化水素の発生が少ないことを示す。本発明の目的は、少なくとも代わりのPGMフリー触媒を提供することにある。
【発明の概要】
【0022】
本発明の目的は、FePCと、MePCと、硫黄及び窒素含有化合物と、電子伝導性多孔質炭素支持体とのブレンドを熱処理することで得られる担持触媒であり、ここで、MeはCo又はCuである。
【0023】
本発明の更なる目的は、上記担持触媒の調製方法であり、前記方法は、まず炭素支持体上に、金属PCsを硫黄及び窒素含有化合物と共に吸着させる工程と、次いで得られたブレンドを熱分解する工程とを含む。
【0024】
本発明の更なる目的は、触媒的ORRに対する前記触媒の使用である。
【0025】
本発明の触媒は、既知の出発物質の新規な組み合わせから得られる熱処理を受けたFe−Co又はFe−Cu含有担持触媒の新規なファミリーである。驚くべきことに、前記触媒は、酸性及びアルカリ性媒体双方においてORR触媒として非常に良好な性能を示した。
【0026】
本発明の他の利点を、以下、明細書中で報告する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に従う触媒の好適な調製方法を概略的に示す。
【図2】本発明のFe/Cu及びFe/Co触媒並びにPt/Cのアルカリ性媒体中でのRDEサイクリック・ボルタモグラムを示す。
【図3】電池内の抵抗による抵抗降下について補正した図2のデータを示す。
【図4】本発明のFe/Cu及びFe/Co触媒並びにPt/CについてのRDE試験におけるORR反応電流(kinetic current)を示す。
【図5】電池内の抵抗による抵抗降下について補正した図4のデータを示す。
【図6】本発明の触媒を用いた回転リングディスク電極分析から得られる過酸化物の生成を示す。
【図7】本発明のFe/Cu及びFe/Co触媒並びにPt/Cの酸性媒体中でのRDEサイクリック・ボルタモグラムを示す。
【図8】2.55MのEtOHの存在下での本発明の触媒及びPt/Cの選択性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(略語一覧)
DAFC 直接アルコール燃料電池
DOFC 直接酸化燃料電池
MCFC 溶融炭酸塩燃料電池
ORR 酸素還元反応
PAFC リン酸燃料電池
PC フタロシアニン
PEFC 高分子電解質燃料電池
PGM 白金族金属
RDE 回転ディスク電極
【0029】
本発明の触媒は、
a)式(I)
【化2】


[式中、MはFe2+又はFe3+であり、Rは水素又は電子求引性置換基であり、M=Fe3+である場合、対イオンXが存在する]で表されるFeフタロシアニン(PC)、
b)式(II)
【化3】


[式中、M’はCu2+又はCo2+であり、R’は、Rから独立して、水素又は電子求引性置換基である]で表される遷移金属フタロシアニン(金属−PC)、
c)窒素及び硫黄を含有する化合物、
d)電子伝導性多孔質炭素材料
を含むブレンドを熱処理することによって調製された。
【0030】
本発明によれば、熱処理は、PCsを最初に重合し、次いで部分的に熱分解するのに十分な温度及び時間で行われており、従って、熱処理は、例えば350〜900℃の範囲で少なくとも0.5時間である。熱処理は、必須の工程であり、該工程中に、触媒金属は、高表面積炭素支持体上に固定され及び/又は合金される。
【0031】
本発明に従う電子求引性置換基は、例えば、ハロゲン、−NO、−SOH、アルキルスルホニル、アリールスルホニル、−COOH、アルキルカルボキシル、シアニド、アルキルカルボニル、アリールカルボニルである。
【0032】
本発明に従う対イオンXは、例えば、クロリド、ブロミド、又はその他の一塩基酸の陰イオンである。
【0033】
本発明に従う窒素及び硫黄を含有する化合物c)は、硫黄の酸化状態が−2であり、チオ尿素、チオシアン酸アンモニウム、チオアセトアミド及びイソチオシアナート、並びにそれらの塩又は誘導体等である。
【0034】
本発明に従う電子伝導性多孔質炭素材料は、高表面積材料であり、例えば、ケッチェンブラック、バルカン(Vulcan)XC−72R及びアセチレンブラック等の導電性カーボンブラック;酸化剤で処理したインク用炭素、熱分解カーボン、天然グラファイト、人造グラファイトである。
【0035】
前記炭素支持体は、表面積が1200cm/gより高く;好ましくは、表面積が、1400cm/gと等しいか又はそれより高い。
【0036】
本発明によれば、選択された金属−PCとFePC間でのモル比は、好ましくは1.1〜1.4であり、より好ましくは1.2であり、前記有機化合物は、FePC+金属−PCに対して、0.4〜0.6のモル比に及び、好ましくは0.5のモル比である。炭素支持体は、2.0〜3.0g/FePCmmol、好ましくは2.5g/FePCmmolの量で混合物中に存在する。
【0037】
Fe−Cuの組み合わせが好ましい。
【0038】
多孔質炭素材料の中では、ケッチェンブラックが好ましく、有機化合物の中では、チオ尿素が好ましい。
【0039】
本発明によれば、前記触媒は、以下のプロセスに従って調製されることが好ましい:
・成分a、b、c及びdを有機溶媒中に分散させ、その結果得られるスラリーを最終的に超音波で分解する。
・その溶媒を蒸発により除去する。
・得られたブレンドに熱処理をかける。
・その後、最終生成物を集める。
【0040】
熱処理は、PCsを最初に重合し、次いで部分的に熱分解するのに十分な温度及び時間で行われ、従って、熱処理は、例えば、350〜900℃の範囲で、少なくとも0.5時間である。好適な実施態様においては、熱処理が、<500℃及びその後の>700℃という温度での連続的な二段階熱分解である。
【0041】
特に、前記二段階熱分解は、以下のようにして行われる:
1. 400〜450℃にて少なくとも0.5〜1時間の加熱
2. 750〜800℃にて少なくとも1.5〜2時間の加熱
【0042】
本発明によれば、前記スラリーを、攪拌しながら20〜25℃で12〜36時間置いておくのが好ましく、次いで、少なくとも30分間超音波で分解するのが好ましい。
【0043】
上記有機溶媒は、通常、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)の中から選択され;好ましくは、有機溶媒がエタノールであり、これにより、出発物質及びより高い性能を特徴とする最終的な触媒のより優れた分散を得ることが可能になる。更に、エタノールは、蒸発しやすく、容易に除去でき、毒性が無く、容易に入手できる。
【0044】
本発明の最も好適な実施態様によれば、上記触媒は、ケッチェンブラックと、モル比が1.1/1.2/1.0のチオ尿素/CoPC/FePCとからなる混合物、又はケッチェンブラックと、モル比が1.1/1.2/1.0のチオ尿素/CuPC/FePCとからなる混合物の二段階熱分解により調製された。ケッチェンブラックは、2.5g/FePCmmolの量で混合物中に存在する。
【0045】
本発明に従う触媒の調製方法は、図1の下で要約される。この方法は、ワンポット法であり、単純な操作で、信頼性があり、また大規模でも再現可能であることを特徴とする。それは、PCの金属錯体が他のN4−大環状金属錯体と比べてより容易に且つ安く入手できるため、安価な出発物質を採用する。
【0046】
本発明の触媒は、触媒的ORR用の陰極触媒として有利に使用され、特には酸性及びアルカリ性媒体両方の燃料電池に有用であることを見出し;その結果、過酸化水素発生が少なく、また当該技術分野において知られる他の触媒より優れた性能、安定性及び活性を有することを特徴とする。より高い性能は、標準的基準として使用される市販のPt/Cとの比較により、容易に気付くことができる。そのように得た本発明の新規の触媒、特にはFe−Cu触媒は、反応範囲(kinetic range)の全ての電位で、特にはアルカリ性媒体中で、Pt/C及び当該技術分野において知られるものよりも反応電流が高い。
【0047】
本発明の触媒は、アルコールに耐性があり、過酸化水素の発生が少ないことを特徴とする。
【実施例】
【0048】
(実験セクション)
金属−PC/FePC触媒の調製
FePC及び金属−PCを購入し、受け取ったものを用いた。
【0049】
EtOH300ml及びケッチェンブラックEC600JC20gr.のスラリーに、FePC7.9mmol、金属−PC9.6mmol、及びチオ尿素0.665gr.(8.75mmol)を激しく攪拌しながら加えた。その混合物を、1/2時間超音波で分解した後、室温で24時間攪拌した。
【0050】
溶媒を蒸発させ、そのようにして得た固体(約26.6gr.)を、石英管中、Arフラックス下、最初が450℃で1時間及び二番目が800℃で2時間の二段階熱分解工程で熱処理した。得られた最終生成物は、黒色粉末24〜27gである。
【0051】
上記手順に従って、以下の例証する触媒を調製した:

【0052】
そのようにして得たORR触媒を電気化学分析にかけた。
【0053】
アルカリ性媒体での電気化学分析:
触媒例1及び2並びに市販のVulcan XC−72R上の10%Ptについて、0.1MのKOH中で、電気化学分析を行った。Tokuyamaからのバインダー−イオノマー(A3,5wt%)を用い、全ての触媒について同一の処方で、インクを調製した。炭素に対するイオノマーの重量比は0.175であった。
【0054】
図2では、三つの触媒の回転ディスク電極サイクリック・ボルタモグラムを示す。使用した実際の参照電極は、飽和KCl中でのAg/AgClであり、Pt上での水素酸化還元反応(飽和水素溶液)を用いて較正した;較正は、実際のEAg/AgClとERHE間での変換についての方程式を与える(ERHE=EAg/AgCl+0.919V)。図2の曲線から、例1及び2の場合と同様に調製した触媒並びにPt/Cについての運動パラメータを得ることが可能である。表1は、酸素が飽和した0.1MのKOH中における触媒の実験パラメータ及びORR反応活性(kinetic activity)を示す。900mVvs.可逆水素電極でのパラメータjは、物質移動に対して補正した電流密度、即ち反応電流密度である。図3は、電池内での抵抗による抵抗降下を補正した後の図2のデータを示す。この補正は、触媒の絶対活量の増加をもたらす。
【0055】
【表1】

【0056】
表2は、電池内での抵抗降下の補正を考慮して、様々なデータ収集から取った活性パラメータを示す。収集した全データを用いて、活性に関する統計をいくつか得ることが可能である。補正は、電流に対して比例するため、より高い活性を持つ触媒に大きく影響を及ぼす。それは、Fe−Cu系触媒が、非補正の抵抗を補正した後にこれまで以上の活性になるが、Pt及びFe−Co系触媒は、活性がほとんど変化しないことを意味する。
【0057】
【表2】

【0058】
図4では、RDE反応電流に応じた電極電位を三つの触媒について示す。このプロットから、本発明の触媒は、同一の過電圧での市販のPt触媒と比べて、高い反応電流を与えることが明らかになる。図3の曲線グラフから、新規のFe/Cu系触媒の場合の反応電流に応じた過電圧減少をPt/Cに対して測定することが可能であり、2mA/mg触媒(0.66mA/cm)で10mVから10mA/mg触媒(3.3mA/cm)で45mV及び100mA/mg触媒(33mA/cm)で83mVの過電圧減少が得られる。Fe/Co系触媒の場合には、Pt/C触媒との比較で、2mA/mg触媒(0.66mA/cm)で10mVの過電圧増加と、10mA/mg触媒(3.3mA/cm)で20mV及び100mA/mg触媒(33mA/cm)で43mVの過電圧減少が得られる。
【0059】
図5では、図4のデータを測定電池内の抵抗による抵抗降下に対して補正する。補正は、触媒間での過電圧の変化を実質的に変えない。
【0060】
図6は、回転リングディスク電極分析から得られる過酸化物の生成を示す(0.33mgcat/cm、25℃、0.1M KOH、1600rpm、純O);それは、酸化物の生成が、Ptと比べてFe−Co系触媒がどれくらい多く、Fe−Cu系触媒がどれくらい少ないかを明らかにする。これは、耐久性の利点になるであろう。なぜなら、過酸化物は非常に反応性の高い種であり、触媒を適用した装置の構成要素、とりわけそこに存在する高分子膜に損害を与えることができる。
【0061】
酸性媒体での電気化学分析:
本発明の触媒の活性を、酸性媒体中で、Vulcan上のPt10wt%と比較して測定した。例1及び2において調製したFe−Cu系、Fe−Co系及び市販のVulcan XC−72R上の10wt%Ptに関し、0.1MのHSO中で、電気化学分析を行った。Nafionイオノマー(5wt%)を用い、全ての触媒について同一の処方で、インクを調製した。炭素に対するイオノマーの重量比は0.175であった。
【0062】
図7では、三つの触媒の回転ディスク電極サイクリック・ボルタモグラムを示す(O飽和電解液:0.1MのHSO;走査速度:5mVs−1;回転速度:1600rpm;電極面積:0.196cm)。使用した実際の参照電極は、飽和KCl中でのAg/AgClであり、Ptに関する水素酸化還元反応(飽和水素溶液)を用いて較正した;該較正は、実際のEAg/AgClとERHE間での変換のための方程式を与える(ERHE=EAg/AgCl+0.243V)。
【0063】
図7の曲線から、新規のFe−Cu系触媒、Fe−Co系触媒及びPt/C間での過電圧の差異を測定することが可能であり、Fe−Cuについては130mVの、Fe−Coについては160mVの過電圧増加が得られる。これは、酸性媒体中における最新技術の非貴金属触媒と比べて活性が良好な結果である(F.Jaouen et al.J.Phys Chem.B2003,107,1376)。
【0064】
図8では、2.55MのEtOHの存在下での触媒活性を示す(O飽和電解液:0.1MのHSO;走査速度:5mVs−1;回転速度:1600rpm;電極面積:0.196cm)。図8の曲線から、本発明の触媒と10wt%Pt/C間での選択性の差異が明らかとなる。2.55MのEtOHの存在下では、Pt触媒は、酸素飽和溶液におけるエタノール酸化反応に対して活性があるが、Fe−Co触媒は、Nが飽和した溶液において示されるように、エタノール酸化反応に対して完全に不活性である。
【0065】
本発明の非PGM触媒及び市販の10wt%Pt/Cについての拡散限界電流間での比較から、我々は、過酸化水素の生成が少なく、ヒドロキシドイオンへの完全な酸素還元経路(4電子機構)の強力な手掛かりをつかんだ;これは、拡散限界電流が、アルカリ性媒体及び酸性媒体の両方において、常に相互に近接するからであり、また、Ptが4電子を提供することは周知である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)式(I)
【化1】


[式中、MはFe2+又はFe3+であり、Rは水素又は電子求引性置換基であり、M=Fe3+である場合、対イオンXが存在する]で表されるFeフタロシアニン(PC)、
b)式(II)
【化2】


[式中、M’はCu2+又はCo2+であり、R’は、Rから独立して、水素又は電子求引性置換基である]で表される遷移金属フタロシアニン(金属−PC)、
c)窒素及び硫黄を含有する化合物、
d)電子伝導性多孔質炭素材料
を含むブレンドを熱処理することによって得られる触媒材料。
【請求項2】
成分a)及びb)は、R及びR’が、独立して、水素、又はハロゲン、−NO、−SOH、アルキルスルホニル、アリールスルホニル、−COOH、アルキルカルボキシル、シアニド、アルキルカルボニル及びアリールカルボニルの中から選択される電子求引性置換基であり、対イオンX(存在する場合)が、クロリド又はブロミドであり、
窒素及び硫黄を含有する有機化合物c)は、チオ尿素、チオシアン酸アンモニウム、チオアセトアミド、イソチオシアナート及びそれらの塩又は誘導体の中から選択されることを特徴とする請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
前記電子伝導性多孔質炭素材料d)が、ケッチェンブラック、バルカンXC−72R、アセチレンブラック、酸化剤で処理したインク用炭素、熱分解カーボン、天然グラファイト及び人造グラファイトの中から選択されることを特徴とする請求項2に記載の触媒。
【請求項4】
前記有機化合物c)がチオ尿素であり、
前記電子伝導性多孔質材料d)がケッチェンブラックであることを特徴とする請求項3に記載の触媒。
【請求項5】
選択された金属−PCとFePC間でのモル比が、1.1〜1.4の間であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の触媒。
【請求項6】
炭素支持体が、2.0〜3.0g/FePCmmolの量で存在し、有機化合物のモル比が、FePC+金属−PCに対して0.4〜0.6の範囲であることを特徴とする請求項5に記載の触媒。
【請求項7】
成分a、b、c及びdを有機溶媒中に分散させ、その結果得られるスラリーを最終的に超音波で分解する工程と、
その溶媒を蒸発により除去する工程と、
得られたブレンドに熱処理をかける工程と
その後、最終生成物を集める工程と
を備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の触媒材料の調製方法。
【請求項8】
前記熱処理が、以下のようにして行われる二段階熱分解であることを特徴とする請求項9に記載の方法。
1. 400〜450℃にて少なくとも0.5〜1時間の加熱
2. 750〜800℃にて少なくとも1.5〜2時間の加熱
【請求項9】
前記スラリーを、攪拌しながら20〜25℃で12〜36時間置いておき、次いで、少なくとも30分間超音波で分解し、
前記有機溶媒が、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、THF、DMF、及びDMAの中から選択されることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項10】
ケッチェンブラック2.5g/FePCmmolと、モル比が1.1/1.2/1.0のチオ尿素/金属−PC/FePCとの混合物からなり、請求項7〜9のいずれかに記載の二段階熱分解により調製されたことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の触媒材料。
【請求項11】
電気化学的装置の陰極で起こるORR用の触媒としての請求項1〜6及び10のいずれかに記載の触媒の使用。
【請求項12】
ORRが、アルカリ性媒体中で起こることを特徴とする請求項11に記載の触媒の使用。
【請求項13】
前記電気化学的装置が、陰イオン交換膜燃料電池又はアルカリ金属−空気電池であることを特徴とする請求項12に記載の触媒の使用。
【請求項14】
ORRが、酸性媒体中で起こることを特徴とする請求項11に記載の触媒の使用。
【請求項15】
前記電気化学的装置が、プロトン交換膜燃料電池であることを特徴とする請求項12に記載の触媒の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2011−516254(P2011−516254A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−503413(P2011−503413)
【出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【国際出願番号】PCT/EP2009/054083
【国際公開番号】WO2009/124905
【国際公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(507006260)アクタ ソシエタ ペル アチオニ (6)
【Fターム(参考)】