説明

高感度FRETセンサーの開発およびその使用方法

分子内バイオセンサーが開示され、例えば、PBPに基づくバイオセンサーが挙げられ、これはリガンドの結合に際して蛍光共鳴エネルギー移動の検出および測定を可能にするドナーおよび蛍光部分に融合したリガンド結合ドメインを含む。ドナーおよび蛍光部分の少なくとも一方は、内部的に融合したフルオロフォアの両方の端が固定されるように内部的にバイオセンサーに融合し得る。さらに、末端に融合したバイオセンサーの感度の向上方法が提供される。本発明のバイオセンサーはインビボおよび培養中のリガンドの検出および定量に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願とのクロスリファレンス
本出願は、2004年10月14日出願の米国仮特許出願第60/618,179号、2005年1月14日出願の米国仮特許出願第60/643,576号、2005年2月22日出願の米国仮特許出願第60/654,447号、および2005年3月4日出願の米国仮特許出願第60/658,141号からの優先権を享受し、これらはその内容全体を引用により本明細書に含める。
【0002】
本出願はまた、仮特許出願第60/658,142号、仮特許出願第60/657,702号、PCT出願 [代理人整理番号056100-5053、“Phosphate Biosensors and Methods of Using the Same”]、PCT出願 [代理人整理番号056100-5054、“Methods of Reducing Repeat-Induced Silencing of Transgene Expression and Improved Fluorescent Biosensors”]、およびPCT出願 [代理人整理番号056100-5055、“Sucrose Biosensors and Methods of Using the Same”]にも関連し、これらはその内容全体を引用により本明細書に含める。
【0003】
連邦政府助成研究または開発に関する記述
本発明は2つの助成金から援助を受けており、それは、Duke University からのNIH 下請 (下請番号 SPSID 126632)および人間生体メカニズム解明計画助成金(契約番号 RGP0041/2004C)を含む。したがって、米国政府は本発明に対する一定の権利を有する。
【0004】
発明の分野
本発明は一般に分子生物学およびメタボロミクスの分野に関する。より具体的には、本発明はリガンド結合を分子内蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を用いて測定および検出するためのバイオセンサーおよび方法に関する。
【背景技術】
【0005】
発明の背景
本明細書中のすべての刊行物および特許出願は、個々の刊行物または特許出願が具体的かつ個別的に引用により明示されている程度に引用により本明細書にその内容を含める。
【0006】
本明細書に記載する刊行物は本出願の出願日より前のその開示を単に提供するものである。いかなる開示も本発明は以前の発明によりかかる刊行物から予測されるということを認めると解釈してはならない。
【0007】
メタボロミクスの分野は、細胞または生物学的システムに関係する代謝的および生化学的事象に注目している。メタボロミクスは、定常状態の細胞または生物の生理的状態ならびに細胞または生物の遺伝的および環境的変調に対する動的応答を描くことを望んでいる。メタボロミクス手段は、疾患状態の検出、疾患の進行および治療に対する患者の応答のモニタリング、生化学的プロファイルに基づく患者の分類およびドラッグデザインのための標的の同定を可能とする。
【0008】
理想的なメタボロミクス手段は生理的環境中での目的の特定の分子種の濃度を明らかにするものである。それによると器官、組織または細胞によってその濃度がどのように変化しているのかを可視化することが可能になる。それによると代謝産物レベルおよび環境刺激に応答した代謝産物レベルの変化の検出が可能となり、かかる変化をリアルタイムでモニターすることも可能となる。様々なかかる手段の使用により、分析対象の構造および機能的クラスが異なっていても、複数の分析対象が同時に測定できるようになるはずである。
【0009】
現在入手可能な技術のなかには、満足できる程度にかかる問題のすべてを解決できるものは存在しない。非水分画(Non-aqueous fractionation)は静的、侵襲的であり、細胞分解能を有さず、人為現象に影響を受けやすく、一方、分光学的方法、例えば、NMRi (核磁気共鳴画像法)およびPET (陽電子放出断層撮影)は動的データを提供するが、空間分解能に劣る。標的分子と認識要素との相互作用を、1以上のシグナル伝達要素のアロステリック制御を介して、肉眼で観察できる形式に変換する遺伝的にコードされた分子センサーの開発は、かかる目的のいくつかの解決を促進しうる。
【0010】
分子センサーにもっともよく用いられているレポーター要素は立体的に離れている蛍光タンパク質のドナー-アクセプター FRET 対であるが(GFP スペクトル変異体またはその他のもの) (Fehr et al.、2002、Proc. Natl. Acad. Sci USA 99: 9846-51)、単一の蛍光タンパク質(Doi and Yanagawa、1999、FEBS Lett. 453: 305-7)、酵素(Guntas and Ostermeier、2004、J. Mol. Biol. 336: 263-73)および生物発光分子(Xu et al.、1999、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96: 151-56)も同様に用いられている。FRET (蛍光共鳴エネルギー移動)とは、蛍光ドナーおよび対応するアクセプターからなる所与の発色団の対の間の量子力学的効果をいう。FRETに必要なのは、ドナーとアクセプターとが近接していること、および、ドナー発光スペクトルとアクセプター励起スペクトルとがオーバーラップしていることである。ドナーとアクセプターとが十分に近接している場合、励起されたドナーの発光は低下し、増感されたアクセプターの発光が上昇する (Fehr et al.、2004、Current Opinion in Plant Biology 7: 345-51を参照、これはその内容全体を引用により本明細書に含める)。
【0011】
バイオセンサーにより用いられるFRETには一般に2つのタイプがある: 分子間および分子内FRET である(Truong and Ikura、2001、Current Opinion in Structural Biology 11: 573-78、これはその内容全体を引用により本明細書に含める)。分子間 FRETは蛍光ドナーおよびアクセプター分子が異なる巨大分子上にある場合に起こる。この形態のFRETは 、アクセプター対ドナーの化学量論が、トランスフェクション効率および発現レベルにより変動しうるため、定量が困難である。しかし、分子間 FRETのいくつかの例が報告されている (概説として、 Truong and Ikura、2001; およびWouters et al.、2001、TRENDS in Cell Biol. 11(5): 203-11を参照されたい)。
【0012】
分子内 FRETはドナーおよびアクセプター分子の両方が同じ分子に融合している場合に起こる。このタイプのセンサーにおいては、結合ドメインは、代謝産物の結合をFRETの変化に翻訳するのに十分に大きな高次構造変化を経なければならない。理想的には、センサーファミリーは類似の三次元構造を共有すべきであるが、広範な基質をカバーするよう異なる基質特異性を有するべきである。さらに、ナノモル範囲における超高親和性結合により、部位特異的突然変異誘発により様々な生理的検出範囲のための突然変異体「ナノセンサー」の操作が促進されうる。
【0013】
分子センサーのなかにはさらに、結合の際のアロステリック効果およびその結果としてのレポーター要素の出力を拡大するために (即ち、Miyakawa et al.、1997、Nature 388: 882-87)、高次構造アクチュエータ (もっとも一般的には認識要素の一つの高次構造状態に結合するペプチド)を用いるものもある。高次構造アクチュエータの非存在下における方法の適用性、および様々な分析対象へのその一般化可能性が 、細菌周辺質結合タンパク質(PBP)を用いて最近示された (Fehr et al.、2002; Fehr et al.、2003、J. Biol. Chem. 278: 19127-33; およびLager et al.、2003、FEBS Lett. 553: 85-9)。
【0014】
細菌 PBP スーパーファミリーのメンバーは、何百もの基質を高親和性 (アトモルから低マイクロモル)および高特異性 (Tam and Saier、1993、Microbiol. Rev. 57: 320-46)にて認識する。PBPは様々な実験技術によって、リガンド結合に際して顕著な高次構造変化を経ることが示されている。個々の糖結合 PBPと一対の GFP 変異体との融合により、マルトース、リボースおよびグルコースに対するセンサーが作れらた (Fehr et al.、2002; Fehr et al.、2003;およびLager et al.、2003)。さらに、PBPは基質にナノモル範囲の親和性にて結合する (Fehr et al.、2004)。したがって、PBPは理想的なバイオセンサーに重要な多くの基準を満たす。かかるセンサーを用いて生きた動物細胞における糖取り込みおよび恒常性が測定され、細胞内の分析対象レベルが核標的化バージョンを用いて測定された(Fehr et al.、2004、J. Fluoresc. 14: 603-9)。
【0015】
分子内バイオセンサーは典型的には、ドナーおよびアクセプター蛍光分子をそれぞれ、基質結合に際して2つの葉(lobe)がハエジゴクの様に閉じる、センサードメインのアミノおよびカルボキシ末端部分に融合させることにより設計される (例えば、Fehr et al、2002; Fehr et al.、2003; Lager et al.、2003;およびTruong and Ikura、2001を参照されたい)。細菌 PBPは2つの球状ドメインを含み、FRET センサーの設計のための便利な足場である(Fehr et al.、2003)。結合部位はドメインの間の間隙に位置し、結合すると、2つのドメインが基質を飲み込み、ヒンジ-捻れ運動(hinge-twist motion)を行う(Quiocho and Ledvina、1996、Mol. Microbiol. 20: 1725)。
【0016】
PBPは中央のβ-シートの形態的配置および末端の位置の違いに応じて2つのタイプに分けられる(Fukami-Kobayashi et al.、1999、 J. Mol. Biol. 286: 279290)。マルトース結合タンパク質 (MBP)はII型結合タンパク質であり、その末端はヒンジ領域と比べて葉の遠位の末端に位置している。結合状態および非結合状態の結晶構造の比較により、ヒンジ-捻れ運動は末端を互いに近接させることが示される。マルトースセンサーの場合においては、予測されるように、マルトース結合による距離の低下により、結合させた発色団の間のFRETは上昇する (Fehr et al.、2002)。
【0017】
GGBP (D-ガラクトースD-グルコース結合タンパク質) (I型PBP)においては、末端は2つの葉の近位の端に位置している(Fehr et al.、2004)。したがって、発色団の位置の相違により、基質に誘導されるヒンジ-捻れ運動は結合した発色団をさらに遠くに離すように動き、FRETを低下させると予測される。それにもかかわらず、I型PBP、例えば、 GGBPを用いて、末端に融合したドナーおよびアクセプターフルオロフォアを含む効率的なFRET バイオセンサーが構築されてきた (Fehr et al.、2003)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明者らはこのたび、驚くべきことに、リガンド結合タンパク質の内部部分に蛍光ドメインを融合させたところ、それらがPBP センサーの同一の葉にある場合でさえ、その末端に融合した対応物と比較して同様のリガンド親和性および有意に大きいデルタ比を示す有効なバイオセンサーの設計が可能となることを見いだした。これは、ドナーおよびアクセプター分子をタンパク質の別々の葉にある離れた末端に融合させて、リガンド結合の際のドナーおよびアクセプター発色団の配向および/または距離の変化を最大にするという、分子内 FRET センサーについての一般モデルの観点からは経験に反したものである。
【0019】
かかるセンサーからのシグナルの向上は硬直性(rigidity)の向上、したがって回転性の平均化(rotational averaging)の低下に起因し得る。本発明はしたがって、 本明細書に開示するように、より強剛に結合したレポーターを用いることにより、センサーを改変する代替のアプローチを導く。硬直性を向上させ回転性の平均化を低下させるために、本発明者らは、3つの構成パートナーのコア構造に属さない残基に対応する融合タンパク質の部分を欠失させた。即ち、融合部位のリンカー配列を除き、3つのモジュールのいずれかのN-またはC-末端部分を欠失させた。リガンド結合タンパク質の内部部分に蛍光ドメインを融合させたセンサーについて得られた観察と一致して、増強した末端に融合したセンサーもまた、FRET 比変化のかなりの上昇を示した。
【課題を解決するための手段】
【0020】
発明の概要
本発明はそれゆえ、分析対象濃度の変化の検出および測定のための改変された分子内バイオセンサーおよびナノセンサーを提供し、特にトランスポーターバイオセンサーおよび細菌周辺質結合タンパク質(PBP)を用いて構築されたバイオセンサーを提供する。具体的には、本発明は、少なくとも1つの内部的に融合したフルオロフォア部分を含む分子内バイオセンサー、ならびに、硬直性が向上したフルオロフォアをコードするFRET 融合コンストラクトを提供する。
【0021】
例えば、本発明は、リガンド結合タンパク質部分を含むリガンド結合蛍光指標をコードする単離核酸を提供し、ここで、リガンド結合タンパク質部分はドナーフルオロフォア部分およびアクセプターフルオロフォア部分に遺伝的に融合しており、ドナー部分とアクセプター部分との間の蛍光共鳴エネルギー移動 (FRET)が、ドナー部分が励起され、リガンドがリガンド結合タンパク質部分に結合すると変化し、そして該ドナーフルオロフォア部分または該アクセプターフルオロフォア部分の少なくとも1方が該リガンド結合タンパク質部分に該リガンド結合タンパク質部分の内部部位において融合している。とりわけ一つの態様において、ドナーおよびクセプターフルオロフォア部分は蛍光タンパク質である。
【0022】
本発明はまた、末端的および内部的に融合したバイオセンサーを含む分子内バイオセンサーの感度を向上させる方法も提供する。例えば、かかる方法は以下の工程を含みうる:(a)リガンド結合タンパク質部分、および該リガンド結合タンパク質部分にそれぞれ融合したドナーおよびアクセプター蛍光タンパク質部分を含む分子内 FRET バイオセンサーを提供する工程、ここでドナー部分とアクセプター部分との間の蛍光共鳴エネルギー移動 (FRET)は、ドナー部分が励起され、 該リガンドがリガンド結合タンパク質部分に結合すると変化する; および(b)フルオロフォアおよびリガンド結合部分の間の融合ドメインを改変または変更する工程、ここで該改変により、該改変を有さない該バイオセンサーと比較して感度が向上した分子内 FRET バイオセンサーが生じる。該改変はフルオロフォア結合の硬直性を上昇させるアミノ酸欠失、挿入または突然変異であり得る。本発明はまた、かかる方法によって得られる核酸コンストラクトも含む。
【0023】
本発明の核酸を含むベクター、例えば、発現ベクターおよび宿主細胞も提供され、また、該核酸によりコードされるバイオセンサータンパク質も提供される。かかる核酸、ベクター、宿主細胞およびタンパク質は、分析対象レベルの変化の検出方法、およびリガンド結合を調節する化合物の同定方法に使用することができる。
【0024】
図面の簡単な説明
図 1. 末端に融合したフルオロフォアを含む大腸菌 (AおよびB)および神経細胞培養物 (CおよびD) における発現に用いたYbeJ FLIP-E ナノセンサーコンストラクト。
【0025】
図 2.3種類のグルタミン酸濃度でのFLIP-E 600n センサー (グルタミン酸に対するKdが600 nMである蛍光グルタミン酸ナノセンサー)のスペクトル: 0 mM (黒)、Kd 値の濃度(青)、および飽和濃度(赤)。これら曲線は520nmの等吸収点を共有する。
【0026】
図 3. 1 mg/ml トリプシンで処理された海馬細胞。画像(A-D)は10 秒間隔で取得した。細胞表面上のシグナルが大きく消滅していることに注目されたい。
【0027】
図 4. FLIP-E 600n センサーを発現する海馬細胞における発光強度比変化。画像は発光強度比変化を示すために疑似カラー表示している。グラフ (A)の上の白いバーは処理(刺激 /グルタミン酸の灌流)の時点を示す。矢印で示す時点での比画像(ratio image)をパネル(B)、a〜iに示す。発光強度比の変化が、電気的刺激とグルタミン酸の灌流との両方において観察された。比変化は低レベルの基質 (10 nM グルタミン酸)での灌流では観察されなかった。
【0028】
図 5. FLIP-E 10μ センサー(グルタミン酸に対するKdが10 μMである蛍光グルタミン酸ナノセンサー)を発現する海馬細胞における発光強度比変化。グラフ (A)の上の白いバーは、処理 (刺激 / グルタミン酸の灌流)の時点を示す。矢印で示す時点での比画像をパネル(B)、a〜gに示す。電気的刺激によっては発光強度比に大きい変化は起こらなかったが、100 μM グルタミン酸での灌流によると可逆的な比変化が引き起こされた (パネル (B)、c およびe)。
【0029】
図 6. eCFPについての挿入部位を示す内部的に融合した pRSETB FLIP-E ナノセンサー コンストラクト(Aおよび B) 。
【0030】
図 7.グルタミン酸の存在下および非存在下でのFLIP-E 600nの発光強度を比較するグラフ(A)およびグルタミン酸の存在下および非存在下でのFLIP-E-内部的融合(internally-fused)の発光強度を比較するグラフ(B)。
【0031】
図 8. cpVenusについての挿入部位を示す内部的に融合した pRSETB FLIP-E 600n A216-cpVenus-K217 コンストラクト (A およびB)。
【0032】
図 9.グルタミン酸の存在下および非存在下での内部的に融合した FLIP-E 600n A216-cpVenus-K217の発光強度。
【0033】
図 10.内部的に融合したグルコースナノセンサーの比変化(A)および規準化した比変化 (B)を示すグラフ。
【0034】
図 11. グルコースナノセンサーの滴定曲線 (A、C、E、G、I、K、M)およびスペクトル (B、D、F、H、J、L、N)を示すグラフ。
【0035】
図 12.グルコースの非存在下での出発比と規準化した比変化との間の相関を示す図。
【0036】
図 13. FLIPglu 600μのコード配列において構築された様々な欠失および得られた対応するデルタ比を示す図表。
【0037】
図 14. FLII12Pglu-600μおよびFLII275Pglu-4.6m 欠失センサーの構築。N-末端 ECFP コアは青い箱で示す。ECFPの不要なC-末端配列を青い下線で示す。KpnI 制限酵素認識部位を含む可動性リンカーを黒で示す。mglB コアを赤い箱で示し、mglBの不要なC-末端残基を赤い下線で示す。EYFP コアを黄色い箱で示し、不要な N-末端残基を黄色の下線で示す。コンストラクト名は左に示す。
【0038】
図 15. FLII12Pglu-600μ 欠失コンストラクトの、 MOPS バッファー pH 7.0中のΔ比(赤)、欠失アミノ酸残基数および親和性 (Kd、μM)の間の相関。
【0039】
図 16.細胞培養溶液、合成細胞質ゾルおよびpHに対するFLII12Pglu-600μ 欠失コンストラクトの感受性。 MOPS pH 7.0 (黒)、ハンクスバッファー pH 7.2 (赤)、哺乳類細胞質ゾル pH 7.4 (青)、植物細胞質ゾル pH 7.5 (緑)およびMOPS pH 5.0 (紫)中でのFLII12Pglu-600μ 欠失コンストラクトのΔ比の比較。FLII12Pglu-10aa、FLII12Pglu-14aa、FLII12Pglu-15aa およびFLII12Pglu δ6は異なるバッファーおよび低pHにより最も影響を受けにくいセンサーであることが理解される。
【0040】
図 17.3つの分子内グルコースセンサーのコンストラクトを示す図表: FLII12Pglu-600μ; FLII12Pglu δ4aa-593μ、およびFLII275Pglu-4600μ。
【0041】
図 18. pc DNA3.1中のFLIP コンストラクトを示す図表。
【0042】
図 19. 改良グルコースセンサーで形質転換されたNIH3T3 細胞において観察されたFRET変化。(A)FLII12Pglu-600μ、(B) FLII12Pglu δ4aa-593μおよび(C) FLII275Pglu-4600μを一過性に細胞質ゾルに発現するNIH3T3-L1 細胞の灌流。バーは、灌流バッファー中の10mM グルコースの存在を示す。
【0043】
発明の詳細な説明
以下の記載は本発明の理解に有用であり得る情報を含む。本明細書により提供される情報はいずれも従来技術であるとも本願請求項の発明と関連するものとも認めるものではなく、明示的または黙示的に引用するいずれの刊行物も従来技術であると認めるものではない。
【0044】
本発明のその他の目的、利点および特徴が本出願において提供する明細書および図面をみることにより当業者に明らかとなる。したがって、本発明のさらなる目的および利点は以下の記載から明らかであろう。
【0045】
内部的に融合した(internally fused)分子内バイオセンサー
上記のように、本発明者らは驚くべきことに、リガンド結合タンパク質の内部部分への蛍光ドメインの融合が、PBP センサーの同じ葉の中にある場合でも、その末端に融合した対応物と同様のリガンド親和性および対応物に比較して有意に大きいデルタ比を示す有効なバイオセンサーの設計を可能にするということを見いだした。これはドナーおよびアクセプター分子が、リガンド結合の際にドナーおよびアクセプター発色団の配向および/または距離の変化を最大にするために、タンパク質の別々の葉にある末端に典型的に融合される分子内 FRET センサーの一般的モデルの視点に反するものである。
【0046】
いかなる具体的理論に拘束されるつもりはなく、本発明者らは回転運動がFRETにおいて鍵となる役割を果たすという予測を支持するデータを信じている。双極子は、有効な共鳴エネルギー移動のために互いに特定の位置に配向しなければならない。しかし末端に融合したドナーおよびアクセプター部分では、一般に3つの部分の間のリンカーにおけるペプチド結合は自由に回転し、したがってこのパラメーターを、立体適合性の円錐内でランダムにすると考えられる。蛍光部分をPBPの内部部分に挿入することにより、リンカー配列におけるペプチド軸のまわりのフルオロフォアの自由回転または制限付き自由回転が妨げられるか、あるいは大幅に低減する。したがって、内部融合(internal fusion)においては、蛍光部分は両方の末端にて強固に挿入され、それによって自由回転が減少し、観察されるデルタ比が高いことがおそらく説明される。あるいは、より強固に融合した発色団は、結合タンパク質の高次構造変化と発色団の運動との間のアロステリックカップリング(allosteric coupling)の増強を可能とする。
【0047】
したがって、本発明のバイオセンサーは、その末端に融合した対応物と比較して驚くべきことに増強した活性を示す。さらに、ある場合には、内部的に融合したドナーおよびアクセプター分子により、リガンド結合の際のFRETの低下により典型的に作動するセンサー、例えば、 GGBP センサーを用いる、リガンド結合の際のFRET上昇の測定が可能となる。したがって、FRET 変化の方向は、内部的に融合したドナーおよび/またはアクセプター部分を用いることにより、末端に融合した対応物と比較して、変化させることが可能である。
【0048】
本発明は、リガンド結合蛍光指標をコードする単離核酸も含む。本発明による単離核酸はリガンド結合タンパク質部分、リガンド結合タンパク質部分に融合したドナーフルオロフォア部分、およびリガンド結合タンパク質部分に融合したアクセプターフルオロフォア部分を含む指標をコードし、ここでドナー部分とアクセプター部分との間の蛍光共鳴エネルギー移動 (FRET)が、ドナー部分が励起され、 該リガンドがリガンド結合タンパク質部分に結合すると変化し、該ドナーフルオロフォア部分および/または該アクセプターフルオロフォア部分の少なくとも一方または両方が、該リガンド結合タンパク質部分の内部部位にて該リガンド結合タンパク質部分に融合している。
【0049】
ドナーフルオロフォア部分またはアクセプターフルオロフォア部分のいずれか一方または両方を該リガンド結合タンパク質部分の内部部位に融合させてもよい。ドナーおよびアクセプター部分は同じタンパク質ドメインまたは葉に含まれていてもよいが、好ましくは、ドナーおよびアクセプター部分はタンデムには融合してはいない。ドメインとは特定の機能を果たすタンパク質の部分であり、典型的には少なくとも約 40〜約 50アミノ酸の長さである。複数のタンパク質ドメインが一つのタンパク質に含まれていてもよい。本発明による「リガンド結合タンパク質部分」は、完全に、天然のタンパク質配列であってもよいし、あるいはその少なくとも1以上のリガンド結合部分であってもよい。好ましい態様において、とりわけ、本発明のリガンド結合部分は少なくとも 約 40〜約 50 アミノ酸長、または少なくとも 約 50〜約 100 アミノ酸長、または約 100を超えるアミノ酸長である。
【0050】
FRET バイオセンサーの感受性を向上させる方法
上記のように、本発明はまた、末端および内部的に融合したバイオセンサーを含む分子内バイオセンサーの感受性を向上させる方法も提供する。例えば、かかる方法は以下の工程を含みうる:(a)リガンド結合タンパク質部分、および該リガンド結合タンパク質部分の2つの末端にそれぞれ融合したドナーおよびアクセプター蛍光タンパク質部分を含む分子内 FRET バイオセンサーを提供する工程、ここでドナー部分とアクセプター部分との間の蛍光共鳴エネルギー移動 (FRET)が、ドナー部分が励起され、該リガンドがリガンド結合タンパク質部分に結合すると、変化する;および(b)フルオロフォアとリガンド結合部分との間の融合ドメインを改変または変更する工程、ここで該改変により、該改変を施さない該バイオセンサーと比較して分子内 FRET バイオセンサーの感受性が向上する。改変は、フルオロフォア結合の強剛性を上昇させるリンカー、フルオロフォアまたはリガンド結合ドメインからの1以上のアミノ酸の欠失、挿入または突然変異であり得る。
【0051】
FRET バイオセンサーの感受性を向上させる開示された方法は、内部的に融合したFRET センサーに関する本発明者らの観察に基づく。フルオロフォアの分子内挿入における回転性の平均化(rotational avaraging)の低下が、高い比変化を有するセンサーの開発の一般戦略であることがわかったため、本発明者らは、分析対象結合ドメインとフルオロフォアとの間の結合の回転自由を制限することにより、同様の結果が得られると仮定した。この仮定を試験するために、本発明者らは、系統的に、結合ドメインおよびフルオロフォアのコアタンパク質構造を連結する配列を除去した。即ち、それはリンカー配列の除去および/または分析対象結合部分および/またはフルオロフォアの末端からのアミノ酸の欠失により行った。本発明者らはかかる欠失により達成されるより近い結合(coupling)もまた、より高い比変化を導くことを見いだした。この概念はグルコース結合コンストラクトについて本明細書中で例証するが、これはあらゆるFRETに基づくバイオセンサーに適用可能である。
【0052】
好ましくは、欠失は、リンカーまたはフルオロフォアまたはリガンド結合ドメインをコードする領域に位置する該分子内 FRET バイオセンサーをコードする核酸コンストラクト中の少なくとも1、または少なくとも2、または少なくとも3、または少なくとも4、または少なくとも5、または少なくとも8、または少なくとも10、または少なくとも15 ヌクレオチドを欠失させることにより行う。異なる領域における欠失を単一のコンストラクトにおいて組み合わせて強剛性の上昇を示す2以上の領域を作成してもよい。アミノ酸はまた、バイオセンサーの強剛性を上昇させ、感受性を向上させるために、付加または突然変異させてもよい。例えば、プロリン残基またはその他の好適なアミノ酸の付加により捻れを導入することにより、 それを行うことが出来る。向上した感受性はリガンド結合の際のFRET 蛍光における比変化により測定され、好ましくは該欠失の結果、少なくとも2倍上昇する。
【0053】
本発明はまたかかる方法により産生される核酸コンストラクトならびに本明細書に記載の核酸を含むベクターおよび細胞を包含する。核酸コンストラクトによってコードされるFRET バイオセンサーもまた包含される。
【0054】
リガンド結合部分
本発明による好ましいリガンド結合タンパク質部分はとりわけ、トランスポータータンパク質およびそのリガンド結合配列であり、例えばチャンネル、単輸送体、共輸送体(coporter)および逆輸送体からなる群から選択されるトランスポーターが挙げられる。また好ましいものは、周辺質結合タンパク質(PBP)、例えば、 以下の表1に含まれるあらゆる細菌 PBPである。上記のように、細菌 PBPは2つの球状ドメインまたは葉を含み、FRET センサーの設計に便利な足場である(Fehr et al.、2003)。結合部位はドメインの間の間隙に位置し、結合すると、2つのドメインが基質を飲み込み、ヒンジ-捻れ運動が起こる(Quiocho and Ledvina、1996、Mol. Microbiol. 20: 1725)。 I型PBP、例えば、GGBP (D-ガラクトースD-グルコース 結合タンパク質)においては、末端はリガンド結合の際に動いて離れる2つの葉の近位の末端に位置している (Fehr et al.、2004)。II型 PBP、例えば、 マルトース 結合タンパク質 (MBP)においては、末端はヒンジ領域と比較して葉の遠位の末端に位置しており、リガンド結合の際に互いに近づく。したがって、PBPの型および/または内部的に融合したドナーまたはアクセプター部分の位置に応じて、FRETはリガンド結合の際に上昇または低下し得、その両方の場合が本発明に含まれる。
【0055】
【表1−1】

【表1−2】

【表1−3】

【表1−4】

【表1−5】

【0056】
細菌 PBPは様々な異なる分子および栄養素に結合する能力を有し、かかる分子および栄養素としては、表1に示すように糖、アミノ酸、ビタミン、ミネラル、イオン、金属およびペプチドが挙げられる。したがって、PBPに基づくリガンド結合センサーは本発明の方法にしたがってこれら分子のいずれの検出および定量を可能にするように設計してもよい。測定可能なリガンド結合機能を維持する部位特異的突然変異、欠失または挿入を含む人工的に操作された変異体に加えて、表1に挙げるPBPの天然の種変異体も用いることが出来る。本発明の核酸コンストラクトにおける使用に好適な変異体核酸配列は好ましくは所与のPBPのネイティブな遺伝子配列に対して少なくとも 70、75、80、85、90、95、または99%の類似性または同一性を有するであろう。
【0057】
好適な変異体核酸配列はまた、高度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でPBP遺伝子にハイブリダイズしうる。高度にストリンジェントな条件は当該技術分野において知られている;例えば、 Maniatis et al.、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、2d Edition、1989、およびShort Protocols in Molecular Biology、ed. Ausubel、et al.を参照されたい:これらはいずれも引用により本明細書に含める。ストリンジェントな条件は配列に依存し、異なる環境では異なるものとなろう。より長い配列はより高い温度で特異的にハイブリダイズする。核酸のハイブリダイゼーションについての詳細な説明は、Tijssen、Techniques in Biochemistry and Molecular Biology--Hybridyzation with Nucleic Acid Probes、"Overview of principles of Hybridyzation and the strategy of nucleic acid assays" (1993)にみられる。一般に、ストリンジェントな条件は規定されたイオン強度およびpHにおける特定の配列についての熱融解温度 (Tm)よりも約 5-10℃低くなるよう選択する。 (規定されたイオン強度、pHおよび核酸濃度における) Tmは、標的に相補的なプローブの50%が平衡状態で標的配列にハイブリダイズする温度である(Tm において標的配列が過剰に存在する場合、プローブの50%が平衡状態で占有される)。ストリンジェントな条件は、塩濃度が約 1.0M未満のナトリウムイオン、典型的には約 0.01〜1.0Mのナトリウムイオン濃度 (またはその他の塩)、pH 7.0 〜 8.3、そして短いプローブ(例えば、10〜 50 ヌクレオチオド)については少なくとも 約 30℃の温度、長いプローブ(例えば、50を超えるヌクレオチオド)については少なくとも 約 60℃の温度であろう。ストリンジェントな条件はまた、脱安定化剤、例えば、ホルムアミドを添加して達成してもよい。
【0058】
本発明の好ましいバイオセンサーは、とりわけ、YbeJ 結合ドメインを用いて構築されたグルタミン酸センサー、およびその他のアミノ酸バイオセンサーを含む。かかるタンパク質は、蛍光共鳴エネルギー移動 (FRET)を用いて神経伝達物質濃度における変化を検出および測定するための神経伝達物質バイオセンサーとして利用できる(米国仮出願第60/618,179号を参照されたい、これはその内容全体を引用により本明細書に含める)。神経伝達物質として作用する物質の3つの主なカテゴリーは以下の通りである:(1) アミノ酸 (主にグルタミン酸(glutamic acid またはglutamate)、GABA、アスパラギン酸およびグリシン)、(2) ペプチド(バソプレッシン、ソマトスタチン、ニューロテンシン等) および (3) モノアミン (ノルエピネフリン、ドーパミンおよびセロトニン)ならびにアセチルコリン。具体的には、本発明は、グルタミン酸結合蛍光指標、特に、大腸菌グルタミン酸/アスパラギン酸受容体であるYbeJ由来のグルタミン酸結合タンパク質部分を含む指標を提供する。上記の神経伝達物質についてのさらなる神経伝達物質バイオセンサーも本明細書において提供するコンストラクトおよび方法を用いて調製することが出来る。
【0059】
YbeJは当該技術分野においてYzzKおよびGltIとしても知られており、その DNA 配列 (配列番号27)およびタンパク質配列 (YbeJ、タンパク質受入番号 NP_415188、配列番号28) は既知である。配列番号1および2はそれぞれYbeJの別の核酸およびタンパク質配列を提供し、これらは全長タンパク質の一部であり得るさらなる上流の要素(material)を含む。他の細菌種からの天然のホモログも用いることが出来、例えば緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa )由来のPA5082遺伝子が挙げられ、その遺伝子産物は大腸菌由来のYbeJ タンパク質と70% 類似する。グルタミン酸結合領域をコードするYbeJ DNA 配列のいずれの部分も本発明の核酸において用いることが出来る。YbeJまたはそのいずれかのホモログのグルタミン酸結合部分を本明細書に記載するベクターにクローニングし、開示するアッセイにしたがって活性についてスクリーニングすればよい。
【0060】
例えば、本発明の核酸における使用に好適な1つの領域は配列番号3により提供され、これはシグナルペプチドを有さない成熟タンパク質をコードする切形(truncated)グルタミン酸-アスパラギン酸結合タンパク質配列 (配列番号4)をコードする。本発明による好ましい内部的に融合した分子内センサーは、配列番号28のアミノ酸58および59、ならびにアミノ酸 216および217に対応するアミノ酸の間に挿入された蛍光タンパク質部分を含む。好ましい態様において、ドナー蛍光タンパク質部分はeCFPであるが、本明細書に記載のいずれのドナー部分を用いてもよい。かかるセンサーにおいて、アクセプター蛍光タンパク質部分は好ましくは YFP VENUSまたはcpVenusであり、該グルタミン酸結合タンパク質部分のC末端に挿入されているか、 該グルタミン酸結合タンパク質に内部的に融合している。さらにその他のアクセプター部分を本明細書に記載のように用いることが出来る。
【0061】
本発明のセンサーの好ましい人工変異体は、測定できるリガンド濃度範囲を広げるために、リガンドに対する親和性が上昇または低下しているものであり得る。例えば、好ましいYbeJ センサーについての人工変異体としては、とりわけ、以下の突然変異を含むグルタミン酸結合領域が挙げられる: A207G、A207P、A207K、A207M、A207S、A207C、A207R、A207V、A207L、A207Q、A207T、A207F、A207Y、A207N、A207W、A207H、A207D、およびS95W。グルタミン酸に対する結合親和性が低下または上昇しているさらなる人工変異体は、ランダムまたは部位特異的突然変異誘発およびその他の公知の突然変異誘発技術により構築でき、本明細書に記載するベクターにクローニングし、開示するアッセイにしたがって活性についてスクリーニングすればよい。
【0062】
本発明のセンサーはFRET-適合性蛍光タンパク質のドナー/アクセプター対とは異なるレポーター要素を含むよう設計してもよい。例えば、センサーのリガンド結合部分を、特定のリガンドによりその活性が制御される、アロステリック制御型酵素を作成するように酵素に融合させてもよい(Guntas and Ostermeier、2004、J. Mol. Biol. 336(1): 263-73) さらに、かかるアロステリック制御型レポータードメインは2以上の別々の補完的(complementing)な半分に分割してもよく、例えば、β-ラクタマーゼ (Galarneau et al.、2002、Nature Biotechnol. 20: 619-622)またはGFP (Cabantous et al.、2005、Nature Biotechnol. 23: 102-107)の補完的断片に分割してもよい。いずれのおよびすべてのレポーター要素断片を、末端接合により(例えば、典型的な融合タンパク質)、またはリガンド結合部分の配列内に内部的に挿入して(例えば、本明細書に記載のように内部的に融合した蛍光タンパク質)、リガンド結合部分内に融合させてもよい。
【0063】
本発明に使用されるその他の好ましい PBPとしては糖結合タンパク質が挙げられ、例えば、マルトース結合タンパク質 (MBP)およびガラクトース/グルコース結合タンパク質 (GGBP)が挙げられる。グルコースセンサー、例えば、本発明のGGBP センサーは、例えば糖尿病または妊娠中の血中グルコースレベルの測定に利用できる。リガンド結合に応答して全体的な高次構造変化をもたらすその他の好ましいリガンド結合部分としては、これらに限定されないが、核内ホルモン受容体、リポカリン、脂肪酸-結合タンパク質、および抗体が挙げられる。不活性化酵素、例えばこれらに限定されないが、ヘキソキナーゼ、グルコキナーゼ、リボキナーゼ、およびその他の高次構造応答性酵素または酵素ドメインもまた可能である。
【0064】
一般的な材料および方法
本発明の単離核酸は、組み合わせた場合にFRETにおけるドナーおよびアクセプター部分として作用することができるいずれの好適なドナーおよびアクセプター蛍光タンパク質部分を組み込んでいてもよい。好ましいドナーおよびアクセプター部分は、GFP (緑色蛍光タンパク質)、CFP (シアン蛍光タンパク質)、BFP (青色蛍光タンパク質)、YFP (黄色蛍光タンパク質)、およびそれらの増強された変異体からなる群から選択され、特に好ましい態様はドナー/アクセプター対CFP/YFP-Venusにより提供され、FP-VenusはpH 耐性および熟成時間が改良されたYFPの変異体である (Nagai、T.、Ibata、K.、Park、E.S.、Kubota、M.、Mikoshiba、K.、and Miyawaki、A. (2002) A variant of yellow fluprescent protein with fast and efficient maturation for cell-biological applications. Nat. Biotechnol. 20、87-90)。あるいは好ましくはより高いpH 安定性およびより大きいスペクトル分離を示すMiCy/mKO 対である(Karasawa S、Araki T、Nagai T、Mizuno H、Miyawaki A. Cyan-emitting and/or ange-emitting fluprescent proteins as a donor/acceptor pair for fluorescence resonance energy transfer. Biochem J. 2004 381:307-12)。ドナーまたはアクセプターのいずれかとして好適なものとしてはまた、 Discosoma 種からのネイティブな DsRed、別の属からのDsRedのオルソログまたはネイティブな DsRedの性質を最適化した変異体(例えば、K83M 変異体またはDsRed2 (Clontechから入手可能))が挙げられる。ドナーおよびアクセプター蛍光部分を選択する際の考慮すべき基準は当該技術分野において知られており、例えばUS 6,197,928に開示されており、その内容全体を引用により本明細書に含める。
【0065】
本明細書において用いる場合、「変異体」という用語は、ネイティブな蛍光分子に対して少なくとも 約 70%、より好ましくは少なくとも 75%の同一性、例えば、少なくとも 80%、90%、95%またはそれ以上の同一性を示すポリペプチドをいう。多くのかかる変異体が当該技術分野において知られているし、あるいはネイティブな蛍光分子のランダムまたは指向性突然変異誘発により容易に調製することができる(例えば、Fradkov et al.、FEBS Lett. 479:127-130 (2000)を参照)。
【0066】
バイオセンサーのフルオロフォアが(1または複数の)類似または関連配列のストレッチを含む場合、本発明者らは最近、遺伝子サイレンシングが特定の細胞および特に生物全体におけるバイオセンサーの発現に悪影響を与えうることを見いだした。かかる状況においては、フルオロフォアをコードする配列を1以上の各フルオロフォアのコドンの縮退またはゆらぎ位置にて改変し、フルオロフォアの核酸配列が改変されるがコードされるアミノ酸配列は変化しないようにすることが可能である。あるいは、フルオロフォアの機能に悪影響を与えない1以上の保存的置換を導入してもよい。PCT出願 [代理人整理番号056100-5054、“Methods of Reducing Repeat-Induced Silencing of Transgene Expression and Improved Fluorescent Biosensors”]を参照されたい。これはその全体を引用により本明細書に含める。
【0067】
単独でまたは1以上の上記フルオロフォアと組み合わせてFRETのための色素を使用することも可能である。例えばこれらに限定されないが TOTO 色素 (Laib and Seeger、2004、J Fluoresc. 14(2):187-91)、Cy3 およびCy5 (Churchman et al.、2005、Proc Natl Acad Sci U S A. 102(5): 1419-23)、テキサスレッド、フルオレセイン、およびテトラメチルローダミン (TAMRA) (Unruh et al.、Photochem Photobiol. 2004 Oct 1)、AlexaFluor 488、および数例であるが、蛍光タグ(例えば、Hoffman et al.、2005、Nat. Methods 2(3): 171-76参照)が挙げられる。
【0068】
FRETのための発光量子ドット (QD)またはペブル−共役アプローチ(pebble-coupled approache) の使用もまた可能であり (Clapp et al.、2005、J. Am. Chem. Soc. 127(4): 1242-50; Medintz et al.、2004、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101(26): 9612-17; Buck et al.、2004、Curr. Opin. Chem. Biol. 8(5): 540-6)、例えば、表面増強ラマン散乱が挙げられ、ここでセンサーはナノ粒子の表面に結合し、検出はラマン分光法により達成される (Haes and Van Duyne、2004、Expert Rev. Mol. Diagn. 4(4): 527-37)。
【0069】
生物発光共鳴エネルギー移動 (BRET)もインビトロおよびインビボ測定の両方に用いることができ、これは蛍光励起の結果ではなくしてFRETの利益を提供する。BRET は天然の現象である。例えば、発光タンパク質であるエクオリンは、クラゲAequoreaから精製されている場合、それはGFPの非存在下では青色光を放射するが、GFPとエクオリンとがそれらがインビボであるように結合している場合、GFPがエクオリンからエネルギーを受け取り、緑色光を放射する。BRETにおいて、FRET 技術のドナーフルオロフォアの代わりにルシフェラーゼが働く。基質の非存在下では、ルシフェラーゼからの生物発光が、上記のフェルスター共鳴エネルギー移動と同じ機構を介してアクセプターフルオロフォアを励起する。したがって、ルシフェラーゼ/GFP 突然変異体またはその他のフルオロフォアの組合せを用いることにより、BRETを用いて、タンパク質相互作用をインビボとインビトロとの両方で測定することが出来る (Xu et al、1999、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96: 151-56参照、これは引用により本明細書に含める)。
【0070】
本発明はさらに本明細書に開示する、改変された内部的に融合したバイオセンサーポリペプチドをコードする単離核酸分子を含むベクターを提供する。例示的なベクターとしては、以下が挙げられる:ウイルス、例えば、バクテリオファージ、バキュロウイルスまたはレトロウイルス由来のベクター、および細菌または細菌配列とその他の生物由来の配列との組合せ由来のベクター、例えば、コスミドまたはプラスミド。かかるベクターとしては、神経伝達物質バイオセンサーをコードする核酸配列に作動可能に連結した発現制御配列を含む発現ベクターが挙げられる。ベクターは原核細胞、例えば、大腸菌またはその他の細菌において機能するのに適したものでもよいし、真核細胞、例えば酵母および動物細胞において機能するのに適したものでもよい。例えば、本発明のベクターは一般に以下のような要素を含むであろう:例えば、所望の宿主細胞に適合する複製起点、所望の宿主細胞に適合する1以上の選択可能なマーカーおよび1以上のマルチクローニングサイト。ベクターに含まれる特定の要素の選択は以下のような因子に依存するであろう:例えば、目的の宿主細胞、インサートのサイズ、挿入された配列の制御された発現が望まれるか否か、即ち、例えば、誘導可能または調節可能なプロモーターの使用を介するべきか否か、目的のベクターのコピー数、目的の選抜系等。異なる用途のための宿主細胞とベクターとの適合性を確証するのに関与する因子は当該技術分野において周知である。
【0071】
本発明において使用するために好ましいベクターは、ドナーおよびアクセプター蛍光分子をコードする核酸に遺伝的に融合したリガンド結合ドメインまたは受容体のクローニングを可能にし、その結果、ドナーおよびアクセプター蛍光分子に遺伝子的に融合したリガンド結合ドメインを含むキメラまたは融合タンパク質の発現をもたらすものであろう。例示的なベクターとしては、細菌 pRSET-FLIP誘導体が挙げられ、これはFehr et al. (2002) (Visualization of maltose uptake in living yeast cells by fluprescent nanosensor. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A 99、9846-9851)に開示されており、これはその全体を引用により本明細書に含める。融合タンパク質を発現させるための核酸のベクターへの正しいフレームでのクローニング方法は当該技術分野で周知である。
【0072】
本発明のキメラの内部的に融合した核酸は好ましくは、発現した場合に、ドナーおよびアクセプター間のFRETの変化が、リガンド結合の際に検出されうるように、ドナーおよびアクセプター蛍光部分をコードする配列の一方または両方が、リガンド結合タンパク質配列の内部部分に融合するように構築する。蛍光ドメインはリガンド結合ドメインから1以上の可動性リンカー配列によって離れていてもよい。かかるリンカー部分は、好ましくは約 1〜50 アミノ酸残基の長さであり、より好ましくは約 1〜30 アミノ酸残基の長さである。リンカー部分およびその用途は当該技術分野において周知であり、例えば、米国特許第5,998,204号および5,981,200号、およびNewton et al.、Biochemistry 35:545-553 (1996)に記載されている。あるいは、フルオロフォアまたは上記結合タンパク質を短くした形態のものを用いてもよい。
【0073】
本発明はまた、本発明のベクターまたは発現ベクターによってトランスフェクトされた宿主細胞も含み、例えば、原核細胞、例えば、大腸菌またはその他の細菌、あるいは真核細胞、例えば、酵母細胞または動物細胞が挙げられる。別の側面において、本発明は、バイオセンサーの発現をコードする核酸配列の発現によって特徴づけられる表現型を有するトランスジェニック非ヒト動物を特徴とする。表現型は以下によって作成しうる動物の体細胞および生殖細胞に含まれる導入遺伝子によって与えられる:(a)動物の接合体(zygote)に、バイオセンサーをコードするDNA コンストラクトを含む導入遺伝子を導入すること; (b)接合体を偽妊娠動物に移植すること; (c)接合体を出産するまで発生させること;および(d)導入遺伝子を含む少なくとも1つのトランスジェニック子孫を同定すること。導入遺伝子を胚に導入する工程は、導入遺伝子を含む胚性幹細胞を胚に導入すること、または、導入遺伝子を含むレトロウイルスを胚に感染させることによって行うことが出来る。本発明のトランスジェニック動物には、トランスジェニック線虫およびトランスジェニックマウスおよびその他の動物が含まれる。
【0074】
本発明はまた、本明細書に記載する性質を有する改良された内部的に融合した単離バイオセンサー分子、具体的にはPBPに基づく蛍光指標を含む。かかるポリペプチドは好ましくは本明細書に記載する核酸コンストラクトを用いて組換えにより発現させる。発現したポリペプチドは、転写翻訳系または組換え細胞において産生させてもよいし、および/または転写翻訳系または組換え細胞から、当該技術分野において知られている生化学的および/または免疫学的精製方法によって単離してもよい。本発明のポリペプチドは、脂質二重層、例えば、細胞膜抽出物、または人工脂質二重層 (例えば、リポソーム小胞) またはナノ粒子に導入してもよい。
【0075】
本発明は、以下の工程を含む、サンプルにおけるリガンドのレベルの変化を検出する方法を含む:(a)本発明による改良されたまたは内部的に融合したセンサーをコードする核酸を発現する細胞、および 該リガンドを含むサンプルを提供する工程;および (b)該ドナー蛍光タンパク質部分と該アクセプター蛍光タンパク質部分との間のFRETの変化を検出する工程、ここで該ドナー部分と該アクセプター部分との間のFRETの変化はサンプルにおける該リガンドのレベルの変化を示す。リガンドは融合した FRETバイオセンサーが構築できるいずれの好適なリガンドであってもよく、本明細書に記載のリガンドのいずれもが含まれる。好ましくは、リガンドはPBPにより認識されるものであり、より好ましくは細菌 PBPにより認識されるものであり、例えば、表1に挙げるものおよびそのホモログおよび天然および人工の変異体である。
【0076】
本発明のアミノ酸結合センサーは、動物の脳または神経系における神経伝達物質のレベルの変化、特にグルタミン酸興奮毒性に関連する障害または疾患のシグナルであり得る細胞外グルタミン酸のレベルの変化の検出および測定に有用である。一つの態様において、本発明は、以下を含む神経細胞のサンプルにおける細胞外グルタミン酸のレベルの変化を検出する方法を含む:(a)本明細書に記載するグルタミン酸結合バイオセンサーをコードする核酸を発現する細胞、および、神経細胞のサンプルを提供すること;および(b)それぞれグルタミン酸結合ドメインに共有結合している、ドナー蛍光タンパク質部分とアクセプター蛍光タンパク質部分との間のFRETの変化を検出すること、ここで、該ドナー部分と該アクセプター部分との間のFRETの変化は、神経細胞のサンプル中の細胞外グルタミン酸レベルの変化を示す。あるいは、タンパク質は異種宿主、例えば細菌で産生させ、精製し、器官に直接、または細胞間空間に注入してもよい。タンパク質またはその誘導体は、量子ドットなどの粒子に結合させて、細胞または区画に導入してもよい。
【0077】
FRETは当該技術分野において知られている様々な技術を用いて測定することが出来る。例えば、FRETの判定工程は、アクセプター蛍光タンパク質部分から放射される光の測定を含みうる。あるいは、FRETの判定工程は、ドナー蛍光タンパク質部分から放射される光を測定すること、アクセプター蛍光タンパク質部分から放射される光を測定すること、および、ドナー蛍光タンパク質部分から放射される光とアクセプター蛍光タンパク質部分から放射される光の比を計算することを含みうる。FRETの判定工程はまた、ドナー部分の励起状態寿命または異方性変化を測定することを含みうる (Squire A、Verveer PJ、Rocks O、Bastiaens PI. J Struct Biol. 2004 Jul;147(1):62-9 Red-edge anisotropy microscopy enables dynamic imaging of homo-FRET between green fluorescent protein in cells)。かかる方法は当該技術分野において知られており、US 6,197,928に一般的に記載されており、これはその全体を引用により本明細書に含める。
【0078】
サンプル中のリガンドの量はFRETの程度を測定することにより決定することが出来る。第一に、センサーをサンプルに導入しなければならない。リガンド濃度の変化は、所定の時間間隔でFRET変化をモニタリングすることにより判定することが出来る。サンプル中のリガンドの量は、例えばインビボでの滴定(titration)により確立した検量線を用いて定量することが出来る。
【0079】
本発明の方法により分析すべきサンプルは、インビボ、例えば、細胞の表面上でのリガンド輸送の測定において含めてもよいし、または、リガンド流出が細胞培養物にて測定される、インビトロに含めてもよい。あるいは、細胞または組織からの液体抽出物をリガンドが検出または測定されるサンプルとして用いてもよい。アミノ酸センサー、例えば、グルタミン酸センサーによる、かかる測定は、該神経細胞に対する外傷性障害に伴う細胞外グルタミン酸の検出に用いてもよいし、グルタミン酸興奮毒性に関する神経障害、例えば、特に、脳卒中、癲癇、ハンチントン病、エイズによる認知症および筋萎縮性側索硬化症の可能性の指標として用いてもよい。
【0080】
本明細書に開示するリガンドの検出方法は、リガンド受容体結合の調節に使用しうる化合物のスクリーニングおよび同定に使用することができる。一つの態様において、とりわけ、本発明は以下を含むリガンドの受容体への結合を調節する化合物の同定方法を含む :(a) 本発明のバイオセンサー核酸を発現する細胞および該リガンドを含む混合物を、1以上の被験化合物と接触させること、および(b)該ドナー蛍光ドメインと該アクセプター蛍光ドメインの間のFRETを該接触の後に測定すること、ここで該接触後のFRETの上昇または低下は、該被験化合物がリガンド結合を調節する化合物であることを示す。「調節する」という用語は、一般に、かかる化合物がリガンドとリガンド結合ドメインとの相互作用を上昇または低下または阻害しうることを意味する。
【0081】
本発明の方法はまた、ハイスループットおよびハイコンテント薬物スクリーニングのための手段として利用できる。例えば、本発明のバイオセンサーを含む固体支持体またはマルチウェルディッシュを用いて複数の候補薬剤を同時にスクリーニングすることが出来る。したがって、本発明は、以下の工程を含む、リガンドの受容体への結合を調節する化合物の同定のためのハイスループット方法を含む:(a)少なくとも1つの本発明のバイオセンサー、または本発明のバイオセンサー核酸を発現する少なくとも1つの細胞を含む固体支持体と、該リガンドおよび複数の被験化合物を接触させる工程;および (b)該接触の後に該ドナー蛍光ドメインと該アクセプター蛍光ドメインとの間のFRETを測定する工程、ここで、該接触後のFRETの上昇または低下は、特定の被験化合物がリガンド結合を調節する化合物であることを示す。
【0082】
一つの好ましい態様において、とりわけ、本発明は以下の工程を含むグルタミン酸興奮毒性を調節する化合物の同定方法を提供する:(a)本明細書に開示するグルタミン酸バイオセンサーまたはグルタミン酸バイオセンサーを発現する細胞および神経細胞のサンプルと、1以上の被験化合物とを接触させる工程、および(b) 該接触の後に該ドナー蛍光ドメインと該アクセプター蛍光ドメインとの間のFRETを測定する工程、ここで、該接触後のFRETの上昇または低下は、該被験化合物がグルタミン酸興奮毒性を調節する化合物であることを示す。この態様において、「調節する」という用語は、かかる化合物がグルタミン酸興奮毒性を上昇または低下させうることを意味する。グルタミン酸レベルを上昇させる化合物は上記のようなグルタミン酸興奮毒性に関連する障害の治療的介入および処置のための標的である。グルタミン酸レベルを低下させる化合物はグルタミン酸興奮毒性に関連する障害の処置のための治療用品へと開発することが出来る。
【0083】
原形質膜の外側の葉(leaflet)に対するセンサーの標的化は、可能性のある用途の一つの態様に過ぎない。それは、ナノセンサーは特定の区画に標的化することが出来ることを示す。あるいは、その他の標的化配列を用いて、センサーをその他の区画、例えば、小胞、ER、液胞、などに発現させることが出来る。
【0084】
発現系にはラット神経細胞のみならず、ヒト細胞株、動物細胞および器官、真菌および植物細胞も含まれる。センサーはまた、グルタミン酸が重要な窒素化合物として役割を果たすのみならず、おそらくはシグナル伝達分子としても作用する、真菌および植物生物体におけるグルタミン酸レベルをモニターするのにも用いることが出来る。細菌における発現を用いて、感染部位または細菌が存在するかまたは導入される区画におけるグルタミン酸レベルをモニターすることができる。具体的には、センサーを発現する細菌または真菌は、バイオセンサーとして働くことができ、あるいは、上記の薬物スクリーニングについて記載したものと同様のスキームを用いて、新規殺虫剤の同定のためのツールとして働くことが出来る。
【0085】
本発明のバイオセンサーは、神経細胞の機能を判定するために動物細胞の表面に発現させてもよい。例えば、線虫において存在する神経細胞の多くはいまだに特定の機能がわかっていない。表面上でのバイオセンサーの発現により、刺激に応答した生きた線虫における神経細胞活性の可視化が可能となり、それにより神経細胞回路網の機能の決定および分析が可能となる。同様に、生きたマウスまたはラットの脳に多光子プローブを導入することにより、それらのプロセスを画像化することが可能となる。最後に、特定の神経細胞または膠細胞における発現により、 脳卒中またはアルツハイマー病などの現象の研究、および神経細胞の内側またはその表面におけるグルタミン酸レベルへのかかる障害の効果の研究が可能となる。さらに、局所脳領域または神経細胞回路網への薬物療法の効果をインビボで研究することが出来る。
【0086】
最後に、センサーを、例えば膜または人工脂質複合体上に提示される人工リガンド捕捉剤として導入することにより、リガンド結合、特にグルタミン酸流動を改変するツールとしてセンサーを使用することが可能である。人工グルタミン酸捕捉剤は脳または神経細胞機能を操作するために用いることが出来る。
【0087】
以下の実施例は本発明を説明および例示するために提供する。したがって、以下の実施例は本発明の範囲を限定するものと解釈してはならない。当業者であれば多くのその他の態様が本明細書および請求の範囲に記載する本発明の範囲内に包含されることを理解しているであろう。
【実施例】
【0088】
実施例 1. 核酸およびベクターの構築
シグナルペプチドを有さない成熟タンパク質をコードする切型グルタミン酸-アスパラギン酸結合タンパク質配列 (配列番号4)を、大腸菌K12ゲノム DNAをテンプレートとして用いてPCRにより増幅した。用いたプライマーは、5'- ggtaccggaggcgccgcaggcagcacgctggacaaaatc -3' (配列番号5) および5' accggtaccggcgccgttcagtgccttgtcattcggttc 3' (配列番号6)であった。 PCR 断片をpRSET ベクター (Invitrogen)中の消化したFLIPmal-25μ (Fehr et al. 2002)のKpnI 部位にクローニングし、マルトース結合タンパク質配列をYbeJ 配列に交換した。その結果得られたプラスミドをpRSET-FLIP-E-600n (配列番号9)と命名した。
【0089】
pHおよびクロライド耐性を向上させ、センサータンパク質の成熟を向上させるために、pRSET-FLIP-E-600n 中の増強 YFP (EYFP、CLONTECH) 配列を含む断片をVenusの コード配列で置換した。VenusはpH 耐性と熟成時間を改良したYFPの変異体である(Nagai、T.、Ibata、K.、Park、E.S.、Kubota、M.、Mikoshiba、K.、and Miyawaki、A. (2002) A mutant of yellow fluorescent protein with fast and efficient maturation for cell-biological applications. Nat. Biotechnol. 20、87-90)。以下の置換を有する親和性突然変異体:A207G、A207P、A207K、A207M、A207S、A207C、A207R、A207V、A207L、A207Q、A207T、A207F、A207Y、A207N、A207W、A207H、A207D、およびS95W:を部位特異的突然変異誘発により作成した (Kunkel、T.A.、Roberts、J.D.、and Zakour、R.A. (1987). Rapid and efficient site-specific mutagenesis without phenotypic selection. Methods Enzymol. 154、367-382)。
【0090】
pRSET-FLIP-E コンストラクト(配列番号9 および10)をエレクトロポレーションを用いて大腸菌 BL21(DE3)Gold (Stratagene) に移した(Sambrook、J.、Fritsch、E.F.、and Maniatis、T. (1989). Molecular Cloning. A laboratory manual. (Cold Spring Harbor NY: Cold Spring Harbor Laboratory Press)。BL21(DE3)Gold 株で発現したFLIP-E タンパク質を以前に記載されたようにして抽出し、精製した (Fehr et al. 2002)。ラット初代神経細胞培養物およびPC12 細胞培養物における発現のために、FLIP-E 600n(配列番号13)および-10μ カセット(配列番号14)を以下にようにしてpDisplay (Invitrogen)にクローニングした: XmaI 部位 およびSalI 部位をPCRによりFLIP-E カセットの5'- および3'-末端にそれぞれ導入した。用いたプライマーは、5'- gagcccgggatggtgagcaagggcgaggag -3' (配列番号7)および5'- gaggtcgaccttgtacagctcgtccatgccgag -3' (配列番号8)であった。PCR 断片を配列決定してPCRエラーの追加がないことを確認し、XmaI/SalIで消化し、pDisplay ベクターのXmaI/SalI 部位にクローニングした。細胞培養物に改変リン酸カルシウムトランスフェクションプロトコール(Xia、Z.、Dudek、H.、Miranti、C.K.、and Greenberg、M.E. (1996). Calcium influx via the NMDA receptor induces immediate early gene transcription by a MAP kinase/ERK-dependent mechanism. J. Neurosci. 16、5425-5436)またはLipofectamine (Invitrogen)を用いてトランスフェクトした。
【0091】
実施例 2. FLIP-E ナノセンサーのインビトロ特徴決定
成熟 YBEJ タンパク質をコードするDNA 断片をN- およびC-末端にてそれぞれECFPおよびVenus 配列に融合させた(図 1)。発光スペクトルおよび基質滴定曲線をモノクロメータ マイクロプレートリーダー Safire (Tecan、Austria)を用いて得た。 励起フィルターは433±12nmであり、CFP および YFP 発光についての発光フィルターはそれぞれ485±12、528nm±12nmであった。すべての分析は20mM リン酸ナトリウムバッファー、pH 7.0中で行った。
【0092】
グルタミン酸の添加の結果、CFP 発光が上昇し、YFP 発光が低下し、これは、グルタミン酸のYBEJへの結合の結果、フルオロフォアの双極子の配向の相対変化におそらく起因してキメラタンパク質の高次構造変化が起こったことを示唆する(図 2)。CFPおよびYFP 部分は同じ葉に結合していると考えられることから、本発明者らは、グルタミン酸結合は2つのフルオロフォアの双極子-双極子角の変化をもたらすと推測する。興味深いことに、比および比変化はいままでに作成されたその他のセンサーと比べて同様の範囲内であり(Fehr et al.、2002; Fehr et al.、2003; Lager et al.、2003)、これは距離変化はFRET 変化のメカニズムの根底にある第一の因子ではないであろうということを示唆する。3種類のグルタミン酸濃度(0、Kd、飽和)でのスペクトルにより520 nmの等吸収点が明らかである (図 2)。グルタミン酸についての結合定数 (Kd)は600nMであると判明し、その他の方法によって得られたデータと一致した(de Lorimier et al.、2002)。アスパラギン酸、グルタミン、アスパラギンについての結合定数はそれぞれ6μM、100μM、300μMであると判明した(以下の表1参照)。
【0093】
YBEJに基づくグルタミン酸ナノセンサーにより測定可能な濃度範囲を広げるために、YBEJ 部分に突然変異を誘発してグルタミン酸に対する親和性がより低いナノセンサーを作成した。リガンド結合部位を形成するドメイン間間隙の周辺に位置する部位(「周囲立体(peristeric)」と称される)に様々なフルオロフォアを結合させることにより、周辺質結合タンパク質におけるリガンド結合親和性が変化することが以前に示されている(de Lorimier et al.、2002)。試験した残基のなかで、アラニン 207からリジン、メチオニン、セリン、システイン、アルギニン、バリン、ロイシン、グルタミン、スレオニン、フェニルアラニン、チロシン、アスパラギン、トリプトファン、ヒスチジン、アスパラギン酸への(配列番号28に示すYbeJ 配列に基づく)突然変異は結合親和性を有意に低下させた(表 2)。さらに、セリン95から、グルタミン酸の窒素と相互作用することが示唆されるトリプトファンへの突然変異は、タンパク質の親和性を低下させることが判明した。したがって、FLIPE ナノセンサーに導入した突然変異により生理的グルタミン酸濃度の広い範囲を包含する好適な親和性突然変異体を作ることが出来る。
【表2】

【0094】
実施例 3. FLIP-Eのインビボ特徴決定
FLIP-E ナノセンサーのインビボ特徴決定のために、FLIPE-600n およびFLIPE-10μを哺乳類発現ベクター pDisplay (Invitrogen、USA)にクローニングした。pDisplay ベクター はタンパク質を分泌経路に向けるリーダー配列、およびタンパク質を原形質膜にアンカーする膜貫通ドメインを含み、タンパク質を細胞外表面に提示する。ラット海馬細胞およびPC12 細胞にpDisplay FLIPE-600n(配列番号11)および -10μ(配列番号12)コンストラクトをトランスフェクトした。FRETをトランスフェクションの24 48時間後に冷却 CoolSnap HQ デジタルカメラ (Photometrics)を備えた蛍光顕微鏡 (DM IRE2、Leica)で画像化した。二重(dual)発光強度比を436nmでの励起の後に同時に記録し、OI-5-EM フィルターセット (Optical Insights) およびMetafluor 6.1r1 software (Universal Imaging)を備えたDualViewによりCFPとVenus 発光とを分割した。
【0095】
FLIP-Eの発現はラット海馬細胞培養の原形質膜上に観察され、ある程度はおそらくは原形質膜タンパク質の原形質膜への標的化に関与する区画である細胞内区画にも観察された。1 mg/mL のトリプシンを含むタイロードバッファーで処理した場合、細胞表面の蛍光の大部分は消失し、pDisplay コンストラクトの性質から予測されるように、 FLIPE タンパク質が実際に原形質膜の細胞外表面に提示されていることが示された(図 3)。ナノセンサーはしたがって細胞表面近くの細胞外グルタミン酸レベルを測定しているはずである。
【0096】
CFPおよびVenus 発光の強度を定量するために、細胞周辺の2つのチャンネルにおける蛍光強度をピクセル毎に(pixel-by-pixel basis)積分し(integrated)、CFP/Venus 比を算出した。表面にFLIPE-600n(配列番号13)を提示する海馬細胞に電流パルスを通すことにより電気的に刺激すると、CFP/Venus 発光比の低下が観察され(図 4 a-c)、グルタミン酸が膜脱分極によって海馬細胞から放出されていることが示唆された。比変化がグルタミン酸の細胞外濃度の変化に起因することを確認するために、細胞に様々な濃度のグルタミン酸を灌流した。発光強度比は濃度依存的に変化し(図 4 d-h)、細胞表面に提示されたFLIPE-600n(配列番号13) が細胞外グルタミン酸を認識していることが示された。FLIP-E 600n(配列番号13) センサーの動作範囲は100nM〜1μMであり、これはFLIPE-600n ナノセンサー(配列番号13)のインビトロ動作範囲と一致する。CFP/Venus 比は外部培地を灌流により除くと上昇し、FRET 強度のインビボ変化は可逆的であることが示唆された。
【0097】
FLIPE/600n センサーを発現する細胞とは対照的に、CFP/Venus 発光強度変化はFLIPE-10μ(配列番号14)を発現する細胞において電気刺激によっては観察されなかった(図 5)。しかし比変化は細胞をより高濃度のグルタミン酸で灌流した場合に観察され(図 5 cおよびe)、細胞の脱分極により誘導されるグルタミン酸濃度変化はFLIP-E 10μ センサーの動作範囲を下回ることが示唆された。
【0098】
新規ナノセンサーはしたがって神経細胞表面のグルタミン酸を測定することが出来、前シナプス神経細胞のグルタミン酸分泌を直接追跡することが出来る。
【0099】
実施例 4.内部的に融合した YbeJ センサー
YbeJについての結晶構造は現在得られていない。本発明者らは、関連するアミノ酸結合タンパク質(HisおよびGln)の既存の構造に基づいて可能性のある構造をホモロジーモデリングした。本発明者らは次いで、許容的であり得る位置、即ち、挿入によりタンパク質の全体の構造が影響を受けない部位を予測した。次に本発明者らはかかる位置に部位特異的突然変異誘発により制限部位を導入した(以下の表3参照)。次いでeCFPのコード領域をかかる部位に挿入した。本発明者らは次いで蛍光を示す細菌コロニーを探索した。(配列番号28に示すYbeJ 配列に基づいて)eCFP が挿入されたN58V-Q59Nのみが蛍光性であった。本発明者らは次いでC-末端にVenusを結合させた(FLIP-E 分子内融合(intermol)) (図 6参照)。親和性を試験し、本発明者らはより大きいデルタ比変化を見いだし、親和性はおよそ 1μMであり、これはフルオロフォアを末端に担持するYbeJ の600n バージョンよりもわずかに高いだけである(図 7参照)。
【0100】
Ybej タンパク質中にeCFP 分子を挿入する試みは、N58V-Q59Nの場合を除いて、成功しなかった。本発明者らは、eCFP 分子のN-末端とC-末端とが非常に遠くに離れているため、Ybej ペプチド 配列において広すぎるギャップを作成することになるため、キメラ分子を不安定化させてしまうのではないかと推測した。一方、環状多突然変異(circular permutated)GFP 変異体は、元のタンパク質において互いに近くにあるN-およびC- 末端を有していた。したがって、本発明者らは、eCFPの代わりに多突然変異蛍光タンパク質を挿入すると、タンパク質安定性に対して悪影響が少ないのではないかと推測した。それゆえ、本発明者らは環状多突然変異 Venus (Nagai T.、Yamada S.、Tominaga T.、Ichikawa M.、Miyawaki A. (2004) Expanded dynamic range of fluprescent indicators for Ca(2+) by circularly permuted yellow fluorescent proteins. Proc Natl Acad Sci U S A. 101:10554-9)を、リンカー配列 GNNSAG (配列番号30)およびGSADDG (配列番号31)とともにA216およびK217の間に挿入した。次いでeCFPをN-末端に融合させた(図 8参照)。親和性を試験したところ、本発明者らはより大きいデルタ比変化を観測し、親和性はおよそ 600nMであり、フルオロフォアを末端に担持するYbeJ の600n バージョンとの変化はなかった(図 9参照)。
【0101】
いかなる具体的理論に拘束されるつもりはなく、本発明者らは回転運動がFRETにおいて役割を果たすという予測を支持するデータを信じる。双極子は有効な共鳴エネルギー移動のために互いに一定の位置において配向しなければならない。しかし、末端に融合したドナーおよびアクセプター部分では、一般に3つの部分の間のリンカーにおけるペプチド結合が自由に回転すると考えられ、したがってこのパラメーターがランダムになる。
【0102】
PBPの内部部分に蛍光部分を挿入することにより、本発明者らはリンカー配列におけるペプチド軸の周囲のフルオロフォアの自由または制限付き自由回転を阻害する。したがって、蛍光部分はこのたびは強固に両方の末端に挿入され、それによって自由な動きが低下し、観察された高いデルタ比の説明が可能となる。
【0103】
【表3】

【0104】
実施例 5. 内部的に融合した GGBP センサー
内部的に融合した FRET バイオセンサーをその他のタンパク質を用いて構築できることを示すために、本発明者らは、大腸菌グルコース/ガラクトース結合タンパク質 (GGBP)を結合ドメインとして含み、かつ、オワンクラゲ緑色蛍光タンパク質変異体CFPおよびYFPをレポータードメインとして含むナノセンサーを構築した。YFPは結合タンパク質のC-またはN-末端のいずれかに融合させたが、CFPは結合タンパク質の様々な位置に挿入し、内部的に融合したセンサーのセットを作成した。これらセンサーのそれぞれは、発色団の異なる相対的空間的配向によって特徴づけられる。
【0105】
工程 1: GGBPにおける挿入部位の選択
発色団挿入を許容するGGBPの内部の許容的部位をスキャンするために全部で13の異なる部位を選択した。これら部位はループ上またはコアタンパク質から突出しており結晶構造において高いB-因子を示す二次構造要素の末端に優先的に位置させた。GGBPの両方の葉上の部位を選択した。CFP 挿入を可能にするために、Kunkel's法を用いてGGBP コード配列におけるそれぞれの位置に部位特異的突然変異誘発によりNru I 制限認識配列を導入した。表4はGGBPにおける選択した部位およびNru I 認識配列により導入された突然変異を示す。
【0106】
表4. GGBPにおける挿入部位および突然変異。 番号付けは、23アミノ酸のシグナル配列を有さない成熟タンパク質の第一アミノ酸から開始する。
【0107】
【表4】

【0108】
工程 2: CFPの挿入および蛍光コロニーのスクリーニング
CFP コード配列を、分子クローニングによりGGBPにおけるNru I 部位に挿入した。コンストラクトはすべての開発段階で未完成のセンサーの発現を可能とするように設計した。同一の挿入部位を担持する2セットのコンストラクトを操作して作成した。一方のセットはYFP とのN-末端融合を可能にするように設計し、他方のセットはYFP のC-末端融合を可能にするように設計した。
【0109】
ライゲーション反応を大腸菌発現株 BL21(DE3)goldに移した。形質転換の後、細菌をベクターの存在についての選抜条件を用いてプレートに播種した。細胞を37℃で一晩放置してコロニーを形成させた。次いで、プレートを4 ℃に約 10日間移し、発色団の成熟を促した。蛍光コロニーを、UVランプまたは解剖顕微鏡の蛍光モジュールを用いてさらなるクローニングのために選抜した。このスクリーニングアプローチにより、効率的かつ時間節約型の、多数の挿入の並行の構築が可能となる。さらに、それにより、非常に暗い蛍光のコロニーをもたらす正しくフォールディングされていない挿入を同定する機会が与えられる。表5はコロニーの相対蛍光強度を反映する。
【0110】
表5. 細菌コロニーの相対蛍光。蛍光強度範囲、顕微鏡により可視可能 < 低 < 中 < 高
【表5】

【0111】
工程 3:YFPとの融合および両方の発色団を発現するコロニーのスクリーニング
YFPのコード配列を分子クローニングにより工程 2のCFP 挿入を含む発現カセットに挿入した。2セットの CFP 挿入を用いて、同じCFP挿入を担持するがN- またはC-末端のいずれかにYFPが結合している2セットの蛍光ナノセンサーを得た。ライゲーション反応を発現株 BL21(DE3)goldに移した。選抜条件下での培養の後、結果として得られたコロニーを用いてマイクロタイタープレート中の200 μl培養を開始し、両方の発色団を発現するクローンをスクリーニングした。培養を2日間室温で増殖させ、2日間4 ℃で静止状態にして発色団の成熟を促した。次いで培養をCFP 励起波長 (433 nm)にて励起し、発光強度をCFPとYFPの発光ピークを包含する460 nm 〜560 nmで記録した。両方の発色団の存在を示した各ナノセンサー発現カセットのうち2、3のクローンをさらなる分析のために選択した。スモールスケール培養を開始してタンパク質をNi-NTA アフィニティークロマトグラフィーにより回収した。新しいナノセンサーの比変化を分析するために、精製タンパク質のスペクトルを10 mM グルコースの非存在下および存在下にて記録し、YFP/CFP 発光強度比の相違を計算した。表6は測定された比変化を示す。
【0112】
【表6】

【0113】
完成したナノセンサーの0 mM〜10 mM グルコースでの比変化。各ナノセンサーについて、2または3のクローンを分析した。欠損のナノセンサーについては両方の発色団が発現しているクローンは同定されなかった。灰色のバックグラウンドは2つの発色団が異なる葉の上にあることを示し、白いバックグラウンドは発色団がGGBPの同じ葉の上にあることを示す。太字のナノセンサーをさらなる分析のために選択した。
【0114】
工程 4:選択したナノセンサーの分析
比変化が0.2より大きいナノセンサー(表6において太字で示す)をさらなる分析のために選択した。タンパク質をラージスケール培養からNi-NTA アフィニティークロマトグラフィーを用いて精製した。その結果得られたタンパク質抽出物を、マイクロプレートに基づくFRETアッセイにおいて様々な濃度のグルコースにより滴定した(titrated)。ナノセンサーの親和性を滴定曲線の非線形回帰により測定した。さらに、スペクトルをグルコース非存在、半飽和グルコース濃度、および飽和グルコース濃度にて記録した。対照として、元のナノセンサーであってGGBPがCFPとYFPとの間にあるFLIPmglBF16Aを含める。比変化 (デルタ比)を規準化するために、比変化をグルコースの非存在下における比で割った (表7) (図8および9参照)。
【0115】
表7 ナノセンサーの性質
【表7】

非存在はグルコースの非存在下での比を示し、飽和はグルコース飽和濃度での比を示す。Δはグルコース飽和と非存在との間のデルタ比を示す。Δ/非存在は規準化したデルタ比である。
【0116】
要約および考察:
22の挿入のうち、6つの機能的グルコースセンサーが同定された。4つのセンサーはグルコースの添加により正の比変化を示した。2つのみが元のセンサー FLIPmglBF16Aと同様に負の比変化を示した。4つのセンサーはFLIPmglBF16A と比較して大きな相対比変化を示した。2つのセンサーはFLIPmglBF16A と同様の相対比変化を示した。したがって発色団の結合タンパク質への挿入は、ナノセンサーの設計および改良に有効な戦略であることが判明した。さらに、発色団は、機能的センサーを得るために結合タンパク質の異なる葉の上に位置している必要はない。
【0117】
センサーの比変化の方向および程度は、グルコースの結合の前後の発色団の相対的空間的配向に依存する。空間的配向の変化は、距離変化、角度配向変化またはその両方であり得る。発色団が固定され、エネルギー移動に先立って自由にランダム化出来ない場合に、角度配向変化の寄与は大きくなる。
【0118】
CFPの結合タンパク質への挿入は、単純なCFPのCまたはN-末端融合と比較してセンサーのこれら2つの成分の間の連結を硬くする。これはセンサーに対して重要な影響を及ぼす。 このより硬い連結は、結合タンパク質のヒンジ-捻れ運動と、発色団の空間的配向の変化の間のアロステリックカップリング(allostelic coupling)を改良する。特に、CFPのゆれが低下するため、発色団の角度配向変化が強化される。この条件下では、比変化の方向は発色団の距離変化のみからは予測できないため、CFPの挿入により両方向において比変化したセンサーが操作により作成されたことになる。
【0119】
しかし、FRETの性質により、発色団配向における相対変化のすべてが比変化に翻訳されうるわけではない。完全に異なるが、同様の程度のFRETを導く相対的な空間的発色団の配向の特定の組合せが存在する。したがって発色団の大きな空間的再配向にもかかわらず、有意な比変化が観察されないことがあり得る。さらに、CFPの挿入はGGBPによるグルコース結合を破壊し得、挿入によっては正しくフォールディングされない場合もある。
【0120】
図 10のチャートは、グルコースの非存在下における出発比と規準化した比変化との相関を示し、挿入の全体の成功率を評価する。セクター 1は正しくフォールディングしていない挿入を示す。2つの挿入について、N-末端およびC-末端 YFP 融合の両方が低い比を示し、比変化は無視できる程度である。セクター 2は8つの挿入を含み、これらは正しくフォールディングされているが、有意な比変化を示さない。これはグルコースの結合の前後のFRETが同程度であることか、またはグルコース結合がなくなるという事実に起因しうる。少なくともいつくかの機能的センサーがグルコースに対する親和性の低下を示すという事実は、突然変異 F16Aを復帰させることにより、多数のかかる挿入が機能的センサーになりうるという仮説を支持する。セクター 3は4つの異なる挿入に基づく5つのセンサーを示し、これらは基準点として示す元のセンサー FLIPmglBF16Aよりも高い比変化を有する。
【0121】
したがって、上記制限にもかかわらず、GGBPにおいてCFPについての様々な挿入部位をスキャンすることは、センサーを改良するための有効な方法であるようである。さらに、発色団が同じ葉に位置していても機能的センサーが得られるという事実は、発色団の挿入を用いることにより、実質的にあらゆる結合タンパク質または酵素をセンサーにすることができるという可能性を示す。上記データによると、シグナル応答のさらなる上昇は、両方の発色団をリガンド結合部分配列に内部的に融合させることによって得ることができると予測される。本発明者らはかかるコンストラクトを作成することにより、さらに向上した特性を示すことを期待する。
【0122】
実施例 6. 感受性が向上したFRET バイオセンサーの設計
フルオロフォアの内部挿入における回転性の平均化の低下が、高い比変化を有するセンサーの作成のための一般的戦略であることを知ったため、本発明者らは分析対象結合ドメインとフルオロフォアとの間の結合の回転の自由を低減することによっても同様の結果が得られるのではないかと仮定した。したがって本発明者らは、結合ドメインのコアタンパク質構造とフルオロフォアを連結している配列を系統的に除去した。即ち、それはリンカー配列の除去および分析対象結合部分とフルオロフォアの末端から両方のアミノ酸を欠失させることにより行った。本発明者らは緊密な結合(close coupling)によってもより高い比変化が導かれることを見いだした。この概念をFLIPgluを用いて例証する。
【0123】
比較を行うため、13の異なる短くしたセンサータンパク質を作成した。フルオロフォアと分析対象結合ドメインとの間のリンカー領域の8アミノ酸までの欠失は、比変化の顕著な上昇をもたらさなかった (図 13参照)。さらなる欠失をECFPのC-末端(6または9アミノ酸)、mglB 分析対象結合ドメインのC-末端(5アミノ酸)およびEYFP のN-末端 (1、2 または6アミノ酸)にて行ったところ、比変化の全体的な上昇が5つのタンパク質において導かれた (図 12参照)。すべての場合において、蛍光に必要であると判定されているフルオロフォアのコアは含めておいた(アミノ酸 7〜 229、Li et al.、1997、JBC 272 pp. 28545)。
【0124】
実施例 7. 感受性が向上したFRET バイオセンサーのインビトロでの試験
材料および方法:
FLIPglu 内部的に融合したセンサーについてのリンカー欠失
2つの内部的に融合したグルコースセンサー、FLII12Pglu-600μおよびFLIIP275Pglu-4.6mをそのΔ比と親和性に基づいて選択した。FLII12Pglu-600μについては、リンカーおよびmglBおよびCitrineの末端 のあまり構造化されていないドメイン (共に17アミノ酸の「複合リンカー」を含む)をKunkel 突然変異誘発 (Kunkel et al.)を用いてmglBから出発して系統的に欠失させた。FLII12Pglu-600μからアミノ酸残基の欠失数を増やすよう設計した17のプライマーを用いて、FLII12Pglu-1aaからFLII12Pglu-17aaを作成した。 さらに、16アミノ酸の欠失である、FLII12PgluΔ16も、mglBの残基 305にXhoI 部位を付加し、短くしたCitrine (アミノ酸7-238)を XhoIおよびHindIIIを用いてクローニングすることにより作成した。 FLII12Pglu-16aaおよび FLII12PgluΔ16はしたがってmglB の位置 305 における1つのアミノ酸残基において異なる(FLII12Pglu-16aaではAla であり、FLII12Pglu δ16ではLeuである)。2つのさらなるプライマーを用いて、mglBおよびCitrineをインタクトに維持しmglB とCitrineの間のプラスミド由来 リンカーの4および6 アミノ酸残基、 Gly-Gly-Thr-Gly-Gly-Ala (配列番号32) (GGTGGTACCGGAGGCGCC (配列番号33))を欠失させた(FLII12Pglu δ4 およびFLII12Pglu δ6)。Citrine がN-末端にあるFLIIP275Pglu-4.6mの場合、一つのプライマーを用いて15アミノ酸残基を欠失させた(Citrine のC-末端の不要な部分から9アミノ酸およびCitrine とmglBとを連結するプラスミド由来リンカーから6アミノ酸) (図14)。
【0125】
センサーのインビトロ分析
コンストラクトをエレクトロポレーションを用いて大腸菌 BL21(DE3)Gold (Stratagene、USA)に移し、以前に記載されているようにして抽出および精製した (Fehr et al.、2002、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99: 9846-9851)。発光 スペクトルおよびリガンド滴定曲線をモノクロメータマイクロプレートリーダー (Safire、Tecan、Austria)を用いて得た。励起フィルターは433/12nmとし; ECFP および EYFP発光についての発光フィルター (CitrineおよびVenusも同様)はそれぞれ485/12および 528/12 nmとした。FLIPE コンストラクトおよび直線的に融合した FLIPglu コンストラクトについてのすべての分析は、20mM リン酸ナトリウムバッファー、pH 7.0中で行った; FLIIXPgluの分析は20 mM MOPS バッファー、pH 7.0中で行った。FLII12Pglu-600μとFLIIP275Pglu-4.6m 欠失をよりよく比較するために、それぞれについてのCitrine 発光値は約 20000と一定に維持し、発光増加は80と一定に維持した。MOPS pH 7.0におけるアッセイに用いたのと同じ量のタンパク質を用いて、センサーを、ハンクスバッファー (pH 7.2)、合成哺乳類細胞質ゾル (pH 7.2)、合成植物細胞質ゾル (pH 7.2)およびMOPS pH 5.0中でも分析した。各センサーのKdは、単一部位結合等温式: S = (r - rapo)/(rsat - rapo) = [L]/(Kd + [L])に適合させることによって決定した。ここでSは飽和; [L]はリガンド濃度; rは比; rapoはリガンド の非存在下における比; およびrsatはリガンド飽和での比である。測定は少なくとも3つの独立のタンパク質抽出物を用いて行った。ECFP 発光は485 と502 nmとの2つのピークによって特徴づけられる; ここで規定する比は、528 nmでの非集光蛍光強度を485 nmでの強度で割ったものとした。
【0126】
様々なバッファー中での分析
環境条件のセンサーへの影響を調べるために、センサーを以下の様々な条件下で分析した:哺乳類細胞培養液中(ハンクスバッファー: 137mM NaCl、5.4mM KCl、0.3mM Na2HPO4、0.4mM KH2PO4、4.2mM NaHCO3、0.6 MgSO4、10mM 乳酸、1mMピルビン酸、pH 7.4)、合成哺乳類細胞質ゾル中(135mM K(グルコン酸)、4mM KCl、12mM NaHCO3、0.8mM MgCl2、0.2μM CaCl2 pH 7.4)、合成植物細胞質ゾル中(10mM NaCl、150mM K(グルコン酸)、1mM MgCl2、100mg/mL BSA、10mM HEPES pH 7.5 、BTP含有)およびMOPS バッファー pH 5.0中。タンパク質量をMOPS バッファー pH 7.0中での分析に関しては一定に維持した。スペクトルをグルコース無し、10mM グルコースおよび100mM グルコースで3連で測定し、分析は各センサーについて2 つの独立のタンパク質調製物を用いて行った。
【0127】
結果:
FLIPglu リンカー変異(variation)
シグナル対ノイズ比をさらに改善し、環境に安定なセンサーを開発するために、分子内 FRET センサー FLII12Pglu-600μ (Deuschle et al.、2005、Protein Science 14:2304-2314)中のリンカーの系統的欠失分析を行った。グルコースナノセンサーであるFLII12Pglu-600μは、その位置 12にCFPが挿入された大腸菌由来成熟グルコース/ガラクトース-結合タンパク質 mglBと、C-末端に6- アミノ酸リンカーを介して直線的に融合した EYFPからなる (Deuschle 2005)。リンカーおよびmglBおよびEYFP変異体の末端のあまりよく構造化されていないドメイン(「複合リンカー」を一緒に含む)は、結合タンパク質に対するフルオロフォアの、および互いの(自由ではないとしても) 可動性の回転を可能にすると考えられる。この複合リンカーを回転性の平均化を低下させ、アロステリックカップリングを増強させるために系統的に切断した。FPは、フォールディングおよび蛍光に絶対的には必要ではない 末端領域を有する(N-末端ヘリックスおよびC-末端 コイル) (Li et al.、1997、J. Biol. Chem. 272: 28545-28549)。さらに、5アミノ酸を結合に影響を与えることなくmglB 結合タンパク質のC-末端領域から欠失させうる。これらを合わせると17アミノ酸となり、これらを除去しても経験的に結合および蛍光が保存されると予測される(図14)。複合リンカー領域を段階的にFLII12Pglu-600μから欠失させた。
【0128】
比およびKdに対する欠失の効果
ほとんどのFLII12Pglu-600μ 欠失は、全長センサーと比べてFRETの低下を示した。欠失コンストラクトのΔ比は0.52 (FLII12Pglu-17aa、78% 低下) から2.26 (FLII12Pglu-12aa、5%低下)の間で変動した。20の欠失コンストラクトのうち、14は1を超えるΔ比を有しており、そのなかで5つのコンストラクトは1.3 以上のΔ比を有していた(FLII12Pglu-6aa 1.32、FLII12Pglu-7aa 1.31、FLII12Pglu-10aa 1.3、FLII12Pglu-12aa 2.26、FLII12Pglu-16aa -1.40 )。 FLII12Pglu δ4およびFLII12Pglu δ6はFLII12Pglu-600μと比べてΔ比がわずかに上昇していた(4% 上昇)。興味深いことに、FLII12Pglu-16aa およびFLII12Pglu δ16はリガンド結合の際に比の低下を示したが、FLII12Pglu-600μおよび他の欠失のすべてはリガンド結合の際に比の上昇を示した。それぞれのセンサーの親和性をグルコースで滴定することにより測定した (表8)。グルコースに対する親和性は、2アミノ酸の欠失、FLII12Pglu-2aa以降に低下し、FLII12Pglu-13aaまでは1.5-2.0 mMの範囲の結合定数を有し、13を超えるアミノ酸の欠失ではさらに親和性が低下した(FLII12Pglu-14aa 3.4mM、FLII12Pglu-15aa 2.6mM)。FLII12Pglu-17aa では親和性は劇的に低下し、6.8mMであった。FLII12Pglu δ4およびFLII12Pglu δ6はしかし、FLII12Pglu-600μに匹敵するKd を有する(図15、表8)。
【0129】
FLIIP275Pglu-15aaはΔ比が0.66であるFLIIP275Pglu-4.6mと比較してΔ比の上昇を示し、1.14であった (73% 上昇)。しかし欠失は親和性に劇的に影響を与え、親和性はセンサーが測定不可能になる地点まで低下した(データ示さず)。したがって、使用可能なセンサーを作るために、mglBにおけるアラニン-16を、グルコース結合に関与している野生型のフェニルアラニンに突然変異により復帰させ(Fehr et al. 2003)、それによりFLIIP275Pglu-15aaの親和性は1.5mMにまで低下し、Δ比は上昇した。
【0130】
FLII12Pglu-600μ ループ-挿入型センサーは直線状-融合 FLIPglu-600μ センサーよりも有意に高い比変化を示す;そしてリガンド親和性に対する影響はほとんどない。該センサーから11残基まで欠失させたところ(まずmglB ドメインのC-末端 ヘリックスから5 残基、次いでmglBとYFP ドメインとを連結する合成リンカーから6 残基)、リガンド親和性が僅かに低下し、リガンド依存的シグナル変化が低下した。分子モデリングによると、この地点までは、YFPとmglBのN-およびC- 末端葉の両方との間の良好な程度の分離が存在することが示唆される(CFPは他のドメインのいずれによっても立体的に高度に制御されないとモデリングされている)。mglBのN-末端 ドメインは閉じた高次構造に比べて開いた場合においてより密接にYFPに近接するとモデリングされている(大腸菌リボース-結合タンパク質 rbsBの開いた構造と閉じた構造と重ね合わせることによりモデリングされた)。したがって YFP ドメインはN-末端 mglB ドメインとより近くに接触するようになり、おそらく良好な接触を作っており、それによって平衡を僅かに開いた状態に向かせ、わずかに親和性を低下させるようである。-11aa 欠失までは、シグナル変化とリガンド結合親和性とは正に相関しているようであり、より高い親和性のセンサーはまた、より高いシグナル変化を有する。これはYFP ドメインが開いた状態においてmglBのN-末端ドメインと何らかの相互作用を有していることと一致し、その結果、親和性は平衡のシフトにより低下し、比変化にはおそらくクエンチングにより悪影響はないということになる。この量の欠失以降、分子モデリングにより、YFPはmglB N- およびC- 末端ドメインと非常に密接して近接するようになることが示唆され、実際、-12aa 欠失はあたかもこの近接により高次構造的に束縛されているようにみえ、その結果回転性の平均化が低下し、シグナル変化が高くなる。この点を超えると、シグナル変化およびリガンド結合親和性は負に相関するようになり、より高い親和性のセンサーはより低い比変化をもたらす。これは分子モデリングと一致し、そしてこの点の後は、YFP とmglB 開いた形態のN-末端ドメインとは、エネルギー的に不利な衝突を起こすのに十分に近接することが示唆され、したがって閉じた形態がより好ましく、親和性が上昇することになる。
【0131】
15アミノ酸を超える欠失は小さい欠失に非常に感受性であり、これはドメインの間のアロステリック結合が全体として「タイトになる」ことと一致する。この場合、一アミノ酸の欠失でさえ蛍光シグナル変化の信号を逆転させた。直線的に融合したFLIPglu-600Δ13 センサーにおける同様の欠失ではこのような劇的な効果は示されなかったために、これは驚くべきである。これは、YFPとループ-挿入型 CFPとの間におそらく、約 20 オングストローム離れているとモデリングされる、ある程度のアロステリック交差制御があり、小さい欠失に対する高い感受性が導かれることを示唆する。
【0132】
合成リンカーの中央に標的化された欠失の効果のみを独立にアッセイしたところ (図 15の右側セクション)、予測されたように(リンカーは依然として非常に長く、ドメイン間の接触は影響を受けない)、親和性に対する効果は最小であり、シグナル変化はわずかに上昇し、これはおそらく構造化されていない合成リンカーによりもたらされる回転の平均化のわずかな低下と一致しており、mglBおよびYFP ドメインの高度に構造化された末端ヘリックスの欠失によるクエンチングはなかった。
【0133】
環境条件に対する感受性
バッファーが比変化に影響を与えうることが以前に指摘されている。さらに、インビボでは比変化は常に様々な因子により弱められ、かかる因子としては、例えば、pH、イオン、糖等の存在が挙げられる。それゆえ、インビボへの適用にもっとも好適なセンサーを同定するために、細胞培地 (ハンクス)を模倣する様々なバッファー、哺乳類細胞質ゾル、植物細胞質ゾルおよび小胞、液胞または細胞壁の内側に類似した低 pHについて試験した(表8)。FLII12Pglu-600μは、MOPS pH 5.0および植物細胞質ゾルにおいて57%〜74%の比変化の低下を示す。ほとんどの欠失コンストラクトは様々なバッファー中で20-70%低下したΔ比を有する。Δ比が1.3以上である5つのコンストラクトのうち、FLII12Pglu-6aaおよびFLII12Pglu-7aa は試験したすべてのバッファーにより非常に影響を受け、20-61%の低下したΔ比を示した。FLII12Pglu-10aaはハンクスバッファーにより影響を受けず、哺乳類細胞質ゾル中では非常にわずかに影響を受け (10% 低下)、植物細胞質ゾル中では28% のΔ比の低下を示し、低 pHでは 66%の低下を示した。FLII12Pglu-12aaはすべてのバッファー中で52-59% の低下を示したが、依然としてΔ比は1.0であった。 FLII12Pglu-16aaはハンクスバッファーおよび哺乳類細胞質ゾル中で約 30%の低下を示し、植物細胞質ゾルおよびMOPS pH 5.0中では影響を受けなかったが、それは異なるイオンに応答して完全に配向が変化した。それはハンクスバッファーおよび哺乳類細胞質ゾル中では比の上昇を示し、植物細胞質ゾルおよびMOPS pH 5.0中では比の低下を示した(FLII12Pglu δ16と同じ)。FLII12Pglu-15aaはしかしすべてのバッファー中でほとんど影響を受けず、ハンクスバッファーおよび哺乳類細胞質ゾル中でΔ比の向上を示した(図16)。
【0134】
FLIIP275Pglu-4.6m はハンクスバッファーおよび哺乳類細胞質ゾル中では影響を受けなかったが植物細胞質ゾル (28%)およびMOPS pH 5.0 (82%)中ではΔ比の低下を示した。FLIIP275Pglu-15aaはハンクスバッファーおよび哺乳類細胞質ゾル中でそれぞれ40 および45%の低下を示し、植物細胞質ゾルおよび低 pHで75および88%の低下を示した (表8)。
【0135】
最高の比を有し、環境条件に耐性のセンサー
ほとんどのFLII12Pglu-600μ 欠失コンストラクトは元のセンサーよりも低いΔ比を示したが、それらは試験した環境条件に対してより耐性であった。したがってもっともイオンに感受性の残基が露出されなくなるようにセンサーを再編成すると考えられる残基の欠失により、センサーはより環境条件に耐性になる。
【0136】
表8. MOPS バッファー pH 7.0、ハンクスバッファー、哺乳類細胞質ゾル、植物細胞質ゾル および MOPS バッファー pH 5.0におけるFLII12Pglu-600μおよびFLII275Pglu-4.6mの比変化 および親和性
【表8】

【0137】
要約および検討:
本発明者らは、高-シグナル変化ループ-挿入型グルコースセンサー FLII12Pglu-600μにおける結合タンパク質 (BP)と蛍光タンパク質 (FP)との間の境界からの一連の欠失の効果を1残基毎に追跡する大きなデータセットを蓄積した。欠失はナノセンサーファミリーのシグナル変化とグルコース-結合親和性との両方に対し同時の効果を有し、これは粗分子モデリングからの予測と一致する。すべてのセンサー修飾のうち、mglB C-末端とYFP N-末端とを連結する合成リンカーの中央からの1または2アミノ酸の欠失のみが、より高いシグナル 変化またはより高いリガンド結合親和性を示すセンサーをもたらした (この場合、その両方)。その他のすべての欠失ではグルコースに対する親和性およびグルコース-依存的シグナル変化が低下した。しかしセンサーのなかには、異なるバッファー条件においては元の センサーよりも高いシグナル変化をもたらすものもあり、それはインビボでのセンサーとして有用であろう。おそらくもっとも重要なことに、リンカー-欠失センサーのファミリーは、さらなるリンカー変異体の合理化および設計のための有用なデータセットを提供し、これは非機能的なセンサーから高応答性センサーを作るのに役立つであろう。
【0138】
これらにより、データセットは、局所アロステリック制御、特にレポーター要素配向の局所アロステリック制御が、遺伝的にコードされたナノセンサータンパク質のファミリーの共鳴エネルギー移動に重要な役割を果たすというモデルを支持する。合理的タンパク質設計によるこの仮説の検証により、広範なインビボ適用が可能であるシグナル-対ノイズ比が非常に向上したセンサーが得られた。分子モデリングによりさらなるセンサー改良の道が開ける可能性があり、それはその他のシグナル伝達機構、例えば、アロステリック酵素スイッチの最適化に有用であり得る。これらの知見は、その他のタイプのFRET センサーの最適化ならびに新規センサーの開発に関連しうる。
【0139】
実施例 8. 感受性が向上したFRET バイオセンサーのインビボでの検証
生細胞におけるグルコース検出のための改良されたセンサーの検証のため、および、センサーがその他の細胞タイプにも利用できるか否かを検証するために、3つの分子内センサー(FLII12Pglu-600μ; FLII12Pglu δ4aa-593μ; FLII275Pglu-4600μ;図17)をpcDNA3.1 (-)にクローニングした(図18)。図 19は、改良グルコースセンサーで形質転換されたNIH3T3 細胞において観察されたFRET変化を示す。
【0140】
本明細書に記載するすべての刊行物、特許および特許出願は引用により本出願にその内容を含める。本発明を特定の態様に関して記載してきたが、さらなる改変が可能であり、、本出願はあらゆる改変を、使用または適用を包含する意図であることが理解されよう。 以下の、全体として本発明の主要部および本開示にはない本発明の属する公知または慣用技術も含めて、上記必須の特徴が適用することが可能であり、添付の請求の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0141】
【図1】末端に融合したフルオロフォアを含む大腸菌 (AおよびB)および神経細胞培養物 (CおよびD) における発現に用いたYbeJ FLIP-E ナノセンサーコンストラクト。
【図2】3種類のグルタミン酸濃度でのFLIP-E 600n センサー (グルタミン酸に対するKdが600 nMである蛍光グルタミン酸ナノセンサー)のスペクトル: 0 mM (黒)、Kd 値の濃度(青)、および飽和濃度(赤)。これら曲線は520nmの等吸収点を共有する。
【図3】1 mg/ml トリプシンで処理された海馬細胞。画像(A-D)は10 秒間隔で取得した。細胞表面上のシグナルが大きく消滅していることに注目されたい。
【図4】FLIP-E 600n センサーを発現する海馬細胞における発光強度比変化。画像は発光強度比変化を示すために疑似カラー表示している。グラフ (A)の上の白いバーは処理(刺激 /グルタミン酸の灌流)の時点を示す。矢印で示す時点での比画像(ratio image)をパネル(B)、a〜iに示す。発光強度比の変化が、電気的刺激とグルタミン酸の灌流との両方において観察された。比変化は低レベルの基質 (10 nM グルタミン酸)での灌流では観察されなかった。
【図5】FLIP-E 10μ センサー(グルタミン酸に対するKdが10 μMである蛍光グルタミン酸ナノセンサー)を発現する海馬細胞における発光強度比変化。グラフ (A)の上の白いバーは、処理 (刺激 / グルタミン酸の灌流)の時点を示す。矢印で示す時点での比画像をパネル(B)、a〜gに示す。電気的刺激によっては発光強度比に大きい変化は起こらなかったが、100 μM グルタミン酸での灌流によると可逆的な比変化が引き起こされた (パネル (B)、c およびe)。
【図6】eCFPについての挿入部位を示す内部的に融合した pRSETB FLIP-E ナノセンサー コンストラクト(Aおよび B) 。
【図7】グルタミン酸の存在下および非存在下でのFLIP-E 600nの発光強度を比較するグラフ(A)およびグルタミン酸の存在下および非存在下でのFLIP-E-内部的融合(internally-fused)の発光強度を比較するグラフ(B)。
【図8】cpVenusについての挿入部位を示す内部的に融合した pRSETB FLIP-E 600n A216-cpVenus-K217 コンストラクト (A およびB)。
【図9】グルタミン酸の存在下および非存在下での内部的に融合した FLIP-E 600n A216-cpVenus-K217の発光強度。
【図10】内部的に融合したグルコースナノセンサーの比変化(A)および規準化した比変化 (B)を示すグラフ。
【図11】グルコースナノセンサーの滴定曲線 (A、C、E、G、I、K、M)およびスペクトル (B、D、F、H、J、L、N)を示すグラフ。
【図12】グルコースの非存在下での出発比と規準化した比変化との間の相関を示す図。
【図13】FLIPglu 600μのコード配列において構築された様々な欠失および得られた対応するデルタ比を示す図表。
【図14】FLII12Pglu-600μおよびFLII275Pglu-4.6m 欠失センサーの構築。N-末端 ECFP コアは青い箱で示す。ECFPの不要なC-末端配列を青い下線で示す。KpnI 制限酵素認識部位を含む可動性リンカーを黒で示す。mglB コアを赤い箱で示し、mglBの不要なC-末端残基を赤い下線で示す。EYFP コアを黄色い箱で示し、不要な N-末端残基を黄色の下線で示す。コンストラクト名は左に示す。
【図15】FLII12Pglu-600μ 欠失コンストラクトの、 MOPS バッファー pH 7.0中のΔ比(赤)、欠失アミノ酸残基数および親和性 (Kd、μM)の間の相関。
【図16】細胞培養溶液、合成細胞質ゾルおよびpHに対するFLII12Pglu-600μ 欠失コンストラクトの感受性。 MOPS pH 7.0 (黒)、ハンクスバッファー pH 7.2 (赤)、哺乳類細胞質ゾル pH 7.4 (青)、植物細胞質ゾル pH 7.5 (緑)およびMOPS pH 5.0 (紫)中でのFLII12Pglu-600μ 欠失コンストラクトのΔ比の比較。FLII12Pglu-10aa、FLII12Pglu-14aa、FLII12Pglu-15aa およびFLII12Pglu δ6は異なるバッファーおよび低pHにより最も影響を受けにくいセンサーであることが理解される。
【図17】3つの分子内グルコースセンサーのコンストラクトを示す図表: FLII12Pglu-600μ; FLII12Pglu δ4aa-593μ、およびFLII275Pglu-4600μ。
【図18】pc DNA3.1中のFLIP コンストラクトを示す図表。
【図19】改良グルコースセンサーで形質転換されたNIH3T3 細胞において観察されたFRET変化。(A)FLII12Pglu-600μ、(B) FLII12Pglu δ4aa-593μおよび(C) FLII275Pglu-4600μを一過性に細胞質ゾルに発現するNIH3T3-L1 細胞の灌流。バーは、灌流バッファー中の10mM グルコースの存在を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含むリガンド結合蛍光指標をコードする単離核酸:
・リガンド結合タンパク質部分;
・リガンド結合タンパク質部分に融合したドナーフルオロフォア部分;および、
・リガンド結合タンパク質部分に融合したアクセプターフルオロフォア部分;
ここで、ドナー部分とアクセプター部分との間の蛍光共鳴エネルギー移動 (FRET)が、ドナー部分が励起され、 該リガンドがリガンド結合タンパク質部分に結合すると変化し、該ドナーフルオロフォア部分または該アクセプターフルオロフォア部分の少なくとも一方が、該リガンド結合タンパク質部分の内部部位にて該リガンド結合タンパク質部分に融合している。
【請求項2】
該ドナーフルオロフォア部分が該リガンド結合タンパク質部分の内部部位に融合している、請求項1の単離核酸。
【請求項3】
該アクセプターフルオロフォア部分が該リガンド結合タンパク質部分の内部部位に融合している、請求項1の単離核酸。
【請求項4】
該ドナーフルオロフォア部分と該アクセプターフルオロフォア部分との両方が該リガンド結合タンパク質部分の内部部位に融合している、請求項1の単離核酸。
【請求項5】
該リガンド結合タンパク質部分がトランスポーターである、請求項1の単離核酸。
【請求項6】
該トランスポーターが、チャンネル、単輸送体、共輸送体および逆輸送体からなる群から選択される、請求項 5の単離核酸分子。
【請求項7】
該リガンド結合タンパク質部分が周辺質結合タンパク質 (PBP)である、請求項1の単離核酸。
【請求項8】
該リガンド結合タンパク質部分が細菌周辺質結合タンパク質である、請求項 7の単離核酸。
【請求項9】
該ドナー蛍光部分および該アクセプター蛍光部分が該 PBPの同じ葉に融合している、請求項 7の単離核酸。
【請求項10】
該リガンドがアミノ酸である、請求項1の単離核酸。
【請求項11】
該アミノ酸が、グルタミン酸、アスパラギン酸、γ-アミノ酪酸 (GABA)、アミノ酢酸 (グリシン)およびタウリンからなる群から選択される、請求項10の単離核酸。
【請求項12】
該リガンドが糖である、請求項1の単離核酸。
【請求項13】
該糖が、グルコース、ガラクトース、マルトース、スクロース、トレハロース、アラビノース、フルクトース、キシロース、セロビオースおよびリボースからなる群から選択される、請求項12の単離核酸。
【請求項14】
該アミノ酸がグルタミン酸である、請求項11の単離核酸。
【請求項15】
該グルタミン酸結合タンパク質部分が配列番号28の配列を含む、請求項14の単離核酸。
【請求項16】
該ドナーフルオロフォア部分が配列番号28のアミノ酸58と59との間に挿入されている、請求項15の単離核酸。
【請求項17】
該ドナーフルオロフォア部分がeCFPである、請求項16の単離核酸。
【請求項18】
該アクセプターフルオロフォア部分が該グルタミン酸結合タンパク質部分のC-末端において挿入されている、請求項16の単離核酸。
【請求項19】
該ドナーフルオロフォア部分がYFP VENUSである、請求項18の単離核酸。
【請求項20】
該ドナーフルオロフォア部分が、GFP、CFP、BFP、YFP、dsRED、CoralHue ミドリイシ-シアン (MiCy) および単量体 CoralHue クサビラ-オレンジ (mKO)からなる群から選択される、請求項1の単離核酸。
【請求項21】
該アクセプターフルオロフォア部分が、GFP、CFP、BFP、YFP、dsRED、CoralHue ミドリイシ-シアン(MiCy)および単量体 CoralHue クサビラ-オレンジ (mKO)からなる群から選択される、請求項1の単離核酸。
【請求項22】
さらに少なくとも1つのリンカー部分を含む、請求項1の単離核酸。
【請求項23】
請求項 1の核酸を発現する細胞。
【請求項24】
請求項 1の核酸を含む発現ベクター。
【請求項25】
請求項 24のベクターを含む細胞。
【請求項26】
原核細胞における機能に適合している請求項 24の発現ベクター。
【請求項27】
真核細胞における機能に適合している請求項 24の発現ベクター。
【請求項28】
原核生物である、請求項 25の細胞。
【請求項29】
大腸菌である、請求項 28の細胞。
【請求項30】
真核細胞である、請求項 25の細胞。
【請求項31】
酵母細胞である、請求項 30の細胞。
【請求項32】
動物細胞である、請求項 25の細胞。
【請求項33】
請求項 1の核酸を発現するトランスジェニック動物。
【請求項34】
線虫である、請求項 33のトランスジェニック動物。
【請求項35】
該リガンドに対するリガンド結合タンパク質部分の親和性を改変する1以上の核酸置換をさらに含む、請求項1の単離核酸。
【請求項36】
請求項 1の核酸によりコードされるリガンド結合蛍光指標。
【請求項37】
以下の工程を含む、サンプル中のリガンドのレベルの変化の検出方法:
(a) 請求項 1の核酸を発現する細胞および該リガンドを含むサンプルを提供する工程;および、
(b)該ドナーフルオロフォア部分と該アクセプターフルオロフォア部分との間のFRETの変化を検出する工程、
ここで、該ドナー部分と該アクセプター部分との間のFRETの変化はサンプル中の該リガンドのレベルの変化を示す。
【請求項38】
該リガンドがグルタミン酸である、請求項 37の方法。
【請求項39】
該サンプルが神経細胞を含む、請求項 38の方法。
【請求項40】
FRETの判定工程がアクセプターフルオロフォア部分から放射される光を測定することを含む、請求項 37 の方法。
【請求項41】
FRETの判定が、ドナーフルオロフォア部分から放射される光を測定すること、アクセプターフルオロフォア部分から放射される光を測定すること、およびドナーフルオロフォア部分から放射される光とアクセプターフルオロフォア部分から放射される光の比を算出することを含む、請求項 37の方法。
【請求項42】
FRETの判定工程が、ドナー部分の励起状態寿命を測定することを含む、請求項 37の方法。
【請求項43】
神経細胞の該サンプルがインビボで含まれる、請求項 39 の方法。
【請求項44】
神経細胞の該サンプルがインビトロで含まれる、請求項 39 の方法。
【請求項45】
細胞外グルタミン酸レベルの該変化が、該神経細胞に対する外傷性障害に起因する、請求項 43 の方法。
【請求項46】
細胞外グルタミン酸レベルの該変化が、脳卒中、癲癇、ハンチントン病、AIDS による認知症、および筋萎縮性側索硬化症からなる群から選択される障害に関連する、請求項 43の方法。
【請求項47】
以下の工程を含む、受容体に対するリガンドの結合を調節する化合物を同定する方法:
(a)請求項 1の核酸を発現する細胞および該リガンドを含む混合物と、1以上の被験化合物とを接触させる工程;および、
(b)該接触の後に該ドナー蛍光ドメインと該アクセプター蛍光ドメインとの間のFRETを判定する工程、
ここで、該接触の後のFRETの上昇または低下は、該被験化合物がリガンド結合を調節する化合物であることを示す。
【請求項48】
以下の工程を含む、グルタミン酸興奮毒性を調節する化合物を同定する方法:
(a)請求項 14の核酸を発現する細胞および神経細胞のサンプルと、1以上の被験化合物とを接触させる工程;および、
(b) 該接触の後に該ドナー蛍光ドメインと該アクセプター蛍光ドメインとの間のFRETを判定する工程、
ここで、該接触の後のFRETの上昇または低下は、該被験化合物がグルタミン酸興奮毒性を調節する化合物であることを示す。
【請求項49】
ドナー部分とアクセプター部分との間の蛍光共鳴エネルギー移動 (FRET)が、ドナー部分が励起され、 該リガンドがリガンド結合タンパク質部分に結合した場合に上昇する、請求項1の単離核酸。
【請求項50】
該上昇が、該リガンド結合タンパク質部分の末端に融合したドナーおよびアクセプター部分から観察されるFRETの上昇よりも大きい、請求項 49の単離核酸。
【請求項51】
ドナー部分とアクセプター部分との間の蛍光共鳴エネルギー移動 (FRET)が、ドナー部分が励起され、該リガンドがリガンド結合タンパク質部分に結合した場合に低下する、請求項1の単離核酸。
【請求項52】
該低下が、該リガンド結合タンパク質部分の末端に融合したドナーおよびアクセプター部分から観察されるFRETの低下よりも大きい、請求項 51の単離核酸。
【請求項53】
以下の工程を含む、分子内 FRET バイオセンサーの感受性を向上させる方法:
(a)リガンド結合タンパク質部分、および該リガンド結合タンパク質部分にそれぞれ融合したドナーおよびアクセプターフルオロフォア部分を含む分子内 FRET バイオセンサーを提供する工程、ここでドナー部分とアクセプター部分との間の蛍光共鳴エネルギー移動 (FRET)が、ドナー部分が励起され、 該リガンドがリガンド結合タンパク質部分に結合した場合に変化する;および、
(b)フルオロフォアとリガンド結合部分との間の融合ドメインを改変する工程、ここで該改変の結果、該改変を施さない該バイオセンサーと比較して感受性が向上した分子内 FRET バイオセンサーが生じる。
【請求項54】
該改変が、アミノ酸 欠失、挿入または突然変異を含む、請求項 53の方法。
【請求項55】
該改変が、1以上のリンカードメインまたはフルオロフォアドメインにおける1以上のアミノ酸の欠失を含む、請求項54の方法。
【請求項56】
該向上した感受性が、リガンド結合の際の蛍光における比変化により測定される、請求項 53の方法。
【請求項57】
該欠失の結果、該比変化が少なくとも2倍上昇する、請求項 56の方法。
【請求項58】
該改変を、該分子内 FRET バイオセンサーをコードする核酸コンストラクト中の少なくとも1つのヌクレオチドを欠失、挿入または突然変異させることによってもたらす、請求項 53の方法。
【請求項59】
少なくとも1つのヌクレオチドが該核酸コンストラクトから欠失している請求項 58 の方法。
【請求項60】
請求項 53の方法により作られる分子内 FRET バイオセンサー。
【請求項61】
請求項 58の方法によって作られる分子内 FRET バイオセンサーをコードする核酸コンストラクト。
【請求項62】
さらに少なくとも1つのリンカー部分を含む、請求項 61の核酸コンストラクト。
【請求項63】
リンカー部分がリガンド結合タンパク質とアクセプターフルオロフォア部分との間にある、請求項 62の核酸コンストラクト。
【請求項64】
リンカー部分の中央からの1または2のアミノ酸が欠失している、請求項 63の核酸コンストラクト。
【請求項65】
リガンド結合タンパク質がグルコース/ガラクトース-結合タンパク質 mglBである、請求項 64の核酸コンストラクト。
【請求項66】
請求項 61の核酸を発現する細胞。
【請求項67】
請求項 61の核酸を含む発現ベクター。
【請求項68】
請求項 67のベクターを含む細胞。
【請求項69】
原核細胞における機能に適合している、請求項 63の発現ベクター。
【請求項70】
真核細胞における機能に適合している、請求項 63の発現ベクター。
【請求項71】
ベクターがpcDNA3.1である、請求項 70の発現ベクター。
【請求項72】
原核生物である、請求項 68の細胞。
【請求項73】
大腸菌である、請求項 72の細胞。
【請求項74】
真核細胞である、請求項 68の細胞。
【請求項75】
酵母細胞である、請求項 74の細胞。
【請求項76】
動物細胞である、請求項 74の細胞。
【請求項77】
NIH3T3-L1 細胞である、請求項 76の細胞。
【請求項78】
請求項 61の核酸を発現するトランスジェニック動物。
【請求項79】
線虫である、請求項 78のトランスジェニック動物。
【請求項80】
該リガンドに対するリガンド結合タンパク質部分の親和性を改変する1以上の核酸置換をさらに含む、請求項 61の単離核酸。
【請求項81】
請求項 61の核酸によってコードされるリガンド結合蛍光指標。
【請求項82】
以下の工程を含む、サンプル中のリガンドのレベルの変化の検出方法:
(a)請求項 61の核酸を発現する細胞および該リガンドを含むサンプルを提供する工程; および、
(b)該ドナーフルオロフォア部分と該アクセプターフルオロフォア部分との間のFRETの変化を検出する工程、
ここで、該ドナー部分と該アクセプター部分との間のFRETの変化は、サンプル中の該リガンドのレベルの変化を示す。
【請求項83】
該リガンドがグルタミン酸である、請求項 82の方法。
【請求項84】
該サンプルが神経細胞を含む、請求項 83の方法。
【請求項85】
FRETの判定工程が、アクセプターフルオロフォア部分から放射される光を測定することを含む、請求項 82 の方法。
【請求項86】
FRETの判定が、ドナーフルオロフォア部分から放射される光を測定すること、アクセプターフルオロフォア部分から放射される光を測定すること、および、ドナーフルオロフォア部分から放射される光とアクセプターフルオロフォア部分から放射される光との比を算出することを含む、請求項 82の方法。
【請求項87】
FRETの判定工程が、ドナー部分の励起状態寿命を測定することを含む、請求項 82の方法。
【請求項88】
該神経細胞のサンプルがインビボにて含まれる、請求項 84の方法。
【請求項89】
該神経細胞のサンプルがインビトロにて含まれる、請求項 84の方法。
【請求項90】
該細胞外グルタミン酸のレベルの変化が該神経細胞に対する外傷性障害に起因する、請求項 88の方法。
【請求項91】
該細胞外グルタミン酸のレベルの変化が、脳卒中、癲癇、ハンチントン病、AIDS による認知症、および筋萎縮性側索硬化症からなる群から選択される障害に関連する、請求項 88の方法。
【請求項92】
以下の工程を含む、受容体に対するリガンドの結合を調節する化合物を同定する方法:
(a)請求項 61の核酸を発現する細胞および該リガンドを含む混合物と、1以上の被験化合物とを接触させる工程;および、
(b)該接触の後、該ドナー蛍光ドメインと該アクセプター蛍光ドメインの間のFRETを判定する工程、
ここで、該接触の後のFRETの上昇または低下は、該被験化合物がリガンド結合を調節する化合物であることを示す。
【請求項93】
以下の工程を含む、 グルタミン酸興奮毒性を調節する化合物を同定する方法:
(a)請求項 77の核酸を発現する細胞および神経細胞のサンプルと、1以上の被験化合物とを接触させる工程;および、
(b) 該接触の後、該ドナー蛍光ドメインと該アクセプター蛍光ドメインの間のFRETを判定する工程、
ここで、該接触の後のFRETの上昇または低下は、該被験化合物がグルタミン酸興奮毒性を調節する化合物であることを示す。
【請求項94】
ドナー部分とアクセプター部分との間の蛍光共鳴エネルギー移動 (FRET) が、ドナー部分が励起され、 該リガンドがリガンド結合タンパク質部分に結合した場合に上昇する、請求項 61の単離核酸。
【請求項95】
ドナー部分とアクセプター部分との間の蛍光共鳴エネルギー移動 (FRET) が、ドナー部分が励起され、 該リガンドがリガンド結合タンパク質部分に結合した場合に低下する、請求項 61の単離核酸。
【請求項96】
発色団の内部融合および第二の発色団のリンカー最適化の両方によって蛍光特性が改善される請求項 61の単離核酸。
【請求項97】
指標が以下を含む、リガンド結合センサーをコードする単離核酸:
・リガンド結合タンパク質部分;
・リガンド結合タンパク質部分に融合したドナー部分; および、
・リガンド結合タンパク質部分に融合したアクセプター部分;
ここで、ドナー部分とアクセプター部分との間のエネルギー移動が、ドナー部分が励起され、該リガンドがリガンド結合タンパク質部分に結合した場合に変化し、該ドナー部分または該アクセプター部分の少なくとも一方が、該リガンド結合タンパク質部分の内部部位にて該リガンド結合タンパク質部分に融合している。
【請求項98】
該ドナーおよびアクセプター部分が、フルオロフォア、発色団、色素、量子ドットおよびルシフェラーゼからなる群から選択される、請求項 97の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【図11D】
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【図11E】
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【図11F】
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【図11G】
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【図11H】
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【図11I】
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【図11J】
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【図11K】
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【図11L】
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【図11M】
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【図11N】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19−A】
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【図19−B】
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【図19−C】
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【公表番号】特表2008−516607(P2008−516607A)
【公表日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−536925(P2007−536925)
【出願日】平成17年10月14日(2005.10.14)
【国際出願番号】PCT/US2005/036957
【国際公開番号】WO2006/044612
【国際公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(500026234)カーネギー インスチチューション オブ ワシントン (25)
【Fターム(参考)】