説明

高断熱複層ガラス

【課題】 高断熱化及び軽量化が可能な高断熱複層ガラスを提供する。
【解決手段】 2枚の板ガラス2間の断熱層4に、逆ミセル法を用いて合成した粒径が略均一なガラス質の多孔質球状粒子からなる粉粒体3を充填し、2枚の板ガラス2の外周間を封止部材5で封止し、断熱層4内を真空排気して、例えば、10−1Pa程度に減圧する。多孔質球状粒子の直径は、流動性の観点より3〜30μmであることが好ましい。板ガラス2の外側面に掛かる圧力は、流動性のある粉粒体3を通して分散され、粉粒体3により支持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高断熱複層ガラスに関し、特に、複層ガラスの高断熱化及び軽量化技術に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅やビル等の建物の壁部、床部、天井部等を高断熱化する場合、住宅金融公庫の高断熱住宅の規格では、100〜200mm程度の厚さのロックウールが壁や天井等に対して規定されており、熱貫流率が約0.2〜0.5W/(m・K)の断熱性能を有する。これに対して、窓のガラス部は高性能の複層断熱ガラス(代表的空気層の厚み60mm)でも、熱貫流率が1.6〜3.0W/(m・K)と約1桁程度大きいため、換気によるものを除く外部との熱の出入りはその半分以上が窓のガラス部を通過している。従って、ガラス部の遮熱性を高めることは建物を高断熱化して省エネルギ化を図る上で非常に重要である。
【0003】
一般に、複層断熱ガラスは、2枚の板ガラス間に空気の対流が生じ難い範囲の密閉空気層を形成し断熱層としている。複層断熱ガラスを高断熱化するために、密閉空気層を空気より熱伝導性の低いアルゴンガス等を封入した複層断熱ガラスや、密閉空気層を真空排気した真空複層ガラスがある(例えば、下記特許文献1〜3参照)。また、アルゴンガス等の封入や真空排気により密閉空気層の気密性を確保する必要から、大面積の複層断熱ガラスの作製が困難なため、密閉空気層の空気量を低減する目的として、密閉空気層にシリカ微粒子が鎖状に繋がったエアロゾルを封入して高断熱化を図った複層断熱ガラスがある(例えば、下記特許文献4参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平11−199277号公報
【特許文献2】特開平11−092181号公報
【特許文献3】特開平11−079795号公報
【特許文献4】特開平11−071141号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の真空複層ガラスでは、2枚の板ガラス間に外側から密閉空気層に加わる大気圧を支えるために2枚の板ガラス間に多くの支持部材を挿入した複雑な構造となり、板ガラスやサッシ部分の構造を頑強なものとする必要から重量化が避けられない。
【0006】
また、密閉空気層にエアロゾルを封入した複層断熱ガラスでは、粒子間に粒子径より大きな空隙が多く残存し、空気の対流が効果的に抑制されないため、一般的な複層ガラスより断熱化が図れるものの、飛躍的な断熱性能の改善は期待できない。
【0007】
本発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、高断熱化及び軽量化が可能な高断熱複層ガラスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係る高断熱複層ガラスは、2枚の板ガラス間の断熱層に、逆ミセル法を用いて合成した粒径が略均一なガラス質の多孔質球状粒子からなる粉粒体を充填し、前記2枚の板ガラスの外周間を封止部材で封止していることを特徴とする。
【0009】
上記特徴の高断熱複層ガラスによれば、逆ミセル法を用いて合成した粒径が略均一な多孔質球状粒子が、粒子形状が球状(球形または略球形)で、且つ、粒径が略一定に揃った粉粒体として形成されるため、粒子間の空隙距離が略一定で充填ガスの平均自由行程以下に短くでき、この結果、10−1Pa(約10−3Torr)程度の低真空でも粒子間の空隙での対流を効果的に抑制でき、伝導損失の少ない極めて高い断熱を実現できる。また、逆ミセル法を用いて合成されるため、多孔質球状粒子がパーライトのような焼成時に形成されるクラック等を有しないため、機械的振動による微粉化の可能性は極めて低く、断熱層内に断熱性を損なう大きな空洞部の発生する可能性が極めて低くなる。更に、多孔質球状粒子が、石英ガラス粒子等のガラス質であると、一般に低温では熱媒体の格子振動の熱伝導への寄与度が大きくなるため、粉体断熱材の多孔質球状粒子がガラス質であることにより、低温での熱伝導をより効果的に抑制できる。
【0010】
例えば、10−1Pa(約10−3Torr)程度の真空度では、概ね0.001〜0.002W/(m・K)程度の熱伝導率を有する断熱層を形成することができる。この場合、例えば、断熱層の厚さを5mm程度に設計すれば、熱貫流率が0.2〜0.4W/(m・K)となり、従来の高性能な高断熱複層ガラスの10分の1程度となり、つまり断熱性能は約10倍となり、更に、厚みも数分の1となることから、高断熱化と軽量化が同時に図れる。高断熱複層ガラスの軽量化は施工性の大幅な改善となる。
【0011】
尚、断熱層を真空排気しない場合でも、断熱層の熱伝導率として0.02〜0.05W/(m・K)程度が得られるため、従来の高性能な高断熱複層ガラスに対して2〜4倍程度の高断熱化が図れる。
【0012】
ところで、逆ミセル法を用いて合成した石英ガラス粒子等の粉粒体は可視光に対して完全な透明ではないものの、半透明であるため、断熱層の厚さを5mm程度に設計すれば、十分に光を透過するため、擦りガラス、採光用ガラス、温室用ガラス等として利用できる。
【0013】
更に、本発明に係る高断熱複層ガラスは、上記特徴に加えて、前記多孔質球状粒子の直径が、3〜30μmであることが好ましい。粒径は、大き過ぎると粒子間の空隙距離が大きくなり、そこで対流が生じて断熱性が低下し、逆に小さ過ぎると取り扱い時に飛散しやすく取り扱い難くなるため、多孔質球状粒子の直径は3〜30μmであることが好ましい。また、流動性の観点から見ると、分子間引力が無視できるサイズの間は粒径が小さいほどブリッジ等が形成され難く流動性が高い。ところが、粒径が数μmになると常温における熱揺動が粒子の運動エネルギと同程度になり、且つ、分子間力も無視できなくなるので、流動性が疎外され、充填作業が困難となるので好ましくない。
【0014】
更に、本発明に係る高断熱複層ガラスは、上記何れかの特徴に加えて、前記断熱層を真空排気して、前記2枚の板ガラスの外側面に掛かる圧力を前記粉粒体で支持可能な構造であることが好ましい。断熱層が真空排気されて低圧状態にあると、2枚の板ガラスの外側面に大気圧による圧力が掛かるが、多孔質球状粒子からなる粉粒体が流動性を有し、且つ、常温大気圧の条件では塑性変形することがないため、板ガラスに加わる応力は粉粒体を通って分散され、板ガラスに特別の強度を要求しない。この場合、粉粒体の流動性を高め充填と応力分散を容易にするためには、多孔質球状粒子の直径は、7〜10μm程度がより好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係る高断熱複層ガラスの実施の形態につき、図面に基づいて説明する。
【0016】
図1に示すように、本発明に係る高断熱複層ガラス1は、2枚の板ガラス2の間にガラス質の多孔質球状粒子からなる粉粒体3を密に充填して断熱層4を形成し、板ガラス2の外周間を合成樹脂製の封止部材5で気密封止して構成され、更に、断熱層4内が10−1Pa(約10−3Torr)程度の真空に減圧されている。但し、10−1Pa程度の減圧により断熱性を十分に向上させることができるが、更に低真空に減圧しても構わない。
【0017】
断熱層4内に充填される粉粒体3は、逆ミセル法を用いて合成した粒径が略均一な多孔質球状粒子からなる粉粒体であり、具体的には、以下の要領で生成される石英ガラス粒子の粉粒体である。即ち、逆ミセル法により、油性の有機溶媒中に粒子原料を含む水溶液である水ガラス溶液(珪酸ナトリウム水溶液)を乳化分散させ、その乳化分散させた水ガラスのコロイドに炭酸ナトリウム等の沈殿剤を加えると、コロイド中の表面張力により球状化していた水ガラス粒子(エマルション粒子)がその形状を保ったままガラス粒子として沈殿するため、沈殿したガラス粒子を濾過分離、洗浄、乾燥して、粒子形状が略完全に球形で粒径も略一定の石英ガラス粒子が、粉粒体3として生成される。尚、粒径を略均一に揃える手法として、孔径を均一に揃えた貫通孔を多数有する高分子膜等の多孔膜を利用して、水ガラス溶液をその多孔膜を通過させて有機溶媒中に注入して乳化分散させ粒子原料のエマルション粒子を得る公知の膜乳化逆ミセル法が利用できる。膜乳化逆ミセル法については、例えば、特開平04−54605号公報、特開平05−240号公報、特開平05−23565号公報、特開平05−192907号公報等に詳細が開示されている。上記要領で生成された石英ガラス粒子の粉粒体は、嵩密度として、150〜300kg/m(=0.15〜0.3g/cm)程度のものが得られる。
【0018】
本実施形態では、生成された石英ガラス粒子の粒径として、3〜30μmの範囲のもの、特に、粉粒体3の流動性の観点より7〜10μm前後のものが好ましい。また、石英ガラス粒子の粒径のバラツキとして、体積基準の標準偏差を平均粒径の50%未満、更に好ましくは、20%未満に抑えるのが好ましい。従って、当該バラツキ範囲内のものを粒径が略均一と定義する。
【0019】
尚、嵩密度が150〜300kg/m(=0.15〜0.3g/cm)程度で粒径が略均一で3〜30μmの範囲にある粉粒体3として、鈴木油脂工業株式会社製の商品名「ゴッドボール」(登録商標)で市販されている多孔質無機質微粒子(石英ガラス粒子)の粉粒体が利用できる。
【0020】
封止部材5は、2枚の板ガラス2の外周間を気密封止可能な材料の中から適宜選択すればよい。例えば、エポキシ樹脂、ブチルゴム等が利用可能である。
【0021】
本実施形態では、粉粒体3が逆ミセル法を用いて合成した粒径が3〜30μmの範囲で略均一な多孔質球状粒子からなる粉粒体であり極めて優れた流動性を有し、また、常温大気圧の条件では塑性変形することがないため、断熱層4内が10−1Pa(約10−3Torr)程度の低真空に減圧され、2枚の板ガラス2に外側面からのみ大気圧による圧力が加わることになるが、当該圧力が断熱層4内に密に充填された粉粒体3を通って分散され、板ガラス2に掛かる応力が粉粒体3により支持される。従って、板ガラス2に従来の真空複層ガラスに要求される強度は必要なく、また、板ガラス2間の中央部に多数のスペーサー部材を必要としない。従って、本発明に係る高断熱複層ガラス1では、大面積の真空複層ガラスの作製が可能となる。
【0022】
また、本実施形態では、板ガラス2の外周間にもスペーサー部材を設けていない。但し、一般的な複層ガラスと同様に、例えば断熱層4の厚さを規定する目的等で、板ガラス2の外周間にだけスペーサー部材を設けても構わない。この場合、図2に示すように、封止部材5は、例えば、スペーサー部材6と2枚の板ガラス2の間の両側の隙間とスペーサー部材6の内側または外側に断面が「コ」の字状に、或いは、スペーサー部材6の内側または外側に設ければよい。
【0023】
板ガラス2の外周間の気密封止処理の仕方としては、例えば、図3に示すように、2枚の板ガラス2の外周間に窓枠のサッシ部材7を挿入し、サッシ部材7の内周部の表裏両側にOリング8用の溝を設けて、サッシ部材7の内周及び板ガラス2の外周に沿ってサッシ部材7の表裏両側にOリング8を介装して、当該Oリング8によって気密封止するようにしても構わない。
【0024】
本発明に係る高断熱複層ガラス1の断熱性能は、断熱層4の厚さ、断熱層4内の真空度、粉粒体3の性状等に依存するが、粉粒体3が逆ミセル法を用いて合成した粒径が略均一な多孔質球状粒子からなる粉粒体で、粒径(直径)が略均一で3〜30μmの範囲にあり、断熱層4内を10−1Pa(約10−3Torr)程度の真空に保持していれば、断熱層4の熱伝導率が概ね0.001〜0.002W/(m・K)程度となり、断熱層4の厚さ5mm程度に設計すれば、断熱層4の熱貫流率が0.2〜0.4W/(m・K)となり、従来の高性能な高断熱複層ガラスの10分の1程度となる。つまり、本発明に係る高断熱複層ガラス1の断熱性能は、従来の高性能な高断熱複層ガラスと比較して、約10倍となり、更に、厚みも数分の1に薄くできる。尚、断熱層4の厚さ、粉粒体3の性状(粒径等)、断熱層4内の真空度は、上記数値例に限定されるものではない。
【0025】
以下に、別の実施形態につき説明する。
〈1〉上記実施形態では、断熱層4内は真空排気され減圧状態となる場合を説明したが、断熱層4内を真空排気せずに常圧に設定しても構わない。真空排気しない場合は、断熱性能において上記実施形態より劣るが、断熱層4の熱伝導率として0.02〜0.05W/(m・K)程度が得られるため、従来の高性能な高断熱複層ガラスに対して2〜4倍程度の高断熱化が図れる。
【0026】
〈2〉上記実施形態では、石英ガラス粒子の粉粒体3を、逆ミセル法を用いて合成する方法について簡単に説明したが、逆ミセル法に使用する多孔膜、有機溶媒、沈殿剤等は、公知の膜乳化逆ミセル法で使用されるものが使用できる。
【0027】
〈3〉上記実施形態では、断熱層4内部に減圧後に残留する気相成分について、特に明示しなかったが、断熱層4内部の気相成分として、空気等以外に、希ガスを使用するのがより好ましい。断熱層4内部の気相には通常空気が入っており、そのまま減圧した場合は残存気体として空気と水分が入っている場合が多い。しかしながら、空気の主成分である窒素や酸素及び水は多原子分子であるため分子全体の運動エネルギのほかに、振動回転のエネルギを持っており熱伝導率が高い。よって、断熱層4内部の気相成分として希ガスを用いることで、断熱層4内部の気相成分による熱伝導を低減でき、断熱性能の向上が図れる。また、断熱層4内部の気相成分としてはできるだけ分子量の大きなAr(アルゴン)等の希ガスが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明に係る高断熱複層ガラスは、住宅やビル等の高断熱仕様の建物の壁等に設ける高断熱複層ガラスとして利用可能である。特に、断熱層が充填する粉粒体によって半透明となるが十分に光を透過するため、擦りガラス、採光用ガラス、温室用ガラス等として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る高断熱複層ガラスの一実施形態における概略構造を模式的に示す断面図
【図2】本発明に係る高断熱複層ガラスの一実施形態における板ガラスの外周間の封止構造を模式的に示す断面図
【図3】本発明に係る高断熱複層ガラスの一実施形態における他の概略構造を模式的に示す断面図
【符号の説明】
【0030】
1: 高断熱複層ガラス
2: 板ガラス
3: 粉粒体
4: 断熱層
5: 封止部材
6: スペーサー部材
7: サッシ部材
8: Oリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚の板ガラス間の断熱層に、逆ミセル法を用いて合成した粒径が略均一なガラス質の多孔質球状粒子からなる粉粒体を充填し、
前記2枚の板ガラスの外周間を封止部材で封止していることを特徴とする高断熱複層ガラス。
【請求項2】
前記多孔質球状粒子の直径が、3〜30μmであることを特徴とする請求項1に記載の高断熱複層ガラス。
【請求項3】
前記断熱層を真空排気して、前記2枚の板ガラスの外側面に掛かる圧力を前記粉粒体で支持可能な構造であることを特徴とする請求項1または2に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−225173(P2006−225173A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−37252(P2005−37252)
【出願日】平成17年2月15日(2005.2.15)
【出願人】(304057472)株式会社ルネッサンス・エナジー・インベストメント (12)
【Fターム(参考)】