説明

高温バンド間カスケードレーザ

タイプIIバンド間カスケード利得媒質であって、厚みがあるIn豊富なGaInSb正孔井戸と、2またはそれ以上のGaSb正孔井戸とを有し、電子および正孔インジェクタは厚いAlSbバリアによって分離され、前記電子インジェクタ内の前記第1のInAs電子井戸の厚さと、前記電子インジェクタの合計の厚さと、カスケード化された段数は減少され、遷移領域は前記利得媒質の様々な領域間のインターフェイスに挿入され、Ga(InAlAs)Sbを有する厚い分離閉じ込め層が前記活性利得領域とクラッドの間に配置され、前記クラッド層のドーピングプロファイルは光モードと最もドープされた前記InAs/AlSb SLクラッド層との重なりを最小化するよう最適化される、バンド間カスケード利得媒質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2008年10月20日に出願された米国特許仮出願第61/106,693号および2009年3月12日に出願された米国特許出願第12/402,627号に対して優先権の利益を主張する。
【0002】
本発明は、バンド間カスケード利得媒質および当該媒質を組み込んだバンド間カスケードレーザに関するものであって、熱電冷却によって冷却が可能な温度かそれ以上の高温で中赤外領域のレーザ若しくは光増幅の性能を改善するものである。
【背景技術】
【0003】
中赤外(「mid−IR」)スペクトル領域、すなわち波長が約2.5から8μmの間の波長で発振するレーザ源の開発への関心は、年々高まりを見せている。この種のレーザは、軍事的利用および非軍事的利用の両方で重要な用途がある。軍事分野におけるmid−IRレーザは、熱線追尾式ミサイルが標的に達することを防ぎ妨害する対抗手段として非常に役立つ。このようなmid−IRレーザは、軍事・非軍事分野の両方、例えば化学センシングにおける利用も見いだされており、環境、医療、および国家安全で利用するにも非常に役立つものである。
【0004】
このスペクトル領域の短波長側では、タイプI量子井戸アンチモニドレーザが優れた性能と技術成熟を達成している。例えば、L.Shterengas et al.“Continuous wave operation of diode lasers at 3.36μm at 12℃”Appl.Phys.Lett. 93,011103(2008)を参照されたい。mid−IR領域の長波長側では、サブバンド間量子カスケードレーザ(quantum cascade lasers:QCLs)が主要なレーザ発振源となった。例えば、S.Silvken et al.Compound Semiconductors(2008年10月)の21ページを参照されたい。
【0005】
mid−IRスペクトル領域については、前記バンド間カスケードレーザ(interband cascade laser:ICL)が将来有望な半導体コヒーレント光源として開発されている。
【0006】
初期のICLsは1994年にルイ・ヤン(Rui Yang)が開発した。ヤンの米国特許第5,588,015号を参照されたい。前記ICLは、ハイブリッド構造であるとの見方が可能であり、つまり電子と正孔の放射再結合によって光子が生成される点においては従来のダイオードレーザに類似するが、しかし前記ICLは複数の段が階段のように積み重ねられ、前記階段の各段から単一注入された電子が新しい光子を発生させる点においては量子カスケードレーザにも類似するものである。Slivken et al.による上述文献、Capasso et al.米国特許第5,457,709号を参照されたい。光子カスケードは、当該カスケードの連続的な各段を少なくとも1光子エネルギーずつ下げるのに十分である電圧を印加し、かつ前記電子がインジェクタ領域を経由し光子を放出した後に次段へと流れていくことによって達成される。バンド間活性遷移(interband active transition)は、価電子帯の電子占有状態が(光子放出に引き続き)、伝導帯と価電子帯との間の半金属又はニア半金属(near−semi−metallic)の重なりの境界から伝導帯へと再注入されることを必要とする。活性量子井戸領域と正孔インジェクタの外では、前記ICLにおける輸送は従来(必要条件ではないが)電子の移動によって全て行われる。したがって、2つの光クラッド領域は通常、注入軸に沿うレーザモードを制限するように前記利得媒質の外で使用され、電気的バイアスおよび電流注入を提供するようn型コンタクトが前記クラッド領域の外に提供される。
ICLは、バンド間活性遷移を従来の半導体レーザのように使用する。タイプ−I ICLも可能ではあるが(その内の2人が本願の発明者でもあるMeyerらによる米国特許第5,799,026号を参照されたい)、ほとんどのICLはタイプIIの性質の活性遷移(すなわち前記電子と正孔の波動関数が、隣り合う電子量子井戸(通常、InAs)と正孔量子井戸(通常、Ga(In)Sb)のそれぞれにおいてピークを有するもの)である。前記波動関数の重なりを増加させるために、2つのInAs電子井戸が前記Ga(In)Sb正孔井戸の両側に配置され、いわゆる「W」構造を形作る。加えて、大きな伝導帯と価電子帯のずれをもつ(通常、Al(GaInAs)Sb)のバリアが、両方のキャリアタイプの優れた閉じ込めを提供するために前記「W」構造を取り囲む。本願発明の発明者のうち1人が共通するMeyer et al.の米国特許第5,793,787号を参照の事。前記基本的なICL構造への更なる改善(例えば正孔インジェクタを形成する1以上の正孔井戸を含むようなもの)はその後、本願NRL発明者やヤン博士(Dr.Yang)によってなされた。Meyer et al.の米国特許第5,799,026号(上述文献)を参照のこと。
【0007】
これらの改善にもかかわらず、最初のICLの性能は理論的予想とは未だかけ離れていた。特に、高温における電流密度の閾値はかなり高く(室温のパルスモードで5〜10kA/cm)これによって、およそ150Kより高温でのこれらデバイスの連続波(cw:continuous−wave)動作は不可能となった。Army Research Laboratory、Maxion、およびJet Propulsion Laboratoryの研究者によるその後研究によってICLsの動作は改善された。例えば、R.Q.Yang et al.“High−power interband cascade lasers with quantum efficiency > 450%”Electron.Lett.35,1254(1999)、R.Q.Yangらによる「Mid−Infrared Type−II Interband Cascade Lasers」IEEE J.Quant.Electron.38,559(2002)、K.Mansour et al. “Mid−infrared interband cascade lasers at thermoelectric cooler temperatures”Electron.Lett.42,1034(2006)を参照されたい。しかしながら、mid−IRスペクトル領域における室温での性能は、まだ課題を残したままとなっていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
当該概要は、以下の詳細な説明でさらに説明される概念を集約したものを簡略化した形で紹介することを意図し設けられたものである。当該概要は、請求項に記載の主題の重要または本質的な特徴を特定することを意図するものではなく、請求項に記載の主題の範囲を設定することを助長することを意図するものでもない。むしろ、本願明細書および請求項に記載の本発明に係る主題の概要として提示するだけのものである。
【0009】
本願発明は、バンド間カスケード利得媒質と、バンド間カスケードレーザまたは当該レーザを有する増幅器とを有するものである。本願発明によるバンド間カスケード利得媒質は、次に記載される特徴のうち1つかそれ以上を含むことができる:(1)活性量子井戸領域であって、厚いInが豊富なGaInSb正孔井戸を含む;(2)正孔インジェクタであって、2若しくはそれ以上のGa(InAlAs)Sb正孔井戸を含み、当該正孔井戸は、特定範囲内の厚みを有する;(3)電子インジェクタおよび正孔インジェクタであって、厚いAl(GaInAs)Sbバリアによって分離され、それによってバンド間吸収を抑制する;(4)隣接する活性量子井戸領域から正孔インジェクタ領域を分離する当該正孔インジェクタ領域の第1の電子バリアの厚みは、ゾーンセンター活性電子量子井戸状態とインジェクタ正孔状態(injector hole states)の間の波動関数の重なりの2乗を5%以内に下げるのに十分である;(5)電子インジェクタ内の前記第1のInAs電子井戸の厚みは、電子インジェクタの合計の厚みと同様に減少する;(6)カスケード化された段数は、10段またはそれ以上から2段〜7段の範囲へと減少する;(7)遷移領域は、前記利得媒質の様々な領域の間のインターフェイスに挿入されそれによって伝導帯最下部の急激なシフトを滑らかにする;(8)Ga(AlInAs)Sbを有する厚い分離閉じ込め層は、前記活性利得領域とクラッドとの間に配置され、それによって光モードを閉じ込めかつ前記活性段の重なりを増加する;(9)超格子(SL:superlattice)クラッド層のドーピングプロファイルは、光モードとクラッド層の最もドーピングされた部分との重なりを最小にするよう最適化される。
【0010】
本願発明によるバンド間カスケード利得媒質は、1若しくはそれ以上の上述の特徴を用いることが可能で、当該利得媒質を組み込んだレーザは、改善された連続波の動作とより優れた効果と共に中赤外領域の約2.5から8μmにおいて高温で放射することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本願発明による例示的なバンド間カスケード利得媒質の層構造を示すブロック図である。
【図2A】図2Aは、伝導帯および価電子帯のプロファイルを示すものであり、これらは本願発明によるバンド間カスケード利得媒質の例示的な活性利得領域におけるものである。
【図2B】図2Bは、選択された電子および正孔エネルギーレベルと、図2Aに図示される伝導帯および価電子帯のプロファイルと対応する波動関数とを示すものである。
【図3】図3は、本願発明によるバンド間カスケード利得媒質を有するレーザの、例示的実施形態の連続波光−電流−電圧特性を示すものである。
【図4】図4は、本願発明によるバンド間カスケード利得媒質を含む様々なタイプIおよびタイプIIの半導体材料に関するオージェ係数対波長のグラフある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
上記に概要が述べられた本願発明は、様々な形態で実施され得る。次に述べる説明は、本願発明の態様が実施される際の構成や組み合わせを例証として示すものである。記載の本願発明の実施態様および実施形態は、例としてのみ理解されるものであり、また、当業者は、本願発明の開示の範囲を逸脱することなく他の実施態様および/または実施形態を利用し、若しくは構造的かつ機能的な変更を加えることができると理解される。
【0013】
例えば、前記利得媒質は、特定の厚みを有しかつ特定の構成で配置される半導体層を有するものであると本願明細書に記載されるが、当業者は、他の層厚および構成も使用することができると理解し得る。その上、本願発明による前記利得媒質は、本願明細書においては、InAs、GaInSb、GaSb、およびAlSbとの半導体材料を有すると記載されるが、当業者は、他の半導体材料が代用可能であると理解するものである。いくつかの実施形態において、少量のInが歪補償を目的としてAlSb層に添加されることがある。このようなケースは、構造式“Al(In)Sb”を有するものとして表される。低バリアについてはGaが添加され、Al(Ga)Sbを形成することがある。また、少量のAsをも添加されAl(GaAs)Sbを形成し、これは結晶格子定数を調整することで格子整合若しくは歪補償を行うものである。より一般的でAlSbと似た役割を行うバリア特性を有する合金はAl(GaInAs)Sbである。同様に、少量のAlおよび/またはAsが前記Ga(In)Sbに添加され、このような場合はそれぞれ、構造式“Ga(Al)Sb”、“Ga(As)Sb”、“Ga(AlAs)Sb”を有するものとして表される。より一般的な合金で、正孔量子井戸としての役目を果たすものはGa(AlInAs)Sbである。合金組成が特定される場合は、例えばGa1−xInSbとされ、前記組成xは0を取ることが可能である(例えば、物質GaSbとなる)。
【0014】
本願発明は、バンド間カスケード利得媒質と、バンド間カスケードレーザまたはそれらを用いた増幅器を有するものであって、改善された連続波の動作とより優れた効果と共に中赤外領域の約2.5から8μmにおいて高温で放射することができるものである。この波長帯域で作動する以前の半導体レーザの多くは超低温冷却を必要とし、それは多くの用途では非実用的であるため、以下に続く説明では用語「高温」は約250Kかそれ以上の温度を意味することとし、これは実際的な熱電冷却器か、それとも能動的に冷却することなく利用可能な温度であることを意味するものである。
【0015】
本願発明によれば、バンド間カスケード利得媒質は、一連のカスケード化された段を有するものであり各段には活性利得領域が含まれ、当該活性利得領域は、活性量子井戸領域と、正孔インジェクタと、InAs/Al(In)Sb超格子を有する電子インジェクタとを有するものである。各段の前記活性利得領域は、次に記載される特徴のうち少なくとも1つを含むものであり、これらは以下に詳細に説明されるものである:(1)活性量子井戸領域であって、厚いInが豊富なGaInSb正孔井戸を含む;(2)正孔インジェクタであって、2若しくはそれ以上のGa(InAlAs)Sb正孔井戸を含み、当該正孔井戸は、特定範囲内の厚みを有する;(3)電子インジェクタおよび正孔インジェクタであって、厚いAl(GaInAs)Sbバリアによって分離され、それによってバンド間吸収を抑制する;(4)隣接する活性量子井戸領域から正孔インジェクタ領域を分離する当該正孔インジェクタ領域の第1の電子バリアの厚みは、ゾーンセンター活性電子量子井戸状態とインジェクタ正孔状態(injector hole states)の間の波動関数の重なりの2乗を5%以内に下げるのに十分である;(5)電子インジェクタ内の前記第1のInAs電子井戸の厚みは、電子インジェクタの合計の厚みと同様に減少する;(6)カスケード化された段数は、10段またはそれ以上から2段〜7段の範囲へと減少する;(7)遷移領域は、前記利得媒質の様々な領域の間のインターフェイスに挿入されそれによって伝導帯最下部の急激なシフトを滑らかにする;(8)Ga(AlInAs)Sbを有する厚い分離閉じ込め層は、前記活性利得領域とクラッドとの間に配置され、それによって光モードを閉じ込めかつ前記活性段の重なりを増加する;(9)超格子(SL:superlattice)クラッド層のドーピングプロファイルは、光モードとクラッド層の最もドーピングされた部分との重なりを最小にするよう最適化される。
【0016】
本願明細書に記載の通り、本願発明によるバンド間カスケード利得媒質は、特徴(1)〜(9)のうちから1またはそれ以上の特徴を、単独かまたは特徴(1)〜(9)のうちの他のいずれかとの組み合わせとして有することが可能であり、これら全ての構成は本願開示の範囲内に含まれるものである。
【0017】
本発明は、バンド間カスケードレーザ、および1またはそれ以上の上述の前記特徴を有する利得媒質を用いた外部空洞レーザ(external cavity laser)を含むことが可能である。K.Mansour et al.の上述文献、R.Maulini et al.“Widely tunable high−power external cavity quantum cascade laser operating in continuous−wave at room temperature Electronics Latters 45,107(2009)]を参照されたい。本願発明によると、そのようなバンド間カスケードレーザ、または外部空洞レーザは、改善された連続波性能とより優れた効果を有しつつ、かつ熱電冷却で利用可能な温度かそれ以上の温度で約2.5から8μmの中IR領域において放射することができるものである。その上本願発明は、上述の前記特徴の1またはそれ以上を有する利得媒質を用いたバンド間カスケード増幅器をも含むことができるものであり、本願発明によるとそのような増幅器は、改善された連続波性能とより優れた効果を有しつつ、かつ熱電冷却で利用可能な温度かそれ以上の温度で約2.5から8μmの中IR領域において光を増幅することができるものである。M.J.Connelly、Semiconductor Optical Amplifiers(Boston、Springer−Verlag、2002)を参照されたい。
【0018】
本願発明によるバンド間カスケード利得媒質の例示的な構成のブロック図が図1に示される。ここでは、同じような図柄の部分は、同じような物質か非常に類似した物質であることを表す。
【0019】
図1に示しかつ本明細書に記載のとおり、本願発明によるバンド間カスケード利得媒質は、一連の半導体物質の積み重ね層を有することが可能であり、これらは一連の量子バリアおよび井戸を形成し前記媒質中の電子と正孔の動きを制御するものである。図1に示した通り本発明によるバンド間カスケード利得媒質は、一連のカスケード化された段を有する活性利得領域を含むことができ、それぞれの段101は、活性量子井戸(QW:quantum well)領域101aと、正孔インジェクタ101bと、電子インジェクタ101cとを有する。前記活性利得領域の構成要素は、組み合わせで作動して電子・正孔エネルギーレベルおよび波動関数を作り出し、適切なバイアスと電気的注入の下で組み合わされた際に前記媒質からの光の放射を生じさせる。前記活性利得領域の個々の段101は、何度も繰り返され前記利得媒質を構成する。上述のとおり前記個々の段101それぞれの反復は、1またはそれ以上の本明細書に記載した前記特徴を含むことが可能であり、前記利得媒質のそれぞれ個々の段はその他の段が有する特徴と同一かまたは異なるものを含むものである。
【0020】
前記利得媒質はさらに、前記活性利得領域の端部それぞれに位置する分離閉じ込め層(SCLs:separate confinement layers)106aおよび106bと、クラッド層108aおよび108bと、基板111とを含むことができ、これらと共に2つの隣接する領域の伝導帯プロファイルの急激な電圧シフトを取り除く第1の遷移領域107a(SCL106aとクラッド層108aの間に配置される)と、第2の遷移領域107b(SCL106bとクラッド層108bの間)と、第3の遷移領域107c(クラッド層108bと基板111の間)と、第4の遷移領域107d(活性利得領域101とSCL106aの間)と、第5の遷移領域107e(活性利得領域101とSCL106bの間)とを含むものである。いくつかの実施形態(図示なし)によると、更なるコンタクト層が基板111とクラッド層108bの間に配置される。さらに、n−InAsまたは他の適切な上部コンタクト層110が、第2の遷移領域109(前記上部コンタクト層110と前記上部クラッド層108の間に配置されるものである)と共にエピタキシャル構造の上部に配置されてもよく、これもまた、さもなければ急激に起こり得る前記伝導帯プロファイルのシフトを取り除くものである。
【0021】
当技術分野で周知の半導体バンド間レーザの作動態様によると、本発明による利得媒質の構造は伝導帯エネルギーおよび価電子帯エネルギーと、対応する電子波動関数とを作り出し、それらは前記半導体物質における電子と正孔の移動と再結合を支配するものであるためしたがって前記レーザによる光子の生成と放射を支配するものである。
【0022】
図2Aおよび図2Bはブロック図であって、下記に記載される本願発明による1若しくはそれ以上の特徴を組み込んだ利得媒質が有する前記活性利得領域のある例示的な段における伝導帯プロファイル(E)、および価電子帯プロファイル(E)を次段の始まり部分と共に示すものである。図2Aおよび図2Bが示すとおり、前記活性利得領域におけるそれぞれの段は、前記電子および正孔活性QWs201と、正孔インジェクタ202と、電子インジェクタ203とからなり、新しい段も再び電子および正孔活性QWs201と共に始まり電子インジェクタ203からカスケード化されるものである。
【0023】
当技術分野で周知である半導体バンド間カスケードレーザの原則によると、電子ポンプソースから挿入された電子は、前記活性QWs201の伝導状態(conduction states)に集まる。図2Aおよび図2Bの構成では、前記電子は左から右へと挿入されるとされるが、当然ながら前記電子ソースに別の方向性を与えることも可能である。光子は、前記活性QWs中の前記伝導状態から前記価電子状態へとバンド間光学遷移を経て放射される。電子は、いったん前記活性QWの価電子帯に入ると、前記正孔インジェクタ202の前記第1の(かつその後にもし存在する場合には第2の)Ga(InAlAs)Sb QW(s)202bへと透過(つまりトンネル)する。カスケーディングを可能にするのに重要な特徴であるInAsとGa(InAlAs)Sbとの間のタイプ−IIエネルギーの重なりによって、前記Ga(InAlAs)Sb価電子帯の電子は、前記電子インジェクタ203の比較的厚みのある前記第1のInAs QW203a内で弾性的に散乱するかまたは伝導帯状態へとトンネルする。前記電子がいったん前記伝導帯に戻ると、QW厚が徐々に薄くなるようなQWを有し、前記電子インジェクタ203を有する前記InAs/Al(In)Sb SL中を伝播し、最後のAl(In)Sbバリア203bを通って次の活性QWs201へとトンネルする前にエネルギーを取り戻すことで電子再活用や更なる光子を放射する。複数の段をカスケード化することは、全ての前記活性利得領域を同時に印加するのに必要なバイアス電圧が高くなるという犠牲のもとに、複数の光子(つまりより大きな電力)を各電子へ提供する。この傾向は一般的に都合の良いものであり、つまり所定の出力電力について低電流ということは、寄生オーミック(parastitic ohmic)電圧および非オーミック電圧の低下が比較的重要でなくなるということである。
【0024】
本発明によるバンド間カスケード利得媒質の作動態様は、次に記載する特徴(1)〜(9)のうち1つか若しくはそれ以上を組み込むことによって改善される。
【0025】
特徴(1)−Ga1−xInSb活性正孔量子井戸
上述のとおり電子と正孔は、前記活性QWs201で再結合し光子を生成する。しかしながら当技術分野で周知のとおり、いくつかのケースにおいては前記電子−正孔ペアからの前記エネルギーは、光子を生成しない。ただしその代りに、もう1つの電子または正孔が遷移され、このプロセスはオージェ再結合(Auger recombination)として知られている。したがってレーザ設計における1つのゴールは、オージェ再結合を減らすことで無放射減衰を減らし、それによって発振閾値を下げることである。
【0026】
いくつかの理論は、例えば前記「W」型を有するようなタイプ−IIアンチモニドレーザの性能またはICL構成は、前記エネルギーギャップと価電子サブバンド間遷移の間に共鳴の可能性があるため、的確なレイヤリングディテイルに強く依存すべきであると予測している。このような共鳴プロセスは、増加した自由キャリア吸収とオージェ結合によってレーザ性能を低下させる可能性がある。しかしながら、NRLの調査は共鳴プロセスについて確かな証拠をまだ発見していない。というのも、ICL性能と前記活性QW領域におけるレイヤリングシークエンスの詳細との間に明らかな相互関係があると示されていないからである。いずれにせよ前記データは、前記In組成と前記活性正孔QW201aが増加するにつれて、より低いICL電流−密度閾値と、より高い光子生成効率に対し一般的に無放射減衰傾向があると示している。
【0027】
したがって本発明の特徴(1)によれば、活性QWs201aは、InAs電子量子井戸201bおよび201cに囲まれたGa1−xInSb正孔量子井戸201aを含むことができる。本願発明によると、前記Ga1−xInSb正孔QW201aは、可能な限り大きな組成xを有し、その傍ら(形態(morphology)およびx線幅によって特徴付けられるとおり)高成長品質を維持しかつ約25Åから約50Åの厚みを有することが可能である。例示的な実施形態において活性QWs201は、組成xが0.35に等しく厚みが30ÅであるGa1−xInSb正孔QWを用いる。さらに、2つの隣接する前記InAs電子QWs201bおよび201cの厚みは、所望の放射波長を生成するよう調整することができる。
【0028】
前記ICL閾値データの分析によれば、本願発明による本特徴を有する活性QWs201を有する利得媒質は、より小さなオージェ係数を有しかつ周辺よりも高温でより低いICL電流−密度閾値を示すことが明らかとなっている。
【0029】
特徴(2)−2つのGa(InAlAs)Sb正孔量子井戸を有する正孔インジェクタ
上述のとおり、バンド間カスケード利得媒質のそれぞれの活性利得段101は、前記活性電子QWs201bおよび201cから直接前記電子インジェクタ203への電子のトンネルを防ぐように正孔インジェクタ202を含むことが可能である。図2Aおよび2Bに図示されるとおり正孔インジェクタ202は、一連の正孔QWs202bと、バリア202a、202c、および202dとを交互に有し、バリア202a、202c、および202dは、それぞれAlSbかAlGaInAsSbかのいずれかであり、前記正孔QW202bのそれぞれは、GaSbかGa(InAlAs)Sbかのいずれかである。本願発明の特徴(2)によれば、正孔インジェクタ202は、図2Aおよび図2Bに図示されるとおり、2つのGa(InAlAs)Sb正孔QWs202bを有することが可能であり、それらは、それぞれ周知の構造で用いられる厚みよりも大きな厚みを有し、正孔QWs両方の合計の厚みで約100Åを超える。したがって、例示的な実施形態によると、正孔インジェクタ202は、AlSb/GaSb/AlSb/GaSb/AlSb層を有することが可能であり、これらの層は図2Aおよび図2Bに示されるとおり伝導帯および価電子帯エネルギーレベル、およびそれらに対応する波動関数を有する。2つ以上の正孔QWsを用いて、100Åの合計の厚みに到達することも可能である。
【0030】
本発明によれば本特徴は、前記活性電子QWs201bおよび201cと、電子インジェクタ203との間の電子トンネル(コヒーレントまたはインコヒーレントなもの)を阻害する。もしこの寄生(parasitic)トンネルが無視できるものであれば、理想的には放射性遷移を行った後にほとんどすべての電子が前記正孔インジェクタ202中の前記価電子帯状態を経て遷移する。前記波動関数は、図2Bに見られる前記活性電子QWs201bと201cの間の電子状態で重なり、これらの条件下では、前記電子インジェクタ203aの最初の部分の前記電子状態は無視できるものであり、前記バリアもまたトラップを介したトンネルを効果的に取り除くのに十分厚みがある。
【0031】
本願発明による、2つのGa(InAlAs)Sb正孔QWs202bを有する正孔インジェクタ202の例示的な構造は、10Å AlSb/50Å GaSb/10Å AlSb/70Å GaSb/20Å AlSbからなる。図2Aおよび図2Bに図示される前記第1のAlSbバリア202aは、正孔インジェクタ202から前記InAs/GaInSb/InAs「W」活性QWs201を分離する。本願発明によると、バリア202aは、前記ゾーンセンター活性電子状態とインジェクタ正孔状態との間の波動関数の重なりの2乗を5%未満に下げ、それによって前記活性QW領域を伴わないバンド間遷移すべての割合が下がるよう十分厚いものであるべきである。
【0032】
特徴(3)−正孔インジェクタと電子インジェクタ間のAlSbバリア
上述の正孔インジェクタ202の構造中の前記最後のAlSbバリアは、図2Aおよび図2Bに図示されるバリア202dであり、正孔インジェクタ202とInAs/AlSb電子インジェクタ203との間にある。この地点において前記価電子帯に存在していた電子が(光子放射に引き続き)前記伝導帯に遷移し戻る。このバリアは、十分なバンド間散乱効率を確保すべく約15Åより厚くあるべきではないと考えられていたが、本願発明の特徴(3)によれば、AlSbバリア202dの前記厚みは、20〜25Åまで増やすことができる。最近のNRLデータは、これがバンド間吸収をさげることを証明し、この影響は以前考えられていたものよりも大きく、一方、前記価電子帯から前記伝導帯への輸送を十分可能とする。
【0033】
理想としてこのバリアの厚みは、バンド間光学行列要素(optical matrix element)をゾーンセンターで0.2eV Å以内へと導くべきものであり、一方十分なバンド間散乱を維持するように少なくとも0.3%の波動関数の重なりを確保すべきである。
【0034】
特徴(4)−波動関数の重なりを低下させる電子バリヤの厚み
図1に関連し上記に説明したとおり、また図2Aおよび2Bに示されるとおり、前記活性利得領域は一連の交互するバリアと量子井戸とを有する。図2Aおよび図2Bに示されるとおり、正孔インジェクタ202は隣接する量子井戸領域201から電子バリア202aによって分離される。
【0035】
本願発明の当該特徴(4)によれば正孔インジェクタ領域202のこの第1の電子バリア202aは、ゾーンセンター活性電子量子井戸状態とインジェクタ正孔状態の間の波動関数の重なりを5%以下に下げるのに十分な厚みを有することが可能である。
【0036】
特徴(5)−前記InAs/Al(In)Sb電子インジェクタの厚さの減少
図1に関連し上記に説明したとおり、また図2Aおよび2Bに示されるとおり、電子インジェクタ203は一連の交互するバリアと量子井戸とを有する。前記井戸の前記厚みは、量子閉じ込めによって前記印加電界を相殺し前記電子インジェクタからの高速電子輸送を可能とするミニバンドの形成を導くようグレーデッド(graded)される。本願発明の当該特徴(5)によれば、前記利得媒質の前記InAs/AlSb電子インジェクタ203の合計の厚みは、以前の設計では400〜500Åだったものから、200〜250Åへと大きく減らすことができる。
【0037】
上述の通り、電子インジェクタ203の前記井戸の厚みはグレーデッドされ、そのためいくつかの実施形態においては、合計の厚みの軽減は前記第1のQW203aの厚みを相当軽減することによって大幅に達成可能である。したがって、本願発明による特徴を有する利得媒質の例示的な実施形態においては、前記第1のQW203aの当該厚みは、以前は70〜100Åだったものから、40〜50Åへと減少される。
【0038】
更に、既に説明のとおり、電子インジェクタ203は、一連の交互な量子井戸とバリアを有するものである。本願発明によると電子インジェクタは、それぞれ約12Åの厚みを有するAl(In)Sbバリアによって分離される4から9のInAs量子井戸を有し、ここで理想的な井戸の数は所望の放射波長と関係するものである。より短波長の場合、より多くの井戸が使われ、これは段毎の前記電圧の低下が光子エネルギーとだいたい比例するからである。しかしながら、次段の近くの井戸は、短波長構造ではより薄いものであり、それによって電子インジェクタ203の前記合計の厚みはそれほど変化しないものである。
【0039】
したがって、300Kで放射波長4.3μmの本願発明による特徴を有する電子インジェクタの例示的な実施形態は、次に記載の構造を有するバリアと井戸を交互に有することができる:42Å InAs/12Å AlSb/33Å InAs/12Å AlSb/28Å InAs/12Å AlSb/25Å InAs/12Å AlSb/23Å InAs/12Å AlSb/23Å InAs/25Å AlSb。
【0040】
さらに、本願発明の当該特徴によれば、電子インジェクタ203とその次のカスケード上活性QW領域201の間の前記最後のAlSbバリア203bは、前記電子インジェクタにおけるその他のバリアよりもさらに厚く、これは前記活性QW領域201での前記インジェクタ203の前記ミニバンドによるレーザ電子サブバンドの強いハイブリダイゼーションを避けるためである。
【0041】
本発明の当該特徴による、さらに薄い電子インジェクタの利点は2つある。第1に、前記さらに薄い電子インジェクタは、前記電子インジェクタにおける前記電子の状態密度の低下を生じ、前記正孔インジェクタとそれから引き続き前記活性QW領域へと挿入される正孔の数の低下を招き、したがって自由正孔吸収による内部損失を軽減する。第2に、前記活性利得領域および前記インジェクタの平均的な屈折率が増加することであり、これはなぜなら低い屈折率のInAs/Al(In)Sb層が、いまや前記活性利得領域合計の内より小さな部分を占め、高い屈折率のGa(InAlAs)Sb層が、より多くの部分を占めることで、質の向上した光閉じ込めを生じさせるからである。
【0042】
これらの利点が共に考慮されると、自由正孔吸収およびさらに高い光閉じ込めファクタによって、特徴(4)はさらに低い内部損失へと導かれる。
【0043】
特徴(6)−少数のカスケード化された段
上述のとおりバンド間カスケード利得媒質は、複数のカスケード化された段を有する活性利得領域を含み、それぞれの当該カスケード化された段は活性QWs201と、正孔インジェクタ202と、電子インジェクタ203とを有するものである。
【0044】
以前、ヒューストン大学、アーミーリサーチラボラトリー(Army Research Laboratory)、マキシオン(Maxion)、およびJPLで製造されたICLsは、通常少なくとも12か、35もの多段を用いていた。このような多数の段は、本発明を用いる最近のNRLのICLsよりもこれらのレーザが更に大きな内部損失を有していたことに一部起因する。
【0045】
しかしながら、本願明細書に記載される前記特徴の1つかそれ以上を使用するのに伴う内部光損失の軽減によって、前記利得媒質中の前記カスケード化された段数を減らすことができる。したがって、前記モード損失(modal loss)と必要とされる前記利得によって、本願発明の特徴(6)によると、本発明に関連するバンド間カスケード利得媒質は、2から7の間のカスケード化された段を有し、これは周知のICLsで使用された前記12〜35段よりも格段と少ない。理想的な段数は、各段が3から8cm−1のモード利得(前記光閉じ込めファクタで乗じた材料利得)を提供するように選定され、これは熱暴走によってレージングの発生が防がれる前に室温でレージングを行う閾値に到達するのに十分な利得を生成するための数である。以前のNRL構造は、たいてい5か10の何れかの数の段を用いていたが、前記利得が十分なものになるには損失が大きすぎるせいで前記旧型5段装置は高温では性能が劣っていた。しかしながら、例えば以下に記載されるようなグレーデッドドーピングスキームを使用することによって前記内部損失が軽減されると、10段よりも5段が使用された場合に連続波モードにおける前記高温性能が大幅に改善されることをNRLテストによって確認された。1つの最近のNRL構造は3段の場合でも好適な性能を達成した。
【0046】
前記損失の主要部分は前記活性層に由来するものであるため、段数を減らすことは前記損失を軽減し、したがって前記傾斜と電力変換効率も改善する。さらに、前記利得材料の段数を減らすことは、レージング閾値を減らしさらにそのような材料を使用することによってレーザ性能にも貢献する。
【0047】
特徴(7)−伝導帯最下部の急激なシフトを滑らかにするグレーデッド(graded)遷移領域
本発明の特徴(7)によると、伝導帯最下部にずれが生じているような前記導波路の様々な領域間でのバンド不連続を滑らかにするよう特別に設計されたグレーデッド遷移領域を使用することが可能である。
【0048】
著しい伝導帯不連続が生じている場合、大きなポテンシャルバリアが2つの領域の間のインターフェイスに形成されキャリア輸送を妨げる。これは追加の熱放散を必要とする余分な電圧低下を招き、前記装置の電力変換効率を下げる。しかしながら、もし、つなぎ合わさる2つの領域間で徐々に変化する伝導帯位置に、グレーデッド遷移領域が導入されそれぞれの不連続が滑らかになると、前記ポテンシャルバリアの高さと空間の及ぶ範囲は大きく軽減され、前記寄生電圧の低下も軽減される。
【0049】
この特徴を有するバンド間カスケード利得媒質の例示的な実施例においては、一連のグレーデッドInAs/AlSbおよびInAs/AlSb/GaSb遷移超格子(これらすべては前記GaSb格子定数に対し歪補償される)が、前記伝導帯最下部の高さを徐々にグレードするのに用いられる。
【0050】
例示的な実施形態は前記活性利得領域と前記SCLsの間の遷移を用いることが可能である。そのような実施形態において、前記遷移層は8周期の20.1Å InAs/19Å AlSbと、10周期の15.9Å InAs/15Å AlSbと、12周期の7Å InAs/6.4Å AlSb/15Å GaSbとを有することが可能である。これと同一のグレーデッド遷移層は、前記GaSbバッファ層若しくは基板と光クラッド層下部との間および、前記光クラッド層とそこに隣接するSCLとの間に使用することができる。
【0051】
さらにいくつかの実施形態においては、次に示されるグレーデッド遷移層が上部クラッド領域と前記n−InAsキャップ層との間に使用される:前記クラッドから始めて6周期の42Å InAs/12Å AlSb、および4周期の65Å InAs/10Å AlSb。前記クラッドと前記キャップとの間のこれら遷移層は、前記活性利得領域と前記SCLsとの間の前記遷移層と一緒か又は無しの何れかにも用いられることができる。
【0052】
いくつかの実施形態において、これらのグレーデッド遷移領域は、0.5〜5×1017cm−3のレベルまでドープされ、レージング光モードの重なりが低い領域にはより高ドーピングレベルが用いられる。レーザモードの重なりが大きな領域では低ドーピングレベルが用いられ、しかしそこにさらに電圧バリアを最小化し、高い注入電力でのダメージに対する脆弱性を下げるべく高めのドーピングレベルも同様に使用することができる。
【0053】
特徴(8)−厚い高指数Ga(AlInAs)Sb分離閉じ込め層
平均的な前記活性段の屈折率はそれほど高いものではなく、そのため少数の活性段が使用された場合には、当該活性段だけでは導波光モードを閉じ込めることができない。
【0054】
特徴(8)は、この影響を修正するような本発明によるバンド間カスケード利得媒質に用いられる。本願発明の当該特徴によると、高指数のGa(AlInAs)Sb分離閉じ込め層(SCL:separate confinement layer)は、前記光モードを閉じ込めることに使用され、前記活性段同志の重なりを増加するのに使用可能である。前記SCLsを厚くすることにより、当該特徴は大幅にモード損失を低下させることもできる。前記分離閉じ込め層(SCL)の前記Ga(AlInAs)Sbは、一般的に、前駆活性層およびクラッド層の前記超格子よりもかなり低い材料損失を有するため、もし前記モードの大部分が前記SCLに内在する場合、純モード損失はさらに低下する。
【0055】
本発明によるバンド間カスケード利得媒質での当該特徴を用いる例示的な実施形態において、厚さ200nmのGa(AlInAs)Sb SCLが前記利得媒質の前記活性利得領域の上部と下部の両方に位置決めされる。いくつかの実施形態において前記SCLsは、2×1017cm−3未満の低準位へとn型にドープ可能であるが、ただしドーピングは、前記SCL材料の通常のp型バックグラウンドドーピングを補うのに十分なものであるべきである。いくつかの実施形態においてGaSbが前記SCLsとして使用される一方、AlGa1−xAsSb1−y(GaSbに格子整合する)を形成するのにAlAsを添加することも前記SCLの屈折率を低下させるのに使用でき、したがって前記活性段のモードの重なりを増加する。さらに、前記GaSb基板について若干格子不整合のAlGaInAsSb若しくはAlGaSb層もまた使用可能である。
【0056】
当該特徴を有する前記バンド間カスケード利得媒質のいくつかの実施形態においては、前記SCL層はかなり厚くてもよく(例えば、0.4〜1μmとし、両方のSCLsで合計の厚みが0.8〜2μmとなるもの)、これは光損失が非常に低い領域での光モードの大半を集中させるためである。しかしいずれにせよ前記SCLsは、基本モードよりむしろ高次垂直モードでレージングを行うほど厚くてはならない。なぜなら当該モードでは、より幅広くビームが広がり、マルチモードレージングに対してより脆弱になるからである。
【0057】
特徴(9)−クラッド層のグレーデッドドーピングプロファイル
本発明によるバンド間カスケード利得媒質で用いられる当該特徴(9)によると、グレーデッドドーピングプロファイルは、前記利得媒質を有する1若しくはそれ以上の前記半導体材料層に使用することができる。
【0058】
例えば当該特徴を有する利得媒質の例示的な実施形態においては、前記活性利得領域(もしくは、もし特徴(8)による分離層のようなものであればSCL)に隣接するクラッド層の底部および上部の約1〜1.5μm部分では前記ドーピングレベルを下げることができ(例えば0.5〜2×1017cm−3まで)、一方残りの前記クラッドの外側部分は例えば2〜5×1017cm−3のような高いドーピングレベルを保つ。
【0059】
前記クラッドのさらに低ドーピングの部分の厚みは放射波長に依存し、より厚い低ドーピング領域はさらに長い波長にて使用可能である。本発明による当該特徴を有する利得媒質においては、前記さらに低ドーピングの領域は、レージングモードの0.5%以下が前記クラッドの前記さらに高ドーピングの領域と重なるのに十分な厚みでよい。
【0060】
さらにいくつかの実施形態においては、前記クラッド底部の合計の厚みは、高次基板モードへの損失をさけるように、通常4μmより大きなものまで増やすことができる。前記クラッド層上部の前記厚みはそれほど重要ではないが、コンタクトメタライゼーションと光モードの重なりによる過剰な損失を避けるほど十分大きいものでよい。
【0061】
いくつかの実施形態において、前記クラッド底部の上部分から前記クラッド底部の下部分に対する前記レージングモードの電界強度の割合は10−5未満でよい。
【0062】
さらに光クラッド層の前記高ドーピングおよび低ドーピング部分は、前記ドーピングレベルがより低いドーピングからより高いドーピングへと徐々にグレードされるような1若しくはそれ以上の境界層によって分離される。当該層の厚みは、約100nmである。
【0063】
したがって、バンド間カスケード利得媒質は、上述の特徴(1)〜(9)のうちいずれか1つかまたはそれ以上を含むことが可能で、それぞれに関連する前記様々な有益な態様を達成するものである。以下に述べるとおりこれらの有益性は、本願発明を構成する前記特徴の1若しくはそれ以上を組み込んだ利得媒質を用いたバンド間カスケードレーザの最近の検証の結果により確認されたものである。
【0064】
本願発明による例示的な1実施形態において、λ=3.75μmで発振する5段バンド間カスケードレーザ(ICL:interband cascade laser)が最近連続波(cw:continuous−wave)モードで最高温度Tmax=319Kまで動作した。当該ICLは本願発明の8つの特徴をすべて組み込んだが、前記SCLsは、特徴(8)について上述された前記厚みよりもはるかに薄く、具体的には本願明細書で述べられた前記0.5〜1μmというより0.2μmであった。前記ICLは、幅9μm、長さ3mmのリッジ(ridge)へとパターン化され、当該リッジは前記ファセット(facet)のうち1つに高反射率コーティングが施されたものである。次に、熱放散を向上するよう設計された金の電気めっきで覆われ、エピタキシャル側を上にマウントされた。前記デバイスは、室温でcw電力10mW以上で生成された。300Kにおける前記cw電圧閾値は2.49Vであり、これは寄生電圧低下が0.81Vであり「電圧効率」が67%であったことを暗示する。当該デバイスの周辺温度に近似するいくつかの動作温度における前記cw光−電流−電圧特性を図3に示す。2つのその他のリッジ幅、5μmおよび11μmを有するICLも、室温cw動作を達成した。
【0065】
極低温動作温度にて、2A/cmまで低いレージングの閾値電流密度が確認された。最大cw電力変換効率32.4%が電気めっきなしの大面積0.5mmICLについて見積もられた。最大cw出力電力1.8Wが大面積4mmICLについて確認された。
【0066】
当該発明の開示の前記特徴のうち、いくつか若しくはすべてにより最適化された他のICLのパルス試験は、広波長領域である少なくとも2.9〜4.2μmに匹敵するcw動作特性に達成する可能性を示した。前記計測されたパルス閾値電流密度と大面積ICLsのスロープ効率を光利得vs.前記活性利得領域のキャリア密度を計算することで関連させ、それによって寿命とオージェ係数が割り出された。前記内部損失は、前記実験的なスロープ効率を用いて見積もられた。前記割り出されたオージェ係数は、前記内部効率と内部損失との確実な分離から比較的独立したものであると判明した。
【0067】
本願発明者らは、2.9μm<λ<4.2μmである前記データポイントの全ては、オージェ係数が4〜6×10−28cm/sの範囲内であると発見した。当該結果は、光励起されたタイプ−IIレーザおよびタイプ−I半導体材料についてのデータとともに図4に示された。300Kにおける前記対応する閾値電流密度はそれほど変動がみられず、λ=3.2μmで発振するICLの場合415A/cmまで低下した。最低内部損失である約6cm−1が(キャビティ長試験に基づき内部効率64%が仮定された場合)λ=3.6〜4.2μmで確認された。前記損失は、λが3μmに近くなるにつれ約50%ずつ増加した。λ=5.0μmで発振するICLでは、オージェ係数7.1×10−28cm/s、およびさらに高い内部損失31cm−1が確認された。
【0068】
特定の実施形態、態様、および特徴が記載および図示されたが、本願明細書に記載の本発明はこれらの実施形態、態様、および特徴だけに限定されるものではないと注意すべきである。
【0069】
例えば比較的少量(40%未満)のInを前記GaSb正孔井戸およびAlSbバリアに添加することが可能であり、本発明の基本的概念を変更することなく少量のSb(30%未満)を前記InAs電子井戸に加えることが可能である。
【0070】
2つ以上の正孔井戸が前記正孔インジェクタに使用することができ、それぞれの正孔井戸の厚みはここに記載される実施形態に記される値以上へと増化可能である。同様に、前記正孔インジェクタの前記バリアの組成と厚みは、前記デバイスの動作に多大な影響を与えることなく多少変更可能である。前記GaInSb活性正孔井戸の前記In部分の厚みはさらに大きくするか、もし成長条件が合致する場合にはわずかに減らすことが可能である。
【0071】
前記クラッド、SCLs、および遷移領域の前記ドーピングは、比較的小さな内部損失を保つ一方多少変更することができ、前記強くドーピングされた領域の前記モードとの重なりの量は、多少増加又は減少させることができる。
【0072】
前記遷移領域の前記層の前記厚みおよび組成は、前記遷移領域での前記伝導帯最低部の位置が、前記デバイスの前記2つの基本領域の伝導帯最低部の間の中間地点にある限り、変更可能である。
【0073】
1、2、若しくはそれ以上のSCL領域を用いることができる。ほとんどすべてのレイヤにおいて、GaSb、GaInSb、又はAlSbが上記に特定される場合、前記Ga(InAlAs)Sb系に基づく関連する二元合金、三元合金、四元合金、五元合金が「バリア」、「正孔量子井戸」等の前記主要機能が満たされ続ける限り通常置換可能である。InAs又はAl(In)Sbにかわり、InGaAlAsSbについても同様である。
【0074】
本構造は、底部コンタクト層も含めることが可能であり、これは上部および底部のコンタクト両方が前記デバイスのエピタキシャル側に施される場合に限る。もしくは、明確なコンタクト層が存在しない場合であっても電気コンタクトを設けることが可能である。
【0075】
最後に、上記に記載の通り、NRLテストが上述の8つすべての特徴は一般的に前記レーザー動作に有益であると確認されたが、前記8つのいかなる特徴の1つ又はそれ以上を単独または前記8つの特徴の他のいずれかと組み合わせて使用することによって、好ましいICL性能を維持することが可能である。
【0076】
当業者は変更を加えることができると理解されるべきであり、本願出願は、本願明細書に記載され請求される根本的な発明の精神と技術範囲内のありとあらゆる変更を考慮するものである。すべてのそのような組み合わせおよび実施形態は本願開示の範囲内である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バンド間カスケード利得媒質であって、
活性利得領域を有し、当該活性利得領域は、
第1の端部と、前記第1の端部に向かい合う第2の端部とを有しかつ複数のカスケード化された段を含むものであり、それぞれの当該カスケード化された段は、活性利得量子井戸領域と、正孔インジェクタ領域と、電子インジェクタ領域とを含むものであり、前記活性利得量子井戸領域、前記正孔インジェクタ領域、および前記電子インジェクタのそれぞれは、複数の電子バリアと、少なくとも1つの電子量子井戸および正孔量子井戸とを有し、前記活性利得領域は、前記第1の端部に第1の段の活性利得量子井戸領域と、前記第2の端部に最後の段の電子インジェクタ領域と、を有する活性利得領域であって、
前記活性利得領域が有する少なくとも1つの段の少なくとも1つの正孔インジェクタ領域は、隣接する電子インジェクタ領域から電子バリアによって分離されるものであり、当該電子バリアは、AlSbおよびAlGInAsSbのうち1つを含み、かつ少なくとも約20Åの厚みを有するものである、
バンド間カスケード利得媒質。
【請求項2】
請求項1記載のバンド間カスケード利得媒質において、前記電子バリアは、前記正孔インジェクタ領域を隣接する前記電子インジェクタ領域から分離するものであり、かつ少なくとも約25Åの厚みを有するものである。
【請求項3】
請求項1記載のバンド間カスケード媒質において、前記正孔インジェクタ領域と前記隣接する電子インジェクタ領域との間の前記バリアの厚みは、波動関数の重なりを少なくとも0.3%に保ちながら、バンド間光学行列要素がゾーンセンターにおいて0.2eV Å以内とするのに十分なものである。
【請求項4】
請求項1記載のバンド間カスケード利得媒質において、前記活性利得領域が有する少なくとも1つの段の少なくとも1つの電子インジェクタ領域は、約250Å未満の厚みを有するものである。
【請求項5】
請求項4記載のバンド間カスケード利得媒質において、前記活性利得領域が有する少なくとも1つの段の前記少なくとも1つの電子インジェクタ領域は、複数の交互する電子バリアと電子量子井戸とを有するものであって、当該電子量子井戸の第1部分は、約50Å未満の厚みを有し、当該電子量子井戸の複数の残り部分はそれぞれの厚みがその前の電子量子井戸の厚みよりも薄いものである。
【請求項6】
請求項4記載のバンド間カスケード利得媒質において、前記活性利得領域が有する少なくとも1つの段の前記少なくとも1つの電子インジェクタ領域は、複数の交互する電子バリアと電子量子井戸とを有するものであって、当該電子量子井戸の第1部分は、約42Å未満の厚みを有し、当該電子量子井戸の複数の残り部分はそれぞれの厚みがその前の電子量子井戸の厚みよりも薄いものである。
【請求項7】
請求項4記載のバンド間カスケード利得媒質において、このバンド間カスケード利得媒質は、さらに、
前記活性利得領域と対応するクラッド層との間に配置された高屈折率の分離閉じ込め層を有し、当該分離閉じ込め層は、GaSb、GaInSb、GaAlSb、GaAsSb、GaAlAsSb、GaInAsSb、GaAlInSb、およびGaAlInAsSbのうち1つを有し、かつ少なくとも全体が約0.8μmの厚みを有するものである。
【請求項8】
請求項7記載のバンド間カスケード利得媒質において、前記分離閉じ込め層は、少なくとも全体が約1.4μmの厚みを有するものである。
【請求項9】
請求項7記載のバンド間カスケード利得媒質において、前記分離閉じ込め層は、約2×1017cm−3未満のレベルでn型ドーピングされるものである。
【請求項10】
請求項7記載のバンド間カスケード利得媒質において、前記活性利得領域の少なくとも1つの段が有する前記活性量子井戸領域の少なくとも1つの正孔量子井戸は、xが0.3以上であるGa1−xInSb正孔量子井戸を有しかつ約25Åから約50Åの厚みを有するものである。
【請求項11】
請求項7記載のバンド間カスケード利得媒質において、前記活性利得領域が有する少なくとも1つの段の少なくとも1つの正孔インジェクタ領域は、電子バリアおよび正孔バリアのうち1つを有する少なくとも1つの量子バリアを有し、さらに、少なくとも2つの正孔量子井戸を有するものであって、前記少なくとも1つの量子バリアのそれぞれは、AlSb、AlGaSb、AlGaAsSb、およびAlGaInAsSbのうち1つを含み、前記少なくとも2つの正孔量子井戸のそれぞれは、GaSb、GaInSb、GaAlSb、GaAsSb、GaAlAsSb、GaInAsSb、GaAlInSb、およびGaAlInAsSbのうち1つを有し、前記正孔インジェクタ領域の前記正孔量子井戸の全厚みは、約100Åを超えるものである。
【請求項12】
請求項7記載のバンド間カスケード利得媒質において、前記正孔インジェクタ領域の第1の電子バリアであって前記正孔インジェクタ領域を隣接する活性量子井戸領域から分離する前記第1の電子バリアは、ゾーンセンター活性電子量子井戸状態とインジェクタ正孔状態の間の波動関数の重なりの2乗を5%以内に下げるのに十分な厚みを有するものである。
【請求項13】
請求項7記載のバンド間カスケード利得媒質において、前記活性利得領域は、最大で7段のカスケード化された段を有するものである。
【請求項14】
請求項7記載のバンド間カスケード利得媒質において、このバンド間カスケード利得媒質は、さらに、
少なくとも1つのグレーデッド遷移層を有するものであり、当該グレーデッド遷移層は、前記バンド間カスケード利得媒質の第1の領域であって第1の最低伝導帯エネルギーを有する部分と、前記利得媒質の第2の領域であって第2の最低伝導帯エネルギーを有する部分との間に配置され、前記第1と第2の最低伝導帯エネルギーの違いによって生じるバンド不連続を滑らかにするものである。
【請求項15】
請求項7記載のバンド間カスケード利得媒質において、このバンド間カスケード利得媒質は、さらに、
グレーデッドドーピングプロファイルを有する少なくとも1つの光クラッド層を有するものであり、当該少なくとも1つの光クラッド層の第1部分のドーピングレベルは、前記少なくとも1つの光クラッド層の第2部分のドーピングレベルより少なくとも2倍は低いものであって、前記少なくとも1つの光学クラッド層の前記第1部分とは、前記活性利得領域により近い部分である。
【請求項16】
バンド間カスケード利得媒質であって、
活性利得領域を有し、当該活性利得領域は、
第1の端部と、前記第1の端部に向かい合う第2の端部とを有しかつ複数のカスケード化された段を含むものであって、それぞれの当該カスケード化された段は、活性利得量子井戸領域と、正孔インジェクタ領域と、電子インジェクタ領域とを含むものであり、前記活性利得量子井戸領域、前記正孔インジェクタ領域、および前記電子インジェクタのそれぞれは、複数の電子バリアと、少なくとも1つの電子量子井戸および正孔量子井戸とを有し、前記活性利得領域は、前記第1の端部に第1の段の活性利得量子井戸領域と、前記第2の端部に最後の段の電子インジェクタ領域と、を有する活性利得領域であって、
前記活性利得領域が有する少なくとも1つの段の少なくとも1つの電子インジェクタ領域は、約250Å未満の厚さを有する、
バンド間カスケード利得媒質。
【請求項17】
請求項16記載のバンド間カスケード利得媒質において、前記活性利得領域が有する少なくとも1つの段の前記少なくとも1つの電子インジェクタ領域は、複数の交互する電子バリアと電子量子井戸とを有するものであって、当該電子量子井戸の第1部分は、約50Å未満の厚みを有し、当該電子量子井戸の複数の残り部分はそれぞれの厚みがその前の電子量子井戸の厚みよりも薄いものである。
【請求項18】
請求項16記載のバンド間カスケード利得媒質において、前記活性利得領域が有する少なくとも1つの段の前記少なくとも1つの電子インジェクタ領域は、複数の交互する電子バリアと電子量子井戸とを有するものであって、当該電子量子井戸の第1部分は、約42Å未満の厚みを有し、当該電子量子井戸の複数の残り部分はそれぞれの厚みがその前の電子量子井戸の厚みよりも薄いものである。
【請求項19】
請求項16記載のバンド間カスケード利得媒質において、このバンド間カスケード利得媒質は、さらに、
前記活性利得領域と対応するクラッド層との間に配置された高屈折率の分離閉じ込め層を有し、当該分離閉じ込め層は、GaSb、GaInSb、GaAlSb、GaAsSb、GaAlAsSb、GaInAsSb、GaAlInSb、およびGaAlInAsSbのうち1つを有し、かつ少なくとも約0.8μmの合計厚さを有するものである。
【請求項20】
請求項19記載のバンド間カスケード利得媒質において、前記高屈折率分離閉じ込め層は、全体が少なくとも約1.4μmの厚さを有するものである。
【請求項21】
請求項19記載のバンド間カスケード利得媒質において、前記高屈折率分離閉じ込め層は、2×1017cm−3未満のレベルでn型ドーピングされたものである。
【請求項22】
バンド間カスケード利得媒質であって、
活性利得領域を有し、当該活性利得領域は、
第1の端部と、前記第1の端部に向かい合う第2の端部とを有しかつ複数のカスケード化された段を含むものであって、それぞれの当該カスケード化された段は、活性利得量子井戸領域と、正孔インジェクタ領域と、電子インジェクタ領域とを含むものであり、前記活性利得量子井戸領域、前記正孔インジェクタ領域、および前記電子インジェクタのそれぞれは、複数の電子バリアと、少なくとも1つの電子量子井戸および正孔量子井戸とを有し、前記活性利得領域は、前記第1の端部に第1の段の活性利得量子井戸領域と、前記第2の端部に最後の段の電子インジェクタ領域と、を有する活性利得領域であって、
このバンド間カスケード利得媒質は、さらに、少なくとも1つの高屈折率の分離閉じ込め層であって、前記活性利得領域と対応するクラッド層との間に配置される前記高屈折率の分離閉じ込め層を有し、当該分離閉じ込め層は、GaSb、GaInSb、GaAlSb、GaAsSb、GaAlAsSb、GaInAsSb、GaAlInSb、およびGaAlInAsSbのうち1つを有し、かつ少なくとも全体が約0.8μmの厚さを有する、
バンド間カスケード利得媒質。
【請求項23】
請求項22記載のバンド間カスケード利得媒質において、前記高次分離閉じ込め層は、少なくとも約1.4μmの合計厚さを有する。
【請求項24】
請求項22記載のバンド間カスケード利得媒質において、前記高次分離閉じ込め層は、2×1017cm−3未満のレベルでn型ドーピングされるものである。
【請求項25】
バンド間カスケード利得媒質であって:
活性利得領域を有し、当該活性利得領域は、
第1の端部と、前記第1の端部に向かい合う第2の端部とを有しかつ複数のカスケード化された段を含むものであって、それぞれの当該カスケード化された段は、活性利得量子井戸領域と、正孔インジェクタ領域と、電子インジェクタ領域とを含むものであり、前記活性利得量子井戸領域、前記正孔インジェクタ領域、および前記電子インジェクタのそれぞれは、複数の電子バリアと、少なくとも1つの電子量子井戸および正孔量子井戸とを有し、前記活性利得領域は、前記第1の端部に第1の段の活性利得量子井戸領域と、前記第2の端部に最後の段の電子インジェクタ領域と、を有する活性利得領域であり;
さらに、複数の分離閉じ込め層と、少なくとも1つの光クラッド層とを有し;
前記活性利得領域の少なくとも1つの段が有する前記活性量子井戸領域の少なくとも1つの正孔量子井戸は、xが少なくとも0.3であるGa1−xInSb正孔量子井戸を有し、かつ約25Åから約50Åの厚みを有し;
前記活性利得領域が有する少なくとも1つの段の少なくとも1つの正孔インジェクタ領域は、電子バリアおよび正孔バリアのうち1つを有する少なくとも1つの量子バリアを有し、さらに、少なくとも2つの正孔量子井戸を有するものであって、前記少なくとも1つの量子バリアのそれぞれは、AlSb、AlGaSb、AlGaAsSb、およびAlGaInAsSbのうちから1つを含み、前記少なくとも2つの正孔量子井戸のそれぞれは、GaSb、GaInSb、GaAlSb、GaAsSb、GaAlAsSb、GaInAsSb、GaAlInSb、GaAlInAsSbのうちから1つを有し、前記正孔インジェクタ領域の前記正孔量子井戸の合計厚さは、約100Åを超えるものであり;
前記活性利得領域が有する少なくとも1つの段の少なくとも1つの正孔インジェクタ領域は、隣接する電子インジェクタ領域から電子バリアによって分離されるものであり、当該電子バリアは、前記少なくとも1つの正孔インジェクタ領域と前記隣接する電子インジェクタ領域の間に少なくとも約20Åの厚みを有し、前記電子バリアはAlSbおよびAlGaInAsSbのうち1つを含むものであり;
前記正孔インジェクタ領域の第1の電子バリアであって、前記正孔インジェクタ領域を隣接する活性量子井戸領域から分離する当該第1の電子バリアは、ゾーンセンター活性電子量子井戸状態とインジェクタ正孔状態の間の波動関数の重なりの2乗を5%以内に下げるのに十分な厚みを有するものであり;
前記活性利得領域が有する少なくとも1つの段の少なくとも1つの電子インジェクタ領域は、約250Å未満の厚みを有するものであり;
前記活性利得領域は、7段より多くのカスケード化された段を含まないものであり;
少なくとも1つのグレーデッド遷移層を有するものであり、当該グレーデッド遷移層は、前記バンド間カスケード利得媒質の第1の領域であって第1の最低伝導帯エネルギーを有する部分と、前記利得媒質の第2の領域であって第2の最低伝導帯エネルギーを有する部分との間に配置され、前記第1と第2の最低伝導帯エネルギーの違いによって生じるバンド不連続を滑らかにするものであり;
前記少なくとも1つの分離閉じ込め層は、前記活性利得領域と対応するクラッド層との間に配置された高屈折率の分離閉じ込め層を有し、当該分離閉じ込め層は、GaSb、GaInSb、GaAlSb、GaAsSb、GaAlAsSb、GaInAsSb、GaAlInSb、およびGaAlInAsSbのうち1つを有し、かつ少なくとも約0.8μmの合計厚さを有するものであり;
前記少なくとも1つの光クラッド層は、グレーデッドドーピングプロファイルを有し、前記少なくとも1つの光クラッド層の第1部分のドーピングレベルは、前記少なくとも1つの光クラッド層の第2部分のドーピングレベルより少なくとも2倍は低いものであって、前記少なくとも1つの光学クラッド層の前記第1部分とは、前記活性利得領域により近い部分である;
バンド間カスケード利得媒質。
【請求項26】
請求項25記載のバンド間カスケード利得媒質において、前記活性利得領域の段数は、それぞれの段が約3から約8cm−1のモード利得を提供する段数である。
【請求項27】
請求項25記載のバンド間カスケード利得媒質において、前記少なくとも1つのグレーデッド遷移層は、一連のInAs/AlSbおよびInAs/AlSb/GaSb遷移超格子を含み、当該遷移超格子は、約8周期の約20.1Å InAs/約19Å AlSbと、約10周期の約15.9Å InAs/約15Å AlSbと、約12周期の約7Å InAs/約6.4Å AlSb/約15Å GaSbとを有し、前記約8周期の前記第1部分は、より低い伝導帯最低部を有する前記層の隣から始まり、より高い伝導帯最低部を有する前記層の隣で終わるものである。
【請求項28】
請求項25記載のバンド間カスケード利得媒質において、前記少なくとも1つのグレーデッド遷移層は、約1×1017cm−3から約5×1017cm−3のレベルにドープされるものであり、前記低いドーピングは、前記レージングモードと高い重なりの領域において使用され、前記高いドーピングは、前記レージングモードと低い重なりの領域において使用される。
【請求項29】
請求項25記載のバンド間カスケード利得媒質において、前記少なくとも1つの光学クラッド層の前記第1の部分は、約0.5×1017cm−3から約2×1017cm−3のドーピングレベルを有し、前記少なくとも1つの光学クラッド層の前記第2の部分は、約2×1017cm−3から約5×1017cm−3のドーピングレベルを有するものであって、前記少なくとも1つの光学クラッド層の前記第1の部分は、前記第2の部分よりも前記活性利得領域に近く、かつ前記レージングモードの0.5%以下が前記第2の部分と重なるのに十分な厚みを有するものである。

【図1】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2012−507142(P2012−507142A)
【公表日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−533218(P2011−533218)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【国際出願番号】PCT/US2009/059769
【国際公開番号】WO2010/047948
【国際公開日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【出願人】(500238790)アメリカ合衆国 (13)
【Fターム(参考)】