説明

高温炉内用ガス仕切弁

【課題】ガス成分による弁座や弁箱の汚染や腐食が問題になり、かつ、高温を維持し続けなければならないガスの流動を制御するための仕切弁を提供する。
【解決手段】弁箱内にしきり板を設け、封止材として、系外から供給される、金属ガリウム、又は、高温で安定な粒体を用いることによって、作動ガスの流通を開閉する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークス炉等の各種高温ガスを取り扱う産業に係わる装置に使用する高温炉内用ガス仕切弁に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄用のコークス炉では、石炭の乾留時に発生する石炭乾留ガス(COG)を集合配管で回収して燃料に使用している。この際、発生するCOGは、850℃程度までの高温であるので、ガスの顕熱を回収して省エネルギを図ることが原理的には可能である。しかしながら、COG中には高沸点ガスであるタールが含有されており、700℃以下にCOGの温度が低下するとタールが凝縮する性質を持つ。一旦凝縮したタールは、凝縮後に性質が変化して、再度過熱しても容易には蒸発しない物質に変化することが多い。また、COGには、メタン等の炭化水素の形で含有されていた炭素が700℃以上の高温で分解して固体の炭素(煤)として析出する(この現象をコーキングと呼ぶ)性質も有する。この一旦析出した固体炭素も、互いに強固に結合しているため、再度温度を低下させても容易には炭化水素化しない。
【0003】
従来技術において、仮に、高温のCOGを流通させる場合、このようなタールや固体炭素が管路系設備(管路、弁、送風機等)のCOG接触面において多量に付着するため、管路系設備の操作が困難となる。このため、従来、コークス炉にて発生したCOGは、コークス炉の上昇管から排出されると、直ちに水冷されて常温化とされていた。この際、タールは凝縮してCOGから分離されて冷却水中に混和して除去されるので、常温のCOG中の低沸点ガス(これをドライCOGと呼ぶ)のみが燃料として回収されてきた。ドライCOGには、特段の作業上の問題はないので、一般的な産業用管路系設備を適用することができ、管路のガス流れを自由に制御できる。
【0004】
一方、前記上昇管中は、COGはタールを除去されていないガス(ウェットCOGと呼ぶことにする)と接触せざるを得ないので、上昇管内面へのコーキングが避けられない。また、COGは一連の石炭乾留作業のプロセスにおいて低温化する場合があり、このとき、COG中のタールの凝縮物が上昇管内壁面に付着して、強固な固着層を形成することもある。これらの付着物は、操業を継続すると増大し続けて上昇管の管路を閉塞させるので、上昇管の管路では、一定短周期毎、例えば、毎日、上昇管内面に付着した炭素を焼き取る作業を必要とする。このような上昇管で生じるタール付着やコーキングの問題は、上昇管に限らず、ウェットCOGを流通させる管路系に共通の問題である。
【0005】
また、ウェットCOG中には、粉石炭に由来する、直径数μmから数mm程度の煤塵が、例えば、1g/m以上といった高濃度で浮遊している。このため、ウェットCOGに精緻なメカニカルシールを施したとしても、この煤塵がシール部に容易に噛みこんでシール性を極端に悪化させる問題も存在する。
【0006】
このため、従来技術においては、タール付着、コーキング及びガス中煤塵の問題で、COGの顕熱は殆ど利用されることなく、COGは速やかに水冷されていた。例えば、特許文献1に示す、上昇管とドラインメーンの間に流量調整弁を設置する方法においては、流量調整弁を流通するCOGは、スプレー水散布によって既に低温化されたものであり、また、流量調整弁単独ではガスの流通を遮断することはできないので、別途、水封弁を必要とする。特許文献2には、ウェットCOG用の遮断弁が開示されているが、この装置では弁座と弁箱が共にウェットCOGに接触し続け、これらの表面での激しいコーキングやタール凝縮固化が避けられないので、頻繁な清掃作業が必要である。また、特許文献3には、上昇管内に空気配管を設けて、上昇管内の高温なCOG流れによって空気管内を流通する空気を加熱することで排熱回収を図っている。しかし、この装置の場合、COGの冷却量が大きいとCOGが直ちにタールとして空気配管表面に凝縮固化して伝熱を阻害すると共に、上昇管を閉塞させる問題を生じるので、COG顕熱の僅かな部分しか回収できないと言う問題がある。
【0007】
このように、高温ウェットCOGの顕熱利用に際しては、排熱回収を目的とするよりも、高温でしかなし得ないCOGの有用な化学反応(ガス改質)を促進することを主眼にする方が有利と考えられる。
【0008】
上昇管にも管路開閉の必要があるので、通常、上昇管頂部蓋及びドライメーン蓋の2つの弁が設けられている。上昇管頂部蓋は、乾留終了後にコークス炉内の残留ガスを大気中に放散させつつ燃焼させるためのものであり、上昇管との間では、作業中には水封されている。あるいは、付着物析出によって上昇管頂部蓋が上昇管に固着することを避けるため、上昇管と蓋との間に予め隙間を設けて完全にはCOGを封止しない構造とすることもかつては採用されてきた。また、ドライメーン蓋は、上昇管とドライメーンを繋ぐ管路の蓋であるが、こちらも、管路閉止する場合には水封されている。このように、従来技術でウェットCOGに接触し得る弁は、低温に維持されるか、完全に封止しない構造のものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−107466号公報
【特許文献2】実公昭62−39077号公報
【特許文献3】実開昭58−7847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ウェットCOGの状態でCOGの顕熱を利用するためには、高温状態のウェットCOGの管路系内での流通を制御するための管路を開閉できる弁が必要不可欠である。しかしながら、従来技術の弁(蓋)ではウェットCOGを完全には封止できないか、ウェットCOG中に含まれる煤塵が弁座と弁箱内に噛みこんで弁の開閉および封止性を阻害するか、ウェットCOGを低温化してしまうか、あるいは、操業(石炭乾留)を頻繁に終了して弁内面に固着するタールや固体炭素を、除去する必要がある等、不確実か実現困難なものしか存在しなかった。
【0011】
そこで、本発明においては、ガス成分による弁座や弁箱の汚染や腐食が問題になり、かつ、高温を維持し続けなければならないガス、例えば、常温から900℃程度までのウェットCOG、に対して、管路内で長期間の流通を制御可能な高温炉内用ガス仕切弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、本発明者の研究の結果、以下の解決方法を発明するに至った。
第1発明は、系内を密閉状態と開放状態との間で切り替えるための上蓋と、
封止材を系外から弁箱内に導くための封止材導入管と、
内部が常温から900℃の範囲の温度の加熱炉内に配置され、上流からのガス管及び下流へのガス管と接続すると共に、弁箱内に導入した封止材を用いて弁箱内部を上流側空間と下流側空間に分離するためのしきり板を設けた弁箱と、
前記弁箱内の封止材を系外に排出するための封止材排出管と、
弁内部の封止材を系外に排出する状態と前記封止材を系内から流出させない状態との間で切り替えるための下蓋と、
を上方から下方へ順にそれぞれ連結してなる高温炉内用仕切弁であって、
前記上流からのガス管を通じて弁箱内に流入するガスの流線の曲率半径を前記弁箱の最大幅の1/2以下とするように前記弁箱及び前記しきり板を構成することを特徴とする高温炉内用仕切弁である。
【0013】
第2発明は、前記封止材が金属ガリウムを主体とする物質であることを特徴とする第1発明に記載の高温炉内用仕切弁である。
【0014】
第3発明は、前記封止材が、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、窒化珪素、炭化珪素の内、1種又は2種以上の組み合わせを主体とする粒体であることを特徴とする第1又は第2発明に記載の高温炉内用仕切弁である。
【0015】
本発明の特徴について説明する。
第1の特徴は、常温から900℃程度の高温までの温度範囲で物理的な性質の大きく変化しない粒状材料を仕切弁の封止材として用いることで、本発明に求められる広い範囲での弁の封止性を確保している点である。これに対して、従来技術の封止方法、例えば、水封弁の場合、高温では水を液相として維持できないので、これを適用することができない。
【0016】
第2の特徴は、次のとおりである。仕切弁では、所要機能に応じて仕切弁部品間で異なる材料を組み合わせて用いることが一般的である。このような仕切弁が広い温度範囲で使用される場合、前記部品間の熱膨張差が生じるので、前記部品間の接触、例えば、弁座と弁箱間の接触において、機械加工で言うところの嵌め合いを広い温度範囲で同一状態に維持することは困難である。また、900℃と言った高温で弁が使用される場合、長期的にはクリープによって材料の変形することが避けられないので、作動温度が一定であっても、長期間に渡って同一の嵌め合いを維持することも困難である。従来技術の仕切弁では、弁箱を弁座に締め付けることによって作動流体の封止を行う構造であるので、弁の嵌め合いが変化すると、弁箱と弁座間に隙間を生じて封止が不完全となることや、逆に、弁箱と弁座間の接触力が過大となって、弁箱を移動できなくなると言った問題が起きる。一方、本発明では、弁箱内に可動部が存在せず、かつ、自在に変形しうる、流体や粒体を封止材に用いているので、上記の問題を回避することができる。
【0017】
第3の特徴は、本発明では、比較的多量の粒状の封止材を用いているので、ウェットCOGに接触する材料で避けることのできない、材料へのコーキングやタール凝縮固化、並びに、ガス中に含まれる煤塵の付着による封止性への悪影響を受け難いと共に、弁箱内の流路構造を工夫してウェットCOG中に含まれる煤塵を封止材中に積極的に捕集・固定するので、弁の下流側の装置に対してガスを清浄化する効果を発揮することができる。また、本発明の装置では封止材を弁の開閉のたびに交換するので、封止材の劣化による封止性や作業性の悪化の影響が少ない。
【0018】
第4の特徴は、本発明では、弁の構造物の大半を加熱炉内に配置するので、弁の部品間の温度差を低減することができることである。従来技術で高温ガスを流通させる弁では、高温ガスとの接触部位である内側を高温に保ち、かつ、弁の外側を低温に保つことにより、弁の強度と作業性を確保することが指向されてきた。このような設計前提で、弁に加熱装置設けない場合、弁を通過する高温ガスは弁によって冷却されるので、例えば、ウェットCOGを流通させる際にタールの弁内面への析出の避けられない問題がある。また、弁の内側に加熱装置を設けることによって弁を通過する高温ガスからの抜熱を避ける方法も考えられるが、この場合、弁の内側と外側での温度差が大きいため、弁の内側を一様に一定温度に制御することが困難である。また、これら従来技術の方法では、弁の部品間に大きな温度差が与えられるので、900℃と言った高温で弁を使用する場合、大きな熱応力を生じて弁の寿命を著しく低減してしまう問題も生じる。本発明では、弁を通過する高温ガスとほぼ同一の温度に保持された加熱炉内に弁を配置することによって、弁全体の温度を一様、かつ、一定に保持できるので、上記の従来技術での問題を回避することができる。
【0019】
第5の特徴として、本発明の装置は、弁箱の構造が単純で、かつ、弁の開口(上蓋や下蓋)を高温炉外に設けているので、弁の閉塞等のトラブルの生じた場合でも、この開口を通じて治具を弁箱内に装入する等して、容易に弁の機能を復旧させることができる。従来技術の仕切弁の場合、弁箱の閉塞が生じた場合には、弁を系から取り外して分解整備する必要がある。
【発明の効果】
【0020】
本発明によって、ウェットCOGの顕熱を利用する各種ガス改質技術が適用可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態における弁の構造の模式図である。
【図2】本発明の実施形態において弁を閉止した状態の模式図である。
【図3】本発明の実施形態において弁を開放した状態の模式図である。
【図4】本発明の実施形態においてガスの流線と粒子の軌跡の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0023】
(弁の構造)
本発明の実施形態に係る仕切弁の構造について図1を用いて説明する。弁箱1は、高温炉8内に設置されて、例えば、800℃以上の高温に維持されることによって、弁箱1内を通過するウェットCOG中タールの凝縮を防止する。弁箱1の上部には、作動ガスを流通させるための上流ガス管9及び下流ガス管10が接続する。弁箱1内部には、弁箱1内に開口を設けた円筒であるしきり板6が接続されている。弁箱1の上方には封止材導入管2が弁箱1と接続し、この管2を通じて系外から封止材を弁箱1内部に導入することができる。封止材導入管2の上端には、上蓋4が接続し、封止材の弁箱1内への導入時、又は、弁箱1内で封止材の閉塞が生じた際に開栓作業を行うための治具を弁箱内に装入するとき等には、この上蓋4を開放し、それ以外では、上蓋4を閉止して弁箱1内部の気密性を確保する。弁箱1の下方には封止材流出管3が弁箱1に接続し、この管3を通じて、弁箱1内の封止材の一部又は全部、及び、弁箱1内で回収された作動ガス中の微粒子を系外に排出する。封止材流出管3の下端には下蓋5が接続し、封止材の弁箱1内からの排出時、又は、弁箱1内や封止材流出管3内で封止材の閉塞が生じた際に開栓作業を行うための治具を弁箱1内に装入するとき等には、この下蓋5を開放し、それ以外では、下蓋5を閉止して弁箱1内部の気密性を確保する。上蓋4や下蓋5の構造は、市販の開閉蓋を用いることができ、開閉操作は、手動で行うことができる。炉温の低い状態で封止材の流動性を調整するために、弁箱1の周囲に、ヒータ12を適宜、設けてもよい。弁箱1への封止材の供給は、スコップ等を用いて手動で行ってもよいし、市販のホッパやフィーダ等である封止材供給装置7を用いてもよい。
【0024】
弁を構成する材料として、高温炉内に配置されるものには、SUS310等の耐熱ステンレス鋼、ハステロイ等の耐熱ニッケル合金、又は、耐熱セラミックスを適用することができる。また、炉外に配置される部品に関しては、強度を維持できれば、特段の制約はなく、例えば、普通鋼を用いることができる。また、上蓋や下蓋用の封止材としては、この部分を200℃以下程度の温度に維持することを前提に、市販の樹脂性シール材を用いることができる。
【0025】
弁箱1の寸法には、特に制約はないが、ウェットCOGに含まれる微粒子の主体をなす数十μmから数百μmの粒子の作動ガスからの分離を効率的に行ようにガス流れの曲率を調整する観点から、弁箱1の最大幅が50mm〜3000mmの範囲であることが好ましい。
【0026】
封止材導入管2及び封止材流出管3の上端部又は下端部を高温炉外に配置することができる。このようにすることで、封止材導入管2及び封止材流出管3に接続する上蓋4及び下蓋5の温度を高温炉内よりも十分に低く維持することができ、蓋の開閉操作及び封止材の導入・流出操作を容易に行うことができる。
【0027】
(弁の開閉操作)
弁の閉止状態である図2を用いて弁の閉止操作について説明する。下蓋5を閉止した状態で上蓋4を開放し、ここから弁箱1内に封止材11を供給する。封止材11の供給量は、しきり板6の下端が全て封止材11に埋没する分量以上であり、かつ、封止材11の表面が下流ガス管10の高さに達しない分量となるように設定する。この封止材高さの設定においては、封止材導入管2を通して目視によって適宜、この高さを調整することができる。図2の状態では、弁箱内において、上流ガス管9側の空間と下流ガス管10側の空間は、しきり板6と封止材11によって分離されているので、作動ガスの流通を阻止又は抑制することができる。
【0028】
次に、弁の開放状態である図3を用いて弁の開放操作について説明する。上蓋4を閉止した状態で下蓋5を開放し、ここから弁箱1内の封止材11を所定量排出する。封止材11の排出量は、弁箱1内の封止材11表面について、しきり板6の下端の少なくとも一部が封止材11から露出する高さ以下であり、かつ、封止材流出管3内で、高温炉内に位置する部位以上の高さであるように、適宜調整する。この封止材高さの設定においては、封止材導入管2を通して目視によって適宜、この高さを調整することができる。図3の状態では、弁箱1内において、上流ガス管9側の空間と下流ガス管10側の空間は連結しているので、作動ガスを上流ガス管9から下流ガス管10に流通させることができる。封止材流出管3内に封止材を残留させるのは、封止材11を断熱材として作用させることにより、弁箱1内部の温度を高温に維持するためである。
【0029】
(弁箱内での流れ)
弁箱1内での作動ガス及びガス中に浮遊する微粒子の流れについて、図4を用いて説明する。弁の開放状態において、上流ガス管9から流入した作動ガスの代表的な流線13は、弁箱1及びしきり板6によって形成された流路構造に従って、まず、弁箱内壁に沿って旋回し、次に、しきり板6の下端を回り込んでから上昇し、最後に下流ガス管10から流出する。この際、作動ガスの任意の流線は、曲率半径が弁箱1の半径(この長さは弁箱1の最大幅の1/2と同程度の大きさであり、かつ、当然のことながら、最大幅の1/2よりも大きいことはない。)以下に必ず制限される。このように弁箱1内では、任意の作動ガス流線中に、必ず小さな曲率半径となる部位が存在するので、この部位で作動ガス中に含まれる微粒子はガス流れに追従できずにスリップを生じ、さらに、スリップを生じた微粒子の一部又は全部は、弁箱1内壁に衝突して減速する等して、最終的に弁箱1下方に存在する封止材11に補足されて作動ガス中から除去される(この状態が微粒子の軌跡14に対応する)。その結果、従来技術の仕切弁をウェットCOGに適用する際の大きな問題であった、ガス中の煤塵の影響を軽減することができる。
【0030】
(封止材)
封止材11には、金属ガリウムを主体とした液体金属を用いることができる。金属ガリウムの融点は29℃であり、沸点は2000℃以上であるので、ヒータ12等を用いて封止材温度を融点以上に維持することにより、作動ガス温度が常温から900℃の範囲で封止材は液相を維持できる。900℃における金属ガリウムの蒸気圧は、0.1Pa程度以下と極めて低いので、封止材の蒸発によって生じ得る数々の不具合、例えば、弁の下流側設備内での封止材11の凝固による付着物発生を回避することができる。
【0031】
ここで、「主体」とは、液体金属中で金属ガリウムが50質量%以上を占めるものを指し、上記の金属ガリウムの性質、特に、常温程度以下の低温である融点、かつ、ウェットCOGの操作温度よりも十分の高温である沸点を有するという利点を大きく損なうことない範囲で微量の不純物又は添加物が金属ガリウムに含まれ得る。例えば、金属ガリウム68.5質量%、インジウム21.5質量%及び錫10質量%を含有する液体金属は、成分中でガリウムが大半を占め、かつ、融点が−19℃、沸点が1300℃以上であり、金属ガリウムの性質を大きく損なうとはいえないので、本発明でいうところの金属ガリウムを主体とした液体金属に含まれる。また、不純物を合計約1質量%のオーダで含み得る再生ガリウム等の材料も、常温程度以下の低温である融点、かつ、ウェットCOGの操作温度よりも十分の高温である沸点という条件を満たす限り、本発明でいうところの金属ガリウムを主体とした液体金属に含まれる。
【0032】
また、封止材11として、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、窒化珪素、炭化珪素の内、1種又は2種以上の組み合わせを主体とする粒体を用いることができる。これらの物質は、工業的に容易に得られ、常温から900℃の温度範囲で安定であり、ウェットCOGとの反応性が低く、さらに、この温度域では焼結性も低いので、粒体の流動性が損なわれることが少ないので好適である。他の物質、例えば、珪砂の場合、この温度域で変態を生じるため、粒子が崩壊し易く、封止材11として好適ではない。また、ソーダガラス粒を用いる場合、この温度域では軟化、焼結を生じ得、粒体の流動性を確保できずに弁箱内での閉塞を生じるので、封止材11として好適ではない。
【0033】
ここで、主体とは、上記の粒体が50質量%以上を占めるものを指し、上記の粒体の性質、特に、常温から900℃の温度範囲で安定であり、ウェットCOGとの反応性が低く、さらに、この温度域では焼結性も低いという利点を大きく損なわない範囲で微量の不純物又は添加物が上記の粒体に、粒子として、又は、上記粒体の個別粒子の成分として含まれ得る。例えば、窒化ホウ素の粒体を上記粒体に、例えば、5質量%程度以下の範囲で添加することができる。窒化ホウ素は高温での固体潤滑性が高いので、上記の粒体に少量添加することによって、粒体の流動性を向上する効果が期待できる。但し、窒化ホウ素粒体は機械的強度が低く、容易に崩壊するので、以下に示す望ましい粒体範囲を長期に維持することが困難であるため、大量に添加することには問題がある。また、上記流体の粒子として、必ずしも高純度の粒体を用いる必要はなく、例えば、酸化珪素を含有し、ムライト化させたアルミナ−シリカ組成である粒子によって構成される粒体であっても、上記の粒体の性質を大きく損なわないシリカ含有比率範囲(例えば、30質量%以下)であれば適用することができる。
【0034】
また、封止材11に粒体を用いる場合には、粒体の粒径を30μm以上、かつ、500μm以下にすることができる。この範囲よりも大きい粒体を用いた場合、封止材11による弁の封止性が著しく悪化するので好適ではない。また、この範囲よりも小さ粒体を用いた場合、弁開放時に作動ガス流れによって、弁箱1内部又は封止材流出管3内に残留させた封止材11表面での粒子の飛散が顕著に生じるので好適ではない。
【0035】
封止材11として、上記の金属ガリウムを主体とする液体金属と、上記の好ましい粒体をと同時に適用することも可能である。なお、金属ガリウムと上記粒体を併用する場合は、両者を併せて50質量%以上とするものである。この場合、粒体の比重の方が小さいので、粒体は、液体金属上に浮遊し、液体金属表面での液体金属の酸化を抑制すると共に、粒体が断熱材として機能することによって、弁箱1内を保温する効果を高めることができる。
【0036】
弁開放時に系外に排出した封止材11を回収し、篩分け等によって回収煤塵をオフラインで除去した後、封止材11を再利用することができる。
【0037】
封止材は、以上述べた種類に限定されるものではない。例えば、高純度の酸化タングステンは高温で安定性の高い物質であるので、これを所定の粒径で大量に製造できれば、本発明での封止材に適用することができる。
【0038】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0039】
1・・・弁箱
2・・・封止材導入管
3・・・封止材流出管
4・・・上蓋
5・・・下蓋
6・・・しきり板
7・・・封止材供給装置
8・・・高温炉
9・・・上流ガス管
10・・・下流ガス管
11・・・封止材
12・・・ヒータ
13・・・ガスの流線
14・・・粒子の軌跡
15・・・ガスの流線の曲率半径



【特許請求の範囲】
【請求項1】
系内を密閉状態と開放状態との間で切り替えるための上蓋と、
封止材を系外から弁箱内に導くための封止材導入管と、
内部が常温から900℃の範囲の温度の加熱炉内に配置され、上流からのガス管及び下流へのガス管と接続すると共に、弁箱内に導入した封止材を用いて弁箱内部を上流側空間と下流側空間に分離するためのしきり板を設けた弁箱と、
前記弁箱内の封止材を系外に排出するための封止材排出管と、
弁内部の封止材を系外に排出する状態と前記封止材を系内から流出させない状態との間で切り替えるための下蓋と、
を上方から下方へ順にそれぞれ連結してなる高温炉内用仕切弁であって、
前記上流からのガス管を通じて弁箱内に流入するガスの流線の曲率半径を前記弁箱の最大幅の1/2以下とするように、前記弁箱及び前記しきり板を構成することを特徴とする高温炉内用仕切弁。
【請求項2】
前記封止材が金属ガリウムを主体とする物質であることを特徴とする請求項1に記載の高温炉内用仕切弁。
【請求項3】
前記封止材が、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、窒化珪素、炭化珪素の内、1種又は2種以上の組み合わせを主体とする粒体であることを特徴とする請求項1又は2に記載の高温炉内用仕切弁。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−214652(P2011−214652A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82767(P2010−82767)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】