説明

高温炉内雰囲気成分の測定方法

【課題】炉内雰囲気温度が800℃以上の高温炉内の、雰囲気成分を測定することが可能な高温炉内雰囲気成分の測定方法を提供する。
【解決手段】炉内雰囲気温度800℃以上でセラミックス成形体を焼成する炉11の炉内雰囲気成分を、炉11の壁12に形成された貫通孔14に挿入した、炉内雰囲気温度で化学的に安定なサンプリング管1を通じて炉11の外部に流出させ、サンプリング管1を通じて炉11の外部に流出した炉内雰囲気成分をフィルター2で濾過し、サンプリング管1の内部を炉内雰囲気成分が通過するときに、サンプリング管1の内壁面に付着した、炉内雰囲気成分の中の、炉内雰囲気温度でガス状、且つ常温で固体の無機成分の付着量と、フィルター2で捕集した、サンプリング管1を通じて炉11の外部に流出した炉内雰囲気成分の中の無機成分の捕集量とを測定する高温炉内雰囲気成分の測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高温炉内雰囲気成分の測定方法に関し、更に詳しくは、炉内雰囲気温度が800℃以上の高温炉内の、雰囲気成分を測定することが可能な高温炉内雰囲気成分の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス製の構造体を製造する場合、通常、所定の成形体を焼成炉内で焼成して所望のセラミックス構造体を得る。しかし、焼成時には、成形体中の成分が揮発し、腐食成分による炉材の劣化やセラミックス構造体自身の品質劣化に及ぶことがある。
【0003】
セラミックス構造体を製造する場合の焼成炉に関する上記問題点について検討し、解決策を見出すためには、焼成炉内の炉内雰囲気成分の中の問題となる成分を分析し、その存在状況を把握することが不可欠である。
【0004】
従来、排ガス分析においては、ステンレススチール製等のサンプリング管を挿入して、雰囲気ガスをサンプリングし、溶液中にバブリング吸収したり、樹脂製、ガラス製等の濾過材でトラップしたりして、雰囲気中の濃度を算出することにより行われていた(例えば、非特許文献1参照)。
【非特許文献1】JIS K 0095 排ガス試料採取方法等
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記方法では、800℃以上の高温炉の炉内雰囲気成分の分析において、炉内雰囲気成分中に、炉内雰囲気温度でガス状、且つ常温で固体の無機成分が含まれている場合には、サンプリングの途中で、当該無機成分が、サンプリング管等に凝集、吸着し、正確な炉内雰囲気成分(無機成分)の濃度を測定することができなかった。
【0006】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、炉内雰囲気温度が800℃以上の高温炉内の、雰囲気成分を測定することが可能な高温炉内雰囲気成分の測定方法を提供することを特徴とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するため、本発明によって以下の高温炉内雰囲気成分の測定方法が提供される。
【0008】
[1] 炉内雰囲気温度800℃以上でセラミックス成形体を焼成する炉の炉内雰囲気成分を、前記炉の壁に形成された貫通孔に挿入した前記炉内雰囲気温度で化学的に安定なサンプリング管の内部を通過させて、炉の外部に流出させ、前記サンプリング管を通じて炉の外部に流出した炉内雰囲気成分をフィルターで濾過し、前記サンプリング管の内部を炉内雰囲気成分が通過するときに、前記サンプリング管の内壁面に付着した、炉内雰囲気成分の中の、炉内雰囲気温度でガス状、且つ常温で固体の無機成分の付着量と、前記フィルターで捕集した、前記サンプリング管を通じて炉の外部に流出した炉内雰囲気成分の中の前記無機成分の捕集量とを測定する高温炉内雰囲気成分の測定方法。
【0009】
[2] 前記サンプリング管の内壁面に付着した前記無機成分の付着量の測定を、前記サンプリング管の内壁面に付着させた前記無機成分を、前記サンプリング管からアルカリ性水溶液で抽出し、または、アルカリ性水溶液で抽出した後に更に、酸性水溶液で抽出し、得られた抽出物中の各成分の量を測定して行う[1]に記載の高温炉内雰囲気成分の測定方法。
【0010】
[3] 前記フィルターで捕集した前記無機成分の捕集量の測定を、湿式分析による精密分析によって行うか、もしくは、前記フィルターで捕集した前記無機成分の質量を測定し、更に前記フィルターで捕集した前記無機成分を蛍光X線FP(Fundamental Parameter)法で測定して行う[1]又は[2]に記載の高温炉内雰囲気成分の測定方法。
【0011】
[4] 前記炉内雰囲気成分の中の前記無機成分が、Si、Na、K、As、Sb、Bi、Sn、Pb、Zn、Cd、Cu、Ni、Co、Mn、Cr、V、Mg、Ca、Sr、及びBaからなる群から選択される少なくとも一種である[1]〜[3]のいずれかに記載の高温炉内雰囲気成分の測定方法。
【0012】
[5] 前記炉内雰囲気温度で化学的に安定なサンプリング管が、アルミナ、ジルコニア、石英及びイットリアからなる群から選択される少なくとも一種からなるサンプリング管である[1]〜[4]のいずれかに記載の高温炉内雰囲気成分の測定方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の高温炉内雰囲気成分の測定方法によれば、炉内雰囲気温度で化学的に安定なサンプリング管で炉内雰囲気成分(無機成分)を炉の外部に取り出し、サンプリング管により炉の外に流出した炉内雰囲気成分をフィルターで捕集するため、サンプリング管に付着した炉内雰囲気成分は、抽出等により、サンプリング管からの不純物の混入なしに回収することができ、また、サンプリング管に付着せずに炉の外部に流出した炉内雰囲気成分は、フィルターにより捕集され、回収することが可能となる。これにより、高温炉内雰囲気成分を確実に回収でき、その濃度を正確に測定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面を参照しながら具体的に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0015】
図1は、本発明の高温炉内雰囲気成分の測定方法の一実施形態を実施するための装置を模式的に示す断面図である。本実施形態の高温炉内雰囲気成分の測定方法を実施するために、図1に示すような装置を作製する。図1に示すように、高温炉(炉)11の壁(炉壁)12に、貫通孔14を形成する。そして、貫通孔14に炉内雰囲気温度で化学的に安定なサンプリング管1を挿入する。そして、サンプリング管1の炉内雰囲気成分が流出する側の端部に連結チューブ3の一方の端部が連結され、連結チューブ3の他方の端部にフィルター2が配設され、サンプリング管1の内部を通過して高温炉の外部に流出した炉内雰囲気成分が連結チューブ3の内部を通ってフィルター2に送られるように形成されている。そして、フィルター2を通過した高温炉内雰囲気成分が排出されるように、フィルター2に排気チューブ4が連結されている。サンプリング管1は、貫通孔14との隙間から外部に炉内雰囲気成分が流出しない状態で挿入することが好ましい。サンプリング管1と貫通孔14との隙間から外部に炉内雰囲気成分が流出しないようにするため、サンプリング管1の外周面と貫通孔14の内壁面との間にアルミナファイバーや石英ファイバー等を配設することが好ましい。
【0016】
本実施形態の高温炉内雰囲気成分の測定方法は、このような装置によって実施することができる。すなわち、本実施形態の高温炉内雰囲気成分の測定方法は、炉内雰囲気温度800℃以上でセラミックス成形体を焼成する炉(高温炉)11の炉内雰囲気成分を、炉11の壁(炉壁)12に形成された貫通孔14に挿入した炉内雰囲気温度で化学的に安定なサンプリング管1を通じて、炉内13から炉11の外部に流出させ、サンプリング管1を通じて炉11の外部に流出した炉内雰囲気成分をフィルター2で濾過する。そして、サンプリング管1の内部を炉内雰囲気成分が通過するときに、サンプリング管1の内壁面に付着した、炉内雰囲気成分の中の、炉内雰囲気温度でガス状、且つ常温で固体の無機成分の付着量と、フィルター2で捕集した、サンプリング管1を通じて炉の外部に流出した炉内雰囲気成分の中の前記無機成分の捕集量とを測定することにより、高温炉内雰囲気成分を測定するものである。ここで、「サンプリング管が炉内雰囲気温度で化学的に安定」というときは、炉内雰囲気温度において、サンプリング管自体が化学変化や変形を起こさず、且つ、サンプリング管が炉内雰囲気成分と化学反応を起こさないことをいう。また、常温とは20℃をいう。また、本実施形態の高温炉内雰囲気成分の測定方法において、「無機成分」というときは、無機成分、金属成分、及びこれらの化合物を含むものとする。例えば、Si、Na、K、As、Sb、Bi、Sn、Pb、Zn、Cd、Cu、Ni、Co、Mn、Cr、V、Mg、Ca、Sr、及びBaからなる群から選択される少なくとも一種、並びにこれらの化合物を挙げることができる。
【0017】
このように、炉内雰囲気成分をサンプリング管1の内部を通過させて炉内13から炉の外部に流出させ、外部に流出した炉内雰囲気成分をフィルター2で濾過するため、炉内雰囲気成分が炉から流出するときに、炉内雰囲気成分中の無機成分の一部がサンプリング管1内で凝集して内壁面に付着し、無機成分の残部がサンプリング管1に付着せずに流れて行き、フィルター2で捕集される。これにより、炉内雰囲気成分中の無機成分を、サンプリング管1及びフィルター2により効率的に回収することができ、炉内雰囲気中の無機成分の濃度を正確に測定することが可能となる。そして、これら無機成分の中に、焼成炉を腐食させる成分や、粉塵を形成する成分が含まれているため、本発明の高温炉内雰囲気成分の測定方法により、焼成炉内の腐食成分や粉塵の存在状態を把握することができ、これらを低減、除去する方策の検討に有効に利用することができる。
【0018】
サンプリング管1は、炉内雰囲気温度で化学的に安定である必要がある。これは、サンプリング管1の内壁面に無機成分が付着した時に、無機成分と化学反応を起こすと、無機成分の付着量を正確に測定することができないからである。そのため、サンプリング管は、例えば、アルミナ、ジルコニア、石英及びイットリアからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。サンプリング管1の形状は、特に限定されるものではなく、両端部が開放状態の筒状であればよい。例えば、円筒形、底面が四角形等の多角形の筒形状、底面が楕円形、長円形、トラック形状等の筒形状、底面が不定形の筒形状を挙げることができる。サンプリング管1の中心軸方向の長さは、特に限定されるものではないが、炉断熱層長さプラス100〜1000mmが好ましく、炉断熱層長さプラス200〜300mmが更に好ましい。サンプリング管1の空洞部分の中心軸に直交する断面の大きさは特に限定されないが、例えば、サンプリング管1が円筒形である場合には、内径が10〜50mmが好ましく、10〜15mmが更に好ましい。サンプリング管1の厚さ(肉厚)は、特に限定されないが、1〜10mmが好ましく、2〜5mmが更に好ましい。
【0019】
フィルター2は、サンプリング管1の内壁面に付着しなかった無機成分を捕集する必要がある。そのため、無機成分の粒径に応じて、無機成分を効率的に捕集できる細孔径を有する濾材(膜)を備えることが好ましい。例えば、図1に示すように、流入口2aと流出口2bとを有する中空の容器2cと、この容器2cを流入口2a側の空間と流出口2b側の空間とに仕切るように配設された濾材2dとを備えたフィルター2であることが好ましい。これにより、流入口から流入口側の空間に流入した炉内雰囲気成分は、濾材を通過しなければ流出口側の空間に移動できないため、炉内雰囲気成分をフィルターの流入口から流入させ、濾材を通過させて、流出口から流出させることにより、炉内雰囲気成分中の無機成分を濾材で捕集することが可能となる。濾材の細孔径は、特に限定されないが、0.1〜100μmが好ましく、7μm程度が更に好ましい。濾材の材質は、セルロース等が好ましいが、不純物の観点より、定量用ろ紙が特に好ましい。濾材厚さは、特に限定されないが、10〜1000μmが好ましく、100〜200μmが更に好ましい。濾材の面積は、特に限定されないが、50〜5000mmが好ましく、1000〜2000mmが更に好ましい。上記、濾材や容器の更に具体的な仕様は特に限定されないが、濾材としては、例えば、JIS規格の定量分析用5種A等を使用でき、濾材を装着するフィルターの容器としては、例えば、ジーエルサイエンス社製、ろ紙ホルダーEMI−47等を使用することができる。
【0020】
図1に示すように、本実施形態の高温炉内雰囲気成分の測定方法においては、サンプリング管1とフィルター2との間を連結チューブ3で連結し、サンプリング管1から流出する高温炉内雰囲気成分を連結チューブ3を通じて移送し、フィルター2に送るものである。本実施の形態の高温炉内雰囲気成分の測定方法は、サンプリング管1とフィルター2で回収した無機成分の量を測定することにより、高温炉内雰囲気における無機成分の濃度を測定するものであるため、サンプリング管1とフィルター2以外の部分に、無機成分が付着しないことが好ましく、付着したとしても微量(サンプリング管1とフィルター2で回収した量に対して1質量%以下)であることが好ましい。従って、連結チューブ3の材質は、無機成分が付着し難い、フッ素樹脂等であることが好ましい。連結チューブ3の長さは特に限定されないが、無機成分の付着防止や、圧力損失を低減するという観点から、短いことが好ましい。例えば、200cm以下が好ましく、100cm以下が更に好ましい。
【0021】
図1に示すように、本実施形態の高温炉内雰囲気成分の測定方法においては、フィルター2の流出口2b側に排気チューブ4が配設されている。これにより、フィルター2で無機成分が捕集された後の高温炉内雰囲気成分が、流出口2bから排出され、排気チューブ4を通じて外部に排出される。排気チューブ4の材質は特に限定されず、シリコーン等を挙げることができる。
【0022】
本実施形態の高温炉内雰囲気成分の測定方法は、炉内13の高温炉内雰囲気成分中の無機成分の濃度を把握することを目的とするため、サンプリング管1及びフィルター2により捕集した無機成分量を測定するとともに、無機成分を捕集したときに流通させた高温炉内雰囲気成分の流量を正確に把握することが好ましい。そのため、炉内13の高温炉内雰囲気成分を、排気チューブ4を通じて、ポンプを用いて一定流量で外部に流出させ、排出した高温炉内雰囲気成分の量を積算流量計により定量することが好ましい。これにより、サンプリング管1及びフィルター2により捕集した無機成分量とともに、その無機成分を含有していた高温炉内雰囲気成分の量を測定できるため、高温炉内雰囲気成分中の無機成分の濃度を算出することができる。ポンプで高温炉内雰囲気成分を吸引するときの流速は、0.1〜10リットル/分が好ましく、1〜3リットル/分が更に好ましい。また、サンプリング管1及びフィルター2を流通させる高温炉内雰囲気成分の全流量は、10〜1000リットルが好ましく、100〜500リットルが更に好ましい。
【0023】
サンプリング管の内壁面に付着した無機成分の付着量の測定は、サンプリング管の内壁面に付着させた無機成分を、サンプリング管からアルカリ性水溶液で抽出し、または、サンプリング管からアルカリ性水溶液で抽出した後更に、酸性水溶液で抽出し、得られた抽出物中の各成分の量を測定して行うことが好ましい。無機成分が、Si、Na及びKである場合には、Siがアルカリ水溶液で抽出され、Na及びKが酸性溶液で抽出される。この場合、アルカリ性水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム等が好ましい。また、酸性水溶液としては、フッ酸(HF)もしくは、フッ酸と無機酸との混酸が好ましい。
【0024】
サンプリング管に付着した無機成分から、Siを抽出する場合は、上述のように、1〜20質量%の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、室温〜250℃で1〜24時間抽出操作を行うことが好ましい。そして、ICP−AES(誘導結合プラズマ発光分析装置:Thermo Fisher SCIENTIFIC社製)による測定を行い、Siの含有量を求めることが好ましい。
【0025】
サンプリング管に付着した無機成分から、Na成分及びK成分を抽出する場合は、上述のように(Siの抽出に使用しない切断片)を、のフッ酸(HF)、もしくはフッ酸と無機酸との混酸であって、フッ酸の濃度が、1〜20質量%の混酸に浸漬し、室温〜250℃で1〜24時間抽出操作を行う好ましい。そして、Na成分及びK成分が溶解した混酸をICP−AES(誘導結合プラズマ発光分析装置:Thermo Fisher SCIENTIFIC社製)による測定を行い、Na成分及びK成分の含有量を求めることが好ましい。
【0026】
フィルター2で捕集した無機成分の捕集量の測定を、湿式分析による精密分析によって行うか、もしくは簡易法として、フィルターで捕集した無機成分の質量を測定し、更にフィルターで捕集した無機成分を蛍光X線FP(Fundamental Parameter)で測定して行うことが好ましい。フィルターで捕集した無機成分の質量の測定方法は、特に限定されるものではなく、例えば、無機成分の捕集前のフィルターの質量を測定し、無機成分の捕集後のフィルターの質量を測定して、その差を取って無機成分の質量とすることができる。フィルターで捕集した無機成分を蛍光X線FPで測定することにより、フィルタ−で捕集した無機成分の各成分の組成比(質量比)が得られる。得られた、フィルターで捕集した無機成分の質量と、組成比とから、各無機成分の質量を得ることができる。
【0027】
本実施形態の高温炉内雰囲気成分の測定方法は、セラミックス成形体を焼成する炉の炉内雰囲気成分を測定するものであるため、炉内雰囲気成分の中の無機成分としては、Si、Na、K、及びCdからなる群から選択される少なくとも一種が挙げられる。無機成分は、炉内雰囲気温度でガス状、且つ常温で固体の無機成分である。
【0028】
本実施形態の高温炉内雰囲気成分の測定方法は、所定のセラミックス成形体を高温炉(焼成炉)内で焼成して所望のセラミックス構造体を得るときに使用されるものであり、セラミックス成形体に含有され、高温炉内で揮発する無機成分を捕集、分析するものである。
【0029】
本実施形態の高温炉内雰囲気成分の測定方法を用いる炉の炉内雰囲気温度は、800℃以上であるが、1200〜1450℃が好ましい。800℃以上の炉においては、高温で気化し、外部に取り出すとすぐに固化して測定に使用する部材に付着するような、Si、Na、K等の成分が、高温炉内雰囲気に含有されるため、本実施形態の高温炉内雰囲気成分の測定方法を効果的に用いることができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0031】
(実施例1)
(セラミックス成形体)
焼成を行うセラミックス成形体としては、SiCを主原料としたSiC成形体を用いた。
【0032】
(焼成炉)
焼成炉(炉)としては、連続炉を使用し、図1に示すような、高温炉内雰囲気成分の測定方法を行うための、サンプリング管及びフィルターを設置した。サンプリング管は、高純度アルミナ(純度99質量%)製の円筒状の筒であり、内径11mm、外径15mm、長さ1000mmのものを用いた。フィルタ−は、細孔径7μm、厚さ180μmの濾紙をテフロン製の容器に装着したものを用いた。図1に示すように、サンプリング管とフィルター(流入口側)との間は、内径8mm、長さ1000mmのフッ素樹脂製のチューブで繋いだ。そして、フィルターの流出口側には、内径6mm、長さ500mmのシリコーン製のチューブの一方の端部を繋ぎ、そのチューブの他方の端部側にポンプを繋いだ。ポンプとしては、定流量ポンプを使用し、測定時には、3リットル/分の速度で焼成炉内の高温炉内雰囲気成分を吸引した。また、ポンプの後に、積算流量計を配置した。積算流量計により、ポンプで吸引して炉内から流出した高温炉内雰囲気成分の総流量を測定した。
【0033】
(測定)
雰囲気濃度を測定する個所にサンプリング管を挿入し、ポンプを作動させ、SiC成形体を焼成しながら炉内の高温炉内雰囲気成分を3リットル/分の速度で、2.5時間吸引した。その後、サンプリング管とフィルターとを取り出した。測定時の炉内温度は1400℃とした。
【0034】
(サンプリング管付着物の測定)
サンプリング管を、5質量%水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、200℃で6時間抽出操作を行った。そして、得られた抽出液を、ICP−AES(誘導結合プラズマ発光分析装置:Thermo Fisher SCIENTIFIC社製)で測定し、サンプリング管に付着したSiの含有量を求めた。
【0035】
サンプリング管を、フッ酸(HF)と塩酸(HCl)との混酸であって、フッ酸の濃度が、5質量%の混酸に浸漬し、200℃で6時間抽出操作を行った。そして、Na成分及びK成分が溶解した混酸を、ICP−AES(誘導結合プラズマ発光分析装置:Thermo Fisher SCIENTIFIC社製)による測定を行い、サンプリング管に付着したNa成分及びK成分の含有量を求めた。
【0036】
(フィルター捕集物の測定)
捕集前のフィルターの質量を測定し、無機成分の捕集後のフィルターの質量を測定して、その差を取って無機成分の質量とした。フィルターで捕集した無機成分を蛍光X線FP(Fundamental Parameter)で測定して、フィルタ−で捕集した無機成分の各成分の組成比(質量比)を得た。得られた、フィルターで捕集した無機成分の質量と、組成比とから、各無機成分の質量を算出した。
【0037】
(無機成分濃度の算出)
高温炉内雰囲気成分中の無機成分濃度は、サンプリング管に付着した各無機成分の質量と、フィルターで捕集した各無機成分の質量とを、それぞれの成分毎に合計し、積算流量計で積算した高温炉内雰囲気成分の総量で除することにより、各成分の高温炉内雰囲気成分中の濃度を得た。
【0038】
(評価1)
上記実施例1の方法を用いて、成形体炉内のSiC成形体の詰め量を変化させたときの、炉内雰囲気成分の変化を測定した。結果を表1に示す。表1において、a欄は「詰め量0」、b欄は「標準詰め量」、c欄は「標準の3倍量の詰め量」を示す。また、測定値は、炉内が安定してから、48時間後の値である。ここで、「詰め量」とは、炉内に入れるSiC成形体の量をいい、「標準詰め量」とは、焼成炉内の空間の8割を占める量に対して1/3の量を示す。
【0039】
【表1】

【0040】
表1より、SiC成形体の詰め量の増加量に追従して、炉内雰囲気成分の測定値が大きくなり、実際の炉内雰囲気成分と、炉内雰囲気成分の測定値との相関が取れていることがわかる。
【0041】
(評価2)
上記実施例1の方法を用いて、焼成炉を長時間運転したときの、炉内雰囲気成分の変化を測定した。結果を表2に示す。表2において、A欄は、炉内が安定して最初に測定した値であり、B欄は、それから3時間後の値であり、C欄は、それから更に24時間後の値であり、D欄は、それから更に24時間後の値であり、E欄は、それから更に3時間後の値である。
【0042】
【表2】

【0043】
表2より、焼成炉の長時間運転に伴う炉内雰囲気成分の変動が、観測されていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、セラミックスを含む構造体を焼成により製造するときの高温炉内の雰囲気状態を把握し、効率的にセラミックス構造体を製造するために好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の高温炉内雰囲気成分の測定方法の一実施形態を実施するための装置を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1:サンプリング管、2:フィルター、2a:流入口、2b:流出口、2c:容器、2d濾材、3:連結チューブ、4:排気チューブ、11:高温炉(炉)、12:炉壁(壁)、13:炉内、14:貫通孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉内雰囲気温度800℃以上でセラミックス成形体を焼成する炉の炉内雰囲気成分を、前記炉の壁に形成された貫通孔に挿入した前記炉内雰囲気温度で化学的に安定なサンプリング管の内部を通過させて、炉の外部に流出させ、前記サンプリング管を通じて炉の外部に流出した炉内雰囲気成分をフィルターで濾過し、
前記サンプリング管の内部を炉内雰囲気成分が通過するときに、前記サンプリング管の内壁面に付着した、炉内雰囲気成分の中の、炉内雰囲気温度でガス状、且つ常温で固体の無機成分の付着量と、前記フィルターで捕集した、前記サンプリング管を通じて炉の外部に流出した炉内雰囲気成分の中の前記無機成分の捕集量とを測定する高温炉内雰囲気成分の測定方法。
【請求項2】
前記サンプリング管の内壁面に付着した前記無機成分の付着量の測定を、前記サンプリング管の内壁面に付着させた前記無機成分を、前記サンプリング管から、アルカリ性水溶液で抽出し、または、アルカリ性水溶液で抽出した後に更に、酸性水溶液で抽出し、得られた抽出物中の各成分の量を測定して行う請求項1に記載の高温炉内雰囲気成分の測定方法。
【請求項3】
前記フィルターで捕集した前記無機成分の捕集量の測定を、湿式分析による精密分析によって行うか、もしくは、前記フィルターで捕集した前記無機成分の質量を測定し、更に前記フィルターで捕集した前記無機成分を蛍光X線FPで測定して行う請求項1又は2に記載の高温炉内雰囲気成分の測定方法。
【請求項4】
前記炉内雰囲気成分の中の前記無機成分が、Si、Na、K、As、Sb、Bi、Sn、Pb、Zn、Cd、Cu、Ni、Co、Mn、Cr、V、Mg、Ca、Sr、及びBaからなる群から選択される少なくとも一種である請求項1〜3のいずれかに記載の高温炉内雰囲気成分の測定方法。
【請求項5】
前記炉内雰囲気温度で化学的に安定なサンプリング管が、アルミナ、ジルコニア、石英及びイットリアからなる群から選択される少なくとも一種からなるサンプリング管である請求項1〜4のいずれかに記載の高温炉内雰囲気成分の測定方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−224554(P2008−224554A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−65923(P2007−65923)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】