説明

高温燃料電池のためのアノードならびにその製造

本発明による、高温燃料電池のための基板支持されたアノードは、金属基板上に少なくとも3層のアノード層複合体(A1、A2、A3)を有する。アノード層複合体の個々の層は、それぞれ酸化イットリウム安定化二酸化ジルコニウム(YSZ)およびニッケルを含んでおり、その際、ニッケルの平均粒径は、基板からの間隔が増すにつれて層ごとに小さくなる。アノード層複合体の最後の、電解質との接触のために設けられた層は、4μm未満の、本発明の枠内では平均表面粗さとも言う二乗平均平方根粗さRを示す。この層の全体の平均孔径は、一貫して0.3〜1.5μmの間である。高温燃料電池のためのこのような基板支持されたアノードの製造方法においては、アノード層複合体の少なくとも第1および第2の層には、酸化イットリウム安定化二酸化ジルコニウム(YSZ)およびニッケル含有粉末の二峰性の粒径分布を有する原料粉末が使用される。使用されるニッケル含有粉末の平均粒径は層ごとに小さくなり、これによりアノード層複合体の最後の層での粒径は、有利には最大0.5μmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温燃料電池、特に酸化物セラミックス燃料電池のためのアノードならびにその製造に関する。このアノードは、金属基板支持型の高温燃料電池において使用されるアノードである。
【背景技術】
【0002】
酸化物セラミックス燃料電池(英語:Solid Oxide Fuel Cell、SOFC)は、今日では650〜1000℃の運転温度で運転される高温燃料電池である。このタイプの電池セルの、気密性電解質は、金属酸化物から成る固体セラミックス材料を含んでおり、この固体セラミックス材料は、酸素イオンを伝導することはできるが、電子には絶縁性に作用する。カソードも一般的にセラミックス材料から製造されており、このセラミックス材料は、イオンも電子も伝導する。アノードは、ニッケルと酸化イットリウム安定化二酸化ジルコニウムの混合物、いわゆるサーメットから製造されており、このサーメットも同様にイオンおよび電子を伝導する。
【0003】
平型の酸化物セラミックス燃料電池の開発においては、以下に簡単に紹介する様々なコンセプトが存在した。
【0004】
SOFCの第1世代は、たいていは酸化イットリウム安定化二酸化ジルコニウム(YSZ)から成る比較的厚い電解質(約150μm)を備えた電解質支持型セルのコンセプトを基礎としていた。この支持コンポーネントの両側に、多孔質電極が施与された。アノードは一般的に、金属材料と酸化物材料、多くはNiとYSZから成るサーメットから成っていた。カソードは、ペロブスカイト構造を有する酸化物、例えばランタン−ストロンチウム−マンガナイト(LSM)またはランタン−ストロンチウム−コバルト−フェライト(LSCF)を含んでいた。
【0005】
電解質のイオン伝導性を十分に高めるため、この燃料電池は850〜1000℃の間の狭い温度範囲内の温度で運転される。しかしながらこの高い運転温度は、運転管理および使用する材料への要求が高い点が不利であり、インターコネクタおよび熱交換器として一般的に用いられる鋼は、この高い温度のせいで使用できない。目標とされたのは、また目標であるのは、高温燃料電池の運転管理を中温で行えるようにし、これにより、出力損失を引き起こすことなく安価な材料を使用できるようにすることである。
【0006】
SOFCの第2世代では、800℃未満の運転温度も実現可能な、いわゆるアノード支持型のコンセプトに変わった。アノード支持型燃料電池は、より自由なスタックデザインを可能にするだけでなく、低い運転温度と共に、最低運転温度から最高運転温度までの温度範囲を広げることも可能にする。アノード支持型燃料電池の場合、比較的厚く(最低で約200μm、一般的には200〜1500μm)、機械的に支持するセラミックスアノード基板が、薄く、電気化学的に活性なアノード機能層と結合されている。両方とも一般的に、多孔質のニッケル/YSZサーメット(YSZ:酸化イットリウム安定化二酸化ジルコニウム)から成り、次いでこのサーメット上に、比較的薄い気密性電解質が施与される。その際、基板とアノード機能層は、しばしば組成(典型的にはニッケルと酸化イットリウム安定化二酸化ジルコニウム)ではなく、一貫して、使用される粒径だけが異なる。アノード機能層上には、約10μm厚の気密性YSZ電解質層が配置される。LSMの代わりにLSCFカソードを使用する場合は、LSCFとYSZが化学的に適合しないので、電解質とLSCFカソードの間にしばしばGCO(ガドリニウム−酸化セリウムまたは同意で酸化ガドリニウムをドープした二酸化セリウム)から成る拡散バリアが設けられる。この拡散バリアは、LSCFとYSZとの反応、特に電気絶縁性中間相の形成を阻止する。
【0007】
熱サイクル性および機械的安定性に関する運転挙動をさらに改善するため、ならびに運転温度を600〜750℃へとさらに低下させるために、いわゆる第3世代として、金属の支持基板をベースとする、電解質の薄膜系が提供されている。これに代わるものとして、高いイオン伝導性を有する材料から成る比較的厚い電解質層も提供されている(例えば、酸化ガドリニウムをドープした二酸化セリウムCGO、または酸化スカンジウムで完全に安定化された二酸化ジルコニウム、例えば10Sc1CeSZ)。幾種類かの金属合金、特にある種のフェライト鋼は、緻密性のインターコネクタとしての実施においても、多孔質の支持基板としても、セル層によく適合した熱膨張と共に、このような燃料電池では運転のために必要とされる優れた長期挙動(例えば高い耐食性および耐クリープ性)も有する。同時に古典的なYSZ/LSM複合カソードが、LSCFから成るカソード層と電解質側でのCGOから成る中間層とを含む2層カソードに置き換えられた。
【0008】
金属支持型の酸化物セラミックス燃料電池は、金属材料の機械的特性および好ましい原料価格の故に、適用技術における大きな潜在可能性を有している。基板支持型燃料電池は、目標とされる適用のために、包括的には以下の特性および制限範囲を達成するべきである。
(1)基板の高い電子伝導性、
(2)酸化性雰囲気中でも還元性雰囲気中でも高い基板の耐食性、
(3)金属基板の、セラミックス層に適合した熱膨張率、好ましくは10〜12×10−6−1の間、
(4)基板の、使用される燃料ガスに対する十分なガス透過性、つまり少なくとも30〜50Vol%の気孔率、
(5)平坦で隙間のないコーティングを可能にするための、基板の表面粗さの低減。
【0009】
さらにアノードが、アノード機能層において十分な触媒活性を示し、かつ十分な機械的安定性および不可侵性、特に基板表面での優れた付着性を有するべきである。施与されたアノード層に対する最高焼結温度は、還元性雰囲気中では1400℃を明らかに下回るべきであり、特に約1200℃であることが望ましい。
【0010】
ただし金属支持型SOFCを製造するには、特に金属支持体の高温耐性がセラミックス支持体より低いことから、燃料電池の機能層を施すために別の手法を選択しなければならない。その際、解決すべきことは、常に、多孔質金属基板の大きな表面粗さであり、この表面粗さは、アノード機能層および薄い電解質層のためには、明らかに低減させなければならない。原理的には、粉末技術を用いて粒径を次第に小さくした、複数の層を使用することによる段階づけにより、表面粗さの問題を軽減することができる。特に、小さな厚さ(5μm未満)の緻密な電解質を低い温度で製造できる方法、例えば気相成長またはゾル・ゲル技術のためには、表面粗さは非常にクリティカルなパラメータであることが分かっている。
【0011】
温度耐性の低い金属基板を、緻密なセラミックスの電解質でコーティングするために、過去には熱溶射や様々な焼結手法が使用された。熱溶射の場合、溶融させたセラミックス粒子の高速の衝突および基板表面での急激な冷却(急速凝固)により、一般的には多孔質の層状構造が生じ、この層状構造は、複数のさらなる層を施与することで初めて十分な気密性を示す。これにより、従来の非金属アノード支持型燃料電池に比べて電解質層の厚さが約5〜10μmから約40μmへと上昇する点が不利である。電解質の層厚の上昇は、オーム抵抗を有意に上昇させる。この抵抗は、成長した凝固体(splats)の界面にある孔によってさらに大きくなるので、これまでは、従来の非金属支持型燃料電池と同等の出力密度を達成できなかった。
【0012】
従来のセラミックス基板の場合のように懸濁液中またはペースト中の粉末を用いて作業し、この粉末をコーティング後に焼結のため熱処理する焼結手法を用いる製造は、金属支持型SOFCの場合、とりわけ基板により予め規定される最高温度により制限される。セラミックス基板を備えた従来の燃料電池に使用される電解質の材料または粉末は、必要な気密性を示す層へと緻密化するために、たいていは1350℃以上を必要とする。しかしながら、金属基板のために低くされた焼結温度では、これを実現できなくなる。例えば、後のセル運転を妨げる金属間相がNi含有アノード内で生成されることを回避するには、基板として使用されるFeCr合金のために、1200℃を超えない温度を目標としなければならない。
【0013】
[1]からは、例えばCeres Power Ltd.の燃料電池が知られており、この場合、約200〜300μm厚の、穴の開いたフェライト鋼製フィルムから成る支持体が使用される。続いてこの上に、湿式吹付けまたはスクリーン印刷のような従来の方法により、Niサーメットと、酸化ガドリニウムをドープした二酸化セリウム(CGO)とから成る、層厚が10〜20μmの間の厚い層としてアノードが施与され、一方で同様にCGOから成る電解質は、電気泳動プロセスにより10〜30μmの間の層厚でその上に施される。特に電気泳動プロセスによる高い充填密度により、1000℃未満の温度で焼結を行うことができる。
【0014】
[2]にはさらに金属支持型SOFCの製造が開示されており、この場合、気孔率が80Vol%超の金属基板として、FeCrAlY合金から成る不織布構造と共に、CroFer22APUから成る金属編物および焼結冶金により製造された多孔質の板がテストされた。約50μm厚で気孔率が20Vol%超のNi/ZrOサーメットアノードがプラズマ溶射され、これに対しYSZから成る緻密で厚さ約40μmの電解質層の製造には、高速ノズルを使用したDC真空プラズマ溶射法が適用された。
【0015】
金属支持型SOFCを製造するためのさらなる方法は、薄いアノード支持型セルを、既に焼結した状態の、より厚い金属基板上にラミネートすることである[3]。この方法の欠点は、製造に手間がかかること、およびまさにセルの幾何形状が比較的大きい場合に両方のコンポーネントの付着性に問題があることである。上にラミネートされる薄いアノード支持型セルの製造が既に、金属基板なしでも使用可能な従来のアノード支持型セルと同じ技術的な手間を必要とする。この場合、焼結は、酸化性雰囲気中におき高温(約1400℃)で行われ、これは、還元性雰囲気中での金属成分の焼結とは異なる炉の技術を必要とする。
【0016】
金属基板/アノードユニット上に電解質コーティングを施与するためのさらなる選択肢として、特に薄い電解質層を目指す場合、PVDプロセスも挙げることができる(PVD=Physical Vapour Deposition、例えばスパッタリングまたは電子ビーム蒸着)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】WO2008/003113
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】P. Attryde、A. Baker、S. Baron、A. Blake、N. P. Brandon、D. Corcoran、D. Cumming、A. Duckett、K. El-Koury、D. Haigh、M, Harrington、C, Kidd、R. Leah、G. Lewis、C. Matthews、N. Maynard、T. McColm、A. Selcuk、M. Schmidt、R. Trezona、L. Verdugo、「Stacks and System based around metal supported SOFCs operating at 500 - 600℃」、Electrochemical Proceedings Volume 2005-07、Vol. 1、113〜122頁[2005]
【非特許文献2】G. Schiller「Metallgestuetzte SOFC-Zellen」Fortbildungsseminar Werkstofffragen der Hochtemperatur-Brennstoffzelle、Deutsche Gesellschaft fuer Materialkunde(編)、Juelich、2006年4月26〜28日(講演および原稿)
【非特許文献3】H.J. ChoおよびG.M. Choi:Fabrication and characterization of Ni-supported solid oxide fuel cell、Solid State Ionics 180 [11-13]、792〜795 (2009)
【非特許文献4】T.S. Smith「Morphological Characterization of Porous Coatings.」:「Quantitative Characterization and Performance of Porous Implants for Hard Tissue Applications」、ASTM STP953、J.E. Lemmons編、American Society for Testing and Materials、Philadelphia、1987の中の92〜102頁
【非特許文献5】M.I. Mendelson「Average Grain Size in Polycrystalline Ceramics」、J. Am. Ceram. Soc. 52 [8] (1969)、443〜446
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の課題は、850℃未満、特に650〜750℃の間の運転温度で、優れた出力で運転することができ、従来技術に基づいてこれまで可能であったより簡単に製造することができる、できるだけ薄い気密性電解質層を備えた、金属支持型の効果的な酸化物セラミックス燃料電池(SOFC)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の課題は、請求項1のすべての特徴を備えた、金属支持型SOFCのためのアノード層複合体、および請求項8に基づく製造方法によって解決される。金属支持型SOFCのためのアノード層複合体または製造方法の有利な実施形態は、それぞれの従属請求項に示されている。
【0021】
本発明の課題は、有利には、その上に厚さ10μm未満の気密性薄膜電解質を、物理気相成長(PVD、例えばスパッタリングもしくは電子ビーム蒸着)またはゾル・ゲル技術により施与することができる、金属支持型SOFCのためのアノード層複合体によって解決される。このためにアノード層複合体の表面は、本発明に従い、平均表面粗さRが4μm未満、好ましくは3μm未満、および特に好ましくは2μm未満で、二乗平均平方根微小粗さRμが1μm未満、好ましくは0.6μm未満の平滑な表面を有する。アノード層複合体の表面またはアノード層複合体の最後の層の平均孔径は、1.5μm未満、好ましくは0.8μm未満であることが好ましい。これは、粗いニッケル相とより細かいセラミックス相によって達成される(二峰性の粒径分布)。アノード層複合体の表面でのまたは最後の層内のニッケル相の平均孔径は、4μm未満、好ましくは3μm未満である。
【0022】
表面を物理的に特徴づけるために粗さを用いることができる。断面曲線を光学的に測定し(共焦点レーザトポグラフ)、DIN EN ISO 11562および4287に基づき、フィルタリングした粗さ曲線および粗さを算出した。トレース長さ(l)、評価長さ(l)、および基準長さ(l)は、DIN EN ISO 4288に基づいて選択した。DIN EN ISO 4287に基づき、算術平均粗さRは、粗さ曲線のすべての輪郭曲線値の数値の算術平均値を示している。二乗平均平方根粗さRは、すべての輪郭曲線値の二乗平均平方根値であり、算術平均粗さRより強く偏差に重みをつける。本発明の枠内では、二乗平均平方根粗さRを平均表面粗さとも言う。平均粗さ深度Rは、DIN EN ISO 4287に基づき、すべての基準長さの個々の粗さ深度の算術平均と定義される。その際、個々の粗さ深度とは、基準長さ内で最も高い山と最も深い溝の間隔を意味している。この場合、評価長さ全体が、同じ大きさの5つの相次ぐセグメント(基準長さ)に区分けされている。R値は、最も深い谷と最も高い山により決定されるので、この値は、特に使用した測定方法に左右される。ここで使用した光学的な方法とは違い、例えば機械的な触針法では、使用する先端部の幾何形状によっては、鋭角な谷のすべてが捕捉できるのではないことを考慮しなければならない。
【0023】
DIN EN ISO 4288では、断面曲線の、粗さ算定に際して無視される波形部分(長い波長)と本来の粗さ部分(短い波長)への分類が、達する粗さに応じたフィルタカットオフ波長によって規定されている。つまり例えば、算術平均粗さRが0.02μm超〜2.00μm以下の場合には、0.8mmのカットオフ波長λが規定されている(l=λ)。しかしながら、特に気相から成長した層(PVD)に関しては、この波長の起伏は、層の品質および密度に対してまだ重要な意味をもっておらず、明らかにより短い波長での起伏が重要である。したがって本発明では、DINに基づく粗さと共に、その他では同じ評価長さ全体での0.15mmのカットオフ波長に基づく、いわゆる微小粗さを使用する。これに関し、常にl=λが適用されなければならないことから、それに応じて基準長さの数(普通は5)が増える。これに対応し、微小粗さはRμ、Rμ、およびRμで表された。
【0024】
焼結した層の特性を説明するためのさらなる特徴的なパラメータとして、平均孔径および焼結粒径を用いることができる。両方の数値尺度とも、任意の組織体、また開放気孔性の組織体でも、せん断面の走査型電子顕微鏡写真での直線切片法により決定することができる。このためにはまず、写真において、コントラストの違い、粒子形状、または元素分析(例えばエネルギー分散型X線分光法、EDX)により、個々の相(Ni粒子、8YSZ粒子、孔)を相応に標識し、次に統計学的に直線を記入し、異なる相の間の移行部において交差点を標識する。こうして生じた、それぞれの相内の線分区間の全長の平均値が、その相の平均交差線長さを示す(例えば孔)。この平均交差線長さは、対応する幾何学的係数との掛け算により、実際の粒径または孔径に換算される。この幾何学的係数としては、参考資料[4]に基づき、通常利用される14面体粒子の周りの孔のモデル概念を採用して1.68の値が、および粒径には1.56の値[5]が用いられた。
【0025】
本発明において、Ni相内の平均孔径と言う場合は、これにより、Ni粒子によって形成される間隙に関する尺度を意味している。この間隙は、部分的に8YSZ粒子で充填されており(図4)、この8YSZ粒子はNi相の孔径には考慮されない。
【0026】
さらに、本発明において焼結粒径と言う場合は、組織体から形態学的に読み取り可能な粒径を意味している。試料は、分析前にエッチングされず、考察する相の内部の粒界は考慮されないままであって、材料と孔の移行部または別の材料相への移行部だけが考慮される。
【0027】
最大孔径は、走査型電子顕微鏡による一連の写真を基に、すべての孔の最大内径から決定された。その際、孔の内径とは、孔内に延びている最も大きな直線区間の長さを意味している。
【0028】
顕微鏡による撮影の際に、確定すべき孔径および粒径に応じて相応の倍率に注意を払うことが当業者に委ねられている。特に、確定すべき孔径または粒径は、なおも解像されると同時に、また画像フレームによって完全に捕捉されなければならない。
【0029】
アノード層複合体とは、製造されたSOFCにおいてアノードの機能を担っており、つまり導電性で多孔質であり、かつ燃料ガスの改質および電気化学的酸化のための触媒成分(ニッケル)を含んでいる少なくとも3層の層系を意味している。電解質とアノードの界面には、1〜15μm厚のいわゆるアノード機能層が存在し、このアノード機能層の組成はアノードの組成と一致しているが、その電気化学的転化率を高めるために、一般的により細かく構造化されている。このアノード機能層は、本発明の枠内ではアノード層複合体に属している。したがって本発明によるアノード層複合体は、少なくとも2つのアノード層および少なくとも1つのアノード機能層を有しており、この場合、(第1のまたは一番下の)アノード層は、金属基板との接触のために設けられており、(最後のまたは一番上の)アノード機能層は、電解質との接触のために設けられている。
【0030】
これらの特性を有するアノード層複合体は、有利には、機械的に支持する基板をベースとし、少なくとも2層のアノードとアノード機能層により段階づけられた層複合体によって可能にすることができる。その際、適切な原料粉末の選択および比率、原料粉末の粒径分布、ならびに製造される個々の層の層厚の選択が重要である。
【0031】
本発明によれば、SOFCのための機械的支持部品として、多孔質の金属基板が用いられる。基板の気孔率は、有利には、20〜70Vol%の間、特に30〜60Vol%の間であることが望ましい。一般的には、層厚が200〜1500μmの間の基板が使用される。好ましくは、基板の平均孔径は5〜60μm、有利には20〜50μm、および特に有利には25〜45μmである。この平均孔径は、30〜80μmの焼結粒径と相関関係にあり、これにより材料は、より細かい組織体とは異なり有利な耐食性を有している。
【0032】
金属基板の材料としては、フェライト系FeCrMx合金も、クロム基合金も適している。FeCrMx合金は、鉄と共に、決まってクロムを16〜30重量%の間の含有率で含んでおり、これに加え、さらに少なくとも1種の合金元素を0.01〜2重量%の割合で含んでおり、この合金元素は、希土類金属もしくはその酸化物、例えばY、Y、Sc、Scの群、またはTi、Al、Mn、Mo、もしくはCoの群に由来する。
【0033】
適切なフェライト鋼の例として、ここではフェロクロム(1.4742)、CrAl20−5(1.4767)、およびThyssen KruppのCrofer22APU、TechneticsのFeCrAlY、日立金属のZMG232、新日本製鐵のSUS430HAおよびSUS430Na、ならびにPlanseeのすべての粉末冶金法によるODS鉄基合金、例えばITM Fe−26Cr−(Mo、Ti、Y)を挙げておく。
【0034】
その代わりに、多孔質の金属基板としてクロム基合金、つまりクロム含有率が65重量%超の、例えばCr5FelYまたはCr5FelYを使用することもできる。
【0035】
気密性薄膜電解質の施与は、その下にあるアノード機能層に対し、表面粗さおよび表面孔径に関してある種の要求を課する。二乗平均平方根粗さRが4μm未満、好ましくは3μm未満、特に2μm未満、および二乗平均平方根微小粗さRμが1μm未満、好ましくは0.6μm未満、または有利な平均孔径が1.5μm未満、好ましくは0.8μm未満という形での所望の特性は、本発明に従い、少なくとも3層の段階的なアノード層構造により達成することができる。同時にこのアノード層構造は、さらに強度、伝導性、最高1200℃の焼結温度での付着性、および触媒機能に関する必要な要求を満たさなければならない。このために、ニッケル相の平均焼結粒径がセラミックス相の焼結粒径の少なくとも2倍の大きさである二峰性の焼結粒径を、相応の原料粒径により調整する。最後のアノード層内のニッケル相の平均孔径は、4μm未満、好ましくは3μm未満である。この孔は、部分的にセラミックス相の粒子により充填されており、この粒子が、全体としての平均孔径を前述の値に引き下げる。
【0036】
焼結中および後のセル運転中に、金属基板とアノードサーメットの金属Ni相との間で金属の相互拡散が起こるのを阻止するため、金属基板は、好ましくは、ランタン含有率およびストロンチウム含有率が異なる、異なってドープされたランタン−ストロンチウム−マンガナイト(LSM)またはランタン−ストロンチウム−クロマイト(LSCR)から成る、非常に薄いセラミックスの拡散バリアでコーティングされている。拡散バリアの層厚は、最大50μmであり得るが、好ましくは0.5〜5μmの間が有利である。この場合、施与した拡散バリアは、層厚が非常に小さいので、金属基板の表面特性を、孔径および粗さに関してほとんど変化させない。
【0037】
本発明によれば、表面粗さおよび表面孔径を小さくするために、例えば拡散バリアを備えた金属基板をベースとし、湿式化学的手法、好ましくはスクリーン印刷により、基板と化学的に適合するセラミックスから成る第1のアノード層が施与される。このようなセラミックスは、例えばニッケル粒子と酸化イットリウム安定化二酸化ジルコニウム(YSZ)から成る混合物を、またはニッケル粒子およびドープされた酸化セリウム(CGO)から成る混合物も、含むことができる。その際、YSZとしては、完全安定化二酸化ジルコニウムも、部分安定化二酸化ジルコニウムも(3YSZ、8YSZ、10YSZ)考慮される。拡散バリアを備えた金属基板の表面は、一般的に二乗平均平方根粗さRが7〜15μmの間であり、二乗平均平方根微小粗さRμは5〜12μmである。光学的に確定された平均孔径は20〜50μmの間である。
【0038】
この第1のアノード層が金属支持体内に侵入するのを阻止すると同時に、最高1200℃でセラミックス成分の十分な焼結を達成するために、本発明に従い、YSZ粉末に対するNi含有粉末の二峰性の粒径分布を有する粉末混合物が使用され、その際、Ni含有粉末の割合は、50重量%超、有利にはしかも60〜80重量%である。Ni含有粉末としては純Ni粉末を使用することが有利である。その際、使用されるYSZ粉末の平均粒径は、好ましくは0.5〜1.5μmの間であり、さらに好ましくは0.6μmである。使用されるNi粉末の平均粒径は、好ましくは3〜20μmの間であり、さらに好ましくは5μmである。第1の層には、10〜80μmの間の層厚を選択することが有利である。
【0039】
NiおよびYSZから成る第2のアノード層も、湿式化学的な手法により第1のアノード層上に施与され、第1の層と同一の要求が繰り返されるものだが、ただしその際、粗さおよび孔径はさらに低下する。
【0040】
これは、第2のアノード層に使用される粉末混合物が、第1のアノード層内に侵入しないかまたは少ししか侵入せず、ただし金属基板内には侵入しないような、第1のアノード層より低い二峰性の粒径分布を有することによって達成される。この層に関しても、Ni含有粉末の割合は、50重量%超、有利にはしかも60〜80重量%で選択される。Ni含有粉末としては純Ni粉末を使用することが有利である。使用されるYSZ粉末の平均粒径は同様に0.5〜1.5μmの間であり、好ましくは0.6μmであるのに対し、第2の層に使用されるNi粉末の平均粒径は、0.7〜4μm、好ましくは1.2μmにすぎず、ただし必ず第1のアノード層の場合より小さい。この場合、選択された粉末粒径、およびこの第2の層の有利には10〜50μmの間の施与層厚は、粗さおよび孔径を第1の層よりも明らかに小さくする。
【0041】
この第2のアノード層、または場合によっては、それぞれ使用されるNi粉末の平均粒径をより小さくしたさらなるアノード層上には、アノード層複合体の最後の(一番上の)層として、NiOおよびYSZから成る活性アノード機能層が、同様に湿式化学的に(スクリーン印刷、浸漬コーティング、スリップキャスト)施与され、このアノード機能層は、これまでに知られているアノード支持型SOFCのアノード機能層に比べて明らかに高い少なくとも80重量%のNiO割合を有しており、これにより、還元性雰囲気中での最高1200℃の焼結後に、十分な層伝導性がもたらされる。
【0042】
粗さおよび孔径をさらに小さくするため、第2の層またはさらなる中間層よりもう一段低い平均粒径分布のNiO粉末およびYSZ粉末が使用される。小さな粒子直径が必要なことから、このアノード機能層では、一般的に純Ni粉末の代わりにNiOが使用される。なぜなら純ニッケル粉末は、表面積が大きいので、一貫して非常に速く空気中の酸素により酸化ニッケルへと反応するからである。最後の層(アノード機能層)には、平均粒径が0.1〜0.3μmのYSZ粉末および平均粒径が0.1〜0.5μmのNiO粉末を使用することが望ましい。層厚は、有利には1〜15μmの間であることが望ましい。
【0043】
全体として、本発明に従い、アノードの機能を有する少なくとも3層の層系が製造され、この層系では、電解質との接触のために設けられた最後の層(アノード機能層)の二乗平均平方根粗さRが4μm未満、好ましくは2μm未満の値を示し、二乗平均平方根微小粗さRμが1μm未満、好ましくは0.6μm未満の値を示し、この層の平均孔径は最大で1.5μm、好ましくは0.2〜0.8μmの間である。これに関し、やむを得ない場合には、前述の3つの層のほかに、さらなるアノード層または場合によってはさらなるアノード機能層も施与する必要がある。
【0044】
ベースとなる基板またはその上に配置された拡散バリアの特性(粗さおよび平均孔径)から、一番上のアノード機能層の所望の特性に至るため、すなわち厚さ10μm未満の気密性薄膜電解質が問題なく施与されることを保証するために、それぞれ平均粒径をより小さくした層が何層必要であるかの選択は、当業者に委ねることができる。これに関し、対応するパラメータの例を実施の部に示している。
【0045】
このやり方で製造され、かつ前述の特性を備えたアノード(アノード層複合体)は、その後、焼結されることが好ましい。焼結温度は特に1300℃未満である。これに続いて、アノード層複合体を薄膜電解質でコーティングすることができる。このコーティングは、アノード層複合体の焼結後に行うことが好ましい。薄膜電解質をアノード層複合体の最後の層に適応させるために、アノード層複合体と薄膜電解質の間にさらなる適応層を配置することができる。これにより、電解質層の均質な成長が助けられる。このために、例えば適応層の平均孔径をアノード層複合体の最後の層の平均孔径より小さくすることにより、適応層の材料特性を、アノード層複合体の最後の層よりも良好に電解質に適合させる。
【0046】
薄膜電解質の施与には、方法として例えば気相成長、特にPVD(Physical Vapour Deposition)またはゾル・ゲル技術が適している。その際、電解質の層厚は、オーム抵抗をできるだけ低く保つために、10μmを超えないことが望ましい。有利な形態は、層厚10μm未満の気密性電解質を含んでいる。
【0047】
電解質上にはさらに、任意選択で拡散バリア層である中間層を挟んで、好ましくはランタン−ストロンチウム−コバルト−フェライト(LSCF)から成る高出力カソードを湿式化学的に施すことができる。
【0048】
セル製造プロセス中にはもはや層複合体全体を焼結しないことが有利であり、その際、セルの運転を開始する際に1200℃未満の温度でその場焼結することが有利である。
【0049】
以下に、具体的な例示的実施形態、表、および幾つかの図に基づいて本発明をより詳しく説明する。ただしこの説明は、当分野の当業者が、場合によっては、使用する基板の大枠の条件または施与すべき薄膜電解質の要求に対応して、本発明による教示の枠内で、材料、層厚、または選択される粒径に関するある程度の変更を、本発明に属すると見なす立場にさせるものである。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】拡散バリア(D)を挟んで金属基板(S)上に配置されており、少なくとも2つのアノード層(A1、A2)およびアノード機能層(A3)を含む本発明によるアノード層複合体(A)の概略的な構造を示す図である。
【図2】、多孔質の金属基板(S)上の本発明によるアノード層複合体に現れている段階的な構造の大まかなせん断面を電解質を伴わずに示す写真である。
【図3】基板およびアノード層複合体の破断面の近視野写真である。
【図4】第1のアノード層のせん断面の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
図1は、拡散バリア(D)を挟んで金属基板(S)上に配置されており、少なくとも2つのアノード層(A1、A2)およびアノード機能層(A3)を含む本発明によるアノード層複合体(A)の概略的な構造を示している。このアノード層複合体上には、続いて有利には薄膜電解質(E)およびカソード(K)を施与することができる。
【0052】
従来技術に基づいて挙げた欠点は、特に物理気相成長(PVD)またはゾル・ゲル技術により製造され、適切なアノード上に施与した薄膜電解質により克服することができる。その際、非常に薄い気密性電解質(<10μm)には、一般的に、Rが4μm未満で、Rμが1μm未満で、Rμが2μm未満の表面粗さが必要であるか、または有利である。
【0053】
このために本発明は、有利には、その上に厚さ10μm未満の気密性薄膜電解質(E)をPVD技術またはゾル・ゲル技術により施与することが可能な、金属支持型SOFCのためのアノード層複合体(A)を説明する。
【0054】
支持体としては、Plansee社製の、気孔率が30〜60Vol%でITMから成る多孔質金属基板(S)を用いる。
【0055】
焼結中および後のセル運転中に、金属基板と金属アノードとの間で金属の相互拡散が起こるのを阻止するために、金属基板(S)は、LSMから成る、セラミックスの拡散バリア(D)でコーティングされている。LSCRまたはCGOから成る拡散バリア(D)も考えられる。拡散バリアの層厚は、一般的に約1〜3μmである。
【0056】
層厚が0.1〜50μmの拡散バリアは、例えばWO2008/003113(特許文献1)からも知られている。
【0057】
気密性薄膜電解質の施与は、その下にある最後のアノード層(アノード層複合体の最後の層、アノード機能層)に対し、粗さおよび孔径に関して、多層の段階的な層構造によって満たされ得る、ある種の要求を課する。同時にこのアノード層構造は、さらに強度、伝導性、最高1200℃の焼結温度での付着性、および触媒機能に関する必要な要求を満たさなければならず、かつその他の燃料電池コンポーネントに適合した熱膨張率を有さなければならない。
【0058】
拡散バリア(D)を備えており、表面粗さRが7〜15μmの間であり、微小粗さRμが5〜12μmの間であり、平均孔径が20〜50μmの間である金属基板(S)をベースにして、表面粗さRを5〜6μmの間の値に、微小粗さRμを3〜4μmに低下させるために、湿式化学的な手法(スクリーン印刷、浸漬コーティング、スリップキャスト)により、Ni/8YSZから成る第1のアノード層(A1)を約40μmの層厚で施与する。これに関し、第1のアノード層の全体としての平均孔径は2μmであり、これは、8YSZ粒子により充填されたニッケル骨格により実現され、このニッケル骨格は、ニッケル相中での平均孔径が約8μmである。
【0059】
この第1のアノード層(A1)が金属支持体(S)内に侵入するのを阻止すると同時に、1200℃におけるセラミックス成分の十分な焼結を達成するために、8YSZ粉末の平均粒径が約0.6μmであるのに対してNi粉末の平均粒径が5μmという二峰性の粒径分布および35重量%のYSZ粉末割合が選択される。8YSZ粉末の粒径および粉末割合は、さらにこのアノード層の焼結抑制剤の役割を果たさなければならないことからも、この範囲内になければならない。この二峰性は、焼結後の第1のアノード層内でもはっきり現れる。Ni相での平均焼結粒径は好ましくは約6.5μmであり、8YSZ相での平均焼結粒径は好ましくは約0.7μmである。
【0060】
第2のアノード層(A2)も、Ni/8YSZから成り、湿式化学的な手法により第1のアノード層(A1)上に施与され、第1の層と同一の要求が繰り返されるものだが、ただしその際、粗さおよび孔径はさらに低下しなければならない。これは、二峰性の粒径分布をより低くすることにより達成され、ただし第1のアノード層内に侵入しないかまたは少ししか侵入せず、かつ金属基板内には侵入しないように低くすることによってのみ達成される。これは、Ni粉末を約1.2μmの平均粒径および65重量%の割合で使用することにより達成される。焼結抑制剤および孔形成剤として、8YSZ粉末(粉末割合は35重量%)は好ましくは0.6μmの平均粒径で使用される。この第2のアノード層の層厚は15μmに調整され、これに基づき粗さRは5μm未満、この場合には2.3μm、微小粗さRμは2μm未満、この場合には1.0μmになる。この第2のアノード層の平均孔径は、全体としては1.0〜1.2μmであり、ニッケル相内での平均孔径は4.0〜4.5μmの間である。この組織体の平均焼結粒径は、一貫して、ニッケル相に関しては約3μm、8YSZ相に関しては約0.7μmである。
【0061】
この第2のアノード層(A2)上には、その後、同様に湿式化学的に(スクリーン印刷、浸漬コーティング、スリップキャスト)、NiO/8YSZから成る活性アノード機能層(A3)が施与され、このアノード機能層は、これまでに知られている、アノード支持型SOFCのアノード機能層に比べて明らかに高い80重量%のNiO割合を有しており、これにより、還元性雰囲気中での1200℃の焼結後に、十分な層伝導性がもたらされる。粗さおよび孔径をさらに小さくするために、平均粒径分布が0.3μmのNiO粉末および平均粒径が約0.2μmの8YSZ粉末が使用される。アノード機能層の層厚は、粗さRが3μm未満、この場合には1.3μmになるよう、3〜6μmの間で選択された。この層により微小粗さRμは1μm未満の値、この場合には0.37μmの値に低下する。その際、一般的に全体の平均孔径は約0.6μmになり、これは、ニッケル相での約2.2μmの孔径と相関関係にある。第3の層内でも、焼結後の組織体が強い二峰性を示す粒径分布から成っており、すなわち平均焼結粒径は、ニッケル相に関しては約1.5μm、8YSZ相に関しては約0.25μmである。
【0062】
この形成されたアノード機能層(A3)を、その後、完全なアノード層複合体(A1、A2、およびA3)と一緒に1300℃未満の温度で焼結し、続いてまずは適応層で、または直接的に薄膜電解質(E)でコーティングすることができ、薄膜電解質はPVD技術またはゾル・ゲル技術により施与される。
【0063】
次に、好ましくはランタン−ストロンチウム−コバルト−フェライト(LSCF)から成る高出力カソードを湿式化学的に施すことができ、セルの運転を開始する際にその場焼結することができる。
【0064】
図2、図3、および図4では、本発明によるアノード層複合体、またはこの複合体の個々の層の画像を確認することができる。
【0065】
図2には、多孔質の金属基板(S)上の本発明によるアノード層複合体に現れている段階的な構造の大まかなせん断面が電解質を伴わずに示されている。Sは基板であり、Aはアノード層複合体(A1、A2、およびA3)を表している。この図では、拡散バリアは、層厚が小さいので識別できない。金属基板の粗い多孔質構造をはっきりと認識することができ、その上には、アノード層構造の個々の層が相次いで施与されている。この例では、ITM基板上にアノード層A1〜A3がスクリーン印刷により相次いで施与され、それぞれ乾燥され、続いて一緒に1200℃で3時間、水素雰囲気中で焼結された。
【0066】
すべてのペーストで、溶剤としてテルピネオールが、および結合剤としてエチルセルロースが使用された。Ni:8YSZの比率は、最初の2つのアノード層に関しては65:35重量%であった。その際、Vale Inco社(Vale Inco Europe Limited、London、England)のニッケル粉末が使用され、第1のアノード層(A1)に関しては測定した粒径分布がd10=3.7μm、d50=13μm、d90=41μm(Niタイプ123)、および第2のアノード層(A2)に関してはd10=0.8μm、d50=2.4μm、d90=5μm(Niタイプ110)であった。メーカーは、両方の粉末に関し、フィッシャー・サブシーブ・サイザー法による平均粒径をそれぞれ3〜7μm(タイプ123)および0.8〜1.5μm(タイプ110)としている。さらに両方ともの層のために、Unitec社(FYT13−005H、Unitec Ceramics Ltd.、Stafford、UK)の8YSZ粉末が使用され、この粉末の粒径は、粉砕および分散工程の後で、d10=0.23μm、d50=0.56μm、d90=1.2μmであった。メーカーは、未処理の粉末に関して粒径をd50=1.06μmとしている。ペースト中の総固形分は69.3重量%(A1)および59.0重量%(A2)で、結合剤含有率(エチルセルロース 45cps、Sigma−Aldrich Chemie GmbH、Taufkirchen)は2.8重量%(A1)および2.4重量%(A2)であった。
【0067】
提示した粒径は、静的光散乱により決定されており(Fritsch analysette22、Fritsch GmbH、Idar−Oberstein)、部分的に、別の方法で確定されたメーカーの提示とは相違している。この相違は第一に、不規則に成形された粒子を違ったやり方で測定する測定法自体に起因しており、第二に、達成可能な分散性に起因している。フィッシャー・サブシーブ・サイザー法ではかなり大きな機械的力が粒子に作用する一方で、静的光散乱による測定では粒子はエタノール懸濁液中で超音波により分散され、したがって比較的固い集塊は砕けない。後者は、一般的に製造プロセスにも全体的に当てはまる。
【0068】
本来のアノード機能層(A3)は、Baker社(Mallinckrodt Baker,Inc.、Phillipsburg、USA)の、予め粉砕され、かつ分散された段階での粒径分布がd10=0.14μm、d50=0.29μm、d90=1.2μmのNiO、および東ソー社(TZ−8Y、東ソー株式会社、東京、日本)のd10=0.12μm、d50=0.23μm、d90=0.36μmの8YSZから成り、その比率は80:20重量%、総固形分は58.4重量%、結合剤含有率(エチルセルロース 10cps、Sigma−Aldrich GmbH)は2.3重量%であった。NiO未処理粉末について、メーカーは平均粒径を3μm未満とする仕様書を提示しており、この平均粒径は、処理によりそれに対応して小さくなった。8YSZ粉末について、メーカーは透過型電子顕微鏡検査により決定した平均粒径40nmを提示している。メーカーはこの平均粒径を0.58μmと提示している。この値は、提示された粒径を明らかに超えており、なぜなら原料粉末における個々の粒子が噴霧顆粒へと集結されたからである。これに加え、さらなる加工全体にわたって割れない硬い集塊が生じる。走査型電子顕微鏡写真では、約150nmの粒径が確定された。つまり提示された粒径に関しては、常に測定法を考慮しなければならない。
【0069】
粉末は、それぞれ溶剤中で予め分散し、続いて相応の混合比で粉砕容器内で均質化し、次いで結合剤を含む溶液によりペースト状に加工し、そして3段圧延機(Exakt50、Exakt Vertriebs GmbH、Norderstedt)で均質化した。スクリーン印刷には、織りパラメータが18−180(A1用)、27−071(A2用)、および47−045(A3用)のスクリーンを使用した(最初の数字は1cm当たりの糸数、2番目の数字は糸の太さ[単位μm])。それぞれの層の乾燥は60℃で行った。3つすべての層を一緒に1200℃におき水素中で3時間にわたって焼結し、その際、アノード機能層中のNiOが金属ニッケルへと還元された。
【0070】
構造を分かり易くするために、さらに基板およびアノード層複合体の破断面の近視野写真を撮影した(図3)。層複合体(S、A1、A2、A3)の段階的な構造も、アノード層内での二峰性の粒径分布も、ここでははっきりと認識できる。より細かい8YSZ相は、明るいしぶき状の粒子として認識でき、この粒子は、より大きくほぼ円形に見えるNi粒子とは明らかに異なる。多孔質の8YSZ相は、焼結したNi粒子の間隙をほぼ完全に塞いでいる。
【0071】
図4では、第1のアノード層のせん断面が撮影された。焼結したニッケル粒子の網状構造(大きな薄灰色の面)と間隙に存在する8YSZ粒子をはっきりと認識できる。
【0072】
表には、アノード層複合体に関する測定値がまとめられている。その際、A1およびA2の粗さは乾燥した状態で決定され、A3の粗さは焼結した最終状態で決定された。その他では同じ試料に関する乾燥した状態と焼結した状態の粗さが一致することは、さらなる測定によって示された(測定値の10%未満の差)。特に最後の2つの層、A2およびA3に関しては、微小粗さ(λ=150μm)での違いが、DIN規格に基づいて算出された粗さでの違いより大きい。
【0073】
粗さに関しては、共焦点レーザセンサLT9010を備えたレーザトポグラフCT200(Cybertechnologies GmbH、Ingolstadt)を使用した(測定スポットの大きさは約2μm、垂直方向の解像度は10nm)。1μm毎に測定した断面曲線は、多重反射に由来する個々の誤った信号を最小限に抑えるために、DIN規定を適用する前にガウスフィルタ(α=1n(2)、フィルタ長5μm)でフィルタリングされた。
【0074】
直線法により確定された、焼結した組織体の粒径および孔径に関しては、それぞれのパラメータについて、層のせん断面の走査型電子顕微鏡写真をそれぞれ少なくとも3枚評価した。その際、1枚の写真につき500〜1000本の走査線が引かれた。走査電子による撮影のピクセル数が1024×768ピクセルの場合、基板に関しては、フレーム全体の幅、700〜1500μm、アノード複合体の第1の層(A1)に関しては65〜80μm、第2の層(A2)に関しては30〜60μm、アノード機能層(A3)に関しては5μm(8YSZの粒径用)〜30μm(別のパラメータ)が選択された。粒径に関するデータでは、内部の粒界は考慮せず、外側の形態だけを考慮した。個々の相は、粒子形状の違いまたは僅かなコントラストの違いに基づいて区別し、EDX元素分析により確認した。Ni相と8YSZ相の焼結粒径の違いが非常にはっきりと現れている。すべての相で、Niの粒径が8YSZの粒径の少なくとも4倍の大きさになっている。
【0075】
静的光散乱により確定された、分散および部分的に粉砕された原料粉末の平均粒径(括弧内はメーカーにより別の方法で決定された粒径)、および層の組成、乾燥した状態(A1、A2)もしくは焼結した状態(A3)での粗さ、ならびにそれぞれの層厚、焼結した状態での粒径および孔径に関するパラメータの例を、下の表に示している。
【0076】
【表1】

【0077】
本願で引用した文献
[1] P. Attryde, A. Baker, S. Baron, A. Blake, N. P. Brandon, D. Corcoran, D. Cumming, A. Duckett, K. El-Koury, D. Haigh, M, Harrington, C, Kidd, R. Leah, G. Lewis, C. Matthews, N. Maynard, T. McColm, A. Selcuk, M. Schmidt, R. Trezona, L. Verdugo, ,,Stacks and System based around metal supported SOFCs operating at 500 - 600℃", Electrochemical Proceedings Volume 2005-07, Vol. 1, Seiten 113-122 [2005].
[2] G. Schiller; ,,Metallgestuetzte SOFC-Zellen" Fortbildungsseminar Werkstofffragen der Hochtemperatur-Brennstoffzelle, Deutsche Gesellschaft fuer Materialkunde (Hrsg.), Juelich, 26.-28.4.2006 (Vortrag und Manuskript).
[3] H.J. Cho and G.M. Choi: Fabrication and characterization of Ni-supported solid oxide fuel cell, Solid State Ionics 180 [11-13], 792-795 (2009).
[4] T.S. Smith: ,,Morphological Characterization of Porous Coatings." In: ,,Quantitative Characterization and Performance of Porous Implants for Hard Tissue Applications", ASTM STP953, J.E. Lemmons, Hrsg., American Society for Testing and Materials, Philadelphia, 1987, S. 92-102.
[5] M.I. Mendelson: ,,Average Grain Size in Polycrystalline Ceramics", J. Am. Ceram. Soc. 52 [8] (1969), 443-446.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基板(S)上に少なくとも3層のアノード層複合体(A1、A2、A3)が配置されており、
アノード層複合体の個々の層が、それぞれ酸化イットリウム安定化二酸化ジルコニウム(YSZ)およびニッケルを含んでおり、
アノード層複合体の層が、基板からの間隔が増すにつれてより小さい平均粒径のニッケル含有粉末を含んでおり、
アノード層複合体の最後の、電解質との接触のために設けられた層が、4μm未満の平均表面粗さRを示すことを特徴とする、高温燃料電池のための基板支持されたアノード。
【請求項2】
アノード層複合体の最後の層が、ニッケル相での平均孔径4μm未満または全体の平均孔径1.5μm未満を有する、請求項1に記載のアノード。
【請求項3】
クロム含有率が65重量%超のクロム基合金から成るか、またはクロム含有率が20〜30重量%で、Mxが希土類金属、Sc、Ti、Al、Mn、Mo、もしくはCoの群の少なくとも1種の元素もしくは酸化物であるフェライトFeCrMx合金から成る金属基板を備えた、請求項1または2に記載のアノード。
【請求項4】
平均孔径が5〜60μmの間、特に20〜50μmの間の金属基板を備えた、請求項1〜3のいずれか一つに記載のアノード。
【請求項5】
金属基板とアノード層複合体の第1の層との間に配置された拡散バリアを備えた、請求項1〜4のいずれか一つに記載のアノード。
【請求項6】
アノード層複合体の第1の層が、ニッケル相での平均孔径4〜15μm、または全体の平均孔径1〜8μmを有する、請求項1〜5のいずれか一つに記載のアノード。
【請求項7】
アノード層複合体の第2の層が、ニッケル相での平均孔径2〜7μm、または全体の平均孔径0.5〜4μmを有する、請求項1〜6のいずれか一つに記載のアノード。
【請求項8】
金属基板上に少なくとも3層のアノード層複合体が施与され、
その際、アノード層複合体の個々の層が、それぞれ酸化イットリウム安定化二酸化ジルコニウム(YSZ)およびニッケルを含んでおり、
原料粉末が、アノード層複合体の少なくとも第1および第2の層では二峰性の粒径分布を有しており、
少なくとも、使用されるニッケル含有粉末の平均粒径が、層ごとに小さくなり、これによりアノード層複合体の最後の層に関しては表面粗さRが4μm未満になることを特徴とする、高温燃料電池のための基板支持されたアノードの製造方法。
【請求項9】
アノード層複合体の最後の層でのニッケル含有粉末の平均粒径が最大0.5μmである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
使用される金属基板が、7〜15μmの間の平均表面粗さRを示す、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
金属基板上にアノード層複合体を施与する前に拡散バリアが施与される、請求項8〜10のいずれか一つに記載の方法。
【請求項12】
アノード層複合体の第1の層のために、平均粒径が0.5〜1.5μmの間の8YSZ粉末、および平均粒径が3〜20μmの間のニッケル含有粉末が使用される、請求項8〜11のいずれか一つに記載の方法。
【請求項13】
アノード層複合体の第1の層のために、8YSZ粉末が20〜40重量%の割合で使用される、請求項8〜12のいずれか一つに記載の方法。
【請求項14】
アノード層複合体の第1の層が、2〜8μmの間の平均表面粗さRを示す、請求項8〜13のいずれか一つに記載の方法。
【請求項15】
アノード層複合体の第2の層のために、平均粒径が0.5〜1.5μmの間の8YSZ粉末、および平均粒径が0.7〜4μmの間のニッケル含有粉末が使用される、請求項8〜14のいずれか一つに記載の方法。
【請求項16】
アノード層複合体の第2の層のために、8YSZ粉末が20〜40重量%の割合で使用される、請求項8〜15のいずれか一つに記載の方法。
【請求項17】
アノード層複合体の最後の層のために、平均粒径が約0.1〜0.3μmの8YSZ粉末、および平均粒径が約0.1〜0.5μmのニッケル含有粉末が使用される、請求項8〜16のいずれか一つに記載の方法。
【請求項18】
アノード層複合体の最後の層のために、8YSZ粉末が5〜20重量%の割合で使用される、請求項8〜17のいずれか一つに記載の方法。
【請求項19】
アノード層複合体の第2の層が、5μm未満の二乗平均平方根粗さRを示す、請求項8〜18のいずれか一つに記載の方法。
【請求項20】
薄膜電解質(E)がアノード層複合体(A1、A2、A3)上に施与され、特にPVD法またはゾル・ゲル法により施与される、請求項8〜19のいずれか一つに記載の方法。
【請求項21】
カソード(K)が薄膜電解質上に施与され、かつその場(in situ)焼結される、請求項20に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−511795(P2013−511795A)
【公表日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−539178(P2012−539178)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際出願番号】PCT/DE2010/001295
【国際公開番号】WO2011/060756
【国際公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(390035448)フォルシュングスツェントルム・ユーリッヒ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (100)
【出願人】(512129055)プランゼー・ソシエタス・ヨーロピア (1)
【Fターム(参考)】