説明

高温耐性ガラス質無機繊維

少なくとも1000℃まで又はそれ以上の使用温度を有し、使用後機械的一体性を有し、生理液中で非耐久性(可溶性)であり、且つシリカ、マグネシア、ランタニド系列元素含有化合物及び任意構成成分としてジルコニアを含有する溶融物から製造される温度耐性ガラス質無機繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
少なくとも1000℃までの使用温度を有する、断熱材又は防音材として有用な高温耐性ガラス質繊維を提供する。該高温耐性繊維は、容易に製造し得、低収縮性を示し、上記使用温度への暴露後も良好な機械的強度を保持し、生理液中で非耐久性である。
【背景技術】
【0002】
絶縁材産業は、肺液のような生理液中では耐久性でない繊維を断熱及び防音用途に使用することが望ましいと判断している。候補材料は提案されているものの、これら材料の使用温度限界は、耐熱ガラス及びセラミック繊維のような高温耐性繊維を使用する多くの用途に適応するには十分に高くない。とりわけ、高温耐性繊維は、予測される暴露温度において最低の線収縮を示して、遮断される物品に有効な熱防御を与えるようにしなければならない。
生理学的媒体に分解可能である、人造ガラス質繊維材料群に属する多くの組成物が提案されている。これらのガラス繊維は、多くの場合低い使用温度限界をもたらす有意のアルカリ金属酸化物含有量を一般に有する。
【0003】
カナダ特許出願第2017344号は、必須成分としてのシリカ、カルシア、及びNa2O;好ましい成分としてのマグネシア及びK2O;並びに、任意構成成分としてのボリア、アルミナ、チタニア、酸化鉄類及びフッ化物を含有するガラスから製造した生理学的溶解性を有するガラス繊維を開示している。
国際公報第WO90/02713号は、食塩水に溶解性である鉱質繊維を開示しており、該繊維は、シリカ、アルミナ、酸化鉄、カルシア、マグネシア、Na2O及びK2Oを含む組成を有する。
米国特許第5,108,957号は、必須成分としてのシリカ、カルシア、Na2OプラスK2O、及びボリア;並びに、任意構成成分としてのアルミナ、マグネシア、フッ化物及びP2O5を含有する生理学的媒体中で分解し得る繊維を製造するのに有用なガラス組成物を開示している。該米国特許は、リンの存在を、生理学的媒体中での繊維の分解速度を速める効果を有するものと説明している。
【0004】
鉱質繊維の生物学的溶解性を有利にするのにリンの効果を挙げている他の特許としては、シリカ及びカルシアを実質的に含有するが任意構成成分としてマグネシア及びNa2OプラスK2Oを含有する鉱物繊維を開示しており、酸化リンの存在がガラスマトリックスに対するアルミニウム及び鉄の安定効果を低下させるという鉱質繊維を記載している国際公報第WO92/09536号がある。これらの繊維は、耐熱性セラミック繊維よりも低い温度で典型的に製造されている。本発明者等は、高温耐性繊維において必要とする溶融温度(1700~2000℃)においては、数%程の低レベルの酸化リンが、炉成分の重度の分解及び/又は腐蝕を起し得ることを観察している。
カナダ特許出願第2043699号は、シリカ、アルミナ、カルシア、マグネシア、P2O5、任意構成成分としての酸化鉄、及びNa2OプラスK2Oを含有する、生理学的媒体の存在下で分解する繊維を記載している。
【0005】
フランス特許出願第2662687号は、シリカ、アルミナ、カルシア、マグネシア、P2O5、酸化鉄、及びNa2OプラスK2OプラスTiO2を含有する、生理学的媒体の存在下で分解する鉱質繊維を記載している。
米国特許第4,604,097号は、カルシア及び五酸化リンの二成分混合物を一般に含むが、フッ化カルシウム;水;及びマグネシア、酸化亜鉛、酸化ストロンチウム、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化リチウム又は酸化アルミニウムのような1種以上の酸化物のような他の構成成分も有する生体吸収性ガラス繊維を記載している。
国際公報第WO92/07801号は、五酸化リン及び酸化鉄を含む生体吸収性ガラス繊維を記載している。P2O5の1部はシリカと置換え得、そして、酸化鉄の1部はアルミナと置換え得る。必要に応じて、上記繊維は、Ca、Zn及び/又はMgから選ばれた2価のカチオン化合物並びにNa、K及び/又はLiから選ばれたアルカリ金属カチオン化合物を含有する。
【0006】
米国特許第5,055,428号は、合成肺溶液中で可溶性であるソーダ石灰アルミノボロ-シリケートガラス繊維組成物を記載している。アルミナ含有量は、ボリアの増加並びにシリカ、カルシア、マグネシア、K2O及び任意構成成分のNa2Oの調整によって減少させている。他の構成成分としては、酸化鉄、チタニア、フッ素、酸化バリウム及び酸化亜鉛がある。
国際公報第WO87/05007号は、食塩水中で溶解性を有し、シリカ、カルシア、マグネシア及び任意構成成分としてのアルミナを含有する無機繊維を記載している。国際公報第WO89/12032号は、生理食塩水で抽出可能なシリコンを有し、シリカ、カルシア、任意構成成分としてのマグネシア、アルカリ金属酸化物、並びにアルミナ、ジルコニア、チタニア、ボリア及び酸化鉄類の1種以上を含有する無機繊維を記載している。
【0007】
国際公報第WO93/15028号は、1回の使用で、1000℃及び/又は800℃への24時間の暴露時に透輝石に結晶化して、質量%で記載してシリカ 59〜64、アルミナ 0〜3.5、カルシア 19〜23及びマグネシア 14〜17である組成を有し、そして、もう1回の使用で珪灰石/偽珪灰石に結晶化して、質量%で記載してシリカ 60〜67、アルミナ 0〜3.5、カルシア 26〜35及びマグネシア 4〜6である組成を有する食塩水に溶解性であるガラス質繊維を記載している。
国際公報第WO03/059835号は、1.3〜1.5質量%のLa2O3を含有するカルシウム-シリケート繊維を記載している。
しかしながら、先に示した特許公報に記載された繊維は、その使用温度において制約されており、従って、1000℃以上で使用する炉のライニングのような高温断熱用途並びに金属マトリックス複合体のような補強用途及び摩擦用途においては不適切である。
本出願の譲受人であるUnifrax社に付与された米国特許第6,030,910号、第6,025,288号及び第5,874,375号は、実質的にシリカ及びマグネシア繊維形成性溶融物の生成物を含み、生理液中で可溶性であり且つ高使用温度限界において良好な収縮及び機械特性を有する無機繊維を開示している。
【0008】
非耐久性繊維化学物をベースとする製品は、Unifrax社(ニューヨーク州ナイアガラフォールズ)から商品名INSULFRAXとして販売されており、65%のSiO2、31.1%のCaO、3.2%のMgO、0.3%のAl2O3及び0.3%のFe2O3の公称質量パーセント組成を有する。もう1つの製品は、Thermal Ceramics社(ジョージア州オーガスタにある)から商品名SUPERWOOLとして販売されており、58.5質量%のSiO2、35.4質量%のCaO、4.1質量%のMgO及び0.7質量%のAl2O3からなる。この材料は、1000℃の使用限界を有し、およそ1280℃で溶融し、この温度は、上述の高温断熱目的において望ましくあるためにはあまりにも低過ぎる。
国際公報第WO94/15883号は、Al2O3、ZrO2及びTiO2の追加構成成分を含み、食塩水溶解性及び耐火性が試験されたCaO/MgO/SiO2繊維を開示している。該文献は、食塩水溶解性はMgOの量を増加させるにつれて増大しているようであり、一方、ZrO2及びAl2O3は溶解性に対して有害であったと説明している。TiO2 (0.71~0.74モル%)及びAl2O3 (0.51~0.55モル%)の存在は、1260℃において3.5%未満という収縮基準に合格しない繊維に至らしめている。該文献は、さらに、SiO2が多過ぎる繊維は製造するのが困難又は不可能であると説明しており、繊維化し得なかった例として、70.04%、73.28%及び78.07%のSiO2を含むサンプルを挙げている。
【0009】
米国特許第5,332,699号、第5,421,714号、第5,994,247号及び第6,180,546号は、高温耐性で可溶性の無機繊維に関する。
断熱において使用される繊維において重要である収縮特性によって表されるような温度耐性以外に、これらの繊維は、使用又は使用温度への暴露中及び暴露後に機械的強度特性を有して、繊維が使用中にその構造的一体性及び断熱特性を維持し得るようにすることも必要である。
繊維の機械的一体性の1つの特性は、その稼動後脆化性である。繊維は、脆いほど、即ち、粉末に破壊又は崩壊し易いほど、低い機械的一体性を有する。一般に、高温耐性と生理液中での非耐久性の双方を示す耐熱繊維は、高度の稼動後脆化性も示すことが観察されている。この結果として、繊維はその断熱目的を達成するのに必要な構造を与えることのできる強度即ち機械的一体性を使用温度への暴露後に欠くこととなる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者等は、使用温度まで良好な機械的一体性を示す高温耐性、非耐久性繊維を見出した。繊維の他の機械的一体性の尺度としては、圧縮強度及び圧縮回復性がある。
しかしながら、目的の耐久性、温度収縮性及び強度特性を示し得る耐熱ガラス組成物は、その構成成分の溶融物からの紡糸又は吹込み成形のいずれかによっても繊維化し易くない可能性がある。
従って、繊維を吹込み成形又は紡糸するのに適する粘度を有する溶融物から容易に製造し得且つ生理液中で非耐久性である高温耐性の耐熱ガラス繊維を提供することが望ましい。
また、生理液中で非耐久性であり且つ使用温度まで良好な機械的強度を示す高温耐性の耐熱ガラス繊維を提供することが望ましい。
さらに、生理液中で非耐久性であり且つ使用温度において低収縮性を示す高温耐性の耐熱ガラス繊維を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0011】
生理液中で非耐久性である高温耐性耐熱ガラス質無機繊維を提供する。該繊維は、標準のアルミノシリケート耐熱セラミック繊維よりも模擬肺液中で可溶性であり、少なくとも1000℃又はそれ以上までの温度使用限界を示す。これらの繊維は、使用温度への暴露後も機械的強度を保持する。繊維組成がシリカ(SiO2)、マグネシア(MgO)、及びランタン又はランタニド系列元素を含有する少なくとも1種の化合物を含有する、繊維形成可能で、高温耐性で且つ生理液中で非耐久性であるという要件を満たす繊維を特定した。
ある実施態様においては、上記繊維は、71.25〜約86質量%の範囲内の量のシリカ、マグネシア、及びランタニド系列元素含有化合物を含有する諸成分の溶融物から製造する。
少なくとも1000℃までの使用温度を有し、該使用温度への暴露後に機械的一体性を維持し且つ肺液のような生理液中で非耐久性である、ケイ酸マグネシウム系をベースとする低収縮性で耐熱性のガラス質無機繊維を提供する。
【0012】
上記非耐久性の耐熱性ガラス質無機繊維は、1つの実施態様によれば、約71.25〜約86質量%のシリカ、約14〜約28.75質量%のマグネシア、及び約0よりも多く約6質量%までのランタニド系列元素含有化合物の繊維化生成物を含む。ランタニド系列元素含有化合物は、例えば、ランタニド系列元素の酸化物であり得る。
上記非耐久性の耐熱性ガラス質無機繊維は、1つの実施態様によれば、約71.25〜約86質量%のシリカ、約14〜約28.75質量%のマグネシア及び約0よりも多く約6質量%までのランタニド系列元素含有酸化物のような化合物、並びに任意構成成分としてのジルコニアの繊維化生成物を含む。ジルコニアを繊維化溶融物に含ませる場合、ジルコニアは、一般に0よりも多く約11質量%までの範囲の量で含ませる。
【0013】
さらなる実施態様によれば、上記非耐久性の耐熱性ガラス質無機繊維は、約71.25〜約86質量%のシリカ、約14〜約28.75質量%のマグネシア及び約0よりも多く約6質量%までのランタニド系列元素含有化合物、並びにFe2O3として計算して約1質量%未満の酸化鉄不純物の繊維化生成物を含む。ランタニド系列元素含有化合物は、例えば、ランタニド系列元素の酸化物であり得る。
上記高温耐性、非耐久性繊維は、ある実施態様によれば、好ましくは、約2質量%未満のアルミナ(Al2O3)を含有する。
【0014】
約71.25〜約86質量%のシリカ、約14〜約28.75質量%のマグネシア、及び約0よりも多く約6質量%までのランタン又はランタニド系列元素含有化合物を含む成分を有する溶融物を調製し、該溶融物から繊維を製造することを特徴とする、少なくとも1000℃までの使用温度を有し、該使用温度まで機械的一体性を維持し且つ生理液中で非耐久性である高温耐性ガラス質無機繊維の製造方法を提供する。
さらに、約71.25〜約86質量%のシリカ、約14〜約28.75質量%のマグネシア及び約0よりも多く約6質量%までのランタン又はランタニド系列元素含有化合物、並びに任意構成成分としてのジルコニアを含む成分を有する溶融物を調製し、該溶融物から繊維を製造することを特徴とする、少なくとも1000℃までの使用温度を有し、該使用温度まで機械的一体性を維持し且つ生理液中で非耐久性である高温耐性ガラス質無機繊維の製造方法を提供する。
【0015】
本発明の繊維を製造するのに使用する溶融組成物は、繊維を吹込み成形又は紡糸するのに、また、使用温度への暴露に対して機械的強度を付与するのに適する溶融物粘度を与える。
さらに、物品の上、中、近く又は周辺に、少なくとも1000℃まで又はそれ以上の使用温度を有し、該使用温度まで機械的一体性を維持し且つ生理液中で非耐久性である断熱材料を配置させ、該断熱材料が、シリカ、マグネシア、ランタン又はランタニド系列元素を含有する化合物、及び任意構成成分としてのジルコニアを含む繊維溶融物の繊維化生成物を含むことを特徴とする物品の断熱方法も提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
1000℃よりも高い温度使用限界を有し且つ肺液のような生理液中で非耐久性である、断熱、電気絶縁、防音材料として有用な高温耐性繊維を提供する。生理液中で非耐久性とは、生体外試驗中に上記繊維がそのような液(模擬肺液のような)中で少なくとも部分的に溶解することを意味する。
ガラス組成物が満足な高温耐熱性繊維製品を製造するための実施可能な候補であるためには、製造すべき繊維は、製造可能で、生理液中で十分に可溶性であり、且つ高使用温度への暴露中に最低の収縮と最低の機械的一体性の損失でもって高温に耐え抜き得ねばなければならない。
【0017】
“粘度”とは、流動又は剪断応力に抵抗するガラス溶融物の能力を称する。粘度-温度関係は、所定のガラス組成物を繊維化し得るかどうかを決定するのに重要である。最適粘度曲線は、繊維化温度において低粘度(0.5〜5Pas・sec(5〜50ポイズ))を有し、また、温度が低下するにつれて次第に上昇するであろう。溶融物が繊維化温度において十分に粘稠でない(即ち、希薄過ぎる)場合、その結果は、繊維化されていない材料(ショット)の高産出を伴っての短い実質のない繊維である。溶融物が繊維化温度で粘稠過ぎる場合、得られる繊維は、極めて粗く(高直径)で短いものであろう。
粘度は、溶融化学物に依存し、粘度調整剤として作用する元素又は化合物によっても影響を受ける。本発明者等は、この繊維化学系において、ランタニド系列元素含有化合物が繊維溶融物から繊維を吹込み成形又は紡糸するのを可能にする粘度調整剤として作用することを見出した。しかしながら、本発明によれば、そのような粘度調整剤は、そのタイプ又は量のいずれであれ、吹込み成形又は紡糸繊維の溶解性、収縮抵抗性又は機械的強度に有害な影響を与えないことが必要である。
【0018】
また、機械的一体性も、繊維が如何なる用途においてもそれ自体の重量を支持しなければならず且つ移動性空気又はガスによる磨耗にも耐えなければならないことから、重要な性質である。繊維一体性及び機械的強度の指標は、目視及び接触観察並びに使用温度暴露後繊維のこれら特性の機械的測定によって与えられる。
上記繊維は、標準の商業的に入手可能なアルミノシリケート繊維の圧縮強度に匹敵する目標範囲内の圧縮強度を有し、さらにまた、高圧縮回復性即ち弾力性も有する。
本発明の繊維は、模擬肺液中で、アルミノシリケート(約50/50質量%)及びアルミノ/ジルコニア/シリケート即ちAZS (約30/16/54質量%)のような通常の耐熱セラミック繊維よりも耐久性が有意に低い。
【0019】
上記非耐久性耐熱ガラス質繊維は、標準のガラス及びセラミック繊維製造方法によって製造する。シリカ;ガンカキ石、クドカンラン石、マグネシア、マグネサイト、カ焼マグネサイト、ジルコン酸マグネシウム、ペリクレース、ステアタイト又はタルクのような任意の適切なマグネシア源;及びジルコニアを繊維溶融物に含ませる場合の、バデレアイト、ジルコン酸マグネシウム、ジルコン又はジルコニアのような任意の適切なジルコニア源のような各原材料を、選定した割合で、貯蔵ビンから炉に送り出し、そこで原材料を溶融させて、バッチ又は連続方式で、繊維形成ノズルを使用して吹込み成形するか又は紡糸する。
溶融物の粘度は、必要に応じて、粘度調整剤を存在させることにより、所望用途において必要とする繊維化を達成するように十分に調整し得る。粘度調整剤は、溶融物の主成分を供給する原材料中に存在させるか、或いは少なくとも部分的に別個に添加し得る。原材料の所望粒度は、炉の大きさ(SEF)、注入速度、溶融物温度、滞留時間等のような炉条件によって決定する。
【0020】
ランタニド系列元素を含有する化合物は、主要成分としてのシリカ及びマグネシアを含有する繊維溶融物粘度を上昇させ、それによって繊維溶融物の繊維形成性を向上させるのに有効に使用し得る。ランタニド元素含有化合物の使用は、繊維生成物の熱性能、機械特性又は溶解性に悪影響を及ぼすことなく、粘度を上昇させ、繊維化を改善する。
1つの実施態様によれば、上記耐熱性ガラス質無機繊維は、約6%未満、好ましくは約5%未満の線収縮でもって少なくとも1000℃までの使用温度に耐え得、該使用温度で機械的一体性を示し、肺液のような生理液中で非耐久性である。該非耐久性耐熱性ガラス質無機繊維は、約71.25〜約86質量%のシリカ、約14〜28.75質量%のマグネシア、及び約0よりも多く約6質量%までのランタン又はランタニド系列元素含有化合物の繊維化生成物を含む。また、繊維生成物を製造する繊維形成性溶融物は、0〜約11質量%のジルコニアも含み得る。
【0021】
上記繊維は、約1質量%よりも多くないカルシア不純物を含有すべきである。他の実施態様によれば、約1質量%よりも多い酸化鉄不純物(Fe2O3として計算して)を含有すべきでない。溶融物に添加したときに、溶融物粘度に影響を与えて後述するように容易に繊維化し得る溶融物の粘度/温度曲線のプロフィール、即ち、形状に近似させるようにする他の元素又は化合物も粘度調整剤使用し得る。
有用なランタニド系列元素としては、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びこれらの混合物がある。元素Yは、多くのランタニド系列元素に類似しており、これら元素と一緒に天然に見出される。本明細書の目的においては、元素Yは、ランタニド系列元素内に包含されるものとみなすべきである。ある実施態様においては、ランタニド類元素La、Ce、Pr、Nd又はこれらの組合せを含有する化合物を繊維溶融物に添加し得る。繊維溶融物に添加し得るとりわけ有用なランタニド系列元素は、Laである。
【0022】
ランタニド系列元素を含有する化合物としては、限定することなしに、ランタニド系列元素含有臭化物、ランタニド系列元素含有塩化物、ランタニド系列元素含有フッ化物、ランタニド系列元素含有リン酸塩、ランタニド系列元素含有硝酸塩、ランタニド系列元素含有亜硝酸塩、ランタニド系列元素含酸化物、及びランタニド系列元素含有硫酸塩があり得る。
ランタニド系列元素の酸化物は、シリカとマグネシアを含有する繊維溶融物の粘度を上昇させて該溶融物の繊維形成性を向上させるのに有用である。ランタニド系列元素のとりわけ有用な酸化物は、La2O3である。La2O3は、当該化学技術においては、“ランタン”又は“酸化ランタン”と一般的に称し、従って、これらの用語は、本明細書においては互換的に使用し得る。
【0023】
上述したように、ランタニド系列元素含有化合物の混合物を上記繊維溶融物中で使用して溶融物粘度を上昇させ得る。化学的には、ランタニド系列元素は、極めて類似しており、鉱床中で一緒に見出される傾向にある。用語“ミッシュメタル”は、ランタニド系列元素の天然産混合物を表示するのに使用される。ミッシュメタル酸化物をその各構成ミッシュメタル酸化物として分離して転化するには、さらなる精錬が必要である。従って、ミッシュメタル酸化物自体を、上記繊維溶融物中のランタニド系列元素含有化合物として使用し得る。
アルミナは粘度調整剤であるが、繊維化学物中にアルミナを含ませることは、得られる繊維の生理食塩水中での溶解性の低下をもたらす。従って、繊維溶融物化学物中に存在するアルミナの量は、少なくとも約2質量%よりも低く、使用する原材料によって可能であれば、少なくとも約1質量%未満に抑制することが望ましい。
【0024】
定義した組成の繊維が許容し得る品質レベルで容易に製造し得るかどうかを試験する1つの方法は、試験化学物の粘度曲線が容易に繊維化し得る既知の生成物の粘度曲線と一致するかどうかを判定することである。ケイ酸マグネシウム溶融物への酸化ランタン添加は、該溶融物の粘度曲線をより低い温度及び高粘度に拡大することによって繊維化を向上させる。ケイ酸ランタン系はケイ酸マグネシウム系よりも耐熱性の系であるので、得られる繊維の熱性能も増強される。
ガラス組成物における粘度対温度曲線の形状は、溶融物が繊維化する容易さ、ひいては得られる繊維の品質を代表する(例えば、繊維のショット含有量、繊維直径及び繊維長に影響する)。ガラス類は、一般に、高温では低粘度を有する。温度が低下するにつれ、粘度は上昇する。所定温度での粘度値は、粘度対温度曲線の全体的急峻性によるように、組成の関数として変動し得る。シリカ、マグネシア、及びランタン又は他のランタニド系列元素含有化合物の溶融物の粘度曲線は、商業的に入手可能な紡糸アルミノシリケート繊維における図1Aの目標粘度曲線に近似する粘度を有する。
【0025】
上記繊維は、約65〜約86質量%のシリカ、約14〜約35質量%のマグネシア、及びランタニド系列元素含有化合物の繊維化生成物を含む。
上記非耐久性耐熱ガラス質無機繊維は、ある実施態様によれば、約71.25〜約86質量%のシリカ、約14〜約28.75質量%のマグネシア、及び約0よりも多く約6質量%までのランタン又はランタニド系列元素含有化合物の繊維化生成物を含む。
他の実施態様によれば、上記非耐久性高温耐性ガラス質無機繊維は、約71.25〜約86質量%のシリカ、約14〜約28.75質量%のマグネシア、約0よりも多く約6質量%までのランタン又はランタニド系列元素含有化合物、0〜約11質量%のジルコニア、及び約2質量%未満のアルミナの繊維化生成物を含む。
【0026】
上述の溶融物及び繊維においては、操作可能なシリカ量は、約71.25〜約86質量%、好ましくは約72〜約80質量%であり、シリカの上限値は繊維の製造可能性によってのみ制約される。
もう1つの実施態様によれば、上記非耐久性高温耐性ガラス質無機繊維は、約72〜約80質量%のシリカ、約21〜約28質量%のマグネシア、及び約0よりも多く約6質量%までのランタニド系列元素含有化合物の繊維化生成物を含む。勿論、シリカ、マグネシア及びランタニド系列元素含有化合物の量の総計は、質量パーセントにおいて、100質量%を越え得ない。
さらなる実施態様によれば、上記非耐久性耐熱ガラス質無機繊維は、約71.25〜約86質量%のシリカ、約14〜約28.75質量%のマグネシア、及び約0よりも多く約6質量%までのランタニド系列元素含有化合物の繊維化生成物を含み、該繊維は、アルカリ金属酸化物を実質的に含有しない。
【0027】
上記繊維は、痕跡量の不純物よりも多いアルカリ金属を実質的に含有しない。用語“痕跡量の不純物”とは、繊維溶融物に意図的に添加したものではないが繊維を製造する原出発材料中に存在し得る繊維化生成物中の物質の量を称する。即ち、用語“アルカリ金属酸化物を実質的に含まない”とは、アルカリ金属酸化物が、繊維中に存在するとしても、原出発材料に由来し、アルカリ金属酸化物を繊維溶融物に意図的に添加したものではないことを意味する。一般に、上記繊維は、出発原材料に由来するアルカリ金属酸化物を約1/10質量%までの量で含有する。即ち、これら繊維のアルカリ金属含有量は、一般に、アルカリ金属酸化物として計算したとき、痕跡量の不純物の範囲、即ち、多くても1/10%である。他の不純物としては、Fe2O3として計算して約1質量%未満の量又はできる限り低い量の酸化鉄類があり得る。
【0028】
上述の非耐久性低収縮ガラス質無機繊維は、使用温度までの機械的強度の点で、通常のカオリン、AZS、及びアルミノシリケート耐久性耐熱セラミック繊維と好ましく匹敵する。
上記繊維は、シリカ、マグネシア、ランタニド系列元素含有化合物及び任意構成成分としてのジルコニアを含有する諸成分の溶融物から、公知の繊維紡糸法又は吹込み成形法によって製造する。上記繊維は、所望の直径を有する製品を紡糸する又は吹込み成形する能力が単に繊維直径における実施上の上限である繊維直径を有し得る。
上記繊維は、現存の繊維化技術により製造して、限定するものではないが、バルク繊維、繊維含有ブランケット類、紙類、フェルト類、真空注型形状品及び複合体のような多数の製品形に成形し得る。上記繊維は、通常の耐熱性セラミック繊維の代替品として、繊維含有ブランケット類、真空注型形状品及び複合体の製造において使用する通常の材料と組合せて使用し得る。上記繊維は、繊維含有紙及びフェルトの製造において、単独で又はバインダー等のような他の材料と組合せて使用し得る。上記繊維は、模擬生理肺液中で可溶性であり、それによって繊維吸入後の懸念を最低限にする。
【0029】
また、断熱材料による物品の断熱方法も提供する。該物品の断熱方法によれば、少なくとも1000℃まで又はそれ以上の使用温度を有し、該使用温度まで機械的一体性を維持し且つ生理液中で非耐久性である断熱材を、断熱すべき物品の上、中、近く又は周辺に配置する。該物品の断熱方法において使用する断熱材料は、シリカ、マグネシア、ランタン又はランタニド系列元素含有化合物、及び任意構成成分としてのジルコニアの繊維化生成物を含む。
上記高温耐性耐熱ガラス繊維は、繊維の吹込み成形又は紡糸に適する粘度を有する溶融物から容易に製造可能であり、生理液中で非耐久性である。
上記高温耐性耐熱ガラス繊維は、生理液中で非耐久性であり、使用温度まで良好な機械的強度を示す。
上記高温耐性耐熱ガラス繊維は、生理液中で非耐久性であり、使用温度において低収縮
を示す。
【0030】
実施例
繊維を、シリカ、マグネシア及び1質量%のLa2O3を含有する諸成分の溶融物から、繊維吹込み成形法により製造した。繊維の収縮特性を、繊維をパッドとして湿式成形し、収縮パッドを炉内で一定時間加熱する前及び加熱した後のパッドの寸法を測定することによって試験した。
収縮パッドは、吹込み成形繊維、フェノール系バインダー及び水を混合することによって製造した。繊維、バインダー及び水の混合物をシート金型に注入し、水を金型底部から排水した。7.62cm×12.7cm (3インチ×5インチ)片をパッドから切取り、収縮試験において使用した。試験パッドの長さ及び幅を注意深く測定した。その後、パッドを炉に入れ、1260℃の温度に24時間供した。24時間加熱後、パッドを冷却し、長さ及び幅を再度測定した。試験パッドの線収縮を上記“前”及び“後”の寸法測定値を比較することによって判定した。本発明に従って製造した繊維を含む試験パッドは、約4%以下の線収縮を示した。
【0031】
本発明は、上述の特定の実施態様に限定されるものではなく、変形、修正及び等価の実施態様も包含する。個別に開示している実施態様は、本発明の種々の実施態様を組合せて所望の特性を付与し得るので、必ずしも選択的ではない。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1A】商業的に入手し得る紡糸アルミノシリケート繊維における溶融化学物の粘度対温度曲線である。
【図1B】商業的に入手し得る吹込み成形アルミノシリケート繊維における溶融化学物の粘度対温度曲線である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1000℃を超える使用温度を有し、該使用温度まで機械的一体性を維持し且つ生理液中で非耐久性であり、シリカ、マグネシア、及びランタニド系列元素含有化合物の繊維化生成物を含むことを特徴とする、低収縮性、高温耐性ガラス質無機繊維。
【請求項2】
約65〜約86質量%のシリカ、約14〜約35質量%のマグネシア、及びランタニド系列元素含有化合物の繊維化生成物を含む、請求項1記載の繊維。
【請求項3】
71.25質量%よりも多いシリカ、マグネシア、及びランタニド系列元素含有化合物の繊維化生成物を含む、請求項2記載の繊維。
【請求項4】
約71.25〜約86質量%のシリカ、約14〜約28.75質量%のマグネシア、及び0よりも多く約6質量%までのランタニド系列元素含有化合物の繊維化生成物を含む、請求項3記載の繊維。
【請求項5】
約72〜約79質量%のシリカ、約21〜約28質量%のマグネシア、及び0よりも多く約6質量%までのランタニド系列元素含有化合物の繊維化組成物を含む、請求項4記載の繊維。
【請求項6】
前記ランタニド系列元素が、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びYからなる群から選ばれる、請求項1記載の繊維。
【請求項7】
前記ランタニド系列元素が、Laである、請求項6記載の繊維。
【請求項8】
前記ランタニド系列元素含有化合物が、ランタニド系列元素含有臭化物、ランタニド系列元素含有塩化物、ランタニド系列元素含有フッ化物、ランタニド系列元素含有リン酸塩、ランタニド系列元素含有硝酸塩、ランタニド系列元素含有亜硝酸塩、ランタニド系列元素含酸化物、ランタニド系列元素含有硫酸塩からなる群から選ばれる、請求項1記載の繊維。
【請求項9】
前記ランタニド系列元素含有化合物がLa2O3である、請求項8記載の繊維
【請求項10】
0〜約11質量%のジルコニアをさらに含む、請求項1記載の繊維。
【請求項11】
下記の少なくとも1つによってさらに特徴付けられる、請求項1〜10いずれか1項記載の繊維:
(i) 前記繊維化生成物が約2質量%未満のアルミナを含有すること;
(ii) 前記繊維化生成物が、Fe2O3として計算したとき、約1質量%未満の酸化鉄を含有すること;
(iii) 前記繊維化生成物がアルカリ金属酸化物を実質的に含有しないこと;
(iv) 前記繊維化生成物が約1質量%未満のカルシアを含有すること。
【請求項12】
シリカ、マグネシア、及びランタニド系列元素含有化合物を含む成分を有する溶融物を調製し;該溶融物から繊維を製造することを特徴とする、請求項1〜11いずれか1項記載の低収縮性、高温耐性ガラス質無機繊維の製造方法。
【請求項13】
請求項12記載の方法によって製造した、少なくとも1000℃を超える使用温度を有し、該使用温度まで機械的一体性を維持し且つ生理液中で非耐久性である、低収縮性、高温耐性ガラス質無機繊維。
【請求項14】
少なくとも1000℃まで又はそれ以上の使用温度を有し、該使用温度まで機械的一体性を維持し且つ生理液中で非耐久性である断熱材を、物品の上、中、近く又は周辺に配置させることを含み、前記断熱材が請求項1〜11いずれか1項記載の繊維を含むことを特徴とする、物品の断熱方法。

【図1A】
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【図1B】
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【公表番号】特表2007−524769(P2007−524769A)
【公表日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−517639(P2006−517639)
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【国際出願番号】PCT/US2004/020341
【国際公開番号】WO2005/000971
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(500421462)ユニフラックス コーポレイション (19)
【Fターム(参考)】