説明

高温超伝導線材

【課題】 高温超伝導線材において基板を成す物質の種類および組成比と金属結晶粒の粒径を調節したステンレス鋼を基板として用いることにより、良好な電解研磨が行われるとともに、臨界電流特性が向上した、高温超伝導線材を提供する。
【解決手段】本発明の高温超伝導線材は、基板と、基板上に形成されたバッファ層と、バッファ層上に形成された高温超伝導層とを含んでなる高温超伝導線材において、前記基板は、SUS310s、またはシリコン(Si)が0.01%〜1%、モリブデン(Mo)が1%〜5%で含有されるステンレス鋼からなり、該基板を成す金属結晶粒は12μm以下の平均粒径を有し、前記高温超伝導層はReBCO(ReBaCu、Re=Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Y)系高温超伝導物質を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温超伝導線材に係り、特に、基板を成す物質およびその組成比と金属結晶粒の粒径を調節して電解研磨に有利なステンレス鋼を基板として用いることにより、臨界電流特性を向上させた高温超伝導線材に関する。
【背景技術】
【0002】
高温超伝導線材は、基本的に、柔軟性のある金属基板上にYBCOなどの高温超伝導層を蒸着する方法によって製造される。このような蒸着過程中に、金属基板を成す大部分の金属が高温(YBCO蒸着温度)でYBCO超伝導層に拡散する場合、YBCOの超伝導臨界温度と臨界電流密度を減少させる傾向があるため、YBCO超伝導層と金属基板との間に拡散障壁(diffusion barrier)の役目を果たすことが可能なバッファ層が必要である。
【0003】
特に、金属基板に多く含有されているNi金属がYBCO格子内に入り込むと、YBCOの超伝導特性を急激に低下させるから、基板とYBCO超伝導層との間の緩衝層を用いて基板におけるNi元素の拡散を防止しなければならない。
【0004】
一般に、前記バッファ層は、広い意味で金属基板と超伝導層との間に形成されて超伝導層を基板から化学的に分離させ、ここでは超伝導層を成すYBCOが二軸配向蒸着されるように誘導する用途で使われる多数の層(障壁層/シード層/IBADテンプレート/均質エピバッファ層/格子整合バッファ層)から構成される。
【0005】
このような従来の障壁層としては主にアルミナ(Al)が使用されている。このようなアルミナからなる拡散防止膜は、金属基板の超伝導層への拡散をある程度防ぐことができるが、結晶粒に沿った金属成分の拡散を完全に防ぐことはできない。さらに、アルミナからなる拡散防止膜は表現粗さが低下し、高品位の超伝導層を蒸着するためにはテンプレート(template)の厚さが相対的に厚くなるという欠点があり、これにより超伝導線材の工程時間が長くなるという問題点がある。
【0006】
現在まで、薄膜型超伝導線材の研究は、線材の特性を向上させるためにバッファ層に関する研究が集中してきた。最近まで発表された研究結果によれば、薄膜型超伝導線材の特性は商用化に相当近接している状況であるが、そのような特性を得るためのテンプレートの厚さは現在数マイクロメートルに達しており、テンプレートの製造コストを増加させるうえ、超伝導線材自体が厚くなる原因となっている。
【0007】
かかる問題点を解決するために、バッファ層に関する研究とともに、金属基板に関する研究も広く行われており、金属基板として広く用いられるNi基板、ハステロイ(Ni合金)基板と既存のハステロイ(Hastelloy)基板の問題点を改善するために、ステンレス基板に関する研究が行われている。
【0008】
最近までの研究結果によれば、既存のハステロイ基板に比べてステンレス基板の価格が10倍以上安く、非磁性特性を示し、良好な電解研磨が行われて表面粗さが少ないため、高品位の超伝導層を蒸着するためのバッファ層(テンプレート)の厚さを減少させるという利点があり、最近ではステンレス鋼基板に関する研究(米国登録特許US6541121B2、欧州登録特許EP0312015)が盛んに行われているが、臨界電流密度の向上または表面粗さにおける商用化の実用には依然として足りないことがあり、超伝導層上にコートするAg保護層の表面粗さの増加およびこれによる破損現象が発生して超伝導線材の特性を低下させるという問題点があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、かかる問題点を解決するためのもので、その目的は、高温超伝導線材において基板を成す物質の種類および組成比と金属結晶粒の粒径を調節したステンレス鋼を基板として用いることにより、良好な電解研磨が行われるとともに、臨界電流特性が向上した、高温超伝導線材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、基板と、基板上に形成されたバッファ層と、バッファ層上に形成された高温超伝導層とを含んでなる高温超伝導線材において、前記基板は、SUS310s、またはシリコン(Si)が0.01%〜1%、モリブデン(Mo)が1%〜5%で含有されるステンレス鋼からなり、該基板を成す金属結晶粒は12μm以下の平均粒径を有し、前記高温超伝導層はReBCO(ReBaCu、Re=Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Y)系高温超伝導物質を使用することを特徴とする、高温超伝導線材を技術的要旨とする。
【0011】
また、前記バッファ層は、酸化イットリウム(Y)/マグネシア(MgO)/マンガン酸ランタン(LaMnO)、またはアルミナ(Al)/酸化イットリウム(Y)/マグネシア(MgO)/セリア(CeO)であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
上記課題解決手段によって、本発明は、高温超伝導線材において基板を成す物質およびその組成比と金属結晶粒の粒径を調節したステンレス鋼を基板として用いることにより、既存のハステロイ金属基板に比べて非磁性を帯びながらより低廉であり、既存のステンレス鋼基板に比べては良好な電解研磨が行われて表面粗さが少ないため、バッファ層の厚さを減少させることができて経済的かつ高品位の超伝導層を蒸着することができるから、臨界電流密度の向上による超伝導線材の特性を顕著に改善させるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は本発明の一実施例に係る基板の電解研磨前、後に対する電子顕微鏡写真を示す図である。
【図2】図2は本発明の一実施例に係る基板の表面粗さを示す電子顕微鏡写真を示す図である。
【図3】図3は本発明の一実施例に係る基板の磁化特性を測定したデータである。
【図4】図4は既存のハステロイ基板を用いた場合と、本発明の一実施例に係る基板を用いた場合(高温超伝導層としてはガドリニウムバリウム銅酸化物超伝導体(GdBaCu、GBCO)を使用)に物理的特性を測定したデータである。
【図5】図5は本発明に係る高温超伝導線材(図4の超伝導線材)に対する臨界電流密度を測定したデータである。
【図6】図6は既存の米国特許(米国登録特許US6541121B2)技術に対するステンレス鋼基板を用いた場合の高温超伝導線材の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、超伝導線材、特に高温超伝導線材に関するものであって、基板、基板上に形成されたバッファ層、およびバッファ層上に形成された高温超伝導層を含んでなる。特に、本発明における基板は、SUS310s、またはシリコン(Si)が0.01%〜1%、モリブデン(Mo)が1%〜5%で含有されるステンレス鋼からなり、該基板を成す金属結晶粒は12μm以下の平均粒径を有し、前記高温超伝導層はReBCO(ReBaCu、Re=Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Y)系高温超伝導物質を使用する。
【0015】
これにより、既存のハステロイ金属基板に比べて非磁性を帯びながらより低廉であり、既存のステンレス鋼基板に比べては良好な電解研磨が行われて表面粗さが少ないため、バッファ層の厚さを減少させることができて経済的かつ高品位の超伝導層を蒸着することができるから、臨界電流密度の向上によって超伝導線材の全体的な特性を向上させる。
以下、本発明の実施例について説明する。
【0016】
高温超伝導線材を製造するために、まず、SUS310s基板、またはシリコン(Si)が0.5%、モリブデン(Mo)が1%で必ず含有され、鉄50%、ニッケル18%、クロム24%、マンガン1.5%、その他炭素が含有されたステンレス鋼基板を使用するが、このような基板を成す金属結晶粒は8μmの平均粒径を有する。
【0017】
前記基板を成す成分のうち、シリコンの含量はステンレス鋼基板の全体重量に対して0.01%〜1%であり、モリブデン(Mo)の含量は1%〜5%であるが、ここで、シリコンの含量が0.01%より小さければ、ステンレス鋼の強度を向上させるためのFe−Cr化合物の析出が殆ど生じなくて問題があり、シリコンの含量が1%より大きければ、過剰のFe−Cr化合物の析出により電解研磨特性の低下および脆性が発生するという問題があって、強度および電解研磨特性が最も向上したことを示す0.01%〜1%のシリコン含量を持つことが最も好ましい。また、前記モリブデンを1%〜5%の含量で添加することにより、Fe−Cr化合物の生成を調節して強度および電解研磨特性を共に向上させる。
【0018】
前記基板は、金属結晶粒の平均粒径が12μm以下にならなければならず、これより結晶粒の粒径が大きければ、基板を成す金属成分が結晶粒に沿って拡散する程度が増加し、結晶粒の粒径は12μm以下にならなければならない。このような基板における結晶粒の調節は圧延および熱処理方法によって可能になる。結晶粒の粒径が12μm以上であれば、高温強度が低下し、電解研磨の際に粒界過エッチングの原因にもなる。
【0019】
前記組成および結晶粒を有するステンレス鋼基板上にバッファ層として酸化イットリウム(Y)/マグネシア(MgO)/マンガン酸ランタン(LaMnO)、またはアルミナ(Al)/酸化イットリウム(Y)/マグネシア(MgO)/セリア(CeO)を使用する。本発明の一実施例としては、アルミナ(Al)/酸化イットリウム(Y)/マグネシア(MgO)/セリア(CeO)を使用した。それぞれのバッファ層は公知の薄膜蒸着方法によって形成することができ、本実施例では電子ビーム蒸着およびスパッタ法によって全体緩衝層を100nmの厚さに形成した。
【0020】
前記バッファ層上には高温超伝導層を蒸着し、ガドリニウムバリウム銅酸化物超伝導体(GdBaCu、GdBCO)またはサマリウムバリウム銅酸化物超伝導体(SmBaCu、SmBCO)を使用した。前記高温超伝導層の蒸着は同時蒸発法を用いて1〜2μm程度の厚さに形成した。
【0021】
図1は本発明の一実施例に係る基板の電解研磨前、後に対する電子顕微鏡写真を示す。図1に示すように、本発明に係る基板は電解研磨に有利であって表面粗さが改善され、基板上に蒸着されるバッファ層および高温超伝導層の厚さを減らすことができ、臨界電流密度を向上させて超伝導線材全体の特性を向上させる。
【0022】
図2は本発明の一実施例に係る基板の表面粗さを示す電子顕微鏡写真を示すもので、10μm×10μmの領域内における平均表面粗さが2.0nm以下であって、本発明に係る基板が電解研磨に有利であった。既存のハステロイ基板の場合は大部分、電解研磨の際に粒界生成物により表面粗さが2.0nm以上であった。
【0023】
図3は本発明の一実施例に係る基板の磁化特性を測定したデータであって、77Kでほぼ非磁性特性を示した。図4は既存のハステロイ基板を使用した場合と本発明の一実施例に係る基板を使用した場合(高温超伝導層としてはガドリニウムバリウム銅酸化物超伝導体(GdBaCu、GdBCO)を使用)に物理的特性を測定したデータであって、77Kでの弾性率(Elastic modulus)はそれぞれ143.6GPa、114.3GPaを示し、降伏強度(yield strength)は両方とも800MPa以上であった。本発明に係るステンレス基板は、磁気的・物理的特性が既存のハステロイ基板のそれと同一またはより向上し、ステンレス鋼に比べて10倍以上の高価であるハステロイ基板の代替品としての使用可能性が十分であることを確認することができた。
【0024】
図5は本発明に係る高温超伝導線材(図4の超伝導線材)に対する臨界電流密度を測定したデータであって、既存のハステロイ基板よりは本発明に係る基板を使用した場合に臨界電流密度がさらに高いか或いは類似したことを観察することができた。ハステロイ基板を使用した場合には臨界電流密度が450Aであった。ステンレス鋼基板を使用した場合、575A(基板としてSUS310sを使用した場合、SUS1)または475A(基板として、シリコン(Si)が0.5%、モリブデン(Mo)が1%で必ず含有され、鉄50%、ニッケル18%、クロム24%、マンガン1.5%、その他炭素が含有されたステンレス鋼基板を使用した場合、SUS2)で相対的に優れた値を示した。
【0025】
図6は既存の米国特許(米国登録特許US6541121B2)技術に対するステンレス鋼基板を使用した場合に、本発明の一実施例に係るバッファ層と超伝導層を同様に蒸着し、保護層としてAgをコートした場合の表面写真を示すもので、本発明の一実施例と同一の厚さにバッファ層と超伝導層を形成した場合より表面粗さが高かった。これはAg保護層が容易に破損して高温超伝導線材の全体特性を低下させる原因になる。
【0026】
このように本発明に係る組成および結晶粒を有する基板を用いて超伝導層を形成した高温超伝導線材の場合に、基板に対して電解研磨が有利であって表面粗さの減少によるバッファ層または超伝導層の厚さを減少させることができ、臨界電流密度を向上させることができるから、高温超伝導線材の全体特性の向上および製造コストの節減に寄与することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、基板上に形成されたバッファ層と、バッファ層上に形成された高温超伝導層とを含んでなる高温超伝導線材において、
前記基板は、SUS310s、またはシリコン(Si)が0.01%〜1%、モリブデン(Mo)が1%〜5%で含有されるステンレス鋼からなり、該基板を成す金属結晶粒は12μm以下の平均粒径を有し、前記高温超伝導層はReBCO(ReBaCu、Re=Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Y)系高温超伝導物質を使用することを特徴とする高温超伝導線材。
【請求項2】
前記バッファ層が酸化イットリウム(Y)/マグネシア(MgO)/マンガン酸ランタン(LaMnO)であることを特徴とする請求項1に記載の高温超伝導線材。
【請求項3】
前記バッファ層がアルミナ(Al)/酸化イットリウム(Y)/マグネシア(MgO)/セリア(CeO)であることを特徴とする請求項1に記載の高温超伝導線材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−216487(P2012−216487A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184603(P2011−184603)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(507296791)コリア エレクトロテクノロジー リサーチ インスティテュート (24)
【Fターム(参考)】