説明

高濃度金属微粒子分散液及びその製造方法

【課題】 金属微粒子や高濃度の金属微粒子分散液を、環境への負荷を低減しながら簡易に製造する方法を提供する。
【解決手段】 有機金属化合物を、上記有機金属化合物を構成する有機化合物に対してアミノ基含有置換アルコール類を等モル以上含有する溶媒に溶解することにより、金属換算濃度が少なくとも1質量%であり、かつ実質的に水を含有しない有機金属化合物溶液を調製し、有機還元剤、ヒドラジン及びヒドロキシルアミンからなる群から選ばれた少なくとも一種により還元する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線、高密度記録材料、金属触媒、造影剤、遮光フィルター等に使用することができる高濃度の金属微粒子分散液及び金属微粒子並びにこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属微粒子を得る方法としては、原料固体をルツボに入れ、高周波誘導加熱方式や抵抗加熱方式等により加熱して金属蒸気を発生させ、He、Ar等のガス分子又は溶剤の蒸気との衝突により急冷させて微粒子化するガス中蒸発法(気相法)が挙げられる(例えば特許第2561537号等)。このようにして得られた金属微粒子を適当な溶媒に分散させることにより、コロイド分散液を調製することができる。また金属塩の溶液に、NaBH4等の無機還元剤、ヒドラジン系、アミン系もしくはジオール系化合物等の有機還元剤、又は水素ガスを作用させたり、あるいは酸化還元電位がより卑な金属(例えばマグネシウム等)を前記金属塩に作用させたりすることにより、金属コロイド粒子を得る溶液還元法(液相法)により、前記コロイド分散液を調製することもできる。
【0003】
一般に液相法は、良好なコロイド分散液が簡易に製造できるので望ましい。しかしながら、報告されている合成法(例えば、J. Am. Chem. Soc. 1993, 115, 3887、J. Phys. Chem. 1995, 99, 5077、Colloids and Surfaces A: Physicochem. Eng. Aspects 2000, 168, 87、特開平11-80647号等)によるコロイド分散液はいずれも約1質量%以下の低濃度の金属含有率であり、さらに不要な塩や高濃度の高分子を含有しているので、脱塩処理しなければ工業用に使用できない、電気抵抗が高い等の問題点を有している。
【0004】
特開2004-232012号(特許文献1)には、有機金属塩を、炭素数10以下の有機酸を前記有機金属塩に対し等モル以上含有する溶媒に溶解させ、少なくとも1質量%の金属濃度とした後、有機還元剤等により還元する高濃度金属微粒子分散液の製造方法が開示されている。この方法では、高濃度で脱塩処理が不要な金属微粒子分散液を得ることができる。しかし炭素数10以下の有機酸は刺激臭を有するため(特に特許文献1の実施例で使用されている2-エチル酪酸は著しい悪臭を有する)、製造環境が悪化したり、得られる金属微粒子分散液の使用場所が限定されたりするという問題がある。
【0005】
また金属微粒子分散液の保存性について、特に銅等の酸化され易い金属微粒子は、分散液中で安定的に保存できることが求められている。
【0006】
【特許文献1】特開2004-232012号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明の目的は、金属微粒子や高濃度の金属微粒子分散液を、環境への負荷を低減しながら簡易に製造する方法を提供することである。
【0008】
本発明のもう一つの目的は、大量かつ安価な金属微粒子や高濃度の金属微粒子分散液を提供することである。
【0009】
本発明のさらにもう一つの目的は、銅等の酸化されやすい金属微粒子を安定に保存できる金属微粒子分散液及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題に鑑み鋭意研究の結果、本発明者は、(a) 有機金属化合物を還元する際にアミノ基含有置換アルコール類を存在させておくことにより、環境への負荷を低減しながら高濃度の金属微粒子分散液を調製できること、及び(b) 金属微粒子分散液中に有機還元剤を存在させておくことにより、金属微粒子を安定的に保存できることを発見した。本発明はかかる発明に基づき完成したものである。
【0011】
すなわち、本発明の金属微粒子分散液の製造方法は、有機金属化合物を、前記有機金属化合物を構成する有機化合物に対してアミノ基含有置換アルコール類を等モル以上含有する溶媒に溶解することにより、金属換算濃度が少なくとも1質量%であり、かつ実質的に水を含有しない有機金属化合物溶液を調製し、有機還元剤、ヒドラジン及びヒドロキシルアミンからなる群から選ばれた少なくとも一種により還元することを特徴とする。
【0012】
本発明の金属微粒子分散液の製造方法において、以下の条件を満たすのが好ましい。
(1) 前記有機金属化合物が金属有機酸塩、金属アルコキシド及び金属アセチルアセトネート誘導体からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物である。
(2) 上記(1)に記載の金属有機酸塩が酢酸塩である。
(3) 前記有機金属化合物の金属が少なくともAg及び/又はCuを含有する。
(4) 前記有機還元剤が、沸点又は分解点が250℃以下で、分子量が500以下である化合物である。
(5) 前記有機還元剤が、アミノ基含有置換アルコール類、ヒドラジン系化合物類、ヒドロキシルアミン系化合物類、ジオール類及び一般式:X-(A=B)n-Y(ただし、A及びBの各々はそれぞれ炭素原子又は窒素原子を表し、X及びYはそれぞれ非共有電子対を有する原子がA及びBに結合する原子団を表し、nは0〜3を表す。)により表される化合物類からなる群から選ばれた少なくとも1種の有機化合物である。
(6) さらに金属の含有量に対して質量比で0.001〜2倍の吸着性化合物、界面活性剤、高分子から選ばれる少なくとも1種を含有させる。
(7) 上記いずれかの方法により製造された金属微粒子分散液から金属微粒子を分離し、洗浄した後、他の溶媒に再分散させる。
(8) 上記(7)に記載の方法により製造された金属微粒子分散液中に、沸点又は分解点が250℃以下で、分子量が500以下である有機還元剤を少なくとも1種含有させる。
(9) 上記(8)に記載の有機還元剤が、アミノ基含有置換アルコール類、ヒドラジン系化合物類、ヒドロキシルアミン系化合物類、ジオール類及び一般式:X-(A=B)n-Y(ただし、A及びBはそれぞれ炭素原子又は窒素原子を表し、X及びYの各々はそれぞれ非共有電子対を有する原子がA及びBに結合する原子団を表し、nは0〜3を表す。)により表される化合物類からなる群から選ばれた少なくとも一種である。
【0013】
本発明の耐酸化性を有する金属微粒子分散液は、沸点又は分解点が250℃以下であり、分子量が500以下である有機還元剤を少なくとも一種含有することを特徴とする。
【0014】
本発明の金属微粒子の製造方法は、上記のいずれかの方法により製造された金属微粒子分散液から金属微粒子を分離した後、乾燥させることを特徴とする。必要に応じて分離後の金属微粒子を洗浄してもよい。
【0015】
本発明の金属微粒子は、平均結晶子サイズが通常1〜100 nmであり、望ましくは2〜50 nmであり、さらに望ましくは2〜30 nmである。結晶子サイズはX線回折(XRD)の測定や透過型電子顕微鏡の観察から求めることができる。
【発明の効果】
【0016】
有機金属化合物を、前記有機金属化合物を構成する有機化合物に対してアミノ基含有置換アルコール類を等モル以上含有する溶媒に溶解することにより、環境への負荷を低減しながら高濃度の金属塩溶液を得ることができ、さらに実質的に水を含有しない状態で、反応後無機塩が残留しない還元剤を用いて有機金属化合物を還元することにより、高濃度で脱塩処理が不要な金属微粒子分散液を得ることができる。さらに得られた金属微粒子分散液から金属微粒子を沈降させ、洗浄し、他の分散溶媒に置換することにより、臭気が少なく、乾燥が容易な分散液が得られる。また金属微粒子分散液中に有機還元剤を存在させておくことにより、金属微粒子を安定的に保存できる
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
[1] 高濃度金属微粒子分散液の製造方法
(1) 原料
(A) 有機金属化合物
有機金属化合物としては、金属有機酸塩、金属アルコキシド及び金属アセチルアセトネート誘導体からなる群から選ばれた少なくとも一種が好ましい。有機酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、2-エチル酪酸、ピバル酸、吉草酸、イソ吉草酸、プロピオール酸、乳酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、安息香酸、フタル酸、サリチル酸、アセト酢酸等が挙げられる。これらの有機酸の中でも沸点又は分解点が250℃以下のものが望ましい。特に安価で溶解性に優れ、遊離したときの刺激臭の少ない酢酸塩が最も好ましい。
【0018】
アルコキシドとしては、例えばメトキシド、エトキシド、イソプロポキシド、n-ブトキシドなどが挙げられる。金属アルコキシドは、前記金属酢酸塩を該当するアルコールに溶解し、還流することにより得られる。
【0019】
金属アセチルアセトネート誘導体を構成する有機化合物としては、例えば2,4-ペンタンジオネート、ヘキサフルオロ-2,4-ペンタンジオネート、ベンゾイルアセトネート、ジフェニルプロパンジオネート、1,1,1-トリフルオロ-2,4-ペンタンジオネート、2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオネート、エチルアセトアセテート、メチル(トリメチル)アセチルアセテート等が挙げられる。金属アセチルアセトネート誘導体は、前記金属酢酸塩をアセチルアセトン等の該当するアセチルアセトネート誘導体とともに還流することにより得ることができる。
【0020】
有機金属化合物を構成する有機化合物(有機酸、アルコキシド及びアセチルアセトネート誘導体)の炭素数は10以下が好ましい。このような有機化合物は比較的還元されやすい。
【0021】
金属イオンとしては、Au、Ag、Cu、Pt、Pd、In、Ga、Sn、Ge、Sb、Pb、Zn、Bi、Fe、Ni及びCoが還元されやすく、生成した金属が比較的安定であるので好ましい。上記金属塩は単独で用いても、複数を組合せて用いても良い。本発明は、特に金属イオンとしてAg又はCuを含む場合、溶解性および還元性の観点から効果が大きく好ましい。Ag又はCuを含む有機酸塩としては、酢酸塩が比較的安価で入手しやすいので好ましい。
【0022】
(B) 溶媒
有機金属化合物の溶媒としては、アミノ基含有置換アルコール類を、有機金属化合物を構成する有機化合物に対して等モル以上含有するものを用いる。アミノ基含有置換アルコール類を、有機金属化合物を構成する有機化合物に対して等モル以上使用することにより、有機金属化合物の溶解度が増大し、刺激臭の発生を抑制して高濃度の金属微粒子分散液を製造することが可能になった。この現象は有機金属化合物として金属有機酸塩を用いる場合に特に効果が著しい。この現象は有機酸とアミノ基含有置換アルコール類を等モル混合すると其々単独の場合より沸点が著しく上昇することから、有機酸とアミノ基含有置換アルコール類がイオン性液体を形成したことに基づくと推定している。
【0023】
アミノ基含有置換アルコール類の好ましい具体例としては、2-ジメチルアミノエタノール、2-ジエチルアミノエタノール、2-ジメチルアミノイソプロパノール、2-ジエチルアミノ-1-プロパノール、2-ジメチルアミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-メチルアミノエタノール、4-ジメチルアミノ-1-ブタノール、2-(2-アミノエトキシ)エタノール、2-(2-アミノエチル)アミノエタノール、2-アミノエタノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、p-アミノベンジルアルコール等が挙げられる。
【0024】
有機金属化合物の溶媒はアミノ基含有置換アルコール類以外の溶媒を含んでもよい。アミノ基含有置換アルコール類とともに使用可能な有機金属化合物の溶媒、還元剤の溶媒、洗浄溶媒、又は金属微粒子の分散溶媒としては以下のものが挙げられる。溶媒は安全性及び乾燥性の観点から沸点が250℃以下、特に80℃以上230℃以下が望ましい。
(i) 水
(ii) 酢酸ブチル、セロソルブアセテート等のエステル類
(iii) メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン等のケトン類
(iv) ジクロルメタン、1,2-ジクロロエタン、クロロホルム等の塩素化炭化水素類
(v) ジメチルホルムアミド等のアミド類
(vi) シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、デカン等の脂肪族炭化水素類
(vii) トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類
(viii) テトラヒドロフラン、エチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類
(ix) エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、ジアセトンアルコール、エチレングリコール、2,5-ヘキサンジオール、1,4-ブタンジオール、シクロヘキサノール、シクロペンタノール、シクロヘキセノール等のアルコール類
(x) 2,2,3,3-テトラフロロプロパノール等のフッ素系溶剤類
(xi) エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類
(xii) ジエチレントリアミン、エチレンジアミン等のアミン類等。
【0025】
なお(i)の水は有機金属化合物を金属微粒子に還元する反応時には用いないが、有機金属化合物の水和物程度であれば許容される。本発明においては、還元反応時には反応系が塩基性になっているので、水を含有すると金属酸化物又は金属水酸化物が生成しやすくなるためである。
【0026】
(C) 還元剤
本発明に用いる還元剤は、金属塩に対して還元作用を発揮する化合物であり、還元反応後に電気伝導度が小さいものが望ましく、具体的には金属イオンが残留しない有機還元剤、ヒドラジン及びヒドロキシルアミンからなる群から選ばれた少なくとも一種が好ましい。
【0027】
有機還元剤としては、(i) アミノ基含有置換アルコール類(具体例は上記と同じ)、(ii) ヒドラジン基を含有するヒドラジン系化合物類(例えばフェニルヒドラジン、ベンジルヒドラジン、エチルヒドラジン等)、(iii) 窒素原子にアルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ベンジル基等が置換したヒドロキシルアミン系化合物、(iv) ヒドロキノン、カテコール、1,4-ブタンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール等のジオール類、(v) 一般式:X-(A=B)n-Y(ただし、A及びBはそれぞれ炭素原子又は窒素原子を表し、X及びYは各々非共有電子対を有する原子がA及びBに結合する原子団を表し、nは0〜3を表す。)により表される化合物もしくはその互変異性体、又は熱的にこれらを生成する化合物類等が挙げられる。これら還元剤は、有機金属化合物に対して選択的に作用するので、有機金属化合物との組合せにより適宜選択する必要がある。またこれらの還元剤は単独で用いても、複数を組合せて用いても良い。
【0028】
一般式:X-(A=B)n-Yにより表される上記(v)の化合物における非共有電子対を有する原子としては、酸素原子、窒素原子、イオウ原子及びリン原子が好ましく、酸素原子及び窒素原子がより好ましい。これらの原子を含む原子団X及びYとしては、OR1、NR1R2、SR1、及びPR1R2(ただし、R1及びR2はそれぞれ水素原子又は置換基を表す。)が好ましい。前記置換基としては、置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基、又は置換されていてもよい炭素数1〜10のアシル基が好ましい。
【0029】
nは0〜3が好ましく、0〜2がより好ましく、0〜1が最も好ましい。nが2以上のときA及びBは繰り返し単位ごとに異なっていてもよい。またAとB、XとA、又はYとBは互いに結合して環構造を形成してもよい。環構造を形成する場合、5員環又は6員環が好ましく、さらにこれらの環は縮環していてもよい。縮環する環の環員数は5〜6員環が好ましい。
【0030】
還元後に還元剤の残渣が多く残ると金属微粒子の物性に悪影響を及ぼす。そのため還元剤は、残渣が少ないもの、すなわち還元後に揮発性(昇華性)又は分解して揮発性になる性質を有するものが好ましい。従って、還元剤の沸点又は分解点は250℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましい。
【0031】
同様の観点、また溶解性の面から、還元剤は少量で金属塩を還元可能なこと、すなわち低分子量であることが好ましい。従って、還元剤の分子量は500以下が好ましく、300以下がより好ましく、200以下が最も好ましい。これらの還元剤は有機金属化合物の溶媒を兼ねることもできる。
【0032】
以下、本発明に用いることができる還元剤の具体例をさらに例示するが、本発明はこれらの例及び前述の具体的化合物に限定されない。
【0033】
【化1】

【0034】
【化2】

【0035】
【化3】

【0036】
【化4】

【0037】
(D) 吸着性化合物、界面活性剤及び親水性高分子
得られた金属微粒子の分散液(コロイド分散液)の安定性を向上させるために、金属微粒子の表面に吸着性化合物、界面活性剤及び高分子からなる群から選ばれた少なくとも一種を吸着させて、金属微粒子を表面修飾するのが好ましい。なおコロイドは親水性であっても疎水性であっても良い。
【0038】
(i) 吸着性化合物
吸着性化合物としては、−SH、−CN、−NH2 、−SO2 OH、−SOOH、−OPO(OH)2、−COOH等の官能基を含有する化合物が有効であり、これらのうち−SH基を有する化合物(ドデカンチオール、L-システイン等)、−COOH基を有する化合物(アクリル酸、アジピン酸、リンゴ酸、オレイン酸、ベヘン酸、メルカプトプロピオン酸、メルカプトウンデカン酸、アセトンジカルボン酸等)、又は−NH2基を有する化合物(オクチルアミン、ドデシルアミン、オレイルアミン、オレイン酸アミド、ラウリン酸アミド等)が好ましい。親水性コロイドの場合、親水性基[例えば、-SO3Mや-COOM(Mは水素原子、アルカリ金属原子、アンモニウム分子等を表わす)]を有する吸着性化合物を使用するのが好ましい。
【0039】
(ii) 界面活性剤
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤(例えば、ビス(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸アンモニウムやドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム等)、ノニオン性界面活性剤(例えばポリアルキレングリコールのアルキルエステルやアルキルフェニルエーテル等)、フッ素系界面活性剤等を使用することができる。
【0040】
(iii) 高分子
高分子として、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、特開平11-80647号に記載の櫛形構造を有する高分子等を金属微粒子分散液中に含有させても良い。
【0041】
(2) 金属微粒子分散液の調製
(A) 有機金属化合物溶液の調製
アミノ基含有置換アルコール類を、有機金属化合物を構成する有機化合物に対して等モル以上、好ましくは1.1倍モル以上含有する有機溶媒を用いる。有機溶媒は100%アミノ基含有置換アルコール類でも良いが、粘度調製のためアミノ基含有置換アルコール類以外の有機溶媒を適量含有するのが好ましい。ここでアミノ基含有置換アルコール類を含有する有機溶媒とは、アミノ基含有置換アルコール類とアミノ基含有置換アルコール類以外の有機溶媒との混合物に限らず、アミノ基含有置換アルコール類のみからなる有機溶媒をも含むものとする。従って、アミノ基含有置換アルコール類を有機化合物と等モル以上含有するとは、アミノ基含有置換アルコール類100%の場合(アミノ基含有置換アルコール類のみからなる場合)をも含む。アミノ基含有置換アルコール類を含有する有機溶媒を用いることにより、有機金属化合物を高濃度に溶解することができる。
【0042】
有機金属化合物溶液の濃度は、金属換算で1質量%以上〜80質量%以下が好ましく、5質量%以上〜80質量%以下がより好ましい。金属換算濃度を高めるために、アミノ基含有置換アルコール類の種類及び使用量を適宜選択するのが好ましい。アミノ基含有置換アルコール類を添加する有機溶媒は、有機金属化合物及び還元剤の溶解性、還元剤の還元性、揮発性、溶液の粘度等を考慮して、単独又は二種以上を組合せて用いることができる。
【0043】
(B) 有機金属化合物の還元
上記の通り調製した有機金属化合物溶液に上記還元剤を添加する。還元剤の添加量は特に制限されないが、好ましくは金属のモル数に対し0.05〜10倍モルである。還元反応は5〜150℃が好ましく、15〜100℃がより好ましい。加熱する場合、反応後も高温に保持した状態では、生成した金属ナノ粒子が融着してそのサイズが増大することがあるので、速やかに冷却するのが望ましい。
【0044】
(C) 金属微粒子の表面修飾
分散液中の金属微粒子を表面修飾して安定化するために、反応液及び/又は得られた分散液に吸着性化合物、界面活性剤及び高分子からなる群から選ばれた少なくとも一種を添加するのが好ましい。吸着性化合物、界面活性剤及び高分子の添加量は、分散液中の金属含有量に対して質量比で0.001〜2倍であるのが好ましく、0.005〜1倍がさらに好ましい。吸着性化合物、界面活性剤及び高分子の添加量が質量比で0.001倍未満であると、分散液中の金属微粒子の安定性が不十分になる傾向があり、一方2倍を超えると導電性等金属微粒子の物性に影響を及ぼす傾向がある。吸着性化合物、界面活性剤及び高分子により金属微粒子の表面を1〜10 nmの厚さに被覆するのが好ましい。なお被覆は必ずしも一様である必要がなく、金属微粒子の表面の少なくとも一部が被覆されていれば良い。
【0045】
金属微粒子が吸着性化合物、界面活性剤及び高分子からなる群から選ばれた少なくとも一種で表面修飾されていることは、FE-TEM等の高分解能TEMの観察において金属微粒子間隔が一定であること、及び化学分析により確認することができる。
【0046】
(D) 再分散
一般に有機酸は臭いが強く、またアミノ基含有置換アルコール類が共存すると乾燥しにくいので、異なる分散溶媒に再分散するのが好ましい。この場合、還元反応後の金属微粒子分散液を吸着性化合物、界面活性剤及び高分子からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物の存在下で遠心分離等によって沈降させ、得られた金属微粒子を洗浄した後、別の分散溶媒で再分散する。
【0047】
[2] 高濃度金属微粒子分散液
本発明の高濃度金属微粒子分散液は、有機金属化合物と前記還元剤とを反応させた溶液そのものでも、その中に吸着性化合物、界面活性剤及び高分子からなる群から選ばれた少なくとも一種を含有させたものでも、あるいは再分散したものでも良い。いずれにしても、分散液中の金属微粒子の濃度は金属換算値で1〜80質量%が好ましく、5〜70質量%がより好ましい。なお分散液中の金属微粒子の粒径は通常コロイドを形成する程度であるが、限定的ではない。好ましい粒径は1〜100 nmであり、より好ましくは2〜50 nmであり、さらに好ましくは2〜30 nmである。
【0048】
本発明の高濃度金属微粒子分散液は、インクジェットやディスペンサーで基板上に描画し加熱することによりプリント配線に利用することができ、また基板上に塗布し乾燥することにより高密度記録材料や遮光用フィルターとして利用することができる。金属微粒子分散液をカーボンブラックや多孔質セラミックス等と混合して必要により焼成することにより、または金属微粒子そのままで各種の触媒として機能させることもできる。
【0049】
[3] 耐酸化性金属微粒子分散液
本発明の耐酸化性金属微粒子分散液は、上記有機還元剤を必須成分として含有する以外、本質的に上記高濃度金属微粒子分散液と同じである。但し耐酸化性金属微粒子分散液が含む金属微粒子は、その製造方法が限定されず、液相法以外の方法(例えばガス中蒸発法等)により製造されたものであってもよい。耐酸化性金属微粒子分散液は、上記有機還元剤を含むため、金属微粒子の酸化が抑制され、保存安定性に優れている。特に酸化されやすいCu微粒子を含む分散液は安定して保存できる。有機還元剤の含有量は特に制限されないが、好ましくは金属微粒子のモル数に対し0.05〜10倍モルである。有機還元剤は、例えば上記再分散して得られた金属微粒子分散液に添加すればよい。耐酸化性金属微粒子分散液中の金属微粒子の濃度は高濃度金属微粒子分散液の場合と同じでよい。
【0050】
前述の金属微粒子分散液はいずれも、金属微粒子が独立に分散したものでも、数百nm程度以下に凝集したものでもよい。必要に応じて、公知の分散装置(例えば、ビーズミル、ナノマイザー、ジェットミル、オムニミキサー、ホモジナイザー、遊星ミル、アイガーミル等)を使用して金属微粒子を分散してもよい。分散時間は装置により異なるので一概には言えないが、数秒から数十分という短時間でよい。分散時の液温は任意でよいが15℃〜40℃が好ましい。
【0051】
なお有機金属化合物の還元反応やその後の沈降、洗浄、他の溶媒への再分散等、全ての処理工程は不活性ガス中で行うのが望ましい。不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン等が挙げられる。
【0052】
[4] 金属微粒子
本発明の金属微粒子は、上記高濃度金属微粒子分散液から金属微粒子を分離し、必要により洗浄したのち、乾燥させることにより得られる。本発明の金属微粒子の平均結晶子サイズは、通常1〜100 nmであり、望ましくは2〜50 nmであり、さらに望ましくは2〜30 nmである。結晶子サイズはX線回折(XRD)の測定や透過型電子顕微鏡の観察から求めることができる。
【0053】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【実施例】
【0054】
実施例1
91 gの酢酸銅(II)に140 mlの2-ジメチルアミノエタノール及び100 mlの2-エトキシエタノールを加え、窒素ガスを通しながら130℃で加熱溶解した。室温まで冷却したのち、4mlのドデシルアミン及び30 mlのヒドラジン一水和物(例示化合物R-15)を添加し、酢酸銅を還元して、平均結晶子サイズが10 nmの銅微粒子分散液(濃度:8.4質量%)を得た。得られた銅微粒子分散液は、酢酸による刺激臭が全く感じられなかった。
【0055】
比較例1
2-ジメチルアミノエタノールの代わりに100 mlの2-エチル酪酸を加え、2-エトキシエタノールの添加量を140 mlとした以外実施例1と同様にして、平均結晶子サイズが12 nmの銅微粒子分散液(濃度:9.6質量%)を得た。しかし得られた銅微粒子分散液は、2-エチル酪酸による著しい悪臭を伴っていた。
【0056】
実施例2
72.5 gの酢酸銅(II)に120 mlの2-ジエチルアミノエタノール及び60 mlの2-エトキシエタノールを加え、窒素ガスを通しながら80℃で加熱溶解した。さらに高分子分散剤として4gのソルスパース24000GR(Avecia社製)を加え、溶解した。溶液を攪拌しながら60 mlのヒドロキシアセトン(例示化合物R-10)を添加し、酢酸銅を還元して、平均結晶子サイズが15 nmの銅微粒子分散液(濃度:7.9質量%)を得た。得られた銅微粒子分散液は、酢酸による刺激臭が全く感じられなかった。
【0057】
比較例2
ヒドロキシアセトンとともに120 mlの水を添加して、酢酸銅を還元した以外実施例2と同様にして銅微粒子分散液を調製したが、得られた微粒子中にCu2Oが混在していた。
【0058】
実施例3
実施例1で調製した銅微粒子分散液に、各々分散液に対して2倍容量のメタノール及び等容量の水からなる混合液(除酸素したもの)を窒素雰囲気中で添加し、銅微粒子を沈降させた。デカンテーションにより上澄み液を除去し、再度上記メタノール/水混合液を添加して銅微粒子を洗浄した。得られた銅微粒子を、2mlのオレイルアミンを含む50 mlの3-エトキシプロパノール及び10 mlの2-ジエチルアミノエタノールからなる混合溶媒に再分散して32質量%の銅微粒子分散液を得た。得られた銅微粒子分散液を大気中に1時間放置したが、銅微粒子は全く酸化されなかった。
【0059】
比較例3
洗浄後の銅微粒子を、2-ジエチルアミノエタノールを含まない混合溶媒(2mlのオレイルアミンを含む50 mlの3-エトキシプロパノール)に再分散した以外実施例3と同様にして、銅微粒子分散液を調製した。得られた銅微粒子分散液を大気中に1時間放置したところ、銅微粒子の一部がCu2Oに酸化されていた。
【0060】
実施例4
酢酸銅(II)の代わりに85 gの酢酸銀を用いた以外実施例1と同様にして、平均結晶子サイズが8nmの銀微粒子分散液(濃度:17質量%)を得た。得られた銀微粒子分散液は、酢酸による刺激臭が全く感じられなかった。
【0061】
実施例5
実施例4で調製した銀微粒子分散液を、実施例3と同様にして洗浄し、30 mlの2-エトキシエタノール、30 mlの水及び3gのポリビニルピロリドン(平均分子量:4万)を含有する溶液に再分散して45質量%の銀微粒子分散液を得た。
【0062】
実施例6
ヒドロキシアセトンの代わりに36 mlのジエチルヒドロキシルアミン(例示化合物R-27)を使用した以外実施例2と同様にして、平均結晶子サイズが16 nmの銅微粒子分散液(濃度:7.7質量%)を得た。得られた銅微粒子分散液は、酢酸による刺激臭が全く感じられなかった。
【0063】
実施例7
5.0 gの銅(II)イソプロポキシドに75 mlのエチレングリコール及び25 mlの2-(2-アミノエトキシ)エタノールを加え、窒素雰囲気下で加熱溶解した。次いで2mlのオレイルアミンを加え、温度を140℃に昇温して30分間加熱することにより、平均結晶子サイズが21 nmの銅微粒子分散液(濃度:1.7質量%)を得た。
【0064】
実施例8
銅(II)イソプロポキシドの代わりに7.2 gの銅(II)2,4-ペンタンジオネートを用いるとともに、溶媒として11 mlのアセチルアセトンを併用した以外実施例7と同様にして、平均結晶子サイズが18 nmの銅微粒子分散液(濃度:1.5質量%)を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機金属化合物を、前記有機金属化合物を構成する有機化合物に対してアミノ基含有置換アルコール類を等モル以上含有する溶媒に溶解することにより、金属換算濃度が少なくとも1質量%であり、かつ実質的に水を含有しない有機金属化合物溶液を調製し、有機還元剤、ヒドラジン及びヒドロキシルアミンからなる群から選ばれた少なくとも一種により還元することを特徴とする金属微粒子分散液の製造方法。
【請求項2】
前記有機金属化合物が金属有機酸塩、金属アルコキシド及び金属アセチルアセトネート誘導体からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物であることを特徴とする請求項1に記載の金属微粒子分散液の製造方法。
【請求項3】
前記金属有機酸塩が酢酸塩であることを特徴とする請求項2に記載の金属微粒子分散液の製造方法。
【請求項4】
前記有機金属化合物の金属が少なくともAg及び/又はCuを含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の金属微粒子分散液の製造方法。
【請求項5】
前記有機還元剤は、沸点又は分解点が250℃以下であり、分子量が500以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の金属微粒子分散液の製造方法。
【請求項6】
前記有機還元剤が、アミノ基含有置換アルコール類、ヒドラジン系化合物類、ヒドロキシルアミン系化合物類、ジオール類及び一般式:X-(A=B)n-Y(ただし、A及びBはそれぞれ炭素原子又は窒素原子を表し、X及びYは各々非共有電子対を有する原子がA及びBに結合する原子団を表し、nは0〜3を表す。)により表される化合物類からなる群から選ばれた少なくとも一種の有機化合物であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の金属微粒子分散液の製造方法。
【請求項7】
さらに吸着性化合物、界面活性剤及び高分子からなる群から選ばれた少なくとも一種を、前記金属の含有量に対して質量比で0.001〜2倍添加することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の金属微粒子分散液の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の方法により製造された金属微粒子分散液から前記金属微粒子を分離し、洗浄した後、他の溶媒に再分散させることを特徴とする金属微粒子分散液の製造方法。
【請求項9】
さらに沸点又は分解点が250℃以下であり、かつ分子量が500以下である有機還元剤を少なくとも一種添加することを特徴とする請求項8に記載の金属微粒子分散液の製造方法。
【請求項10】
前記有機還元剤が、アミノ基含有置換アルコール類、ヒドラジン系化合物類、ヒドロキシルアミン系化合物類、ジオール類及び一般式:X-(A=B)n-Y(ただし、A及びBはそれぞれ炭素原子又は窒素原子を表し、X及びYは各々非共有電子対を有する原子がA及びBに結合する原子団を表し、nは0〜3を表す。)により表される化合物類からなる群から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする請求項9に記載の金属微粒子分散液の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の方法により製造され、前記金属の濃度が1〜80質量%であることを特徴とする金属微粒子分散液。
【請求項12】
沸点又は分解点が250℃以下であり、分子量が500以下である有機還元剤を少なくとも一種含有することを特徴とする金属微粒子分散液。
【請求項13】
前記有機還元剤が、アミノ基含有置換アルコール類、ヒドラジン系化合物類、ヒドロキシルアミン系化合物類、ジオール類及び一般式:X-(A=B)n-Y(ただし、A及びBはそれぞれ炭素原子又は窒素原子を表し、X及びYは各々非共有電子対を有する原子がA及びBに結合する原子団を表し、nは0〜3を表す。)により表される化合物類からなる群から選ばれた少なくとも一種の有機化合物であることを特徴とする請求項12に記載の金属微粒子分散液。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれかに記載の方法により製造された金属微粒子分散液から前記金属微粒子を分離した後、乾燥させることを特徴とする金属微粒子の製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法により製造され、1〜100 nmの平均結晶子サイズを有することを特徴とする金属微粒子。

【公開番号】特開2006−97116(P2006−97116A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−287546(P2004−287546)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】