説明

高灰分炭の脱灰方法

【課題】 高灰分炭を簡便に且つ効率的に脱灰するための粉砕方法を提供する。
【解決手段】 高灰分炭から灰分を分離して可燃分をより多く分離回収する高灰分炭の脱灰方法において、所定のロール荷重及びロール回転速度としたロールミルを用いて、粗粉砕することにより、可燃分と灰分を高効率に分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高灰分炭を高効率に脱灰するための粉砕法に関し、微粉砕することなく、石炭中の灰分と可燃分を効率よく分離すること(単体分離)ができるように工夫したものである。
【背景技術】
【0002】
現在、我が国では、発電用として、主に灰分の少ない高品位な瀝青炭を用いているが、石炭需要の増大に伴い、将来的には今まで余り使用されていない、灰分の多い石炭(高灰分炭)の利用も検討する必要がある。
【0003】
例えば、灰分が20重量%以上の高灰分炭(灰分が20重量%以上の石炭を高灰分炭とする)は、現在、炭鉱で掘り出された後、ボタや木屑を取り除く程度の選炭(山元選炭)処理後、ほとんどがそのまま燃焼されている。この場合の選炭は、ジョークラッシャーなどの粗粉砕機を用いて圧砕後、水に投入して水を上下に動かして重い粒子と軽い粒子とを選別するジグ選別機等を用いて選別する方法が一般的である。しかしながら、上述した観点から、山元で灰分を取り除いて高品位な瀝青炭程度に改質する簡易かつ安価な脱灰技術の出現が望まれている。
【0004】
高灰分炭を対象とした脱灰技術の開発においては、粉砕により石炭中の灰分と可燃分を分離(単体分離)し、可燃分のみを回収する、あるいは灰分のみを取り除く操作を効率的に行うことが重要である。石炭中には、20μm程度の灰分が多く分布しており、効率よく単体分離するためには、この灰分粒径以下に微粉砕する必要がある。しかしながら、粉砕は極めて効率の悪い操作であるため、石炭をおよそ50μm以下に微粉砕した場合、粉砕コストは急激に上昇すると報告されている。そのため、この脱灰技術を開発するためには、できるだけ微粉砕せずに粗粒子の状態で効率よく単体分離できる粉砕技術を開発することが大変有効となる(非特許文献1〜5)が、課題を解決するには至っていない。また、高灰分炭を化学薬品や微生物等を用いて脱灰することも考えられるが、山元で行う簡易的な脱灰技術ではない。
【0005】
【非特許文献1】香川佳子、白井裕三、神田英輝、“石炭の簡易脱灰技術の基礎検討−石炭中灰分の分布状態と比重分離法による灰分除去特性の評価−”、電力中央研究所報告、W00019(2000).
【非特許文献2】Y. Hiei and H. Shirai、 J. Jpn. Inst. Energy、 83、 733-739(2004).
【非特許文献3】香川 佳子、白井 裕三、神田 英輝、“石炭の簡易脱灰技術の基礎検討−石炭中灰分の定量化手法の検討−”、電力中央研究所研究報告W01016(2001).
【非特許文献4】日恵井佳子、白井裕三、神田英輝、“石炭の簡易脱灰技術の基礎検討−脱灰性能におよぼす石炭灰分分布状態および粉砕粒径の影響−”、電力中央研究所報告、W03002(2003).
【非特許文献5】日恵井 佳子、白井 裕三、神田 英輝、 「石炭の簡易脱灰技術の基礎検討 −脱灰性能におよぼす粉砕方式の影響」電中研報告W03023(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高灰分炭を低動力で粉砕し、灰分と可燃分とを簡便に且つ効率的に単体分離する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、高灰分炭を微粉砕するのではなく、所定のロール荷重のロールミルで剪断して比較的大きな粒子、例えば、平均粒径が0.5〜3mm程度に剪断・圧縮粉砕することにより、高効率に灰分と可燃分を分離できるという知見に基づいて完成されたものである。
【0008】
かかる本発明の第1の態様は、高灰分炭中の灰分と可燃分とを分離して、可燃分のみの粒子および可燃分を多く含む粒子からなる精炭を回収する高灰分炭の脱灰方法において、所定のロール荷重及びロール回転速度としたロールミルを用いて粗粉砕することにより、精炭を分離・回収することを特徴とする高灰分炭の脱灰方法にある。
【0009】
かかる第1の態様では、ロールミルを用いて微粉砕することなく粗粉砕することにより、高い単体分離効率で灰分と可燃分とを分離することができ、また、他の粉砕方式に比べ低動力で分離できる。
【0010】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の高灰分炭の脱灰方法において、前記ロール荷重及びロール回転速度は、灰分と可燃分との境界で効率的に剪断されるような条件とすることを特徴とする高灰分炭の脱灰方法にある。
【0011】
かかる第2の態様では、灰分と可燃分との境界で剪断されるような所定のロール回転速度及びロール荷重を設定することにより、灰分と可燃分とをさらに高効率に分離することができる。
【0012】
本発明の第3の態様は、第1又は2の態様に記載の高灰分炭の脱灰方法において、前記ロール回転速度は、含有される灰分の硬度により、高硬度ほどロール回転速度を大きく、低硬度ほどロール回転速度を小さく設定することを特徴とする高灰分炭の脱灰方法にある。
【0013】
かかる第3の態様では、灰分の硬度に応じてロール回転速度を調整することにより、灰分と可燃分との境界での剪断が効率よく生じ、高効率で灰分と可燃分を分離することができる。
【0014】
本発明の第4の態様は、第1〜3の何れかの態様に記載の高灰分炭の脱灰方法において、前記ロール荷重は、含有される灰分の硬度に応じて、粒子を圧縮粉砕可能な荷重以上に設定することを特徴とする高灰分炭の脱灰方法にある。
【0015】
かかる第4の態様では、灰分の硬度に応じて、ロール荷重を調整することにより高灰分炭粒子を圧縮粉砕し、灰分と可燃分とを効率的に分離することができる。
【0016】
本発明の第5の態様は、第1〜4の何れかの態様に記載の高灰分炭の脱灰方法において、前記粗粉砕が0.5〜3mmの粒径への粉砕であることを特徴とする高灰分炭の脱灰方法にある。
【0017】
かかる第5の態様では、0.5〜3mm程度の粒径に粗粉砕することにより、灰分と可燃分とを簡便に且つ高効率で分離することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、所定のロール荷重及びロール回転速度としたロールミルを用いて高灰分炭を微粉砕することなく粗粉砕することにより、簡便な方法で且つ高効率で可燃分を分離することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、上述したように、高灰分炭を微粉砕するのではなく、所定のロール荷重のロールミルで剪断・圧縮して比較的大きな粒子に粗粉砕することにより、高効率で灰分と可燃分を分離できるという知見に基づいて完成されたものであり、所定のロール荷重及びロール回転速度としたロールミルを用いて、粗粉砕することにより、灰分と可燃分とをより効率的に分離し、可燃分および可燃分を多く含む粒子(精炭)をより多く分離することを特徴とする高灰分炭の脱灰方法にある。
【0020】
高灰分炭を高効率に脱灰するためには、石炭中の灰分と可燃分を効率よく分離すること(単体分離)が重要であるが、本発明では、ロールミルを用い、高灰分炭中の灰分の硬さに応じた最適なロール荷重及びロール回転速度を選定することにより、優れた単体分離特性を得ることができるようにしたものである。ここで、最適なロール荷重及びロール回転速度は、特に、灰分と可燃分との境界での剪断が効率よく生じるように選定することであり、この条件は灰分の硬度に応じて選定することができる。
【0021】
本発明では、粗粉砕して得られる砕炭粒径が約1mmとしても、例えば、100μm以下にまで微粉砕するハンマーミル砕炭に近い単体分離効率が得られ、粗粒子状態の高灰分炭中の灰分と可燃分を他の粉砕方式に比べ低動力で分離できる。
【0022】
ここで、粗破砕するとは、例えば、粒径が0.5〜3mm程度、好ましくは1mm以上の粒径に破砕することをいう。このような粒径で灰分と可燃分を分離可能な最適なロールミル粉砕条件で粗粉砕すると、粒子の圧縮や灰分と可燃分との境界での剪断により単体分離がすすみ、灰分と可燃分を高効率で分離できるという効果を奏する。勿論、粒径が0.5mm未満まで粉砕しても、高灰分炭中の灰分の硬さに応じた最適なロール荷重及びロール回転速度を選定して灰分と可燃分との境界での剪断が効率よく生じるようにすればよく、微粉末ほど扱いが困難にはなるが、より効果的に高灰分炭中に存在する約100μm程度の大きな粒径の灰分が単体分離されることになり、より効果的に可燃分を回収できる。
【0023】
なお、粗粉砕された被砕物(砕炭)の粒径は、ロールミルのロール間隔により制御することが可能である。
【0024】
逆に言うと、ロールミルにより、ロール荷重及びロール回転速度を、灰分と可燃分を効率的分離できるような最適な条件に設定し、粗粉砕することにより、灰分と可燃分とを高効率に分離することができるようになる。
【0025】
このようなロール荷重及びロール回転速度を選定するには、まず灰分の硬度を把握し、石炭粒子を圧縮粉砕できるロール荷重以上を選定する必要がある。また、ロール回転速度も重要であり、軟らかい灰分を含んでいる石炭は比較的にゆっくりとした回転数が好ましく、硬い灰分を含んだ石炭は相対的に高速回転することが望ましい。
【0026】
すなわち、灰分が高硬度ほどロール荷重を大きくするとともにロール回転速度を大きく、低硬度ほど粒子を圧縮粉砕できるロール荷重に設定し、かつロール回転速度は小さく設定するようにするのが好ましい。なお、このようなロール荷重やロール回転速度は、使用するロールミルの種類やロール間隔によっても異なるので、絶対的な基準があるわけではないが、高灰分炭中の成分を分析して上述した方針で初期値を決定すると共に試験的に脱灰することにより、最適値を決定する必要がある。
【0027】
本発明において高灰分炭中の灰分の硬さに応じた最適なロール荷重やロール回転速度を選定する場合、例えば、石炭中の可燃分(モース硬度3)に比べて硬い灰分(石英:モース硬度7、長石:モース硬度6、パイライト:モース硬度6〜6.5)が多く含まれる石炭では、軟らかい粘土鉱物(モース硬度1〜2)が多く含まれる石炭と比較して、粉砕ロールを高速回転させることにより、粒子が短時間で剪断されるため単体分離性能を向上できる。一方、粘土鉱物(カオリナイト等:モース硬度1〜2)が多く含まれる石炭では、粉砕ロールを最適荷重でゆっくりと回転させることにより、単体分離性能を向上できる。
【0028】
さらに詳細に説明すると、それぞれのロールミルにおいて粒子を圧縮粉砕できるロール荷重以上の最適な荷重を選定し、石英などの高硬度の灰分を含む場合には、大きなロール回転速度を設定して粗粉砕した方が、灰分と可燃分との境界での剪断が効率よく生じ、高灰分炭中に存在する約100μm程度の大きな粒径の灰分が単体分離されることになる。一方、可燃分よりも軟らかいカオリナイト等の粘土鉱物が多く含まれる場合には、最適なロール荷重を選定し、ロール回転速度を低速としてゆっくりと剪断することで、灰分の単体分離特性が向上する。
【0029】
ここで、本発明で用いるロールミルには、相対向するロールの片方のロールを駆動する片方駆動と、両方を駆動する両駆動とがあるが、本発明の脱灰方法では何れを用いてもよく、高灰分炭中の灰分の硬さに応じた最適なロール荷重やロール回転速度を選定するのは何れにおいても同様である。また、両駆動のロールミルの場合には、両者の回転速度に差をつけて駆動してもよく、これにより剪断効果を高めるという効果を得ることができる。
【0030】
なお、本発明方法では、高灰分炭をロールミルで粗粉砕した後、灰分と可燃分を分離して、可燃分および可燃分を多く含む粒子(精炭)を回収する方法は特に限定されず、常法により行うことができる。
【0031】
例えば、エアテーブルや風力分級機などで乾式で分離回収してもよいし、上述したようにジグ選別機を用い、比重差により精炭を回収してもよい。
【0032】
本発明では、粉砕動力の大きなハンマーミルなどの衝撃粉砕法やボールミルなどの粉砕媒体の摩耗による不純物混入等が課題となる粉砕法を用いず、これらに比べ粉砕動力の小さいロールミル粉砕法を用いているため、粉砕コストの低減を可能にするという利点もある。また、本発明では、化学薬品や微生物等を用いずに脱灰することが可能となるため、一度に大容量を処理することができ、薬品コスト、微生物維持費や廃水処理の必要もなく、低コストであるという利点もある。
【0033】
(試験例1)
粉砕粒径約1mmにおいてロールミルにて剪断・圧縮粉砕した場合と、ジョークラッシャーにより圧縮破砕した場合と、ハンマーミルで衝撃粉砕した場合とにおいて、それぞれの砕炭の単体分離効率を比較した。この結果を表1に示す。なお、砕炭粒径は粒度分布を測定したときの50%径とした。
【0034】
この結果より、ロールミルとジョークラッシャーでは目標値40%に近い35%程度が得られたが、ハンマーミルでは30%以下の低い効率であり、他の粉砕器並みの効率にするには100μm以下にまで微粉砕する必要があることが明らかになった。但し、ジョークラッシャーはロールミルに比べて粉砕動力が極めて大きく、経済的に好ましくない。
【0035】
【表1】

【0036】
(試験例2)
下記表2に示す性状を有する高灰分炭A及び高灰分炭Bを、ロール荷重、ロール回転速度を固定して、ロール間隔を0.05mmから2mmまで大きくしたときのロール間隔と粉砕粒径との関係を調べた。この結果を図1に示す。
【0037】
この結果、図1に示すようにと、ロール間隔の増大に伴い、粉砕粒径は1mmから3mmと大きくなることがわかった。
【0038】
また、ロール間隔を調整することによって得られた砕炭の粒径(mm)との単体分離効率の関係を測定した。この結果を図2に示す。
【0039】
この結果より、同一粒径の1mmで単体分離効率を比較すると、高灰分炭Aでは約35%、高灰分炭Bでは約25%と炭種により異なることがわかった。これよりロール間隔を調整するだけで簡易に数mmの砕炭を得ることができるが、粗粒子状態で高い分離効率を得るためには、炭種毎に圧縮荷重やロール回転速度を調整する必要があるとわかった。
【0040】
なお、高灰分炭Aは、粘土鉱物に対して石英が多い、比較的高硬度の灰分を多く含有するものであり、高灰分炭Bは、石英に対して粘土鉱物を多量に含有する、比較的低硬度の灰分を多く含有するものである。
【0041】
【表2】

【0042】
(試験例3)
試験例2で使用した高灰分炭A及び高灰分炭Bについて、ロール間隔を1mmとすると共にロール荷重を4kNに設定し、ロール回転速度を変化させ、ロール回転速度と単体分離効率との関係を測定した。この結果を図3に示す。
【0043】
この結果、1mmという粗粒子状態でも最適な粉砕条件を選定すれば、単体分離効率40%を得ることができることがわかった。また、粘土鉱物を多く含有する高灰分炭Bでは、ロール回転速度が7cm/secと低速のときが分離効率が著しく高かったが、石英の方が多い高灰分炭Aでは、ロール回転速度が低いときには分離効率が悪く、32cm/sec以上で分離効率が大きくなることがわかった。
【0044】
(試験例4)
試験例2で使用した高灰分炭A及び高灰分炭Bについて、ロール間隔を1mmとすると共にロール回転速度を19cm/secに設定し、ロール荷重を変化させ、ロール荷重と分離効率との関係を測定した。この結果を図4に示す。
【0045】
この結果、両高灰分炭ともに、ロール荷重を最適値、例えば、1.5kN以上に設定することが単体分離効率を高める上で重要であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明方法は、山元での高灰分炭の選炭に有効であり、従来においてはそのまま燃焼処理されていた灰分20%以上の高灰分炭を簡便な方法で且つ高効率に粗粉砕して、瀝青炭程度の灰分含有率の石炭を得る脱灰方法に資する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】試験例2のロール間隔と粉砕粒径との関係を示す図である。
【図2】試験例2の砕炭の粒径(mm)との単体分離効率の関係を示す図である。
【図3】試験例3のロール回転速度と単体分離効率との関係を示す図である。
【図4】試験例4のロール荷重と分離効率との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高灰分炭中の灰分と可燃分とを分離して、可燃分のみの粒子および可燃分を多く含む粒子からなる精炭を回収する高灰分炭の脱灰方法において、所定のロール荷重及びロール回転速度としたロールミルを用いて粗粉砕することにより、精炭を分離・回収することを特徴とする高灰分炭の脱灰方法。
【請求項2】
請求項1に記載の高灰分炭の脱灰方法において、前記ロール荷重及びロール回転速度は、灰分と可燃分との境界で効率的に剪断されるような条件とすることを特徴とする高灰分炭の脱灰方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の高灰分炭の脱灰方法において、前記ロール回転速度は、含有される灰分の硬度により、高硬度ほどロール回転速度を大きく、低硬度ほどロール回転速度を小さく設定することを特徴とする高灰分炭の脱灰方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の高灰分炭の脱灰方法において、前記ロール荷重は、含有される灰分の硬度に応じて、粒子を圧縮粉砕可能な荷重以上に設定することを特徴とする高灰分炭の脱灰方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の高灰分炭の脱灰方法において、前記粗粉砕が0.5〜3mmの粒径への粉砕であることを特徴とする高灰分炭の脱灰方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−269921(P2007−269921A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−95632(P2006−95632)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】