説明

高炉用自溶性ペレットおよびその製造方法

【課題】自溶性ペレットの、鉄品位を含めた、より適正なCaO/SiO質量比とMgO/SiO質量比の組合せの範囲を明らかにし、高炉用鉄原料として焼結鉱と併用して用いるのにさらに適した、低コストで且つより高温還元性に優れた自溶性ペレットおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】CaO/SiO質量比C/Sが0.8以上、MgO/SiO質量比M/Sが0.4以上であって、かつ、下記式で計算される、高温加重還元試験における圧損急上昇開始温度Ts(単位:℃)が1290℃以上であることを特徴とする高炉用自溶性ペレット。
式 Ts=110×C/S+100×M/S+25×%TFe−480
ここに、%TFeは全鉄分含有量(質量%)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉用鉄原料として用いられる自溶性ペレット(以下、単に「ペレット」ということあり。)およびその製造方法に関し、詳しくは、焼結鉱とともに高炉に装入して用いるのに適した自溶性ペレットおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、1970年台から1980年台にかけて、高炉用鉄原料として用いられる自溶性ペレットの改質技術の開発に取り組み、鉄鉱石にCaOおよびMgO源として石灰石およびドロマイトを配合してCaO/SiO質量比が0.8以上、MgO/SiO質量比が0.4以上とした配合原料を造粒した生ペレットを焼成することで、高温の被還元性(以下「高温還元性」という。)に優れた自溶性ペレット(自溶性ドロマイトペレット)が製造できる技術を完成した(特許文献1,2参照)。
【0003】
一方、本出願人は、上記自溶性ペレットの改質技術の開発と並行して、高炉の装入物分布制御技術の開発を推進し、高炉内の通気性・通液性を画期的に改善するコークス中心装入技術を完成させた(非特許文献1参照)。
【0004】
上記自溶性ドロマイトペレットの使用とコークス中心装入技術の適用により、鉄原料としてペレットと焼結鉱を併用する高炉において微粉炭を多量に吹き込んでも安定かつ高生産で銑鉄を製造できるようになった。
【0005】
ここで、上記自溶性ドロマイトペレット(以下、単に「自溶性ペレット」、または、「ペレット」ということあり。)は、鉄鉱石に副原料として石灰石とドロマイトを添加して、CaO/SiO質量比(C/Sと略記)およびMgO/SiO質量比(M/Sと略記)を所定値以上とするものであるが、ペレット製造コスト削減の観点からは、石灰石とドロマイトの配合量はできるだけ少なくすることが要請されている。
【0006】
また、近年の鉄鋼需要の急速な増大に対応すべく、銑鉄のさらなる増産が求められており、鉄原料として焼結鉱とペレットを併用する高炉において、高微粉炭比操業下でさらに生産性を高め得る、より高温還元性に優れたペレットの供給が要望されている。
【0007】
本出願人のその後の知見によれば、上記自溶性ドロマイトペレットの高温還元性は単に、C/SとM/Sを規定するだけで一義的に定まるのではなく、ペレットの鉄品位(すなわち、使用する鉄鉱石の鉄品位)によって少なからず影響を受けることが判明した。すなわち、ペレットの鉄品位により、最適なC/SとM/Sの組合せ範囲が変動することが明らかになった。
【0008】
しかしながら、その定量的な影響の度合いについては、これまで系統的に検討されたことがなく、ペレットの鉄品位を含めた、より適正なC/SとM/Sの組合せの範囲については不明であった。
【非特許文献1】松井ら,「当社における高炉操業技術の進歩とコークス中心装入法としての中心流操業思想」,R&D 神戸製鋼技報,第55巻,第2号,2005年9月,p.9−17
【特許文献1】特公平3−77853号公報
【特許文献2】特公平3−77854号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明は、自溶性ペレットの、鉄品位を含めた、より適正なCaO/SiO質量比とMgO/SiO質量比の組合せの範囲を明らかにし、高炉用鉄原料として焼結鉱と併用して用いるのにさらに適した、低コストで且つより高温還元性に優れた自溶性ペレットおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、CaO/SiO質量比C/Sが0.8以上、MgO/SiO質量比M/Sが0.4以上であって、かつ、下記式で計算される、高温加重還元試験における圧損急上昇開始温度Ts(単位:℃)が1290℃以上であることを特徴とする高炉用自溶性ペレットである。
式 Ts=110×C/S+100×M/S+25×%TFe−480
ここに、%TFeは全鉄分含有量(質量%)である。
【0011】
請求項2に記載の発明は、鉄鉱石に、CaOおよびMgOを含有する副原料を配合して、得られた配合原料の、CaO/SiO質量比が0.8以上、MgO/SiO質量比が0.4以上であって、かつ、下記式で計算される、高温加重還元試験における圧損急上昇開始温度Tsが1290℃以上になるように調整する原料配合工程と、この配合された原料を造粒して生ペレットに成形する造粒工程と、この生ペレットを1220〜1300℃で加熱焼成して自溶性ペレットとする焼成工程とを備えたことを特徴とする高炉用自溶性ペレットの製造方法である。
式 Ts=110×C/S+100×M/S+25×%TFe−480
ここに、%TFeは全鉄分含有量(質量%)である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、自溶性ペレットのCaO/SiO質量比C/SとMgO/SiO質量比M/Sを所定値以上とするとともに、C/S、M/Sおよび%TFeで推算される圧損急上昇開始温度Tsを、焼結鉱の圧損急上昇開始温度である1290℃以上とすることで、高炉用鉄原料として焼結鉱と併用した際に、高炉内にて融着帯の幅が拡大することが確実に防止されて通気性が確保されるので、高炉の生産性をさらに高めることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
〔本発明に係る高炉用自溶性ペレットの構成〕
本発明に係る高炉用自溶性ペレットは、CaO/SiO質量比C/Sが0.8以上、MgO/SiO質量比M/Sが0.4以上であって、かつ、下記式(1)で計算される、高温加重還元試験における圧損急上昇開始温度Ts(単位:℃)が1290℃以上であることを特徴とする。
Ts=110×C/S+100×M/S+25×%TFe−480 … 式(1)
ここに、%TFeは全鉄分含有量(質量%)である。
【0014】
以下、上記本発明を構成する各要件についてさらに詳細に説明する。
【0015】
(スラグ組成)
自溶性ペレットのスラグ組成を規定するCaO/SiO質量比およびMgO/SiO質量比をともに所定値(0.8および0.4)以上に高くするとともに、鉄品位(%TFe)を加味して推算される圧損急上昇開始温度を、焼結鉱の圧損急上昇開始温度である1290℃以上とすることで、高温還元時におけるペレットの軟化・溶け落ち温度を焼結鉱と同等ないしより高く維持できる。この結果、ペレットの高温還元性が改善されるとともに、高炉内での融着帯の幅を、焼結鉱単独で使用した場合とほぼ同等に維持できることとなる。
【0016】
ここで、上記式(1)の導出過程を以下に説明する。
【0017】
発明者らは、実機ペレット工場において、所定の鉄鉱石原料に対し、石灰石、ドロマイトおよび蛇紋岩の配合割合の組合せを適宜調整することにより、%TFe、C/SおよびM/Sの3変数を、表1に示すように順次変更してペレットを作製し、各ペレットについて高温荷重還元試験を実施し、圧損急上昇開始温度を測定した。その結果を表1に併せて示す。
【表1】

【0018】
そして、圧損急上昇開始温度に及ぼす、%TFe、C/S、およびM/Sの3変数の各影響度合いは、いずれも1次近似できると仮定し、上記表1の結果を用いて重回帰分析を行い、上記式(1)の関係を得た。
【0019】
ここに、高温荷重還元試験は、高炉内での昇温還元パターンをシミュレートしたものであり、下記の試験条件に示すように、黒鉛るつぼ内に所定量の試料を充填し、一定の荷重を掛けつつ、昇温条件下にて還元ガスを流通させ、排ガス分析による還元率測定と、ひずみゲージによる試料充填層の収縮率測定と、差圧計による試料充填層の圧損測定とを行うものである。
【0020】
〔高温荷重還元試験の試験条件〕
・黒鉛るつぼ内径:43mm
・試料量:約87g(充填高さ:約33.5mm)
・荷重:1.0kgf/cm(=9.80665×10Pa)
・温度:[室温→1000℃]×10℃/min、[1000℃→溶け落ち終了]×5℃/min
・還元ガス:[30容量%CO+70容量%N]×7.2NL/min
【0021】
そして、圧損急上昇開始温度とは、試料充填層の圧損の上昇速度が初めて50mmHO/min(=490.3325Pa/min)以上となる温度である。このように、試料充填層の圧損が急上昇するのは、試料の溶融が開始したことによるものであり、したがって、圧損急上昇開始温度は、高炉内における融着層の上面位置の温度に相当するものである。
【0022】
また、焼結鉱の圧損急上昇開始温度を1290℃としたのは、公知文献(砂原ら:鉄と鋼、vol.92(2006)No.12,p.183−192)中の、焼結鉱の高温荷重軟化試験(上記高温荷重還元試験と同様、高炉内での昇温還元パターンをシミュレートした試験)における、温度と圧損との関係を示すFig.23に基づく。
【0023】
上述のとおり、C/Sは、0.8以上とする必要があるが、1.0以上、さらには1.2以上、特に1.4以上とするのが好ましい。また、M/Sは、0.4以上とする必要があるが、0.5以上、さらには0.6以上、特に0.7以上とするのが好ましい。また、上記式(1)で推算される圧損急上昇開始温度Tsは、焼結鉱の圧損急上昇開始温度である1290℃以上とするが、1300℃以上、さらには1310℃以上、特に1320℃以上とするのが好ましい。
【0024】
ただし、C/S、M/S、圧損急上昇開始温度Tsを高くしすぎると、ペレット焼成時にCaOおよびMgO成分がスラグ化しにくくなり、焼成ペレットの強度が低下するとともに、CaOおよびMgO源としての石灰石およびドロマイトの使用量が増加してコスト増となるので、C/Sは2.0以下、さらには1.8以下、特に1.6以下とするのが好ましく、M/Sは1.1以下、さらには1.0以下、特に0.9以下とするのが好ましく、圧損急上昇開始温度Tsは1370℃以下、さらには1360℃以下、特に1350℃以下とするのが好ましい。
【0025】
上記鉄品位とスラグ組成を同時に満足する自溶性ペレットは、ペレット自身の高温還元性が優れるとともに、高炉用原料として焼結鉱と併用しても、高炉内にて融着帯の幅が拡大することが防止されて通気性が確保されるので、高炉の生産性をさらに高めることが可能となる。
【0026】
〔本発明に係る高炉用自溶性ペレットの製造方法〕
上記本発明に係る高炉用自溶性ペレットは、例えば、以下のようにして製造することができる。
【0027】
(原料配合工程)
例えば、鉄原料である鉄鉱石(ペレットフィード)の鉄品位に応じて、CaOおよびMgOを含有する副原料として石灰石とドロマイトの配合し、CaO/SiO質量比が0.8以上(好ましくは1.0以上、さらに好ましくは1.2以上、特に好ましくは1.4以上)、MgO/SiO質量比が0.4以上(好ましくは0.5以上、さらに好ましくは0.6以上、特に好ましくは0.7以上)、上記式(1)で規定される圧損急上昇開始温度Tsが1290℃(好ましくは1300℃以上、さらに好ましくは1310℃以上、特に好ましくは1320℃以上)になるように調整する。鉄鉱石および副原料は、必要により、事前にまたは配合後にボールミル等で粉砕して、配合原料の粒度が44μm以下、80質量%以上になるようにする。
【0028】
(造粒工程)
この配合原料に適量の水分を添加して、造粒機としてパンペレタイザまたはドラムペレタイザを用いて造粒し、生ペレットを形成する。
【0029】
(焼成工程)
上記のようにして成形された生ペレットは、焼成装置としてのグレート・キルンまたはストレートグレートの移動グレート上に充填され、そのペレット層に高温ガスを流通させることにより、乾燥、離水(必要な場合のみ)、予熱の各段階を経た後、前者ではロータリキルンで、後者ではそのまま移動グレート上で、1220〜1300℃の高温ガスで加熱され焼成されて自溶性ペレットが得られる。加熱焼成の温度は、使用する鉄鉱石の種類や、CaO/SiO質量比、MgO/SiO質量比等に応じて、上記温度範囲で適宜調整すればよい。
【0030】
上記のようにして得られた自溶性ペレットは、その鉄品位とスラグ組成が、本発明の規定するCaO/SiO質量比、MgO/SiO質量比、および、上記式(1)で規定される圧損急上昇開始温度Ts≧1290℃を満足する。
【実施例】
【0031】
本発明に係る自溶性ペレットを高炉用鉄原料として焼結鉱と併用した際の効果を確証するため、下記に示すように、本発明の規定する鉄品位およびスラグ組成を満足する実機の自溶性ペレットと、実機の焼結鉱とを用い、これらの配合率を順次変更して混合したものについて高温荷重還元試験を実施し、圧損急上昇開始温度の実測を行った。
【0032】
実機の自溶性ペレットとしては、出願人の加古川製鉄所内のペレット工場で製造された自溶性ドロマイトペレットを用い、実機の焼結鉱としては、出願人の加古川製鉄所内の焼結工場で製造された自溶性焼結鉱を用いた。これらの成分組成を表2に示す。同表に示すように、本実施例で用いた自溶性ペレットは、本発明の規定する鉄品位およびスラグ組成(C/S≧0.8、M/S≧0.4、式(1)の値≧1290℃)を満たすものである。
【表2】

【0033】
高温荷重還元試験により実測された圧損急上昇開始温度を下記表3に示す。
【表3】

【0034】
上記表2に示すように、本実施例で用いた焼結鉱の圧損急上昇開始温度の実測値は1277℃である(試験No.1)のに対し、自溶性ペレットの圧損急上昇開始温度の実測値は1317℃であり(試験No.5)、焼結鉱の圧損急上昇開始温度より高い。そして、このようなペレットを焼結鉱と混合して使用すると、圧損急上昇開始温度は、焼結鉱単味の場合よりもむしろ高くなり、ペレットの配合率が高くなるにしたがって、ペレット単味の圧損急上昇開始温度に近づくことがわかった(試験No.2〜4)。
【0035】
この結果から、本発明の成分規定を満足する自溶性ペレットを用いることで、高炉用鉄原料として焼結鉱と併用した際に、高炉内にて融着帯の幅が拡大することが確実に防止されうることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CaO/SiO質量比C/Sが0.8以上、MgO/SiO質量比M/Sが0.4以上であって、かつ、下記式で計算される、高温加重還元試験における圧損急上昇開始温度Ts(単位:℃)が1290℃以上であることを特徴とする高炉用自溶性ペレット。
式 Ts=110×C/S+100×M/S+25×%TFe−480
ここに、%TFeは全鉄分含有量(質量%)である。
【請求項2】
鉄鉱石に、CaOおよびMgOを含有する副原料を配合して、得られた配合原料の、CaO/SiO質量比が0.8以上、MgO/SiO質量比が0.4以上であって、かつ、下記式で計算される、高温加重還元試験における圧損急上昇開始温度Tsが1290℃以上になるように調整する原料配合工程と、この配合された原料を造粒して生ペレットに成形する造粒工程と、この生ペレットを1220〜1300℃で加熱焼成して自溶性ペレットとする焼成工程とを備えたことを特徴とする高炉用自溶性ペレットの製造方法。
式 Ts=110×C/S+100×M/S+25×%TFe−480
ここに、%TFeは全鉄分含有量(質量%)である。