説明

高炉装入物の落下軌跡測定方法および測定棒

【課題】高炉炉頂の粉塵が多い環境でも、高炉装入物の落下軌跡を精度よく測定できる方法を提供すること。又、メンテナンスに難が少なく、簡便で短時間に測定が可能な高炉装入物の落下軌跡測定方法を提供すること。
【解決手段】 高炉内に装入物を装入するときの装入物落下軌跡を測定する高炉装入物の落下軌跡測定方法であって、高炉の装入物装入装置と炉内の装入物表面の間に、圧力測定フィルム2を巻きつけた測定棒1を挿入する工程と、前記測定棒に装入物3を落下させて、前記圧力測定フィルム2に圧痕を発色させる工程と、測定した前記圧力測定フィルム上に記録された圧痕から、該圧痕の個数と個々の圧痕の圧力を求める工程、を有する高炉装入物の落下軌跡測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉装入物の落下軌跡測定方法および測定棒に関する。
【背景技術】
【0002】
銑鉄を製造する高炉においては、炉頂から装入物として、粉鉄鉱石を焼き固めた焼結鉱や塊状鉄鉱石等(以下、鉄鉱石と記す。)及びコークスを交互に装入し、炉内に鉄鉱石層およびコークス層を形成する。高炉下方にある羽口から吹き込まれる熱風は、羽口前のコークスと反応してCOガスを形成し、COガスは、炉内を上昇しつつ、鉄鉱石を加熱、還元する。加熱、還元された鉄鉱石は、軟化融着帯を形成し、その後、溶銑となって滴下する。炉内の鉱石層およびコークス層は、羽口前でのコークスの燃焼と鉄鉱石の軟化融着帯における溶銑の溶け落ちにより、炉内を徐々に降下し、滴下した溶銑は、コークス層の間を通過して炉底部に溜まり銑鉄を形成する。
【0003】
高炉装入物は、ベル式装入装置、または、ベルレス式装入装置により装入される。炉頂部の装入物プロフィルは、高炉の中心鉛直方向(軸心)を軸として中央部が低い略逆円錘形状をなしており、炉周辺部は粒度の比較的小さな装入物、炉中心部は粒度の大きい装入物が堆積するのが一般的である。粒度の大きい装入物は、粒度の小さい装入物に比べ炉内ガスの通気抵抗は小さく、又、コークスは鉄鉱石に比べ、炉内ガスの通気抵抗は小さい。高炉内の炉内ガス流れは、装入物による炉半径方向の通気抵抗により影響を受ける。したがって、高炉に装入された鉄鉱石及びコークスによって形成される炉頂部の装入物分布は、高炉内のガス流分布を決定づけ、適切な装入物分布の形成が、高炉操業にとって極めて重要である。
【0004】
そのため、装入物の装入装置からの落下軌跡を正確に把握することは重要な技術課題となる。ところが、高炉に装入される鉄鉱石及びコークスは、大量であるためベル式装入装置の場合は、ベルのライナーが磨耗し、ベルレス式装入装置の場合は、旋回シュートのライナーが磨耗して、装入装置からの装入物の落下軌跡が変化し、その結果、炉頂部の装入物分布は変化するという問題がある。従って、このライナー磨耗による装入物の落下軌跡の変化に対し、ベル式装入装置ではムーバブルアーマを、ベルレス式装入装置では旋回シュートの角度を調整することにより、炉頂部の装入物分布の適切な維持を図る必要があるが、このようなライナー磨耗による装入物の落下軌跡の経時変化に対応するには、装入物の落下軌跡を定期的に正確に把握することが必要となる。
【0005】
高炉においては、一月乃至二月の連続操業の継続後に、予定休風を行う。予定休風とは、羽口からの熱風の吹き込みを一時停止することであり、熱風の吹き込み停止の時間内に高炉の設備補修を行う。予定休風の操業停止時に、高炉装入物の落下軌跡を測定すればよい。一月乃至二月の間に大量の鉄鉱石、コークスを高炉に装入したことで、装入物を装入する旋回シュートの磨耗により、高炉装入物の落下軌跡が変化し、その変化を正確に把握するためである。全ての設備の補修事項が完了し、炉頂装入装置の使用が可能となった段階で、高炉装入物の落下軌跡を測定する。この場合、高炉装入物の落下軌跡の測定に長時間かかるようでは、その分、休風時間が長くなり、高炉の生産性が悪化する。したがって、高炉装入物の落下軌跡の測定方法は、簡便に、かつ、短時間に測定できるものでなければならない。
【0006】
すでに開示されている具体的な測定方法として、装入物装入用の旋回シュートの下方位置において、高炉の横断方向にプローブを装入し、プローブに装入物が衝突した際に発生する音響信号を検知し、音響伝達棒を伝播する音響信号の到達時間を検出することで、装入物の落下位置を測定する高炉における装入物の落下位置推定装置がある(特許文献1)。
【0007】
この発明によれば、高炉半径方向における装入物の衝突位置の検知はできるが、温度により音響伝達速度が影響を受け、その補正が必要で複雑となり、装置の費用も高くなるという欠陥がある。
【0008】
高炉装入旋回シュートと炉頂原料の間に衝突バーを固定し、発生する擬似AEを両端の検出センサーで検出する高炉原料装入物落下位置検出方法がある(特許文献2)。
この発明によれば、バーを固定することで、高炉休風とは無関係に常時の測定が可能であるが、バーの磨耗が激しくメンテナンスが困難であるという問題がある。
【0009】
装入物装入用の旋回シュートの下方位置に高炉の横断方向にプローブを装入し、プローブ中にある気体供給配管の圧力変化により、装入物の落下軌跡を測定する装置がある(特許文献3)。
この方法によれば、高炉半径方向における装入物の衝突位置の検知はできるが、高炉炉頂の粉塵が多い環境では、プローブの気体供給配管がつまりやすく、測定精度が悪いという問題がある。
【0010】
高炉内に長尺体を挿入し、高炉内で落下する原料を長尺体に当て、原料の衝突によって生じる加速度の変化を長尺体の長手方向において検出することにより、長尺体の長手方向における原料の落下量の分布を把握する方法がある(特許文献4)。この発明によれば、落下物の衝突による加速度変化で高炉装入物の落下量の分布を把握することはできるが、装置が複雑で、簡便な測定に難がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平9−235605号公報
【特許文献2】特開平3−207804号公報
【特許文献3】特開昭61−177304号公報
【特許文献4】特開平11−315309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
高炉内に原燃料を装入するときの落下位置検知、及び落下軌跡の把握は、高炉の操業にとって重要な指標である。高炉装入物表面の上に挿入した測定棒の振動音響の変化、気体導管の圧力の変化、原料衝突による加速度の変化の検知方法等が提案されているが、高炉炉頂の粉塵が多い環境では、精度が悪く、又、メンテナンスの面で課題であった。
【0013】
本発明の目的は、高炉炉頂の粉塵が多い環境でも、高炉装入物の落下軌跡を精度よく測定できる方法を提供することである。又、メンテナンスに難が少なく、簡便で短時間に測定が可能な高炉装入物の落下軌跡測定方法および測定棒を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、高炉の装入物装入装置と炉内の装入物表面の間に、圧力測定フィルムを巻きつけた測定棒を挿入し、落下装入物が圧力測定フィルムに接触することによる圧力を測定することにより精度よく、かつ、簡便に高炉装入物の落下軌跡が測定できることを見出した。
【0015】
本発明は、この知見に基づき上記課題を解決するためになされたものであり、その要旨とするところは、以下のとおりである。
【0016】
(1)高炉内に装入物を装入するときの装入物落下軌跡を測定する高炉装入物の落下軌跡測定方法であって、
高炉の装入物装入装置と炉内の装入物表面の間に、圧力測定フィルムを巻きつけた測定棒を挿入する工程と、
前記測定棒に装入物を落下させて、前記圧力測定フィルムに圧痕を発色させる工程と、
測定した前記圧力測定フィルム上に記録された圧痕から、該圧痕の個数と個々の圧痕の圧力を求める工程、を有する高炉装入物の落下軌跡測定方法。
(2)前記圧力測定フィルムが感知する圧力により、装入物の粒度毎の落下軌跡を測定する工程を有する前記(1)に記載の高炉装入物の落下軌跡測定方法。
(3)芯棒と、該芯棒の上面の一部を覆う圧力測定フィルムと、該圧力測定フィルムの上面全体を覆う該圧力測定フィルムの測定時の破損を防止する機能を有する保護皮膜とからなる高炉装入物の落下軌跡の測定棒。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高炉炉頂の粉塵が多い環境でも、高炉装入物の落下軌跡を精度よく測定することができる。又、メンテナンスに難が少なく、簡便に、短時間に高炉装入物の落下軌跡を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】高炉装入物の落下軌跡の測定装置を示す図。
【図2】測定棒の断面構造を示す図(図1中のA−A断面)。
【図3】鉄鉱石の落下軌跡を示す図。
【図4】個々の圧痕の圧力を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、高炉内に装入物を装入するときの装入物落下軌跡を測定する高炉装入物の落下軌跡測定方法であって、高炉の装入物装入装置と炉内の装入物表面の間に、圧力測定フィルムを巻きつけた測定棒を挿入する工程と、装入物が落下し、前記圧力測定フィルムに接触することによる圧力を測定する工程と、測定した前記圧力測定フィルムの圧痕を解析する工程から成る高炉装入物の落下軌跡測定方法である。
【0020】
本発明は、高炉の装入物装入装置から炉内に落下する高炉装入物が圧力測定フィルムに与える衝撃を測定することにより、高炉装入物の落下軌跡を正確に測定するものである。
【0021】
高炉装入物は、装入ベル又は旋回シュート等の装入物装入装置から、重力により、高炉内に落下する。図1に高炉装入物の落下軌跡の測定装置を示す。本発明に係る測定棒1は、装入物装入装置の下端と炉内装入物表面の間に炉外から装入される。
【0022】
図1において、装入装置が旋回シュートの場合、装入物3は、旋回シュート4から高炉炉頂の装入物表面5に向け装入される。旋回シュート4は、高炉の鉛直中心に対し一定角度θを保ちながら連続回転する。旋回シュート4が連続回転することで、装入物3を高炉円周方向に均一に装入することができる。又、旋回シュート4は、角度θを変更することにより、高炉半径方向における装入物3の落下位置を変更することができる。即ち、角度θが小さいと装入物3は、炉中心近傍に落下し、角度θが大きいと装入物3は、炉壁近傍に落下する。
【0023】
図2に、測定棒1の断面構造を示す。中心は芯棒1aであって、図2(A)は丸パイプ、図2(B)は角パイプの場合を例示しているが、その断面形状や材質は、測定時に十分な剛性を有すればよく、適宜定め得る。
芯棒の表面には、圧力測定フィルム2が置かれる。巻きつける範囲は、炉半径方向(芯棒長手方向)では装入物が落下する範囲をすべて含む必要があるが、炉円周方向(芯棒幅方向)では適宜定めてよい。測定精度の観点からは、図3に示すように、圧痕数が最も多く得られる上面全体とするのが最も好ましい。ここに、圧力測定フィルムとは、圧力を受けた部分がその圧力に応じて濃淡を発する機能を有するフィルムであって、市販品を測定対象に応じて選択する。一般的に、例えば、ロールの接触圧、各種機械の締結部の締め付け圧力、紙等の巻き取り圧等の圧力測定で利用されている。しかし、固体の粒体流れを、圧力測定フィルムに衝突させることにより、固体の流れを測定する事例はなく、高炉の装入物落下軌跡の特性を測定する事例もない。
圧力測定フィルムを取り囲むように保護皮膜1bを設ける。高炉においては、1回当たりの鉱石装入量は、50トン〜100トンにもなるので、測定棒1の表面の圧力測定フィルム2は、鉱石の落下衝撃で破損されてしまう。圧力測定フィルムの破損を防止するために、フィルムを保護する皮膜が必要である。しかし、保護皮膜が強固過ぎると鉱石落下の衝撃力を圧力測定フィルムが検出できない。本発明者は、圧力測定フィルムを保護する皮膜として、クラフト粘着テープ、布粘着テープ、各種フィルムテープを検討した結果、布粘着テープが、適正な強度があり、かつ、取り外しも簡易であり、測定後圧力の解析に最適であることを見出した。
【0024】
次に、測定棒1を高炉内に挿入した状態で、装入物装入装置から高炉装入物3を落下させ、測定棒1の圧力測定フィルム2に高炉装入物3を衝突させる。測定棒1の圧力測定フィルム2のうち高炉装入物が衝突した箇所は、衝撃力により、普通、赤色に着色する。たとえば、装入物である1粒の鉄鉱石は、フィルムに1箇所の痕跡をつける。その際、作用力の大きさは赤色の濃度により表現される。接触点の数により、高炉装入物の粒子数がわかり、接触点の位置により、高炉装入物の流れの幅が把握できる。そして、粒子による衝撃力の大きさにより、赤色の濃度が変化するので、装入物粒度が把握できる。即ち、赤色の濃度が濃い箇所に大粒子が衝突し、濃度の薄い箇所には細粒が衝突したことがわかる。
【0025】
本発明においては、装入物流れの主流と、装入物流れの幅が測定できる。装入物が衝突した圧力測定フィルムを炉外に取り出し、圧力画像解析システムにより解析し、高炉装入物の落下軌跡の主流位置、幅、装入物粒度分布を把握することができる。
【実施例】
【0026】
次に、本発明の実施例について説明するが、これに限られるものではない。
装入物装入装置が、旋回シュートである高炉の休風時において、本発明を実施した。旋回シュート4の下端と炉内装入物表面5の間に炉外から直径90mmの測定棒1を挿入した(図1)。測定棒1の表面に、圧力測定フィルム2(富士フイルム製、品番MW)を置き、さらにその上を布粘着テープで被覆した。
【0027】
鉄鉱石の衝突による加圧で発色したフィルムは、発色情報をスキャナーで読み取り、デジタル変換した後、圧力画像解析システムで解析した。
【0028】
図3に、本発明により測定した鉄鉱石の落下軌跡を示す。θは、旋回シュートが鉛直に対してなす角度である(図1参照)。左側が炉中心であり、角度θが30°の場合、鉄鉱石の落下の主流は、炉中心に近い側にあることを示している。角度θが50°の場合、鉄鉱石の落下の主流は、炉壁に近い側にあることを示している。図4は、図3の角度θが50°の場合と30°の場合の個々の圧力値をプロットしたものである。測定棒1に衝突する際の鉄鉱石の速度は粒度の大小に依らず一定であるため、重量の違い、つまり粒度の違いで検出される圧力値の大小が決定される。図4のθが50°の場合は、圧力が検出された範囲内で炉中心側の圧力値が大きく、炉壁側の圧力が小さい。これは大粒子の鉄鉱石が炉中心側に多く衝突し、炉壁側には小粒子の鉄鉱石が多く衝突したことを意味する。図4のθが30°の場合は、大粒子の鉄鉱石が炉壁側に多く衝突し、小粒子の鉄鉱石が炉中心側に多く衝突したことを意味する。このことにより、圧力測定フィルムが感知する圧力により、装入物の粒度毎の落下軌跡を測定することができる。
【0029】
本発明により、装入物装入装置の磨耗等により、装入物軌跡が変化しても、装入物軌跡の主流、装入物流れの幅および、装入物粒度毎の落下軌跡を測定し、その測定結果に応じて、ベル式装入装置ではムーバブルアーマを、ベルレス式装入装置では旋回シュートの角度を調整することにより、装入物の落下軌跡の変化に対応することができ、高炉の安定操業が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、高炉炉頂の粉塵が多い環境でも、高炉装入物の落下軌跡を精度よく測定することができ、又、メンテナンスに難が少なく、簡便に、短時間に高炉装入物の落下軌跡を測定することができる方法を提供する。
【符号の説明】
【0031】
1…測定棒、1a… 芯棒(パイプ)、1b…保護皮膜
2…圧力測定フィルム、3…装入物、4…旋回シュート、5…装入物表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉内に装入物を装入するときの装入物落下軌跡を測定する高炉装入物の落下軌跡測定方法であって、
高炉の装入物装入装置と炉内の装入物表面の間に、圧力測定フィルムを巻きつけた測定棒を挿入する工程と、
前記測定棒に装入物を落下させて、前記圧力測定フィルムに圧痕を発色させる工程と、
測定した前記圧力測定フィルム上に記録された圧痕から、該圧痕の個数と個々の圧痕の圧力を求める工程、を有する高炉装入物の落下軌跡測定方法。
【請求項2】
前記圧力測定フィルムが感知する圧力により、装入物の粒度毎の落下軌跡を測定する工程を有する請求項1に記載の高炉装入物の落下軌跡測定方法。
【請求項3】
芯棒と、該芯棒の上面の一部を覆う圧力測定フィルムと、該圧力測定フィルムの上面全体を覆う該圧力測定フィルムの測定時の破損を防止する機能を有する保護皮膜とからなる高炉装入物の落下軌跡の測定棒。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate