説明

高炭素熱延鋼板およびその製造方法

本発明は、i)重量%で、C:0.60〜1.20%、Si:0.10〜0.35%、Mn:0.10〜0.80%、P:0よりは大きく0.03%以下、およびS:0よりは大きく0.03%以下を含み、Ni:0.25%以下(0を含む)、およびCr:0.30%以下(0を含む)、Cu:0.25%以下(0を含む)のうちのいずれか一つ以上を含み、残部Feおよびその他の不可避不純物を含み、ii)セメンタイトの幅は0より大きく0.2μm以下であり、前記セメンタイトとセメンタイトとの間隔が0よりは大きく0.5μm以下である微細パーライト組織を有する、高炭素熱延鋼板を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炭素熱延鋼板に関する。より詳細には、本発明は、微細パーライト組織を有する高炭素熱延鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炭素鋼板は、炭素を0.3重量%以上含有し、その結晶組織がパーライト(pearlite)結晶相を有する鋼板(steel)をいう。高炭素鋼板は、最終工程を経た後、高強度および高硬度を有するようになる。このように、高炭素鋼板は、高強度および高硬度を有するため、高い強度および硬度が要求される工具鋼や機械構造用鋼として使用される。
【0003】
工具鋼として使用される高炭素鋼板の例としては、日本工業規格で分類されるJS−SK85鋼がある。JS−SK85鋼は、自動車の部品や、製針用針、かみそりの刃または文房具用カッターの刃などとして使用される。
【0004】
高炭素鋼板は、通常、スラブ(slab)に対して連続式熱間圧延工程を行うことにより、熱延鋼板という中間製品に製造される。熱延鋼板は、熱間圧延を行うために、加熱されたスラブを粗圧延と仕上げ圧延とを経て所定の厚さに圧延した後、ランアウトテーブル(ROT;Run−Out Table)で適正温度まで冷却して、巻物状のコイルに巻取られて製造される。
【0005】
このような熱延鋼板は、酸洗(pickling)および球状化焼鈍(spherodizing)工程を経た後、冷間圧延して冷延鋼板に製造する。冷延鋼板は、再び焼鈍工程と冷間圧延工程を順に繰り返し行うことにより、所望の厚さを有する冷延鋼板を製造する。このような冷延鋼板は、ブランキング(blanking)やバーリング(burring)などの工程により所望の製品に加工した後、QT熱処理(quenching and tempering)により最終製品に加工される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、後続工程で球状化焼鈍と冷間圧延の繰り返し回数を最小化するために、厚さが薄いながらも、微細パーライト組織を有する高炭素熱延鋼板を提供することである。
【0007】
本発明の他の目的は、微細パーライト組織を有し、コイルが潰れないように、ランアウトテーブルでの相変態率を向上させる高炭素熱延鋼板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するための本発明の一実施例によれば、i)重量%で、C:0.60〜1.20%、Si:0.10〜0.35%、Mn:0.10〜0.80%、P:0よりは大きく0.03%以下、およびS:0よりは大きく0.03%以下を含み、Ni:0.25%以下(0を含む)、Cr:0.30%以下(0を含む)、およびCu:0.25%以下(0を含む)のうちのいずれか一つ以上を含み、残部Feおよびその他の不可避不純物からなり、かつii)セメンタイト(cementite)の幅は0より大きく0.2μm以下であり、セメンタイトとセメンタイトとの間隔が0よりは大きく0.5μm以下である微細パーライト組織を有する、高炭素熱延鋼板を提供する。
【0009】
また、本発明の一実施例によれば、高炭素熱延鋼板は、微細パーライト組織の分率が90%以上となるようにする。
【0010】
そして、このような高炭素熱延鋼板は、厚さが1.8mm以下、好ましくは厚さが1.6mm以下となるようにする。
【0011】
他の目的を達成するための本発明の一実施例によれば、i)重量%で、C:0.60〜1.20%、Si:0.10〜0.35%、Mn:0.10〜0.80%、P:0よりは大きく0.03%以下、およびS:0よりは大きく0.03%以下を含み、Ni:0.25%以下(0を含む)、Cr:0.30%以下(0を含む)、およびCu:0.25%以下(0を含む)のうちのいずれか一つ以上を含み、残部Feおよびその他の不可避不純物からなる高炭素スラブを製造するスラブ製造ステップと、ii)前記スラブを1200℃以上で再加熱する再加熱ステップと、iii)前記スラブを粗圧延した後、830℃以上のオーステナイト(austenite)領域で仕上げ圧延を行うことにより、厚さが1.8mm以下の薄板を製造する熱間圧延ステップと、iv)前記薄板をランアウトテーブルで剪断制御冷却により冷却する冷却ステップと、v)前記冷却ステップでパーライト相変態を行うために必要な時間の間冷却温度を維持させる冷却停止ステップと、vi)前記薄板を650℃以下で巻取るステップとを含む、高炭素熱延鋼板の製造方法を提供する。
【0012】
このような高炭素熱延鋼板の製造方法は、その冷却ステップにおいて、薄板を冷却する冷却速度を50〜300℃/secとする。
【0013】
そして、熱間圧延による薄板の製造ステップにおいて、薄板は、1.6mm以下として熱延鋼板を製造する。
【0014】
また、冷却ステップにおいて、薄板を冷却する剪断制御冷却は、650℃以下となるように冷却し、このような冷却は、少なくとも3秒以内に完了する。
【0015】
そして、高炭素熱延鋼板の製造方法の冷却停止ステップにおいて、パーライト相変態を90%以上完了するようにし、このような相変態完了時間は、少なくとも6秒以上とする。また、このような冷却停止ステップは、550〜660℃で温度を維持させる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一実施例による高炭素熱延鋼板の製造方法は、厚さが1.8mm以下、好ましくは厚さが1.6mm以下の薄板を大量に生産することができる技術を提供するという効果がある。
【0017】
本発明の一実施例による高炭素熱延鋼板の製造方法は、厚さが1.8mm以下、好ましくは厚さが1.6mm以下の薄板状態に製造することができるため、後続の製品製造工程で球状化焼鈍および冷間圧延の回数を少なくとも1回以上減らすことができるという技術的効果がある。
【0018】
このように、後続の製造工程ステップを省略できるようにすることにより、製品生産時、加工費用を節減することができ、製造工程時間を短縮することができる。
【0019】
本発明の一実施例により製造された高炭素熱延鋼板は、微細パーライト組織を有するため、最終製品に耐久性と強度を持たせることができるという技術的効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の比較例による、仕上げ熱間圧延後、徐冷して巻取った1.6mm厚の熱延鋼板であって、その結晶組織は粗パーライト組織を示している顕微鏡写真である。
【図2】図1の熱延鋼板を球状化焼鈍した状態の結晶組織を示すものであって、黒い縞状の未溶解セメンタイトが残留することが観察された顕微鏡写真である。
【図3】本発明の実施例による、仕上げ熱間圧延後、急冷してパーライト変態を90%以上完了した後に巻取った1.6mm厚の熱延鋼板であって、その結晶組織は微細パーライト組織を示している顕微鏡写真である。
【図4】図2の熱延鋼板を球状化焼鈍した状態の結晶組織を示すものであって、未溶解セメンタイトが観察されない顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明による高炭素熱延鋼板およびその製造方法に対する実施例を詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。したがって、当該分野における通常の知識を有する者であれば、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で本発明を多様な他の形態で実現可能であろう。
【0022】
本発明において、成分元素の含有量は、特別な説明がない限り、すべて重量%を意味する。
【0023】
以下、本発明の実施例による高炭素熱延鋼板について詳細に説明する。
【0024】
本発明の一実施例による高炭素熱延鋼板は、重量%で、C:0.60〜1.20%、Si:0.10〜0.35%、Mn:0.10〜0.80%、P:0より大きく0.03%以下、S:0より大きく0.03%以下、Ni:0.25%以下(0を含む)、Cr:0.30%以下(0を含む)、およびCu:0.25%以下(0を含む)、並びに残部Feおよびその他の不可避不純物からなる。
【0025】
本発明の一実施例による高炭素熱延鋼板において、このように成分を制限した理由について説明する。
【0026】
[C:0.60〜1.20%]
炭素(C)は、最終製品を熱処理(QT)する場合に焼き入れ性に影響を与える成分である。Cが0.6%以下で含有される場合、焼き入れ性が低下して、製品の強度が下落し、耐摩耗性が劣化する原因になることがある。そして、Cが1.20%を超えて含有される場合は、最終製品の加工性が劣化し、衝撃靭性が低下することがある。したがって、炭素(C)含有量の好ましい範囲は0.60〜1.20%である。
【0027】
[Si:0.10〜0.35%]
ケイ素(Si)は、脱酸のために添加される元素である。Siが0.10%以下で含有される場合は、脱酸が不完全で、製品内に酸化性介在物が残留する。したがって、熱延鋼板を極薄厚に冷間圧延する場合、表面が破れ、最終製品の疲労強度が低下する原因になる。そして、Siが0.35%を超えて含有される場合は、熱間圧延工程のためにスラブを再加熱する場合、赤スケールを誘発する物質の生成を促進させて製造された熱延鋼板の表面に赤スケールが生成されて、製品の表面品質が低下する原因になる。したがって、Si含有量の好ましい範囲は0.10〜0.35%である。
【0028】
[Mn:0.10〜0.80%]
マンガン(Mn)は、最終製品を熱処理(QT)する場合に焼き入れ性を向上させる。また、Cの増加に伴って発生する衝撃遷移温度が上昇することを抑制する役割を果たす。Mnが0.10%以下で含有される場合、衝撃遷移温度が上昇して、加工性が低下する。そして、Mnが0.80%を超えて含有される場合は、最終製品の熱処理(QT)時に製品が熱変形する原因になる。したがって、Mn含有量の好ましい範囲は0.10〜0.80%である。
【0029】
[P:0.03%以下]
リン(P)は、製造工程中に熱延鋼板の微細なオーステナイト結晶粒界にFePなどの析出を誘発させる。熱延鋼板の内部にこのような析出物が生成されると、製品の衝撃靭性が劣化する。したがって、Pの含有量は、0より大きいが、0.03重量%以下に制限することが好ましい。
【0030】
[S:0.03%以下]
硫黄(S)は、製造工程中に微細な析出物であるMnSおよびCuSを形成する。熱延鋼板の内部にこのような析出物が形成されると、結晶粒が成長するのを抑制して、最終製品の焼き入れ性を劣化させる。したがって、Sは、できるだけ低く管理することが好ましく、その含有量を、0よりは大きいが、0.03重量%以下に制限する。
【0031】
本発明の一実施例による高炭素熱延鋼板は、以上の元素成分のほか、残部Feおよびその他の不可避不純物が含有される。
【0032】
本発明の一実施例は、以上の成分元素のほか、Ni、Cr、Cuのいずれか一つ以上を含むことができる。これらの元素は、不純物として混入する場合もあるが、これらの元素は、最終熱処理工程で焼き入れ性を向上させるために添加される。しかし、これらの元素は、Niを0.25%以上、Crを0.30%以上、そして、Cuを0.25%以上で含む場合には、含有効果が飽和し、費用が増加するため、これらの範囲以下で含有させることが好ましい。そして、Crは、熱間圧延工程でスラブを再加熱する時、スラブの表面にCr酸化物層を形成することにより、表層酸化および脱炭を抑制する効果がある。以上で説明した点を考慮して、これらの元素の含有量は、Ni:0.25%以下(0を含む)、Cr:0.30%以下(0を含む)、そして、Cu:0.25%以下(0を含む)に制御する。
【0033】
以下、前述した実施例による高炭素熱延鋼板を製造する方法について説明する。
【0034】
まず、重量%で、C:0.60〜1.20%、Si:0.10〜0.35%、Mn:0.10〜0.80%、P:0より大きく0.03%以下、S:0より大きく0.03%以下、Ni:0.25%以下(0を含む)、Cr:0.30%以下(0を含む)、およびCu:0.25%以下(0を含む)、並びに残部Feおよびその他の不可避不純物からなる高炭素鋼スラブを製造する。
【0035】
製造された鋼スラブを1200℃以下の温度で再加熱した後、830℃以上のオーステナイト領域で熱間圧延を行う。
【0036】
そして、熱間圧延は、加熱されたスラブを、粗圧延と仕上げ圧延を完了した状態で、その厚さが1.8mm以下、好ましくは1.6mm以下となるように、薄板状態で圧延する。
【0037】
このようにスラブを薄板状態まで熱間圧延する理由は、次のとおりである。
【0038】
熱延鋼板を有して最終製品を生産するためには、まず、中間状態の冷延鋼板に製造する。しかし、このような冷延鋼板を製造するためには、熱延鋼板を球状化焼鈍工程と冷間圧延工程を数回繰り返すことにより、所望の厚さ(例えば、0.6mm以下)を有する冷延鋼板を製造するようになる。したがって、提供される熱延鋼板の厚さが厚ければ厚いほど、より多くの回数の球状化焼鈍工程と冷間圧延工程を繰り返し行わなければならない。
【0039】
また、本発明の一実施例による高炭素鋼は、炭素含有量が0.60〜1.20重量%である。高炭素鋼は、高い炭素含有量により、強度は高いが、衝撃靭性が低いという特徴がある。したがって、熱間圧延された共析鋼は、冷間圧延を行う前に球状化焼鈍を実施する。そして、共析鋼は、球状化焼鈍後に冷間圧延を行う。この時の冷間圧延で共析鋼を圧下率が70%以上となるように冷間圧延すると、球状化されたセメンタイトがベースと分離されて、製品内に微細なボイド(void)が形成される。このようなボイドは、最終製品の耐久性と強度を低下させる原因になる。したがって、共析鋼の場合、1回冷間圧延を行う時、その圧下率を60〜70%に制限する。
【0040】
このような理由から、熱延鋼板を冷間圧延する場合、熱延鋼板の厚さが厚くなると、数回にわたって繰り返し冷間圧延を行うことにより、目標の厚さまで薄く圧延しなければならない。
【0041】
そのため、本発明の実施例のように、熱延鋼板の厚さを1.8mm以下、好ましくは1.6mm以下に製造する場合、後続の冷間圧延工程で少なくとも1回以上の球状化焼鈍工程および冷間圧延を省略することができる。
【0042】
このように薄板状態の熱延鋼板を提供すると、後続工程で製造工程ステップを省略することができるため、製品生産時、加工費用を節減することができ、製造工程時間を短縮することができる。
【0043】
以上のような厚さまで仕上げ熱間圧延を行った薄板は、ランアウトテーブルで適正温度まで冷却された後、巻物状のコイルに巻取られる。
【0044】
ランアウトテーブルで冷却される薄板は、巻取り機で巻取られる前に、パーライト相変態率が90%以上完了するようにする。
【0045】
ランアウトテーブルで冷却される薄板が巻取られる前に、パーライト相変態される程度が90%以下となる場合、熱延鋼板が巻取られた状態でパーライトに相変態するようになる。すると、変態発熱により巻取りコイルの温度が上昇し、温度が上昇すると、形成されるパーライト組織が粗大化する。パーライト組織が粗大化した状態で後続工程を実施すると、焼鈍後の製品に残留セメンタイトが存在するようになる。このように残留セメンタイトが存在すると、製品加工工程でセメンタイト組織に応力が集中し、製品が破断し、または熱処理が円滑に行われなくなる。また、ランアウトテーブルで冷却される薄板が巻取られる前に、パーライトに相変態せず、巻取られた状態でパーライトに相変態されると、結晶組織の体積分率が変化して、コイル状態で巻取られた熱延鋼板は、その形状が上下に潰れて楕円形に変化する。このように潰れたコイルを「才槌頭様コイル」という。このように才槌頭様コイルが発生すると、後続の精整工程や酸洗工程などで操業が難しいため、生産性や実収率が低下する原因になる。
【0046】
そして、本発明の一実施例による高炭素熱延鋼板の、熱延工程中に変態発熱が発生する理由について説明する。
【0047】
高炭素鋼の場合、Cの含有量が増加するほど、CCT曲線のカーブノーズ(Curve Nose)が右側に移動する。したがって、オーステナイトからパーライトに相変態を始める時間が遅延し、その終了時間も遅延する。また、C含有量が増加するほど、熱容量の差による変態発熱量が増加する。
【0048】
したがって、以上のような理由から、仕上げ熱間圧延を完了した薄板は、コイル状態で巻取られる前に、オーステナイトからパーライトへの相変態を90%以上完了させることが好ましい。
【0049】
このため、仕上げ熱間圧延を完了した薄板は、ランアウトテーブルに入り始めた時に急速に冷却させることが好ましい。この時の冷却速度は、50〜300℃/secが好ましい。
【0050】
したがって、ランアウトテーブルに入った薄板は、迅速に冷却して、650℃以下の冷却停止温度まで冷却させることが好ましい。ランアウトテーブルで650℃以下に冷却された薄板は、ランアウトテーブルを通過しながら、冷却温度を維持した状態で、パーライト相変態を90%以上完了した後、650℃以下で巻取る。
【0051】
高炭素鋼がランアウトテーブルで相変態を完了するには、9秒以上の時間が要求される。しかし、熱間圧延によってその厚さを薄くすればするほど、通板速度が増加して、1.8mm以下の厚さに圧延する場合、相変態を十分に完了する時間を確保することが容易でない。したがって、本発明の一実施例では、熱間圧延された鋼板が相変態の完了にかかる時間を最小化するために、ランアウトテーブルに入る初期段階で50〜300℃/secとなるように急冷却して、冷却停止温度まで冷却させる。この時の所要時間は、3sec以内に制御することが好ましい。そして、ランアウトテーブルで移動しながら冷却される熱延鋼板は、550〜660℃の温度範囲の冷却停止温度で徐冷により変態発熱量を減らしながら、相変態を完了する。この時の所要時間は、6秒以上を維持することが好ましい。
【0052】
以上のようなランアウトテーブルでの剪断制御冷却条件で熱間圧延を行うと、製造された熱延鋼板は、その組織が微細パーライトを有するようになる。
【0053】
製造された熱延鋼板は、セメンタイトの幅が0.2μm以下であり、セメンタイトとセメンタイトとの間隔が0.5μm以下であることが好ましい。このような結晶組織は、結局、微細パーライト組織を有するものであり、最終熱延鋼板は、微細パーライトの相分率が90%以上となる。
【0054】
製造された熱延鋼板は、酸洗および球状化焼鈍工程を経た後、冷間圧延して冷延鋼板に製造する。冷延鋼板は、再び焼鈍工程と冷間圧延工程を順に繰り返し行うことにより、所望の厚さを有する冷延鋼板を製造する。このような冷延鋼板は、ブランキングやバーリングなどの工程により所望の製品に加工した後、QT熱処理により最終製品に加工される。
【0055】
最終製品に加工する時、熱延鋼板の組織が微細パーライトに制御されていてはじめて、最終製品でのセメンタイトの残留を抑制することができ、最終製品の強度を高くすることができ、耐摩耗性と耐疲労特性を付与することができる。
【実施例】
【0056】
実験に使用された鋼板の組成を表1に示した。
【0057】
【表1】

【0058】
表1の組成を有するスラブを製造した後、このスラブを1200℃で再加熱して熱間圧延を行った。
【0059】
熱間圧延による熱延鋼板の板厚は、比較例および実施例とも1.8〜1.4mmとなるようにした。
【0060】
表1での比較例は、すべて仕上げ熱間圧延した後、ランアウトテーブルで剪断制御冷却を実施しておらず、実施例はすべて剪断制御冷却を実施した。
【0061】
そして、表2に示している巻取り温度で巻取った。表2は、熱間圧延および巻取りを完了した熱延鋼板に対してそれぞれHrC硬度試験を行った値と、顕微鏡組織観察した結果をともに示している。
【0062】
【表2】

【0063】
表2に示されているように、ランアウトテーブルで剪断制御冷却を実施していない比較例の場合、すべてHrC硬度値が実施例より低く、その組織はすべて粗パーライトを示した。これに対比される実施例の場合、HrC硬度値が比較例より高く、その組織はすべて微細パーライトを示した。
【0064】
次に、図1〜図4は、比較例1および実施例1の試験片に対して熱間圧延を行った後の結晶組織写真と球状化焼鈍を行った後の結晶組織写真を示す。
【0065】
図1に示した比較例1は、仕上げ熱間圧延後、剪断制御冷却なしにランアウトテーブルを通過してから巻取った。
【0066】
比較例1の製造工程の条件は、ランアウトテーブルの区間で剪断制御冷却なしに、徐冷を実施したため、ランアウトテーブルの区間で相変態のための十分な時間を確保することができなかった。この場合、巻取り前の相変態率は50%以下となり、その結晶組織は、光学顕微鏡(×500)で観察可能なレベルで粗パーライト組織を示している。この場合、巻取り温度は600〜650℃の範囲であるが、巻取り後の変態発熱により温度が650℃以上と高く上昇し、巻取られたコイルの形状は才槌頭形状となる。
【0067】
このように製造された比較例1の熱延鋼板に対して酸洗工程と球状化焼鈍を行った。このように球状化焼鈍が完了した製品の顕微鏡写真を図2に示した。
【0068】
図2に示した比較例1は、1.6mm厚の熱延鋼板に対して酸洗工程を行い、650〜720℃の範囲で30時間以上維持して球状化焼鈍を行った。そして、冷間圧延を1回経た後、0.8mm厚の冷延鋼板に製造した後、再結晶焼鈍後に顕微鏡で観察した組織である。図2に示されているように、黒色で表現された点は未溶解セメンタイトであって、最終製品の熱処理不良および疲労特性に悪影響を及ぼす。
【0069】
図3に示した実施例1は、880℃以上の温度で仕上げ熱間圧延を行った後、ランアウトテーブルでの剪断で50℃/sec以上の速度で冷却を開始して、580℃の冷却停止温度まで急冷させた。そして、その後、ランアウトテーブルを通過しながら、パーライト変態を90%以上完了するように温度を維持した後、650℃以下で巻取った。
【0070】
このように製造された実施例1の熱延鋼板は、1.6mm厚に熱間圧延されたもので、酸洗工程と、650〜720℃の範囲で30時間以上を維持する球状化焼鈍工程を行った。そして、この試験片を、冷間圧延を1回経た後、0.8mm厚に冷間圧延した後、再結晶焼鈍した。
【0071】
図4は、このように再結晶焼鈍した後の実施例1の顕微鏡写真である。図4に示されているように、ランアウトテーブルで剪断制御冷却を行った実施例の場合、セメンタイトが均一に分散されているため、最終製品の熱処理を良好にし、疲労特性を向上させる。
【0072】
以上、比較例1および実施例1の結晶組織写真を説明したが、他の比較例および他の実施例により製造された試験片もこれに類似した形態の組織を示した。
【0073】
これらの実験結果をまとめると、実施例により製造された熱延鋼板は、図3のように微細パーライト組織を有するのに対し、比較例により製造された熱延鋼板は、図1のように粗パーライト組織を有している。
【0074】
このように、厚さ1.8mm以下の薄板状態で熱延鋼板を直接圧延する場合、通常の熱間圧延方法で製造した比較例は、その結晶組織が粗パーライト組織を示しているため、コイル状態で熱変形によるねじれが現れている。
【0075】
しかし、厚さ1.8mm以下の薄板状態で熱延鋼板を直接圧延したとしても、実施例のように、ランアウトテーブルで剪断制御冷却を行った場合は、その結晶組織が微細パーライト組織を示しており、変態が90%以上完了した状態で巻取ったため、コイルのねじれ現象は現れなかった。
【0076】
また、このように製造された比較例および実施例の熱延鋼板を後続工程により球状化焼鈍した結果は、すべて図2と図4に示した組織と類似している。
【0077】
図2のように、比較例による製品は、未溶解状態のセメンタイトが複数発見されたのに対し、実施例による製品は、このような未溶解状態のセメンタイトは発見されなかった。
【0078】
したがって、実施例による製品は、最終製品の加工工程で応力集中による破断が発生せず、熱処理によっても不良品が発生しなかった。
【0079】
上述したように、本発明の好ましい実施例を参照して高炭素熱延鋼板およびその製造方法について説明したが、当該技術分野における熟練した当業者であれば、下記の特許請求の範囲に記載された本発明の思想および領域を逸脱しない範囲内で本発明の多様な修正および変更が可能であることを理解することができるはずである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.60〜1.20%、Si:0.10〜0.35%、Mn:0.10〜0.80%、P:0よりは大きく0.03%以下、およびS:0よりは大きく0.03%以下を含み、
Ni:0.25%以下(0を含む)、Cr:0.30%以下(0を含む)、およびCu:0.25%以下(0を含む)のうちのいずれか一つ以上を含み、
残部Feおよびその他の不可避不純物からなり、かつ
セメンタイトの幅は0より大きく0.2μm以下であり、前記セメンタイトとセメンタイトとの間隔が0よりは大きく0.5μm以下である微細パーライト組織を有する
ことを特徴とする、高炭素熱延鋼板。
【請求項2】
前記高炭素熱延鋼板は、微細パーライト組織の分率が90%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の高炭素熱延鋼板。
【請求項3】
前記高炭素熱延鋼板は、厚さが1.8mm以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の高炭素熱延鋼板。
【請求項4】
前記高炭素熱延鋼板は、厚さが1.6mm以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の高炭素熱延鋼板。
【請求項5】
重量%で、C:0.60〜1.20%、Si:0.10〜0.35%、Mn:0.10〜0.80%、P:0よりは大きく0.03%以下、およびS:0よりは大きく0.03%以下を含み、Ni:0.25%以下(0を含む)、Cr:0.30%以下(0を含む)、およびCu:0.25%以下(0を含む)のうちのいずれか一つ以上を含み、残部Feおよびその他の不可避不純物からなる高炭素スラブを製造するスラブ製造ステップと、
前記スラブを1200℃以上で再加熱する再加熱ステップと、
前記スラブを粗圧延した後、830℃以上のオーステナイト領域で仕上げ熱間圧延を行うことにより、厚さが1.8mm以下の薄板を製造する熱間圧延ステップと、
前記薄板をランアウトテーブルで剪断制御冷却により冷却する冷却ステップと、
前記冷却ステップでパーライト相変態を行うために必要な時間の間冷却温度を維持させる冷却停止ステップと、
前記薄板を650℃以下で巻取る巻取りステップとを含むことを特徴とする、高炭素熱延鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記冷却ステップにおいて、薄板を冷却する剪断制御冷却は、冷却速度が50〜300℃/secであることを特徴とする、請求項5に記載の高炭素熱延鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記熱間圧延による薄板の製造ステップにおいて、前記薄板は、1.6mm以下であることを特徴とする、請求項6に記載の高炭素熱延鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記冷却ステップにおいて、薄板を冷却する剪断制御冷却は、650℃以下となるように冷却することを特徴とする、請求項7に記載の高炭素熱延鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記冷却ステップにおいて、650℃以下まで冷却する冷却は、少なくとも3秒以内であることを特徴とする、請求項8に記載の高炭素熱延鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記冷却停止ステップにおいて、パーライト相変態を90%以上完了することを特徴とする、請求項5〜9のいずれか一項に記載の高炭素熱延鋼板の製造方法。
【請求項11】
前記冷却停止ステップは、550〜660℃に温度を維持させることを特徴とする、請求項10に記載の高炭素熱延鋼板の製造方法。
【請求項12】
前記冷却停止ステップにおいて、パーライト相変態を90%以上完了するのに維持される時間は、少なくとも6秒以上であることを特徴とする、請求項11に記載の高炭素熱延鋼板の製造方法。
【請求項13】
前記高炭素熱延鋼板の製造方法により製造された熱延鋼板は、セメンタイトの幅は0より大きく0.2μm以下であり、セメンタイトとセメンタイトとの間隔が0よりは大きく0.5μm以下である微細パーライト組織を有することを特徴とする、請求項10に記載の高炭素熱延鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−530659(P2011−530659A)
【公表日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−522892(P2011−522892)
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【国際出願番号】PCT/KR2009/002909
【国際公開番号】WO2010/018920
【国際公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(592000691)ポスコ (130)
【Fターム(参考)】