説明

高炭素電縫鋼管及びその製造方法

【課題】電縫溶接部の割れ起点となる酸化物等からなる欠陥に着目し、その面積率を規定することにより、冷間加工性を向上させた高炭素電縫鋼管及びその製造方法を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.3〜0.8%、Si:2%以下、Mn:3%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する高炭素電縫鋼管であって、電縫溶接部14の全長にわたり、好ましくはアレイUTによるエコー高さから求めた、欠陥面積率が10%以下であることを特徴とする、電縫溶接部の機械的特性に優れる高炭素電縫鋼管である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高炭素電縫鋼管(=高炭素鋼組成の電縫鋼管)及びその製造方法に係り、特に自動車部品や産業建設機械の素材として好適な高炭素電縫鋼管及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の地球環境の保全の観点から、自動車車体の軽量化が強く要望されている。最近では、従来、棒鋼を素材に用いて製造されていた部品の素材を、中空である電縫鋼管で代替することや、従来、シームレス鋼管を素材に用いて製造されていた部品の素材を、電縫鋼管に代替することにより、肉厚を薄くして軽量化を図ろうとする開発が進められている。
上記部品の素材が高炭素鋼組成のシームレス鋼管や棒鋼である場合、代替素材として、冷間加工性、高周波焼入れ性に優れた高炭素電縫鋼管が望ましいことから、特許文献1に、質量%で、C:0.3 〜0.8 %、 Si:2%以下、Mn:3%以下を含む組成を有する素材鋼管に、少なくとも(AC1変態点−50℃)〜AC1変態点の温度範囲で、累積縮径率:30%以上となる絞り圧延を行うことにより、シームを含む全ての位置において、セメンタイトの粒径が 1.0μm以下である組織を有するものとした高炭素電縫鋼管が記載されている。
【0003】
なお、特許文献2は、本発明に好ましく用いうる、アレイ探触子を用いた超音波集束ビームによるタンデム探傷法(以下、アレイUTという)に関する記載があり、本発明の参考文献としてここに挙げた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−355047号公報
【特許文献2】特開2008−209364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電縫鋼管は、通常、冷間で鋼帯を管形状にロール成形して帯幅両端同士を衝合させてなる被電縫溶接部を電縫溶接することにより製造される。この製造にあたり、従来、電縫溶接部の品質向上の観点から、経験に頼った溶接入熱や、被電縫溶接部の成形方法の調整等が行われてきた。
しかし、このような経験に頼った調整では、高炭素電縫鋼管の電縫溶接部の機械的特性を十分に確保することは難しかった。
【0006】
高炭素電縫鋼管は、炭素量が高いために焼入れ性は高く、なおかつ電縫溶接部は急冷されるために、電縫溶接部は硬化して、鋼管としての冷間加工性が著しく低下する。しかも発明者らの調査結果によると、電縫溶接部には、稀ではあるにしても素材性の介在物や電縫溶接時に生成する酸化物等の異物が存在し、それを含む欠陥は250μm以下の微小なもので、管長さ方向のランダムな位置に存在し、通常のUT検査では見落とされて、製品中に残存する。
【0007】
高炭素電縫鋼管は、強度と疲労特性(=耐疲労特性)が要求される部品などに多く用いられる。このような部品は、鋼管をスウェージや拡管等の冷間加工を行い所定の形状にすることが求められる。
ところが、高炭素電縫鋼管においては、電縫溶接部の冷間加工性が低いために、前述の酸化物等の異物を含む欠陥を起点とした割れの感受性は高くなる。その結果、電縫溶接部に通常では問題にならない大きさの酸化物等の異物を含む欠陥(前述の如く通常のUT検査で見落とされた欠陥)が存在する場合においても、高炭素電縫鋼管では冷間加工中に電縫溶接部に割れを生じることがあった。
【0008】
これらの酸化物等の異物を含む欠陥が電縫溶接部に生じる原因としては、溶接条件の不良や、帯端面の疵、被電縫溶接部へのスパッタ粒や空中浮遊物の飛び込みなど、多岐にわたるため、これらについて、系統立った研究が行われておらず、前述のような定性的な溶接条件の管理が実施されてきたのみであった。
前記の従来報告されてきている定性的な対応方法で製造された電縫鋼管では、通常のUT検査で見落とされた微小な欠陥が製品に残存してしまうため、高炭素鋼の電縫溶接条件を確保すること、すなわち冷間加工時に割れが発生するのを完全に防止することは困難であるという課題があった。
【0009】
本発明は、上述の事情に鑑み、電縫溶接部の割れ起点となる酸化物等を含んだ欠陥に着目し、管の全長にわたってその面積率を規定することにより、冷間加工性を向上させた高炭素電縫鋼管及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するためになされた本発明は以下のとおりである。
(1)質量%で、C:0.3〜0.8%、Si:2%以下、Mn:3%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する高炭素電縫鋼管であって、電縫溶接部の全長にわたり欠陥面積率が10%以下であることを特徴とする、電縫溶接部の機械的特性に優れる高炭素電縫鋼管。
【0011】
(2)前記欠陥面積率は、アレイ探触子を用いた超音波集束ビームによるタンデム探傷法であるアレイUTによるエコー高さから求めたものであることを特徴とする(1)に記載の電縫溶接部の機械的特性に優れる高炭素電縫鋼管。
(3)前記高炭素電縫鋼管は、電縫溶接後の熱間状態の電縫溶接部の輝度低下部分を輝度センサで判定し、該判定した輝度低下部分を切断除去して製造されたことを特徴とする(1)または(2)に記載の高炭素電縫鋼管。
【0012】
(4)質量%で、Al:0.10%以下を含むことを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1つに記載の高炭素電縫鋼管。
(5)質量%で、Cr:2%以下、Mo:2%以下、W:2%以下、Ni:2%以下、Cu:2%以下、B:0.01%以下のいずれか1種または2種以上を含むことを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1つに記載の高炭素電縫鋼管。
【0013】
(6)質量%で、Ti:1%以下、Nb:1%以下、V:1%以下のいずれか1種または2種以上を含むことを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1つに記載の高炭素電縫鋼管。
(7)質量%で、C:0.3〜0.8%、Si:2%以下、Mn:3%以下を含み、或いは更に下記A群、B群、C群のうちのいずれか1群又は2群以上を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼帯を管形状にロール成形して帯幅両端同士を衝合させてなる被電縫溶接部を電縫溶接して鋼管となし、該鋼管の前記電縫溶接後の輝度低下部分を輝度センサで判定し、該判定した輝度低下部分を切断除去することを特徴とする、電縫溶接部の機械的特性に優れる高炭素電縫鋼管の製造方法。

A群…Al:0.10%以下
B群…Cr:2%以下、Mo:2%以下、W:2%以下、Ni:2%以下、Cu:2%以下、B:0.01%以下のいずれか1種または2種以上
C群…Ti:1%以下、Nb:1%以下、V:1%以下のいずれか1種または2種以上
(8)前記判定した輝度低下部分を、アレイ探触子を用いた超音波集束ビームによるタンデム探傷法であるアレイUTによるエコー高さが60%超の電縫溶接部部分の切断除去の際に、同時に切断することを特徴とする(7)に記載の電縫溶接部の機械的特性に優れる高炭素電縫鋼管の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の高炭素電縫鋼管は、電縫溶接部の全長にわたり欠陥面積率が10%以下とされたものであるから、スウェージや拡管等の冷間加工時に電縫溶接部の割れが生じにくく、当該冷間加工の加工能率、加工歩留りの向上に大いに寄与するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】電縫溶接部の欠陥面積率と偏平値の関係を示すグラフ
【図2】アレイUTを用いて求めた高炭素鋼の電縫溶接部のエコー高さと、電縫溶接部の欠陥面積率の関係の1例を示すグラフ
【図3】アレイUTの原理を従来UTと比較して示す説明図
【図4】輝度センサによる電縫溶接部の監視状況の1例を示す模式図
【図5】輝度分布監視データの推移を示す模式図
【図6】欠陥面積率の定義説明図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは、高炭素鋼電縫鋼管の電縫溶接部の品質向上の観点から、電縫溶接部における酸化物等の異物を含んだ欠陥の分布状態を種々変化させ、素材としての鋼帯の組成も同様に変更した電縫鋼管を実験的に作製した。作製した電縫鋼管の電縫溶接部から試験片を採取し、偏平値を評価すると共に、電縫溶接部に存在する欠陥の分散状態を詳細に調査した。その結果、電縫溶接部における欠陥の分散状態が、欠陥の存在面積率(すなわち欠陥面積率)にして10%以下となる分散状態とされること、及び、組成の最適化が達成されることにより、優れた電縫溶接部特性を実現することを見出した。
【0017】
さらに、アレイUTを用いて、高炭素鋼の電縫溶接部のエコー高さについて詳細に調査した結果、該エコー高さは欠陥面積率と良好な相関関係を示すこと、よって該エコー高さを用いて電縫溶接部の欠陥面積率が10%超となっている管長さ部分を特定し、該特定された管長さ部分を排除して、電縫溶接部の全長にわたり欠陥面積率が10%以下である電縫鋼管が得られることを見出した。
【0018】
図1は、電縫溶接部の欠陥面積率と偏平値の関係を示すグラフである。
ここで、欠陥面積率とは、図6に示すような、衝撃破壊試験による破面20中の、劈開もしくは擬劈開領域22以外のディンプル領域23のうち、ディンプルの内側に酸化物等の異物21を含む部分(斜線部分)の面積率を意味する。この欠陥面積率は、次の方法M1にて求めた。(方法M1:)電縫溶接部(被溶接部が溶接結合したその結合界面であり管周方向にほぼ直交している)が破面となるようにノッチを設けたシャルピー試験により脆性破面率(肉眼判定)が100%になる試験温度域の上限付近の温度で破断させてなる破面を、走査電子顕微鏡(SEM)で、倍率500倍以上で少なくとも10視野観察し、破面内のディンプル領域から酸化物等の異物を含んだディンプルを選別してその総面積を測定し、これの、視野総面積に対する百分率を欠陥面積率とした。
【0019】
また、偏平値は次の方法M2にて求めた。(方法M2:)電縫溶接部の90°偏平試験(例えばJIS G3445に規定されるへん平試験(環状試験片の場合)に準拠した試験であり、電縫溶接部を通る管直径線が偏平方向に対して90°になるように管を配置して試験する)を行い、“偏平にして電縫溶接部に割れが生じたときの偏平方向の管外径/偏平にする前の管外径”なる比を偏平値とした。
【0020】
図1に示すように、欠陥面積率が増加するに伴い、偏平値は増加した。
電縫溶接部に存在する酸化物等の異物は、通常数十μm以下の微小なものが多い。このような酸化物等の異物を含んだ欠陥の存在面積率(欠陥面積率)が小さい場合には、欠陥の周囲の鋼は十分に接合されており、欠陥を起点とした割れは伝播しがたく、冷間加工性は低下しない。しかし、欠陥面積率が増加するに伴い、欠陥の周辺にも別の欠陥が存在するようになるため、冷間加工中に欠陥を起点にした亀裂が伝播しやすくなり、割れを生じやすい。
【0021】
図1に示すように、電縫溶接部において欠陥面積率を10%以下にすれば、偏平値は0.5以下となり、十分な冷間加工性を有することから、本発明では、電縫溶接部の全長にわたり欠陥面積率が10%以下であることに限定した。
次に、本発明に係る組成限定理由について説明する。以下、質量%は単に%と記す。
C:0.3〜0.8%
Cは、焼入れ硬さを高め、疲労強度を向上させるために必要な元素であるが、0.3%未満では、十分な焼入れ硬さが得られず、また疲労強度も低い。一方、0.8%を超えて含有しても、焼入れ硬さが飽和し、冷間加工性が低下する。このため、本発明ではC含有量は0.3〜0.8%の範囲に限定した。
【0022】
Si:2%以下
Siは、パーライト変態を抑制して焼入れ性を高めるために有効な元素であるが、2%を超えて含有すると、焼入れ性の向上効果が飽和し、冷間加工性が低下する。よって、本発明ではSi含有量は2%以下に限定した。
Mn:3%以下
Mnは、オーステナイトからフェライトへの変態温度を低下して焼入れ性を向上させるために有効な元素であるが、3%を超えて含有しても、焼入れ性の向上効果が飽和し、冷間加工性が低下する。よって、本発明では、Mn含有量は3%以下に限定した。
【0023】
Al:0.10%以下
Alは、脱酸剤として作用する元素であり、必要に応じ含有されるが、0.10%を超える含有は酸化物系介在物が増加し、表面性状を劣化させる。このため、Al含有量は0.10%以下に限定するのが好ましい。
Cr:2%以下、Mo:2%以下、W:2%以下、Ni:2%以下、Cu:2%以下、B:0.01%以下の1種または2種以上
Cr、Mo、W、Ni、Cu、Bはいずれも、焼入れ性を高める元素であり、必要に応じ選択して1種または2種以上含有できる。
【0024】
Crは、焼入れ性を高めるために有効な元素であるが、2%を超えて含有すると、焼入れ性の向上効果が飽和し含有量に見合う効果が期待できず経済的に不利となるうえ、冷間加工性が低下する。さらに、Crはセメンタイトに分配され、高周波焼入れ時のセメンタイトの溶解速度を低下させる効果がある。よって、本発明ではCr含有量は2%以下に限定するのが好ましく、さらに好ましくは0.1%未満である。
【0025】
Moは、焼入れ性を高めるために有効な元素であるが、2%を超えて含有すると、焼入れ性の向上効果が飽和し含有量に見合う効果が期待できず経済的に不利となるうえ、冷間加工性が低下する。よって、本発明では、Mo含有量は2%以下に限定するのが好ましい。
Wは、焼入れ性を高めるために有効な元素であるが、2%を超えて含有すると、焼入れ性の向上効果が飽和し含有量に見合う効果が期待できず経済的に不利となるうえ、冷間加工性が低下する。よって、本発明では、W含有量は2%以下に限定するのが好ましい。
【0026】
Niは、焼入れ性を高めるために有効な元素であり、かつ、靱性を向上させる効果も有する。しかし、2%を超えて含有すると、これらの効果は飽和し含有量に見合う効果が期待できず経済的に不利となるうえ、冷間加工性が低下する。よって、本発明では、Ni含有量は2%以下に限定するのが好ましい。
Cuは、焼入れ性を高めるために有効な元素であり、かつ、靱性を向上させる効果も有する。しかし、2%を超えて含有すると、これらの効果は飽和し含有量に見合う効果が期待できず経済的に不利となるうえ、冷間加工性が低下する。よって、本発明では、Cu含有量は2%以下に限定するのが好ましい。
【0027】
Bは、焼入れ性を高めるために有効な元素であり、かつ、粒界を強化して焼割れを防止する効果も有する。しかし、0.01%を超えて含有すると、これらの効果は飽和し、含有量に見合う効果が期待できず経済的に不利となる。よって、本発明では、B含有量は0.01%以下に限定するのが好ましい。
Ti:1%以下、Nb:1%以下、V:1%以下の1種または2種以上
Ti、Nb、Vはいずれも、炭化物、窒化物を形成し、電縫溶接部や熱処理時の結晶粒の粗大化を抑制、靱性を向上させる有効な元素であり、必要に応じ選択して含有できる。
【0028】
Tiは、Nを固定して、焼入れ性に有効な固溶Bを確保する作用や、微細な炭化物を生成して電縫溶接部や熱処理時の結晶粒の粗大化を抑制、靱性を向上させるために有効な元素である。しかし、1%を超えて含有しても、これらの効果は飽和して含有量に見合う効果が期待できず経済的に不利となる。よって、本発明では、Ti含有量は1%以下に限定するのが好ましい。
【0029】
Nbは、電縫溶接部や熱処理時の結晶粒の粗大化を抑制、靱性を向上させるために有効な元素である。しかし、1%を超えて含有しても、これらの効果は飽和して含有量に見合う効果が期待できず経済的に不利となる。よって、本発明では、Nb含有量は1%以下に限定するのが好ましい。
Vは、微細な炭化物を生成して電縫溶接部や熱処理時の結晶粒の粗大化を抑制、靱性を向上させるために有効な元素である。しかし、1%を超えて含有しても、これらの効果は飽和して含有量に見合う効果が期待できず経済的に不利となる。よって、本発明では、V含有量は1%以下に限定するのが好ましい。
【0030】
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。
次に、アレイUTを用いて求めた高炭素鋼の電縫溶接部のエコー高さと、電縫溶接部の欠陥面積率の関係の1例を図2にグラフで示す。エコー高さは、φ1.6mmのドリルホールを探傷した場合のエコー高さを基準(80%)とした相対値で表した。図2より、電縫溶接部の欠陥面積率が増加するに伴い、アレイUTによるエコー高さは増加する。図2において、アレイUTによるエコー高さが60%以下であれば、電縫溶接部の欠陥面積率は10%以下となり、結果として、電縫溶接部の機械的特性は良好になる。
【0031】
図3は、アレイUTの原理を従来UTと比較して示す説明図である。アレイUTを用いることで、検出可能な欠陥サイズ範囲が、従来UTの0.5〜1.0mm程度に比べ、250μm以下と格段に微細な範囲にまで拡大する。
なお、欠陥面積率と相関づけられるエコー高さは、電縫溶接部から切り出したサンプルの超音波Cスキャン(超音波の正面像を画像として検出することの意)によっても測定可能であるが、アレイUTを用いることによりサンプルを切り出す必要なく管の全長にわたって測定が可能である。
【0032】
図3に例示したアレイUT装置11は、管体(管8)の溶接部14の溶接面に対して超音波を入射(送信)する送波部と、溶接面で反射した反射波の一部または全部を受信する受波部とを有し、前記送波部及び受波部が、管体周方向に配置された一又は二以上の探傷用アレイ探触子上の異なる振動子群からなる送受信部を備えた超音波探傷装置であり、超音波の点集束する溶接面内位置でのビームサイズ(ビーム幅)の好適範囲は0.5〜2.5mmであり、あるいはさらに、ビーム幅が前記好適範囲に維持されるように、各送波に用いる超音波の開口幅を制御する制御部を備える(特許文献2の請求項1乃至2に記載の発明に相当;便宜上、AUT1と称する)。
【0033】
なお、図2のエコー高さは、前記AUT1を用い、超音波の周波数10MHz、ビームサイズ1mmの条件で測定された。
また、さらに好適な形態のアレイUT装置としては、前記AUT1において、前記送波部は、管体の管軸方向溶接部の溶接面と前記管体の内面に対し、それぞれ33.2°〜56.8°の範囲内の角度で超音波を入射し、前記受波部は、前記溶接面における正反射方向に対して-12°〜16°すなわち、の範囲内の方向に反射した一部又は全部の反射波を受波し、前記制御部は、前記アレイ探触子上で前記送波部及び前記受波部に対応する振動子群を変更する、又は前記アレイ探触子の角度を変更するように制御して、超音波を前記管体の厚さ方向に走査するとともに、前記溶接面と前記内面への入射角度及び前記溶接面での反射波の角度が前記それぞれの範囲に維持されるように、各送波及び受波における管体に対する超音波の入射角を制御するようにしたもの(特許文献2の請求項5に記載の発明に相当;便宜上AUT2と称する)が挙げられる。
【0034】
前記AUT1さらには前記AUT2などを用いたアレイUTにより、欠陥径は微小であるが、広い領域に分散している形態の散在型欠陥を検出できるようになるため、電縫鋼管等溶接鋼管の溶接部の機械的特性に影響を及ぼす微小欠陥が発生しないように溶接プロセスを改善したり、微小欠陥を含む管が流出しないように製造工程で選別できるようになり、溶接鋼管の品質を飛躍的に高めることができ、従来以上に過酷な使用条件で使用できるようになる(特許文献2の[0046]参照)。
【0035】
さらに、高炭素電縫鋼管の製造時に、電縫溶接後の熱間状態の電縫溶接部の輝度低下部分を輝度センサで判定し、該判定した輝度低下部分を、アレイUTによるエコー高さが60%超の電縫溶接部部分の切断除去の際に、同時に切断除去することにより、電縫溶接部特性に優れる高炭素電縫鋼管をより確実に提供することができる。その根拠として次の調査結果がある。すなわち、長さ1000mの高炭素電縫鋼管について、管の全長にわたり電縫溶接部の欠陥を調査した結果、アレイUTによるエコー高さは全長にわたって60%以下を示したのであるが、電縫溶接部の欠陥面積率が10%を超える箇所は、輝度センサによる判定を実施しなかった場合は7箇所存在したのに対し、輝度センサによる輝度低下部の判定および該判定した輝度低下部の切断除去を実施した場合は全く存在しなかった。このように、輝度センサで輝度低下部を判定・切断除去することにより、顕著に欠陥面積率を低減することが可能となり、電縫溶接部の冷間加工性に優れた高炭素電縫鋼管をより確実に提供することができる。
【0036】
なお、輝度センサによる電縫溶接部の監視状況の1例を図4に示す。輝度センサ10は輝度カメラとも呼ばれ、溶接点13からビード切削機6までの間の電縫溶接部14の外面側長手方向を横切るように設けた監視領域12を撮影し、該撮影した画面内の輝度分布を導出する機能を有している。このような輝度センサとしては、例えば市販のラインスキャンカメラなどが挙げられる。輝度センサ10の撮影コマごとの輝度情報(瞬時輝度)はPC(パソコン)等に取り込んで画像処理することで、図5に模式的に示すように、瞬時輝度の分布曲線に相当する画像信号の経時変化データとして監視することができる。そして、この監視される経時変化データから、粉塵やスパッタの稀な飛び込みや帯材(鋼帯)端部の微小な疵による溶接欠陥発生に対応するDS(ダークスポット)を検出(すなわち輝度低下部を判定)することができ、該DS検出時点情報を、通常用いられるトラッキング機能により、対応する造管長位置情報に変換して、前記溶接欠陥が発生した造管長位置を特定でき、その位置情報を造管工程の下流の精整工程に通知して、この溶接欠陥部を含む管長さ部分を製品管から確実に排除することができる。なお、図4において、1b,1cはV字状ギャップの縁部、iは高周波電流である。
【実施例】
【0037】
以下の実施例乃至比較例において、電縫鋼管は、鋼帯を冷間で管形状にロール成形して帯幅両端同士を衝合させてなる被電縫溶接部を電縫溶接することにより造管され、次いで、実施例又は比較例の各製造条件で処理されることで製造された。
(実施例1)
表1に示す組成を有する電縫鋼管(肉厚6.5mm、外径130mm)を造管し、次いで、製造条件のケース2[電縫溶接部のアレイUT(前記AUT1を用いて管全長にわたり探傷した)によるエコー高さが60%超であった箇所を切断除去する]で処理して製品管とした。
【0038】
得られた製品管(この管は、全長で前記エコー高さが60%以下である)から試験片を採取し、前述の方法M2にて偏平値を求めるとともに、前述の方法M1にて電縫溶接部の欠陥面積率を測定した。その結果を表2に示す。表2より、これら実施例1では、電縫溶接部の欠陥面積率が10%以下であり、偏平値が低くて電縫溶接部の冷間加工性が十分良好である。
(実施例2)
表1に示す組成を有する電縫鋼管(肉厚8.5mm、外径150mm)を造管し、次いで、製造条件のケース3[電縫溶接部のアレイUT(前記AUT1を用いて管全長にわたり探傷した)によるエコー高さが60%超であった箇所を切断除去し、かつ、輝度センサにより輝度低下部分であると判定した電縫溶接部箇所をも切断除去する] で処理して製品管とした。
【0039】
得られた製品管(この管は、全長で前記エコー高さが60%以下であり、かつ電縫溶接部に輝度低下部分は存在しない)から試験片を採取し、前述の方法M2にて偏平値を求めるとともに、前述の方法M1にて電縫溶接部の欠陥面積率を測定した。その結果を表2に示す。表2より、これら実施例2では、電縫溶接部の欠陥面積率が実施例1の場合よりも低く、かつ偏平値が実施例1の場合よりも低くて電縫溶接部の冷間加工性が実施例1の場合よりもさらに良好である。
(比較例)
表1に示す組成、肉厚を有する電縫鋼管(肉厚7.5mm、外径90mm)を造管し、次いで、製造条件のケース1[電縫溶接部のアレイUT(前記AUT1を用いて管全長にわたり探傷した)によるエコー高さが60%超であった箇所を含む管とする]で処理して製品管とした。
【0040】
得られた製品管の前記箇所(エコー高さが60%超の箇所)から試験片を採取し、前述の方法M2にて偏平値を求めるとともに、前述の方法M1にて電縫溶接部の欠陥面積率を測定した。その結果を表2に示す。表2より、これら比較例では、欠陥面積率が10%を上回り、偏平値が高くて電縫溶接部の冷間加工性が不十分である。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【符号の説明】
【0043】
4 高周波加熱装置
5 スクイズロール
6 ビード切削機
8 管(高炭素電縫鋼管)
10 輝度センサ
11 アレイUT装置(アレイ探触子を用いた超音波集束ビームによるタンデム探傷法を実行する装置)
12 監視領域
13 溶接点(被電縫溶接部が溶接結合する点)
14 電縫溶接部
15 アレイ探触子
20 衝撃破壊試験による破面
21 酸化物等の異物
22 劈開あるいは擬劈開領域
23 ディンプル領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.3〜0.8%、Si:2%以下、Mn:3%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する高炭素電縫鋼管であって、電縫溶接部の全長にわたり欠陥面積率が10%以下であることを特徴とする、電縫溶接部の機械的特性に優れる高炭素電縫鋼管。
【請求項2】
前記欠陥面積率は、アレイ探触子を用いた超音波集束ビームによるタンデム探傷法であるアレイUTによるエコー高さから求めたものであることを特徴とする請求項1に記載の電縫溶接部の機械的特性に優れる高炭素電縫鋼管。
【請求項3】
前記高炭素電縫鋼管は、電縫溶接後の熱間状態の電縫溶接部の輝度低下部分を輝度センサで判定し、該判定した輝度低下部分を切断除去して製造されたことを特徴とする請求項1または2に記載の高炭素電縫鋼管。
【請求項4】
質量%で、Al:0.10%以下を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の高炭素電縫鋼管。
【請求項5】
質量%で、Cr:2%以下、Mo:2%以下、W:2%以下、Ni:2%以下、Cu:2%以下、B:0.01%以下のいずれか1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の高炭素電縫鋼管。
【請求項6】
質量%で、Ti:1%以下、Nb:1%以下、V:1%以下のいずれか1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の高炭素電縫鋼管。
【請求項7】
質量%で、C:0.3〜0.8%、Si:2%以下、Mn:3%以下を含み、或いは更に下記A群、B群、C群のうちのいずれか1群又は2群以上を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼帯を管形状にロール成形して帯幅両端同士を衝合させてなる被電縫溶接部を電縫溶接して鋼管となし、該鋼管の前記電縫溶接後の輝度低下部分を輝度センサで判定し、該判定した輝度低下部分を切断除去することを特徴とする、電縫溶接部の機械的特性に優れる高炭素電縫鋼管の製造方法。

A群…Al:0.10%以下
B群…Cr:2%以下、Mo:2%以下、W:2%以下、Ni:2%以下、Cu:2%以下、B:0.01%以下のいずれか1種または2種以上
C群…Ti:1%以下、Nb:1%以下、V:1%以下のいずれか1種または2種以上
【請求項8】
前記判定した輝度低下部分を、アレイ探触子を用いた超音波集束ビームによるタンデム探傷法であるアレイUTによるエコー高さが60%超の電縫溶接部部分の切断除去の際に、同時に切断することを特徴とする請求項7に記載の電縫溶接部の機械的特性に優れる高炭素電縫鋼管の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−18153(P2012−18153A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233533(P2010−233533)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】