説明

高甘味度甘味料

【課題】ショ糖に対し100倍以上の甘味を有するヘスペレチンの水に対する溶解度を高めることにより経口摂取時の吸収性を高め、生物学的利用能の改善を図る包接化合物を提供する。
【解決手段】ヘスペレチンをアルカリ性水溶液に溶解させ、この溶液に、β−シクロデキストリンまたは/および分岐β−シクロデキストリンを加温溶解させた溶液を添加し、この混合液を硫酸水溶液で中和し、精密濾過後凍結乾燥することにより包接体の粉末を得る。この包接の際に、ヘスペレチン1モルに対しβ−シクロデキストリンまたは/および分岐β−シクロデキストリン1.5〜2.1モルの割合で用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食品に用いられる甘味料に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘスペレチンは、3',5,7−トリヒドロキシ−4'−メトキシフラバノンとも呼ばれ、下記構造式(1)に示される構造を有する。ヘスペレチンは、みかん、ダイダイ、ポンカンなど
の柑橘類に含まれるヘスペリジン(下記構造式(2)で表される化合物である。)のアグリ
コンであり、ヘスペリジンを酸または酵素により加水分解することで容易に得られる。また、ヘスペレチンは、多くの生理作用を有していることが知られており、コレステロール低減作用、中性脂肪の低下作用、抗炎症作用のほか、血管保護作用、抗腫瘍作用などが報告されている。
【0003】
【化1】

【0004】
しかしながら、ヘスペレチンは、原料を容易にかつ安価に入手し得るにもかかわらず、水に対する溶解性が低いことから、経口摂取時の吸収性が低く、生物学的利用能の改善が求められていた。そこで、ヘスペレチンの溶解性を改善するための試みが種々なされてきた。その手段として、ヘスペレチンをβ−シクロデキストリンに包接させることにより、ヘスペレチンの水への溶解性を向上させ、その結果として高い吸収性を付与する技術が開発されている。例えば、特許文献1(特開2006−182777号公報)には、血流改善、コレステロール低下、アレルギー症状改善、抗炎症などの医学的な観点における生理活性の付与を目的として、ヘスペレチンをβ−シクロデキストリン等に包接させた包接化合物を合成し、その包接化合物を健康食品および医薬品に用いている旨の記載が開示されている。
【0005】
しかしながら、ヘスペレチンをβ−シクロデキストリンに包接させて得られる包接体の甘味については、未だ報告がなされていない。
【特許文献1】特開2006−182777号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ヘスペレチンを飲食物への甘味付与に用いることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意研究の結果、ヘスペレチンをβ−シクロデキストリンまたは/および分岐β−シクロデキストリンに包接してなる包接体が強い甘味を示すことを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、以下の[1]〜[5]の事項に関する。
[1]ヘスペレチンをβ−シクロデキストリンまたは/および分岐β−シクロデキストリンに包接してなる包接体を有効成分とする高甘味度甘味料。
[2]ヘスペレチンの重量あたりショ糖に対して100倍以上の甘味を有することを特徴と
する、上記[1]に記載の高甘味度甘味料。
[3]前記包接の際に、ヘスペレチン1モルに対して前記β−シクロデキストリンまたは/および分岐β−シクロデキストリンが1〜2.1モルの割合で用いられることを特徴とする、上記[1]または[2]に記載の高甘味度甘味料。
[4]前記包接の際に、ヘスペレチン1モルに対して前記β−シクロデキストリンまたは/および分岐β−シクロデキストリンが1.5〜2.1モルの割合で用いられることを特徴とする、上記[1]または[2]に記載の高甘味度甘味料。
[5]上記[1]〜[4]のいずれかに記載の高甘味度甘味料を含むことを特徴とする飲食物。
[6]上記[1]〜[4]のいずれかに記載の高甘味度甘味料と、他の高甘味度甘味料または/および糖アルコールとを含むことを特徴とする飲食物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ヘスペレチンをβ−シクロデキストリンまたは/および分岐β−シクロデキストリンに包接してなる包接体を有効成分とする高甘味度甘味料が提供される。この包接体は、ショ糖と比較して高い甘味を有していることから、食品、医薬、飼料等の分野において、ショ糖を用いたときと同様の甘味を、少量の使用により発揮することができる。このため、この特長を生かして飲食物等におけるヘスペレチンの新たな用途の幅を広げることができるとともに、ヘスペレチンの利用価値をも高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明者は、ヘスペレチンをシクロデキストリンに包接させることにより得られる包接体が、ヘスペレチンの重量あたりショ糖の121倍の強さの甘味を示すことを見いだし、該包接体が食品、医薬、飼料等の分野において有効な甘味付与物質であることを発見した。
【0011】
以下、本発明にかかる高甘味度甘味料について詳細に説明する。
本発明の高甘味度甘味料においては、ヘスペレチンをβ−シクロデキストリンまたは/および分岐β−シクロデキストリンに包接してなる包接体が有効成分として含まれる。
【0012】
ここで、「包接する」とは、一方の化学種が有する1次元ないし3次元的な分子規模の空間に対して他方の化学種が寸法および形状につき適合するときに、該一方の化学種がその空間内に該他方の化学種を取り込むことをいう。また、包接化合物とは、分子錯体の一種であって、一方の化学種が他方の化学種を包接することにより生じる化合物をいう。本明細書においては、前記包接化合物を包接体と称する場合がある。ここで、空間を提供する化学種をホスト、包接される化学種をゲストという。
【0013】
また、本明細書において、「甘味料」とは、飲食物への甘味の付与をその主たる目的として飲食物に添加される化合物または組成物をいい、「高甘味度」とは、甘味を示す化合物または組成物について、その甘味の強さが、ショ糖の甘味の強さの10倍程度およびそれ以上であることを意味する。
【0014】
<ヘスペレチン>
本発明の高甘味度甘味料に用いられる包接体において、下記式(1)で表されるヘスペレ
チンがゲストとして用いられる。
【0015】
ヘスペレチンは、公知の手法に従って、下記式(2)で表されるヘスペリジンを酸または
酵素を用いて加水分解することにより容易に得ることができる。例えば、ヘスペリジンから酸分解によってヘスペレチンを得る方法の詳細は、例えば、Asahina Y.ら,
Flavanoneglucosides(V):Reduction of flavanone and flavonolderivatives,J.Pharm.Soc−Japan50:217−223(1931)および米国特許第4,150,038号公報に記載される。また、ヘスペレチンは、ヘスペリジンをヘスペリジナーゼまたはナリンギナーゼによって分解することにより得ることができるが、ヘスペリジンをラムノシダーゼおよびグルコシダーゼによって酵素分解することによっても得ることができる。
【0016】
【化2】

【0017】
ところで、ヘスペレチンは水への溶解性が低く、熱水に対する溶解性もわずかである。また、本発明者は、ヘスペレチン単体では人が辛うじて甘みを知覚できる程度の甘味を有するのみであり、熱水に溶解させた水溶液の状態においてもわずかな甘味を示すに留まるという知見を得ている。なお、本発明者は、ヘスペレチンの原料であるヘスペリジンについては甘味を示さず、また、ヘスペリジンをラムノシダーゼにより処理することにより得られるヘスペレチン−7−グルコシド(下記式(3))に至っては苦味を有するという知見
をも得ており、さらに、ヘスペリジンをシクロデキストリンと包接させた包接体については、甘みを示さないという知見をも得ている。
【0018】
【化3】

【0019】
<シクロデキストリン>
シクロデキストリンは、数分子のD−グルコースがα(1→4)グリコシド結合により環状構造をとる環状オリゴ糖である。シクロデキストリンは、穴の開いた円筒状の構造を有し、その表面には親水性側鎖(各グルコース単位における6位の水酸基)、空洞内には疎水性官能基が結合している。シクロデキストリンは、その空洞内部に種々の有機化合物を取り込み、複合体を形成することが既に知られている。シクロデキストリンのうち、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、およびγ−シクロデキストリンがよく知られており、これらのシクロデキストリンの環状構造は、それぞれ、6個、7個、および8個のD−グルコピラノースからなる。ただし、本発明の高甘味度甘味料に用いられる包接体においては、ヘスペレチンを最も効率的に包接することができることから、これら3つのシクロデキストリンのうちβ−シクロデキストリンがホストとして用いられる。
【0020】
本発明で用いられるβ−シクロデキストリンは、下記構造式(4)に示される構造を有す
る。
【0021】
【化4】

【0022】
β−シクロデキストリンは、デンプンにシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼを作用させることにより得ることができる。β−シクロデキストリンの製造方法は、例えば、食品微生物学ハンドブック(好井久雄ら編、技報堂出版、1995発行)の294〜295頁に記載される。なお、β−シクロデキストリン単体の水への溶解性は1.9g/100
mLに留まる。
【0023】
分岐β−シクロデキストリンは、β−シクロデキストリンを構成するD−グルコピラノース単位のうち1以上の単位に、単糖からなる残基または2以上の糖から構成されるオリゴ糖からなる残基がそれぞれ側鎖として連結したβ−シクロデキストリンをいう。
【0024】
本発明で用いる分岐β−シクロデキストリンにおいては、その包接能力を維持しかつ構造的に可能である限り、結合する残基は、β−シクロデキストリンの任意の位置に連結し得るが、好ましくは、β−シクロデキストリンの6位に連結する。また、β−シクロデキストリンの包接能力を維持しかつ構造的に可能である限り、結合する残基は、β−シクロデキストリンの1箇所または2箇所以上に連結し得るが、好ましくは、1箇所に連結する。β−シクロデキストリンに連結する複数の残基からなる鎖は、直鎖状であってもよく、分岐していてもよい。本発明で用いる分岐β−シクロデキストリンの例として、β−シクロデキストリンとマルトースとがα−(1→6)グリコシド結合により連結したマルトシルβ−シクロデキストリン、β−シクロデキストリンとグルコースとがα−(1→6)グリコシド結合により連結したグルコシルβ−シクロデキストリンなどが挙げられる。
【0025】
分岐β−シクロデキストリンは、例えば、β−シクロデキストリンとオリゴ糖とに、プルラナーゼ、イソアミラーゼなどの枝切り酵素を作用させ、次いで該オリゴ糖をシクロデキストリンに連結させることにより製造することができる。例えば、食品微生物学ハンドブック(好井久雄ら編、技報堂出版、1995発行)の295〜297頁には、マルトシルβ−シクロデキストリンおよびグルコシルβ−シクロデキストリンの製法が記載されている。その文献中で、マルトシルβ−シクロデキストリンは、β−シクロデキストリンとマルトースにプルナラーゼを作用させることにより得ることができ、また、グルコシルβ−シクロデキストリンは、このマルトシルβ−シクロデキストリンにグルコアミラーゼを作用させることにより得ることができることが記載されている。その他、分岐β−シクロデキストリンの製造方法は、例えば、特開平6−14789号公報に記載される。
【0026】
なお、本発明者は、β−シクロデキストリン単体については、わずかな甘みを有しているという知見を得ている。
<包接体>
本発明の高甘味度甘味料は、ヘスペレチンをβ−シクロデキストリンまたは/および分岐β−シクロデキストリンに包接させることにより得られる包接体を有効成分とする。この包接体を形成するために要するヘスペレチンと上記シクロデキストリンとのモル比は、理論上は1対1であるが、未包接のヘスペレチンが残存しないよう、実際の合成上はシクロデキストリンを過剰に用いる必要がある。ただし、ヘスペレチンに対して上記シクロデキストリンを包接のために必要な量以上使用すると、過剰なシクロデキストリンにより包接体が稀釈される結果となり、甘味はかえって低下する。したがって、本発明においては、ヘスペレチンと上記シクロデキストリンとの包接体を形成するにあたり、ヘスペレチン1モルに対して、上記シクロデキストリンを好ましくは1〜2.1モルの割合、より好ましくは1.5〜2.1モルの割合で用いられる。
【0027】
また、本発明においては、分岐β−シクロデキストリンを、β−シクロデキストリンに代えて1種単独で、または、β−シクロデキストリンと併用して用いることができる。分岐シクロデキストリンはシクロデキストリンよりも更に高い水溶性を示す。したがって、分岐β−シクロデキストリンをβ−シクロデキストリンに代えて1種単独で、またはβ−シクロデキストリンと併用して用いる場合には、β−シクロデキストリンを1種単独で用いる場合と比較して、より高い濃度の水溶液にてヘスペレチンとの包接を行なうことができる利点がある。ただし、水への溶解性と経済性とのバランスの観点からは、分岐β−シクロデキストリンをβ−シクロデキストリンと併用して用いることが好ましい。この場合
、分岐β−シクロデキストリンとβ−シクロデキストリンとは、飲食物の性質等に応じて任意の割合で用いることができるが、ヘスペレチンとの量比においては、ヘスペレチン1モルに対して、これらのシクロデキストリンのモル量の合計として好ましくは1〜2.1モルの割合、より好ましくは1.5〜2.1モルの割合で用いられる。
【0028】
包接体が形成されたか否かについては、NMR、FT-IR、示差走査熱量測定、X線回折等、当該分野で公知の方法により確認され得る。なお、ヘスペレチン、β−シクロデキストリン、並びにヘスペレチンおよびβ−シクロデキストリンからなる包接体の1H NMR等のデータは、R.Ficarraら,J.Pharm.Biomed.Anal. 29 (2002) 1005−1014に記載されている。
【0029】
本発明において用いられる包接体は、例えば、以下の手順により合成されうる。
ヘスペレチンの塩基性懸濁液または塩基性水溶液と、β−シクロデキストリンおよび/または分岐β−シクロデキストリンの酸性水溶液とを少しずつ混合して中和させると、この中和溶液中で包接体が形成される。ここで、ヘスペレチンを塩基性の懸濁液または水溶液とする理由は、ヘスペレチンの水に対する溶解性が向上するからである。従って、ヘスペレチンの懸濁液または水溶液を塩基性にすることが好ましく、pHを10〜12にすることがより好ましく、10〜11にすることが最も好ましい。ヘスペレチンの懸濁液または水溶液を塩基性にするために用いられる塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなどが例示されるが、得られるヘスペレチン包接体を飲食物用途に用いることから、食品添加物として用いられ得る塩基であることが好ましい。ここで、これらの塩基を1種単独で用いてもよく、2種以上の塩基を混合して用いてもよい。一方、β−シクロデキストリンおよび/または分岐β−シクロデキストリンを前記ヘスペレチンの懸濁液または水溶液に加える際、中和に用いられる酸としては、硫酸などが例示される。中和に用いられるこれらの酸は、β−シクロデキストリン等と共に加えてもよく、また、ヘスペレチンとβ−シクロデキストリン等との混合の後に加えてもよい。また、この中和においては、酸を加える代わりに陽イオン交換樹脂を用いてもよい。
【0030】
混合は、任意の温度で行なうことができる。ただし、包接に用いるシクロデキストリンとしてβ−シクロデキストリンを用いる場合、β−シクロデキストリンの溶解性を高めることにより包接を充分に行なう観点から、混合に用いられるβ−シクロデキストリンの水溶液を例えば50〜80℃に予め加熱しておくことが好ましい。一方、ヘスペレチンを含む水溶液については、β−シクロデキストリンを加えてから加熱を行なうことが好ましい。なお、このヘスペレチンとβ−シクロデキストリンおよび/または分岐β−シクロデキストリンとの混合液を、必要に応じて、高温下(例えば50〜80℃、好ましくは50〜60℃)で任意の時間(例えば0.1〜6時間、好ましくは0.1〜1時間)保持してもよい。
【0031】
また、ヘスペレチンとβ−シクロデキストリン等との包接にあたっては、ヘスペレチンをエタノール等の有機溶媒に溶解させた後、この溶液にβ−シクロデキストリン等の水溶液を加えつつ混合することにより行なってもよい。この場合には、水溶液のみにより包接を行なう場合と異なり、中和反応に伴い生成する塩類が生成しないことから、ヘスペレチンとβ−シクロデキストリン等との包接体をより多くの割合で含む組成物を得ることができる。さらに、ヘスペレチンとβ−シクロデキストリンとを高温・高圧の超臨界ないし亜臨界条件下の水溶液中で溶解させることによっても包接体を作ることができる。
【0032】
以上の手順により、ヘスペレチンとβ−シクロデキストリン等との包接体を含む組成物が得られる。本組成物を公知の精製手段により精製することにより該包接体を単離して本発明の高甘味度甘味料として用いてもよいが、本組成物を精製することなくそのまま本発明の高甘味度甘味料として用いても差し支えない。
【0033】
本発明の高甘味度甘味料は、他の甘味料と併用することなくそのまま飲食物への甘味の付与に用いることができるし、スクラロース、アセスルファムK、アスパルテーム、グリチルリチン、ステビア抽出物、酵素処理ステビアなどの他の高甘味度甘味料、または/および、糖アルコールなどの甘味料と併用して用いることもできる。
【0034】
本発明の高甘味度甘味料の甘味の強さとしては、該甘味料に含まれるヘスペレチンの重量あたり、ショ糖に対して100倍以上の甘味を有することが好ましい。ここで、甘味の強
さを定量する手段としては、例えば、人による官能試験が挙げられる。本発明においては、異なる数段階の濃度を有するショ糖水溶液を対照溶液として用意しておき、ある濃度の試料水溶液とそれぞれの濃度のショ糖水溶液との甘味の強さを比較し、その試料水溶液の甘味の強さがどの濃度のショ糖水溶液の有する甘味の強さに最も近いかを、人の味覚を基準として判定する。ここで、ある濃度の試料水溶液がその濃度のn倍の濃度のショ糖水溶液と同じ甘味の強さを示すときには、その試料はショ糖のn倍の甘味の強さを有すると判断される。
【0035】
<飲食物>
本発明の高甘味度甘味料は、食品への甘味付与を目的として、飲食物に好ましく添加することができる。例えば、レモンティー、オレンジジュース、野菜ジュース等の飲料に用いることができる。また、食品についても、例えば、ゼリー、プリン、グミキャンデイーなどの菓子類、アイスクリーム、シャーベットなどの冷菓、イカ、貝、小魚などを用いた珍味、ヨーグルト、練乳、コーヒーフレッシュなどの乳加工品、リキュール類などに用いることができる。
【0036】
本発明の高甘味度甘味料は、他の高甘味度甘味料または/および糖アルコールとともに併用して用いることができる。ここで、本発明の高甘味度甘味料と併用して用いることができる他の高甘味度甘味料の例としては、スクラロース、アスパルテーム、グリチルリチン、ステビア抽出物、酵素処理ステビア、羅漢果抽出物などが挙げられる。また、糖アルコールの例としては、キシリトール、エリスリトール、ソルビトール、マルチトール、パラチニットなどが挙げられる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
[実施例1(β−シクロデキストリンの量の決定)]
ヘスペレチン0.04gを水100mLに分散させ、2N水酸化ナトリウム水溶液を加えて溶解させた水溶液を、6試験区準備した。一方、β−シクロデキストリン0.04g(1/1)、0.08g(1/2)、0.16g(1/4)、0.24g(1/6)、0.32g(1/8)、0.48g(1/12)をそれぞれ50mLの水に加温溶解させ、前記ヘスペレチン水溶液に添加し、約30分間混合した。その後、2N
硫酸で中和し、200mLに定容した各溶液を順にA、B、C、D、E、Fとした。これらA〜Fの溶液においては、ヘスペレチンに対して、添加したβ−シクロデキストリンのモル比がそれぞれ0.26、0.53、1.1、1.6、2.1、3.2に相当する。
【0038】
上記A〜Fの溶液について、甘味の強さを10名のパネラーにより比較し、評価したところ、E=F>D>C>B>Aとなった。
以上の結果から、ヘスペレチンに対してβ−シクロデキストリンを混合する割合を増やすことにより、甘味の強さも増えることがわかった。ヘスペレチンに対してβ−シクロデキストリンを8倍以上添加することで甘味の強さが最高に達することから、ヘスペレチン
/β−シクロデキストリン=1/8 を本発明品とした。
[実施例2(合成例)]
ヘスペレチン1gを水100mLに分散させ、2N水酸化ナトリウム水溶液を加えて溶解させた
。一方、β−シクロデキストリン8gを水50mLに加熱溶解させ、前記ヘスペレチンの水溶液に添加し、混合した。本混合液を2N硫酸水溶液にて中和し、精密濾過後凍結乾燥したところ、包接体を含む組成物が粉末として得られた。なお、本粉末には、水分が3〜8%程度含まれていた。
【0039】
この組成物を高速液体クロマトグラフィー(以下HPLC)により分析したところ、固形分あたりヘスペレチンを12%含有していることが確認された。
<呈味試験>
[実施例3(甘味度試験)]
本発明品の0.075〜0.25%水溶液からなる数種類の濃度の試料溶液について、2%濃度ショ糖水溶液を標準溶液として、10名のパネラーにより甘味度の比較を行った。そして、各パネラーにより前記2%濃度ショ糖水溶液と同等の甘味を示すと選択された試料溶液の濃度をもとに、本発明品の甘味度を算出した。なお、甘味度は、下記式(A)により算出した。
【0040】
その結果を下記表1に示す。
【0041】
【数1】

【0042】
【表1】

【0043】
本発明品は、0.17%溶液で2%ショ糖水溶液と同等の甘味を示す結果となった。このこと
から、本発明品は、固形分あたりショ糖の12.9倍の甘味度を有することが分かった。さらに本発明品中のヘスペレチン含量をHPLC分析により求め、ヘスペレチンあたりの甘味度に換算すると、ショ糖の121倍相当の甘味度となった。
[実施例4(高甘味度甘味料との併用)]
本実施例においては、本発明品を市販されている高甘味度甘味料と併用した場合における甘味の評価を行った。
【0044】
高甘味度甘味料として、スクラロース(Tate&Lale社製)の水溶液を、4%ショ糖水溶液と
同等の甘味を示すように調製した。次いで実施例1で得られた本発明品を1%ショ糖水溶液と同等の甘味を示すように前記スクラロース水溶液に添加し、混合した。同様に、アセスルファムK(ニュートリノヴァ社製、商品名:サネット)、アスパルテーム(味の素社製、商品名:パルスイート)、グリチルリチン(丸善製薬社製、商品名:グリチミン)、ステビア抽
出物(東洋精糖製、商品名:ステビロース90)および酵素処理ステビア(東洋精糖製、商品名:αGスイートPX)、羅漢果抽出物(中国製)の各水溶液に本発明品を添加したものを調製
した。それらの水溶液について、10名のパネラーによる官能評価により甘味を評価した。なお、甘味度、甘味質ともそれぞれ本発明品無添加区と比較して評価した。
【0045】
その結果、表に示すように、すべての場合において甘味度が増加し、甘味質も同等もしくは良好となったことから、市販されている高甘味度甘味料と併用可能であることが確認できた。
【0046】
【表2】

【0047】
[実施例5(糖アルコールとの併用)]
本実施例においては、本発明品を糖アルコールと併用した場合における甘味の評価を行った。
【0048】
糖アルコールとして、キシリトールの水溶液を、4%ショ糖水溶液と同等の甘味を示すように調製した。次いで実施例1で得られた本発明品を1%ショ糖水溶液と同等の甘味を示すように前記スクラロース水溶液に添加し、混合した。同様に、エリスリトール、ソルビトール、マルチトール、パラチニットおよび還元麦芽糖各水溶液に本発明品を添加したものを調製した。それらの水溶液について、10名のパネラーによる官能評価により甘味を評価した。
【0049】
その結果、表に示すように、すべての場合において甘味度が増加し、甘味質も良好となったことから、糖アルコールと併用可能であることが確認できた。
【0050】
【表3】

【0051】
[実施例6(レモンティーの製造)]
表4に示す割合で、実施例1で用いられた本発明品を用いてレモンティーを調製し、10名のパネラーによる官能評価により呈味を評価した。その結果、紅茶およびレモンの風味や呈味を損なうことなく本発明品を使用できることが分かった。
【0052】
【表4】

【0053】
[実施例7(オレンジジュースの製造)]
表5に示す割合で、実施例1で用いられた本発明品を用いてオレンジジュースを調製し、10名のパネラーによる官能評価により呈味を評価した。その結果、オレンジジュースの風味や呈味を損なうことなく本発明品を使用できることが分かった。
【0054】
【表5】

【0055】
[実施例8(グレープフルーツジュースの製造)]
表6に示す配合で、実施例1で得られた本発明品を用いて、グレープフルーツジュースを調製し、10名のパネラーによる官能評価により呈味を評価した。その結果、グレープフルーツジュースの風味や呈味を損なうことなく使用できることがわかった。
【0056】
【表6】

【0057】
[実施例9(アップルジュースの製造)]
ヘスペレチン0.02gおよびβ−シクロデキストリン0.16gに7mlの水を加えて得られる混
合物を超臨界装置(実験装置は下記の通り)にポンプで送液し、さらに水を送液して設定圧力(20MPa)にまで加圧した。送液停止後、容器を160℃まで加温し10分間放置した後、容器を冷却した。その後、容器中の液を取り出し、0.45μmのメンブランフィルターで濾
過した。以下、この濾液を試料(以下、本試料)とした。本試料は、実施例1で得られたヘスペレチン包接体と同様のさわやかな甘味を有していた。
【0058】
(実験装置)
送液ポンプ :PU-2080
加熱炉 :電気炉BF-150
背圧制御弁 :BP-2080-M
温度計 :T1−2068−01 K型熱電対
装置制御 :データ処理:ChoromNAV
容器 :ハステロイC−276製 釜型 10ml
本試料を用いてアップルジュースを調製し、10名のパネラーによる官能評価により呈味を評価した。その結果、アップルジュースの風味や呈味を損なうことなく使用できるこ
とがわかった。
【0059】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘスペレチンをβ−シクロデキストリンまたは/および分岐β−シクロデキストリンに包接してなる包接体を有効成分とする高甘味度甘味料。
【請求項2】
ヘスペレチンの重量あたりショ糖に対して100倍以上の甘味を有することを特徴とする
請求項1に記載の高甘味度甘味料。
【請求項3】
前記包接の際に、ヘスペレチン1モルに対して前記β−シクロデキストリンまたは/および分岐β−シクロデキストリンが1〜2.1モルの割合で用いられることを特徴とする請求項1または2に記載の高甘味度甘味料。
【請求項4】
前記包接の際に、ヘスペレチン1モルに対して前記β−シクロデキストリンまたは/および分岐β−シクロデキストリンが1.5〜2.1モルの割合で用いられることを特徴とする請求項1または2に記載の高甘味度甘味料。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の高甘味度甘味料を含むことを特徴とする飲食物。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の高甘味度甘味料と、他の高甘味度甘味料または/および糖アルコールとを含むことを特徴とする飲食物。

【公開番号】特開2008−271836(P2008−271836A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−118532(P2007−118532)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(591061068)東洋精糖株式会社 (17)
【Fターム(参考)】