説明

高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体およびその製造方法

【課題】従来、切削工具などに用いられてきたダイヤモンド焼結体は、焼結助剤として鉄系金属元素を含むため、耐熱性に問題があった。また、鉄系金属を含まないダイヤモンド焼結体では、機械的強度が不足して、工具材料としては使用できず、導電性もないため、放電加工ができず、加工が困難であった。
【解決手段】非晶質もしくは微細なグラファイト型炭素材料のみを出発原料とし、ホウ素を添加して超高圧高温状態でダイヤモンドへの変換と焼結を同時に行い、耐熱性および機械的強度に優れ、さらに放電加工可能な導電性を有するダイヤモンド多結晶体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンドおよびその製造方法に関するもので、特に、切削バイトや、ドレッサー、ダイスなどの工具や、掘削ビットなどに用いられる高硬度・高強度で、耐熱性・耐酸化性に優れるダイヤモンド多結晶体とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−74766号公報
【特許文献2】特開平4−114966号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】F.P.Bundy J.Chem.Phys.,38 (1963)631−643
【非特許文献2】M.Wakatsuki et.al. Japan.J.Appl.Phys.,11(1972)578−590
【非特許文献3】S.Naka et.al. Nature 259(1976)38 従来の切削バイトや、ドレッサー、ダイスなどの工具や、掘削ビットなどに使われるダイヤモンド多結晶体には、焼結助剤あるいは結合剤としてCo、Ni、Feなどの鉄族金属や、SiCなどのセラミックスが用いられている。また、焼結助剤として炭酸塩を用いたものも知られている([特許文献1]、[特許文献2])。これらは、ダイヤモンドの粉末を焼結助剤や結合剤とともにダイヤモンドが熱力学的に安定な高圧高温条件下(通常、圧力5〜8GPa、温度1300〜2200℃)で焼結することにより得られる。一方、天然に産出するダイヤモンド多結晶体(カーボナードやバラス)も知られ、一部掘削ビットとして使用されているが、材質のバラツキが大きく、また産出量も少ないため、工業的にはあまり使用されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
Coなどの鉄系金属触媒を焼結助剤としたダイヤモンド多結晶体には、用いた焼結助剤が多結晶中に含まれ、これがダイヤモンドの黒鉛化を促す触媒として作用するため耐熱性に劣る。すなわち、不活性ガス雰囲気中でも700℃程度でダイヤモンドが黒鉛化してしまう。また、この焼結助剤とダイヤモンドの熱膨張差のため、多結晶体内に微細なクラックが入りやすい。さらにダイヤモンドの粒子間にCoなどの金属が連続層として存在するため、多結晶体の硬度や強度などの機械的特性が低下する。耐熱性を上げるために上記の粒界の金属を除去したものも知られており、これにより耐熱温度は約1200℃と向上するが、多結晶体が多孔質となるため強度がさらに大幅に低下する。SiCを結合体としたダイヤモンド焼結体は耐熱性には優れるが、ダイヤモンド粒同士には結合がないため、強度は低い。また、焼結助剤として炭酸塩を用いたダイヤモンド焼結体は、Co結合剤による焼結体に比べると耐熱性に優れるが、粒界に炭酸塩物質が存在するため、機械的特性は十分とはいえない。
【0006】
一方、ダイヤモンド製造方法として、黒鉛(グラファイト)やグラッシーカーボン、アモルファスカーボンなどの非ダイヤモンド炭素を超高圧高温下で、触媒や溶媒なしに直接的にダイヤモンドに変換させることが可能である。非ダイヤモンド相からダイヤモンド相へ直接変換すると同時に焼結させることでダイヤモンド単相の多結晶体が得られる。たとえば、[非特許文献1]や、[非特許文献2][非特許文献3]には、グラファイトを出発物質として14−18GPa、3000K以上の超高圧高温下の直接変換によりダイヤモンド多結晶体が得られることが開示されている。
【0007】
しかし、いずれの方法でも、14GPa、3000Kを超える超々高圧高温条件が必要で、製造コストが極めて高くなる。また、ダイヤモンド粒子径が不均一であるため、硬度や強度などの機械的特性が不十分である。それに加えて、この方法で得られるダイヤモンド多結晶体は絶縁体(抵抗率1013Ωcm)以上であるため、放電加工による機械加工が不可能で、加工コストが膨大になる問題があった。また、ダイヤモンドは空気中およそ700℃以上で酸化してしまうため、工具として用いた場合、特に刃先が高温となる過酷な条件で使用すると、酸化による摩耗や劣化により使用できなくなるという問題もある。
【0008】
本発明は、以上の従来の技術の問題点を解決するためになされたものであり、切削バイトや、ドレッサー、ダイスなどの工具や、掘削ビットとして適用できる、十分な強度、硬度、耐熱性、耐酸化性を有し、かつ、低コストの放電加工が可能な、高硬度で導電性のあるダイヤモンド多結晶体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記のような問題を解決するため、超高圧高温下で非ダイヤモンド炭素をダイヤモンドに直接変換させる方法において、非ダイヤモンド炭素に、ホウ素を含むグラファイトを不活性ガス中で、機械的に粉砕、均一混合して、数十nm以下の超微細もしくは非晶質状としたホウ素含有炭素物質を用いたところ、従来の焼結条件よりも圧力、温度が低い焼結条件においても、粒径数十nm以下の粒子が強固に結合し、かつ、導電性のある緻密なダイヤモンド多結晶体が得られることがわかった。また、ホウ素を固溶体として含む非晶質炭素やグラファイト型炭素、ダイヤモンド粉末を出発物質とすると、B4Cなどの非ダイヤモンド相が析出することなく、また、固溶したホウ素による触媒反応のため、従来の焼結条件よりも圧力、温度が低い焼結条件において、ダイヤモンド粒子が強固に結合し、かつ、導電性のある緻密なダイヤモンド多結晶体が得られることがわかった。
【0010】
そして、このダイヤモンド多結晶体は従来の多結晶体に比べはるかに高硬度で高強度で耐熱性および耐酸化性にも優れ、同時に放電加工が可能であることを見いだした。
【0011】
すなわち、本発明による高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体は、非晶質もしくは微細なグラファイト型炭素物質を出発物質として、超高圧高温下で焼結助剤や触媒の添加なしに直接的にダイヤモンドに変換焼結された、実質的にダイヤモンドのみからなる多結晶体であって、ダイヤモンドの最大粒径が100nm以下、平均粒径が50nm以下で、ダイヤモンド粒子内にホウ素を10ppm以上1000ppm以下含むことを特徴とする。ダイヤモンド粒子の粒径を上記範囲に制御することにより、硬度、強度の低下を防ぐことができる。また、ダイヤモンド粒子内のホウ素の濃度は、10ppmより少ないと、充分な導電性が得られず放電加工が困難になる。また、1000ppmを超えると、ダイヤモンド焼結体中にB4Cなどの非ダイヤモンド相が析出し、焼結体の機械的性質が低下する。上記の構成により、硬度、強度、耐熱性に優れ、同時に放電加工が可能なダイヤモンド焼結体を提供することができる。
【0012】
また、本発明による別の高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体は、ホウ素を固溶体として含む非晶質炭素やグラファイト型炭素、ダイヤモンド粉末を出発物質として、超高圧高温下で焼結助剤や触媒の添加なしに、直接的にダイヤモンドに変換焼結、もしくは直接焼結された、実質的にダイヤモンドのみからなる多結晶体であって、ダイヤモンドの最大粒径が10000nm以下、平均粒径が5000nm以下で、ダイヤモンド粒子内にホウ素を1000ppm以上100000ppm以下含むことを特徴とする。ダイヤモンド粒子の粒径を上記範囲に制御することにより、硬度、強度の低下を防ぐことができる。また、ダイヤモンド粒子内のホウ素の濃度は、1000ppmより少ないと、変換焼結のために必要な圧力温度条件が7.5GPa、2000℃以上と高くなり、また、耐酸化性の向上が期待できない。また、100000ppmを超えると、ダイヤモンド焼結体中にB4Cなどの非ダイヤモンド相が析出し、焼結体の機械的性質が低下する。上記の構成により、硬度、強度、耐熱性、耐酸化性に優れ、同時に放電加工が可能なダイヤモンド焼結体を提供することができる。
【0013】
本発明による高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体では、比抵抗を、10Ωcm以下とすることが好ましい。非抵抗が10Ωcm以下になると放電加工が効率的に行えるからである。
【0014】
本発明による高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体では、該焼結体を構成するダイヤモンドの最大粒径が50nm以下で、平均粒径が30nm以下であることが好ましい。ダイヤモンドの粒径をこれらの数値以下にすることで焼結体の強度を高めることができるからである。
【0015】
また、本発明による高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体では、その硬度が80GPa以上であることが好ましく、同硬度が110GPa以上であることがさらに好ましい。
【0016】
本発明による高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体の製造方法においては、ホウ素を含むグラファイトを不活性ガス中で、遊星ボールミル等で機械的に粉砕して非晶質もしくは微細なホウ素を含むグラファイト型炭素物質を作製し、これを、温度1500℃以上で、ダイヤモンドが熱力学的に安定である圧力条件下で、焼結助剤や触媒の添加なしに直接的にダイヤモンドに変換させると同時に焼結させることを特徴とする。この方法を用いることにより硬度、強度、耐熱性、耐酸化性を兼ね備え、放電加工が可能なダイヤモンド焼結体を製造することができる。
【0017】
本発明による高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体の製造方法においては、前記非晶質もしくは微細なホウ素を含むグラファイト型炭素物質の最大粒径が好ましくは100nm以下さらに好ましくは50nm以下とすることができる。
【0018】
同じく、本発明による高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体の製造方法においては、非晶質もしくは微細なホウ素を含むグラファイト型炭素物質のX線回折図形の(002)回折線の半値幅より求められる結晶子サイズを好ましくは50nm以下、さらに好ましくは10nm以下とすることができる。また、同回折線が認められない非晶質もしくは微細なホウ素を含むグラファイト型炭素物質を使用することも可能である。
【0019】
本発明による高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体では、実質的にダイヤモンドのみからなる多結晶体により構成され、ダイヤモンドの最大粒径が10000nm以下、平均粒径5000nm以下で、ダイヤモンド粒子内にホウ素を1000ppm以上100000ppm以下とするのが多結晶体の硬度、強度の点で好ましい。
【0020】
またダイヤモンドの比抵抗が1Ωcm以下であると放電加工をより容易に行えるので好ましい。
【0021】
上記のダイヤモンド多結晶体において、そのダイヤモンドの最大粒径1000nm以下で、平均粒径が500nm以下であるとより好ましい。
【0022】
また上記の高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体では硬度が80GPa以上であることが好ましく、更には110GPa以上であることが硬度、強度等の点から好ましい。
【0023】
本発明による高硬度導電性ダイヤモンド焼結体の製造方法においては、ホウ素を10ppm以上200000ppm以下含む炭素物質をダイヤモンドが熱力学的に安定である圧力条件下で、焼結助剤や触媒の添加なしに直接的にダイヤモンドに変換させると同時に焼結させることを特徴としている。この方法を用いることにより高硬度で高強度の緻密なダイヤモンド多結晶体を得ることができる。
【0024】
上記の製造方法でホウ素を含む炭素物質として、非晶質炭素を用いるのが一実施形態として好ましい。
【0025】
上記の製造方法でホウ素を含む炭素物質として、グラファイト型炭素を用いるのが他の実施形態として好ましい。
【0026】
上記の製造方法でホウ素を含む炭素物質として、グラファイト型炭素と炭化ホウ素からなるものを用いるのが更なる実施形態として好ましい。
【0027】
上記の製造方法でホウ素を含む炭素物質として、ダイヤモンド状炭素であり、焼結助剤や触媒の添加なしに焼結させる方法も好ましい。
【発明の効果】
【0028】
上記の構成により、機械的特性や熱的安定性、耐酸化性に優れ、かつ、放電加工が可能なレベルの導電性を有するダイヤモンド多結晶体を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
出発物質として、たとえば、ホウ素を添加したグラファイト粉末を用い、これを、遊星ボールミルなどの粉砕機で、アルゴンガスや窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気中にて、数時間粉砕混合処理して、最大粒径が100nm以下、好ましくは50nm以下に微粉砕する。この粉砕した微細なホウ素含有グラファイトの平均粒径は、X線回折図形の(002)回折線の半値幅より計算により求めると50nm以下、このましくは10nm以下である。さらには、X線回折図形に(002)回折線が認められないほど微細もしくは非晶質な状態のものであればより好ましい。たとえば100nmを超えるような粗大なグラファイト粒子があると、直接変換後のダイヤモンドも粗粒化し、組織が不均一となる(応力集中サイトが多くなって機械的強度が低下する)ため、好ましくない。
【0030】
以上のような粉砕工程を経て得られた非晶質もしくは微細なホウ素含有グラファイトを、高純度な不活性ガス雰囲気中で、MoやTaなどの金属カプセルに充填する。粉砕後の超微細ホウ素含有グラファイトは非常に活性であるため、これを大気中にさらすと容易にガスや水分が吸着し、ダイヤモンドへの変換、焼結を阻害するので、充填作業も常に高純度な不活性ガス中で行うべきである。次に、超高圧高温発生装置を用いて、温度1500℃以上で、かつダイヤモンドが熱力学的に安定な圧力で所定時間保持することで、前記の非晶質もしくは微細なホウ素含有グラファイトはダイヤモンドに直接変換され、同時に焼結される。このとき、添加したホウ素は、ダイヤモンド結晶粒子の格子サイトに取り込まれ、P型半導体となって導電性が生じる。その結果、微細で粒径の揃ったダイヤモンド粒子が強固に結合した極めて緻密で均質な組織の導電性ダイヤモンド多結晶体が得られる。
【0031】
ダイヤモンド多結晶体中のホウ素の含有量が10ppm以上で、電気抵抗がおよそ10Ωcm以下となり、放電加工が可能な導電性を示す。また、この多結晶体を構成する粒径は最大100nm以下、あるいは平均粒径が50nm以下、より好ましくは最大粒径50nm以下で、平均粒径30nm以下と、非常に微細かつ均質な組織を有する。このため、この多結晶体は、硬度が80GPa以上、場合によっては110GPa以上と、ダイヤモンド単結晶を超える硬さを持つ。また、金属触媒や焼結助剤を含まないため、たとえば真空中1400℃でも、グラファイト化や微細クラックの発生が見られない。また、ホウ素を不純物として含むため、大気中で加熱すると表面に酸化ホウ素の保護膜が形成され、耐酸化性が向上する。さらに、導電性があるため、放電加工による研磨、切断加工が可能であり、砥石を用いた機械加工に比べ、製品作製コストを大きく削減することができる。したがって、本発明のダイヤモンド多結晶体は、特性的に切削バイトや、ドレッサー、ダイスなどの工具や、掘削ビットなどとして非常に有用であるばかりでなく、低コストで製造、加工が可能である。
【0032】
また、出発物質として、ホウ素を1000ppm以上固溶させた非晶質炭素やグラファイトの粉末や成形体、あるいはダイヤモンドの粉末や成形体を用いる。ここで、ホウ素が1000ppm以上固溶した非晶質炭素やグラファイトの粉末や成形体は、例えばコークスと炭化ホウ素の混合物を、常圧下非酸化雰囲気中で千数百℃以上の処理により作製できる。また、ホウ素が1000ppm以上固溶したダイヤモンドの粉末や成形体は、メタンとホウ素を含むガスから気相法(CVD法)により得られる。
【0033】
このようなホウ素を1000ppm以上含む非晶質炭素やグラファイトあるいはダイヤモンドの粉末や成形体を、MoやTaなどの金属カプセルに充填する。次に、超高圧高温発生装置を用いて、温度1500℃以上で、かつダイヤモンドが熱力学的に安定な圧力で所定時間保持する。これにより非晶質炭素やグラファイトはダイヤモンドに直接変換と同時に焼結される。また、ダイヤモンド粉末は固相反応により直接焼結する。このとき、出発物質に固溶していたホウ素は、ダイヤモンドの格子サイトに取り込まれるため、P型半導体となって導電性が生じる。その結果、粒径の揃ったダイヤモンド粒子が強固に結合した極めて緻密で均質な組織の導電性ダイヤモンド多結晶体が得られる。このときのダイヤモンド多結晶体中のホウ素の含有量が1000ppm以上で、電気抵抗がおよそ1Ωcm以下となり、放電加工が可能な導電性を示す。
【0034】
この多結晶体を構成する粒径は最大10000nm以下、あるいは平均粒径が5000nm以下、より好ましくは最大粒径1000nm以下で、平均粒径500nm以下と、微細かつ均質な組織を有する。さらに、各粒子はホウ素による触媒反応で、極めて強固に結合する。このため、この多結晶体は、硬度が80GPa以上、場合によっては110GPa以上と、ダイヤモンド単結晶を超える硬さを持つ。また、金属触媒や焼結助剤を含まないため、たとえば真空中1400℃でも、グラファイト化や微細クラックの発生が見られない。また、ホウ素を不純物として含むため、大気中で加熱すると表面に酸化ホウ素の保護膜が形成され、耐酸化性が大幅に向上する。さらに、導電性があるため、放電加工による研磨、切断加工が可能であり、砥石を用いた機械加工に比べ、製品作製コストを大きく削減することができる。したがって、本発明のダイヤモンド多結晶体は、特性的に切削バイトや、ドレッサー、ダイスなどの工具や、掘削ビットなどとして非常に有用であるばかりでなく、低コストで製造、加工が可能である。
【実施例1】
【0035】
粒径10〜60μm、純度99.95%以上のグラファイトに、非晶質ホウ素粉末を炭素に対するホウ素量が0.1〜0.001at%となるように添加し、直径5mmの窒化ケイ素製ボールとともに窒化ケイ素製ポットに入れ、遊星ボールミル装置を用いて、高純度に精製されたアルゴンガス中、回転数500rpmで機械的粉砕を行った。粉砕時間を1〜20時間と変えて、種々の試料作製を試みた。粉砕後は、高純度アルゴンガスで満たされたグローブボックス内で試料を回収した。粉砕処理後の試料を、SEMまたはTEM観察により粒径を調べ、また、X線回折図形のグラファイトの(002)回折線の半値幅からScherrerの式より平均粒径(結晶子サイズ)を求めた。それぞれの、試料を前記グローブボックス中でMoカプセルに充填、密封し、これをベルト型超高圧発生装置を用いて、種々の圧力、温度条件で30分処理した。得られた試料の生成相をX線回折により同定し、TEM観察により構成粒子の粒径を調べた。また、強固に焼結している試料については、表面を鏡面に研磨し、その研磨面での硬さをマイクロヌープ硬度計で測定した。実験の結果を表1に示す。この結果から、最大粒径100nm以下、もしくは平均粒径50nm以下に粉砕した微粒のホウ素含有グラファイトを出発物質とすると、比較的マイルドな高圧高温条件で、ダイヤモンドに変換焼結し、得られた多結晶体の硬度は、従来のCoバインダーの焼結体(60〜80GPa)よりはるかに高く、ダイヤモンド単結晶(85〜110GPa)と同等もしくはそれ以上であることがわかる。また、ホウ素添加量が10ppm以上の多結晶体は導電性を示し、電気伝導度は、10Ωcm以下で、放電加工が可能なレベルであった。
【0036】
【表1】

【0037】
ホウ素を固溶体として含む各種非晶質炭素、グラファイト、CVD合成ダイヤモンド粉末を出発物質とした。これらをMoカプセルに充填、密封し、これをベルト型超高圧発生装置を用いて、種々の圧力、温度条件で30分処理した。得られた試料の生成相をX線回折により同定し、TEM観察により構成粒子の粒径を調べた。また、表面を鏡面に研磨し、その研磨面での硬さをマイクロヌープ硬度計で測定した。実験の結果を表2に示す。得られた試料はダイヤモンドからなる多結晶体であった。比較的マイルドな高圧高温条件で、ダイヤモンドに変換焼結し、得られた多結晶体の硬度は、従来のCoバインダーの焼結体(60〜80GPa)よりはるかに高く、ダイヤモンド単結晶(85〜110GPa)と同等もしくはそれ以上であることがわかる。また、何れも導電性を有し、示し、電気伝導度は、1Ωcm以下で、放電加工が可能なレベルであった。また、それぞれ大気中で酸化特性を評価すると、ホウ素を含まないダイヤモンド多結晶体に対し何れも10倍以上の耐酸化性を示した。
【0038】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0039】
以上、本発明の多結晶体は、機械的特性や、熱的安定性に非常に優れ、かつ、放電加工が可能な導電性を有するため低コストで加工でき、切削バイトや、ドレッサー、ダイスなどの工具や、掘削ビットなどの工業用途に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的にダイヤモンドのみからなる多結晶体であって、ダイヤモンドの最大粒径が100nm以下、平均粒径が50nm以下で、ダイヤモンド粒子内にホウ素を10ppm以上1000ppm以下含むことを特徴とする、高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体。
【請求項2】
前記ダイヤモンドの比抵抗が、10Ωcm以下である請求項1に記載の高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体。
【請求項3】
前記ダイヤモンドの最大粒径が50nm以下で、平均粒径が30nm以下である請求項1または請求項2のいずれかに記載の高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体。
【請求項4】
硬度が80GPa以上である請求項1または請求項2のいずれかに記載の高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体。
【請求項5】
硬度が110GPa以上である請求項4に記載の高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体。
【請求項6】
ホウ素を含むグラファイトを不活性ガス中で、遊星ボールミル等で機械的に粉砕して非晶質もしくは微細なホウ素を含むグラファイト型炭素物質を作製し、これを、温度1500℃以上で、ダイヤモンドが熱力学的に安定である圧力条件下で、焼結助剤や触媒の添加なしに直接的にダイヤモンドに変換させると同時に焼結させることを特徴とする高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体の製造方法。
【請求項7】
前記非晶質もしくは微細なホウ素を含むグラファイト型炭素物質の最大粒径が100nm以下である請求項6に記載の高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体の製造方法。
【請求項8】
前記非晶質もしくは微細なホウ素を含むグラファイト型炭素物質の最大粒径が50nm以下である請求項6に記載の高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体の製造方法。
【請求項9】
前記非晶質もしくは微細なホウ素を含むグラファイト型炭素物質のX線回折図形の(002)回折線の半値幅より求められる結晶子サイズが50nm以下である請求項6に記載の高硬度ダイヤモンド多結晶体の製造方法。
【請求項10】
前記非晶質もしくは微細なホウ素を含むグラファイト型炭素物質のX線回折図形の(002)回折線の半値幅より求められる結晶子サイズが10nm以下である請求項6に記載の高硬度ダイヤモンド多結晶体の製造方法。
【請求項11】
前記非晶質もしくは微細なホウ素を含むグラファイト型炭素物質のX線回折図形に(002)回折線が認められない請求項6に記載の高硬度ダイヤモンド多結晶体の製造方法。
【請求項12】
実質的にダイヤモンドのみからなる多結晶体であって、ダイヤモンドの最大粒径が10000nm以下、平均粒径が5000nm以下で、ダイヤモンド粒子内にホウ素を1000ppm以上100000ppm以下含むことを特徴とする、高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体。
【請求項13】
前記ダイヤモンドの比抵抗が、1Ωcm以下である請求項12に記載の高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体。
【請求項14】
前記ダイヤモンドの最大粒径が1000nm以下で、平均粒径が500nm以下である請求項12または請求項13のいずれかに記載の高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体。
【請求項15】
硬度が80GPa以上である請求項12または請求項13のいずれかに記載の高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体。
【請求項16】
硬度が110GPa以上である請求項15に記載の高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体。
【請求項17】
ホウ素を10ppm以上100000ppm以下含む炭素物質を、ダイヤモンドが熱力学的に安定である圧力条件下で、焼結助剤や触媒の添加なしに直接的にダイヤモンドに変換させると同時に焼結させることを特徴とする高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体の製造方法。
【請求項18】
前記ホウ素を含む炭素物質が、非晶質炭素であることを特徴とする請求項12に記載の高硬度ダイヤモンド多結晶体の製造方法。
【請求項19】
前記ホウ素を含む炭素物質が、グラファイト型炭素であることを特徴とする請求項12に記載の高硬度ダイヤモンド多結晶体の製造方法。
【請求項20】
前記ホウ素を含む炭素物質が、グラファイト型炭素と炭化ホウ素からなることを特徴とする請求項12に記載の高硬度ダイヤモンド多結晶体の製造方法。
【請求項21】
前記ホウ素を含む炭素物質が、ダイヤモンド状炭素であり、焼結助剤や触媒の添加なしに焼結させることを特徴とする高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体の製造方法。

【公開番号】特開2012−106925(P2012−106925A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−3111(P2012−3111)
【出願日】平成24年1月11日(2012.1.11)
【分割の表示】特願2005−516815(P2005−516815)の分割
【原出願日】平成16年12月3日(2004.12.3)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】