説明

高粘度材料を含むPTFEのエレクトロスピニング

PTFEマットを作成するための改良方法が記載されている。この方法は、PTFEと、繊維化するポリマーと、溶媒とを含む分散物を与えることを含み、この分散物は、少なくとも50,000cPの粘度を有する。荷電源と、荷電源から一定距離離れた標的とを備える装置が提供される。電圧源は、荷電源において第1の電荷を作り出し、標的で反対の電荷を作り出すように与えられる。分散物は、荷電源と接触することによって、静電的に帯電する。静電的に帯電した分散物を標的の上に集め、マット前駆体を生成し、これを加熱して溶媒および繊維化するポリマーを除去することによってPTFEマットを作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願に対する相互参照)
本出願は、2009年1月16日に出願された係属中の米国特許仮出願番号第61/145,309号および2009年10月30日に出願された係属中の米国特許仮出願番号第61/256,349号の優先権を主張し、これらは両方とも、参考として組み込まれる。
【0002】
本発明は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のエレクトロスピニング方法に特有である。さらに特定的には、本発明は、高粘度PTFE分散物のエレクトロスピニング、およびこれによって製造された製品に関する。
【背景技術】
【0003】
静電紡糸プロセスは、米国特許第2,158,416号;第4,043,331号;第4,143,196号;第4,287,139号;第4,432,916号;第4,089,186号;第6,641,773号、第6,743,273号に示されているように、当該技術分野でよく知られており、これらはそれぞれ、本明細書に参考として組み込まれる。米国特許第4,323,525号、第4,127,706号、第4,044,404号(すべて本明細書に参考として組み込まれる)は、水系分散物またはその他の分散物からPTFEを処理し、静電紡糸することに関する情報を与えている。
【0004】
静電紡糸(当該技術分野では、エレクトロスピニングとも呼ばれる)は、帯電したポリマーが、帯電した表面に向かって移動することを含む。一実施形態では、ポリマーは、小さな帯電したオリフィス(例えば、針)を通り、標的へと放電し、ここで、針と標的とは、反対の電荷を有している。理解されるであろうが、ポリマーの性質は重要である。当該技術分野では、長い間、約150ポイズ未満の比較的小さな粘度に維持することが必要であると考えられてきており、分子量が小さなポリマーでは粘度が比較的大きく、分子量が大きなポリマーでは粘度が比較的小さい。粘度と分子量の組み合わせが大きすぎる場合には、繊維化が十分ではないと考えられた。
【0005】
長い間、ポリマー溶液の粘度が約150ポイズを超えることは、チクソトロピーによる限界のためにオリフィスが目詰まりし、繊維形成性が悪いなどのため、望ましくないと考えられてきた。さらに、帯電したオリフィスを用いる場合、ポリマー繊維が飛行中に反発し、所与の容積の噴霧物中に含まれる繊維の数が制限されると長い間考えられてきた。熱心な研究によって、本願発明者らは、従来の理解とは反対に、以前に実現可能であると考えられているよりもかなり大きな粘度まで上昇させると、実際には、得られる材料が改良され、以前には可能ではないと思われていたさらなる特性および利点を与えることを決定した。
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、PTFEをエレクトロスピニングするための改良方法を提供することである。
【0007】
本発明の別の目的は、エレクトロスピニングされたPTFEに基づく優れた製品を与える方法を提供することである。
【0008】
本発明の特定の特徴は、既存のエレクトロスピニング技術および設備を利用することが可能でありつつ、改良された製品を与えることである。
【0009】
これらの利点および他の利点は、理解されるであろうが、PTFEマットを作成する方法によって与えられる。この方法は、PTFEと、繊維化するポリマーと、溶媒とを含む分散物を与えることを含み、この分散物は、少なくとも50,000cPの粘度を有する。荷電源と、荷電源から一定距離離れた標的とを備える装置が提供される。電圧源は、荷電源において第1の電荷を作り出し、標的で反対の電荷を作り出すように与えられる。分散物は、荷電源と接触することによって、静電的に帯電する。静電的に帯電した分散物を標的の上に集め、マット前駆体を生成し、これを加熱して溶媒および繊維化するポリマーを除去することによってPTFEマットを作成する。
【0010】
さらに別の利点は、PTFEマットを作成するための方法によって与えられる。この方法は、粒径が少なくとも0.1μmから、0.8μm以下であり、ポリエチレンオキシドが1wt%から、10wt%以下であり、分子量が少なくとも50,000から、4,000,000以下であるようなPTFEと、溶媒とを含む分散物を与えることを含み、この分散物は、少なくとも50,000cPの粘度を有する。オリフィスと、オリフィスから一定距離離れた標的とを備える装置が提供される。電圧源は、オリフィスにおいて第1の電荷を作り出し、標的で反対の電荷を作り出すように与えられる。分散物は強制的にオリフィスを通り、オリフィスと接触することによって分散物が静電的に帯電する。静電的に帯電した分散物を標的の上に集め、マット前駆体を生成し、これを加熱して溶媒および繊維化するポリマーを除去することによってPTFEマットを作成する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、電着を模式的に示す。
【図2】図2は、本発明の方法を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を静電紡糸し、複数の他の用途および形態にすることが可能な不織シート、膜、管、コーティングを作成するための連続的な繊維にする方法に関する。特に、本発明は、従来実現可能であると考えられていたものとは直接的に対照的であるが、従来技術と比較して非常に高粘度でPTFEをエレクトロスピニングすることに関する。
【0013】
静電紡糸装置を図1に模式的に示す。図1において、容器10には、本明細書にさらに記載されるような高粘度分散物が入れられている。輸送システム11は、この容器から荷電源12(オリフィスであってもよい)へと分散物を輸送する。標的15は、荷電源12からいくらか離れるように設置されている。電源16(例えば、DC電源)は、荷電源と標的との間に異なる電荷を生じさせ、その結果、ポリマー材料14は、電気的に標的と反対の電荷を有する。このポリマー材料は、標的に静電的に引き寄せられ、標的の上に堆積する。標的は、静止していてもよく、動いていてもよく、または、ポリマーがぶつかる領域を通って移動する(例えば、搬送ローラー17などの上を移動することによる)連続した材料であってもよく、ほぼ連続した材料であってもよい。一実施形態では、電荷、または示されているようなグランドを、標的と電気が伝導する状態で接触しているローラーに加える。標的は、連続したループ状物であってもよく、輸送デバイス上で始まり(例えば、供給スプール)、コレクター(例えば、巻き取りスプール)に巻き取られてもよい。代替的な実施形態では、荷電源および標的は、共通の分散物浴の中に浸かっていてもよい。
【0014】
本発明の方法は、集めた繊維状マットを、ある程度機械的に一体化した形態になるように後処理するのに役立つように、十分な割合のPTFE固形分の分散物または懸濁物を必要とする。分散物中のPTFE固形分の含有量が低すぎる場合、得られた材料は、機械的な一体性を有さないか、または一体性が不良であろう。第2に、スピニングされるべき溶液、懸濁物または分散物の粘度を上げるために使用されるポリマー(繊維化ポリマーとも呼ばれる)の選択は、注意深く選択しなければならない。本願発明者らは、PTFEに加えられる繊維化ポリマーの分子量が小さすぎると、性能が悪くなり、ハンドリング性が悪くなるであろうことを発見した。また、分子量が大きすぎると、エレクトロスピニングおよび硬化プロセス中にPTFE粉末と実際に結合させるために十分なポリマーが存在しなくても、粘度が上昇してしまうだろうと考えられる。さらに、PTFE粉末とともに焼結させるのに使用される方法は、得られた生成物が良好な機械的一体性を有するように、精密に制御されなければならない。
【0015】
PTFEが、10〜10の分子量を有することが好ましい。
【0016】
PTFEが、少なくとも0.1μmから、0.8μm以下の粒径を有することが好ましい。より好ましくは、PTFEは、少なくとも0.2μmから、0.6μm以下の粒径を有する。粒径が0.1μmより小さいと、材料を製造するのが困難になる。粒径が0.8μmよりも大きいと、その粒径が標的の繊維径に近くなり、繊維に欠陥が生じる。他の用途では、もっと大きな粒径が使用に適している場合もある。
【0017】
不織PTFE材料を製造する方法を、図2を参照しつつ記載する。狭い粒径分布のPTFE粉末の水系分散物を調製する(20)。繊維化するポリマーを分散物に加える(22)。好ましくは、繊維化するポリマーを、1〜10wt%、より好ましくは、約2〜7wt%の量で加え、約4〜5wt%が最も好ましい。繊維化するポリマーは、好ましくは、溶媒に高い溶解度を有しており、溶媒は、好ましくは水であり、溶解度は、約0.5wt%より大きいことが好ましい。繊維化するポリマーが、約400℃で焼結した場合に約5wt%未満の灰分含有量を有することが好ましく、もっと少ない含有量ならもっと好ましい。
【0018】
特に好ましい繊維化ポリマーとしては、デキストラン、アルギン酸塩、キトサン、グアーゴム化合物、デンプン、ポリビニルピリジン化合物、セルロース化合物、セルロースエーテル、加水分解したポリアクリルアミド、ポリアクリレート、ポリカルボキシレート、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリエチレンイミン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(イタコン酸)、ポリ(2−ヒドロキシエチル アクリレート)、ポリ(2−(ジメチルアミノ)エチル メタクリレート−co−アクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸)、ポリ(メトキシエチレン)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルアルコール)12%アセチル、ポリ(2,4−ジメチル−6−トリアジニルエチレン)、ポリ(3−モルホリニルエチレン)、ポリ(N−1,2,4−トリアゾリルエチレン)、ポリ(ビニルスルホキシド)、ポリ(ビニルアミン)、ポリ(N−ビニルピロリドン−co−酢酸ビニル)、ポリ(g−グルタミン酸)、ポリ(N−プロパノイルイミノエチレン)、ポリ(4−アミノ−スルホ−アニリン)、ポリ[N−(p−スルホフェニル)アミノ−3−ヒドロキシメチル−1,4−フェニレンイミノ−1,4−フェニレン)]、イソプロピルセルロース、ヒドロキシエチル、ヒドロキシルプロピルセルロース、酢酸セルロース、硝酸セルロース、アルギン酸アンモニウム塩、i−カラギーナン、N−[(3’−ヒドロキシ−2’,3’−ジカルボキシ)エチル]キトサン、コンニャクグルコマンナン、プルラン、キサンタンゴム、ポリ(アリルアンモニウムクロリド)、ポリ(アリルアンモニウムホスフェート)、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)、ポリ(ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド)、ポリ(ジメチルドデシル(2−アクリルアミドエチル)アンモニウムブロミド)、ポリ(4−N−ブチルピリジニウムメチレンヨウ素)、ポリ(2−N−メチルピリジニウムメチレンヨウ素)、ポリ(N−メチルピリジニウム−2,5−ジイルエテニレン)、ポリエチレングリコールポリマーおよびコポリマー、セルロースエチルエーテル、セルロースエチルヒドロキシエチルエーテル、セルロースメチルヒドロキシエチルエーテル、ポリ(1−グリセロール メタクリレート)、ポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)、ポリ(2−ヒドロキシエチル メタクリレート/メタクリル酸)90:10、ポリ(2−ヒドロキシプロピル メタクリレート)、ポリ(2−メタクリルオキシエチルトリメチルアンモニウムブロミド)、ポリ(2−ビニル−1−メチルピリジニウムブロミド)、ポリ(2−ビニルピリジン N−オキシド)、ポリ(2−ビニルピリジン)、ポリ(3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル−2−メタクリルオキシエチルジメチルアンモニウムクロリド)、ポリ(4−ビニルピリジン N−オキシド)、ポリ(4−ビニルピリジン)、ポリ(アクリルアミド/2−メタクリルオキシエチルトリメチルアンモニウムブロミド)80:20、ポリ(アクリルアミド/アクリル酸)、ポリ(塩酸アリルアミン)、ポリ(ブタジエン/マレイン酸)、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)、ポリ(アクリル酸エチル/アクリル酸)、ポリ(エチレングリコール)ビス(2−アミノエチル)、ポリ(エチレングリコール)モノメチルエーテル、ポリ(エチレングリコール)−ビスAジグリシジルエーテル付加物、ポリ(エチレンオキシド−b−プロピレンオキシド)、ポリ(エチレン/アクリル酸)92:8、ポリ(1−リジン臭化水素酸塩)、ポリ(1−リジン臭化水素酸塩)、ポリ(マレイン酸)、ポリ(n−ブチル アクリレート/2−メタクリルオキシエチルトリメチルアンモニウムブロミド)、ポリ(N−イソ−プロピルアクリルアミド)、ポリ(N−ビニルピロリドン/2−ジメチルアミノエチル メタクリレート)、ジメチルサルフェート四級化物、ポリ(N−ビニルピロリドン/酢酸ビニル)、ポリ(オキシエチレン)ソルビタンモノラウレート(Tween 20(登録商標))、ポリ(スチレンスルホン酸)、ポリ(ビニルアルコール)、N−メチル−4(4’−ホルミルスチリル)ピリジニウム、メトサルフェートアセタール、ポリ(ビニルメチルエーテル)、ポリ(ビニルアミン)塩酸塩、ポリ(ビニルホスホン酸)、ポリ(ビニルスルホン酸)ナトリウム塩およびポリアニリンが挙げられる。
【0019】
特に好ましい繊維化するポリマーは、分子量が50,000〜4,000,000のポリエチレンオキシド(PEO)であり、より好ましくは、分子量は、約250,000〜350,000、最も好ましくは、分子量は、約300,000である。
【0020】
図2をさらに参照すると、PTFEと繊維化するポリマーを混合した後、好ましくは、分散物を均質にする(24)。特に好ましい方法では、撹拌せずにポリマー分散物をゆっくりと形成させ、次いで、数日間かけて一定速度で回転するジャーローラーに移す。得られる高粘性混合物に空気がほとんどかみこまないか、またはまったくかみこまない均一な溶液を作成することが好ましい。分散物が均一な一体性を有するようになったら、好ましくは、これを濾過し、凝集塊またはゲルを除去する。望ましい粘度を有する濾過した分散物を、次いで、荷電源として作用する固定された導電性要素を備える、制御された圧送デバイスに入れる(26)。特に好ましい導電性要素は、先端が丸められ、とげを取り除くためにヤスリをかけられた16ゲージ針のようなオリフィスである。圧送デバイスから放出される容積は、製造される形態および望ましい繊維径に依存して、所定速度になるように設定される。荷電源は、好ましくは、精密なDC電源のプラス側に接続される。電源のマイナス側は、好ましくは、収集表面または標的に接続される。極性は逆であってもよいが、好ましくはない。
【0021】
標的表面は、ドラム、デバイス、またはシートであってもよい。この表面は、金属、セラミック、またはポリマー材料であってもよく、特に好ましい材料は、ステンレス鋼、コバルトクロム、ニッケルチタン(ニチノール)、マグネシウムアロイポリアクチド、ポリグリコリド、ポリヒドロキシルブチレート、ポリヒドロキシアルキノエート、ポリジオキシニン、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリエチレンオキシドから選択される。電源の電圧を、ポリマー/PTFE溶液を均一に引き出すのに望ましい電圧まで上げる。
【0022】
印加された電圧は、典型的には、2,000〜80,000ボルトである。電源を接続することによって誘発される電荷は、帯電したポリマーが荷電源から離れるように反発し、このポリマーは、収集表面に引き寄せられる。
【0023】
収集標的は、好ましくは、ポンプおよびオリフィスのシステムに対して垂直に配置され、表面全体が均一に覆われるように、少なくとも一方向に移動し(28)つつ、繊維が標的に向かって引き出される。収集表面が十分に覆われたら、好ましくは、収集表面全体を乾燥機に入れることによってその場で、または、シート管または他の形態を収集表面からはずし、乾燥機中で焼結することによって、材料を硬化/焼結する(30)。
【0024】
エレクトロスピニングされたPTFE布を、焼結する際に収縮させる。いかなり理論によっても束縛されないが、収縮は2段階で起こると考えられる。まず、繊維および布地が、スピニングされるときは、水と繊維化するポリマー、好ましくは、ポリエチレンオキシドを含んでいる。スピニングが終了したら、サンプルを乾燥させ、少しだけ繊維を再配置させる。繊維および布地を550°F〜900°Fの温度に、水および繊維化するポリマーが蒸発するまでさらすことによって、このサンプルを焼結する。蒸発によって、第2の、もっと顕著な収縮が発生すると仮定される。繊維を伸ばしていない場合には、繊維の熱分解および繊維の破壊は、この第2の収縮中に起こると考えられている。
【0025】
収縮に対応するために、繊維および布地は、膨張した構造の上にスピニングされていてもよい。次いで、この構造をはずすか、または縮ませてもよい。これにより、布地を焼結中に熱分解することなく縮ませることができる。別の方法は、繊維および布地を構造の上にスピニングすることを含み、次いで、これを焼結する前に膨張させるか、または縮ませてもよい。縮ませるか、または膨張させる数値範囲は、好ましくは、3〜100%のレベルであり、電着させた布地マットの厚みおよび大きさに依存して変わる。
【0026】
布地シートの場合、電着方向が、布地面と垂直になるように与えられている場合、縮みまたは膨張/縮みは、布地面の少なくとも1つ以上の方向で起こらなければならない。円筒形の表面に電着された布地の場合、この布地は、半径方向および/または長軸方向に縮み、または縮み/膨張が起こらなければならない。球状表面の場合、布地は、半径方向に縮み、または縮み/膨張が起こらなければならない。これらの縮みおよび/または膨張/縮みの基本概念は、スピニングされる表面の形状とは独立して、任意のエレクトロスピニングされた布地に応用することができる。したがって、PTFE布地に基づく、非常に複雑な布地の形状も可能である。
【0027】
特に好ましい実施形態では、高粘度材料を使用する。粘度が、少なくとも50,000cPから、300,000cP以下の材料をエレクトロスピニングすることによって、優れた特性が観察されることは驚くべきことである。より好ましくは、粘度は、少なくとも100,000cPから、250,000cP以下であり、最も好ましくは、粘度は、少なくとも150,000cPから、200,000cP以下である。粘度が300,000cPよりも大きいと、繊維を作る際の困難性が増す。
【0028】
一実施形態では、エレクトロスピニング分散物は、Daikin D 210 PTFEおよび分子量が300,000のSigma Aldrichポリエチレンオキシドに基づく。Daikin D 210 PTFEは、本発明を示すのに適した材料の代表例である。Daikin D 210 PTFEは、固形分が約59〜62wt%であり、界面活性剤が6.0〜7.2%wt%、pHが8.5〜10.5、比重が1.5〜1.53、Brookfield粘度の最大値が35cPである。
【0029】
分散物は、好ましいPTFE固形分の重量%を有しており、50%〜80wt%、より好ましくは、55〜65wt%、さらに好ましくは、59〜61wt%である。比重は、好ましくは、1.5〜1.54、より好ましくは、1.51である。例として、1000mlの分散物は、重さ範囲が1500gm〜1530gmであり、PTFEを885gm〜933.3gm含む。
【0030】
特に好ましい実施形態は、PTFE固形分が60%であり、比重が1.51であり、分散物1000mlあたり、PTFEが909gmである。
【0031】
特に好ましい例は、1000mlのDaikin D 210分散物あたり、32gm〜52gmの繊維化するポリマー(最も好ましくは、PEO)を用いて調製され、PTFE分散物に対する繊維化するポリマーの比率(例えば、PEO/PTFE)は、分散物1000mlあたり、0.032〜0.052gm/ml PEOである。繊維化するポリマーの比率が、重量基準で0.03gm/mlより小さいと、品質が非常に悪くなり、不均一な繊維マットが生成してしまう。品質が悪いとは、繊維の破壊度が高く(>20%)、不均一な繊維径が生成することであると定義され、当該技術分野で「ビーディング(beading)」とも呼ばれる。破壊された繊維および/または不均一な繊維が存在することにより、繊維マットの内部に不均一な多孔が生じる。破壊された小繊維、特に、短い小繊維は、連続していない小繊維がマットから引っ張り出されるため、時間経過ととともに効率が低下する。
【0032】
PTFE固形分が60%であり、PEOのMw範囲が200,000〜4,000,000であるPTFE分散物が代表例である。PTFEに対する、繊維化するポリマーの範囲は、0.03〜0.06であり、分子量が300,000のPEOである繊維化するポリマーが、特に代表的である。
【0033】
Brookfield LV Viscometerにおいて、25番のスピンドルを用い、25℃でスピンドル速度を2.5の一定にしたときの異なるPEO/PTFE配合物の粘度を表1に与えている。
【0034】
【表1】

【0035】
1000mlのDiakin D 210分散物中、PTFEが909gmであると推定し、好ましいPEO/PTFE分散物の割合範囲は、0.032〜0.060gm/mlである。本発明を示すには、約0.048gm/mlが特に好ましい。
【0036】
電着するために、帯電した針および接地された標的が好ましく、本明細書では、他の意味であると明記されていない限り、これによる。このやり方は、一部には安全性の理由から、当該産業での標準的な実施例として受け入れられている。接地された針と、帯電した標的を用いることも可能であるが、得られる材料の質が悪いため、好ましくはない。
【0037】
本明細書に記載したサンプルについて簡便のために、11、14または17kVの電圧に対応して、先端部から標的上部(TTT)までの対応する距離が、4.5インチ、5.5インチ、6.5インチである。電圧および距離は、当業者には十分に知られている測定で使用される実験装置に基づく、設計上の選択肢である。説明のために、サンプルを箔の上に電着させ、乾燥し、725°Fで5分間焼結させ、SEMで試験した。この方法によって、平滑で、重く、広がったウェブが製造され、このことは、材料の移動効率が顕著に向上していることを示す。逆の極性を用いた試験結果は、良くなかった。マットは、約5インチ幅で電着された。
【0038】
目視で観察すると、逆の極性によって製造したサンプルでは、さまざまな程度の劣化がみられた。それに加え、顕微鏡写真から、繊維が破壊しており、繊維がねじれて繊維束ができていることが示された。また、繊維および繊維束の直径の分布も広い。これらの繊維のすべての特徴によって、一体性が失われ、繊維マットの品質が悪くなるだろう。これらの繊維の特徴は、低PEO/PTFE濃度分散物からエレクトロスピニングしようとした本願発明者の試みで観察された繊維マットの品質の悪さと一致している。電圧が5.5と高く、先端から標的までの距離が6.5インチであるときは、ほとんどの繊維が破壊されていることが示され、一方、TTT距離が4.5インチであるときは、ほとんどが束になっていることが示された。
【0039】
「通常の」エレクトロスピニングされたPTFEを高拡大率で試験すると、明らかな繊維の破壊は存在せず、すべての繊維が均一な直径を有しており、繊維マットは、焼結プロセスに耐えた。
【0040】
代表的な結果を表2〜4に与えており、括弧内に標準偏差を報告している。表中、空気流、孔径、バブルポイントをPorous Materials,Inc.Capillary Flow Porometer Model CFP−1100−AEXLを用い、「Dry Up/ Wet Up」試験型を用いて測定した。密度を、ISO 1183−3を用いた気体密度測定器によって測定した。ダイで切断したASTM D638 Type Vのドッグボーン型のサンプル形状を用い、張力、伸張度、弾性率をASTM D882を用いて測定した。異なるPEO/PTFE配合物の粘度は、Brookfield LV Viscometerにおいて、25番のスピンドルで、列挙した一定のスピンドル速度設定によって25℃で得た。
【0041】
本発明の方法によって与えられる特定の利点は、得られる材料が、従来技術のサンプルよりも、焼結のときに破壊された小繊維が顕著に少ないことである。小繊維の破壊が減ると、質の良くない材料が減るため、生産性が上がる。このことは、製品の特性を失うことなく達成される。
【0042】
本発明を好ましい実施形態を参照して記載してきたが、これらには限定されない。当業者は、添付の特許請求の範囲にもっと特定的に記載されている本発明の要求事項および境界に入るさらなる実施形態および改良を理解するだろう。
【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

【0045】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
PTFEマットを作成する方法であって、
PTFE、繊維化するポリマー、及び溶媒を含み、少なくとも50,000cPの粘度を有する分散物を提供するステップと;
荷電源、及び前記荷電源から一定距離離れた標的を有する装置を提供するステップと;
荷電源において第1の電荷を作り出し、前記標的で反対の電荷を作り出すような電圧源を提供し、前記分散物が前記荷電源と接触することによって静電的に帯電するステップと;
前記静電的に帯電した分散物を前記標的の上に集め、マット前駆体を生成するステップと;
前記マット前駆体を加熱して前記溶媒および前記繊維化するポリマーを除去することによってPTFEマットを形成するステップと、を含む、方法。
【請求項2】
前記分散物が、50〜80wt%のPTFE固形分を含む、請求項1に記載のPTFEマットを作成する方法。
【請求項3】
前記分散物が、59〜61wt%のPTFE固形分を含む、請求項2に記載のPTFEマットを作成する方法。
【請求項4】
焼結するステップをさらに含む、請求項1に記載のPTFEマットを作成する方法。
【請求項5】
前記焼結するステップが、少なくとも500°Fから、900°F以下の温度で行われる、請求項4に記載のPTFEマットを作成する方法。
【請求項6】
前記分散物が、少なくとも100,000cPから、300,000cP以下の粘度を有する、請求項1に記載のPTFEマットを作成する方法。
【請求項7】
前記オリフィスと、前記標的との間に2,000〜80,000ボルトの電圧を印加するステップを含む、請求項1に記載のPTFEマットを作成する方法。
【請求項8】
前記分散物が、前記繊維化するポリマーを少なくとも1wt%から、10wt%以下含む、請求項1に記載のPTFEマットを作成する方法。
【請求項9】
前記分散物が、PTFEに対する繊維化するポリマーの重量比が、少なくとも3.0から、5.5以下になるように繊維化するポリマーを含む、請求項1に記載のPTFEマットを作成する方法。
【請求項10】
前記繊維化するポリマーが、前記溶媒への溶解度が0.5wt%よりも大きい、請求項1に記載のPTFEマットを作成する方法。
【請求項11】
前記溶媒が水である、請求項1に記載のPTFEマットを作成する方法。
【請求項12】
前記繊維化するポリマーが、400℃で焼結したときに、灰分含有量が5wt%未満である、請求項1に記載のPTFEマットを作成する方法。
【請求項13】
前記繊維化するポリマーが、デキストラン、アルギン酸塩、キトサン、グアーゴム化合物、デンプン、ポリビニルピリジン化合物、セルロース化合物、セルロースエーテル、加水分解したポリアクリルアミド、ポリアクリレート、ポリカルボキシレート、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリエチレンイミン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(イタコン酸)、ポリ(2−ヒドロキシエチル アクリレート)、ポリ(2−(ジメチルアミノ)エチル メタクリレート−co−アクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸)、ポリ(メトキシエチレン)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルアルコール)12%アセチル、ポリ(2,4−ジメチル−6−トリアジニルエチレン)、ポリ(3−モルホリニルエチレン)、ポリ(N−1,2,4−トリアゾリルエチレン)、ポリ(ビニルスルホキシド)、ポリ(ビニルアミン)、ポリ(N−ビニルピロリドン−co−酢酸ビニル)、ポリ(g−グルタミン酸)、ポリ(N−プロパノイルイミノエチレン)、ポリ(4−アミノ−スルホ−アニリン)、ポリ[N−(p−スルホフェニル)アミノ−3−ヒドロキシメチル−1,4−フェニレンイミノ−1,4−フェニレン)]、イソプロピルセルロース、ヒドロキシエチル、ヒドロキシルプロピルセルロース、酢酸セルロース、硝酸セルロース、アルギン酸アンモニウム塩、i−カラギーナン、N−[(3’−ヒドロキシ−2’,3’−ジカルボキシ)エチル]キトサン、コンニャクグルコマンナン、プルラン、キサンタンゴム、ポリ(アリルアンモニウムクロリド)、ポリ(アリルアンモニウムホスフェート)、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)、ポリ(ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド)、ポリ(ジメチルドデシル(2−アクリルアミドエチル)アンモニウムブロミド)、ポリ(4−N−ブチルピリジニウムメチレンヨウ素)、ポリ(2−N−メチルピリジニウムメチレンヨウ素)、ポリ(N−メチルピリジニウム−2,5−ジイルエテニレン)、ポリエチレングリコールポリマーおよびコポリマー、セルロースエチルエーテル、セルロースエチルヒドロキシエチルエーテル、セルロースメチルヒドロキシエチルエーテル、ポリ(1−グリセロール メタクリレート)、ポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)、ポリ(2−ヒドロキシエチル メタクリレート/メタクリル酸)90:10、ポリ(2−ヒドロキシプロピル メタクリレート)、ポリ(2−メタクリルオキシエチルトリメチルアンモニウムブロミド)、ポリ(2−ビニル−1−メチルピリジニウムブロミド)、ポリ(2−ビニルピリジン N−オキシド)、ポリ(2−ビニルピリジン)、ポリ(3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル−2−メタクリルオキシエチルジメチルアンモニウムクロリド)、ポリ(4−ビニルピリジン N−オキシド)、ポリ(4−ビニルピリジン)、ポリ(アクリルアミド/2−メタクリルオキシエチルトリメチルアンモニウムブロミド)80:20、ポリ(アクリルアミド/アクリル酸)、ポリ(塩酸アリルアミン)、ポリ(ブタジエン/マレイン酸)、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)、ポリ(アクリル酸エチル/アクリル酸)、ポリ(エチレングリコール)ビス(2−アミノエチル)、ポリ(エチレングリコール)モノメチルエーテル、ポリ(エチレングリコール)−ビスAジグリシジルエーテル付加物、ポリ(エチレンオキシド−b−プロピレンオキシド)、ポリ(エチレン/アクリル酸)92:8、ポリ(1−リジン臭化水素酸塩)、ポリ(1−リジン臭化水素酸塩)、ポリ(マレイン酸)、ポリ(n−ブチル アクリレート/2−メタクリルオキシエチルトリメチルアンモニウムブロミド)、ポリ(N−イソ−プロピルアクリルアミド)、ポリ(N−ビニルピロリドン/2−ジメチルアミノエチル メタクリレート)、ジメチルサルフェート四級化物、ポリ(N−ビニルピロリドン/酢酸ビニル)、ポリ(オキシエチレン)ソルビタンモノラウレート(Tween 20(登録商標))、ポリ(スチレンスルホン酸)、ポリ(ビニルアルコール)、N−メチル−4(4’−ホルミルスチリル)ピリジニウム、メトサルフェートアセタール、ポリ(ビニルメチルエーテル)、ポリ(ビニルアミン)塩酸塩、ポリ(ビニルホスホン酸)、ポリ(ビニルスルホン酸)ナトリウム塩およびポリアニリンからなる群から選択される、請求項1に記載のPTFEマットを作成する方法。
【請求項14】
前記繊維化するポリマーがポリエチレンオキシドである、請求項13に記載のPTFEマットを作成する方法。
【請求項15】
前記ポリエチレンオキシドが、少なくとも50,000から、4,000,000以下の分子量を有する、請求項14に記載のPTFEマットを作成する方法。
【請求項16】
前記標的が、膨張した構造である、請求項1に記載のPTFEマットを作成する方法。
【請求項17】
前記標的を膨張させるか、または縮ませるステップをさらに含む、請求項1に記載のPTFEマットを作成する方法。
【請求項18】
前記集める前に、前記標的を膨張させるか、または縮ませるステップをさらに含む、請求項1に記載のPTFEマットを作成する方法。
【請求項19】
PTFEマットを作成するための方法であって、
粒径が少なくとも0.1μmから、0.8μm以下のPTFE、
1wt%から、10wt%以下の、分子量が少なくとも50,000から、4,000,000以下のポリエチレンオキシド、
及び溶媒を含む、少なくとも50,000cPの粘度を有する分散物を提供するステップと;
オリフィス、及び前記オリフィスから一定距離離れた標的を有する装置を提供するステップと;
前記オリフィスにおいて第1の電荷を作り出し、標的で反対の電荷を作り出すような電圧源を提供するステップと;
前記分散物を前記オリフィスに強制的に通し、前記オリフィスと接触することによって前記分散物が静電的に帯電するステップと;
前記静電的に帯電した分散物を前記標的の上に集め、マット前駆体を生成するステップと;
前記マット前駆体を加熱して前記溶媒および前記繊維化するポリマーを除去することによってPTFEマットを作成するステップと、を含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−515850(P2012−515850A)
【公表日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−546430(P2011−546430)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【国際出願番号】PCT/US2010/021426
【国際公開番号】WO2010/083530
【国際公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【出願人】(511172036)ゼウス インダストリアル プロダクツ, インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】