高精度LC共振型磁気マーカの位置、方向および等価的磁気モーメントの検出システム
【課題】振幅に加え位相も計測対象として位置精度を向上させる高精度LC共振型磁気マーカの位置、方向および等価的磁気モーメントの検出システムを提供する。
【解決手段】励磁コイルと、この励磁コイルと対向する複数の検出コイルと、励磁コイルと検出コイルとの間に配置されるLC共振型磁気マーカと、励磁コイルはLC共振型磁気マーカの共振周波数に同調させた交流磁界を発生させ、LC共振型磁気マーカからの誘導磁界を複数の検出コイルの各検出コイルで計測する手段と、LC共振型磁気マーカをセットした状態での検出コイルによる第1の誘起電圧を計測する手段と、LC共振型磁気マーカをセットしない状態での検出コイルによる第2の誘起電圧を計測する手段と、第1の誘起電圧と第2の誘起電圧の位相差θを求める手段と、この位相差に基づいてLC共振型磁気マーカの寄与電圧を求める手段とを具備する。
【解決手段】励磁コイルと、この励磁コイルと対向する複数の検出コイルと、励磁コイルと検出コイルとの間に配置されるLC共振型磁気マーカと、励磁コイルはLC共振型磁気マーカの共振周波数に同調させた交流磁界を発生させ、LC共振型磁気マーカからの誘導磁界を複数の検出コイルの各検出コイルで計測する手段と、LC共振型磁気マーカをセットした状態での検出コイルによる第1の誘起電圧を計測する手段と、LC共振型磁気マーカをセットしない状態での検出コイルによる第2の誘起電圧を計測する手段と、第1の誘起電圧と第2の誘起電圧の位相差θを求める手段と、この位相差に基づいてLC共振型磁気マーカの寄与電圧を求める手段とを具備する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LC共振型磁気マーカの位置検出システムに係り、特に、位相計測による複数のLC共振型磁気マーカの位置、方向および等価的磁気モーメント(マーカコイルを鎖交する磁束量に比例)検出システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体内部や生体表面の部位の位置を磁気的な方法で精密に計測する場合には、計測部位に貼付するマーカは電気的引き出し線やバッテリをもたないことが望ましい。これまでに、光学的に遮蔽された空間の位置検出に適した方法として、永久磁石や着磁された磁性体の位置検出方法が開発されてきた(下記非特許文献1−5)。しかしこれらは直流磁界を計測対象としているため、地磁気や低周波雑音の影響を受けやすい欠点がある。
【0003】
一方、LC共振回路によるマーカの位置検出システムとしてはマサチューセッツ工科大学から報告がされている(下記非特許文献6)。しかしこれは、1個のコイルを用いて磁気マーカの位置を大まかに計測するものであり、位置精度は議論できておらず、mmオーダの精密な位置検出システムではない。また、マーカの位置および方向の5自由度を計測することは困難である。また、バッテリを内蔵したアクティブICタグによる位置検出方法も提案されている(下記非特許文献7)が、バッテリを内蔵することによる寸法や動作時間の制約や計測の時間的安定性等の問題がある。
【0004】
本願発明者らは、これまで磁気マーカへの電気的引き出し線が不要であることと外来ノイズに影響を受けにくいことを両立することを目指して、LC共振回路によるマーカを用いた位置検出システムを提案した。マーカの誘導電圧の振幅を計測することにより、直径5mm、長さ10mmの磁気マーカを用いて、2mm程度の位置精度でマーカの位置が検出可能であることを示した(下記非特許文献8)。
【0005】
位置検出システムにおいて、マーカ直径を1mm程度に小型化し、かつ1mm程度の位置精度で計測できれば、マーカを注射針やカテーテル等により生体内へ挿入し、高精度に位置が計測できるため、医療応用の可能性が現時的課題になると考えられる。
【特許文献1】特開2005−121573号公報
【非特許文献1】F.Grant,G.West,Interpretation Theory in Applied Geophysics.New York:McGraw−Hill,1965,pp.306−381.
【非特許文献2】S.V.Marshall,Vehicle Detection Using a Magnetic Field Sensor,IEEE Trans.Vehicular Technology,vol.VT−27,pp.65−68,(1978).
【非特許文献3】W.M.Wynu,C.P.Frahm,P.J.Carroll,R.H.Clark,J.Wellhoner,M.J.Wynn,Advanced Supperconducting Gradiometer/Magnetometer Arrays and A Novel Signal Processing Technique,IEEE Trans.Magn.vol.MAG−11,pp.701−707,(1974).
【非特許文献4】J.E.Mcfee,Y.Das,Determination of the Parameters of a Dipole by Mesurement of its Magnetic Field,IEEE Trans.Antennas and Propagation,vol.AP−29,pp.282−287,(1981).
【非特許文献5】S.Yabukami,K.Arai,H.Kanetaka,S.Tsuji,and K.I.Arai,Journal of the Magnetics Society of Japan,vol.28,pp.711−717,(2004).
【非特許文献6】J.A.Paradiso,K.Hsiao,J.Stricken,J.Lifton,A.Adler,IBM Systems Journal,vol.39,No.3&4,pp.892−914,(2000).
【非特許文献7】S.Watanabe,S.Nishiyama,N.Koshizuka,and K.Sakamura,MWE 2003 Microwave Workshop,pp.245−250,(2003).
【非特許文献8】S.Yabukami,S.Hashi,Y.Tokunaga,T.Kohno,K.I.Arai,and Y.Okazaki,Journal of the Magnetics Society of Japan,vol.28,pp.877−885,(2004).
【非特許文献9】T.Nakagawa,Y.Koyanagi,Experimental Data Analysis by the least square method,p.95−99,The University of Tokyo Press(1982).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明では、磁気マーカの誘導電圧の振幅だけでなく位相も計測対象としてマーカ位置の検出精度を向上させることを目指した。すなわち、上記特許文献1及び非特許文献8においては、マーカの電気的特性やマーカと各コイルの配置によっては、振幅のみからマーカの寄与電圧を求めるだけでは不十分な場合があった。さらに振幅のみを計測対象とする場合には1個のマーカあたり2つの周波数の信号の計測が必要であり、多数個のマーカの位置を検出する場合などに測定装置が煩雑になるといった問題があった。
【0007】
さらに、本発明では個々の検出コイルを同数の高速ADコンバータへ並列に接続し、高速化およびSN比を高めることを意図した。これにより、生体内部や生体表面へマーカを挿入あるいは貼付するための現実的な寸法である、直径1mm程度のマーカの位置、方向および等価的磁気モーメントを計測することを目標とした。
【0008】
上記の目標に基づく位置検出システムを開発し、マーカ用コイルとして、直径1.2mm、長さ10mmの大きさを有する微細なマーカを3次元的な100mm程度の移動で1mm程度の絶対位置精度で計測可能であることを示した。またリアルタイムにマーカの位置を表示可能とした。
【0009】
すなわち、本発明は、上記状況に鑑みて、磁気マーカの誘導電圧の振幅だけでなく位相も計測対象としてマーカ位置の検出精度を向上させることができる高精度LC共振型磁気マーカの位置、方向および等価的磁気モーメントの検出システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕高精度LC共振型磁気マーカの位置、方向および等価的磁気モーメントの検出システムにおいて、励磁コイルと、この励磁コイルと対向する複数の検出コイルと、前記励磁コイルと前記検出コイルとの間に配置されるLC共振型磁気マーカと、前記励磁コイルは前記LC共振型磁気マーカの共振周波数に同調させた交流磁界を発生させ、前記LC共振型磁気マーカからの誘導磁界を前記複数の検出コイルの各検出コイルで計測する手段と、前記LC共振型磁気マーカをセットした状態での前記検出コイルによる第1の誘起電圧を計測する手段と、前記LC共振型磁気マーカをセットしない状態での前記検出コイルによる第2の誘起電圧を計測する手段と、前記第1の誘起電圧と前記第2の誘起電圧の位相差を求める手段と、前記位相差に基づいて前記LC共振型磁気マーカの電圧を求める手段とを具備することを特徴とする。
【0011】
〔2〕上記〔1〕記載の高精度LC共振型磁気マーカの位置、方向および等価的磁気モーメントの検出システムにおいて、前記計測手段は、前記複数の検出コイルの各検出コイル同数の高速ADコンバータへ並列に接続し、高速化およびSN比を高めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、以下のような効果を奏することができる。
【0013】
位相計測による複数マーカの位置検出を行うことができる。つまり、本システムは励磁コイル、検出コイル、LC共振型マーカから構成され、LC共振型マーカの共振周波数に同調させた交流磁界を励磁し、マーカからの誘導磁界を各検出コイルで計測して、マーカの位置、方向および等価的磁気モーメント(マーカコイルを鎖交する磁束量に比例)を最適化する。その場合、図4のベクトル図に記載したように、マーカからの誘導磁界による電圧Vmk(ベクトル量)を求める際にマーカの誘導電圧によるの位相変化Δθを用いるようにした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の高精度LC共振型磁気マーカの位置、方向および等価的磁気モーメント(マーカコイルを鎖交する磁束量に比例)の検出システムは、励磁コイルと、この励磁コイルと対向する複数の検出コイルと、前記励磁コイルと前記検出コイルとの間に配置されるLC共振型磁気マーカと、前記励磁コイルは前記LC共振型磁気マーカの共振周波数に同調させた交流磁界を発生させ、前記LC共振型磁気マーカからの誘導磁界を前記複数の検出コイルの各検出コイルで計測する手段と、前記LC共振型磁気マーカをセットした状態での前記検出コイルによる第1の誘起電圧を計測する手段と、前記LC共振型磁気マーカをセットしない状態での前記検出コイルによる第2の誘起電圧を計測する手段と、前記第1の誘起電圧と前記第2の誘起電圧の位相差を求める手段と、前記位相差に基づいて前記LC共振型磁気マーカの電圧を求める手段とを具備する。
【実施例】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
(1)位相情報を用いた位置、方向およびおよび等価的磁気モーメントの検出方法
(1−1)全体の測定手順
図1は本発明にかかる高精度LC共振型磁気マーカによる位置および方向の検出システムの模式図、図2は本発明にかかる高精度LC共振型磁気マーカの位置および方向を求めるためのフローチャートである。
【0017】
本発明の高精度LC共振型磁気マーカによる位置および方向の検出システムは、この図1に示すように、励磁コイル1と、複数の検出コイル2、LC共振型磁気マーカ3から構成される。このシステムでは、励磁コイル1によりLC共振型磁気マーカ3の共振周波数に同調させた交流磁界を発生させてLC共振型磁気マーカ3を励磁し、このLC共振型磁気マーカ3からの誘導磁界を各検出コイル2で計測して、LC共振型磁気マーカ3からの誘導磁界をダイポール磁界と仮定してLC共振型磁気マーカ3の位置、方向および等価的磁気モーメント(マーカコイルを鎖交する磁束量に比例)を最適化するものである。
【0018】
図2を参照しながら本発明にかかる高精度LC共振型磁気マーカの位置および方向を求める方法について説明する。
【0019】
まず、励磁コイル1と検出コイル2をセットする(ステップS1)。
【0020】
次に、LC共振型磁気マーカ3を取り去った状態で、配置した検出コイル2の誘起電圧を測定し、バックグラウンド電圧(Bbackground)とする(ステップS2)。
【0021】
次に、LC共振型磁気マーカ3を配置して検出コイル2の誘起電圧(Btotal )を測定する(ステップS3)。
【0022】
次に、LC共振型磁気マーカ3の有無による誘起電圧のベクトル的な差分を求めることで、LC共振型磁気マーカ3の寄与分(検出コイルiにおけるLC共振型磁気マーカからの誘起電圧B(i) m)が測定される(ステップS4)。
【0023】
次に、LC共振型磁気マーカ3の位置および方向はLC共振型磁気マーカ3から発生する誘導磁界がダイポール磁界に近似できることを仮定して、下記(1)〜(3)式により位置および方向をGauss−Newton法(非特許文献9参照)により最適化処理する。
【0024】
【数1】
【0025】
(1−2)位相情報を用いた計測方法
図3は本願発明者らが既に提案した、振幅を用いた誘導電圧の計測の説明図、図4は本発明の位相を用いた誘導電圧の計測の説明図である。
【0026】
図3(a)は、特許文献1または非特許文献8に示される、誘導電圧の振幅を計測する際の磁気マーカの寄与電圧と、コイルの誘起電圧の関係をベクトル的に示したものである。
【0027】
ここで、マーカの寄与電圧は下記式(4)のように求めた。
【0028】
【数2】
図3(b)は、マーカを挿入した状態における電圧振幅の周波数依存性を示したものであり、この電圧の極大値および極小値の2つの周波数成分を計測する必要があった。
【0029】
また、図4(b)は、そのマーカの等価回路を模式的に示したものである。図4(b)中のLはインダクタンス、Cはコンデンサのキャパシタンス、Rは内部抵抗、Vは外部から与えられた交流磁界による誘起電圧を等価的な電圧源として表記したもの、Iは電圧源により回路中を流れる誘導電流を示した。
【0030】
共振周波数で計測することで最もSN比が高い計測が可能になるとともに、1マーカあたり1個の周波数でマーカの寄与電圧が計測可能になる。本発明では各検出コイルにおいてマーカがない状態での振幅、および両者の電圧の位相差を測定し、下記式(5)を用いてベクトル的に等価的なマーカ寄与電圧を求めた。
【0031】
【数3】
3.位置検出システム
次に、位置検出システムについて説明する。
【0032】
図5は本発明にかかる試作した位置検出システムの構成を示す図である。
【0033】
計測システムは励磁コイル11、検出コイルアレイ12(20チャンネル)、LC共振型磁気マーカ13、ADコンバータおよびDAコンバータ14(NI PXI−6251:1台)、ADコンバータ15(NI PXI−6250:9台)、制御ユニット(NI PXI−8187)、プリアンプ16(SR560)から構成される。制御用プログラムはLab VIEW ver.7.1、位置および方向の最適化処理プログラムはVisual C++を用いて作成した。ADコンバータであるPXI−6251およびPXI−6250は500k sample/secのサンプリング速度で、1台あたり2チャンネルの16ビット信号を計測するモードで使用し、20チャンネルの検出コイルの誘起電圧を並列に取得できるように構成した。励磁コイルへの電圧はADコンバータおよびDAコンバータPXI−6251からの出力信号をアンプを介して励磁コイルへ接続した。すべてのADコンバータおよびDAコンバータはPXIシステムのため相互に同期が取れており、基準信号に対する位相差を計測可能である。LC共振型磁気マーカは励磁コイルと検出コイルから構成されるユニット内部に配置した。マーカの位置および方向の最適化処理はイーサーネット接続した別のパソコン〔Pentium(登録商標)(R)D,3.20GHz〕で演算し、マーカ位置を画面上に表示させた。
【0034】
図6は本発明にかかる計測システムに用いたPXI制御コントローラ(ADコンバータとDAコンバータを内蔵)、プリアンプおよびディスプレイの写真である。図7は本発明にかかる励磁コイル、検出コイル、マーカの写真である。図7(a)は励磁コイルとマーカ配置を示したものである。励磁コイルおよび検出コイルはアクリルで作成した一辺150mmの立方体に配置し、励磁コイルと検出コイルの面は150mmの距離で対向させた。励磁コイルは一辺約150mmの正方形であり、直径1.0mmの銅線を20ターン施した。図7(b)は検出コイルアレイの写真を示し、図7(c)は検出コイルの配置を示したものである。検出コイルは線径0.2mmの銅線を直径23mm、125ターンのコイルに施し、同一平面上に20個配置した。検出コイルの直径は23mmであり、丸枠内の数値は検出コイルの番号を示している。検出コイルの配置位置は一辺150mmの立方体内部において局所解による影響が十分小さくなることを意図して設計した。
【0035】
図8は本発明にかかる試作したLC共振型マーカの写真を示したものである。マーカはコイル、コンデンサを半田で直列に接続して作製した。マーカは2種類作成し、寸法は表1に示す。
【0036】
【表1】
マーカ1は、直径5mm、長さ20mmのMnZnフェライト(TDK株式会社製EEシリーズ)の周囲に直径0.1mmの銅線を500ターン巻いて外形寸法が長さ20mm、直径約6mmとした。90kHzにおけるインダクタンスは約5.6mHであった。90kHzにおける性能指数は約60であった。コンデンサは、1nFのチップコンデンサ(ROHM社製MCHシリーズ)を使用した。
【0037】
マーカ2は直径1mm、長さ10mmのMnZnフェライトの周囲に直径0.1mmの銅線を1層(77ターン)施したものである。それぞれマーカの共振周波数は約90kHzに設定した。共振周波数における性能指数は約10であった。マーカは非導体による3軸スキャナにより移動させた。
【0038】
(4)実測結果
(4−1)振幅および位相の測定確度
図9は本発明にかかる計測システムにおける振幅および位相の計測確度を測定時間に対して示したものである。それぞれは1000回の測定における標準偏差から求めた。計測時間が長いほど振幅および位相の計測確度は高感度化し、ほぼ平均化回数の1/2乗に反比例した。例えば、測定時間が0.1秒(10Hz)であれば、振幅確度は約1.7μV、位相確度は5.1m度となった。図9(b)はこの測定装置を用いて、検出コイルからの距離が80mmの地点に微細なマーカ2(表1参照)を配置した時の各検出コイルの平均的な信号レベルと図9の振幅角度とのSN比を求めたものである。SN比は最大で100程度得られた。
【0039】
図10(a)は市販のネットワークアナライザ(MS4630B)を本発明で使用したADコンバータの代わりに用い、マーカ2を用いて、上記と同一構成でのSN比を比較したものである。図10(b)はその際のマーカの絶対位置精度を示している。ネットワークアナライザのRBWは100Hz、平均化回数は10回とした。図10(b)の中心付近である約40mmの範囲において1mm以内の絶対位置精度が得られており、それに対するSN比は約50以上であった。このSN比は本発明における検出器を用いた場合のSN比を下回った。
【0040】
以上から本発明で試作した計測部を用いて、1mm程度の絶対位置精度を得る際に必要な計測確度が得られたと言える。
(4−2)磁気マーカの位置および方向
図11は本発明にかかるマーカ1の位置および方向を示したものである。マーカは図8、表1で示した直径6mm、長さ20mmのマーカである。位置は検出コイルからの距離が80mmの位置を基準にして、x軸、y軸、z軸のそれぞれの方向へ10mm刻みで約100mm移動させた。ただし、検出コイルの座標系とマーカ移動用マイクロメータの座標系は一致していないため、得られたマーカの座標はわずかに傾いている。マーカ用コイルの法線方向は図中のy軸方向とほぼ平行になるように配置した。計測周期は1Hzとした。座標軸は図11中に示した。図11(a)はxz平面内での位置を示したものであり、図11(b)はyz平面内での位置を示した。■は実測値であり、破線は理論値である。破線は実測値の軌跡と平行かつほぼ対応するような直線で表記した。さらに:破線の中の◆は10mm刻みのマーカの位置を表し、マーカの理論的な位置を示した。図11(b)および図11(c)からマーカの位置は概ね正しく計測されていると判断される。図11(d)は絶対位置精度を示した。絶対位置精度は図11(a)および図11(b)における■と◆の3次元位置の距離で定義した。横軸は基準位置に対しての移動距離を正規化して示した。図11(d)によれば検出コイルの面から最大で130mmの距離以内で1.5mm以内の絶対位置精度が得られた。全体の約88%の測定点で1mm以内の絶対位置精度が得られた。
【0041】
図11(e)にはマーカの方向角を示した。φは方向ベクトルとz軸とのなす角である。実験した配置はコイルの法線成分がほぼy軸と平行であり、θは定義できないためφのみ記載した。横軸は基準点からの移動距離として表記した。φはおおむね0度近辺の値が得られた。絶対角度精度は±4度以内であった。
【0042】
図12は本発明にかかる微細なマーカ2を用いて得られた位置および方向を示したものである。マーカの移動方法は図11と同一とした。計測周期は1Hzとした。
【0043】
図12(a)はxy平面内のマーカの位置を示したものであり、図12(b)はxz平面内でのマーカの位置を示した。マーカの位置は概ね正確に計測された。図12(c)は絶対位置精度を示した。位置精度は実験した範囲で1.6mm以内であった。全測定点の中の約91%の点で絶対位置精度は1mm以内となり、概ね目標を達成したと考えられる。図12(d)は角度のプロファイルを示したものである。角度精度は概ね±4度以内であった。
【0044】
(4−3)位置精度についての考察
図13は2種類のマーカを基準点(検出コイルアレイからの距離は約80mm)に配置した場合における各検出コイルに対して誤差電圧を示したものである。誤差電圧は下記(6)式によって算出した。
【0045】
V(i) error =V(i) mk−v(i) c …(6)
ただし、Vmkはマーカ寄与電圧の実測値、Vc は最適化処理された位置および方向を上記(2)式へ代入して得られた磁束密度を電圧に換算した計算値、iは検出コイルの番号である。
【0046】
図13によればマーカ1(コイル直径:6mm、コイル長さ:20mm)における誤差電圧は測定器のノイズレベルに比較して十分に大きく、このマーカを用いた位置精度はマーカおよび検出コイルの寸法効果によりダイポール磁界からの誤差が主要因と考えられる。
【0047】
一方、微細なマーカ2(コイル直径:1.2mm、コイル長さ:10mm)における誤差電圧は測定器のノイズレベルに比較して若干大きいものの、ほぼ同程度のオーダであった。このためこのマーカにおける誤差要因はマーカおよび検出コイルの寸法効果と測定器のノイズがともに寄与していると考えられる。
【0048】
上記したように、
(1)本発明のLC共振型磁気マーカの位置検出システムにより、位相情報を用いたリアルタイム動作による位置検出システムを開発することができた。
【0049】
(2)検出コイルからの最大距離130mm、一辺100mmの立方体内部において直径6mm、長さ20mmのマーカで絶対位置精度を1.5mm以内とすることができた。全測定点の約88%の点で絶対位置精度は1mm以内であった。
【0050】
(3)マーカコイルの直径が約1.2mm、長さが10mmのマーカを用いて上記の範囲において絶対位置精度は1.6mm以内であった。全測定点の約91%の点で絶対位置精度は1mm以内であった。
【0051】
また、本発明は、位相情報を用いた位置および方向のみならず、マーカの等価的磁気モーメントの検出を行うことができる。
【0052】
図14は本発明にかかるマーカの等価的磁気モーメントをも検出する場合の磁界センサとマーカの配置を示す図、図15はマーカの正規化された位置(mm)に対するマーカが感じる磁界強度に比例する等価的磁気モーメント(Wbm)を示す図である。
【0053】
図14に示すように、磁界センサ(ピックアップコイルアレイ)21は直方体の後方の一面に配置され、それに対して、Z軸方向に向いているLC共振型磁気マーカ22をX,Y,Zの各軸に平行に移動する。励磁コイル23は直方体の前方の面に配置されている。ここでは、Z軸に対しての移動は、磁界センサ21から遠ざかる方向を負方向とした。励磁コイル23は、図15の横軸で−30mm付近にある。
【0054】
マーカ22が励磁コイル23から離れるにしたがって、マーカを鎖交する磁束は減少するため、等価的磁気モーメント(磁界強度に比例)は小さくなった。励磁コイル23付近で磁界は最大となった。等価的磁気モーメント値は極大となった。また、X方向およびY方向へ平行な方向の移動では、ほぼ等価的磁気モーメント値は変化しないものの、端部では若干減少している。これはマーカ22が励磁コイル23から発生する磁界のうち、Z軸成分を検出していることから考えれば、磁界強度のZ軸成分が端部ほど減少することは合理的な結果である。
【0055】
以上から、等価的磁気モーメントを求めることで、マーカコイルの法線方向の磁界を測定できることが示された。
【0056】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の高精度LC共振型磁気マーカの位置および方向の検出システムは、位相情報を用いたリアルタイム動作による位置検出システムとして利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明にかかる高精度LC共振型磁気マーカによる位置検出システムの模式図である。
【図2】本発明にかかる高精度LC共振型磁気マーカの位置および方向を求めるためのフローチャートである。
【図3】本願発明者らが既に提案した振幅を用いた誘導電圧の計測の説明図である。
【図4】本発明の位相を用いた誘導電圧の計測の説明図である。
【図5】本発明にかかる試作した位置検出システムの構成を示す図である。
【図6】本発明にかかる計測システムに用いたPXI制御コントローラ(ADコンバータとDAコンバータを内蔵)、プリアンプおよびディスプレイの写真(代用図)である。
【図7】本発明にかかる励磁コイル、検出コイル、マーカの写真(代用図)である。
【図8】本発明にかかる試作したLC共振型マーカの写真(代用図)である。
【図9】本発明にかかる計測システムにおける振幅および位相の計測確度を測定時間に対して示した図である。
【図10】本発明にかかるネットワークアナライザーを用いたSN比と位置精度の関係を示す図である。
【図11】本発明にかかるマーカ1の位置および方向を示した図である。
【図12】本発明にかかる微細なマーカ2を用いて得られた位置および方向を示した図である。
【図13】本発明にかかる2種類のマーカを基準点(検出コイルアレイからの距離は約80mm)に配置した場合における各検出コイルに対して誤差電圧を示す図である。
【図14】本発明にかかるマーカの等価的磁気モーメントをも検出する場合の磁界センサとマーカの配置を示す図である。
【図15】正規化された位置(mm)に対するマーカが感じる磁界強度に比例する等価的磁気モーメント(Wbm)を示す図である。
【符号の説明】
【0059】
1,11,23 励磁コイル
2,12 検出コイル
3,13,22 LC共振型磁気マーカ
14 ADコンバータおよびDAコンバータ
15 ADコンバータ
16 プリアンプ16
21 磁界センサ(ピックアップコイルアレイ)
【技術分野】
【0001】
本発明は、LC共振型磁気マーカの位置検出システムに係り、特に、位相計測による複数のLC共振型磁気マーカの位置、方向および等価的磁気モーメント(マーカコイルを鎖交する磁束量に比例)検出システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体内部や生体表面の部位の位置を磁気的な方法で精密に計測する場合には、計測部位に貼付するマーカは電気的引き出し線やバッテリをもたないことが望ましい。これまでに、光学的に遮蔽された空間の位置検出に適した方法として、永久磁石や着磁された磁性体の位置検出方法が開発されてきた(下記非特許文献1−5)。しかしこれらは直流磁界を計測対象としているため、地磁気や低周波雑音の影響を受けやすい欠点がある。
【0003】
一方、LC共振回路によるマーカの位置検出システムとしてはマサチューセッツ工科大学から報告がされている(下記非特許文献6)。しかしこれは、1個のコイルを用いて磁気マーカの位置を大まかに計測するものであり、位置精度は議論できておらず、mmオーダの精密な位置検出システムではない。また、マーカの位置および方向の5自由度を計測することは困難である。また、バッテリを内蔵したアクティブICタグによる位置検出方法も提案されている(下記非特許文献7)が、バッテリを内蔵することによる寸法や動作時間の制約や計測の時間的安定性等の問題がある。
【0004】
本願発明者らは、これまで磁気マーカへの電気的引き出し線が不要であることと外来ノイズに影響を受けにくいことを両立することを目指して、LC共振回路によるマーカを用いた位置検出システムを提案した。マーカの誘導電圧の振幅を計測することにより、直径5mm、長さ10mmの磁気マーカを用いて、2mm程度の位置精度でマーカの位置が検出可能であることを示した(下記非特許文献8)。
【0005】
位置検出システムにおいて、マーカ直径を1mm程度に小型化し、かつ1mm程度の位置精度で計測できれば、マーカを注射針やカテーテル等により生体内へ挿入し、高精度に位置が計測できるため、医療応用の可能性が現時的課題になると考えられる。
【特許文献1】特開2005−121573号公報
【非特許文献1】F.Grant,G.West,Interpretation Theory in Applied Geophysics.New York:McGraw−Hill,1965,pp.306−381.
【非特許文献2】S.V.Marshall,Vehicle Detection Using a Magnetic Field Sensor,IEEE Trans.Vehicular Technology,vol.VT−27,pp.65−68,(1978).
【非特許文献3】W.M.Wynu,C.P.Frahm,P.J.Carroll,R.H.Clark,J.Wellhoner,M.J.Wynn,Advanced Supperconducting Gradiometer/Magnetometer Arrays and A Novel Signal Processing Technique,IEEE Trans.Magn.vol.MAG−11,pp.701−707,(1974).
【非特許文献4】J.E.Mcfee,Y.Das,Determination of the Parameters of a Dipole by Mesurement of its Magnetic Field,IEEE Trans.Antennas and Propagation,vol.AP−29,pp.282−287,(1981).
【非特許文献5】S.Yabukami,K.Arai,H.Kanetaka,S.Tsuji,and K.I.Arai,Journal of the Magnetics Society of Japan,vol.28,pp.711−717,(2004).
【非特許文献6】J.A.Paradiso,K.Hsiao,J.Stricken,J.Lifton,A.Adler,IBM Systems Journal,vol.39,No.3&4,pp.892−914,(2000).
【非特許文献7】S.Watanabe,S.Nishiyama,N.Koshizuka,and K.Sakamura,MWE 2003 Microwave Workshop,pp.245−250,(2003).
【非特許文献8】S.Yabukami,S.Hashi,Y.Tokunaga,T.Kohno,K.I.Arai,and Y.Okazaki,Journal of the Magnetics Society of Japan,vol.28,pp.877−885,(2004).
【非特許文献9】T.Nakagawa,Y.Koyanagi,Experimental Data Analysis by the least square method,p.95−99,The University of Tokyo Press(1982).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明では、磁気マーカの誘導電圧の振幅だけでなく位相も計測対象としてマーカ位置の検出精度を向上させることを目指した。すなわち、上記特許文献1及び非特許文献8においては、マーカの電気的特性やマーカと各コイルの配置によっては、振幅のみからマーカの寄与電圧を求めるだけでは不十分な場合があった。さらに振幅のみを計測対象とする場合には1個のマーカあたり2つの周波数の信号の計測が必要であり、多数個のマーカの位置を検出する場合などに測定装置が煩雑になるといった問題があった。
【0007】
さらに、本発明では個々の検出コイルを同数の高速ADコンバータへ並列に接続し、高速化およびSN比を高めることを意図した。これにより、生体内部や生体表面へマーカを挿入あるいは貼付するための現実的な寸法である、直径1mm程度のマーカの位置、方向および等価的磁気モーメントを計測することを目標とした。
【0008】
上記の目標に基づく位置検出システムを開発し、マーカ用コイルとして、直径1.2mm、長さ10mmの大きさを有する微細なマーカを3次元的な100mm程度の移動で1mm程度の絶対位置精度で計測可能であることを示した。またリアルタイムにマーカの位置を表示可能とした。
【0009】
すなわち、本発明は、上記状況に鑑みて、磁気マーカの誘導電圧の振幅だけでなく位相も計測対象としてマーカ位置の検出精度を向上させることができる高精度LC共振型磁気マーカの位置、方向および等価的磁気モーメントの検出システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕高精度LC共振型磁気マーカの位置、方向および等価的磁気モーメントの検出システムにおいて、励磁コイルと、この励磁コイルと対向する複数の検出コイルと、前記励磁コイルと前記検出コイルとの間に配置されるLC共振型磁気マーカと、前記励磁コイルは前記LC共振型磁気マーカの共振周波数に同調させた交流磁界を発生させ、前記LC共振型磁気マーカからの誘導磁界を前記複数の検出コイルの各検出コイルで計測する手段と、前記LC共振型磁気マーカをセットした状態での前記検出コイルによる第1の誘起電圧を計測する手段と、前記LC共振型磁気マーカをセットしない状態での前記検出コイルによる第2の誘起電圧を計測する手段と、前記第1の誘起電圧と前記第2の誘起電圧の位相差を求める手段と、前記位相差に基づいて前記LC共振型磁気マーカの電圧を求める手段とを具備することを特徴とする。
【0011】
〔2〕上記〔1〕記載の高精度LC共振型磁気マーカの位置、方向および等価的磁気モーメントの検出システムにおいて、前記計測手段は、前記複数の検出コイルの各検出コイル同数の高速ADコンバータへ並列に接続し、高速化およびSN比を高めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、以下のような効果を奏することができる。
【0013】
位相計測による複数マーカの位置検出を行うことができる。つまり、本システムは励磁コイル、検出コイル、LC共振型マーカから構成され、LC共振型マーカの共振周波数に同調させた交流磁界を励磁し、マーカからの誘導磁界を各検出コイルで計測して、マーカの位置、方向および等価的磁気モーメント(マーカコイルを鎖交する磁束量に比例)を最適化する。その場合、図4のベクトル図に記載したように、マーカからの誘導磁界による電圧Vmk(ベクトル量)を求める際にマーカの誘導電圧によるの位相変化Δθを用いるようにした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の高精度LC共振型磁気マーカの位置、方向および等価的磁気モーメント(マーカコイルを鎖交する磁束量に比例)の検出システムは、励磁コイルと、この励磁コイルと対向する複数の検出コイルと、前記励磁コイルと前記検出コイルとの間に配置されるLC共振型磁気マーカと、前記励磁コイルは前記LC共振型磁気マーカの共振周波数に同調させた交流磁界を発生させ、前記LC共振型磁気マーカからの誘導磁界を前記複数の検出コイルの各検出コイルで計測する手段と、前記LC共振型磁気マーカをセットした状態での前記検出コイルによる第1の誘起電圧を計測する手段と、前記LC共振型磁気マーカをセットしない状態での前記検出コイルによる第2の誘起電圧を計測する手段と、前記第1の誘起電圧と前記第2の誘起電圧の位相差を求める手段と、前記位相差に基づいて前記LC共振型磁気マーカの電圧を求める手段とを具備する。
【実施例】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
(1)位相情報を用いた位置、方向およびおよび等価的磁気モーメントの検出方法
(1−1)全体の測定手順
図1は本発明にかかる高精度LC共振型磁気マーカによる位置および方向の検出システムの模式図、図2は本発明にかかる高精度LC共振型磁気マーカの位置および方向を求めるためのフローチャートである。
【0017】
本発明の高精度LC共振型磁気マーカによる位置および方向の検出システムは、この図1に示すように、励磁コイル1と、複数の検出コイル2、LC共振型磁気マーカ3から構成される。このシステムでは、励磁コイル1によりLC共振型磁気マーカ3の共振周波数に同調させた交流磁界を発生させてLC共振型磁気マーカ3を励磁し、このLC共振型磁気マーカ3からの誘導磁界を各検出コイル2で計測して、LC共振型磁気マーカ3からの誘導磁界をダイポール磁界と仮定してLC共振型磁気マーカ3の位置、方向および等価的磁気モーメント(マーカコイルを鎖交する磁束量に比例)を最適化するものである。
【0018】
図2を参照しながら本発明にかかる高精度LC共振型磁気マーカの位置および方向を求める方法について説明する。
【0019】
まず、励磁コイル1と検出コイル2をセットする(ステップS1)。
【0020】
次に、LC共振型磁気マーカ3を取り去った状態で、配置した検出コイル2の誘起電圧を測定し、バックグラウンド電圧(Bbackground)とする(ステップS2)。
【0021】
次に、LC共振型磁気マーカ3を配置して検出コイル2の誘起電圧(Btotal )を測定する(ステップS3)。
【0022】
次に、LC共振型磁気マーカ3の有無による誘起電圧のベクトル的な差分を求めることで、LC共振型磁気マーカ3の寄与分(検出コイルiにおけるLC共振型磁気マーカからの誘起電圧B(i) m)が測定される(ステップS4)。
【0023】
次に、LC共振型磁気マーカ3の位置および方向はLC共振型磁気マーカ3から発生する誘導磁界がダイポール磁界に近似できることを仮定して、下記(1)〜(3)式により位置および方向をGauss−Newton法(非特許文献9参照)により最適化処理する。
【0024】
【数1】
【0025】
(1−2)位相情報を用いた計測方法
図3は本願発明者らが既に提案した、振幅を用いた誘導電圧の計測の説明図、図4は本発明の位相を用いた誘導電圧の計測の説明図である。
【0026】
図3(a)は、特許文献1または非特許文献8に示される、誘導電圧の振幅を計測する際の磁気マーカの寄与電圧と、コイルの誘起電圧の関係をベクトル的に示したものである。
【0027】
ここで、マーカの寄与電圧は下記式(4)のように求めた。
【0028】
【数2】
図3(b)は、マーカを挿入した状態における電圧振幅の周波数依存性を示したものであり、この電圧の極大値および極小値の2つの周波数成分を計測する必要があった。
【0029】
また、図4(b)は、そのマーカの等価回路を模式的に示したものである。図4(b)中のLはインダクタンス、Cはコンデンサのキャパシタンス、Rは内部抵抗、Vは外部から与えられた交流磁界による誘起電圧を等価的な電圧源として表記したもの、Iは電圧源により回路中を流れる誘導電流を示した。
【0030】
共振周波数で計測することで最もSN比が高い計測が可能になるとともに、1マーカあたり1個の周波数でマーカの寄与電圧が計測可能になる。本発明では各検出コイルにおいてマーカがない状態での振幅、および両者の電圧の位相差を測定し、下記式(5)を用いてベクトル的に等価的なマーカ寄与電圧を求めた。
【0031】
【数3】
3.位置検出システム
次に、位置検出システムについて説明する。
【0032】
図5は本発明にかかる試作した位置検出システムの構成を示す図である。
【0033】
計測システムは励磁コイル11、検出コイルアレイ12(20チャンネル)、LC共振型磁気マーカ13、ADコンバータおよびDAコンバータ14(NI PXI−6251:1台)、ADコンバータ15(NI PXI−6250:9台)、制御ユニット(NI PXI−8187)、プリアンプ16(SR560)から構成される。制御用プログラムはLab VIEW ver.7.1、位置および方向の最適化処理プログラムはVisual C++を用いて作成した。ADコンバータであるPXI−6251およびPXI−6250は500k sample/secのサンプリング速度で、1台あたり2チャンネルの16ビット信号を計測するモードで使用し、20チャンネルの検出コイルの誘起電圧を並列に取得できるように構成した。励磁コイルへの電圧はADコンバータおよびDAコンバータPXI−6251からの出力信号をアンプを介して励磁コイルへ接続した。すべてのADコンバータおよびDAコンバータはPXIシステムのため相互に同期が取れており、基準信号に対する位相差を計測可能である。LC共振型磁気マーカは励磁コイルと検出コイルから構成されるユニット内部に配置した。マーカの位置および方向の最適化処理はイーサーネット接続した別のパソコン〔Pentium(登録商標)(R)D,3.20GHz〕で演算し、マーカ位置を画面上に表示させた。
【0034】
図6は本発明にかかる計測システムに用いたPXI制御コントローラ(ADコンバータとDAコンバータを内蔵)、プリアンプおよびディスプレイの写真である。図7は本発明にかかる励磁コイル、検出コイル、マーカの写真である。図7(a)は励磁コイルとマーカ配置を示したものである。励磁コイルおよび検出コイルはアクリルで作成した一辺150mmの立方体に配置し、励磁コイルと検出コイルの面は150mmの距離で対向させた。励磁コイルは一辺約150mmの正方形であり、直径1.0mmの銅線を20ターン施した。図7(b)は検出コイルアレイの写真を示し、図7(c)は検出コイルの配置を示したものである。検出コイルは線径0.2mmの銅線を直径23mm、125ターンのコイルに施し、同一平面上に20個配置した。検出コイルの直径は23mmであり、丸枠内の数値は検出コイルの番号を示している。検出コイルの配置位置は一辺150mmの立方体内部において局所解による影響が十分小さくなることを意図して設計した。
【0035】
図8は本発明にかかる試作したLC共振型マーカの写真を示したものである。マーカはコイル、コンデンサを半田で直列に接続して作製した。マーカは2種類作成し、寸法は表1に示す。
【0036】
【表1】
マーカ1は、直径5mm、長さ20mmのMnZnフェライト(TDK株式会社製EEシリーズ)の周囲に直径0.1mmの銅線を500ターン巻いて外形寸法が長さ20mm、直径約6mmとした。90kHzにおけるインダクタンスは約5.6mHであった。90kHzにおける性能指数は約60であった。コンデンサは、1nFのチップコンデンサ(ROHM社製MCHシリーズ)を使用した。
【0037】
マーカ2は直径1mm、長さ10mmのMnZnフェライトの周囲に直径0.1mmの銅線を1層(77ターン)施したものである。それぞれマーカの共振周波数は約90kHzに設定した。共振周波数における性能指数は約10であった。マーカは非導体による3軸スキャナにより移動させた。
【0038】
(4)実測結果
(4−1)振幅および位相の測定確度
図9は本発明にかかる計測システムにおける振幅および位相の計測確度を測定時間に対して示したものである。それぞれは1000回の測定における標準偏差から求めた。計測時間が長いほど振幅および位相の計測確度は高感度化し、ほぼ平均化回数の1/2乗に反比例した。例えば、測定時間が0.1秒(10Hz)であれば、振幅確度は約1.7μV、位相確度は5.1m度となった。図9(b)はこの測定装置を用いて、検出コイルからの距離が80mmの地点に微細なマーカ2(表1参照)を配置した時の各検出コイルの平均的な信号レベルと図9の振幅角度とのSN比を求めたものである。SN比は最大で100程度得られた。
【0039】
図10(a)は市販のネットワークアナライザ(MS4630B)を本発明で使用したADコンバータの代わりに用い、マーカ2を用いて、上記と同一構成でのSN比を比較したものである。図10(b)はその際のマーカの絶対位置精度を示している。ネットワークアナライザのRBWは100Hz、平均化回数は10回とした。図10(b)の中心付近である約40mmの範囲において1mm以内の絶対位置精度が得られており、それに対するSN比は約50以上であった。このSN比は本発明における検出器を用いた場合のSN比を下回った。
【0040】
以上から本発明で試作した計測部を用いて、1mm程度の絶対位置精度を得る際に必要な計測確度が得られたと言える。
(4−2)磁気マーカの位置および方向
図11は本発明にかかるマーカ1の位置および方向を示したものである。マーカは図8、表1で示した直径6mm、長さ20mmのマーカである。位置は検出コイルからの距離が80mmの位置を基準にして、x軸、y軸、z軸のそれぞれの方向へ10mm刻みで約100mm移動させた。ただし、検出コイルの座標系とマーカ移動用マイクロメータの座標系は一致していないため、得られたマーカの座標はわずかに傾いている。マーカ用コイルの法線方向は図中のy軸方向とほぼ平行になるように配置した。計測周期は1Hzとした。座標軸は図11中に示した。図11(a)はxz平面内での位置を示したものであり、図11(b)はyz平面内での位置を示した。■は実測値であり、破線は理論値である。破線は実測値の軌跡と平行かつほぼ対応するような直線で表記した。さらに:破線の中の◆は10mm刻みのマーカの位置を表し、マーカの理論的な位置を示した。図11(b)および図11(c)からマーカの位置は概ね正しく計測されていると判断される。図11(d)は絶対位置精度を示した。絶対位置精度は図11(a)および図11(b)における■と◆の3次元位置の距離で定義した。横軸は基準位置に対しての移動距離を正規化して示した。図11(d)によれば検出コイルの面から最大で130mmの距離以内で1.5mm以内の絶対位置精度が得られた。全体の約88%の測定点で1mm以内の絶対位置精度が得られた。
【0041】
図11(e)にはマーカの方向角を示した。φは方向ベクトルとz軸とのなす角である。実験した配置はコイルの法線成分がほぼy軸と平行であり、θは定義できないためφのみ記載した。横軸は基準点からの移動距離として表記した。φはおおむね0度近辺の値が得られた。絶対角度精度は±4度以内であった。
【0042】
図12は本発明にかかる微細なマーカ2を用いて得られた位置および方向を示したものである。マーカの移動方法は図11と同一とした。計測周期は1Hzとした。
【0043】
図12(a)はxy平面内のマーカの位置を示したものであり、図12(b)はxz平面内でのマーカの位置を示した。マーカの位置は概ね正確に計測された。図12(c)は絶対位置精度を示した。位置精度は実験した範囲で1.6mm以内であった。全測定点の中の約91%の点で絶対位置精度は1mm以内となり、概ね目標を達成したと考えられる。図12(d)は角度のプロファイルを示したものである。角度精度は概ね±4度以内であった。
【0044】
(4−3)位置精度についての考察
図13は2種類のマーカを基準点(検出コイルアレイからの距離は約80mm)に配置した場合における各検出コイルに対して誤差電圧を示したものである。誤差電圧は下記(6)式によって算出した。
【0045】
V(i) error =V(i) mk−v(i) c …(6)
ただし、Vmkはマーカ寄与電圧の実測値、Vc は最適化処理された位置および方向を上記(2)式へ代入して得られた磁束密度を電圧に換算した計算値、iは検出コイルの番号である。
【0046】
図13によればマーカ1(コイル直径:6mm、コイル長さ:20mm)における誤差電圧は測定器のノイズレベルに比較して十分に大きく、このマーカを用いた位置精度はマーカおよび検出コイルの寸法効果によりダイポール磁界からの誤差が主要因と考えられる。
【0047】
一方、微細なマーカ2(コイル直径:1.2mm、コイル長さ:10mm)における誤差電圧は測定器のノイズレベルに比較して若干大きいものの、ほぼ同程度のオーダであった。このためこのマーカにおける誤差要因はマーカおよび検出コイルの寸法効果と測定器のノイズがともに寄与していると考えられる。
【0048】
上記したように、
(1)本発明のLC共振型磁気マーカの位置検出システムにより、位相情報を用いたリアルタイム動作による位置検出システムを開発することができた。
【0049】
(2)検出コイルからの最大距離130mm、一辺100mmの立方体内部において直径6mm、長さ20mmのマーカで絶対位置精度を1.5mm以内とすることができた。全測定点の約88%の点で絶対位置精度は1mm以内であった。
【0050】
(3)マーカコイルの直径が約1.2mm、長さが10mmのマーカを用いて上記の範囲において絶対位置精度は1.6mm以内であった。全測定点の約91%の点で絶対位置精度は1mm以内であった。
【0051】
また、本発明は、位相情報を用いた位置および方向のみならず、マーカの等価的磁気モーメントの検出を行うことができる。
【0052】
図14は本発明にかかるマーカの等価的磁気モーメントをも検出する場合の磁界センサとマーカの配置を示す図、図15はマーカの正規化された位置(mm)に対するマーカが感じる磁界強度に比例する等価的磁気モーメント(Wbm)を示す図である。
【0053】
図14に示すように、磁界センサ(ピックアップコイルアレイ)21は直方体の後方の一面に配置され、それに対して、Z軸方向に向いているLC共振型磁気マーカ22をX,Y,Zの各軸に平行に移動する。励磁コイル23は直方体の前方の面に配置されている。ここでは、Z軸に対しての移動は、磁界センサ21から遠ざかる方向を負方向とした。励磁コイル23は、図15の横軸で−30mm付近にある。
【0054】
マーカ22が励磁コイル23から離れるにしたがって、マーカを鎖交する磁束は減少するため、等価的磁気モーメント(磁界強度に比例)は小さくなった。励磁コイル23付近で磁界は最大となった。等価的磁気モーメント値は極大となった。また、X方向およびY方向へ平行な方向の移動では、ほぼ等価的磁気モーメント値は変化しないものの、端部では若干減少している。これはマーカ22が励磁コイル23から発生する磁界のうち、Z軸成分を検出していることから考えれば、磁界強度のZ軸成分が端部ほど減少することは合理的な結果である。
【0055】
以上から、等価的磁気モーメントを求めることで、マーカコイルの法線方向の磁界を測定できることが示された。
【0056】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の高精度LC共振型磁気マーカの位置および方向の検出システムは、位相情報を用いたリアルタイム動作による位置検出システムとして利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明にかかる高精度LC共振型磁気マーカによる位置検出システムの模式図である。
【図2】本発明にかかる高精度LC共振型磁気マーカの位置および方向を求めるためのフローチャートである。
【図3】本願発明者らが既に提案した振幅を用いた誘導電圧の計測の説明図である。
【図4】本発明の位相を用いた誘導電圧の計測の説明図である。
【図5】本発明にかかる試作した位置検出システムの構成を示す図である。
【図6】本発明にかかる計測システムに用いたPXI制御コントローラ(ADコンバータとDAコンバータを内蔵)、プリアンプおよびディスプレイの写真(代用図)である。
【図7】本発明にかかる励磁コイル、検出コイル、マーカの写真(代用図)である。
【図8】本発明にかかる試作したLC共振型マーカの写真(代用図)である。
【図9】本発明にかかる計測システムにおける振幅および位相の計測確度を測定時間に対して示した図である。
【図10】本発明にかかるネットワークアナライザーを用いたSN比と位置精度の関係を示す図である。
【図11】本発明にかかるマーカ1の位置および方向を示した図である。
【図12】本発明にかかる微細なマーカ2を用いて得られた位置および方向を示した図である。
【図13】本発明にかかる2種類のマーカを基準点(検出コイルアレイからの距離は約80mm)に配置した場合における各検出コイルに対して誤差電圧を示す図である。
【図14】本発明にかかるマーカの等価的磁気モーメントをも検出する場合の磁界センサとマーカの配置を示す図である。
【図15】正規化された位置(mm)に対するマーカが感じる磁界強度に比例する等価的磁気モーメント(Wbm)を示す図である。
【符号の説明】
【0059】
1,11,23 励磁コイル
2,12 検出コイル
3,13,22 LC共振型磁気マーカ
14 ADコンバータおよびDAコンバータ
15 ADコンバータ
16 プリアンプ16
21 磁界センサ(ピックアップコイルアレイ)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)励磁コイルと、
(b)該励磁コイルと対向する複数の検出コイルと、
(c)前記励磁コイルと前記検出コイルとの間に配置されるLC共振型磁気マーカと、
(d)前記励磁コイルは前記LC共振型磁気マーカの共振周波数に同調させた交流磁界を発生させ、前記LC共振型磁気マーカからの誘導磁界を前記複数の検出コイルの各検出コイルで計測する計測手段と、
(e)前記LC共振型磁気マーカをセットした状態での前記検出コイルによる第1の誘起電圧を計測する手段と、
(f)前記LC共振型磁気マーカをセットしない状態での前記検出コイルによる第2の誘起電圧を計測する手段と、
(g)前記第1の誘起電圧と前記第2の誘起電圧の位相差を求める手段と、
(h)前記位相差に基づいて前記LC共振型磁気マーカの寄与電圧を求める手段とを具備することを特徴とする位相計測による高精度LC共振型磁気マーカの位置、方向および等価的磁気モーメントの検出システム。
【請求項2】
請求項1記載の高精度LC共振型磁気マーカの位置および等価的磁気モーメントの検出システムにおいて、前記計測手段は、前記複数の検出コイルの各検出コイル同数の高速ADコンバータへ並列に接続し、高速化およびSN比を高めることを特徴とする高精度LC共振型磁気マーカの位置、方向および等価的磁気モーメントの検出システム。
【請求項1】
(a)励磁コイルと、
(b)該励磁コイルと対向する複数の検出コイルと、
(c)前記励磁コイルと前記検出コイルとの間に配置されるLC共振型磁気マーカと、
(d)前記励磁コイルは前記LC共振型磁気マーカの共振周波数に同調させた交流磁界を発生させ、前記LC共振型磁気マーカからの誘導磁界を前記複数の検出コイルの各検出コイルで計測する計測手段と、
(e)前記LC共振型磁気マーカをセットした状態での前記検出コイルによる第1の誘起電圧を計測する手段と、
(f)前記LC共振型磁気マーカをセットしない状態での前記検出コイルによる第2の誘起電圧を計測する手段と、
(g)前記第1の誘起電圧と前記第2の誘起電圧の位相差を求める手段と、
(h)前記位相差に基づいて前記LC共振型磁気マーカの寄与電圧を求める手段とを具備することを特徴とする位相計測による高精度LC共振型磁気マーカの位置、方向および等価的磁気モーメントの検出システム。
【請求項2】
請求項1記載の高精度LC共振型磁気マーカの位置および等価的磁気モーメントの検出システムにおいて、前記計測手段は、前記複数の検出コイルの各検出コイル同数の高速ADコンバータへ並列に接続し、高速化およびSN比を高めることを特徴とする高精度LC共振型磁気マーカの位置、方向および等価的磁気モーメントの検出システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2007−170976(P2007−170976A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−368926(P2005−368926)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年9月19日〜22日 社団法人日本応用磁気学会主催の「第29回日本応用磁気学会学術講演会」において文書をもって発表
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年9月19日〜22日 社団法人日本応用磁気学会主催の「第29回日本応用磁気学会学術講演会」において文書をもって発表
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
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