説明

高純度オキシジフタル酸無水物およびその製造方法

【課題】 オキシジフタル酸無水物を含むポリイミドを製造するに際し、十分に強度が高いものとすることができるような高純度のオキシジフタル酸無水物、ならびにその工業的に簡易な製造方法を提供する。
【解決手段】 投影面積円相当径が5〜20μmの不溶性微粒体の含有量が1g当り3000個以下であり、かつ、アセトニトリルに溶解された濃度が4g/Lである溶液の、光路長1cmにおける400nmの光線透過率が98.5%以上である高純度オキシジフタル酸無水物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造分野における高精細感光性ポリイミドのモノマーとして好適な高純度オキシジフタル酸無水物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オキシジフタル酸無水物(以下、ODPAと略称することがある)は、耐熱性の高いポリイミドに、透明性や熱可塑性を付与するモノマーである。このため、ODPAは、透明ポリイミドフィルムや電子材料・半導体関連用途のポリイミド原料として利用されている。
ODPAの工業的に有利な製造方法としては、ニトロフタル酸(無水物)を亜硝酸(塩)の存在下にカップリングさせる方法(特許文献1参照)、置換基を有してもよいフタルイミドを、化学量論量の亜硝酸塩及び/又は炭酸塩を作用させることによりジアリールエーテル化したのち、イミド環を加水分解し、更にテトラカルボン酸を無水物化する方法(特許文献2参照)、や、ハロゲン化無水フタル酸二分子を、化学量論量の炭酸塩と、ホスホニウム塩などの相間移動触媒の存在下で反応させ、カップリングすることにより製造する方法(特許文献3参照)が知られている。
【0003】
こうして得られた粗ODPAを精製する方法としては、酢酸等の有機溶媒で洗浄する方法(特許文献3参照)や、プロピオン酸水溶液中で加水分解してテトラカルボン酸としたのち、加熱することにより脱水閉環し再び酸二無水物とする方法により精製する方法が知られている。(特許文献4参照)
【特許文献1】特開昭55−136246号公報
【特許文献2】中国特許第1036065号公報
【特許文献3】特許第3204641号公報
【特許文献4】特公平7−98774号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らが、上述の方法により製造して得られた粗ODPAを有機溶媒で洗浄して得た精製ODPAを用いてポリイミドフィルムを製造し、性能評価を試みたところ、引張試験において降伏点以前においてフィルムが破断するというような事象が頻発した。つまり、公知の方法によって製造したODPAを用いてポリイミドを製造しても、得られるポリイミドの強度が低く、製品として十分な性能を示さなかった。
【0005】
本発明の目的は、ODPAとジアミンから得られるポリイミドを製造するに際し、十分な強度を有するポリイミドを得るためのODPA、ならびにその工業的に簡易な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の方法によって精製したODPAを用いて製造したポリイミドは、その強度並びに透明性が向上することを見出し、更には、ポリイミドの強度の低下が特定の不純物に起因することを見出して本発明を達成した。
すなわち、本発明の要旨は、
(1)投影面積円相当径が5〜20μmの不溶性微粒体の含有量が1g当り3000個以下であり、かつ、アセトニトリルに4g/Lで溶解した溶液の光路長1cmにおける400nmの光線透過率が98.5%以上である高純度オキシジフタル酸無水物。
(2)ハロゲン原子含有量が9.0μmol/g以下である(1)に記載の高純度オキシジフタル酸無水物。
(3)窒素原子の含有量が14μmol/g以下である(1)または(2)に記載の高純度オキシジフタル酸無水物。
(4)粗オキシジフタル酸無水物を、以下の工程Aおよび工程Bを含む工程により精製することを特徴とする高純度オキシジフタル酸無水物の製造方法。
【0007】
工程A:粗オキシジフタル酸無水物を、150℃以上350℃以下の温度に加熱して蒸発および/または昇華させ、次いでその蒸発および/または昇華した蒸気を凝結して回収する工程
工程B:粗オキシジフタル酸無水物を、粗オキシジフタル酸無水物の重量に対して0.5〜20倍の炭素数6以下の有機酸または炭素数12以下の有機酸エステル類またはケトン類から選ばれる1種以上の溶媒により洗浄する工程
(5)ハロゲン化フタル酸類を炭酸塩および/またはハロゲン化フタル酸塩と反応させて得られる粗オキシジフタル酸無水物を、工程Aの後に工程Bを行う工程により精製する、(4)に記載の高純度オキシジフタル酸無水物の製造方法。
(6)置換フタルイミド類をカップリングして得られる粗オキシジフタル酸無水物を、工程Bの後に工程Aを行う工程により精製する、(4)に記載の高純度オキシジフタル酸無水物の製造方法。
(7)窒素含量が14μmol/g以下の粗オキシジフタル酸無水物を、150℃以上350℃以下の温度に加熱して蒸発および/または昇華させ、次いでその蒸発および/または昇華した蒸気を凝結して回収することを特徴とする、高純度オキシジフタル酸無水物の製造方法。
(8)粗オキシジフタル酸無水物が、置換フタルイミド類をカップリングして得られる粗オキシジフタル酸無水物である(7)に記載の高純度オキシジフタル酸無水物の製造方法。
(9)(4)〜(8)のいずれか1項に記載の方法により製造された高純度オキシジフタル酸無水物。
(10)(1)〜(3)および(9)のいずれか1項に記載の高純度オキシジフタル酸無水物を構成成分として有するポリイミド。
(11)オキシジフタル酸無水物構成単位およびジアミン構成単位を含むポリイミドであって、厚さ20μm、長さ50mm(引っ張り部の長さ20mm)、幅10mmの該ポリイミドフィルムを、JIS K 7113の規定に準拠して測定した破断伸びが25%以上であるポリイミド。
及び、
(12)オキシジフタル酸無水物構成単位およびジアミン構成単位を含むポリイミドであって、厚さ20μm、長さ50mm(引っ張り部の長さ20mm)、幅10mmの該ポリイミドフィルムを、JIS K 7113の規定に準じて測定した破断応力が130MPa以上である(11)に記載のポリイミド。
に存する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の高純度ODPAは、特にポリイミドの製造に適した高品質なODPAを提供するものであり、ジアミンと重合させることにより高粘度のポリアミック酸を製造することができる。更には、高耐熱・高透明性のポリイミドフィルムや、半導体製造分野で用いられる高精細感光性ポリイミドを、十分強度が高く、かつ不良率を極めて低く製造することができる。
【0009】
また本発明の高純度ODPAの製造方法によれば、工業的に有利かつ簡易な工程により高純度ODPAを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
1.高純度ODPAの製造方法
(1)粗ODPA
精製に供される粗ODPAの製造方法に関しては特に限定されず、公知の方法、例えば
特開昭55−136246号公報、中国特許第1036065号公報、および特許第3204641号公報などに記載の方法で製造されたODPAを使用できるが、代表的には以下の(1−1)〜(1−3)に記載の方法により製造されたODPAが好ましい。
【0011】
(1−1) ニトロフタル酸またはニトロフタル酸無水物を出発原料として製造する方法
本方法は、ニトロフタル酸またはその無水物を、亜硝酸または亜硝酸塩の存在下にジアリールエーテル化させることによりオキシジフタル酸またはODPAを製造するものである。以下、詳細に説明する。
(a)ニトロフタル酸またはその無水物
本方法においては、ニトロフタル酸またはニトロフタル酸無水物のいずれも使用できるが、ニトロフタル酸の場合にはカップリング後に得られるオキシジフタル酸をさらに酸無水物化する工程を要するため、直接ODPAに変換可能なニトロフタル酸無水物を基質として用いることが好ましい。ニトロフタル酸無水物としては、下記式(1)に記載のものが好ましい。芳香環上のニトロ基の置換位置に特に制限はなく、3−体、4−体のいずれも用いられる。これらの異性体は単一であってもよいし、あるいは混合物として反応に供することもできる。
【0012】
【化1】

【0013】
式(1)中、Yはニトロ基を表す。
(b)亜硝酸または亜硝酸塩
本反応では、亜硝酸または亜硝酸塩を反応の触媒として作用する。中でも亜硝酸塩が好ましい。用いられる亜硝酸塩の種類としては、通常アルカリ金属またはアルカリ土類金属の亜硝酸塩であるが、なかでも亜硝酸ナトリウムが好ましく用いられる。
【0014】
反応に供する亜硝酸または亜硝酸塩の使用量は、反応基質であるニトロフタル酸または無水物に対して特に制限は無いが、通常1以下の物質量比で使用され、好ましくは、亜硝酸基として0.05〜20mol%の添加量である。
(c)反応溶媒
本方法においては、非プロトン性極性溶媒中で反応を実施するが、溶媒の種類に特に制限は無い。通常は、ジメチルスルホキシド、スルホラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ヘキサメチルホスホリルトリアミドなどが好ましく用いられる。溶媒の使用量はニトロフタル酸またはニトロフタル酸無水物の濃度が、下限が通常1重量%以上、好ましくは5重量%以上、上限が通常30重量%以下、好ましくは20重量%以下の比率となるような範囲で用いられる。
(d)反応方法
反応温度は、下限が通常50℃以上、好ましくは80℃以上、上限が通常200℃以下、好ましくは150℃以下の範囲で実施される。反応は通常大気圧下で実施されるが、減圧、あるいは加圧条件下に実施してもよい。
【0015】
反応は空気雰囲気下でも実施可能であるが、窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気で実施されることがより好ましい。反応時間は好ましくは0.5時間以上24時間以下である。反応終了後は通常公知の方法に従い、減圧下に溶媒を除去し析出する固体を水洗すれば目的物の粗ODPAまたは粗オキシジフタル酸が得られる。オキシジフタル酸は、無水酢酸と反応させるか、あるいは100℃以上に有機溶剤と加熱し脱水させる等の公知の方法に従ってODPAに変換される。
【0016】
(1−2) 置換基を有してもよいフタルイミドを出発原料として製造する方法
本方法は、置換基を有してもよいフタルイミドと、亜硝酸または亜硝酸塩、必要に応じて更に炭酸塩とを作用させることによりジアリールエーテル化したのち、イミド環を加水分解し、更にテトラカルボン酸を無水物化する。以下、詳細に説明する。
(a)置換基を有してもよいフタルイミド
本方法に用いられるフタルイミド類は下記式(2)に記載のものが好ましい。芳香環上のニトロ基の置換位置に特に制限はなく、3−体、4−体のいずれも用いられる。Rの種類は通常水素原子、メチル基またはエチル基から選ばれる1種であり、特にメチル基が好ましい。これらの異性体は単一であってもよいし、あるいは混合物として反応に供することもできる。
【0017】
【化2】

【0018】
式(2)中、Yはニトロ基、Rは水素原子または炭化水素基を表す。
Rの炭化水素基の炭素数は、通常1以上であって、通常6以下、好ましくは4以下、より好ましくは3以下、更に好ましくは2以下である。炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基およびアリーレン基が好ましく、アルキル基が好ましい。アルキル基の中ではメチル基、エチル基、およびプロピル基が好ましく挙げられ、メチル基およびエチル基がより好ましい。
【0019】
これらの中でも、水素原子、メチル基およびエチル基が好ましい。
(b)亜硝酸または亜硝酸塩
本反応において用いられる亜硝酸または亜硝酸塩としては、亜硝酸塩が好ましい。亜硝酸塩としては通常アルカリ金属またはアルカリ土類金属の亜硝酸塩が用いられる。アルカリ金属またはアルカリ土類金属の亜硝酸塩としては、亜硝酸ナトリウムが好ましい。
【0020】
亜硝酸または亜硝酸塩の使用量は特に制限されないが、反応基質であるニトロフタルイミドに対して通常1以下の物質量比で使用され、好ましくは、亜硝酸基として0.05〜20mol%である。
(c)炭酸塩
ジアリールエーテル化反応においては、亜硝酸塩に加えてさらに炭酸塩を触媒の第二成分として添加すると反応活性の向上が見られる。使用される炭酸塩は、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムであり、反応性と入手容易性の観点から、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウムまたは炭酸セシウムがより好ましく、炭酸カリウムがもっとも好ましく用いられる。
【0021】
炭酸塩の使用量は、亜硝酸塩に対して物質量比で通常10〜40mol%、好ましくは20〜35mol%の範囲で用いられる。
(d)反応溶媒
本方法においては、溶媒の種類に特に制限は無いが、非プロトン性極性溶媒中で反応を実施することが好ましい。通常は、ジメチルスルホキシド、スルホラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ヘキサメチルホスホリルトリアミドなどが好ましく用いられる。反応温度を調節する目的で、これらの溶媒に、トルエン、キシレンなどの非プロトン性溶媒を添加して混合溶媒として用いることもできる。溶媒の使用量はニトロフタルイミドの濃度が、下限が通常1重量%以上、好ましくは5重量%以上、上限が通常30重量%以下、好ましくは20重量%以下の比率となる範囲で用いられる。
(e)反応方法
反応温度は、下限が通常120℃以上、好ましくは150℃以上、上限が通常220℃以下、好ましくは200℃以下の範囲で実施されるが、特に162〜168℃の温度範囲が最も好適である。反応溶媒の種類を複数混合し、その還流温度がこの温度範囲となるように調節することが好ましい。例えば、1モルのN−メチル−4−ニトロフタルイミドに、N,N−ジメチルアセトアミド500mlとキシレン150mlを混合することにより、還流温度をこの温度範囲とすることができる。反応は通常大気圧下で実施されるが、減圧、あるいは加圧条件下に実施してもよい。
【0022】
反応は空気雰囲気下でも実施可能であるが、窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気で実施されることがより好ましい。反応時間は好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上、更に好ましくは4時間以上であって、好ましくは24時間以下、より好ましくは12時間以下、更に好ましくは8時間以下である。反応は、通常、反応原料を適切に撹拌しながら所定の反応温度に加熱することにより開始される。
(f)反応後の処理
反応終了後は公知の方法に従い、溶媒を蒸発除去し水洗後、回収される固体を通常100℃以上で減圧下乾燥することにより下式(3)に示すジアリールエーテルビスイミドが製造される。
【0023】
【化3】

【0024】
式(3)中、Rは式(2)のRに対応するものである。
(g)イミド環の加水分解
ジアリールエーテルビスイミドは周知の方法により引き続き加水分解されてオキシジフタル酸に変換される。本加水分解工程は通常、水溶液中で塩基を作用させることにより行われる。使用する水の量は、通常ジアリールエーテルビスイミドの重量に対して1〜100倍量である。用いる塩基の種類には特に限定はないが、通常、水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩、リン酸水素塩および有機カルボン酸塩のアルカリ金属、アルカリ土類金属またはアンモニウム塩が用いられ、水酸化物または炭酸塩が好ましく、経済性の観点から水酸化ナトリウムが最も好ましい。塩基の量はジアリールエーテルビスイミドに対して下限は通常1当量以上、好ましくは1.5当量以上、より好ましくは2当量以上であり、上限は特に制限はないが通常100当量以下である。反応は室温でも実施しうるが、反応効率を向上させるために通常70〜100℃に加熱される。反応は大気圧下で実施されるが、加圧条件で反応させてもよい。反応時間は通常0.5〜24時間の範囲で実施される。反応終了後にさらに脱色の目的で活性炭と接触処理することができる。反応液はろ過後室温まで冷却され、酸析処理するとオキシジフタル酸が白色固体として析出するので、これをろ過し乾燥することによりオキシジフタル酸が得られる。酸析時に添加される酸の種類はオキシジフタル酸のテトラカルボン酸塩を中和しうるものであれば何でも良いが、通常、塩酸、硝酸または硫酸が用いられる。添加する酸の量は、加水分解工程で使用した塩基の物質量に対して少なくとも当量以上であり、酸添加後の溶液のpHが3〜4の範囲とすることが好ましい。
【0025】
(h)オキシジフタル酸の無水物化
オキシジフタル酸は、周知の方法により無水化されてODPAに変換される。例えば、オキシジフタル酸に酸無水物を作用させる方法、オキシジフタル酸をオルトジクロロベンゼンのような有機溶媒中で加熱還流し、分子内脱水反応により生ずる水を共沸除去することにより製造する方法、オキシジフタル酸を固体のまま180℃以上、好ましくは200℃以上に加熱して脱水させることにより製造する方法がある。このうち、酸無水物を作用させる方法が、反応率が高く好ましい。この場合、使用される酸無水物の種類には特に制限はないが、入手容易性と経済性の観点から無水酢酸が好ましい。酸無水物の量はオキシジフタル酸の物質量に対して通常2当量以上使用される。酸無水物が液体である場合にはこれを溶媒として用いることもできるし、有機溶媒、好ましくはトルエン、キシレンのような芳香族化合物を溶媒として使用することもできる。反応は室温でも実施できるが、通常50℃以上で行われる。反応は空気雰囲気下でも実施可能であるが、窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気で実施されることがより好ましい。反応時間は好ましくは0.5時間以上24時間以下である。反応後は溶媒と酸無水物を蒸発気化させて除去し乾燥することによりODPAが得られる。
【0026】
(1−3)ハロゲン化フタル酸無水物を出発原料とする方法
本方法は、ハロゲン化フタル酸無水物、すなわち芳香環上の水素原子がハロゲン原子で置換された無水フタル酸を、ハロゲン化フタル酸無水物を、炭酸塩および/またはハロゲン化フタル酸塩と反応させる方法である。以下、詳細に説明する。
(a)ハロゲン化フタル酸無水物
下記式(4)で表されるハロゲン化フタル酸無水物を用いる。
【0027】
【化4】

【0028】
式(4)中、Yはハロゲン原子を表す。ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素が挙げられ、塩素、臭素およびヨウ素が好ましい。Yは複数種を併用してもよい。好ましいYは、反応性が十分に高いことと、製造が容易である点で、塩素または臭素である。
(b)ハロゲン化フタル酸塩
下記式(5)で表されるハロゲン化フタル酸塩を用いる。
【0029】
【化5】

【0030】
式(5)中、Yはハロゲン原子を表し、Mは水素原子、アルカリ金属またはアルカリ土類金属原子を表す。Yのハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素が挙げられ、塩素、臭素およびヨウ素が好ましい。Yは複数種を併用してもよい。中でも、反応性が十分に高いことと、製造が容易である点で、塩素または臭素が好ましい。
【0031】
Mのアルカリ金属としては、好ましくはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムが挙げられ、アルカリ土類金属としては、好ましくはマグネシウムおよびカルシウムが挙げられる。これらは複数種を併用してもよい。中でも、反応性と入手の容易さからカリウムおよびナトリウムが好ましい。
ハロゲン化フタル酸塩は一般的に吸湿性を有し、これに含まれる微量の水分が反応に影響するため、事前に充分乾燥することが必要である。反応に供するハロゲン化フタル酸塩に含まれる水分量は0.2重量%以下であることが好ましい。ハロゲン化フタル酸塩は常温、常圧で固体であるので、反応を効率よく実施するためには良く粉砕して用いることが必要である。好ましくは、孔眼寸法1mm以下のふるいを通過する粉体として使用する。
【0032】
本反応に用いられるハロゲン化フタル酸塩の量は、ハロゲン化フタル酸無水物に対して物質量比(モル比)で下限が通常0.1当量以上、好ましくは0.5当量以上、より好ましくは0.8当量以上であり、上限が通常5当量以下、好ましくは2当量以下、より好ましくは1.2当量以下である。
(c)炭酸塩
本反応において用いられる炭酸塩は、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムであり、反応性と入手容易性の観点から、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムまたは炭酸セシウムがより好ましい。
【0033】
炭酸塩の使用量はハロゲン化フタル酸無水物に対して物質量比(モル比)で下限が通常0.05当量以上、好ましくは0.25当量以上、より好ましくは0.4当量以上、上限が通常2.5当量以下、好ましくは1当量以下、より好ましくは0.6当量以下である。(d)触媒
本反応では通常触媒を使用する。触媒としては相間移動触媒として知られるホスホニウム塩、アンモニウム塩、グアニジニウム塩あるいはスルホニウム塩が好適に用いられる。オニウム塩としては、ホスホニウム塩あるいはアンモニウム塩の場合には、
1234+- (6)
式(6)中、Qは窒素原子またはリン原子を表す。
で表され、スルホニウム塩の場合は、
567+- (7)
で表される。
【0034】
式(6)及び式(7)中、R1、R2、R3およびR4ならびにR5、R6およびR7は、そ
れぞれ独立に、水素原子;メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、クロチル基、フェニルエテニル基等のアルケニル基、エチニル基等のアルキニル基;フェニル基、ナフチル基等のアリール基;またはピ
リジル基、フリル基等の複素環基であり、R1、R2、R3およびR4ならびにR5、R6およびR7の各炭素数は通常20以下、好ましくは、10以下である。これらは置換基を有し
ていてもよく、具体的な置換基としては、メチル基、エチル基、オクチル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基などのアリール基が挙げられる。
【0035】
1、R2、R3およびR4ならびにR5、R6およびR7は同一でも異なっていてもよく、
またそのうちの1個ないし3個が水素原子でもよい。
Xはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子を表し、なかでも塩素または臭素が好ましい。
これらのうちではホスホニウム塩が触媒の熱安定性から好ましく、具体的には臭化テトラフェニルホスホニウム、塩化テトラフェニルホスホニウムがより好ましく用いられる。
さらに、第二の触媒成分として、アルカリ金属ハロゲン化物を添加することもできる。このうち、ヨウ化物が好ましく、ヨウ化カリウムが最も好ましく用いられる。
触媒の使用量は原料の置換フタル酸無水物の重量に対して下限が通常0.01%以上、好ましくは0.1%以上であり、上限が通常20%以下、好ましくは15%以下の範囲で使用する。
【0036】
(e)反応溶媒
本反応は無溶媒条件下でも実施可能である。しかし、反応混合物の粘度を下げ、充分な撹拌効率で安定に反応を実施するには、溶媒の使用が好ましい。用いられる溶媒の種類は、反応条件下で本質的に不活性であり、かつ充分に高沸点を有するものでなければならない。溶媒の沸点は常圧下で120℃以上、好ましくは150℃以上である必要がある。これに合致する溶媒としては、ジクロロベンゼン類、トリクロロベンゼン類、ジクロロトルエン類などの塩化芳香族化合物の他、ベンゾニトリル、スルホラン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどがあげられる。好ましい溶媒はジクロロベンゼン類、ジクロロトルエン類またはトリクロロベンゼン類である。溶媒の使用量は置換フタル酸無水物に対し、下限が通常10重量%以上、好ましくは20重量%以上、上限が通常500重量%以下、好ましくは200重量%以下の比率で用いられる。
【0037】
(f)反応方法
反応温度は、下限が通常150℃以上、好ましくは180℃以上、上限が通常260℃以下、好ましくは250℃以下の範囲で実施される。反応は通常大気圧下で実施されるが、減圧、あるいは加圧条件下に実施してもよい。
反応は空気雰囲気下でも実施可能であるが、窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気で実施されることがより好ましい。反応時間は好ましくは0.5時間以上24時間以下である。より長時間の反応ではヒドロキシフタル酸類や置換安息香酸類などの副生物が生成する傾向がある。反応は、通常、反応原料を適切に撹拌しながら所定の反応温度に加熱することにより開始される。反応終了後は公知の方法に従い、反応混合物を熱時ろ過して不溶成分を除去した後冷却することにより粗ODPA物を析出させて回収する。
熱時ろ過時に反応混合物の粘度が高い場合には、反応で使用した溶媒で希釈した後に熱時ろ過を実施することもできる。
【0038】
以上述べた(1−1)から(1−3)のいずれかに記載の方法により得られる粗ODPAの他にも、公表特許平7−107022号公報などに記載されているテトラメチルジフェニルエーテルの酸化反応によって合成されたODPAも、本精製方法によって高純度ODPAとすることができる。
さらに、ODPAの一部または全部が加水分解された物質も使用することができる。ODPAの加水分解体は、(1−2)のオキシジフタル酸の無水物化で述べたように、後述の減圧加熱処理工程の温度付近で脱水して無水物に変換できる。但し、減圧加熱処理工程
において加水分解体は脱炭酸反応により一部分解しODPAの重合性を低下させるため、減圧加熱処理工程直前のODPA中の加水分解体の含量は、ODPAの二つの酸無水物基のうち片方が加水分解された半加水分解体で換算した場合に通常50%以下、好ましくは15%以下、より好ましくは5%以下であることが望ましい。
【0039】
(1−4)粗ODPA
こうして得られる粗ODPAは、製造方法に由来する不純物を含む。前述の(1−1)および(1−2)で得られる粗ODPAは、おもに窒素原子を含む不純物を含む。即ち、反応原料であるニトロフタル酸、その無水物またはフタルイミドが残留している。さらに、イミドの加水分解が不十分であることにより、ODPAの2つの酸無水物基のうち一つがイミド基であるような物質、さらには、N,N−ジメチルアセトアミドのような反応溶媒や、反応時に添加された亜硝酸根由来の物質が含まれる。ODPAに含まれるこれらの量はその製法により異なるが、窒素原子の含量として通常14μmol/g以上100μmol/g以下である。
【0040】
一方、(1−3)で得られる粗ODPAには、主にハロゲン原子とリン原子を含む不純物が存在している。例えば、未反応のハロゲン置換フタル酸無水物原料、オルトジクロロベンゼンあるいはトリクロロベンゼンのような高沸点の含ハロゲン反応溶媒、相間移動触媒であるテトラフェニルホスホニウム塩や助触媒として添加されるイオン性物質、さらには未同定の反応副生成物あるいは着色物質が不純物として含まれている。特にテトラフェニルホスホニウム塩は水や有機溶媒に対する溶解度が低く不昇華性であるので除去は難しい。これらの各々の物質の含有量は製法により異なるが、全ハロゲン原子の含量として、通常10μmol/g以上500μmol/g以下であり、リン原子の含量として、通常1μmol/g以上500μmol/g以下である。
【0041】
さらに、すべての粗ODPAに共通する不純物として、製造方法によらない不純物である不溶性微粒体を含む。不溶性微粒体とは、ポリイミド重合時に用いられるN,N−ジメチルアセトアミドやN−メチルピロリドンなどの溶媒に室温で溶解しない不純物を意味する。これには原料中にもともと含まれていたものに加え、製造工程で混入するもの、及び製造後にこれを取り扱う過程で混入するものがある。前者の例としては触媒粉、金属粉、パッキング粉などの製造機器に由来するものがあり、後者の例としては製品を取り扱う雰囲気中に浮遊している粉塵などの微粉末があげられる。
【0042】
粗ODPAに含まれる不溶性微粒体の含有量はその大きさにもよるが、投影面積円相当径が5〜20μmの不溶性微粒体にあっては粗ODPA1g中に通常1500個以上、好ましくは2000個以上、より好ましくは3000個以上、更に好ましくは5000個以上、特に好ましくは10000個以上含まれる。
また、投影面積円相当径が20μm以上の不溶性微粒体にあっては粗ODPA1g中に通常250個以上、好ましくは500個以上、更に好ましくは1000個以上、特に好ましくは1500個以上含まれる。
【0043】
また、ODPAはエーテル結合の位置の違いにより、3,3’−体、3,4’−体、4,4’−体の3種類の異性体が存在する。これらはODPA製造時の原料である置換フタル酸類の置換基位置に由来する。本願特許における粗ODPAはこれらの異性体が純粋に単一な組成の場合あるいは複数の異性体の混合物の場合のいずれでもよい。
【0044】
(2)粗ODPAの精製
粗ODPAを、工程Aと工程Bとを含む工程により精製する。
なお、本明細書において高純度ODPAとは、工程Aおよび工程Bの両方の精製工程を経たODPAを指し、粗ODPAとは、工程Aおよび工程Bを経ていない、または工程A
または工程Bのいずれか一方のみを経たODPAを指す。
【0045】
(2−1)工程A:粗ODPAを、150℃以上350℃以下の温度に加熱して蒸発および/または昇華させ、次いでその蒸発および/または昇華したODPAを凝結して回収する工程
【0046】
(a)本工程で用いる粗ODPA
本工程に供する粗ODPAは特に制限されないが、粗ODPAの窒素含有量は通常14μmol/g以下、好ましくは10μmol/g以下、より好ましくは1μmol/g以下、更に好ましくは0.1μmol/g以下である。窒素含有量が多いと、本工程で得られたODPAの色調が悪化し赤く着色する傾向があるため好ましくない。前記方法(1−2)により製造された粗ODPAが窒素含有化合物を含む傾向がある。粗ODPAのリン含有量は、通常50μmol/g以下、好ましくは10μmol/g以下、より好ましくは1μmol/g以下、更に好ましくは0.5μmol/g以下、最も好ましくは0.1μmol/g以下である。リン含有量が多いと、ODPAの分解を促進する傾向があるため好ましくない。前記方法(1−3)により製造された粗ODPAがリン含有化合物を含む傾向がある。
【0047】
一方で、本工程では、不溶性微粒体、リンおよびハロゲンを除去できる。本工程に供する粗ODPAとしては、不溶性微粒子を通常1500個以上、好ましくは2000個以上、より好ましくは3000個以上、更に好ましくは5000個以上、特に好ましくは10000個以上含むものであると不溶性微粒体を効率よく除去できる。また、上記の通り、ODPAの分解を抑制するためにはリン含有量は少ない方が好ましいが、リンを10μmol/g以上含む粗ODPAから効率的にこれらのリンを除去することができる。また、ハロゲンを50μmol/g以上含む粗ODPAから効率的にハロゲンを除去することができる。
【0048】
(b)粗ODPAの蒸発および/または昇華
蒸発および/または昇華は、150℃以上350℃以下で行う。好ましくは170℃以上、より好ましくは200℃以上、更に好ましくは228℃以上である。また、好ましくは330℃以下、より好ましくは310℃以下、更に好ましくは299℃以下である。温度が低いとODPAの蒸発および/または昇華が効率よく行われなくなる。一方で温度が高いと、ODPAの分解・着色が起こりやすくなる。
【0049】
圧力は特に限定されないが、通常減圧下で行う。具体的には、通常4000Pa以下、好ましくは3000Pa以下、より好ましくは2000Pa以下である。圧力を下げるとODPAの蒸発および/または昇華が効率よく行われる。
蒸発および/または昇華を行う系内の気相部における酸素濃度はできるだけ低い方が好ましい。具体的には、通常500ppm以下、好ましくは100ppm以下、より好ましくは50ppm以下、更に好ましくは10ppm以下である。系内の酸素濃度が高いと、ODPAの分解・着色が起こりやすい。
【0050】
蒸発速度は速すぎると飛沫同伴により不溶性微粒体やその他不純物を十分除去することができなくなり、遅すぎると経済性の観点から好ましくないため、温度や圧力を制御して適切な蒸発および/または昇華速度が選択されるべきである。蒸発および/または昇華速度は、蒸気の線速が通常4m/秒以下、好ましくは2m/秒以下、より好ましくは1.5m/秒以下、特に好ましくは1m/秒以下である。
ODPAが固体から昇華するか、溶融液から蒸発するかは、用いるODPAの異性体や不純物の含有状況によっても異なる。例えば、4,4’−ODPAの融点は228℃前後であるため、加熱温度がこれよりも低い場合には固体から昇華して昇華することになるし
、これよりも高い場合には溶融液から蒸発することになる。
【0051】
(c)蒸発および/または蒸発したODPAの回収
続いて蒸発および/または昇華したODPAを適当な温度に冷却してODPA蒸気を再凝縮固化して回収する。ODPA蒸気の冷却温度は通常150℃以下、好ましくは100℃以下、より好ましくは50℃以下である。冷却方法はさまざまな公知の方法を用いることができるが、通常は、ODPAを減圧加熱して蒸発および/または昇華させる装置内の気相部の適当な空間に設置された冷却器に析出固化させて回収する。好ましくは板状の冷却器を用いる。板状の冷却器に析出固化したODPAは、適当な掻き取り装置によって容易に掻き取って回収することができる。
【0052】
(d)工程Aを経たODPA
本工程によって、特にODPAの不溶解性微粒体の含有量を減少させることができる。すなわち、本工程によって精製されたODPA中の不溶解性微粒体の含有量は、精製前の1/5以下、好ましくは1/10以下、より好ましくは1/20以下にすることができる。具体的にはODPA1g当り、投影面積円相当径が5〜20μmの不溶性微粒体の含有量を、通常3000個以下、好ましくは2000個以下、より好ましくは1500個以下、更に好ましくは1200個以下にすることができる。
【0053】
また、本工程によって、リンの含有量を減少させることができる。本工程に供するODPAにリンが含まれる場合には、本工程によって精製されたODPA中のリン含有量は精製前のODPAの1/10以下、好ましくは1/100以下より好ましくは1/200以下にすることができる。具体的には、40μmol/g以下、好ましくは10μmol/g以下、より好ましくは1μmol/g以下、更に好ましくは0.1μmol/g以下である。
【0054】
更に、本工程によってハロゲンの含有量を減少させることができる。本工程に供するODPAにハロゲンが含まれる場合には、本工程によって精製されたODPA中のハロゲン含有量は、精製前のODPAの1/2以下、好ましくは1/5以下、より好ましくは1/10以下にすることができる。具体的には、9μmol/g以下、好ましくは8.5μmol/g以下、より好ましくは5μmol/g以下、更に好ましくは1μmol/gである。
【0055】
また、本工程によって精製されたODPA中の不溶解性微粒体、リンおよびハロゲンの含有量がこれらの範囲になるように本工程の条件を調整するのが好ましい。そのためには、蒸発および/または昇華速度を、蒸気の線速を下げるように行う。蒸気の線速を下げるためには、蒸発および/または昇華の温度を下げるか、圧力を高くすればよい。
【0056】
(2−2)工程B:粗オキシジフタル酸無水物を、粗オキシジフタル酸無水物に対して0.5〜20重量倍の、炭素数6以下の有機酸または炭素数12以下の有機酸エステル類またはケトン類から選ばれる1種以上の溶媒により洗浄する工程
本洗浄工程では、粗ODPAを有機溶媒中で洗浄する。通常、ODPA溶液またはスラリーを攪拌する。
【0057】
(a)本工程で用いる粗ODPA
本工程に供する粗ODPAは特に制限されないが、本工程では特にODPA中の窒素原子含有化合物を除去できるため、粗ODPAの窒素含有量が通常0.5μmol/g以上、好ましくは1μmol/g以上、より好ましくは10μmol/g以上、更に好ましくは14μmol/g以上であるものを好適に使用できる。
【0058】
(b)溶媒
有機溶媒としては特に限定されず、当業者が通常用いる溶媒を用いることができるが、その沸点が、常圧下で通常250℃以下、好ましくは200℃以下、より好ましくは150℃以下であり、通常0℃以上、好ましくは10℃以上、より好ましくは30℃以上、更に好ましくは50℃以上のものである。
【0059】
具体的には、トルエン、ベンゼン、キシレン、クロロベンゼンなどの芳香族化合物、酢酸、ギ酸、プロピオン酸などの炭素数6以下の有機酸類;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;および、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの炭素数12以下の有機酸エステル類が好適に用いられる。
なかでも、炭素数6以下の有機酸類、炭素数12以下の有機酸エステル類および/または炭素数12以下のケトン類が好ましい。さらに好ましくは、酢酸エチルおよび/または酢酸である。
これらの有機溶媒は、単独で用いてもよいし、混合してもよい。
【0060】
(c)洗浄条件
ODPAを溶媒に全量溶解させても、懸洗してもよい。
溶媒の使用量はODPA原料の重量に対して、下限が通常0.5倍以上、好ましくは1倍以上、上限が通常20倍以下、好ましくは10倍以下の範囲で使用される。
洗浄温度は溶媒が液相であれば特に限定されないが、通常0℃以上、好ましくは25℃以上、より好ましくは50℃以上であり、通常溶媒の沸点以下であり、好ましくは250℃以下、より好ましくは200℃以下、更に好ましくは150℃以下である。洗浄効率を高めるためには、温度が高い方が好ましい。
圧力は特に限定はないが、洗浄効率を高めるためには大気圧以上の圧力下で行う。加圧が可能な反応器を用いることにより溶媒の沸点以上の温度においても実施しうる。
時間は、通常1分以上、好ましくは10分以上、より好ましくは30分以上行い、通常12時間以下、好ましくは6時間以下、より好ましくは3時間以下である。
洗浄後に、溶媒を室温にした後、固体のODPAをろ紙等でろ過することによりODPAを回収できる。
【0061】
(d)工程Bを経たODPA
本工程によって、特にODPAの窒素含有量を減少させることができる。すなわち、本工程によって精製されたODPAの窒素含有量は通常14μmol/g以下、好ましくは10μmol/g以下、より好ましくは1μmol/g以下、更に好ましくは0.5μmol/g以下である。
【0062】
(2−3)工程Aと工程Bの順序
これらの精製工程は、その順序に特に制限はないが、粗ODPAの製造方法の違いにより、好ましい順序が異なる。
【0063】
製造方法(1−2)による粗ODPAを用いる場合は、該粗ODPAは通常窒素有機不純物を含有し、該含窒素有機不純物は一般にODPAよりも洗浄液に対する溶解度が大きいため、洗浄工程を減圧加熱処理より先に実施することがより好ましい。
すなわち、置換フタルイミド類を原料として含む方法により製造された粗オキシジフタル酸無水物を、工程B:炭素数6以下の有機酸または炭素数12以下の有機酸エステル類またはケトン類から選ばれる1種以上の溶媒を用い、粗オキシジフタル酸無水物の重量に対して0.5〜20倍の量で洗浄する工程、の後に、工程A:150℃以上350℃以下の温度に加熱して蒸発および/または昇華させ、次いでその蒸発および/または昇華した蒸気を凝結して回収する工程を行うのがより好ましい。
【0064】
一方で、製造方法(1−3)による粗ODPAを用いる場合は、該粗ODPAは通常リン含有化合物を含有し、残留する相間移動触媒成分などの影響により洗浄を施しても十分な効果をあげ得ない場合があるため、減圧加熱処理によりこれを除去した後に洗浄工程を実施する順序がより好ましい。
すなわち、ハロゲン原子で置換されたフタル酸類を原料として含む方法により製造された粗オキシジフタル酸無水物を、工程A:150℃以上350℃以下の温度に加熱して蒸発および/または昇華させ、次いでその蒸発および/または昇華した蒸気を凝結して回収する工程の後に、工程B:炭素数6以下の有機酸または炭素数12以下の有機酸エステル類またはケトン類から選ばれる1種以上の溶媒を用い、粗オキシジフタル酸無水物の重量に対して0.5〜20倍の量の溶媒で洗浄する工程を行うのがより好ましい。
【0065】
(2−4)その他の工程
これらの工程Aと工程Bとの組み合わせの前後、あるいはその間に、さらに再結晶、粉砕、乾燥など公知の精製工程を付加的に行うこともできる。但し、工程Aと工程Bの組み合わせの後に付加精製工程を実施する場合には、製造環境中に存在する不溶性微粒体の混入をできるだけ少なくするために、作業環境を少なくともJIS B 9920に定めるクラス4以下のクリーン度に保つのが好ましい。
【0066】
再結晶は通常、ジメチルスルホキシド、スルホラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ヘキサメチルホスホリルトリアミド、あるいは、ジクロロベンゼン類、ジクロロトルエン類またはトリクロロベンゼン類のような高沸点の溶媒で行う。用いる溶媒の量は、大気圧下では溶媒の沸点においてODPAを完全に溶解しうる量が最低限必要であるが、好ましくはODPAの重量に対して1倍以上20倍以下である。加圧条件で実施することにより溶媒の沸点よりも高い温度で実施することができるが、高温すぎるとODPAの分解が起こるために、溶解時の温度は通常250℃以下、好ましくは200℃以下である。溶解後に室温以下の温度に冷却した後、析出する固体をろ過しODPAを回収する。
【0067】
粉砕は粗ODPAの粒径が比較的大きな場合に、洗浄効率を向上させる目的で実施される。粉砕はボールミル、ジェットミルその他の粉砕機を使用することができるが、粉砕時の発熱によるODPAの着色や加水分解を防ぐために、水分を含まないような窒素などの不活性ガス雰囲気下で実施されることが好ましい。粉砕後のODPAの粒径は、通常5mm以下、好ましくは1mm以下、より好ましくは500μm以下、更に好ましくは100μm以下、特に好ましくは50μm以下となるようにする。
【0068】
乾燥は、残留溶媒を除くために実施される。粗ODPAを50〜150℃に加熱することにより行われる。圧力は大気圧以下の圧力で行われることが好ましい。乾燥時はODPAの酸化による着色や加水分解を防ぐために、水分を含まないような窒素などの不活性ガス雰囲気下で実施されることが好ましい。
【0069】
2.高純度ODPA
上記の処理により、投影面積円相当径が5〜20μmの不溶性微粒体の含有量が1g当り3000個以下であり、かつ、アセトニトリルに溶解された濃度が4g/Lである溶液の光路長1cmにおける400nmの光線透過率が98.5%以上である高純度ODPAが得られる。更には、ハロゲン原子の全含有量を9μmol/g以下、窒素原子の含有量を14μmol/g以下、および/またはリン原子含有量を40μmol/g以下とすることができる。
【0070】
(1)不溶性微粒体
投影面積円相当径が5〜20μmの不溶性微粒体の含有量が1g当り3000個以下好
ましくは2000個以下、より好ましくは1500個以下、更に好ましくは1000個以下である。
また、投影面積円相当径が20μmより大きい不溶性微粒体の含有量が1g当り、通常300個以下、好ましくは200個以下、より好ましくは100個以下、更に好ましくは50個以下である。
不溶性微粒体の含量は、ODPAをN−メチルピロリドンに溶解してフィルターろ過し、ろ紙上に残った不溶性微粒体を計数することにより決定する。不溶性微粒体の粒径およびその個数の測定は、顕微鏡の画像上で不溶性微粒体の大きさと個数を計測する顕微鏡法により行う。具体的にはたとえばキーエンス社製XV−1000などの粒径画像処理装置で容易に計測できる。本発明においては、不溶性微粒体の投影面積と同じ面積を持つ円の直径であり、Heywood径とも呼ばれる、投影面積円相当径を用いる。
【0071】
ポリイミドはフィルムあるいは半導体の表面保護膜などとして主に用いられるが、その場合の厚さと同程度である、投影面積円相当径が5〜20μmである不溶性微粒体が多く含まれていると、具体的にはODPA1g当り3000個以上含まれていると、これらフィルム等の機械的強度に影響する。これを十分抑制するために、不溶性微粒体含量が少ない必要がある。大きさが20μmより大きい不溶性微粒体は、その含有量が、5〜20μmの不溶性微粒体に比べて少なく、また、大きさ5μmより小さい不溶性微粒体は、通常用いられるポリイミドフィルムまたはポリイミド膜の厚さに比べて小さい。よって、これらの大きさの不溶性微粒体は、5〜20μmの不溶性微粒体と比べて、相対的にODPAの品質への影響は少ない。
【0072】
(2)光線透過率
アセトニトリルに4g/Lで溶解した溶液の、光路長1cmにおける400nmの光線透過率が98.5%以上、好ましくは98.7%以上、より好ましくは99.0%以上である。
高純度ODPAの透過率は、アセトニトリルに4g/Lとなるように溶解させたサンプルを、光路長1cmの石英セルで波長800−200nmにわたり紫外可視吸光光度計により室温、常圧下で測定される。ODPAの透過率は、不純物の含有量に関係がある。これら着色性不純物は400nm付近で大きな透過率の低下を起こし、ODPAとジアミン類との重合を阻害し、ポリイミドフィルムの強度を低下させ、フィルムの色調を悪化させる原因となる。
【0073】
透過率の測定は、ODPA100mgを、室温でアセトニトリル(関東化学社製、液体クロマトグラフ用)に溶解して25mlに定容し、この溶液を光路長1cmの石英セルに満たして、紫外可視分光光度計(島津製作所社製、UV−1600PC)で吸光度を測定する。測定範囲は200−800nmで、分解能は0.5nm以下とする。ODPA結晶のアセトニトリルへの溶解速度が遅い場合には、市販の超音波洗浄器を用いて超音波を照射しながら溶解させることもできる。
【0074】
(3)窒素不純物
窒素原子含有量が通常14μmol/g以下、好ましくは13μmol/g以下、より好ましくは12μmol/g以下である。
窒素原子含量は定法に従い、酸素燃焼後化学発光法により定量する。このとき、検出限界は3ppm以下に設定されなければならない。
窒素原子を含む不純物は主にイミドあるいはニトロフタル酸類の形態で存在し、重合性を阻害してポリイミドの物性に悪影響を及ぼすだけでなく着色の原因ともなる。
【0075】
(4)ハロゲン不純物
ハロゲン原子含有量が通常9μmol/g以下、好ましくは8.5μmol/g以下、
より好ましくは5μmol/g以下、更に好ましくは1μmol/g以下である。
フッ素、塩素、及び臭素は、常法に従い、ODPAを酸素管燃焼後、過酸化水素-アル
カリ水溶液に吸収させてイオンクロマトグラフィーで検量線法により定量する。
ヨウ素は常法に従い、ODPAを酸素管燃焼後、ヒドラジン水溶液に吸収させてイオンクロマトグラフィーで検量線法により定量する。
【0076】
(5)リン不純物
リン原子含有量は、通常40μmol/g以下、好ましくは10μmol/g以下、より好ましくは1μmol/g以下、更に好ましくは0.5μmol/g以下、特に好ましくは0.1μmol/g以下である。
リン含量は定法により、湿式分解後のサンプルをICP−AESにより定量され、その検出限界は3ppm以下に設定されなければならない。
【0077】
3.ポリイミド
(1)ポリイミドの製造方法
本発明の高純度ODPAはジアミンと反応させて、公知の方法によりオキシジフタル酸無水物構成単位およびジアミン構成単位を含むポリイミドを得ることができる。すなわち、高純度ODPAとジアミンとを溶媒中で混合してポリアミック酸を得、該ポリアミック酸を加熱することでポリイミドを得る。
【0078】
このとき使用されるジアミンの種類には特に限定はなく、各種の芳香族ジアミン類や脂環式ジアミン類から用途に応じて適宜選択がされればよい。特に、半導体材料としての表面保護膜や透明ポリイミドフィルムとしての用途であれば、比較的低分子で耐熱性を併せ持ち、剛直かつ重合度を上げやすい芳香族ジアミン類が好ましく、なかでも、フェニレンジアミン類、トルエンジアミン類、メチレンジアニリン類、オキシジアニリン類、チオジアニリン類、スルホニルジアニリン類、ベンゾフェノンジアミン類、トリジン類などが用いられ、さらに、オキシジアニリン類、スルホニルジアニリン類、ベンゾフェノンジアミン類がより好ましく、4,4’−オキシジアニリンがもっとも好ましく用いられる。これらのジアミンは、常法により充分精製したものを用いる。
【0079】
本発明の高純度ODPAをジカルボン酸成分として用いると、ポリアミック酸として十分粘度が高く、かつ、着色の少ないポリアミック酸が製造できる。すなわち、ポリマー濃度15重量%、N,N−ジメチルアセトアミド溶媒中における4,4’−オキシジアニリンとのポリアミック酸において、対数粘度が1.6dL/g以上好ましくは1.8dL/g以上、より好ましくは2.0dL/g以上であり、かつ、400nmにおける透過率が55%以上であるような優れたポリアミック酸が得られる。
【0080】
(2)本発明のポリイミドの物性
この高純度ODPAを用いることにより、強度が高く強靭なポリイミドフィルムを得ることができる。即ち、本発明のオキシジフタル酸無水物構成単位およびジアミン構成単位を含むポリイミドは、破断伸びが20%以上、好ましくは25%以上である。また、破断応力が130MPa以上、好ましくは150MPa以上である。
【0081】
本発明における破断伸びおよび破断応力は、膜厚20μm、長さ50mm、幅10mmのポリイミドフィルムを、JIS K 7113の規定に準じて、温度23℃湿度55%の条件下、つかみ具間距離(引っ張り部の長さ)20mm、引っ張り速度10mm/minで6回測定した場合の平均値である。
【0082】
4.用途
ポリイミドは一般に300℃以上のガラス転移温度を有する高耐熱性のプラスチックフ
ィルム用途に用いられ、カプトン(米デュポン社登録商標)やユーピレックス(宇部興産社登録商標)に代表されるようなフレキシブルプリント基板やTAB(Tape Automated Bonding)用途に広く用いられている。これらのフィルムには耐熱性や寸法安定性が要求されているが無色である必要はなく、通常橙色から黄色に着色している。この要求を満たす酸無水物はピロメリット酸無水物やとビフェニルテトラカルボン酸無水物である。一方、ポリイミドのその他の用途として、感光性ポリイミドがある。ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸に感光性を付与することにより、微細加工が可能なポリイミドとして半導体の表面保護膜用途にも使用されている。この場合、十分な耐熱性に加え、感光不良を起こさないためにポリアミック酸の高透明性、半導体製品の不良を発生させないために、原料中にイオン性物質や不溶性微粒体量が少ないことが要求される。
【0083】
本発明における高純度ODPAを用いるポリイミドは、耐熱性が十分に高く、かつ従来のポリイミドに比べ透明性に優れ不純物も少ないことから、半導体用途の感光性ポリイミドの原料として、特に好適に用いられる。
【実施例】
【0084】
以下に実施例により本発明につきさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。
<透過率の測定方法>
粗または精製ODPA100mgを、室温でアセトニトリル(関東化学社製、液体クロマトグラフ用)に溶解して25mlに定容し、この溶液を光路長1cmの石英セルに満たして、紫外可視分光光度計(島津製作所社製、UV−1600PC)で吸光度を測定した。測定範囲は200−800nmで、分解能は0.5nm以下とした。ODPA結晶のアセトニトリルへの溶解速度が遅い場合には、市販の超音波洗浄器を用いて超音波を照射しながら溶解させることもできる。
【0085】
<窒素、リン含量の測定方法>
窒素含量の窒素含量は定法に従い、酸素燃焼後化学発光法(ダイアインスツルメンツ社製TN−10)により定量した。
リン含量の定量は公知の手法に従い、ケルダールフラスコを用いた湿式分解法で分解し、測定溶液を得た。誘導結合プラズマ発光分析装置(JovinYvon社製JY38S)を用い、検量線法で定量した。
【0086】
<ハロゲン元素含量の測定方法>
全フッ素、全塩素、及び全臭素の測定は常法に従い、ODPAを酸素管燃焼後、過酸化水素-アルカリ水溶液に吸収させてイオンクロマトグラフィー(Dionex社製DX5
00)で検量線法により定量した。
全ヨウ素の測定についても常法に従い、ODPAを酸素管燃焼後、ヒドラジン水溶液に吸収させてイオンクロマトグラフィー(Dionex社製DX500)で検量線法により定量した。
【0087】
<不溶性微粒体の計数方法>
ODPAに含まれる不溶性微粒体の計数は、以下の手順で実施した。
(1)溶媒の準備
クラス100のクリーンベンチ内で、試薬グレードのN−メチルピロリドンを、目の粗さが0.2μmのフィルターを通し、大きさが0.2μm以上の不溶性微粒体を除去した。(2)サンプルの調製
クラス100のクリーンベンチ内で、サンプル1gを洗浄・乾燥済みのガラス瓶に精秤し、これに上記N−メチルピロリドン200mlを加えたのち、この混合物を超音波洗浄
器に入れて、サンプルを溶解させた。なお、後述の比較例とODPA原料1および2の計数については、不溶性微粒体の含有量が多かったため、該サンプルをさらに100倍に希釈した。次いでこの溶液を目の粗さが0.45μmのフィルターを通して不溶性微粒体をろ別した。
【0088】
(3)不溶性微粒体の計数
クラス1000のクリーンルーム内で、粒径画像処理装置(キーエンス社製XV−1000)を用いて、フィルター上の不溶性微粒体の数を測定した。測定した不溶性微粒体の数をサンプル重量で補正し、サンプル1.0g当りの個数に換算した。
【0089】
<粗ODPA1>
前記(1−2)の方法により製造された粗ODPAとして、4,4’−ODPA:寅生化工社製Lot.2004−11−03を用いた。粗ODPA1の不溶性微粒体含量、窒素、リン、ハロゲン含量、透過率の分析結果を表1に示す。
<粗ODPA2>
前記(1−3)の方法により製造された粗ODPAとして、以下の製造例1に記載の方法により製造されたODPAを用いた。粗ODPA2の不溶性微粒体含量、窒素、リン、ハロゲン含量、透過率の分析結果を表2に示す。
【0090】
製造例1
特許第3204641号の実施例1記載の方法に準じて製造した。
すなわち、予め昇華精製された4−ブロモフタル酸無水物(東京化成社製、Lot.AGN01)150.37gと、オルトジクロロベンゼン(関東化学社製特級Lot.707X2084)250gを、機械式かくはん器と還流冷却器を備えた500ccのセパラブルフラスコに入れ、窒素雰囲気で内温が195℃になるまでオイルバスで加温攪拌した。その後、炭酸ナトリウム(関東化学社製1級Lot.707X1397)35.12g、臭化テトラフェニルホスホニウム(東京化成社製Lot.FIG01)7.48g)およびヨウ化カリウム(キシダ化学社製Lot.L37090E)3.48gを、30分間隔で4回に分けて投入した。全量投入後に1,2,4−トリクロロベンゼン(和光純薬社製Lot.EWN5441)100gを加え、約300rpmで攪拌しつつ、内温を195〜197℃として合計28時間反応した。その後160℃の熱オイルを循環させた保温ジャケット付き桐山ロート(SC−95W、No.5Bろ紙)で熱時ろ過したあと、ろ液を室温に冷却した。析出した固体を再びろ過し、ろ物を室温下トルエン(純正化学社製特級)120ccで2回リンスしたのち通気乾燥した。81.98gのうす赤色粉末が回収された。同様の反応を同じスケールで繰り返して、合計163.51gの粗ODPAを得た。粗ODPAの不溶性微粒体含量、窒素、リン、ハロゲン含量、透過率の分析結果を表2に示す。なお、不溶性微粒体量については、前処理により得たフィルターの着色が激しく、粒径画像処理装置による計数が妨害された。表の値は、計測可能であった微粒体のみの個数を記した。
【0091】
<粗ODPA1を用いた高純度ODPAの製造>
実施例1(工程Bの後工程Aを行って精製した高純度ODPA)
粗ODPA1 165.0gと酢酸エチル500cc(純正化学社製特級)を窒素雰囲気下、1Lフラスコに入れ、スラリー状態のまま2時間加熱還流した。その後約15℃に冷却し、ろ過後、ろ取した粉末を酢酸エチル80ccで1回洗浄し、乾燥した。160.29gの白色粉末が回収された。
【0092】
この白色粉末35.07gとテフロン(登録商標)製磁気攪拌子を窒素雰囲気下の500ccのセパラブルフラスコ(柴田科学社製・丸型バンド式)にいれ、内部を空冷することができ、かつ、底面が直径5cmの捕集内管を備えたセパラブルフラスコのカバーを取り付けた。これを、70〜60Paの減圧下、265℃のオイルバスに85分間浸した。反応器中の4,4’−ODPAは融解し攪拌された。この間捕集内管に室温の窒素ガスを通じて冷却したが、排出ガスの温度が50℃を超えないように窒素ガス流量を調節した。その後オイルバス浴を外し室温まで冷却し、窒素を導入して復圧し、捕集管に付着した高純度4,4’−ODPAを白色の固体として回収した。回収量は31.65g(90.2%)であった。フラスコ底部には灰色固体が2.00g残留していた。回収されたODPAの不溶性微粒体含量、窒素、リン、ハロゲン含量、透過率の分析結果を表1に示す。
【0093】
実施例2(工程Aの後工程Bを行って精製した高純度ODPA)
粗ODPA1 40.13gとテフロン(登録商標)製磁気攪拌子を窒素雰囲気下の500ccのセパラブルフラスコ(柴田科学社製・丸型バンド式)にいれ、内部を空冷することができ、かつ、底面が直径5cmの捕集内管を備えたセパラブルフラスコのカバーを取り付けた。これを、40Paの減圧下、265℃のオイルバスに90分間浸した。反応器中の4,4’−ODPAは融解し攪拌された。この間捕集内管に室温の窒素ガスを通じて冷却したが、排出ガスの温度が50℃を超えないように窒素ガス流量を調節した。その後オイルバス浴を外し室温まで冷却し、窒素を導入して復圧し、捕集管に付着した高純度4,4’−ODPAを白色の固体として回収した。フラスコ底部には灰色固体が1.21g残留していた。
【0094】
回収したODPAを500ccのセパラブルフラスコに入れ、予め孔径0.5μmのPTFEろ紙でろ過した酢酸エチル(純正化学社製特級)120gを加え、窒素下1時間還流条件下加熱し攪拌した。室温に冷却した後クリーンボックス内でろ過し、回収された固体を室温下2.5時間減圧乾燥した。収量は36.90g(92.0%)であった。回収されたODPAの不溶性微粒体含量、窒素、リン、ハロゲン含量、透過率の分析結果を表1に示す。
【0095】
比較例1(工程Aのみによって精製したODPA)
粗ODPA1 49.86gとテフロン(登録商標)製磁気攪拌子を窒素雰囲気下の500ccのセパラブルフラスコ(柴田科学社製・丸型バンド式)にいれ、内部を空冷することができ、かつ、底面が直径5cmの捕集内管を備えたセパラブルフラスコのカバーを取り付けた。これを、50Paの減圧下、265℃のオイルバスに108分間浸した。反応器中の4,4’−ODPAは融解し攪拌された。この間捕集内管に室温の窒素ガスを通じて冷却したが、排出ガスの温度が50℃を超えないように窒素ガス流量を調節した。その後オイルバス浴を外し室温まで冷却し、窒素を導入して復圧し、捕集管に付着した高純度4,4’−ODPAを白色の固体として回収した。収量は46.67g(93.6%)であった。フラスコ底部には灰色固体が2.14g残留していた。回収されたODPAの不溶性微粒体含量、窒素、リン、ハロゲン含量、透過率の分析結果を表1に示す。
【0096】
比較例2(工程Bのみによって精製したODPA)
粗ODPA1 162.17gと酢酸エチル500cc(純正化学社製特級)を窒素雰囲気下、1Lフラスコに入れ、スラリー状態のまま2時間加熱還流した。その後約15℃に冷却し、ろ過後、ろ取した粉末を酢酸エチル80ccで1回洗浄し、乾燥した。157.66gの白色粉末が回収された。回収されたODPAの不溶性微粒体含量、窒素、リン、ハロゲン含量、透過率の分析結果を表1に示す。
【0097】
<粗ODPA2を用いた高純度ODPAの製造>
実施例3(工程Bの後工程Aを行って精製した高純度ODPA)
粗ODPA2 60.00gと酢酸エチル180cc(純正化学社製特級)およびテフロン(登録商標)製磁気攪拌子を、窒素雰囲気下、還流冷却器を備えた500ccのセパラブルフラスコに入れた。これをオイルバスに浸し、オイルバス温度を100℃に加温し、スラリー状態のまま、約200rpmの攪拌速度で1時間加熱還流した。その後室温に冷却し、ろ過後、ろ取した粉末を酢酸エチル80ccで1回洗浄し、通気乾燥した。57.05g(95.1%)の薄赤色粉末が回収された。このうち30.04gとテフロン(登録商標)製磁気攪拌子を窒素雰囲気下の500ccのセパラブルフラスコ(柴田科学社製・丸型バンド式)にいれ、内部を空冷することができ、かつ、底面が直径5cmの捕集内管を備えたセパラブルフラスコのカバーを取り付けた。これを、40〜53Paの減圧下、265℃のオイルバスに2時間浸した。反応器中の4,4’−ODPAは融解し、150rpmの速度で攪拌された。この間捕集内管に室温の窒素ガスを通じて冷却したが、排出ガスの温度が50℃を超えないように窒素ガス流量を調節した。その後オイルバス浴を外し室温まで冷却し、窒素を導入して復圧し、捕集管に付着したODPAを白色の固体として回収した。回収量は24.58g(81.8%)であった。フラスコ底部には黒色残渣が4.3g残留していた。回収されたODPAの不溶性微粒体含量、窒素、リン、ハロゲン含量、透過率の分析結果を表2に示す。
【0098】
実施例4(工程Aの後工程Bを行って精製した高純度ODPA)
粗ODPA1 30.00gとテフロン(登録商標)製磁気攪拌子を窒素雰囲気下の500ccのセパラブルフラスコ(柴田科学社製・丸型バンド式)にいれ、内部を空冷することができ、かつ、底面が直径5cmの捕集内管を備えたセパラブルフラスコのカバーを取り付けた。これを、50Paの減圧下、265℃のオイルバスに120分間浸した。反応器中のODPAは融解し、150rpmの速度で攪拌された。この間捕集内管に室温の窒素ガスを通じて冷却したが、排出ガスの温度が50℃を超えないように窒素ガス流量を調節した。その後オイルバス浴を外し室温まで冷却し、窒素を導入して復圧し、捕集管に付着したODPAを白色の固体として回収した。収量は22.39g(74.6%)であった。フラスコ底部には黒色残渣が残留していた。
回収したODPAを粉砕後300ccの3つ口丸底フラスコに入れ、酢酸エチル(純正化学社製特級)60ccを加え、窒素下1時間還流まで加熱し攪拌した。室温に冷却した後ろ過し、酢酸エチル約50ccでリンスした後、回固体を室温下1時間通気乾燥した。収量19.81g(88.5%)。回収されたODPAの不溶性微粒体含量、窒素、リン、ハロゲン含量、透過率の分析結果を表2に示す。
【0099】
比較例3(工程Aのみによって得たODPA)
実施例3の昇華−再凝縮工程まで実施した途中のODPAを抜き出し本比較例とした。回収されたODPAの不溶性微粒体含量、窒素、リン、ハロゲン含量、透過率の分析結果を表2に示す。
【0100】
比較例4(工程Bのみによって精製したODPA)
粗ODPA2 30.00gとテフロン(登録商標)製磁気攪拌子を窒素雰囲気下の500ccのセパラブルフラスコ(柴田科学社製・丸型バンド式)にいれ、内部を空冷することができ、かつ、底面が直径5cmの捕集内管を備えたセパラブルフラスコのカバーを取り付けた。これを、50Paの減圧下、265℃のオイルバスに120分間浸した。反応器中のODPAは融解し、150rpmの速度で攪拌された。この間捕集内管に室温の窒素ガスを通じて冷却したが、排出ガスの温度が50℃を超えないように窒素ガス流量を調節した。その後オイルバス浴を外し室温まで冷却し、窒素を導入して復圧し、捕集管に付着したODPAを白色の固体として回収した。収量は23.64g(78.8%)であった。フラスコ底部には黒色残渣が残留していた。回収されたODPAの不溶性微粒体含量、窒素、リン、ハロゲン含量、透過率の分析結果を表2に示す。なお、不溶性微粒体量については、前処理により得たフィルターの着色が激しく、粒径画像処理装置による計数が妨害された。表の値は、計測可能であった微粒体のみの個数を記した。
【0101】
<ポリイミドフィルムの評価>
本発明の製造方法およびそれによって得られた本発明の高純度ODPAのポリイミドフィルム原料としての効果を示すために、実施例1、2、比較例1、2及び粗ODPA1の各ODPAについて、同様の方法にてポリイミドフィルムを作成し、その強度を評価した。
【0102】
以下にポリイミドの製造方法を示す。
窒素雰囲気下、循環水で25℃に保たれた500ccの反応器に、予め蒸留精製した4,4’−オキシジアニリン(0.0182mol、和歌山精化社製)3.638g及び脱水グレードのN,N−ジメチルアセトアミド(和光純薬社製、ポリマー濃度を15重量%とする)52.0gを入れ溶解させた。その後、実施例1で作成した高純度ODPA5.633g(0.0182mol)を約30分間にわたり粉末のまま分割投入した。その後6時間25℃で攪拌した。
【0103】
得られるポリアミック酸溶液1.3063gを室温でN,N−ジメチルアセトアミドに希釈溶解させ、25ccに定容し、粘度測定サンプルとした。サンプル濃度Cは0.7〜0.8g/dLに調製した。本サンプルのCは0.791g/dLである。本サンプルを30℃の恒温水槽に浸したウベローデ型粘度計(柴田科学社製、使用動粘度範囲2〜10cSt)に入れて、10分以上静置したあと、標線間の流下時間Tを計測したところ、350秒であった。なお、溶媒であるN,N−ジメチルアセトアミドの流下時間Tsは90秒であった。対数粘度は次の式で計算した。対数粘度={ln(T/Ts)}/C
得られたポリアミック酸溶液を、クラス1000のクリーンボックス内で、ガラス板上に、ドクターナイフ(塗布厚254μm、幅50mm)で流延したのち、室温で12時間以上乾燥させた。ガラス板よりフィルムを剥離した後、アルミ板枠(0.5mm厚、外寸法110mm×70mm、開口部寸法70mm×30mm)にフィルムをクリップで固定し、内部を窒素置換した電気炉で、120℃で1時間、続いて250℃で1時間、続いて320℃で5分間加熱し、熱イミド化した。室温まで冷却した後、板枠開口部からフィルムを切り出した。フィルム厚は0.0019〜0.0020mmであった。
【0104】
このフィルムを23℃、湿度55%の環境に12時間以上静置した後、フィルムを幅10mmに切り出し試験片とした。この試験片を、引張り強度試験機((株)オリエンテック社製、テンシロンRTC−1210A型)を用いて破断強度を測定した(加重フルスケール:100N、試験速度:10mm/min、引張り部長さ20mm、温度23℃、湿度55%)。試験は6回実施し、その測定値を平均した。ポリアミック酸の透過率、対数粘度、ポリイミドフィルムの平均破断伸び、および平均破断応力の値を表1に示す。
【0105】
【表1】

【0106】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明における高純度オキシジフタル酸無水物は、電子材料製造や半導体製造材料分野における高耐熱高透明ポリイミドあるいは高精細感光性ポリイミドの原料として好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
投影面積円相当径が5〜20μmの不溶性微粒体の含有量が1g当り3000個以下であり、かつ、アセトニトリルに4g/Lで溶解した溶液の光路長1cmにおける400nmの光線透過率が98.5%以上である高純度オキシジフタル酸無水物。
【請求項2】
ハロゲン原子含有量が9μmol/g以下である請求項1に記載の高純度オキシジフタル酸無水物。
【請求項3】
窒素原子含有量が14μmol/g以下である請求項1または2に記載の高純度オキシジフタル酸無水物。
【請求項4】
粗オキシジフタル酸無水物を、以下の工程Aおよび工程Bを含む工程により精製することを特徴とする高純度オキシジフタル酸無水物の製造方法。
工程A:粗オキシジフタル酸無水物を、150℃以上350℃以下の温度に加熱して蒸発および/または昇華させ、次いでその蒸発および/または昇華した蒸気を凝結して回収する工程
工程B:粗オキシジフタル酸無水物を、粗オキシジフタル酸無水物の重量に対して0.5〜20倍の炭素数6以下の有機酸または炭素数12以下の有機酸エステル類またはケトン類から選ばれる1種以上の溶媒により洗浄する工程
【請求項5】
ハロゲン化フタル酸無水物を、炭酸塩および/またはハロゲン化フタル酸塩と反応させて得られる粗オキシジフタル酸無水物を、工程Aの後に工程Bを行う工程により精製する、請求項4に記載の高純度オキシジフタル酸無水物の製造方法。
【請求項6】
置換フタルイミド類をカップリングして得られる粗オキシジフタル酸無水物を、工程Bの後に工程Aを行う工程により精製する、請求項4に記載の高純度オキシジフタル酸無水物の製造方法。
【請求項7】
窒素含量が14μmol/g以下の粗オキシジフタル酸無水物を、150℃以上350℃以下の温度に加熱して蒸発および/または昇華させ、次いでその蒸発および/または昇華した蒸気を凝結して回収することを特徴とする、高純度オキシジフタル酸無水物の製造方法。
【請求項8】
粗オキシジフタル酸無水物が、置換フタルイミド類をカップリングして得られる粗オキシジフタル酸無水物である請求項7に記載の高純度オキシジフタル酸無水物の製造方法。
【請求項9】
請求項4〜8のいずれか1項に記載の製造方法により製造された高純度オキシジフタル酸無水物。
【請求項10】
請求項1〜3および9のいずれか1項に記載の高純度オキシジフタル酸無水物とジアミンとを重合して得られるポリイミド。
【請求項11】
オキシジフタル酸無水物構成単位およびジアミン構成単位を含むポリイミドであって、厚さ20μm、長さ50mm(引っ張り部の長さ20mm)、幅10mmの該ポリイミドフィルムを、JIS K 7113の規定に準じて測定した破断伸びが25%以上であるポリイミド。
【請求項12】
オキシジフタル酸無水物構成単位およびジアミン構成単位を含むポリイミドであって、厚さ20μm、長さ50mm(引っ張り部の長さ20mm)、幅10mmの該ポリイミド
フィルムを、JIS K 7113の規定に準じて測定した破断応力が130MPa以上である請求項11に記載のポリイミド。

【公開番号】特開2006−188502(P2006−188502A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−353599(P2005−353599)
【出願日】平成17年12月7日(2005.12.7)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】