説明

高純度キシロオリゴ糖組成物

【課題】UV吸収物質や着色成分の生成を防ぎ、高純度のキシロオリゴ糖組成物を製造する。
【解決手段】木材、コーンコブ、綿実殻、バガス、稲わら等の植物体原料をアルカリ処理もしくは加圧加熱処理を行った後に酵素処理を施して得られた残査物を含んだ粗糖液の精製方法において、その液の濃縮処理を行った後に、脱塩処理、活性炭処理を適宜行なって得た、UV吸収物質や着色成分が少ない高純度キシロオリゴ糖組成物およびその製造方法。本発明の方法によれば、糖化液を濃縮後に脱塩、活性炭処理を行なうことにより、UV吸収物質や着色成分の生成を防ぎ、高純度のキシロオリゴ糖組成物が製造できる。

【発明の詳細な説明】
【産業上の利用分野】
【0001】
本発明は、木材、コーンコブ、綿実殻、バガス、稲わらからなる群から選択される植物体の原料を前処理を行なった後、糖化処理してキシロオリゴ糖液を製造する工程において、糖化処理して得られた粗糖液を効率的に固液分離し、脱色し、UV吸収物質や着色成分の少ない高純度のキシロオリゴ糖を得る方法に関するものである。
【従来の技術】
【0002】
キシロオリゴ糖の用途
オリゴ糖は、低甘味、低カロリー、難う蝕性等の特性に加えてビフィズス活性(腸内菌叢改善効果)のあることが特徴であり、整腸作用をうたった特定保健用食品などが数多く市場化されている。これらのオリゴ糖の中でもキシロオリゴ糖は酸やアミラーゼなどの消化酵素による分解を受けにくく、ヒトが摂取した場合、大腸まで分解されず、吸収されることなく到達し、大腸では、そこに住み着いているビフィズス菌に選択的に利用されることから、少量でビフィズス菌を選択的に増殖でき、その結果、便性の改善やCa吸収促進作用などがあり、食品などへの利用範囲が広いことが特徴である。
【0003】
キシロオリゴ糖の基本的製造方法
オリゴ糖は、酵素化学の進歩発展にともない、微生物起源の加水分解酵素や転移酵素等が数多く見出され、更に研究の結果各種オリゴ糖が安価に大量生産されるようになってきた。特に、活性の高いキシラナーゼの開発に伴い、低利用資源である木材、コーンコブ、綿実殻、バガスおよび稲わら等の植物体に多く含まれているヘミセルロースのキシランから、オリゴ糖の中でも、物性並びに機能性の優れたキシロオリゴ糖の生産が可能となっている。
【0004】
従来、植物体原料からキシロオリゴ糖を製造する技術は、
(1) 加圧加熱、爆砕又はアルカリ処理等の糖化処理を行ない、直接キシロオリゴ糖液を製造する方法や、
(2) 化学パルプ由来のリグノセルロースを酸処理することでキシロテトラオースを主成分とした平均重合度が5.4と高いキシロオリゴ糖の製造方法や、
(3) 加圧加熱、アルカリ加熱処理や抽出、精製したキシランを出発原料とし、これに酵素を作用させて糖化処理してキシロオリゴ糖液を製造する方法や、
(4) 植物体の原料を細片化し、アルカリ加熱処理後、直接酵素を作用させて糖化処理してから固液分離し、キシロオリゴ糖液を製造する方法等がある。
【0005】
例えば、日下部らは(日本農芸化学会雑誌、第50巻、第5号p.209-215,1976)コーンコブを原料としてアルカリで前処理を行ない、pHが中性になるまで水洗しアルカリ分を除き、バシラス由来の酵素で加水分解してキシロオリゴ糖を製造している
高純度キシロオリゴ糖の必要性
キシロオリゴ糖を加工食品や飲料などに加え利用する場合、加工食品や飲料の加工における自由度を高めるため、無色であることが望まれる。また、加工食品や飲料などを製造するにあたっては微生物を殺菌するため高温加熱処理をすることが多く行われる。糖は加熱することにより着色することが知られているがキシロオリゴ糖はその傾向が強い。キシロオリゴ糖は重合度が2以上のオリゴ糖の総称であるが、上記の着色は重合度が低いキシロオリゴ糖において著しく、重合度が大きい場合は着色傾向は低くなる。ところが、重合度が大きいと腸内細菌であるビフィズス菌や乳酸菌の資化性が悪くなる(Okazaki ら、Bifidobacteria Microflara vol.9, p77, 1990)ため、重合度が2のキシロビオースを主成分とするキシロオリゴ糖が望まれている。そのため、無色であるばかりでなく高温加熱処理したときに着色する傾向の小さいキシロオリゴ糖が望まれる。
【0006】
しかし、上記(1)〜(4)の何れの方法においても糖化処理によって得られた粗糖液中には多種類の不純物、残査物が含まれている。そこで、これらを除去するため、従来は濾過、或はイオン交換樹脂、合成吸着剤、活性炭等の吸着剤を用いて粗糖液を精製することが行なわれていた。特に、酵素などで加水分解された糖液中にはリグニンなどの植物体原料から抽出された不純物がかなり含有されているが、これらの不純物は通常の濾過では除去できない。そこで、活性炭やイオン交換樹脂を用いることで色素成分等の除去を行う方法、その他の種々の方法が提案されている。
【0007】
活性炭やイオン交換樹脂を用いる精製方法
林野庁/東和化成の特許3229944では、綿実殻を蒸煮処理したのち酵素分解でキシロオリゴ糖含有粗糖液を活性炭処理し脱イオン処理する方法を開示しているが、生成するフルフラールなどのUV吸収物質の生成を抑える方法は開示されていない。また、この方法は蒸煮処理綿実殻の場合での方法であり。高分子色素成分が多い原料由来の粗糖液の精製方法を開示したものではない。
【0008】
王子製紙の特開2001-2264090では、広葉樹チップから得た酵素脱リグニンパルプを、キシラナーゼ処理を行い、さらに硫酸分解することにより重合度の高いキシロオリゴ糖粗糖液を得、その液を、濃縮後、イオン交換樹脂処理し、活性炭処理することにより、280nm, 250nmに吸収がなく灰分の少ないキシロテトラオース(X4),キシロペンタオース(X5)が主成分の高重合度キシロオリゴ糖を得ている。この方法では、糖化液にはすでにリグニン成分は少なくなっており、その液を、イオン交換樹脂処理し、活性炭処理で280nm, 250nmに吸収がない液が得られることになる。さらに生成するオリゴ糖はX4,X5が主成分の高重合度キシロオリゴ糖であり、単糖であるキシロースの全糖に占める割合は8.37%と低く、重合度が低いキシロオリゴ糖と比較して280nmの吸収のあるフルフラールが生成しにくい性質を持っている。
【0009】
その他の精製方法
コーンコブ、綿実殻、バガス、稲わら等を原料として酵素反応を行ってキシロオリゴ糖を得る場合、原料をアルカリ処理や高温高圧処理などで前処理をしないと酵素反応で効率よくキシロオリゴ糖を生成することができない。ところがコーンコブの場合このようにして前処理して糖化した液には、高分子の水溶性不純物等が不純物として残存する。
【0010】
この高分子の水溶性不純物等を除去する方法として、UF膜を使用する方法(東和化成:特開昭61-285999 号) 、オゾン処理により不純物を酸化、有機酸に変換してからイオン交換樹脂により吸着する方法(東和化成:特開昭62-281890 号) 等が提案されている。しかし、UF膜を使用して清浄する方法においては、粗糖液中に含まれる残査物がUF膜の目詰りを起すため、事前に残査物が清澄になるまで濾過をしなければならない。また、オゾン処理する方法においては、手間が掛かる割には十分な除去効果が得られない等の難点がある。そこで、サントリーら(特開平5-253000)は、細片化したコーンコブ等の植物体をアルカリ処理し水洗浄したものを酵素糖化反応後、残査物を分離せずに石灰及び炭酸ガスを添加して不溶性の炭酸石灰を形成させ濾過を行なうことにより、濾過が非常に良好となり、少ない洗浄水で回収率が向上し、水溶性の高分子等の不純物も十分に除去され、純糖率が高くなることを見出している。そして、得られた清浄液を製品化する精製工程は、活性炭又はイオン交換樹脂による脱色、イオン交換樹脂による脱塩、必要であれば除菌フィルターを通した後、濃縮するとしている。
【0011】
高濃度キシロオリゴ糖の必要性
一方、キシロオリゴ糖液は、この糖液の保存中での微生物増殖を防ぐためや、食品などに添加して使用する場合その食品の本来の組成を損なわないためや、さらに輸送コストを低減するために、できるだけ高糖濃度液が望まれる。また粉末化したキシロオリゴ糖を製造するにあたって噴霧乾燥を行うには濃縮した液体を用いるのが望ましい。
【0012】
しかるに、酵素分解や蒸煮処理分解で得られるキシロオリゴ糖液は糖濃度が低く、例えば上記特開平5-253000の方法では水溶性の高分子等の不純物も十分に除去して得られた清浄糖溶液のBrixは2.61と低い。さらに、塩濃度が高く、低分子の色素成分もまだ残存している。したがって、この液をさらに脱色精製、濃縮して製品化する必要がある。
【0013】
そこで、この清浄糖溶液を濃縮する必要があるが、活性炭又はイオン交換樹脂による脱色、イオン交換樹脂による脱塩の後に、糖液を濃縮する際に、キシロオリゴ糖に含まれているキシロースは他のグルコースや蔗糖などの6炭糖と比べ着色し易くフルフラールなどUV吸収物質の不純物が生成し、さらに着色もし、不純物が増加することになる。とりわけ酸性領域での高温の濃縮操作ではフルフラールなどのUV吸収物質の生成や着色が起き、またアルカリ域での濃縮での高温操作はキシロオリゴ糖の分解や、着色物質の生成や、Ca塩による濃縮缶への缶石の付着による伝熱効率の著しい低下による濃縮効率の低下が起きる。これを防ぐためpHを中性に保ためにはアルカリ・酸が多量に必要になり、濃縮後にはこれらのアルカリ・酸の除去に大量のイオン交換樹脂による脱塩が必要になり、コストは大きくなるばかりか脱塩工程でのキシロオリゴ糖回収率の低下をきたす。
【0014】
また、食品としてのオリゴ糖の製造原料には食経験のある植物のヘミセルロースを原料とすることや、原料が容易に入手できることが望ましい。このような観点からは、綿実セリ、木材チップ等より、とうもろこしの芯であるコーンコブを原料としたキシロオリゴ糖が望まれる。ところがコーンコブのような糖化液に高分子色素やUV吸収物質を含む糖化液を原料としてキシロビオースが主成分の低重合度で、しかもUV吸収物質や着色物質が極めて少ないキシロオリゴ糖の製造方法は知られていなかった。
【特許文献1】特許3229944
【特許文献2】特開2001-2264090
【特許文献3】特開昭61-285999
【特許文献4】特開昭62-281890
【特許文献5】特開平5-253000
【非特許文献1】日本農芸化学会雑誌、第50巻、第5号p.209-215,1976
【非特許文献2】Bifidobacteria Microflara、Okazaki ら、vol.9, p77, 1990
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、コーンコブ、綿実殻、バガス、稲わら等の植物体原料から、キシロオリゴ糖を製造する方法において、当該原料をアルカリ処理や高温高圧処理などで前処理してさらに糖化した粗糖液中に不純物として残存する高分子の水溶性不純物を効率よく除去して、UV吸収物質や着色物質の夾雑が少ない高純度キシロオリゴ糖を製造する方法を提供する。
【0016】
本発明はまた、上記キシロオリゴ糖の製造方法により、UV吸収物質や着色物質の夾雑が少なく、且つ重合度が2〜3のキシロオリゴ糖の含有量が多い、高純度キシロオリゴ糖を製造する方法を提供する。
【0017】
本発明はさらに、上記キシロオリゴ糖の製造方法により、UV吸収物質や着色物質の夾雑が少なく、且つ固形分糖度が30%〜75%になるまで蒸煮濃縮しても、UV吸収物質や着色物質の生成が少ない高純度キシロオリゴ糖を製造する方法を提供する。
【0018】
本発明はさらに、上記キシロオリゴ糖の製造方法により、UV吸収物質や着色物質の夾雑が少なく、重合度が2〜3のキシロオリゴ糖の含有量が多く、且つ固形分糖度が30%〜75%になるまで蒸煮濃縮しても、UV吸収物質や着色物質の生成が少ない高純度キシロオリゴ糖を製造する方法を提供する。
【0019】
本発明はまた、本発明の方法で製造されたUV吸収物質や着色物質の含有量が少ない高純度キシロオリゴ糖も提供する。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究した結果、キシロオリゴ糖の高温加熱処理による着色は、キシロオリゴ糖に夾雑するUV吸収性の高い物質(UV吸収物質と呼ぶ)が多いほど強くなることを見出した。そこで、本発明者らはUV吸収物質の除去効率を高める方法を研究した結果、木材、コーンコブ、綿実殻、バガスおよび稲わらからなる群から選択される植物体原料、好ましくは細片化したものを、アルカリ処理もしくは加圧処理した後に酵素処理を施して得られた粗糖液を濾過して固形物を除去し、さらに濃縮してから脱塩および/または活性炭処理すると、濃縮せずに同じ処理を行った場合に比べてUV吸収物質および着色物質の夾雑割合が低いキシロオリゴ糖が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0021】
粗糖液の調製
本発明の方法で用いる植物体原料としては、木材、コーンコブ、綿実殻、バガス、稲わら等の1種又は2種以上を挙げることができる。とりわけ粗糖液の脱色が困難なコーンコブを原料として製造する場合に本発明の方法は効果が大きい。
【0022】
原料の前処理はアルカリ溶液に浸漬して高温処理もしくは高温高圧処理もしくはリグニン分解酵素処理を施して行うことができる。例えば、アルカリ処理は、苛性ソーダやアンモニア等を用いて行うことができる。前処理をリグニン分解酵素で行う場合は、その酵素の至適条件で行うことができる。
【0023】
前処理後の原料を酵素処理するために使用する酵素は、キシロビオース、キシロトリオースを中心に、低重合度のキシロ糖を主として生成することができるものを用いる。典型的酵素は、キシラナーゼであり、例えば細菌であるバシラス・ズブチリス(Bacillus subtilis),放線菌であるストレプトマイセス・エスビー(Streptomyces sp.), 糸状菌であるアスペルギルス(Aspergillus) 属,トリコデルマー(Trichoderma) 属, ペニシリウム(Penicillium) 属,クラドスポリウム(Claudosporium) 属等により生産されるものが知られているが、これらの酵素を目的に応じて選択使用する。酵素処理は、キシロビオースを主成分(全糖に占める重量%の割合が20%以上)とした目的のキシロオリゴ糖を製造できるような条件で行う。この条件によりキシロビオースを主成分とし、もしくは/且つそれぞれ全糖に占める単糖比率が30重量%以下または5%重量以下の糖組成の粗糖液が得られる。これらの条件を修正して最適化することは当業者にとって容易である。
【0024】
酵素処理後の粗糖液に含まれる固形分は、濾過して除去することが必須ではないが好ましい。濾過のために、珪藻土ろ過を用いることが可能である。特に好ましい濾過方法は、酵素処理後に得られた残査物を含んだ粗糖液に、石灰を添加し、炭酸ガスを添加して不溶性の石灰塩を生成させてから濾過を行なう。炭酸ガスの代わりに、石灰と反応して不溶性の石灰塩を生成し得る任意の酸、例えば蓚酸、燐酸を用いてもよい。石灰塩の生成を利用すると、濾膜の目詰まりを防止して効率的に濾過を行うことができる。
【0025】
粗糖液の濃縮および濃縮後の精製
本発明の方法の重要な特徴は、濾過により固形分が除去された粗糖液を (1) 脱塩処理、(2) 濃縮処理、(3) 活性炭処理の組み合わせを最適化して精製することにより、高純度キシロオリゴ糖組成物を得ることである。
【0026】
濃縮に際して、塩の析出を防止することが必要なら、まず脱塩により塩濃度を低下させ、さらにpHを中性付近にした後に濃縮を行う。脱塩は、陽イオン交換樹脂および/または陰イオン交換樹脂を用いて、常法で行ってよい。
【0027】
予備的にある程度もしくは最終濃度まで濃縮した後に、脱塩および/または活性炭処理を行うことで、加熱濃縮に伴う着色、UV吸収物質の増加を抑えるとともに、濃縮で得られる高糖濃度の糖液を活性炭処理することにより脱色とUV吸収物質の除去効率が良くなる。つまり、精製した糖液を目的の糖濃度まで濃縮するのではなく、粗糖液の状態で濃縮してから精製すれば、濃縮時、特に蒸煮濃縮時のUV吸収物質の発生を抑制できるうえ、濃縮粗糖液の方がUV吸着物質の除去および脱色の効率が高まる。この事実は、実施例3で具体的に示されている。
【0028】
濃縮は、糖濃度(固形分濃度)が製品濃度にできるだけ近づくまで行うのが好ましいが、あまりの高濃度では粘度が著しく高くなり、引き続き行う活性炭処理などでのハンドリングは低下する。また濃縮が不足すると、活性炭処理効率やイオン交換樹脂処理効率の低下とその後の加熱濃縮による着色やUV吸収物質の増加がおきる。従って、活性炭又はイオン交換樹脂による脱色を行なう前に、固形分濃度で40〜75%望ましくは、45〜65%にまで粗糖液を濃縮することにより、引き続く精製操作によりリグニン成分を除去すると共に、濃縮工程などで生成するUV吸収物質や着色が少ない高純度のキシロオリゴ糖を得ることができる。固形分濃度は水分を乾燥して容易に知ることができるが、便宜上Brix糖度計により測定してもよい。
【0029】
粗糖液の濃縮方法は、糖液の濃縮に一般に用いる方法でよく、例えば常圧もしくは減圧下で、沸点付近の温度で蒸煮して濃縮することができる。濃縮装置としては多重効用缶などを用いることができる。減圧下での濃縮はより好ましい。
【0030】
濃縮粗糖液の精製のための、活性炭処理、陽イオン交換樹脂処理、陰イオン交換樹脂処理の順序は任意である。活性炭は食品の精製に使用できる活性炭であればどのようなものでも使用できる。また本明細書において、活性炭の用語は吸着剤と同義で用いられ、活性炭の代わりにグラファイトカーボン、スチレンジビニルベンゼン重合体等の合成吸着剤等の吸着剤を用いてもよい。また使用するイオン交換樹脂は、強酸性陽イオン交換樹脂、弱アルカリ性陰イオン交換樹脂、さらに陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹を混合した混床形イオン交換樹脂を用いることが出きる。
【0031】
濃縮粗糖液の精製により、UV吸収物質および着色物質が効率よく除去できる。UV吸収物質は280nm, 230nmの吸光度、着色物質は420nmの吸光度を測定し、吸光度が精製操作前に比べて低下したことで、これらの物質の除去を評価できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明の方法の具体的態様として、例えば、次のような態様が挙げられる。
イ)酵素糖化後に炭酸飽充処理、膜分離、イオン交換樹脂処理、もしくは活性炭処理などを行ない色素などの不純物を除去し、塩濃度を低下させ、さらにpHを中性付近にした後に、予備的にある程度濃度まで濃縮した後に、さらに脱塩と活性炭処理を行い最終的に糖濃度75%のキシロオリゴ糖シロップが得られる。このシロップを糖濃度37.5%になるように希釈して5cmのセルでの測定では、420nmの吸光度が0.2望ましくは0.06;また1 cmのセルでの測定では、280nm、230nmの吸光度が1.28以下、3.7以下と紫外吸収を示す不純物の少ない糖液が得られる。(実施例3の活性炭1%添加処理での濃度50%を37.5%に換算した)
ロ)酵素糖化後に炭酸飽充処理、膜分離、活性炭処理、もしくは脱塩により塩濃度および色素などの不純物をある程度低下させ、さらにpHを中性付近にした後に、予備的にある程度の濃度まで濃縮した後に、さらに脱塩を行い、その後イオン交換樹脂で単糖をクロマト除去し、活性炭処理を行い、その後スプレードライで乾燥することにより、最終的に水分6%以下で単糖5%以下のキシロオリゴ糖粉末が得られる。この粉末を20%になるように水に溶解させた溶液の色調は5cmのセルでの測定で、420nmの吸光度が0.1望ましくは0.05。また1 cmのセルでの測定では、280nm、230nmの吸光度が1以下、2以下と紫外吸収を示す不純物の少ない糖液が得られる。
〔発明の効果〕
【0033】
本発明によれば粗糖液を活性炭やイオン交換樹脂で脱色する前に脱塩および所定の濃度まで濃縮することで、UV吸収のある不純物や着色物質の生成を抑制できるので、キシロオリゴ糖等の粗糖液が効率的に清浄化され、不純物の少ない高純度のキシロオリゴ糖精製品を得ることができる。そしてキシロオリゴ糖を使用した製品の着色を抑えることができる。
【0034】
本発明の方法により製造されたキシロオリゴ糖は、着色が少ないため、加工食品、飲料、健康食品、サプリメント、特定保健用食品、化粧品、ペットフードなどに添加して高品質な商品を製造することができる。
【0035】
以下、実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではなくその考え方を用いて製造される方法も本発明に含まれる。
【実施例1】
【0036】
高純度キシロオリゴ糖液の製造
(1) 細片化したコーンコブを、苛性ソーダを溶解した温水に浸漬し90℃に保ちながら、90分間攪拌後、濾過し、温水で洗浄しpHが11以下になる程度にアルカリ分を除いた。
(2) こうして前処理した固形物に水を加え、硫酸もしくは水酸化ナトリウムでpHを5.6 に調整した後、酵素キシラナーゼを添加、46℃で12 時間酵素反応を行った。
(3) 酵素反応液は、液温を46℃程度に保ちながら、この糖化反応液に、コーンコブ原料当たり40重量%以上の石灰乳(CaO)を連続的に添加し、その後pH8.5 前後にコントロールするように炭酸ガスを吹き込み、終了後、直ちに濾過し、清澄な糖液を得た。
(4) この清澄なろ過液を、陽イオン交換樹脂(三菱ダイヤイオンPK-216)と陰イオン交換樹脂(三菱ダイヤイオンWA-30)に連続的に通液する。脱塩された液の糖濃度はBrixで2.2%となる。脱塩液のpHは4〜7が望ましいがアルカリ側になった場合には硫酸を加えpHを4〜7に調整した。
(5) このようにしてpHは4〜7になった脱塩液を多重効用缶を用いて糖濃度がBrix で20%程度になるまで濃縮した。
(6) 濃縮液はさらに混床形イオン交換樹脂(三菱ダイヤイオンPK216、PA412)で脱塩を行った。
(7) その後糖濃度がBrixで50%程度になるまで濃縮を行った。この液のpHは6.5程度になった。
(8) この濃縮液をさらに混床形イオン交換樹脂(三菱ダイヤイオンPK216、PA412)に通液し、その後、全糖固形分の2重量%の活性炭を加え、1時間処理し、その後珪藻土を加えろ過により活性炭を除去した。
(9) その後、Brixが74.5になるように濃縮し、高純度キシロオリゴ糖溶液を得た。
【0037】
得られたキシロオリゴ糖溶液の糖組成は、キシロース23.4%、グルコース4.5%、キシロビース34.4%、セロビオース3.0%、キシロトリオース8.51%、キシロテトラオース以上の重合度のオリゴ糖25.7%であった。
【0038】
色調はこの糖液を糖濃度50%および37.5%になるように希釈して5cmのセルで測定した結果、420nmの吸光度が0.07、0.06とほぼ無色に近いものであった。また1 cmのセルで測定した結果、280nmの吸光度が、1.1、0.85さらに230nmの吸光度が3.2、2.5と紫外吸収を示す不純物の少ない糖液であった。糖濃度50%液のフルフラールは5ppmであった。
【0039】
【表1】

【実施例2】
【0040】
高純度キシロオリゴ糖液の製造
実施例1で一度目の混床型イオン交換樹脂処理を行い、その後糖濃度がBrixで50%程度になるまで濃縮を行った糖液をさらに混床型イオン交換樹脂処理を行い、その後イオンクロマトを用いてキシロースなどの単糖を除くことによって、単糖が5%以下のキシロオリゴ糖溶液を製造した。この溶液を実施例1と同様の方法で活性炭処理を行い、その後珪藻土を加え、ろ過により活性炭を除去した。この液を噴霧乾燥することにより、水分6%以下のオリゴ糖が高純度のキシロオリゴ糖粉末が製造できる。
【0041】
この粉末の糖組成比は、キシロース0.67%、キシロビース33.2%、キシロトリオース13.78%キシロテトラオース以上の重合度のオリゴ糖46.29%、セロビオ−ス4.4%、グルコースなどの単糖1.59であった。
【0042】
この粉末を糖濃度が20g/100mlになるように純水に溶解させ、5 cmのセルで色調を測定した結果、420nmの吸光度が0.03とほぼ無色に近いものであった。また1 cmのセルで測定した280nm、230nmの吸光度が0.20、1.30と紫外吸収を示す不純物の少ない糖液であった。糖濃度20%液のフルフラールは3ppmであった。
【0043】
【表2】

【実施例3】
【0044】
高濃度糖液を活性炭処理する効果
実施例1で得た、一度目の混床型イオン交換樹脂(三菱ダイヤイオンPK216、PA412)で脱塩を行い、その後糖濃度が固形分50%になるまで濃縮を行った液、およびこの液を重量比で10倍に希釈し固形分10%の液を調整した。固形分が50%の液には固形分に対する活性炭の重量比がそれぞれ2、4、8%(液に対する重量比がそれぞれ1、2、4%)になるように活性炭を添加、固形分が10%の液には固形分に対する活性炭重量比がそれぞれ2、4、8%(液に対する重量比がそれぞれ0.1、0.2、0.4%)になるように添加しそれぞれ50℃で60分攪拌した後、ろ過を行った。
【0045】
この結果、420nm、280nm、230nmの吸光度の除去率は、固形分に対する活性炭添加重量比が同じ場合、固形分50%の液の活性炭処理のほうが高かった。すなわち、高濃度で活性炭処理を行うことで、UV吸収物資や着色物質の除去の効率をあげることができる。
【0046】
上記で得た固形分5%糖液の活性炭処理液を100℃で30分加熱した結果、420nm、280nm、230nmの吸光度はすべて増加した。
すなわち固形分50%糖液の活性炭処理による処理は、固形分5%糖液の活性炭処理による処理の後、50%に加熱して濃縮する場合と比較し、420nm、280nm、230nmの吸光度を大きく減少できた。
【0047】
【表3】

【実施例4】
【0048】
UV吸収が高いと加熱時の着色は大きくなる
実施例1で得たキシロオリゴ糖シロップを糖濃度が2%になるように純水で希釈しサンプル1を調整した、280nm、230 nm、420 nmの吸光度は0.043、0.142、0.000であった、サンプル1を121℃で3時間加熱しサンプル2を得た、サンプル2の280nm、230 nm、420 nmの吸光度は7.72、2.67、0.006とほぼ無色の液であった。
【0049】
このサンプル2を121℃でさらに3時間加熱し、吸光度を測定した結果、280nm、230 nm、420 nmの吸光度は15.62、4.63、0.021と薄茶色に着色した。
280nm、230 nmの吸光度が7.7、2.6を超えると、その後3時間121℃処理で目に見える着色になることがわかる。
【0050】
【表4】

【実施例5】
【0051】
飲料の製造
実施例1で得たキシロオリゴ糖シロップ4g、クエン酸5gを200mlの水に加え飲料を製造した。本飲料はさっぱりした甘みを持つ飲料であった。
【参考例1】
【0052】
キシロオリゴ糖の重合度が高くなるに従い着色は小さくなる
純度が95%以上のキシロース、キシロビース、キシロトリオースを2重量%になるように純水に溶解させ、100℃で2時間加熱した。この糖液の1cmセルでの280nmの吸光度は、キシロース0.257、キシロビース0.200、キシロトリオース0.065、 230nmの吸光度はキシロース0.791、キシロビース0.510、キシロトリオース0.321と重合度が大きくなるに従ってUV吸収の増加は小さくなった。121℃で6時間加熱した後の着色を420nmの吸光度で見た結果、キシロース0.031、キシロビース0.023、キシロトリオース0.012と重合度が大きくなるに従って着色の増加は小さくなった
このことは、キシロビースが主成分のキシロオリゴ糖の加熱に伴う着色は、重合度がキシロビースの大きいキシロオリゴ糖を主成分とするキシロオリゴ糖より大きくなることがわかる。
【0053】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーンコブ、綿実殻、バガスおよび稲わらからなる群から選択される植物体原料を、アルカリ処理もしくは加圧加熱処理し、さらに酵素処理して得られた粗糖液を、濃縮した後、脱塩および/または活性炭処理を行い、必要であれば得られた糖液を乾燥して粉末とすることからなる、UV吸収が少なくおよび/または着色も少ない高純度キシロオリゴ糖の製造方法。
【請求項2】
コーンコブ、綿実殻、バガスおよび稲わらからなる群から選択される植物体原料を、アルカリ処理もしくは加圧加熱処理し、さらに酵素処理して得られた粗糖液を、脱塩および/または活性炭処理した後に濃縮し、さらに脱塩および/または活性炭処理を行い、必要であれば得られた糖液を乾燥して粉末とすることからなる、UV吸収が少なくおよび/または着色も少ない高純度キシロオリゴ糖の製造方法。
【請求項3】
コーンコブ、綿実殻、バガスおよび稲わらからなる群から選択される植物体原料を、アルカリ処理もしくは加圧加熱処理し、さらに酵素処理して得られた残査物を含む粗糖液に、石灰と炭酸ガスを反応させて不溶性の石灰塩を生成させた後、不溶物を濾過して得た粗糖液を濃縮し、さらに脱塩および/または活性炭処理を行い、必要であれば得られた糖液を乾燥して粉末とすることからなる、UV吸収が少なくおよび/または着色も少ない高純度キシロオリゴ糖の製造方法。
【請求項4】
コーンコブ、綿実殻、バガスおよび稲わらからなる群から選択される植物体原料を、アルカリ処理もしくは加圧加熱処理し、さらに酵素処理して得られた残査物を含む粗糖液に、石灰と炭酸ガスを反応させて不溶性の石灰塩を生成させた後、不溶物を濾過して得た粗糖液を脱塩および/または活性炭処理後に濃縮し、さらに脱塩および/または活性炭処理を行い、必要であれば得られた糖液を乾燥して粉末とすることからなる、UV吸収物質が少なくおよび/または着色も少ない高純度キシロオリゴ糖の製造方法。
【請求項5】
原料がコーンコブである請求項1〜4のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項6】
単糖比率が30%以下の糖組成のキシロオリゴ糖を製造する請求項1〜5のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項7】
糖濃度が37.5%における1cmセルでの280nmでの吸光度が2以下でおよび/または5cmセルでの420 nmの吸光度が0.2以下となるキシロオリゴ糖溶液もしくはキシロオリゴ糖粉末を与える請求項6の製造方法。
【請求項8】
単糖比率が5%以下の糖組成のキシロオリゴ糖を製造する請求項1〜5のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項9】
糖濃度が20%における1 cmセルでの280nmでの吸光度が1以下でおよび/または5cmセルでの420 nmの吸光度が0.1以下となるキシロオリゴ糖溶液もしくはキシロオリゴ糖粉末を与える請求項8の製造方法。
【請求項10】
主成分がキシロビオースであるキシロオリゴ糖を製造する請求項1〜9のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項の方法で製造された、キシロオリゴ糖の単糖比率が30%以下の糖組成を持ち、糖濃度37.5%において測定したとき1cmセルでの280nmでの吸光度が2以下でおよび/または5cmセルでの420 nmの吸光度が0.2以下となるキシロオリゴ糖溶液もしくはキシロオリゴ糖粉末。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか1項の方法で製造された、キシロオリゴ糖の単糖比率が5%以下の糖組成を持ち、糖濃度が20%における1 cm セルでの280nmでの吸光度が1以下でおよび/または5cmセルでの420 nmでの吸光度が0.1以下のキシロオリゴ糖溶液もしくはキシロオリゴ糖粉末。
【請求項13】
請求項1〜10のいずれか1項記載の方法で製造されたキシロオリゴ糖を含有する、加工食品、飲料、健康食品、サプリメント、特定保健用食品、化粧品、ペットフード、医薬品。

【公開番号】特開2006−296224(P2006−296224A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−119032(P2005−119032)
【出願日】平成17年4月15日(2005.4.15)
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)
【出願人】(000241968)北海道糖業株式会社 (9)
【Fターム(参考)】