説明

高純度ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液の製造法

【課題】分子量150万〜400万の高純度ヒアルロン酸類注射液の大量スケールでの製造法を提供する。
【解決手段】下記のA、B、C、D、E及びFの6工程を含むことを特徴とする高純度ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液の製造法。
A工程:撹拌槽にヒアルロン酸及び/又はその塩を投入する工程。
B工程:ヒアルロン酸及び/又はその塩を溶解する工程。
C工程:ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液を脱泡する工程。
D工程:ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液を加熱滅菌する工程。
E工程:ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液中の異物を除去する工程。
F工程:ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液を充填する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、「ヒアルロン酸及び/又はその塩」(以下、総称してヒアルロン酸類という)を含有する高純度ヒアルロン酸類溶液の製造法であり、特に医薬品に適合した注射液を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸は、N−アセチル−D−グルコサミンとD−グルクロン酸とが結合した2糖単位がくりかえし連鎖してなる、分子量が500万にもおよぶと言われている高分子量の多糖類である。一般に、そのグルクロン酸がナトリウム塩の形となったヒアルロン酸ナトリウムとして分離精製される。分子量約200万のヒアルロン酸ナトリウムは、分子量約80万のものに比べて医薬品として、変形性膝関節症、肩関節周囲炎、慢性関節リウマチ等の治療に優れた効果を発揮することが知られている(薬理と治療 Vol.22 No.9 289(1994);薬理と治療 Vol.22 No.9 319(1994))。
【0003】
外科手術後の癒着防止用として、また皮膚科領域、眼科領域においても医薬品としての効果が知られており、実用化されているものもある。微生物発酵法により製造されるヒアルロン酸ナトリウムは、例えばある種のストレプトコッカス属を用いて培養し、得られた培養液を希釈し、種々の精製工程を経て、粉末状で取得される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】薬理と治療 Vol.22 No.9 289(1994)
【非特許文献2】薬理と治療 Vol.22 No.9 319(1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
微生物発酵法によれば、ヒアルロン酸ナトリウムを高分子量のまま精製取得することができるが、ヒアルロン酸ナトリウム注射液を大量製造するに際しては、種々の困難な問題があった。
即ち、高分子量のヒアルロン酸ナトリウムの溶解を短時間で効率よく行うことが難しいこと、該溶液の粘度が非常に高いため取り扱いにくいこと、熱等に不安定でろ過あるいは滅菌が難しいこと等である。
従って、このような微生物発酵法で得られた高分子量のヒアルロン酸ナトリウム注射液を大量に製造する方法については、明らかにされていなかった。
【0006】
本発明者は、高純度ヒアルロン酸類の含有液を注射液として大量に製造する方法を鋭意検討した結果本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下に記す方法に関するものである。
即ち、
(1)下記のA、B、C、D、E及びFの6工程を含むことを特徴とする高純度ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液の製造法。
A工程:撹拌槽にヒアルロン酸類を投入する工程。
B工程:ヒアルロン酸類を溶解する工程。
C工程:ヒアルロン酸類の含有液を脱泡する工程。
D工程:ヒアルロン酸類の含有液を加熱滅菌する工程。
E工程:ヒアルロン酸類の含有液中の異物を除去する工程。
F工程:ヒアルロン酸類の含有液を充填する工程。
(2)下記のA、B、C、D、E及びFの6工程順に処理することを特徴とする高純度ヒアルロン酸類の含有液の製造法。
A工程:バルブ付の気密容器に充填されているヒアルロン酸類を、該容器を逆さにして外気に触れることなく、撹拌槽にヒアルロン酸類を投入する工程。
B工程:タービン型、ディスパー型、ディスパータービン型、アンカー型、パドルプレート付鋸羽翼から選ばれた撹拌翼を備えた撹拌槽を用いてヒアルロン酸類を溶解する工程。
C工程:撹拌槽の内部圧力を大気圧以下に減圧してヒアルロン酸類の含有液を脱泡する工程。
D工程:被加熱処理液体を流通せしめる内筒と、該内筒の外周を離間して囲むように設けられた外筒とからなり、内外筒間の空間に加熱媒体通路を形成し、軸方向に長さを有する軸部と、該軸部から径方向外方突出し、軸方向に角度を有する複数の翼片とからなる固定撹拌機構を軸方向に離間して複数設けた間接加熱装置を用いてヒアルロン酸類の含有液を加熱滅菌する工程。
E工程:ろ過膜にてヒアルロン酸類の含有液をろ過処理してヒアルロン酸類の含有液中の異物を除去する工程。
F工程:ヒアルロン酸類の含有液を注射用容器及び/又はバイアルに充填する際に、充填機の充填ポンプが、ウェートバルブ型、スプリングボールバルブ型、ピンチバルブ型及び回転式ピストンポンプ型、ダイアフラム型から選ばれた1種を用い、薬液タンクを加圧してヒアルロン酸類の含有液を充填する工程。
(3)ヒアルロン酸類の含有液が注射用水又は生理食塩水によって調製されたものである(1)又は(2)記載の高純度ヒアルロン酸類の含有液の製造法、(4)前記A工程におけるバルブ付の気密容器の接続面が曲面である(3)記載の高純度ヒアルロン酸類の含有液の製造法、(5)前記A工程におけるバルブ付の気密容器の投入シュートの角度が50°以上である(4)記載の高純度ヒアルロン酸類の含有液の製造法、(6)前記A工程におけるバルブがバタフライ弁である(5)記載の高純度ヒアルロン酸類の含有液の製造法、(7)前記A工程におけるバルブ付の気密容器の内面の材質が、ステンレス鋼又はテフロン(登録商標)コーティングである(6)記載の高純度ヒアルロン酸類の含有液の製造法、(8)前記B工程における撹拌翼の軸が容器中央又は偏心させた位置にある撹拌槽を用いる(7)記載の高純度ヒアルロン酸類の含有液の製造法、(9)前記B工程における撹拌翼が、1段又は多段である撹拌槽を用いる(8)記載の高純度ヒアルロン酸類の含有液の製造法、(10)前記B工程における撹拌翼の回転数が100〜5000rpmである撹拌槽を用いる(9)記載の高純度ヒアルロン酸類の含有液の製造法、(11)前記B工程における撹拌槽及びラインの内部材質が、テフロン(登録商標)、テフロン(登録商標)ライニング、テフロン(登録商標)コーティングである(10)記載の高純度ヒアルロン酸類の含有液の製造法、(12)前記C工程における脱泡処理時の撹拌層の内部圧力を5〜20kPa absに減圧する(11)記載の高純度ヒアルロン酸類の含有液の製造法、(13)前記C工程における脱泡処理時のヒアルロン酸類の含有液の濃度が7.5〜12.5g/lである(12)記載の高純度ヒアルロン酸類の含有液の製造法、(14)前記D工程における間接加熱装置が加熱部、ホールド部、冷却部より構成されている間接加熱装置を用いる(13)記載の高純度ヒアルロン酸類の含有液の製造法、(15)前記D工程における間接加熱装置のホールド部の温度が115℃〜145℃である(14)記載の高純度ヒアルロン酸類の含有液の製造法、(16)前記D工程における間接加熱装置のホールド部のヒアルロン酸類の含有液の滞留時間が2秒〜30分である(15)記載の高純度ヒアルロン酸類の含有液の製造法、(17)訪記D工程における間接加熱装置の冷却部出口の温度が60℃以下である(16)記載の高純度ヒアルロン酸類の含有液の製造法、(18)前記D工程における間接加熱装置の内筒内の圧力を、外筒内の圧力よりも高くする(17)記載の高純度ヒアルロン酸類の含有液の製造法、(19)前記D工程における間接加熱装置の材質が、ステンレス又はハステロイである(18)記載の高純度ヒアルロン酸類の含有液の製造法、(20)前記D工程におけるヒアルロン酸類の含有液の濃度が7.5〜12.5g/lである(19)記載の高純度ヒアルロン酸類の含有液の製造法、(21)前記E工程におけるろ過膜処理時のヒアルロン酸類の含有液のpHが2〜10である(20)記載の高純度ヒアルロン酸類の含有液の製造法、(22)前記E工程におけるろ過膜処理時のヒアルロン酸類の含有液の温度が5〜100℃である(21)記載の高純度ヒアルロン酸類の含有液の製造法、(23)前記E工程におけるろ過膜処理時のヒアルロン酸類の含有液の濃度が7.5〜12.5g/lである(22)記載の高純度ヒアルロン酸類の含有液の製造法、(24)前記E工程におけるろ過膜の孔径が0.2〜50μmの範囲である(23)記載の高純度ヒアルロン酸類の含有液の製造法、(25)前記E工程におけるろ過膜のろ材形状が、平膜、フィルターカートリッジ及びディスポーザブルフィルターから選ばれた一種である(24)記載の高純度ヒアルロン酸類の含有液の製造法、(26)前記E工程におけるろ過膜の材質がポリテトラフルオロエチレン、ポリエステル、テフロン(登録商標)、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン及びナイロンから選ばれた一種である(25)記載の高純度ヒアルロン酸類の含有液の製造法、(27)前記F工程におけるヒアルロン酸類の含有液を注射容器及び/又はバイアルに充填する際に、充填機の充填ポンプが、ダイアフラム型を用いる(26)記載の高純度ヒアルロン酸類の含有液の製造法、(28)前記F工程におけるヒアルロン酸類の含有液を注射容器及び/又はバイアルに充填する際に、薬液タンクを0.01〜0.50MPaで加圧する(27)記載の高純度ヒアルロン酸類の含有液の製造法、(29)前記F工程におけるヒアルロン酸類の含有液の濃度が7.5〜12.5g/lである(28)記載の高純度ヒアルロン酸類の含有液の製造法、(30)ヒアルロン酸類の分子量が150万〜400万であることを特徴とする(1)〜(29)のいずれかに記載の高純度ヒアルロン酸類の含有液の製造法、(31)ヒアルロン酸類が、ストンプトコッカス・エクイFM−100を用いて、発酵法によリ製造されるものであることを特徴とする(1)〜(29)のいずれかに記載の高純度ヒアルロン酸類の含有液の製造法、(32)ヒアルロン酸類が、ストレプトコッカス・エクイFM−300を用いて、発酵法により製造されるものであることを特徴とする(1)〜(29)のいずれかに記載の高純度ヒアルロン酸類の含有液の製造法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、微生物発酵法により得られた分子量150万〜400万のヒアルロン酸類注射液の大量スケールでの製造が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、更に本発明について詳しく説明する。
本発明に用いられるヒアルロン酸類は、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸の塩、又はヒアルロン酸とヒアルロン酸の塩との混合物を包含している。ヒアルロン酸類は、遊離の形でもよく又その塩でもよく例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、リチウム塩等が挙げられるが、ナトリウム塩が好ましい。更に本発明で使用するヒアルロン酸類含有液は動物組織から抽出したものでも、また発酵法で製造したものでも使用できる。好ましくは、発酵法で製造したものである。
【0010】
発酵法によるヒアルロン酸類は例えばストレプトコッカス属のバクテリアを使用して既知の方法で得ることができる。
【0011】
発酵法で使用する菌株は自然界から分離されるストレプトコッカス属等のヒアルロン酸生産能を有する微生物、又は特開昭63−123392号公報に記載したストレプトコッカス・エクイFM−100(微工研菌寄第9027号)、特開平2−234689号公報に記載したストレプトコッカス・エクイFM−300(微工研菌寄第2319号)のような高収率で安定にヒアルロン酸を生産する変異株が望ましい。
上記の変異株を用いて培養、精製されたものが用いられる。
【0012】
本発明に使用されるヒアルロン酸類は分子量は150万〜400万のものが適している。平均分子量が150万より小さい場合には医薬品としての効能が低下する。400万より大きいものをこの方法で得ることは、困難である。
【0013】
本発明のヒアルロン酸ナトリウムを溶解する工程で用いる注射用溶解液としては、注射用水や生理食塩水及びそれに酸、アルカリ、リン酸塩のような緩衝剤を含むpH調整剤等を加えた日本薬局方の製剤総則注射剤の項で、認められているものを使用することができる。
【0014】
溶解工程でのヒアルロン酸類の添加量としては、ヒアルロン酸類濃度が0.75〜1.25w/v%となるように設定する。ヒアルロン酸類濃度0.75w/v%以下では、ヒアルロン酸溶液の粘度は低く、本発明によらなくても製造が容易である。
また1.25w/v%以上は、ヒアルロン酸類の溶解度から大量に調製することは難しい。高粘度の溶液となるヒアルロン酸類濃度0.75〜1.25w/v%が本発明の製造条件に該当する。
【0015】
溶解するヒアルロン酸類はバルブ付の気密容器に充填しておく。投入するときの接続面は曲面にし、バルブ付の気密容器の投入シュートの角度は、50°以上の急勾配にする。それは該容器を逆さにして、ヒアルロン酸類を投入するとき、ロスが少ないようにするためである。
【0016】
バルブは、バタフライ弁を用い、その切り換えによりヒアルロン酸類を外気にふれさせることなく、無菌的に溶解用の撹拌槽に添加することができる。このバルブ付の気密容器の内面の材質は、ステンレス鋼もしくはそのテフロン(登録商標)コーティングしたものが好ましい。
従って、該容器は、洗浄性がよく、更に取扱いが簡便である。
【0017】
溶解には、撹拌装置を具備した撹拌槽を使用する。ヒアルロン酸類の注射用溶解液への溶解性がよくないことと、溶液が高粘度であることから、撹拌装置としては、タービン型、アンカー型、パドルプレート付鋸羽翼、ディスパー型またはディスパータービン型の撹拌羽根を有するものが好ましい。
【0018】
撹拌翼の軸は、容器中央又は偏心させた位置に取り付ける。撹拌羽根は一段もしくは多段にしてもよい。該撹拌羽根の回転数は100〜5000rpm、好ましくは、800〜2000rpmが適当である。回転数が該範囲より小さい場合は、ヒアルロン酸類の注射用溶解液への浸透が悪く、完全に溶解するまでに長時間を要する。回転数が該範囲より大きい場合はヒアルロン酸類の注射用溶解液への分散が不良になり、撹拌槽内の界面上部への飛散が大きくなり、溶解が円滑に進まない。溶解速度を上げるために撹拌槽外部から加温をする必要はなく、短時間で、溶解することができる。このように短時間で穏和な条件で溶解できるため、ヒアルロン酸類の分子量低下のような物性変化は少ない。
【0019】
溶解操作に於いて、適宜撹拌槽内を大気圧以下に減圧することが好ましい。それはヒアルロン酸類及び液中の気泡を除去するためで、溶解速度を速めるためにも有効である。
ヒアルロン酸類溶液は、高粘度であるが、その脱泡のために、真空ポンプ等の通常の減圧手段を用い、5〜20kPa abs程度まで減圧するのが好ましい。温度を上げたり、溶液の撹拌を併用して行うと更に効果が上がる。
【0020】
溶解用撹拌槽内面の材質は、食塩水に対する耐食性、溶解後の内面の洗浄性などから、ステンレス、ガラス、テフロン(登録商標)等が挙げられるが、ヒアルロン酸類溶液の材質表面への付着の点から、テフロン(登録商標)、テフロン(登録商標)ライニングまたはテフロン(登録商標)コーティングが好ましい。テフロン(登録商標)は他の材質に比べ、ヒアルロン酸類溶液の付着が少ないので、撹拌槽から溶解液を排出したり、撹拌槽を洗浄するのに適している。
【0021】
本発明の滅菌工程では、被加熱処理液体を流通せしめる内筒と、該内筒の外周を離間して囲むように設けられた外筒とからなり、内外筒間の空間に加熱媒体通路を形成し、軸方向に長さを有する軸部と、該軸部から径方向外方突出し、軸方向に角度を有する複数の翼片とからなる固定撹拌機構を軸方向に離間して複数設けた間接加熱装置を用いる。
【0022】
ヒアルロン酸類溶液の滅菌においては、ヒアルロン酸の分子量の低下を最小限に抑えなければならない。そのためには、滅菌機内のヒアルロン酸類溶液の温度と滞留時間は重要な要件である。
従って、滅菌工程においては、ヒアルロン酸類溶液を急加熱、急冷却することが必要である。使用される滅菌機としては、例えば、特公平6−15953号に開示されているような間接加熱装置を用いることができる。
【0023】
即ち二重管からなり、内側にヒアルロン酸類溶液を連続的に通液でき、外側に加熱媒体又は冷却媒体を通液できる構造のものであり、ヒアルロン酸類溶液を加熱する部分(以下、加熱部という)一定時間その温度を維持する部分(以下、ホールド部という)及び急冷する部分(以下、冷却部という)から構成される。
【0024】
滞留時間は、滅菌機内のホールド部の温度との組合せで2秒〜30分の範囲で選定できる。滅菌機内のホールド部の温度は115℃〜145℃、好ましくは130℃〜140℃である。ヒアルロン酸類溶液のホールド部での温度が115℃より低い場合は、充分な滅菌効果が期待できず、また145℃より高い場合は、ヒアルロン酸類の熱による分解を生じ、分子量が大きく低下する。
【0025】
ヒアルロン酸類溶液と加熱媒体及び冷却媒体との熱交換効率を上げるために、ヒアルロン酸類溶液が通る加熱部、冷却部の内側に、固定撹拌機構が内蔵されている。滅菌機の加熱部の媒体としては、通常の水蒸気や熱水が使用され、冷却媒体としては、水が適当である。加熱部ではヒアルロン酸類溶液の温度がホールド部の温度に到達するように加熱し、冷却部ではヒアルロン酸類溶液がホールド部の温度から60℃以下になるように冷却する。ホールド部は理論的には加熱を必要としないが、周囲への放熱による温度効果を防ぐために若干加熱するのが適当である。
【0026】
本発明の滅菌機で均一な滅菌効果を得るために、ヒアルロン酸類溶液を連続的に一定流量で供給することが肝要である。そのためには、常法に従い、定量ポンプや流量制御計を利用する。本発明の滅菌操作条件においてヒアルロン酸溶液の滅菌機の出口に取リ付けられた圧力調節弁により、滅菌機内のヒアルロン酸類溶液の内圧が常に加熱媒体または冷却媒体の圧力より大きく維持することが必須の条件である。これは万一、設備上の障害があっても加熱媒体や冷却媒体がヒアルロン酸類溶液中に混入するのを防止できるからである。
【0027】
滅菌機の材質は、高温の食塩水に耐食性を示すもの、例えばステンレス、ハステロイが選ばれる。
【0028】
本発明の異物ろ過工程で使用されるろ過膜は孔径0.2〜50μmが好ましい。孔径が0.2μmより小さい場合は、前工程で得られた滅菌液が非常に高粘度液のため膜を通液させるのが困難であり、また孔径が50μmより大きい場合は、異物ろ過が不完全になり、注射液中に目視で判別できる不溶性異物が混在するので好ましくない。
【0029】
ろ過膜の材質はポリテトラフルオロエチンン、ポリエステル、テフロン(登録商標)、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン及びナイロンの中から選定できる。
【0030】
ろ過膜のろ材形状としては、平膜、フィルターカートリッジ及びディスポーザブルフィルターから選択できる。ろ過液は注射用溶解液で希釈し、濃度調整することもできる。
【0031】
充填前に、静置による大型気泡の除去後に薬液タンクの内部を加圧することで充填時の薬液送液の安定化をはかり、充填精度の向上を達成することができる。
加圧方法としては、清浄空気の圧送、窒素ガス等の不活性ガスの圧送など薬液との接触で品質に変化を起こさない方法であればいずれでもよい。
加圧条件は、ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液の濃度及び粘度により変動するが、0.01〜0.50MPaに制御することで良好な結果が得られる。
【0032】
本発明の充填工程で使用される充填機としては、ヒアルロン酸類溶液を容器に充填する部分と充填後の容器にゴム栓を打栓あるいは容器を熔封する密封部分からなる充填機が使用される。
【0033】
充填ポンプとしては、当分野で周知のウェートバルブ型、スプリングボールバルブ型、ピンチバルブ型及び回転式ピストンポンプ型、ダイアフラム型等が使用できるが、ヒアルロン酸類溶液は例えば300〜600ポアズの高粘度液であるので、充填精度がよく且つヒアルロン酸類溶液に特有な糸曳き防止に効果があるサックバック機構を備えたスプリングボールバルブ型の使用が好ましい。
【0034】
本発明に使用される注射液用容器としては、一般のアンプル、バイアルまたは例えば、デュファージエクト型や、プレフィルドシリンジが使用できる。
これら注射液用容器は、医療機関で使用される際にヒアルロン酸類注射液が容器内に残存する量を極力少なくするためにポリジメチルシロキサン等でコーティングしたものを使用するのが好ましい。
【0035】
バイアル又はシリンジを密封するゴム栓の材質は医薬品用として広く使用されているブチルゴム、塩化ブチルゴム、ブタジエンゴムが使用できるがさらにこれらをシリコーンでコーティングしたものが不純物の溶出が少ない等の点から好ましい。
【実施例】
【0036】
本発明をさらに説明するために以下に実施例を挙げるが、これらの実施例はいかなる意味においても本発明を制限するものではない。
【0037】
実施例1
分子量237万のヒアルロン酸ナトリウム1580gを20リットルのバタフライ弁のついた気密容器に充填した。内面がテフロン(登録商標)コーティングされているステンレス製の容量200リットルの溶解槽にディスパータービン型の撹拌羽根を内割で1:2の位置に取付け、pH7.3の2mMリン酸ナトリウム緩衝液を含む生理食塩液(注射用溶解液)149リットルを溶解槽に仕込んだ。前述のヒアルロン酸ナトリウムを充填した容器を溶解槽の原末投入口に逆さにとりつけ、バタフライ弁を開き、ヒアルロン酸ナトリウムを溶解槽中に投入した。1800rpmで撹拌を50分間行い、ヒアルロン酸ナトリウムを完全に溶解した。液中の気泡を除去するため、溶解槽内圧力を20分間、真空度15kPa abs以下に維持して気泡を除去した後、常圧に戻した。撹拌開始後、1時間でヒアルロン酸ナトリウムは完全に溶解した。ヒアルロン酸ナトリウム濃度をカルバゾール硫酸法により測定したところ、1.00%となった。この液の極限粘度を第十三改正日本薬局方に従って測定すると、33.8dl/gであり、分子量に換算すると237万であった。
【0038】
この溶解液をキッコーマン社製キッズクッカー連続滅菌機で連続滅菌した。この装置は、二重管からなり、内管は内径23mmで、固定の撹拌機が内蔵され、加熱部の容積3.4リットル、ホールド部容積0.6リットル、冷却部容積2.6リットルであった。ホールド部の温度が135℃になるように、加熱部外管の熱水を調節し、ホールド部での滞留時間が34秒になるように加熱部入口の定量ポンプを制御した。
冷却部は、出口温度が40℃以下になるように、冷却部外管の水を調節した。冷却部出口圧力が0.33MPaになるように圧力調節弁で制御し、冷却したヒアルロン酸溶解液を孔径5μmのナイロン製のろ過膜からなる日本ミリポア社製ミリディスク40でろ過した。
【0039】
ろ過液を、薬液タンク0.02MPaの清浄化空気で加圧維持した。次にダイアフラム型の充填ポンプを有する充填部、ゴム栓の打栓、巻締め機構を有するバイアル充填密封機で、シリコーンコーティングした3mlのバイアル瓶に2.85mlずつ充填した。ゴム栓はシリコーンコーティングしたブチルゴム(大協精工社製)を打栓した。
【0040】
製品の品質試験を第十三改正日本薬局方に従って行ったところ、実容量偏差試験の最大充填容量の設定量との差は0.01ml、最小充填容量との差は0.0lmlであった。また工程内全数不溶性異物試験の合格率は99.5%、無菌試験は陰性、ヒアルロン酸ナトリウムの分子量226万、ヒアルロン酸ナトリウム濃度は1.0%であった。
【0041】
比較例1
実施例1において連続滅菌の滅菌温度を110℃とし、ホールド部の滞留時間を20分及び160分にかえて、同様に試験を行った。20分の時は無菌試験は陽性となり、160分では陰性であった。また滅菌前の分子量237万が滞留時間20分では、分子量160万に、160分では100万に低下した。
【0042】
比較例2
実施例1で、異物ろ過膜処理なしで、充填密封したバイアル6000本の不溶牲異物試験合格率は65.3%であった。
【0043】
比較例3
実施例1で、充填ポンプとしてダイアフラム型の充填ポンプのかわりにウェートスプリングボールバルブを使用して充填速度1時間に720本で同様に行った結果、充填針からの吐出液が切れずにバイアルの外側に液が垂れる結果となった。
【0044】
比較例4
実施例1で、薬液タンクの内部の加圧を行わずに充填を行なった結果、液中の気泡により充填針に接続するチューブ内に気泡溜まりができ、送液不良が発生し異常停止が頻発した。
【0045】
比較倒5
実施例1で、薬液タンクを1.0MPaで加圧としたところ、充填針より薬液だれが生じ、充填精度不良となるばかりではなく、充填容器及び充填機の汚染を引き起こした。
【0046】
実施例2
実施例1において、バイアル充填密封機のかわりに、シリンジ充填密封機を用いて、シリコーンコーティングしたアルテ社製デュファージエクトシリンジに2.75mlずつ充填し、大協精工社製のシリコーンコーティングしたブチルゴム製のゴム栓を打栓した。
第十三改正日本薬局方に従い、実容量偏差試験を行ったところ、最小充填容量と設定量との差は0.01ml、最大充填容量との差は0.01mlであった。不溶性異物試験の合格率は99.6%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のA、B、C、D、E及びFの6工程を含むことを特徴とする高純度ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液の製造法。
A工程:撹拌槽にヒアルロン酸及び/又はその塩を投入する工程。
B工程:ヒアルロン酸及び/又はその塩を溶解する工程。
C工程:ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液を脱泡する工程。
D工程:ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液を加熱滅菌する工程。
E工程:ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液中の異物を除去する工程。
F工程:ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液を充填する工程。
【請求項2】
下記のA、B、C、D、E及びFの6工程順に処理することを特徴とする高純度ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液の製造法。
A工程:バルブ付の気密容器に充填されているヒアルロン酸及び/又はその塩を、該容器を逆さにして外気に触れることなく、撹拌槽にヒアルロン酸及び/又はその塩を投入する工程。
B工程:タービン型、ディスパー型、ディスパータービン型、アンカー型、パドルプレート付鋸羽翼から選ばれた撹拌翼を備えた撹拌槽を用いてヒアルロン酸及び/又はその塩を溶解する工程。
C工程:撹拌槽の内部圧力を大気圧以下に減圧してヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液を脱泡する工程。
D工程:被加熱処理液体を流通せしめる内筒と、該内筒の外周を離間して囲むように設けられた外筒とからなり、内外筒間の空間に加熱媒体通路を形成し、軸方向に長さを有する軸部と、該軸部から径方向外方突出し、軸方向に角度を有する複数の翼片とからなる固定撹拌機構を軸方向に離間して複数設けた間接加熱装置を用いてヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液を加熱滅菌する工程。
E工程:ろ過膜にてヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液をろ過処理してヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液中の異物を除去する工程。
F工程:ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液を注射用容器及び/又はバイアルに充填する際に、充填機の充填ポンプが、ウェートバルブ型、スプリングボールバルブ型、ピンチバルブ型及び回転式ピストンポンプ型、ダイアフラム型から選ばれた1種を用い、薬液タンクを加圧してヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液を充填する工程。
【請求項3】
ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液が注射用水、生理食塩水、及びリン酸緩衝生理食塩水から選ばれた一種によって調製されたものである請求項1又は2記載の高純度ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液の製造法。
【請求項4】
前記A工程におけるバルブ付の気密容器の接続面が曲面である請求項3記載の高純度ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液の製造法。
【請求項5】
前記A工程におけるバルブ付の気密容器の投入シュートの角度が50°以上である請求項4記載の高純度ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液の製造法。
【請求項6】
前記A工程におけるバルブがバタフライ弁である請求項5記載の高純度ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液の製造法。
【請求項7】
前記A工程におけるバルブ付の気密容器の内面の材質が、ステンレス鋼又はテフロン(登録商標)コーティングである請求項6記載の高純度ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液の製造法。
【請求項8】
前記B工程における撹拌翼の軸が容器中央又は偏心させた位置にある撹拌槽を用いる請求項7記載の高純度ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液の製造法。
【請求項9】
前記B工程における撹拌翼が、1段又は多段である撹拌槽を用いる請求項8記載の高純度ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液の製造法。
【請求項10】
前記B工程における撹拌翼の回転数が100〜5000rpmである撹拌槽を用いる請求項9記載の高純度ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液の製造法。
【請求項11】
前記B工程における撹拌槽及びラインの内部材質が、テフロン(登録商標)、テフロン(登録商標)ライニング、テフロン(登録商標)コーティングである請求項10記載の高純度ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液の製造法。
【請求項12】
前記C工程における脱泡処理時の撹拌層の内部圧力を真空度5〜20kPa absに減圧する請求項11記載の高純度ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液の製造法。
【請求項13】
前記C工程における脱泡処理時のヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液の濃度が7.5〜12.5g/lである請求項12記載の高純度ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液の製造法。
【請求項14】
前記D工程における間接加熱装置が加熱部、ホールド部、冷却部よリ構成されている間接加熱装置を用いる請求項13記載の高純度ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液の製造法。
【請求項15】
前記D工程における間接加熱装置のホールド部の温度が115℃〜145℃である請求項14記載の高純度ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液の製造法。
【請求項16】
前記D工程における間接加熱装置のホールド部のヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液の滞留時間が2秒〜30分である請求項15記載の高純度ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液の製造法。
【請求項17】
前記D工程における間接加熱装置の冷却部出口の温度が60℃以下である請求項16記載の高純度ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液の製造法。
【請求項18】
前記D工程における間接加熱装置の内筒内の圧力を、外筒内の圧力よりも高くする請求項17記載の高純度ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液の製造法。
【請求項19】
前記D工程における間接加熱装置の材質が、ステンレス又はハステロイである請求項18記載の高純度ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液の製造法。
【請求項20】
前記D工程におけるヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液の濃度が7.5〜12.5g/lである請求項19記載の高純度ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液の製造法。
【請求項21】
前記E工程におけるろ過膜処理時のヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液のpHが2〜10である請求項20記載の高純度ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液の製造法。
【請求項22】
前記E工程におけるろ過膜処理時のヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液の温度が5〜100℃である請求項21記載の高純度ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液の製造法。
【請求項23】
前記E工程におけるろ過膜処理時のヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液の濃度が7.5〜12.5g/lである請求項22記載の高純度ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液の製造法。
【請求項24】
前記E工程におけるろ過膜の孔径が0.2〜50μmの範囲である請求項23記載の高純度ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液の製造法。
【請求項25】
前記E工程におけるろ過膜のろ材形状が、平膜、フィルターカートリッジ及びディスポーザブルフィルターから選ばれた一種である請求項24記載の高純度ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液の製造法。
【請求項26】
前記E工程におけるろ過膜の秘質がポリテトラフルオロエチレン、ポリエステル、テフロン(登録商標)、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン及びナイロンから選ばれた一種である請求項25記載の高純度ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液の製造法。
【請求項27】
前記F工程におけるヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液を注射容器及び/又はバイアルに充填する際に、充填機の充填ポンプが、ダイアフラム型を用いる請求項26記載の高純度ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液の製造法。
【請求項28】
前記F工程におけるヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液を注射容器及び/又はバイアルに充填する際に、薬液タンクを0.01〜0.50MPaで加圧する請求項27記載の高純度ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液の製造法。
【請求項29】
前記F工程におけるヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液の濃度が7.5〜12.5g/lである請求項28記載の高純度ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液の製造法。
【請求項30】
ヒアルロン酸及び/又はその塩の分子量が150万〜400万であることを特徴とする請求項1〜29のいずれかに記載の高純度ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液の製造法。
【請求項31】
ヒアルロン酸及び/又はその塩が、ストレプトコッカス・エクイFM−100を用いて、発酵法により製造されるものであることを特徴とする請求項1〜29のいずれかに記載の高純度ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液の製造法。
【請求項32】
ヒアルロン酸及び/又はその塩が、ストレプトコッカス・エクイFM−300を用いて、発酵法により製造されるものであることを特徴とする請求項1〜29のいずれかに記載の高純度ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液の製造法。

【公開番号】特開2011−195463(P2011−195463A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60673(P2010−60673)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】