説明

高純度フェライト系ステンレス鋼の分塊圧延方法

【課題】丸ビレットへの分塊圧延時に、捩れや倒れが発生せず、かつ、シワ疵が発生しないようにする。
【解決手段】質量%で、C≦0.01%、N≦0.01%、Cr:17〜20%、Ni≦0.5%の高純度フェライト系ステンレス鋼製の横断面が円形でない鋳片を、孔型圧延により熱間加工し、横断面が円形の丸ビレットに分塊圧延する方法である。圧下前の鋳片の横断面の高さh0と幅b0の比h0/b0を2.0以下、鋳片の加熱温度を1000℃〜1200℃とする。下記式を満たす圧下率((圧下前の鋳片の高さh0−圧下後の鋳片の高さh1)/圧下前の鋳片の高さh0)(%)で分塊圧延する。
圧下率≦−10.619×(圧下前の鋳片の横断面の高さh0と幅b0の比h0/b0)+23.298。
【効果】捩れや倒れが発生せず、かつ、シワ疵が発生しないように高純度フェライト系ステンレス鋼を丸ビレットに分塊圧延できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度フェライト系ステンレス鋼を圧延機にて分塊圧延する際、捩れ、倒れの発生がない圧延安定性が良好で、線状疵の発生もない丸ビレットに分塊圧延する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フェライト系ステンレス鋼は、オーステナイト系ステンレス鋼と比較してNiの含有量が少ないので安価である。このフェライト系ステンレス鋼のうち、Cr含有量の多い高純度フェライト系ステンレス鋼は耐食性に優れるが、Crの含有量が増加するほど加工性、靭性が低下する問題がある。
【0003】
この高純度フェライト系ステンレス鋼の靭性低下は、鋼中で炭化物や窒化物を形成するC,Nの不純物元素を低減させることで改善される。
【0004】
しかしながら、C,Nの低減により鋼が軟質化するため、圧延ロール1a,1bによる圧延時、鋳片2が、図6に示すように捩れたり、図7の紙面左側の状態から紙面右側に示すように倒れたりしやすくなる。なお、図7中の1aa,1baは圧延ロールに形成された孔型である。
【0005】
このような捩れや倒れが発生すると、寸法精度の悪化や表面疵の発生により製品として使用できなくなる場合があるので、捩れや倒れの発生を防止する対策が必要となる。
【0006】
従来、二重可逆式分塊圧延機を用いて、捩れ、倒れの発生を防止して安定性の良い分塊圧延を行う方法として、特許文献1や特許文献2が提案されている。
【0007】
このうち、特許文献1で提案された方法は、横断面が矩形の素材を丸ビレットに分塊圧延する際に、圧延ロールに配置した、側壁に直線部を備えた中間孔型による圧延の際、入鋼幅b0を中間孔型の接点幅Aで除した比b0/Aを、全パスで0.965以上とするものである。
【0008】
また、特許文献2で提案された方法は、丸孔型ロールを用いて仕上げ圧延を施す際に、丸ビレットの直径をD(mm)とした場合、ロール接触幅Bm(mm)/ロール入り側の被圧延材の幅B(mm)で表すαが、α≧−0.000734×D+1.034の式を満たすようにするものである。
【0009】
これら特許文献1、2で提案された方法は、何れも丸ビレットにロール圧延する場合における捩れや倒れの発生を防止して圧延時の安定性確保に大きな効果を得ることができる。
【0010】
しかしながら、高純度フェライト系ステンレス鋼の場合は、靭性改善を目的にC,N等の不純物元素を低減して高純度化した際に鋼が軟質化する。この場合、分塊圧延時に孔型1aa,1baと圧延ロール1a,1bが接触する部分Aはひずみが加わりやすく幅拡がりが大きくなるものの、孔型1aa,1baと接触しない中央部Bまではひずみが加わらない(図8の紙面左側参照)。従って、図8の紙面右側に示すように、孔型1aa,1baと接触する部分Aの幅が孔型1aa,1baと接触しない中央部Bより張り出した形状となりやすい。
【0011】
この孔型と接触する部分の幅が孔型と接触しない中央部より張り出した形状の鋳片を丸ビレット2aにまで圧延すると、図9に示すように、孔型1aa,1baと接触しない中央部に圧延方向と平行な線状の疵(以降、シワ疵3と言う)が発生する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2005−28379号公報
【特許文献2】特開2006−289454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする問題点は、高純度フェライト系ステンレス鋼の場合は、靭性改善を目的にC,N等の不純物元素を低減して高純度化する際に鋼が軟質化するので、シワ疵が発生する場合があるという点である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の高純度フェライト系ステンレス鋼の分塊圧延方法は、
丸ビレットへの分塊圧延時に、捩れや倒れが発生せず、かつ、シワ疵が発生しないようにするために、
質量%で、C≦0.01%、N≦0.01%、Cr:17〜20%、Ni≦0.5%の高純度フェライト系ステンレス鋼製の横断面が円形でない鋳片を、孔型圧延により熱間加工し、横断面が円形の丸ビレットに分塊圧延する際、
圧下前の前記鋳片の横断面の高さh0と幅b0の比h0/b0を2.0以下、鋳片の加熱温度を1000℃〜1200℃とし、下記式を満たす圧下率((圧下前の鋳片の高さh0−圧下後の鋳片の高さh1)/圧下前の鋳片の高さh0)(%)で分塊圧延することを最も主要な特徴としている。
圧下率≦−10.619×(圧下前の鋳片の横断面の高さh0と幅b0の比h0/b0)+23.298
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高純度フェライト系ステンレス鋼を、丸ビレットに分塊圧延する時に、捩れや倒れが発生せず、かつ、シワ疵が発生しないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】高純度フェライト系ステンレス鋼の圧延時における慣らし圧延について説明する図である。
【図2】ボックス孔型ロールを用いて、異なる横断面寸法の鋳片を圧延した場合の、圧下前の鋳片の横断面の高さh0と幅b0の比h0/b0と圧下率の関係を示した図である。
【図3】本発明の実施例で使用した圧延ロールに形成されたボックス孔型の形状を示した図である。
【図4】本発明の実施例で使用した圧延ロールに形成されたオクタゴン孔型の形状を示した図である。
【図5】本発明の実施例で使用した圧延ロールに形成されたラウンド孔型の形状を示した図である。
【図6】靭性低下の改善により鋼が軟質化した高純度フェライト系ステンレス鋼の圧延時に発生する捩れについて説明した図である。
【図7】靭性低下の改善により鋼が軟質化した高純度フェライト系ステンレス鋼の圧延時に発生する倒れについて説明した図である。
【図8】高純度フェライト系ステンレス鋼の孔型圧延時の模式図である。
【図9】高純度フェライト系ステンレス鋼を丸ビレットに孔型圧延した際に発生するシワ疵を説明する図で、(a)は孔型圧延時の模式図、(b)は圧延された丸ビレットの斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明では、高純度フェライト系ステンレス鋼を分塊圧延する時に、捩れや倒れが発生せず、かつ、シワ疵が発生しないようにするという目的を、鋳片の横断面の高さ/幅比と、加熱温度と、圧下率を最適範囲に設定することで実現した。
【実施例】
【0018】
以下、本発明について説明する。
発明者らは、高純度フェライト系ステンレス鋼を丸ビレットに分塊圧延する際に、捩れや倒れが発生せず、かつ、シワ疵が発生しないようにするために、種々実験を行った結果、以下の知見を得た。
【0019】
先ず、本発明で対象とする高純度フェライト系ステンレス鋼について説明する。
【0020】
Cr:
Cr含有量が多くなるほど耐食性は向上するが、Cr含有量が多くなると加工性、靭性が低下するので、本発明ではCr含有量を17〜20質量%としたものを対象とする。
【0021】
C,N:
C,Nは、炭化物、窒化物を形成し、加工性、靭性を低下させるので、本発明では両者とも0.01質量%以下としたものを対象とする。
【0022】
Ni:
Niは耐食性を向上させる元素であるが、高価であるため、本発明では0.5質量%以下としたものを対象とする。
【0023】
次に、C,N,Cr,Niの含有量が上記範囲内の高純度フェライト系ステンレス鋼製の鋳片を、孔型圧延により熱間加工し、横断面が円形の丸ビレットに分塊圧延する際の本発明の条件を説明する。
【0024】
・加熱温度(均熱温度)について
難加工性材である高純度フェライト系ステンレス鋼は、製管工程における温度が低すぎると仕上げまでに必要な延性を確保することが出来ない。従って、本発明では、均熱温度を1000℃〜1200℃とする。なお、製管工程における温度が高くなると結晶粒が粗大化するので、結晶粒の粗大化を抑制するためには、1200℃を超えないことが望ましい。
【0025】
・圧下前の鋳片の横断面の高さh0と幅b0の比(=h0/b0
高純度フェライト系ステンレス鋼の場合、圧延時、上下の孔型との鋳片2の接触部Aの幅のみが拡がり、上下の孔型間に位置する鋳片2の接触しない中央部Bの幅は拡がりにくいので、上下の孔型と接触する鋳片2の上下の幅が張り出した形状になりやすい(図1の紙面左側の図)。
【0026】
この横断面における変形への対策として、図1の紙面左側のように圧延された前記形状の鋳片2を、図1の紙面中央のように90°回転して上下の孔型1aa,1ba内に挿入し、図1の紙面右側のように慣らし圧延を実施することで解消できる。
【0027】
但し、圧下前の鋳片の横断面の高さh0と幅b0の比h0/b0が大きすぎると、前記慣らし圧延に必要な圧延回数が増えるため、圧延に要する時間が増え、圧延時の鋳片温度が低下し、延性低下による割れの発生が考えられる。
【0028】
そこで、発明者らは、圧下前の鋳片の横断面の高さh0と幅b0の比h0/b0を制限することを考え、その閾値を見出すべく、圧下前の鋳片の横断面の高さh0と幅b0の比h0/b0を変更した試験を実施した。
【0029】
発明者らは、横断面が円形でない鋳片を、直径が182mmの横断面が円形の丸ビレットに分塊圧延する場合の熱間加工試験において、圧下前の鋳片の横断面の高さh0と幅b0を種々変更して、分塊圧延した丸ビレットの表面品質を評価する試験を行った。
【0030】
その結果の一例を下記表1に示す。なお、下記表1における丸ビレットの表面品質は、肉眼でシワ疵発生の有無を確認し、シワ疵が発生している場合を×、シワ疵が発生していない場合を○として判定した。
【0031】
【表1】

【0032】
上記の結果より、本発明では、圧下前の鋳片の横断面の高さh0と幅b0の比h0/b0を2.0以下と規定することにした。
【0033】
・圧下率
発明者らは、次に圧延時における鋳片の倒れ、捩れに及ぼす圧下率((圧下前の鋳片の高さh0−圧下後の鋳片の高さh1)/圧下前の鋳片の高さh0)(%)と、圧下前の鋳片の横断面の高さh0と幅b0の比h0/b0の影響について試験を行った(後述の実施例1の表3)。
【0034】
その結果をプロットして示した図2から、倒れ、捩れの発生のない圧下率(%)の上限として、
圧下率≦−10.619×圧下前の鋳片の横断面の高さh0と幅b0の比h0/b0+23.298…(1)
を得た。
【0035】
図2及び上記(1)式より、圧延の際、圧下量(圧延前の鋳片の高さh0−圧延後の鋳片の高さh1)が小さい程圧延時に捩れに働く力も小さくなること、圧延前の鋳片の幅b0が高さh0に対して大きい程、捩れに耐えようとする力が大きくなるので、圧延材の圧延安定性が確保され捩れが発生しにくいことが分かる。
【0036】
以下、本発明における圧下前の鋳片の横断面の高さh0と幅b0の比h0/b0と、圧下率の関係を得るために、様々な横断面の鋳片を準備し、各鋳片で圧下率を変更させた場合の圧延時の安定性を確認した実施例について説明する。なお、以下の実施例は、1000℃〜1200℃の範囲となるような温度に鋳片を加熱して行った。
【0037】
実施例で使用した圧延ロールの孔型形状は、図3に示すボックス孔型、図4に示すオクタゴン孔型、図5に示すラウンド孔型である。図3〜5に示す圧延ロールの孔型の寸法例を下記表2にまとめて示す。
【0038】
【表2】

【0039】
(実施例1)
実施例1は、ボックス孔型の圧延ロールを使用して分塊圧延した場合の実施例で、横断面寸法の異なる鋳片毎に圧下率を変更して圧延した際の圧延安定性を調査した。その結果を下記表3に示す。また、この表3を図示したものを、図2に示す。
【0040】
なお、表3中における安定性は、圧延後の鋳片を目視観察し、表3の欄外に示した基準で判定して評価したものである。安定性を評価するために使用した捩れの発生率は、倒れ、捩れが発生した鋳片の本数を鋳片の総本数で除して算出した。
【0041】
【表3】

【0042】
試験材として、幅が750、700、660、600mmの厚鋳片を、それぞれ30、40、50mmの圧下量で圧延し、圧延後の安定性を評価したところ、図2に示すような良好域の存在を見出し、その閾値を決める圧下量として前記(1)式を得た。
【0043】
(実施例2)
発明者らは、実施例1で説明したボックス孔型の圧延ロールを使用した圧延で得た好適な、圧下前の鋳片の横断面の高さh0と幅b0の比h0/b0を得た条件で、さらに下記表4に示す任意形状のボックス孔型、及び前述のオクタゴン孔型、ラウンド孔型を用いて確認試験を行った。その結果を、下記表5に示す。なお、ラウンド孔型では厚み、幅は直径を採用した。
【0044】
【表4】

【0045】
【表5】

【0046】
表4、5より、オクタゴン孔型、ラウンド孔型の圧延ロールを使用した場合でも、前記(1)式を満たす圧下率で分塊圧延した場合は、安定性の良好な丸ビレットを圧延できることが確認できた。
【0047】
以上の結果より、ボックス孔型、オクタゴン孔型、ラウンド孔型に限定されず、どのような形状の孔型の圧延ロールを使用した場合でも、前記(1)式を満たす圧下率で分塊圧延した場合は、圧延安定性を確保できると思われる。
【0048】
従って、各種孔型の圧延ロールを使用して丸ビレットを製造する分塊圧延方法において、圧延安定性を確保でき、線状疵発生の無い表面品質の丸ビレットを得ることができると思われる。
【0049】
本発明の高純度フェライト系ステンレス鋼の分塊圧延方法は、上記知見に基づいて成されたものであり、
質量%で、C≦0.01%、N≦0.01%、Cr:17〜20%、Ni≦0.5%の高純度フェライト系ステンレス鋼製の横断面が円形でない鋳片を、孔型圧延により熱間加工し、横断面が円形の丸ビレットに分塊圧延する際、
圧下前の前記鋳片の横断面の高さh0と幅b0の比h0/b0を2.0以下、鋳片の加熱温度を1000℃〜1200℃とし、下記式を満たす圧下率((圧下前の鋳片の高さh0−圧下後の鋳片の高さh1)/圧下前の鋳片の高さh0)(%)で分塊圧延することを特徴とするものである。
圧下率≦−10.619×(圧下前の鋳片の横断面の高さh0と幅b0の比h0/b0)+23.298
【0050】
本発明は上記の例に限らず、請求項に記載された技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0051】
例えば、本発明に供する鋳片は、連続鋳造鋳片に限らず、インゴットでも、またその他の鋳片でも良い。また、本発明に供する鋳片の横断面形状は、円形以外であれば矩形に限らずどのような形状でも良い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C≦0.01%、N≦0.01%、Cr:17〜20%、Ni≦0.5%の高純度フェライト系ステンレス鋼製の横断面が円形でない鋳片を、孔型圧延により熱間加工し、横断面が円形の丸ビレットに分塊圧延する際、
圧下前の前記鋳片の横断面の高さh0と幅b0の比h0/b0を2.0以下、鋳片の加熱温度を1000℃〜1200℃とし、下記式を満たす圧下率((圧下前の鋳片の高さh0−圧下後の鋳片の高さh1)/圧下前の鋳片の高さh0)(%)で分塊圧延することを特徴とする高純度フェライト系ステンレス鋼の分塊圧延方法。
圧下率≦−10.619×(圧下前の鋳片の横断面の高さh0と幅b0の比h0/b0)+23.298

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−81510(P2012−81510A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230790(P2010−230790)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】