説明

高純度リン酸、およびその製造方法

【課題】 半導体エッチングの際等に問題となる微小なパーティクルの数が少ない高純度リン酸及びその精製方法を提供すること。
【解決手段】 本発明の高純度リン酸は、H3PO4の濃度を85重量%に換算したときのリン酸中の含量として、100nm以上の粒径をもつパーティクルの個数が1ml当たり100個以下であることを特徴とする。この高純度リン酸は、粘度が3〜30mPa・sに調節されたリン酸を、クロスフロー方式で循環ろ過し、高純度リン酸を連続的に系外に取り出すと共に、パーティクルの濃縮されたリン酸を循環させることで得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度リン酸及びその製造方法に関するものである。本発明の高純度リン酸は、パーティクルの含有量が少ないという特徴から、半導体製造用のエッチング液の他に、金属アルミニウムエッチング液、液晶パネル製造用エッチング液、セラミックス用アルミナエッチング液、レンズ等の光学ガラス用リン酸原料としても好適な材料となるものである。
【背景技術】
【0002】
リン酸の製造法には、乾式法と湿式法とがあることが知られている。乾式リン酸の製造法では、リン鉱石を原料として用い、これを電気炉で還元して、得られる黄リンを燃焼させて五酸化二リンにし、これを水和する。これに対し湿式リン酸の製造法では、リン鉱石を硫酸で分解し、生成する硫酸カルシウムを分離してまず希薄なリン酸を製造し、次いでリン酸を高濃度まで濃縮する。何れの方法で得られるリン酸も、電子材料として用いられる場合には、高純度かつパーティクルが少ないものが要求される。
【0003】
乾式リン酸は、黄リンを経由して製造されるので、リン鉱石由来の不純物混入が少なく品質が湿式法によるリン酸より良いとされている。かかる乾式法によって得られる純度75ないし85重量%の高純度リン酸は、TFT(Thin Film Transistor)液晶パネル製造プロセス用やシリコン半導体のシリコン窒化膜のエッチングに使われている。TFT液晶パネル製造のアレイプロセス用に使用される薬品には、金属不純物でppbレベル、パーティクルで200nmレベルの品質が要求される。そしてリンス水の超純水は、パーティクル100nm以上で10個/ml以下が基準であり、実際にはさらに高品質な超純水が使用されている。この場合、リン酸中にパーティクルが多く含まれると、半導体中にこれらの微粒子が残ってしまい、洗浄工程での超純水の使用を増やすことが必要になるなどの問題点が発生することがある。
【0004】
従来、TFT液晶パネル製造プロセス用や半導体のエッチング等に用いられる高純度リン酸は、リン酸中にパーティクルが存在しても、後工程の超純水によるリンスにより容易に取り除くことができるので、あまり問題にならないとされてきた。また、リン酸は粘性が高く精密ろ過には不具合な薬品であることや、100nm以下のパーティクル測定管理技術がなく品質管理ができないことも、リン酸中のパーティクルが問題視できない状況を作り出していた。一方、超純水は環境対応で年々回収再利用率を高めている。洗浄工程から回収された原水を超純水に再生する際に、パーティクルの存在はRO(Reverse Osmosis、逆浸透)膜の性能を劣化させ、再生効率を低下させる。特にTFT液晶パネルは近年高精細化し、大型パネルのためのa−Si(amorphous Si)TFTの普及や配線材料の変更などから、エッチング用薬液にも高純度な品質が要求される。さらに環境面からはISO14000への対応は重要課題であり、排水量の削減のため再生効率をさらに上げることが必要とされ、その品質もさらに向上が必要とされている。したがって、リン酸中の非水溶性のパーティクルの削減は、供給メーカーの重要課題であり、新たなろ過精製技術の開発によるパーティクル除去が必要となっている。
【0005】
高純度かつパーティクルの少ないリン酸が、特許文献1に記載されている。特許文献1には、リン酸を所望の純度に精製するために、晶析操作、母液からの分離操作及び融解操作からなる一連の晶析精製操作後、100nmのフィルターで精密ろ過する方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、Sb及び硫化物イオンが少ない高純度リン酸が開示されている。しかし特許文献2は、Sb及び硫化物イオンに注目しているものである。ろ過には汎用のフィルタープレスが使用されており、パーティクルに関する記載はない。
【0007】
特許文献1及び2に記載されているろ過は、リン酸をろ過媒体に通過させて、パーティクルをろ過媒体中に捕獲する方法である。この方法は、ろ過媒体が目詰まりすると、ろ過媒体を取り外して交換するか、洗浄することが必要である。このろ過方法は後記のようにデッドエンド方式のろ過(図3参照)であって、微細な粒子の除去には効率が悪い。
【0008】
【特許文献1】特開平3−237009号公報
【特許文献2】特開2005−22919号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって本発明の目的は、半導体のエッチング用途等に特に有用な、非水溶性のパーティクルの少ない高純度リン酸及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、H3PO4の濃度を85重量%に換算したときのリン酸中の含量として、100nm以上の粒径をもつパーティクルの個数が1ml当たり100個以下であることを特徴とする高純度リン酸を提供することにより前記目的を達成したものである。
【0011】
また本発明は、粘度が3〜30mPa・sに調節されたリン酸を、クロスフロー方式で循環ろ過し、高純度リン酸を連続的に系外に取り出すと共に、パーティクルの濃縮されたリン酸を循環させる高純度リン酸の製造方法を提供するものである。
【0012】
前記の製造方法においては、孔径100nm以下の限外ろ過膜、又は分画分子量3000〜80000の限外ろ過膜を用いて循環ろ過を行い、100nm以上の粒径をもつパーティクルの個数が1ml当たり100個以下であるリン酸と、パーティクルの濃縮されたリン酸とに分離することが好ましい。また、リン酸の温度を20〜60℃に調節して循環ろ過を行うことが好ましい。更に、リン酸の濃度は、70ないし90重量%であることが好ましい。更にリン酸は、乾式法により得られるリン酸であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、非水溶性のパーティクルの少ない高純度リン酸及びその製造方法が提供される。本発明の高純度リン酸は、半導体のエッチング用途等に特に有用である。また、金属アルミニウムエッチング液、液晶パネル製造用エッチング液、セラミックス用アルミナエッチング液、レンズ等の光学ガラス用リン酸原料としても好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明では、孔径100nm以下のろ過媒体でろ過を行い、「理論的には」パーティクルを含まない高純度リン酸を得る事を究極の目的としている。しかし「工業プロセス技術においては」真のゼロ個を達成することは不可能である。本発明においては、H3PO4の濃度を85重量%に換算したときのリン酸中の含量として、100nm以上の粒径をもつパーティクルの個数が1ml当たり100個以下であることが「パーティクルを含まない」ことを意味する(以下の説明においても同様である)。
【0015】
一般に言う「限外ろ過」は、孔径100nm以下のろ過媒体でろ過を行い、パーティクルをろ過媒体に捕獲する超精密ろ過手段を意味する。これに対して、本発明で言う「限外ろ過」は、処理対象となるリン酸を、パーティクルを含まないリン酸と、パーティクルの濃縮されたリン酸とに分離し、パーティクルを含まないリン酸を回収する手段を意味する。したがって、ろ過媒体へのパーティクルの蓄積が極めて少なく、密閉系で長時間の連続運転が可能となる。密閉系で運転できることは、大気中のパーティクルを取り込むことがない点から極めて有利である。
【0016】
本発明においては、従来の技術を用いて、環境、原材料、製品等から容易に取り除ける粒子を単なる「粒子」と呼ぶ。一方、電子部品の高精度化や微細化にともなって今後(現在)取り除きたい微細な粒子を「パーティクル」と呼ぶ。
【0017】
ろ過方式の分類では、従来のろ過方法は「デッドエンドろ過」と呼ばれている(図3参照)。これに対して、本発明で用いるろ過方法は「クロスフローろ過」と呼ばれている。クロスフロー方式の限外ろ過は、極めて効率の高い「分離」「濃縮」および「精製」の手段である。クロスフロー方式の限外ろ過は、従来の分離法である蒸留法、減圧濃縮法、遠心分離法、加圧浮上法、電解浮上法、凝集沈殿法、分別結晶法、吸着法、透析法、ろ紙・ろ布によるろ過法(フィルタープレス等)に比べ、工程の短縮化、合理化、コスト削減が可能となる。また、工程の自動化、連続化によるFA化、運転環境のクリーン化も可能となる。
【0018】
クロスフローろ過においては、図1に示すように、原料リン酸をろ過媒体面に対して平行に流す。原料リン酸の一部はろ過媒体を透過し、パーティクルを含まない高純度リン酸として分離される。除去されたパーティクルは残りの流れに取り込まれ、残液中でのパーティクル濃度が原料リン酸よりも高くなる。除去されたパーティクルは、ろ過媒体に堆積することなく、パーティクルが濃縮された濃縮液となって流れ去る。つまり、クロスフローろ過においては、入口側は一つの流れ(原料リン酸の流れ)であるのに対し、出口側は二つの流れに分岐する。出口側の二つの流れのうち、ろ過媒体を透過した流れが高純度リン酸の流れであり、残った流れが、パーティクルが濃縮されたリン酸の流れになる。
【0019】
本発明においては、クロスフローろ過において循環ろ過を行っている。先に説明した特許文献1の実施例には、薬液循環ろ過についての記載がある。特許文献1における「循環ろ過」とは、薬液タンクから取り出したリン酸をろ過媒体に通して、パーティクルをろ過媒体に捕捉させ、ろ液であるリン酸を薬液タンクに戻す工程を繰り返す方法である。この循環により、薬液タンク内のリン酸から徐々にパーティクルが除去される。一方、本発明でも限外ろ過において「循環ろ過」を行う。しかし本発明においては、図2に示すように、ポンプによって薬液タンクから取り出したリン酸をろ過媒体に通して、パーティクルを含まないリン酸(高純度リン酸)と、パーティクルを含むリン酸とに分離し、パーティクルを含まないリン酸のみを系外に連続して取り出し、パーティクルを含むリン酸を循環させてパーティクルを濃縮させている。本発明においては、リン酸を高流速で循環させることにより、ろ過媒体の表面にパーティクルを沈積させないようにしている。パーティクル濃度の高くなった循環リン酸に、新しい原料リン酸を注ぎ足すか、或いは新しい原料リン酸に交換することで、ろ過を連続して行うことができる。従って本発明においては、長期間にわたってろ過媒体の交換を行わなくてもよいという利点がある。
【0020】
限外ろ過は純水製造などの分野で汎用化されている。しかし、限外ろ過では高粘度の液体を取り扱うことができないので、リン酸は限外ろ過の対象として不適格であった。濃度85重量%のリン酸は、20℃の粘度が47mPa・sという高粘度であり、限外ろ過を行っても実用的なろ液流量は得られない。また、無機の強酸は、そのpHの低さの故に、限外ろ過の対象となるとはろ過の技術分野において考えられていなかった。尤も、無機の強酸のうち塩酸や硝酸は、限外ろ過に代えて、拡散透析による脱塩精製を行うことができるので限外ろ過の必要性がない。しかしリン酸は、その粘性の高さに起因して透析係数が低いので、拡散透析による脱塩精製が実用化されたことはない。このように、リン酸を高純度に精製する方法は今まで確立されていなかった。これに対して本発明者らは意外にも、リン酸の温度を少し上げるだけでその粘度が大きく低下し、限外ろ過を行い得ることを見出した。
【0021】
本発明は、H3PO4の濃度を85重量%に換算したときのリン酸中の含量として、100nm以上の粒径をもつパーティクルの個数が1ml当たり100個以下である高純度リン酸に関するものである。ここで、パーティクルとは、原料や環境中から混入するいわゆる粗大粒子だけではなく、水に不溶の1μm以下の微細な粒子も包含する。例えば、薬液の製造工程から不可避的に薬液中に混入する粒子であって薬液からの除去が困難な粒子や、薬液中での存在確認が困難な粒子をも含む。
【0022】
従来の技術では、リン酸中での除去対象となる微粒子としては、As(ヒ素)やSb(アンチモン)のほか、Fe、Mn、Na、Alが主なものであった。本発明ではこれらの微粒子に加えて、パーティクルとして更にシリカも除去の対象となる。シリカはFe、Na、Alのほか、Ni、Cu、Zn、Caなどを吸着しやすい。従って、シリカの除去は同時にこれらの元素をも低減する。
【0023】
リン酸中のパーティクルの含量の測定方法は、後述する実施例において詳述する。また、本発明にいうパーティクルの粒径とは、定方向(Feret)径のことである。
【0024】
本発明のリン酸においては、原料リン酸は、乾式法により得られるものでもよく、或いは湿式法により得られるものでもよい。一層高純度なリン酸が得られることから、乾式法により得られるリン酸であることが好ましい。乾式法においては、黄リンを燃焼させ更に水和させて得られる粗リン酸を精製して高純度リン酸となす。湿式法においては、リン鉱石を無機強酸で分解し、次いで濃縮して得られる粗リン酸を精製して高純度リン酸となす。高純度リン酸の濃度はJIS K−1449に規定される水酸化ナトリウムによる滴定法で測定する。またリン酸の濃度は、単位リン酸質量当たりの元素の質量比率として表す。
【0025】
本発明の高純度リン酸は、各種金属に対する腐食性が強いので、金属等の表面のエッチング液として好適な物質である。本発明の高純度リン酸の用途としては、特に限定されるものではないが、例えば半導体素子の製造工程において窒化珪素膜を除去するために使用するエッチング液、液晶ディスプレイパネルの製造工程において金属膜やアルミナ膜等を除去するために使用する液晶パネル製造用エッチング液、金属アルミニウムエッチング液、セラミックス用アルミナエッチング液、レンズ等の光学ガラス用リン酸原料等が挙げられる。
【0026】
次に、本発明の製造方法における循環ろ過に使用する限外ろ過膜について説明する。限外ろ過膜が適用される分離は、対象粒子が1nmから数ミクロンであるが、溶解した高分子物質をも分離の対象とするので、ナノメータ域ではろ過精度を分画分子量で表現している。ミクロン付近のろ過はマイクロろ過とも呼ばれ、この範囲のろ過では本発明の目的は達成できない。本発明では、孔径100nm以下の限外ろ過膜を使用する。この限外ろ過膜の孔径を分画分子量で表すと、分画分子量3000〜80000以下の限外ろ過膜を使用することに相当する。更に好ましくは、分画分子量3000〜15000の限外ろ過膜を使用する。分画分子量3000の膜を使用すると1nm以上の粒子を分離することができ、分画分子量15000の膜では3nm以上の粒子を分離することができる。3000未満の膜ではろ過抵抗が大きすぎて処理時間が長くなり不経済である。80000を超えると、精製度が低くなり目的を達成できない。限外ろ過膜の材質はとくに制限されない。例えばポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン、ポリアクリルニトリル、燒結金属、セラミック、カーボンなどが挙げられる。耐熱性やろ過速度などからポリフッ化ビニリデン製又はポリスルホン製が好ましい。限外ろ過膜の形状は、スパイラル型、チューブラー型、中空糸型などがあり、どれでも使用できる。なかでも、中空糸型がコンパクトで使用しやすい。
【0027】
限外ろ過を行う際には、リン酸の粘度を予め3〜30mPa・sに調節しておく。粘度が30mPa・sより高いと、ろ過速度が遅く工業的な製造には不適格である。また粘度を3mPa・sより低くするには、リン酸濃度を低くするか、リン酸温度を高くしなくてはならない。リン酸濃度を低くすると後工程で濃縮が必要となり製造コストが高くなる。リン酸温度を高くすると耐熱装置、装置腐食対策など製造上の不具合が生じる。
【0028】
限外ろ過のためにはリン酸の温度を上昇させて粘度を低下させることが有利である。特に、リン酸の温度を20〜60℃に調節しておくと、ろ過に適した粘度とすることができるので好ましい。温度が60℃より高いと、リン酸中のシリカ質パーティクル成分などが溶解する傾向にあり、ろ過後に常温に戻ったときにパーティクルが発生してしまうことがある。更に好ましくは、20〜40℃に調節して限外ろ過を行うのがよい。
【0029】
本発明による方法は、環境中の浮遊粒子の数が少ない、クリーンルーム内で行うことが好ましい。また、先に述べたように、パーティクルの混入を防ぐために密閉系で行うことが好ましい。更に原料リン酸は、あらかじめメンブレンフィルターなどでろ過し、粒径の大きい粗大粒子や混入異物を除去しておくことが好ましい。
【0030】
本発明の製造方法においては、リン酸の粘度を予め3〜30mPa・sに調節し、これを、限外ろ過膜を用いて循環ろ過を行う。ろ過膜を通過した100nm以上のパーティクルを含有しないろ液は、系外に連続的に取り出される。一方、パーティクルを含むリン酸は循環され繰り返し限外ろ過膜装置を通過するため、徐々にパーティクルが濃縮される(図2参照)。
【0031】
本発明による方法は、リン酸の製造工程のうち、重金属不純物等を除去した後の最終工程に適用することが好ましい。特に、精製工程の最終段階で得られた高純度リン酸を、製品容器に充填する直前に、本発明に従い限外ろ過膜を通過させることにより、非水溶性のパーティクルの少ない高純度リン酸を得ることができる。また、半導体のエッチング用途等、リン酸を使用する場面で、使用する直前に本発明の方法を適用することもできる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例および比較例を示し、本発明をさらに詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲はかかる実施例に制限されるものではない。
【0033】
原料リン酸としては、乾式法により製造した85重量%リン酸を使用した。この原料リン酸を、前処理として、孔径800nmのテトラフルオロエチレン(PTFE)製メンブランフィルター(アドバンテック東洋(株)製T080A047A)でろ過し、粒径800nm以上のパーティクルを減少させた。
【0034】
リン酸中のパーティクル数の測定は以下のようにして行った。
<500nm以上のパーティクル数の測定方法>
Hiac/Royco社製のパーティクルカウンターModel4100/4150を用いて測定した。この測定器は、レーザー光束中に設置したサファイア製セル中に被検液を流し、パーティクルによる光遮断信号を測定する装置である。被検液中のパーティクルの個数は、既知個数のパーティクルを含有する超純水を測定した検量線を基準にして算出した。
<100nm以上のパーティクル数の測定方法>
リン酸2.5mlを2.5mlの注射シリンジに採取した。注射シリンジの射出部に、孔径100nmの親水性PTFE製メンブランフィルター(アドバンテック東洋(株)製H010A025A)を装填したシリンジホルダー(アドバンテック東洋(株)製KS−25)を取り付けた。加重600gをかけて注射シリンジ内のリン酸を押し出してろ過した。押し出しは室温で行い、約2時間を要した。メンブランフィルターは交換せずリン酸のろ過を4回行って、合計10mlのリン酸をろ過した。続いて、フィルターを取り付けたまま、超純水2.5mlを吸引・排出する操作を10回繰り返して、リン酸を洗い落とした。シリンジホルダーを開いてメンブランフィルターを取り出した。メンブランフィルターを80℃で乾燥後、3mm角に5個切り取った。それぞれについて、電子顕微鏡(SEM)により10μm角の5視野において付着したパーティクル数を計数した。計数した個数は、有効全フィルター面積(314mm2)と、ろ過したリン酸量(10ml)を基に「個/ml」に換算した。
【0035】
〔比較例1〕
特許文献1に記載の実施例1のろ過方法に従って、濃度85重量%の原料リン酸を循環ろ過してリン酸の精製をした。すなわち、孔径100nm、ろ過面積0.17m2のフィルターを備えた薬液循環ろ過装置「ケミポートPC−11000、クラボウ(株)製」を用いて、8kgの85重量%のリン酸を0.1リットル/分で送液し、この操作を30回繰り返してパーティクルをろ過した。得られたリン酸のパーティクル数は、500nm以上のパーティクルが45個/mlであり、100nm以上のパーティクルが約500個/mlであった。なお、原料リン酸における100nm以上のパーティクルは約24000個/mlであった。
【0036】
〔実施例1〕
比較例1で得られたリン酸(濃度85重量%)を用いてクロスフロー方式の限外ろ過を行った。ろ過中のリン酸温度は40℃に保った。このときのリン酸の粘度は23mPa・sであった。分画分子量10000のポリスルホン製中空糸型限外ろ過装置(旭化成(株)製マイクローザUFモジュールSLP−1053)を用いてポンプ循環送液による加圧ろ過を1時間行い、精製ろ液約1700gと、不純物の濃縮された循環液約500gとに分離した。精製ろ液中のパーティクル数は、500nm以上のパーティクルが0個/mlであり、100nm以上のパーティクルが3個/mlであった。
【0037】
〔比較例2〕
リン酸の温度を室温(20℃)とした以外は、実施例1と同じ操作を行った。1時間経過後の精製ろ液は約30gであり、工業的な精製法としては不適切であった。なお、20℃におけるリン酸の粘度は47mPa・sであった。
【0038】
〔実施例2〕
中空糸型限外ろ過装置を、公称孔径100nmの装置(旭化成(株)製マイクローザMFモジュールUSP−143)に替えて実施例1と同じ操作を行った。1時間の連続運転で精製ろ液約5000gと、不純物の濃縮された循環液500gとに分離した。精製ろ液中のパーティクル数は、500nm以上のパーティクルが0個/mlであり、100nm以上のパーティクルが10個/mlであった。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】クロスフロー方式のろ過を示す模式図である。
【図2】クロスフロー方式の循環ろ過装置を示す模式図である。
【図3】デッドエンド方式のろ過を示す模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3PO4の濃度を85重量%に換算したときのリン酸中の含量として、100nm以上の粒径をもつパーティクルの個数が1ml当たり100個以下であることを特徴とする高純度リン酸。
【請求項2】
粘度が3〜30mPa・sに調節されたリン酸を、クロスフロー方式で循環ろ過し、高純度リン酸を連続的に系外に取り出すと共に、パーティクルの濃縮されたリン酸を循環させる高純度リン酸の製造方法。
【請求項3】
孔径100nm以下の限外ろ過膜、又は分画分子量3000〜80000の限外ろ過膜を用いて循環ろ過を行い、100nm以上の粒径をもつパーティクルの個数が1ml当たり100個以下であるリン酸と、パーティクルの濃縮されたリン酸とに分離する請求項2に記載の高純度リン酸の製造方法。
【請求項4】
リン酸の温度を20〜60℃に調節して循環ろ過を行う、請求項2又は3に記載の高純度リン酸の製造方法。
【請求項5】
濃度70ないし90重量%のリン酸を循環ろ過する、請求項2ないし4の何れかに記載の高純度リン酸の製造方法。
【請求項6】
リン酸が乾式法により得られるリン酸である請求項2ないし5の何れかに記載の高純度リン酸の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−321677(P2006−321677A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−145645(P2005−145645)
【出願日】平成17年5月18日(2005.5.18)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【Fターム(参考)】