説明

高純度含フッ素(メタ)アクリル酸エステルの製造方法

【課題】 含フッ素(メタ)アクリル酸エステルの重合物や過酸化物のような副生物が生成せず、精製工程が不要で、蒸留塔では段数が少数で済み、コストが削減された効率のよい含フッ素(メタ)アクリル酸エステルの製造方法を提供する。
【解決手段】 X(CF(CH)Y
で表されるハロゲン化アルキル(nは1〜6の整数であり、Xはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素または水素であり、Yは塩素または臭素である。)と(メタ)アクリル酸の金属塩とを非プロトン性極性溶媒中、無触媒で反応させて含フッ素(メタ)アクリル酸エステルを製造するに際し、または含フッ素(メタ)アクリル酸エステルを蒸留するに際し、N−オキシル化合物および/またはピペリジン化合物を、酸素を含有しない条件下で、重合禁止剤として使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン化アルキルと(メタ)アクリル酸の金属塩との反応による含フッ素(メタ)アクリル酸エステルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
含フッ素(メタ)アクリル酸エステルは機能材料であり、光ファイバーの鞘材やコンタクトレンズ用原料等に使用される。そのため、不純物量の少ない高純度品が要求される。
【0003】
しかし、その不純物の1つが、生成した含フッ素(メタ)アクリル酸エステルの重合物であり、(メタ)アクリル酸およびそのエステル用の重合防止剤として、N−オキシル化合物や2,2,6,6−テトラメチルピペリジン化合物(例えば、特許文献1参照)が開示されているものの、気相反応条件におけるものであり、また、溶液反応での効果や含フッ素(メタ)アクリル酸エステルに対しての効果については、何ら開示されていない。
【0004】
また、含フッ素(メタ)アクリル酸エステルの製造方法としては、触媒存在下の液相中、空気気流下でメタクリル酸メチルと含フッ素アルコールとのエステル交換反応により製造する方法(例えば、特許文献2参照)が挙げられる。
【0005】
この時、触媒としてテトラメチルチタネートを、重合防止剤としてN−オキシル化合物を用いている。
【0006】
この方法によれば、確かに目的物を製造することができるものの、多くの課題も有している。例えば、該触媒は高価であり、また容易に加水分解するので、その取り扱いが難しい。さらに、重合防止剤存在下でも、原料である(メタ)アクリル酸メチルや生成した含フッ素(メタ)アクリル酸エステルの重合を促進する作用があるため、製品の収率低下をもたらす。次に、生成物の蒸留精製においても、生成物が本発明で示すメタアクリル酸2,2,2−トリフルオロエチルの場合には、原料はメタアクリル酸メチルと2,2,2−トリフルオロエタノールである。この時、原料であるメタアクリル酸メチルと生成物、そして原料である2,2,2−トリフルオロエタノールと副生物であるメタノールとは、それぞれの沸点差が小さく、蒸留塔はかなりの高段数と高還流比の装置と操作が必要になる。また、蒸留時に生成物の一部がメタアクリル酸メチルに随伴したり、高価な原料である2,2,2−トリフルオロエタノールの一部が副生メタノールに随伴して、経済面で大きな損失を招く。
(常圧での沸点:メタノール:64.7℃、2,2,2−トリフルオロエタノール:73.6℃、メタクリル酸メチル:100℃、メタクリル酸2,2,2−トリフルオロエチル:107℃)
また、該技術では、触媒存在下で、生成物である含フッ素(メタ)アクリル酸エステルを蒸留分離している。この時、工業的重合禁止剤である4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルを使用すると、該重合禁止剤と含フッ素メタアクリル酸エステルや(メタ)アクリル酸メチルがエステル交換反応し、メタノール等の副生物が精製蒸留中に生成し、製品中に混入する恐れがある。
【0007】
また、非プロトン性極性溶媒中で、メタアクリル酸の金属塩とハロゲン化アルキルとの反応によって製造する方法(例えば、特許文献3参照)も開示されている。
【0008】
該技術は、非プロトン性極性溶媒中で、(メタ)アクリル酸の塩と含フッ素ハロゲン化アルキルとを高温で反応させ、含フッ素(メタ)アクリル酸エステルを生成させ、該エステルを連続的に回収する方法である。この方法によれば、含フッ素(メタ)アクリル酸エステルは得られるものの、ここで開示された重合禁止剤(安定剤)は、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミンであり、その作用は弱いものである。そのため、生成物を連続的に回収してはいるものの、生成物の重合により収率低下は避けられない。それにより、重合禁止剤の必要量は多くなり、コストが嵩むことになる。また、生成物である含フッ素(メタ)アクリル酸エステルを連続的に回収する方法は、生産性向上が期待できるが、適正条件範囲が狭く、安定運転が難しく、製品の品質に変動の恐れがある。
【0009】
以上述べたように、含フッ素(メタ)アクリル酸エステルの製造に関して先行技術はあるものの、重合禁止剤や反応条件が適切でないため、反応や蒸留時に含フッ素メタアクリル酸エステルの重合が起こり、生成物の純度・収率の低下、重合による液粘度増加やスケーリングによる運転操作性の低下等を招くことになる。
【0010】
【特許文献1】特開平8−48650号公報(請求項1)
【特許文献2】特許第3524791号公報(請求項1)
【特許文献3】特許第3240089号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、高純度の含フッ素(メタ)アクリル酸エステルを効率良く製造する方法、特に、製造時の重合物の生成が抑えられ、反応および蒸留操作が容易で、運転操作性が良く、製造コストが削減された経済性の高い、含フッ素(メタ)アクリル酸エステルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者はこうした現状に鑑み、含フッ素(メタ)アクリル酸エステルを効率良く製造する方法について鋭意検討した。その結果、N−オキシル化合物および/またはピペラジン化合物の存在下に、(メタ)アクリル酸の金属塩とハロゲン化アルキルを非プロトン性極性溶媒中で反応させ、またN−オキシル化合物および/またはピペリジン化合物の存在下に精製蒸留を行い、さらにこれらを酸素を含まない条件下で操作することにより、高純度の含フッ素(メタ)アクリル酸エステルが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち本発明は、
X(CF(CH)Y
で表されるハロゲン化アルキル
(nは1〜6の整数であり、Xはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素または水素であり、Yは塩素または臭素である。)
と(メタ)アクリル酸の金属塩とを非プロトン性極性溶媒中、無触媒で反応させて含フッ素(メタ)アクリル酸エステルを製造するに際し、または含フッ素(メタ)アクリル酸エステルを蒸留するに際し、下記一般式(1)で表されるN−オキシル化合物および/または下記一般式(2)で表されるピペリジン化合物を、酸素を含有しない条件下で、重合禁止剤として使用することを特徴とする含フッ素(メタ)アクリル酸エステルの製造方法に関するものである。
【0014】
【化1】

【0015】
(式中、R1はH,OH,OR,OCORを表し、Rは炭素数1〜17のアルキル基、炭素数2〜17のアルケニル基、または炭素数6〜14のアリール基もしくはアリールアルキル基を表す。)
【0016】
【化2】

【0017】
(式中、R1はH,OH,OR,OCORを表し、Rは炭素数1〜17のアルキル基、炭素数2〜17のアルケニル基、または炭素数6〜14のアリール基もしくはアリールアルキル基を表す。)
本発明によれば、N−オキシル化合物および/またはピペリジン化合物の存在下に、(メタ)アクリル酸の金属塩とハロゲン化アルキルとを非プロトン性極性溶媒中で反応させた後、精製蒸留を行うことにより、高純度の含フッ素(メタ)アクリル酸エステルを製造することが可能となる。
【0018】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
【0019】
本発明において原料として用いられる化合物は、X(CF(CH)Yで表されるハロゲン化アルキル
(nは1〜6の整数であり、Xはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素または水素であり、Yは塩素または臭素である。)
と(メタ)アクリル酸の金属塩である。
【0020】
ハロゲン化アルキルは、上記の式に当てはまり、市販品として入手可能なものを使用することができるが、入手の容易さとエステル化反応時の副生物が少ないことから、2,2,2−トリフルオロ−1−クロロエタンが好ましい。
【0021】
もう一つの原料である(メタ)アクリル酸の金属塩は特に限定されないが、ナトリウム、カリウム、ルビジウムまたはセシウム等のアルカリ金属の塩またはマグネシウム、カルシウム等のアルカリ土金属の塩が使用でき、反応収率の面からカリウム塩が好ましい。
【0022】
さらに、これら(メタ)アクリル酸の金属塩は、通常(メタ)アクリル酸とアルカリ金属あるいはアルカリ土金属のアルカリ塩との中和反応で調製し、脱水して使用する。また、一般の市販品も含水塩でなければ使用できる。金属塩に水が含まれていると生成する含フッ素(メタ)アクリル酸エステルが加水分解し、収率が低下するため好ましくない。
【0023】
本発明において使用される溶媒は、非プロトン性極性溶媒である。非プロトン性極性溶媒としては、例えばスルホラン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミドおよび1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンが挙げられ、それぞれ単独あるいは2種以上の混合物として使用できる。また、これらの非プロトン性極性溶媒は特に限定されず、水を含んでいない一般の市販品であれば使用できる。
【0024】
本発明で用いられるN−オキシル化合物は、前記一般式(1)で表され、R1はH,OH,OR,OCORを表し、Rは炭素数1〜17のアルキル基、炭素数2〜17のアルケニル基、または炭素数6〜14のアリール基もしくはアリールアルキル基であるものを挙げることができる。
【0025】
具体的には、例えば2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−アセチルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−アクロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−メタクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−フェノキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−ベンジルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
本発明で用いられるピペリジン化合物は、前記一般式(2)で表され、R1はH,OH,OR,OCORを表し、Rは炭素数1〜17のアルキル基、炭素数2〜17のアルケニル基、または炭素数6〜14のアリール基もしくはアリールアルキル基であるものを挙げることができる。
【0027】
ピペリジン化合物も同様に、例えば2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−アセチルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−アクロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−メタクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−フェノキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ベンジルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
N−オキシル化合物とピペリジン化合物は、単独でも使用できるが、2種類以上の各化合物を使用してもよい。また、N−オキシル化合物とピペリジン化合物の混合物を使用してもよい。さらに、他の重合禁止剤を併用することもできる。この併用の場合、他の重合禁止剤との相乗効果により、より優れた重合防止効果が得られる場合もある。
【0029】
本発明の製造方法においては、反応方式は特に限定されず、バッチ式、半バッチ式、連続式のいずれの反応方式でもよい。
【0030】
以下に、攪拌機を備えた加圧容器を使用するバッチ式を例にして説明する。
【0031】
加圧反応容器に非プロトン性極性溶媒、カルボン酸の金属塩、N−オキシル化合物および/またはピペリジン化合物、他の重合禁止剤を入れ密閉する。次に、加圧容器内の空気を原料または反応に対して不活性なガスで十分に置換する。ハロゲン化アルキルは、常温で液体のものは加圧反応容器を密閉する前に添加すればよく、常温で気体のものは加圧容器を密閉後に自圧または加圧して添加すればよい。その後、攪拌しながら昇温し、所定の温度で反応させる。ここで使用できる不活性ガスとは、例えば窒素、アルゴン、炭酸ガスなどが挙げられる。また、原料のハロゲン化アルキルが常温で気体の場合は、これ自体を置換用のガスとして用いてもよい。
【0032】
本発明の製造方法において、使用するハロゲン化アルキル/(メタ)アクリル酸の金属塩のモル比は0.5〜10倍モルであり、好ましくは1〜5倍モルである。モル比が0.5倍モル未満では、(メタ)アクリル酸の金属塩の転化率が小さく、経済的ではなくなるばかりか、反応速度が遅くなり実用的ではない。一方、10倍モルを超えると、反応に使用されないハロゲン化アルキルが多くなり工業的に好ましくない。
【0033】
非プロトン性極性溶媒の使用量は、極性溶媒の種類や原料である(メタ)アクリル酸の金属塩、ハロゲン化アルキルの種類、反応方式により異なるため、一概に限定することはできないが、例えばバッチ式の反応方式においては、(メタ)アクリル酸の金属塩100gに対して非プロトン性極性溶媒を50〜5000ml使用すればよく、好ましくは100〜2000mlである。
【0034】
本発明の製造方法において、(メタ)アクリル酸の金属塩とハロゲン化アルキルを反応させる温度は、100〜300℃であり、さらに好ましくは140〜250℃である。
【0035】
本発明の製造方法において、反応圧力は非プロトン性極性溶媒やハロゲン化アルキルの使用量、沸点により大きく異なるため、特に制限することは困難であるが、本発明の条件下では、常圧〜10MPa、好ましくは常圧〜5MPaがよい。
【0036】
本発明において攪拌速度は、反応方式や加圧容器の大きさ・形状によって異なるため、一概に限定することはできないが、原料の攪拌が十分にできる速度を選択すればよい。
【0037】
本発明において、反応時間は特に限定されるものではないが、0.25〜48時間、好ましくは0.5〜24時間がよい。
【0038】
また、反応時に含フッ素メタアクリル酸エステルの重合を抑制するために、重合禁止剤を反応系中に添加することが好ましい。添加する重合禁止剤は、前記のN−オキシル化合物またはピペリジン化合物が好ましいが、公知のハイドロキノン、N−ニトロソジフェニルアミン、p−t−ブチルピロカテコール、4−メトキシフェノール、フェノチアジン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、銅粉のようなものを1種またはそれ以上組み合わせて使用してもよい。工業的規模で操作する場合は、実験室規模で操作する場合に比べて操作時間が長くなるため、重合禁止剤の選定が重要となる。
【0039】
重合禁止剤の添加量は、反応液に対して通常100〜10000wtppm、好ましくは500〜5000wtppmである。添加量が少なすぎると重合防止効果が不十分で、生成物である含フッ素(メタ)アクリル酸エステルの収率が低下する。一方、多すぎても重合防止効果に大きな差は認められない。
【0040】
本発明の製造方法において、反応終了後、反応混合液から含フッ素(メタ)アクリル酸エステルを取り出す方法は特に限定されないが、例えば反応終了後、加圧容器を冷却し、不活性ガスを排出し、また常温で気体のハロゲン化アルキルを使用した場合は、これも同時に回収する。その後、加圧容器から含フッ素(メタ)アクリル酸エステル、非プロトン性極性溶媒、未反応の(メタ)アクリル酸の金属塩、副生した金属塩化物からなる反応混合物を得た後、蒸留により含フッ素(メタ)アクリル酸エステルを分離すればよい。
【0041】
蒸留は、一度の蒸留で高純度の含フッ素(メタ)アクリル酸を精製分離しても、2段階以上に分けて精製することもできる。蒸留塔の段数や求められる生成物の純度から決定すればよい。
【0042】
蒸留は、連続で行ってもバッチで行ってもよく、蒸留圧力は減圧で行うことも常圧で行うことも可能であるが、重合防止のためには減圧下で行うことが望ましい。蒸留時の圧力は、コンデンサーの冷却温度、不純物の分離性により大きく異なるため、制限をすることは困難であるが、本発明の条件下では101.3〜1.0kPaであり、好ましくは70〜5.0kPaである。圧力が高いと操作温度が上昇し、蒸留中に重合が起こる恐れがある。また、低すぎると不純物の分離性が悪化したり、蒸気を凝縮するコンデンサー温度が低くなりすぎる等の問題が起こる。
【0043】
蒸留時に添加する重合禁止剤は、前述のN−オキシル化合物および/またはピペリジン化合物を使用する。添加量は、含フッ素(メタ)アクリル酸エステルと非プロトン性極性溶媒の分離塔のボトムにおいて、N−オキシル化合物および/またはピペリジン化合物をボトム液に対して100〜10000wtppm、好ましくは500〜5000wtppmになるように添加すればよい。また、必要に応じて前述の公知の重合禁止剤を併用してもよい。
【0044】
蒸留は重合の防止のため、窒素、アルゴン、炭酸ガス等の不活性ガス気流下で実施する等、酸素を含まない条件下で実施することが重要である。
【0045】
本発明により、高純度の含フッ素メタアクリル酸エステルの製造が可能となる。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、工業的に高純度の含フッ素メタアクリル酸エステルを容易に製造することができる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を具体的に実施例にて説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0048】
なお、重合禁止効果の確認におけるメタアクリル酸2,2,2−トリフルオロエチルの残存量分析は、装置として(株)島津製作所製 GC−14A型ガスクロマトグラフ、分析条件として注入口温度:210℃、検出器温度:210℃、初期温度:120℃、初期温度保持時間:4分間、昇温速度:8℃/分、最終温度:200℃、最終温度保持時間:46分間、検出器:水素炎イオン化検出器、キャリアガス:ヘリウム、カラム:クロムパック社製 Cp−sil8CB 内径0.32mm×50m 膜厚:5μmを用いた。
【0049】
実施例1
攪拌機、蒸留塔(理論段数4段)を備えた内容積10mの反応器に、非プロトン性極性溶媒としてN−メチルピロリドン 6000l、メタアクリル酸689kg、48wt%水酸化カリウム水溶液935kg、重合禁止剤として4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル 7.2kgを仕込んだ。攪拌しながら、反応器を20kPaまで減圧後に加熱を開始し、脱水を行った。温度を徐々に180℃まで上げ、48%水酸化カリウム水溶液の持ち込み水と中和で発生する水全てを留去し、メタアクリル酸カリウムを生成させた。反応器を0℃まで冷却後、ハロゲン化アルキルとして2,2,2−トリフルオロ−2−クロロエタン 1483kgを反応器に導入した。その後180℃に加熱、攪拌し、7時間反応させた。
【0050】
反応終了後、6時間かけて反応器を徐々に常圧まで戻し、未反応の2,2,2−トリフルオロ−1−クロロエタンを回収した。その後、生成したメタアクリル酸2,2,2−トリフルオロエチルの回収蒸留を行った。窒素を導入しながら、圧力20kPaまで徐々に減圧し、なるべく溶媒のN−メチルピロリドンが留出しないように還流比を調整しながら蒸留し、11時間かけてメタアクリル酸2,2,2−トリフルオロエチル 1360kgを回収した。
【0051】
運転終了後、装置内を確認したが、蒸留塔内、反応器内に重合物は見られなかった。
【0052】
蒸留後の留出液には溶媒のNーメチルピロリドンと未反応の2,2,2−トリフルオロ−1−クロロエタンがそれぞれ5wt%程度含まれていたため、さらに精製蒸留を実施した。重合禁止剤として4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルを50wtppm溶解させ(ヘビーカット塔ボトムでの濃度:約2600wtppmになるように設定)、この溶液をライトカット塔(理論段数20段)、次いでヘビーカット塔(理論段数20段)に連続フィードし、精製蒸留を行った。
【0053】
ライトカット塔は20kPaの減圧下、窒素気流下で操作し、塔頂から2,2,2−トリフルオロ−1−クロロエタンと少量のメタアクリル酸2,2,2−トリフルオロエチルを抜き出し、ボトム液はヘビーカット塔へフィードした。ヘビーカット塔も20kPaの減圧下、窒素気流下で操作し、塔頂から生成物であるメタアクリル酸2,2,2−トリフルオロエチルを取り出した。メタアクリル酸2,2,2−トリフルオロエチルの回収量は1080kgであった。
【0054】
運転終了後、装置内を確認したが、蒸留塔内、蒸留塔リボイラーに重合物は見られなかった。
【0055】
比較例1
重合禁止剤としてN,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミンを7.2kg使用した以外は、実施例1と同様にエステル化反応を行った後、蒸留を行った。最初の蒸留後の釜液中にはわずかに重合物が認められた。留出液に重合禁止剤としてN,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミンを50wtppm溶解させ(ヘビーカット塔ボトムでの濃度:約2600wtppmになるように設定)精製蒸留を行った。蒸留開始して8時間後に釜液の粘度が上昇を始め、その後運転不能になった。
【0056】
実施例2
蒸留時の組成の模擬液を調製し、重合禁止効果を確認した。メタアクリル酸2,2,2−トリフルオロエチル 12.2wt%、N−メチルピロリドン 87.8wt%の溶液に、重合禁止剤として4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルを0.1wt%溶解した。この液4mlを内容積8mlのステンレス製耐圧容器に仕込み、気相部を窒素ガスで置換し、150℃で24時間処理した(工業的規模での昇温時間、降温時間を考慮)。ガスクロマトグラフィーによりメタアクリル酸2,2,2−トリフルオロエチルの残存量を分析したところ、メタアクリル酸2,2,2−トリフルオロエチルは全く重合していなかった。
【0057】
実施例3
重合禁止剤を4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン(添加量は、実施例2で調製したメタアクリル酸2,2,2−トリフルオロエチル、N−メチルピロリドン混合液に対して0.1wt%)に変更した以外は、実施例2と同様に加熱処理を行った。ガスクロマトグラフィーによりメタアクリル酸2,2,2−トリフルオロエチルの残存量を分析したところ、メタアクリル酸2,2,2−トリフルオロエチルの4%しか重合していなかった。
【0058】
実施例4
重合禁止剤として4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンの重量比1:1混合物(添加量は、実施例2で調製したメタアクリル酸2,2,2−トリフルオロエチル、N−メチルピロリドン混合液に対して0.1wt%)を使用し、実施例2と同様に加熱処理を行った。ガスクロマトグラフィーによりメタアクリル酸2,2,2−トリフルオロエチルの残存量を分析したところ、メタアクリル酸2,2,2−トリフルオロエチルの2%しか重合していなかった。
【0059】
比較例2
重合禁止剤としてN,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミンを(添加量は、実施例2で調製したメタアクリル酸2,2,2−トリフルオロエチル、N−メチルピロリドン混合液に対して0.1wt%)用いた以外は、実施例2と同様に加熱処理を行った。ガスクロマトグラフィーによりメタアクリル酸2,2,2−トリフルオロエチルの残存量を分析すると、メタアクリル酸2,2,2−トリフルオロエチルの40%が重合していた。
【0060】
比較例3
重合禁止剤を使用しない以外は、実施例2と同様に加熱処理を行った。ガスクロマトグラフィーによりメタアクリル酸2,2,2−トリフルオロエチルの残存量を分析すると、メタアクリル酸2,2,2−トリフルオロエチルの40%が重合していた。
【0061】
比較例4
ステンレス製耐圧容器の気相部を窒素置換しなかった(気相部は空気)以外は、実施例2と同様に加熱処理を行った。ガスクロマトグラフィーによりメタアクリル酸2,2,2−トリフルオロエチルの残存量を分析すると、メタアクリル酸2,2,2−トリフルオロエチルの22%が重合していた。
【0062】
比較例5
ステンレス製耐圧容器の気相部を窒素置換しなかった(気相部は空気)以外は、実施例3と同様に加熱処理を行った。ガスクロマトグラフィーによりメタアクリル酸2,2,2−トリフルオロエチルの残存量を分析すると、メタアクリル酸2,2,2−トリフルオロエチルの24%が重合していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X(CF(CH)Y
で表されるハロゲン化アルキル
(nは1〜6の整数であり、Xはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素または水素であり、Yは塩素または臭素である。)
と(メタ)アクリル酸の金属塩とを非プロトン性極性溶媒中、無触媒で反応させて含フッ素(メタ)アクリル酸エステルを製造するに際し、または含フッ素(メタ)アクリル酸エステルを蒸留するに際し、下記一般式(1)で表されるN−オキシル化合物および/または下記一般式(2)で表されるピペリジン化合物を、酸素を含有しない条件下で、重合禁止剤として使用することを特徴とする含フッ素(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【化1】

(式中、R1はH,OH,OR,OCORを表し、Rは炭素数1〜17のアルキル基、炭素数2〜17のアルケニル基、または炭素数6〜14のアリール基もしくはアリールアルキル基を表す。)
【化2】

(式中、R1はH,OH,OR,OCORを表し、Rは炭素数1〜17のアルキル基、炭素数2〜17のアルケニル基、または炭素数6〜14のアリール基もしくはアリールアルキル基を表す。)
【請求項2】
上記非プロトン性極性溶媒が、スルホラン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミドおよび1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の含フッ素(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【請求項3】
上記(メタ)アクリル酸の金属塩が、カリウム塩であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の含フッ素(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【請求項4】
上記ハロゲン化アルキルが、2,2,2−トリフルオロ−1−クロロエタンであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の含フッ素(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。

【公開番号】特開2007−161624(P2007−161624A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−358025(P2005−358025)
【出願日】平成17年12月12日(2005.12.12)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【出願人】(591180358)東ソ−・エフテック株式会社 (91)
【Fターム(参考)】