説明

高純度炭素繊維強化炭素複合材およびその製造方法

【課題】高純度かつ高強度の炭素繊維強化炭素複合材を提供すること。
【解決手段】易結晶性の炭素系材料であるコークス、黒鉛等の結晶性炭素系粉末を多量に含有し、その分炭素繊維、ガラス状炭素の含有量を少なくして、熱処理した後のC/Cコンポジットの結晶化度を高めることにより、C/Cコンポジットは連続気孔が形成されやすく、高純度化のためのガスが透過しやすくなる。従って、C/Cコンポジットの強度を充分に確保しつつ、C/Cコンポジット中に存在する不純物を純化ガスで除去することができ、結晶性炭素系粉末およびガラス状炭素を含むマトリックスと、炭素繊維と、を含み、硫黄の含有量が5質量ppm以下である、半導体製造装置用の高純度炭素繊維強化炭素複合材を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンやSiC、化合物などの半導体製造装置に使用する高純度の炭素繊維強化炭素複合材(C/Cコンポジット)に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化炭素複合材(以下、C/Cコンポジットとも言う)は、軽く、強度が強い上、大型化し易いといった長所を持っているため、シリコン単結晶引上装置、シリコン多結晶製造装置、半導体製造装置等に広く使われている。
このような用途においては、シリコン単結晶等に金属等の不純物が混入することを防止するため、ハロゲンガスを用いて純化した高純度のC/Cコンポジットが用いられてきた。
このようなC/Cコンポジットは、炭素繊維あるいは黒鉛繊維をフィラメントワインディングなどの方法で賦形した成形体に、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂からなるバインダーを含浸、硬化、焼成しC/Cコンポジットを得た後、ハロゲンガスで純化し前記用途に用いられる(特許文献1、2参照)。含浸に使用する熱硬化性樹脂は、焼成することにより非晶質のガラス状カーボンとなる。
【0003】
しかし、上記従来の製造方法では、一回の含浸では十分な強度を得ることが出来ないため、含浸、硬化、焼成工程を何度も繰り返すことで、強度を得ている。
また、上記従来のC/Cコンポジットは、マトリックスが主に非晶質のガラス状炭素で構成されているため、気体の浸透性が低い。これは、ガラス状炭素が気体不浸透の性質を備えている上、繰り返し数回の含浸を繰り返しているため、表層から内部につながる連続気孔が、非常に細くなったり、気孔の一部が、外部へ繋がることのない閉気孔となってしまうためと考えられる。このため、ハロゲンガス中で加熱する従来の純化方法では、C/Cコンポジット材内部に含まれる、主に金属元素からなる不純物を除去することは困難であった。
【0004】
このような課題を解決するため、製品のガラス状炭素の比率が低くなるよう、主にコークスや黒鉛などの結晶性炭素系粉末材料を、C/Cコンポジット材の第三成分として用いることが検討されている(特許文献3、4参照)。
かかる三成分系のC/Cコンポジットであれば、もともと気体不浸透で内部の不純物が除去しにくいガラス状炭素の含有量が少ない上、高密度の結晶性炭素系材料と、低密度の炭素繊維と、これらを結合させるフェノール樹脂等が炭素化した低密度のガラス状炭素とからなるため、従来の(低密度の炭素繊維と低密度のガラス状炭素との)二成分系のC/Cコンポジット材と同じかさ密度であってもより多くの空隙を内部に持つことができ、純化ガス(ハロゲンガス)を材料の内部まで浸透させ金属不純物を除去させやすいと考えられる。
【0005】
表1に、三成分系C/Cコンポジットの一例と二成分系C/Cコンポジットの一例の物理性状を示す。また、図1にサーモ フィニガン社製水銀ポロシメータを用い、水銀圧入法により測定した三成分系C/Cコンポジット材の気孔分布のグラフを、図2に二成分系C/Cコンポジット材の気孔分布のグラフを、図3に三成分系C/Cコンポジット材および従来の二成分系C/Cコンポジット材の積算気孔分布のグラフを、図4に三成分系C/Cコンポジット材のX線回折測定のグラフを、図5に二成分系C/Cコンポジット材のX線回折測定のグラフを示す。
【0006】
【表1】

【0007】
図1〜3から、図1では、三成分系は、半径10μm前後の気孔が集中していることが分かり、図2では、二成分系では主に0.1〜10μmまでの間に気孔が広く分布していることが分かり、図3では、三成分系は二成分系に比べ気孔が多いことが分かる。また、表1より、三成分系と二成分系はかさ密度がほぼ同等レベルであるにも関わらず、三成分系の方は、真密度が高いため、気孔率は大きくなっていることが分かる。
図4〜5、表1から二成分系C/Cコンポジット材に比べ三成分系C/Cコンポジット材では、(002)面のピーク強度がシャープであるため、結晶化度が高いことがわかり、言い換えれば三成分系C/Cコンポジットの真密度の方が高いといえる。
表1から、繊維配向方向の引張強度は三成分系であっても50MPaを超えており、半導体製造装置の部材として使用出来るだけの十分な強度を備えていることがわかる。
【0008】
また、三成分系のC/Cコンポジットは、原材料に揮発分が多く発生するフェノール樹脂等のバインダーが少なく、繰り返し含浸しなくても、一回で高密度のC/Cコンポジットを得ることができるため、二成分系に比べ大幅に工程を簡略化することができる点でも有用である。
【特許文献1】特開平10−152391号公報
【特許文献2】特開2002−173392号公報
【特許文献3】特開平7−48191号公報
【特許文献4】国際公開第2006/003774号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、金属不純物を除去しやすいと考えられる三成分系のC/Cコンポジットを用いても純度上の問題が発生していた。シリコン単結晶引き上げ装置等の半導体製造装置用に用いた場合、高純度のシリコンを得ることができず、銅合金、銀等と接する場合には、銅合金、銀等が腐食する問題が起きていた。
【0010】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、高純度かつ高強度の炭素繊維強化炭素複合材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意検討した結果、このような問題点は、三成分系のC/Cコンポジット中に含まれる硫黄が原因であることを見出した。
すなわち本発明は以下の高純度炭素繊維強化炭素複合材およびその製造方法を提供する。
[1]結晶性炭素系粉末およびガラス状炭素を含むマトリックスと、炭素繊維と、を含み、
硫黄の含有量が5質量ppm以下である、半導体製造装置用の高純度炭素繊維強化炭素複合材。
[2]ヘリウムガスを用いたピクノメータによる真密度が2.0〜2.265g/cm、かさ密度が1.40〜1.80g/cm、X線回折測定における002面の半値幅が0.5°以下、繊維配向方向の引張強度が50MPa以上である、上記[1]に記載の半導体製造装置用の高純度炭素繊維強化炭素複合材。
[3]水銀圧入法による気孔率が10〜35%である、上記[1]または[2]に記載の半導体製造装置用の高純度炭素繊維強化炭素複合材。
[4]結晶性炭素系粉末およびガラス状炭素を含むマトリックスと、炭素繊維と、を含む炭素繊維強化炭素複合材を、純化炉中で真空引きした後、1800〜2400℃に加熱し、次にハロゲン系ガスを50kPa以上になるまで導入する第1工程と、続いて20kPa以下になるまで真空引きを行う第2工程とを交互に繰り返す純化処理工程を含む、半導体製造装置用の高純度炭素繊維強化炭素複合材の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、金属元素が除去しやすく製造工程の少ない三成分系のC/Cコンポジットであっても、シリコン単結晶引き上げ装置でのシリコンの汚染や、接触する銀や銅合金の腐食を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
<炭素繊維強化炭素複合材(C/Cコンポジット)>
本発明の高純度炭素繊維強化炭素複合材における炭素繊維としては、ピッチ系、PAN系の炭素繊維、あるいはさらに熱処理を加えた黒鉛繊維を用いることができる。中でもPAN系の炭素繊維は、バインダー樹脂との接着性がよく、適度な柔軟性を備えているため、多少の変形にも追随しやすい。このため外力が加わって変形しても割れたり、つぶれたりしにくいC/Cコンポジットを提供することができる。
【0014】
本発明の高純度炭素繊維強化炭素複合材は、さらに、結晶性炭素系粉末およびガラス状炭素を含むマトリックスを含有する。
【0015】
マトリックスの構成成分の一つである結晶性炭素系粉末とは、易結晶性炭素系材料が熱処理により炭素化したものである。易結晶性炭素系材料としては石油系、石炭系のコークス、黒鉛が好適に利用できる。結晶性炭素系粉末は、原材料(すなわち易結晶性炭素系材料)の段階で結晶性である必要はなく、例えば、生コークス、メソカーボンなどの、焼成することにより結晶性に変化する炭素系粉末も含まれる。中でも結晶化が十分に進行していないコークスは芳香環末端に官能基を多数備えているため、バインダー樹脂との接着性が高い上、熱処理による収縮が重量減少よりも大きく、高密度で高強度のC/Cコンポジットを得ることができるため、特に好ましい。結晶性炭素系粉末の含有量は、炭素繊維、結晶性炭素系粉末、ガラス状炭素の合計質量に対し好ましくは20〜75質量%であり、より好ましくは30〜50質量%である。20質量%以上であれば、金属不純物の純化が困難とならず、実質的に二成分系となってしまうことがないため、何度も繰り返し含浸をせずとも実用に耐えうる強度を得ることが出来る。75質量%以下であれば、炭素繊維の含有量が低下しないため、実用に耐えうる強度を得ることが出来る。なお、結晶性炭素系粉末の含有量は、原料となる易結晶性炭素系材料の含有量を、炭素繊維、易結晶性炭素系材料、バインダー樹脂の合計質量に対し上記範囲とすることで調整することができる。
【0016】
マトリックスの構成成分の一つであるガラス状炭素とは、バインダー樹脂が熱処理により炭化したものである。バインダー樹脂としては、ノボラック系、レゾール系などのフェノール樹脂、フラン樹脂、ポリイミド樹脂、シアン酸エステル化合物等の炭化収率の高い熱硬化性樹脂などを利用できる。中でもフェノール樹脂が好ましい。ガラス状炭素の含有量は、炭素繊維、結晶性炭素系粉末、ガラス状炭素の合計質量に対し好ましくは10〜40質量%であり、より好ましくは15〜35質量%である。10〜40質量%の範囲であれば、含浸を繰り返すことなく十分な強度を得ることができる。なお、ガラス状炭素の含有量は、原料となるバインダー樹脂の含有量を、炭素繊維、易結晶性炭素系材料、バインダー樹脂の合計質量に対し上記範囲とすることで調整することができる。
【0017】
本発明では、上記以外にシリコン、SiC、金属等の添加剤を適宜加えることができる。
【0018】
本発明の炭素繊維強化炭素複合材は、真密度が好ましくは2.0〜2.265g/cmであり、より好ましくは2.05〜2.265g/cmである。真密度が上記範囲であれば材料外部に接続した連続気孔が出来やすくC/Cコンポジット中に存在する不純物を純化ガスで除去し易い。バインダー樹脂を炭化したガラス状炭素の真密度は概ね1.4〜1.6g/cm、炭素繊維の真密度は1.5〜2.0g/cmであるため、これらより得られる従来の二成分系のC/Cコンポジットの真密度はせいぜい1.4〜2.0g/cmであると概算される。これに対し、本発明の三成分系のC/Cコンポジットは、熱処理後の真密度が2.10〜2.265g/cmとなるコークス、黒鉛等の易結晶性炭素系材料を使用し、その分熱処理後の真密度の低いバインダー樹脂等の含有量が少ないため、C/Cコンポジット全体の真密度が上記2.0〜2.265g/cmと高い値を示すと考えられる。
真密度は、例えば市販の真比重計、(ユアサアイオニクス社製ペンタピクノメータ)等によって測定することができる。
【0019】
本発明の炭素繊維強化炭素複合材は、かさ密度が好ましくは1.40〜1.80g/cmであり、より好ましくは1.45〜1.70g/cmである。かさ密度が上記範囲であれば十分な強度を得ることが出来、材料外部に接続した連続気孔が出来やすくC/Cコンポジット中に存在する不純物を純化ガスで除去し易い。
かさ密度は、例えば質量を寸法測定で得られた体積で除することによって測定することができる。
【0020】
また、本発明の高純度炭素繊維強化炭素複合材は、X線回折測定における002面(26.0度)の半値幅が好ましくは0.5°以下、より好ましくは0.4°以下である。X線回折測定によって炭素材料の結晶化度を測定することができる。また、図6に示すように半値幅とは、バックグラウンドを基準としたピーク高さの1/2の高さにおける強度の幅を意味し、半値幅が低いほど、結晶面の広がりが大きく結晶化度が高いことを意味する。X線回折測定は、炭素繊維強化炭素複合材を粉砕した粉末を試料とし、たとえばCu、Kα線のX線回折装置を用いて行うことができる。
【0021】
炭素繊維や、バインダー樹脂等を熱処理等により炭素化して得られるガラス状炭素の結晶化度は低く、易結晶性の炭素系材料であるコークス、黒鉛等を熱処理した結晶性炭素系粉末の結晶化度は高い。本発明のC/Cコンポジットは、結晶性炭素系粉末を多量に含有し、その分炭素繊維、ガラス状炭素の含有量が少ないため、002面の半価幅は上記範囲となる。一方、易結晶性炭素系材料を使用せず、炭素繊維とフェノール樹脂等を主原料とする従来の二成分系のC/Cコンポジットは002面の半値幅が0.5以上となると推測される。
【0022】
真密度が2.0〜2.265g/cmであり、かつ、かさ密度が1.40〜1.80g/cmであるということは、気孔率の理論値が約10〜38%であるので、C/Cコンポジットは使用に耐え得る充分な強度を有する。さらに、X線回折測定における002面(26度)の半値幅が0.5°以下であるということは、結晶化度が高いということであるので、C/Cコンポジットは連続気孔が形成されやすく、高純度化のためのガスが透過しやすい。従って、C/Cコンポジットの強度を充分に確保しつつ、C/Cコンポジット中に存在する不純物を純化ガスで除去することができる。
【0023】
そして、本発明の高純度炭素繊維強化炭素複合材は、気孔率が好ましくは10〜35%、より好ましくは20〜35%である。気孔率は、水銀圧入法、例えばサーモ フィニガン社製水銀ポロシメータによって測定することができる。水銀圧入法による気孔率がこの様な範囲にある場合には、充分な数の連続気孔が形成される。
【0024】
さらに、本発明の高純度炭素繊維強化炭素複合材の繊維配向方向の引張強度が50MPa以上であることが好ましい。引張強度が50MPa以上であれば、部材として必要な強度を十分に得ることが出来る。
【0025】
本発明の高純度炭素繊維強化炭素複合材は、硫黄の含有量が5質量ppm以下、好ましくは4質量ppm以下である。高温下での経年使用により硫黄または硫黄化合物が部材から拡散・放出される確率は、硫黄含有量の増加により指数関数的に増加するため、例えば10質量ppmであれば、通常、部材の寿命が到来する前に硫黄または硫黄化合物の拡散・放出の影響が無視できなくなる。この点、硫黄含有量を約5質量ppmに抑えることができると、硫黄または硫黄化合物の拡散・放出の影響が現れる時期は、部材の寿命時期とほぼ一致する。このため、硫黄含有量を5質量ppm以下とすることで、部材の寿命時期まで硫黄または硫黄化合物の拡散・放出の影響をほとんど受けなくなる。従って、5質量ppm以下であれば高純度の製品を得ることができると共に、銀や銅合金と接する部位において腐食の問題が起きることもない。なお、下限値は特に限定されず、少ないほど好ましく、0質量ppmであることが最も好ましい。
【0026】
<製造方法>
本発明の高純度C/Cコンポジットは、以下の方法によって得ることが出来る。
本発明の製造方法では、炭素繊維、易結晶性炭素系材料、バインダー樹脂を素に製作された炭素繊維、結晶性炭素系粉末、ガラス状炭素を含む三成分系のC/Cコンポジットを、純化処理工程により高純度化することによって得られる。三成分系のC/Cコンポジットは、公知のものを利用することが出来、例えば、特開平07−48191号公報、国際公開第2006−3774号パンフレットに記載の方法によって得ることが出来る。
【0027】
本発明の高純度炭素繊維強化炭素複合材に用いる易結晶性炭素系材料には、液相炭素化する石油系または石炭系のコークスあるいはこれらのコークスを熱処理した黒鉛などが含まれる。これらの易結晶性炭素系材料は、動物性プランクトンや植物性プランクトンが変化した鉱物資源を原材料としているためシステイン、メチオニンなどのアミノ酸やその他生物由来の硫黄を内部に高濃度で含有している。純化処理工程は、主にこのような硫黄を除去するために行う。
【0028】
純化処理は、まず、三成分系のC/Cコンポジットを純化炉中で真空引きした後、1800〜2400℃、好ましくは1900〜2300℃に加熱する。1800℃以上であれば、他の金属元素の除去が困難とならず、2400℃以下であれば、含有する炭素繊維の結晶化度が上がり脆くなってしまうおそれがない。真空引きは10kPa以下になるまで行うことが好ましい。また、加熱後の保持時間は0.1〜4hrが好ましい。
【0029】
次に純化炉にハロゲン系ガスを50kPa以上になるまで導入する第1工程に供し、続いて20kPa以下になるまで真空引きを行う第2工程に供する。引き続き第1工程、第2工程、第1工程、第2工程を施し、処理を終了する。これにより、C/Cコンポジット中に含まれる金属不純物を高温で揮散しやすい金属ハロゲン化物に化学変化させ、気孔内部から素材外部に流出させることができる。そして、このとき同時に硫黄分等の不純物を硫黄系のガスとして気孔外部に一緒に流出させることができる。ハロゲン系ガスは、塩素ガス、フッ素ガス等のハロゲンガス、CF、CHCl等の有機ハロゲン系のガス等を用いることができ、特に塩素ガスが好ましい。
【0030】
ハロゲン系ガスの導入は50kPa以上まで行い、60kPaまで行うことが好ましい。金属不純物の除去を十分に行うことが出来るからである。
真空引きの真空度は20kPa以下まで行い、10kPa以下まで行うことがより好ましい。高い真空度で真空引きをおこなうことにより、気孔内部の不純物を効率的に除去できるからである。
【0031】
本発明の製造方法では、純化を一定の圧力で行うのではなく、ハロゲン系ガスの導入(第1工程)、真空引き(第2工程)を交互に複数回、好ましくは4回以上行う。前記工程を繰り返し行うことによって、気孔内部に発生した不純物を含有するガスを効率的に系外に除去できるからである。
【0032】
本発明の製造方法における純化処理工程は、ハロゲン系ガスを導入(第1工程)後、真空引き(第2工程)前に水素ベーク工程を加えてもよい。硫黄と化合物(HS)を形成しやすい水素でベーキングすることにより、硫黄が除去しやすくなる上、前記と同様に真空引き工程によって発生した不純物ガスを系外に除去しやすいからである。
【実施例】
【0033】
<高純度炭素繊維強化炭素複合材の製造>
(実施例1)
易結晶性炭素系材料として、平均粒子径2μmの石炭系生コークスを用い、炭素繊維としてPAN系の平均径7μm、平均長さ5mmのチョップを使用し、バインダー樹脂としてレゾール系のフェノール樹脂を使用した。次に易結晶性炭素系材料30質量%、炭素繊維45質量%、バインダー樹脂25質量%の比率でミキサーを用いて混合し、100×100のキャビティを持った金型を用い20MPa、90℃で15分間プレスし硬化させた。
得られた成形体をさらに150℃で30分処理し完全硬化させた後、還元性雰囲気(炭化水素ガス)下で4℃/時間の昇温速度で900℃まで焼成したのち、次の高温処理炉で窒素雰囲気下50℃/時間の昇温速度で2000℃まで焼成した。こうして得られたC/Cコンポジットを70×70×20mmのサイズに加工した。尚、繊維は、70×70の方向に2軸配向している。
前記、C/Cコンポジットを純化炉に入れ、20kPaまで真空引きを行い、加熱した。2100℃になったところで塩素ガスを導入し、60kPa以上に達するまで導入し、1分間保持(第1工程)再び20kPaに達するまで真空引きを行い(第2工程)20kPaに達し他時点で前記(第1工程)へ戻るように高純度化を行い、交互に(第1工程)、(第2工程)を3回ずつ実施した。高純度化の終了したC/Cコンポジット材は、冷却した後、窒素ガスで復圧し、大気解放した。
【0034】
得られたC/Cコンポジット材について、下記評価を行った。結果を表2に示す。
真密度:ユアサアイオニクス社製ピクノメータを用い、ヘリウムガスを用いたピクノメータ法により測定した。
かさ密度:寸法測定より算出した体積で質量を除することにより算出した。
気孔率: サーモ フィニガン社製水銀ポロシメータを用い、水銀圧入法により測定した。(気孔量(cc/g)にかさ密度を乗ずることにより気孔率が得られる。)
X線回折測定:Cu−Kα線を使用したX線回折装置を用い、C/Cコンポジット材の(002)回折線を測定した。
繊維配向方向の引張強度:島津製作所製オートグラフAG−IS(5kN)に引張試験用ホルダを取り付け測定した。
【0035】
<不純物分析>
実施例1と、純化処理を行わなかった市販の三成分系C/Cコンポジット材(比較例1)について、硫黄分析および塩素分析を行った。結果を表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
表2に示すように、実施例1に係る本発明のC/Cコンポジット材は、本発明の純化処理を行ったことで硫黄含有量が低減されたことが分かる。また、高純度化によって、塩素含有量、真密度、かさ密度、気孔率、(002)面半値幅、繊維配向方向の引張強度はほとんど変わらず、純化に用いた塩素ガスはほとんど残留せず、特性の変化もないことがわかる。塩素に関しては、高純度化によって若干含有量が増加しているが、経年使用で影響が大きくなる5質量ppmをはるかに下回っており、影響は無視できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】三成分系C/Cコンポジット材の気孔分布のグラフである。
【図2】二成分系C/Cコンポジット材の気孔分布のグラフである。
【図3】三成分系C/Cコンポジット材および二成分系C/Cコンポジット材の積算気孔分布のグラフである。
【図4】三成分系C/Cコンポジット材のX線回折測定のグラフである。
【図5】二成分系C/Cコンポジット材のX線回折測定のグラフである。
【図6】半値幅を示す概念図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性炭素系粉末およびガラス状炭素を含むマトリックスと、炭素繊維と、を含み、
硫黄の含有量が5質量ppm以下である、半導体製造装置用の高純度炭素繊維強化炭素複合材。
【請求項2】
ヘリウムガスを用いたピクノメータによる真密度が2.0〜2.265g/cm、かさ密度が1.40〜1.80g/cm、X線回折測定における002面の半値幅が0.5°以下、繊維配向方向の引張強度が50MPa以上である、請求項1に記載の半導体製造装置用の高純度炭素繊維強化炭素複合材。
【請求項3】
水銀圧入法による気孔率が10〜35%である、請求項1または2に記載の半導体製造装置用の高純度炭素繊維強化炭素複合材。
【請求項4】
結晶性炭素系粉末およびガラス状炭素を含むマトリックスと、炭素繊維と、を含む炭素繊維強化炭素複合材を、純化炉中で真空引きした後、1800〜2400℃に加熱し、次にハロゲン系ガスを50kPa以上になるまで導入する第1工程と、続いて20kPa以下になるまで真空引きを行う第2工程とを交互に繰り返す純化処理工程を含む、半導体製造装置用の高純度炭素繊維強化炭素複合材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−269774(P2009−269774A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−119400(P2008−119400)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】