説明

高耐酸化性を有する磁性陽極酸化アルミニウム及びその製造方法

【課題】空気又は他の高濃度の酸素雰囲気中での高温による酸化を阻止できる磁気マイクロデバイスに用いることのできる磁性陽極酸化アルミニウムを提供する。
【解決手段】コバルト、白金、タングステン、リンからなる合金等を磁性材料として有する磁性陽極酸化アルミニウムは、磁性材料のナノワイヤ14のアレイ10がナノ細孔22内に形成された筐体を構成する陽極酸化アルミニウム層12を備える。ナノワイヤ14は、その側壁が酸化されるのを防止するために、陽極酸化アルミニウム層12のナノ細孔22内に埋め込まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い耐酸化性を有する磁性陽極酸化アルミニウム及びその磁性陽極酸化アルミニウム層の形成方法に関し、これに限定されるわけではないが、特に、酸素雰囲気中において高温による酸化を防止することができる磁性陽極酸化アルミニウム及びその磁性陽極酸化アルミニウム層の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化は、従来の金属磁石、例えばニオブ−鉄−ホウ素、サマリウムコバルトの希土類磁石において重要な問題である。このような酸化は、磁石の表面で起こる腐食によるものである。保護膜がない場合には、酸素がそのような磁石の表面内に拡散して、表面層に冶金学的変化が起こる。表面層が酸化した結果、表面層は、本来の保磁力が弱くなる。この弱い保磁力が弱くなることにより、表面層は、容易に消磁される可能性がある。同時に、表面層に非磁性の金属酸化物が形成されることにより、磁石から得ることができる絶対磁束が減少する。酸化された表面層は、温度及び時間の両方の関数として変化することが知られている。酸化の度合は、温度が高く、時間が長くなる程、高い。
【0003】
近年、コバルト−白金(CoPt)をベースとする合金を電着させることが、磁気マイクロマシンに用いる超小型永久磁石として研究されている。これらの研究において、コバルト−白金−タングステン−リン(以下、CoPtWPという。)合金は、20μm以上の厚さの膜厚に電着することが可能な材料であり、磁気マイクロデバイスの用途において要求される磁気特性を維持している。
【0004】
磁石の電気めっきは、多くの場合、室温で行われるプロセスであるが、マイクロデバイスの製造は、多くの場合、高温の工程、例えばウェハレベルのボンディング工程等を含んでいる。これらの高温の工程は、多くの場合、空気中で行われる。したがって、電気めっきされた(以下、単に電気めっきという)超小型磁石の熱磁気特性及び耐酸化性は、このような超小型磁石の用途においては重要である。CoPtWP合金は、空気中で熱処理されると、酸化され、この酸化により、磁気特性が劣化する。非磁性の金属酸化物が形成されると、磁石から放出可能な磁束密度が下がるので、マイクロデバイスに電気めっき磁石を集積化することは、支障がある。例えば、厚さ5.4μmのCoPtWPを電気めっきされた膜における垂直残留磁化は、212℃で熱処理することにより、22%減少する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
マイクロデバイスに電気めっき磁石を用いる用途においては、電気めっき磁石は、空気又は他の高濃度の酸素雰囲気中での高温による酸化を阻止できるものでなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の好ましい実施の形態では、本発明は、磁性材料のナノワイヤのアレイがナノ細孔内に形成された筐体を構成する陽極酸化アルミニウム層を備える磁性陽極酸化アルミニウムを提供する。ナノワイヤは、その側壁が酸化されるのを防止するために、陽極酸化アルミニウム層のナノ細孔内に埋め込まれていてもよい。
【0007】
第2の好ましい実施の形態では、本発明は、磁性材料のナノワイヤを有する陽極酸化アルミニウム層を備え、ナノワイヤのは、その側壁が酸化されるのを防止するために、陽極酸化アルミニウム層のナノ細孔内に埋め込まれている磁性陽極酸化アルミニウムを提供する。ナノワイヤは、陽極酸化アルミニウム層のマイクロ細孔にアレイ状に形成されていてもよい。
【0008】
第1及び第2の実施の形態において、陽極酸化アルミニウムは、導電材料のシード層を更に備えていてもよい。ナノ細孔の直径は、(約)70nmであり、陽極酸化アルミニウム層の厚さは、(約)60μmであってもよい。
【0009】
第3の好ましい実施の形態では、本発明は、磁性陽極酸化アルミニウム層を形成する磁性陽極酸化アルミニウム層の形成方法において、陽極酸化アルミニウム層に、電解めっき浴によって、磁性材料を電気めっきするステップを有する磁性陽極酸化アルミニウム層の形成方法を提供する。
【0010】
電解めっき浴は、0.001〜0.5mol/lのCo2+と、0.001〜0.5mol/lのPtCl2−と、0.001〜0.5mol/lのWO2−と、0.001〜0.5mol/lのHPHOとを含んでいてもよい。電解めっき浴のpHは、4.0〜5.0であってもよい。
【0011】
電気めっきは、1〜1000mA/cmの電流密度で実施されてもよい。磁性陽極酸化アルミニウム層は、空気中において、100℃〜400℃で熱処理されてもよい。電気めっきは、陽極酸化アルミニウム層のナノ細孔に実施されてもよい。磁性材料を電気めっきする前に、陽極酸化アルミニウム層に、導電材料のシード層を堆積してもよい。
【0012】
第1乃至第3の実施の形態において、磁性材料は、45〜95原子%のコバルトと、0.5〜50原子%の白金と、0.5〜20原子%のタングステンと、0.5〜10原子%のリンとを含む合金であってもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
発明を十分に理解し、容易に実施できるように、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、本発明は、これらの実施の形態に限定されるものではない。
【0014】
図4に示すように、磁性材料のナノワイヤ14のアレイ10は、磁性陽極酸化アルミニウムを形成するために、陽極酸化アルミニウム12のナノ細孔22内に、電気めっきによって埋め込まれている。
【0015】
ナノワイヤ14は、CoPtWP合金の硬質磁性材料である。CoPtWP合金は、好ましくは、45〜95原子%のコバルトと、0.5〜50原子%の白金と、0.5〜20原子%のタングステンと、0.5〜10原子%のリンとを含んでいる。
【0016】
陽極酸化アルミニウム12によって形成された筐体は、ナノワイヤ14の厚い硬質磁性材料を熱酸化から保護するものである。空気中における高温下では、熱酸化が起こり、磁気特性が劣化する。図7に示すように、磁性陽極酸化アルミニウム12の面外方向の残留磁化Mr、飽和磁化Ms及び角形比Sは、空気中における320℃の熱処理の前後では変化がなく、同じ温度及び雰囲気中で、少なくとも10時間保持された。初期及び最終的な残留磁化Mr、飽和磁化Ms及び角形比Sは、それぞれ12memu、13memu及び0.94であった。
【0017】
電気めっき用の鋳型としては、直径が約70nmのナノ細孔22を有し、厚さが(約)60μmの陽極酸化アルミニウム12を用いた。図1及び図2は、陽極酸化アルミニウム12の型板の正面及び横断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した画像を示す図である。
【0018】
陽極酸化アルミニウム12の片面には、電気めっきのために、金(Au)を約300nmの厚さにスパッタリングし、シード層16とした。なお、必要に応じて、他の導電材料、例えば銀又は銅を用いることができる。電気めっきは、ガルバノスタット/ポテンショスタットで制御される回転ディスク電極(RDE)システムを用いて行った。参照電極には、Ag/KCl電極を用い、陽極には、純白金線を用いた。陽極酸化アルミニウム12のナノ細孔22内にCoPtWPを電気めっきするための電解質溶液の組成を表1に示す。電解質水溶液のpHは、NaOH及び/又はHSOを用いて4.5に調整した。電気めっきの電流密度及び攪拌速度に関する条件を表1に示す。陽極酸化アルミニウム12の領域を含んだめっき領域全体を考慮して、電流密度は、約884mA/cmとした。
【0019】
【表1】

【0020】
電気めっきしている間、CoPtWPのナノワイヤは、ナノ細孔22の底部、すなわち金のシード層16から陽極酸化アルミニウム12のナノ細孔22に沿って成長し始める。その結果、図3の陽極酸化アルミニウム12の横断面のSEM画像に示すように、CoPtWPのナノワイヤ14のアレイ10が形成され、陽極酸化アルミニウム12のナノ細孔22内に埋め込まれた。熱安定性試験を320℃の空気中で2時間という熱サイクルで行った。なお、熱安定性試験は、必要に応じて、異なる時間及び温度で行ってもよい。例えば、温度は、100〜400℃であってもよい。熱サイクルは、合計で10時間となるように、又はそれ以上の時間となるように行ってもよい。熱処理前と熱処理開始から2時間経過前後において、ナノワイヤ14と平行な方向に測定した磁気ヒステリシス曲線を図5に示す。面外方向の保磁力Hcは、空気中において320℃では、熱処理開始から最初の2時間経過後に、4.5kOeから3.4kOeに低下したが、その後の10時間に至るまでの熱処理では、3.4kOeに保たれた。
【0021】
表2及び表3に、平面薄膜18のCoPtWPと、陽極酸化アルミニウム12に埋め込まれたナノワイヤ14の形でのCoPtWPとに対して、熱サイクルで熱処理を施した場合の絶対飽和磁化Ms、絶対残留磁化Mr、保磁力Hc及び角形比Sのそれぞれの変化を示す。平面薄膜18の場合は、絶対飽和磁化Ms及び絶対残留磁化Mrが84〜85%程度低下しているが、陽極酸化アルミニウム12の筐体内のナノワイヤ14の場合では、絶対飽和磁化Ms及び絶対残留磁化Mrがほとんど変化していないことがわかる。平面薄膜18のCoPtWPを熱処理した場合には、最初は保磁力Hcの向上が観察されたが、保磁力Hcは、6時間経過後から低下し始めた。陽極酸化アルミニウム12の筐体内のナノワイヤ14の場合、最初の熱サイクル後に保磁力Hcの低下が観察されたが、保磁力Hcは、その後10時間経過に至るまでの熱処理では一定のままであった。
【0022】
【表2】

【0023】
【表3】

【0024】
金属部材の酸化は、一般的に図6に示すように、部材表面から開始する。平面薄膜18の場合には、膜厚が薄いが表面積が広いため、表面積/体積比が高い。陽極酸化アルミニウム12の筐体内に埋め込まれたナノワイヤ14の場合、ナノワイヤ14の露出面は、ナノワイヤ14の長さに関わらず各ナノワイヤ14の上面20だけである。ナノワイヤ14の側壁は、陽極酸化アルミニウム12内に埋め込まれているので、高温での処理の間も、空気中の酸素に晒されない。側壁の面積は、かなり広いが、空気中の酸素に晒されるナノワイヤ14の表面積は非常に狭い。実質的に、陽極酸化アルミニウム12内のナノワイヤ14の表面積/体積比は、同じ質量の平面薄膜18の表面積/体積比と比較して、非常に低い。酸化される表面積を狭くした結果、磁性体であるナノワイヤ14の磁気特性は、熱処理をしている間も維持できる。
【0025】
このように、高い耐酸化性を有する磁性陽極酸化アルミニウム12は、例えば100℃〜400℃の高温においても、酸素雰囲気下中での酸化を阻止することができる。この温度は、約320℃であってもよい。このような耐酸化性により、陽極酸化アルミニウム12内にアレイとして収納された電気めっきによるCoPtWPのナノワイヤ14の磁性材料は、実質的に、最初の残留磁化を維持することができる。したがって、陽極酸化アルミニウム12内にアレイとして収納された電気めっきによるCoPtWPのナノワイヤ14は、大気酸素の存在下において約320℃の熱処理をした後でも、最初の絶対磁束を放出することができる。
【0026】
以上、本発明の好ましい実施の形態を説明したが、本発明の範囲を逸脱することなく、これらの実施の形態に様々な変更、修正を加えることができることは、当業者に明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】陽極酸化アルミニウムの鋳型の上面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す図である。
【図2】図1に示す陽極酸化アルミニウムの型板の横断面のSEM画像を示す図である。
【図3】陽極酸化アルミニウム内に埋め込まれたCoPtWPナノワイヤの横断面のSEM(後方散乱電子)画像を示す図である。
【図4】磁性陽極酸化アルミニウム体を構成する、陽極酸化アルミニウムに格納された電気めっきによるナノワイヤを示す概略図である。
【図5】図3及び図4に示す磁性材料を空気中において320℃で2時間熱処理した前後のヒステリシス曲線のグラフを示す図である。
【図6】同一質量の磁性材料の2つの異なる形状を示す概略図であり、保護されていない平面薄膜と、陽極酸化アルミニウムの筐体内におけるナノワイヤのアレイとを示す図である。
【図7】平面薄膜のCoPtWPと、陽極酸化アルミニウム内のCoPtWPとの残留磁化Mr及び飽和磁化Msを、空気中において320℃で熱処理した時間を関数とした傾向をプロットした図である。
【符号の説明】
【0028】
10 アレイ、12 陽極酸化アルミニウム、14 ナノワイヤ、16 シード層、18 平面薄膜、20 上面、22 ナノ細孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性材料のナノワイヤのアレイがナノ細孔内に形成された筐体を構成する陽極酸化アルミニウム層を備える磁性陽極酸化アルミニウム。
【請求項2】
上記ナノワイヤは、その側壁が酸化されるのを防止するために、上記陽極酸化アルミニウム層のナノ細孔内に埋め込まれていることを特徴とする請求項1に記載の磁性陽極酸化アルミニウム。
【請求項3】
磁性材料のナノワイヤを有する陽極酸化アルミニウム層を備え、
上記ナノワイヤは、その側壁が酸化されるのを防止するために、上記陽極酸化アルミニウム層のナノ細孔内に埋め込まれていることを特徴する磁性陽極酸化アルミニウム。
【請求項4】
上記ナノワイヤは、上記陽極酸化アルミニウム層のマイクロ細孔にアレイ状に形成されていることを特徴とする請求項3に記載の磁性陽極酸化アルミニウム。
【請求項5】
上記磁性材料は、45〜95原子%のコバルトと、0.5〜50原子%の白金と、0.5〜20原子%のタングステンと、0.5〜10原子%のリンとを含む合金であることを特徴とする請求項1乃至4いずれか1項に記載の磁性陽極酸化アルミニウム。
【請求項6】
導電材料のシード層を更に備える請求項1乃至5いずれか1項に記載の磁性陽極酸化アルミニウム。
【請求項7】
上記ナノ細孔の直径は、(約)70nmであり、上記陽極酸化アルミニウム層の厚さは、(約)60μmであることを特徴とする請求項1乃至6いずれか1項に記載の磁性陽極酸化アルミニウム。
【請求項8】
磁性陽極酸化アルミニウム層を形成する磁性陽極酸化アルミニウム層の形成方法において、
上記陽極酸化アルミニウム層に、電解めっき浴によって、磁性材料を電気めっきするステップを有する磁性陽極酸化アルミニウム層の形成方法。
【請求項9】
上記電解めっき浴は、0.001〜0.5mol/lのCo2+と、0.001〜0.5mol/lのPtCl2−と、0.001〜0.5mol/lのWO2−と、0.001〜0.5mol/lのHPHOとを含むことを特徴とする請求項8に記載の磁性陽極酸化アルミニウム層の形成方法。
【請求項10】
上記電解めっき浴のpHは、4.0〜5.0であることを特徴とする請求項8又は9に記載の磁性陽極酸化アルミニウム層の形成方法。
【請求項11】
上記電気めっきは、1〜1000mA/cmの電流密度で実施されることを特徴とする請求項8乃至10いずれか1項に記載の磁性陽極酸化アルミニウム層の形成方法。
【請求項12】
上記磁性陽極酸化アルミニウム層は、空気中において、100℃〜400℃で熱処理されることを特徴とする請求項8乃至11いずれか1項に記載の磁性陽極酸化アルミニウム層の形成方法。
【請求項13】
上記電気めっきは、上記陽極酸化アルミニウム層のナノ細孔に対して実施されることを特徴とする請求項8乃至12いずれか1項に記載の磁性陽極酸化アルミニウム層の形成方法。
【請求項14】
上記磁性材料を電気めっきする前に、上記陽極酸化アルミニウム層に導電材料のシード層を堆積するステップを更に有する請求項8乃至13いずれか1項に記載の磁性陽極酸化アルミニウム層の形成方法。
【請求項15】
上記磁性材料は、45〜95原子%のコバルトと、0.5〜50原子%の白金と、0.5〜20原子%のタングステンと、0.5〜10原子%のリンとを含む合金であることを特徴とする請求項8乃至14いずれか1項に記載の磁性陽極酸化アルミニウム層の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−69447(P2008−69447A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−158497(P2007−158497)
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】