説明

高耐食性粉体塗装方法

【課題】 防錆性、耐食性、耐候性を有する塗膜を提供する。
【解決手段】 ビヒクルとしてフェノキシ樹脂を、防錆顔料として亜鉛粉末を含み、揮発性の高い溶剤を希釈溶剤して用いた一液型のジンクリッチプライマーを下塗りに用い、前記ジンクリッチプライマーを塗布し、次いで粉体塗料を塗り重ね、その後焼付けを行う高耐食性粉体塗装方法である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、鉄鋼材料および鉄鋼構造物を粉体塗装する塗装系に対し、耐食性の向上を目的とした下塗りを適用する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来より鉄鋼材料および鉄鋼構造物の塗装方法としては有機溶剤型の塗装が主流であるが、一般に屋外環境や高温多湿の環境に曝されるものについては、2回以上の塗装を行い、下塗りには防錆や密着を目的とするプライマーを使用し、上塗りには美観とその維持を目的とする塗料を使用することで、耐食性と耐候性を両立している。
【0003】近年、地球環境保護の観点から、有機溶剤を全く含まない粉体塗料が環境型塗料として注目を集めており、従来の有機溶剤型塗料から替わりうるものとして有望視されている。
【0004】粉体塗装は性質的に塗装膜が厚く形成されるため、一般に1回塗りで使用されるが、屋外での厳しい腐食環境に曝されるものなどは1回塗りでは耐食性が不足する場合がある。また、防錆顔料や密着性に優れる樹脂を多量に含有させた塗料は、往々にして屋外環境下で早期に色あせやつやびけを引き起こすが、粉体塗料も例外でない。
【0005】つまり高外観とその長期に渡る維持が要求される用途については粉体塗料そのものによる耐食性の向上が困難である。
【0006】そこで、粉体塗装による鉄鋼材料および鉄鋼構造物の耐食性を向上させる方法として、溶剤型の防錆塗料を下塗りに使用する方法が提案されている。
【0007】例えば、特開平6−198248号公報の「粉体塗料用無機ジンク一次防錆塗料の気相促進硬化方法」がある。しかしこの方法は、無機ジンク一次防錆塗料を塗布後、35℃以上かつ絶対湿度0.029kg/kg以上の高湿度雰囲気下、20℃以上かつ絶対湿度0.014kg/kg以上で、気化された塩基性窒素含有化合物が含まれる高湿度雰囲気で一定時間処理し硬化させ、焼付時の発泡の原因となる反応生成物を放出させる必要があるため、工程が複雑で時間もかかり、コスト高であると共に汎用性のない設備になる可能性がある。
【0008】そのほか、特開平7−47328号公報の「鋼板の塗装方法」には、やはり無機ジンク一次防錆塗料を塗布後、強制乾燥するか7日間自然放置してから粉体塗装を上塗りする方法が提案されている。
【0009】また、従来より一般工業界において広く使用されている溶剤型のエポキシ樹脂系熱硬化型防錆プライマーを塗布し、焼付をせずに粉体塗料を塗り重ねると、その後の焼付で粉体塗装膜の表面に外観の不具合を生じる結果となる。
【0010】これは、プライマーの塗装膜中に残留する溶剤が多量であるため、粉体塗料が熱により溶融、増粘した後にも揮発が続き、溶剤が粉体塗装膜を突き破る形で揮発するためであり、高沸点溶剤を多量に含有するプライマーほど顕著にその現象を呈する。さらに、エポキシ樹脂の親溶剤により粉体塗料が溶解する場合も有り、この場合は外観の不具合だけでなく粉体塗料の本来の性能を損ないかねない。よってこの組み合わせにおいてもプライマー塗布後に焼付を行ってから粉体塗料を塗り重ねることが必要となり、前記公報の方法と同様、工数が大幅に増加してしまう。
【0011】さらに、これら2回塗装2回焼付方式においては、組み合わせる防錆プライマーにより粉体塗料の密着性が得られない場合がある。これは特開平7−47328号公報の「鋼板の塗装方法」にも記載されているように、下塗りとなる塗膜の可撓性や粉体塗料の塗膜硬化時の、塗膜の収縮、歪みの大きさに起因するものと考えられる。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】粉体塗料は一般に有機溶剤型塗料より単価が高く、焼付に必要なエネルギーも大きいため、厚膜である特性を生かし従来より少ない工数で生産しなければコストダウンが困難である。特に一般工業塗装においては従来より有機溶剤型塗料を用いて2〜3回塗り1〜2回焼付け方式による塗装を行っている場合が多く、粉体塗料を用いた2回塗り2回焼付け方式への転換は、設備、設備スペース、消費エネルギー、生産性、の観点からコスト高になるため困難である。
【0013】そこで本発明の目的は、粉体塗料との密着性に優れ、塗布後、焼付や長時間の自然放置、特殊雰囲気による処理などをせずに粉体塗料を塗り重ねて粉体塗料と同時に焼き付けることが可能な防錆プライマーを開発し、省力型の高耐食性粉体塗装方法を提供することに有る。
【0014】
【課題を解決するための手段】前述した目的を達成するために、本発明による塗装方法は、ビヒクルとしてフェノキシ樹脂を、防錆顔料として亜鉛粉末を含むジンクリッチプライマーを下塗りに用いることを特徴とする。フェノキシ樹脂は、上記特開平6−198248号公報に記載のアルキルシリケートのように粉体塗膜の焼付時に反応して発泡しないので、前記ジンクリッチプライマーは粉体塗料を塗り重ねる前に完全に硬化させる必要はない。
【0015】また、前記ジンクリッチプライマーは、揮発性を調整した溶剤を希釈溶剤とする速乾性のプライマーであることを特徴とする。
【0016】そのため、塗布後常温で速やかに指触乾燥し、粉体塗料の上塗りが可能であり、焼付時に残留溶剤が粉体塗装表面に外観不具合を生じさせることはない。
【0017】さらに、前記ジンクリッチプライマーはフェノキシ樹脂を含有するためもともと性質的に粉体塗料との密着性に優れるが、同時焼付することでより強固な密着性を確実なものとすることができる。これは、焼付時、双方の塗料が低粘度化し、塗装膜の界面が複雑化した状態で硬化することにより、物理的な密着性が増大することによるものである。
【0018】即ち本発明による塗装方法は、粉体塗装に下塗りとして溶剤型の防錆塗料を適用する方法を、従来の2回塗り2回焼付方式から連続した2回塗り1回焼付方式とすることで塗装膜間の強固な密着性を実現するとともに工程を簡略化し、塗装時間の短縮、省設備、省スペース、省エネルギーを図ることを可能にするものである。
【0019】
【発明の実施の形態】<高耐食性粉体塗装方法>以下に、本発明の高耐食性粉体塗装方法について、具体的に説明する。
【0020】(A)ジンクリッチプライマーの組成:(a)顔料:顔料として、防錆効果のある亜鉛粉末を用いる。亜鉛粉末は、ジンクリッチプライマーの組成中30〜80重量部含まれることが好ましく、より好ましくは60〜70重量部含有される。亜鉛粉末が組成中に30重量部未満の場合には、防錆性が低下し、一方80重量部を超えると、上塗りの外観が低下する。
【0021】亜鉛粉末の平均粒径は、2μm〜10μmであり、好ましくは5μm〜6μmである。亜鉛粉末の平均粒径が2μm未満の場合には、亜鉛末そのものの取り扱いと経済性で得策でなく一般にはこれらの用途には用いられていない。一方10μmを超えると塗料状態で亜鉛末が沈降しやすいという不都合がある。
【0022】(b)フェノキシ樹脂(エポキシ樹脂系):フェノキシ樹脂は、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンより合成される樹脂であって、例えば化1に示す構造を有する。
【0023】
【化1】


なお、フェノキシ樹脂は亜鉛粉末の分散安定性を確保のため、樹脂骨格中に含まれる、エポキシ基、水酸基の一部を有機酸、アミン、メラミン樹脂等で修飾したものでもよい。
【0024】本発明に用いられるフェノキシ樹脂は、数平均分子量(Mn)が10,000〜30,000、重量平均分子量(Mw)が40,000〜50,000のものが好ましい。
【0025】上記分子量の下限未満の場合には、粘着性が残り、乾燥性が劣るという不都合があり、一方上限を超えると溶剤への溶解性が極端に低下し、塗装しづらいという不都合がある。
【0026】フェノキシ樹脂は、ジンクリッチプライマーの組成中10〜50重量部含まれることが好ましく、より好ましくは20〜30重量部含有される。フェノキシ樹脂が組成中に10重量部未満の場合には、鋼板との密着性が弱く防錆性が低下し、一方50重量部を超えると、フェノキシ樹脂を溶かし込むための溶剤量が増加し、乾燥まで時間がかかるため、粉体塗装までの時間が長くなる。従って、結果として全塗装時間が増加してしまう。
【0027】(c)溶剤:溶剤は、フェノキシ樹脂を溶解する溶剤(親溶剤)を少なくとも全溶剤中の40%含む必要がある。この親溶剤としては、例えばメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤や、1−メトキシ−2−プロパノールや3−メチル−3−メトキシブタノール等のグリコールエーテル系がある。また、親溶剤と組み合わせて使用可能な溶剤(助溶剤)としては、キシレン等の芳香族化合物、ノルマルヘキサン等の高揮発性の脂肪属系炭化水素等を挙げることができる。
【0028】上記溶剤は、ジンクリッチプライマーの組成中10〜20重量部含まれることが好ましい。組成中の溶剤が10重量部未満の場合には、塗料粘度が高くなりすぎ、取り扱いしづらく、一方20重量部を超えると、塗料粘度が低くなりすぎ、亜鉛末が沈降し易いという不都合がある。
(B)ジンクリッチプライマーの塗装方法:上記ジンクリッチプライマーは、揮発性の高い希釈溶剤によって適宜希釈されて使用される。希釈溶剤は、上記溶剤と同様のものを用いることができるので、その記載を省略する。
【0029】本発明に係るジンクリッチプライマーは、加工物全体に塗装してもよいし、防錆を要する部位に部分的に塗装してもよい。塗装方法は、スプレー塗装、刷毛塗り、ディップでもよい。
【0030】ジンクリッチプライマーの乾燥膜厚は、5〜40μmが好ましく、より好ましくは10〜20μmである。乾燥膜厚が5μm未満の場合には、防錆性が低下し、一方乾燥膜厚が40μmを超えると、乾燥するために時間がかかり、粉体塗装までの時間が長くなる。従って、結果として全塗装時間が長時間化してしまう。
【0031】乾燥条件は、常温乾燥1分以上、好ましくは3分〜5分である。また、一般的な強制乾燥(例えば、オーブン、赤外炉による強制乾燥)を行なっても不都合は無いが工程が増えるため望ましくない。
【0032】被塗物は、鉄鋼材料であればよく、例えば熱間圧延鋼板、冷間圧延鋼板、亜鉛メッキ鋼板等を用いることができる。
【0033】(C)粉体塗装:粉体塗料の組成は、例えば一般的なポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂であるが、これに限るものではない。
【0034】粉体塗料の塗装膜厚、および焼付け条件は本ジンクリッチプライマーの適用により制限を受けないので、使用する各種粉体塗料が必要とする所定の条件で塗装および焼付が可能であるが、好ましくは乾燥塗装膜厚として、30〜300μm、焼付条件としては、150℃〜220℃で5分間〜40分間である。
【0035】また、本発明に係るジンクリッチプライマーに防錆性を持たせているので、上塗の粉体塗料に、更なる高耐候性、あるいは抗菌性、耐汚染性の機能を付与することもできる。
【0036】例えば耐候性を更に増すために、紫外線吸収剤を添加してもよく、また抗菌性を付与するために、抗菌剤を添加してもよい。また、耐汚染性を付与するために、フッ素系樹脂等やシリコーン系撥水剤を添加してもよい。
【0037】
【実施例】次に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。
【0038】実施例1〜2及び比較例1〜3及び参考例(1)塗装工程;冷間圧延鋼板又は電気メッキ亜鉛鋼板(いずれも200×50×0.8mm)を用いて試験板を作成した。この試験板にリン酸亜鉛の化成処理を行い水切り乾燥させ、適宜表2に示すようにジンクリッチプライマーを塗布した。なお、配合例品は、下記表1に記載の組成である。ジンクリッチプライマーの乾燥膜厚は、15μmとした。その後室温で3分間乾燥した。
【0039】次いで、ポリエステル樹脂粉体塗料「パウダックスP510(商品名)ホワイト」(日本ペイント社製)を乾燥膜厚60μmになるように静電塗装した。
【0040】その後、炉内温度180℃の電気オーブンで20分間(試験板パス時間)焼き付けた。
【0041】尚、参考例は溶剤型のプライマー「オルガ1000SD(商品名)ホワイトプライマー」(日本ペイント社製)と上塗り「スーパーラックD4TX65(商品名)ホワイト」(日本ペイント社製)を用いて、各々15μm、30μmエアースプレー塗装し、140℃で20分(試験板パス時間)焼き付けした。
【表1】


(2)評価方法;以下の項目により評価した結果を表2に示す。
【0042】(i)仕上がり外観:焼付後の表面を目視で観察した。
【0043】(ii)複合サイクル試験:NTカッターによりクロスカット(×を付ける)を入れ、カット部よりの腐食を評価した。
【0044】5%食塩水を35℃に保ちながら4時間塩水噴射(SST)し、その後室温で2時間乾燥させ、更に耐湿試験器で50℃、100%RHで湿潤2時間を行い、これを1セットとして、100サイクル行った。
【0045】試験後の最大錆幅と最大剥離幅を測定した。
【0046】(iii)暴露試験:沖縄において屋外に試験板を18カ月放置し、暴露したのち、最大膨れ幅を測定した。
【0047】
【表2】


これらの結果から、本実施例の高耐食性粉体塗装方法によれば、従来に比べ、耐食性、耐候性に優れた塗膜を提供できることが判明した。またメッキ鋼板よりも優れた耐食性、耐候性を有する塗膜を提供できることも判明した。
【0048】
【発明の効果】以上のように、本発明の高耐食性粉体塗装方法によれば、ジンクリッチプライマーの塗装の後、焼付け乾燥させることなく粉体塗料を塗り重ね、その後焼付けを行い硬化させることもできる、すなわち、2コート1ベーク方式であれば、塗装工程が簡略化され、塗装時間も短縮化され、省エネルギーとなる。また、塗装ラインも省スペース化を図ることができる。
【0049】また、本発明の方法によって得られるプライマー層はフェノキシ樹脂を使用しているうえ同時焼付けであるため密着性の高いものとなる。
【0050】また、本発明の高耐食性粉体塗装方法におけるジンクリッチプライマーは、揮発性の高い溶剤を希釈溶剤として用いるので、速乾性であり、次工程の粉体塗装までの時間を短縮化させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ビヒクルとしてフェノキシ樹脂を、防錆顔料として亜鉛粉末を含むジンクリッチプライマーを下塗りに用いることを特徴とする高耐食性粉体塗装方法。
【請求項2】 請求項1に記載の塗装方法は、ジンクリッチプライマー塗布後の焼付や長時間の自然放置、または特殊雰囲気による硬化を行わず粉体塗料を上塗りし、ジンクリッチプライマーと粉体塗料を同時に焼き付けることを特徴とする省力型の高耐食性粉体塗装方法。
【請求項3】 請求項1又は請求項2に記載のジンクリッチプライマーは、揮発性を調整した溶剤を希釈溶剤として用いた速乾性のプライマーであることを特徴とする高耐食性粉体塗装方法。

【公開番号】特開2000−218226(P2000−218226A)
【公開日】平成12年8月8日(2000.8.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−22983
【出願日】平成11年1月29日(1999.1.29)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】