説明

高血圧症予防治療薬

【課題】メタボリックシンドロームと呼ばれる生活習慣病のひとつである高血圧症にたいし、優れた血圧降下作用を示す予防治療薬を提供。
【解決手段】ドパミンD3受容体のアンタゴニストとして知られている次式(1)


(式中、R1は水素原子又は低級アルコキシ基を示し、R2は水素原子又は低級アルカノイル基を示し、nは2〜5の数を示す)で表されるビフェニルカルボキサミド化合物を優れた血圧降下作用を示す有効成分とする高血圧症予防治療薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高血圧症予防治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
高血圧症は、肥満、高脂血症及び糖尿病と並んでメタボリックシンドロームと呼ばれる生活習慣病のひとつである。高血圧症自体は自覚症状等のないことが多いが、虚血性心疾患、脳卒中、腎不全などのリスクファクターであることから、血圧を正常範囲に維持することは極めて重要である。
高血圧症の治療は、高血圧症予防治療薬による薬物療法と食事療法が主に行なわれる。高血圧症予防治療薬としては、利尿薬、カルシウム拮抗薬、ACE阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬、β−ブロッカー等が、症状、原因などにより使い分けられている。ところが、これらの薬剤によって十分に血圧がコントロールできない患者もおり、さらに新たな高血圧症予防治療薬の開発が望まれている。
【0003】
一方、4’−アセチル−N−[4−[4−(2−メトキシフェニル)−1−ピペラジニル]ブチル]−[1,1’−ビフェニル]−4−カルボキサミド(GR103691)に代表されるビフェニルカルボキサミド化合物は、ドパミンD3受容体アンタゴニストとして市販されている(非特許文献1及び2)。また、このGR103691は、α受容体、5−HT受容体にも親和性を有することが報告されている(非特許文献2)が、その作用が阻害作用なのか刺激作用なのかは明らかにされていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Eur.J.Pharmacol.1996 Dec.30;318(2−3);283−293
【非特許文献2】J.Phamacol.Exp.Ther.1998 Oct;287(1);187−197
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、新たな高血圧症予防治療薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者らは、動物を用いて種々の化合物の血圧降下作用を検討したところ、全く意外にもドパミンD3受容体のアンタゴニストとして知られているビフェニルカルボキサミド化合物に優れた血圧降下作用があることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、次式(1)
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、R1は水素原子又は低級アルコキシ基を示し、R2は水素原子又は低級アルカノイル基を示し、nは2〜5の数を示す)
で表されるビフェニルカルボキサミド化合物を有効成分とする高血圧症予防治療薬を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
式(1)の化合物は優れた血圧降下作用を示し、新たな高血圧症予防治療薬として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】GR103691の血圧降下作用を示す図である。
【図2】アドレナリンの血圧に対する作用とアドレナリンの変化に及ぼすGR103691の影響を示す図である。
【図3】プラゾシンの血圧及び心拍数に対する作用とアドレナリンの変化に及ぼすプラゾシンの影響を示す図である。
【図4】ラベタロールの血圧及び心拍数に対する作用を示す図である。
【図5】アンジオテンシン(AT) IIの血圧及び心拍数に対する作用とATIIの変化に及ぼすGR103691の影響を示す図である。
【図6】ジルチアゼムの血圧及び心拍数に対する作用とジルチアゼムがATIIの変化に及ぼす影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の高血圧症予防治療薬の有効成分は、式(1)で表されるビフェニルカルボキサミド化合物である。式(1)中、R1で示される低級アルコキシ基としては、炭素数1〜6のアルコキシ基、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロピルオキシ基、ブトキシ基等が挙げられるが、メトキシ基が特に好ましい。
【0013】
式(1)中、R2で示される低級アルカノイル基としては、炭素数2〜6のアルカノイル基、例えばアセチル基、プロピオニル基、ブチリル基等が挙げられるが、アセチル基が特に好ましい。
【0014】
式(1)中、nは2〜5の数を示すが、3〜5、特に4が好ましい。
【0015】
式(1)中、R1がメトキシ基、R2がアセチル基、nが4である化合物がさらに好ましく、特に前記GR103691(4’−アセチル−N−[4−[4−(2−メトキシフェニル)−1−ピペラジニル]ブチル]−[1,1’−ビフェニル]−4−カルボキサミド)が好ましい。
【0016】
式(1)の化合物は、それ自体公知であり、例えばGR103691は、ドパミンD3受容体アンタゴニストとして市販されている。
【0017】
式(1)の化合物は、後記実施例に示すように、優れた血圧降下作用を示した。その血圧降下作用は主にアドレナリンα1受容体遮断によるものと考えられる。
従って、式(1)の化合物は、高血圧症予防治療薬として有用である。
【0018】
本発明の医薬は、式(1)の化合物に賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、被覆剤、乳化剤、懸濁化剤、溶剤、安定化剤、吸収助剤、軟膏基剤等の1以上の薬学的に許容される担体を適宜添加し、常法により経口投与用、注射投与用、直腸内投与用、外用等の剤形に製剤化することによって得られる。
【0019】
経口投与用の製剤としては、顆粒、錠剤、糖衣錠、カプセル剤、丸剤、液剤、乳剤、懸濁剤等が;注射投与用の製剤としては、静脈内注射、筋肉内注射、皮下注射、点滴注射用の製剤などが;直腸内投与用の製剤としては、坐薬軟カプセル等が好ましい。
本発明の医薬は上記の如き製剤として、ヒトを含む哺乳動物に投与することができる。
本発明の医薬は、式(1)の化合物として、1日当り約1〜500mg/kgを1〜4回投与するのが好ましい。
【実施例】
【0020】
次に実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0021】
実施例1
(方法)
使用動物:10〜11週齢のWistar/ST雄性ラット
観血式血圧測定:麻酔下ラットの動脈に挿入したカニューレから直接動脈圧と心拍数を連続的に導出する観血式血圧測定法で行った。ウレタン600mg/kgとクロラロース60mg/kgを腹腔内注射し、十分麻酔がかかったことを確認したあと、ラットの腸骨動脈及び腸骨静脈を露出させ、それぞれ半切開しカニューレを挿入した。動脈カニューレは圧力センサーを介して血圧測定装置に接続し、血圧(mmHg)及び心拍数(回/分)をレコーダーに記録した。
薬物投与:すべての薬物は、投与量が体重1kgあたり1mLとなるように調製した。GR103691は5%酢酸で溶解させ、1mol/L NaOHでpHを約5に調節後、投与量が3mg/kgになるように注射用水で希釈した。アドレナリン(Ad)、アンギオテンシンII(AT II)、ジルチアゼム、プラゾシン、ラベタロールは注射用水で溶解し下記の投与量に調製した。薬物は静脈カニューレから投与し、その後ヘパリン(2unit/mL)を加えた生理食塩水0.2mLでカニューレ内の薬液を完全に押し出した。
【0022】
(結果)
(1)GR103691(3mg/kg)は、単独で血圧及び心拍数を低下させた(図1)。
(2)アドレナリンα及びβ刺激作用を持つアドレナリン(Ad)(1μg/kg)投与により、血圧は、著しく上昇した後、投与前より低下し、投与前に戻った(図2(A))。これによりα及びβ刺激作用が見られることが確認されたので、同一のラットで、投与前の状態に戻ってしばらくおいた後、GR103691(3mg/kg)を投与したところ動脈圧及び心拍数は低下し、4分後にアドレナリン(Ad)(1μg/kg)を投与してもアドレナリン(Ad)単独で認められた血圧の変化は認められず、さらに4分後にアドレナリン(Ad)(10μg/kg)を投与しても血圧の変化は認められなかった(図2(B))。
(3)α遮断薬のプラゾシン(1mg/kg)を投与すると、血圧は低下したが心拍数は影響を受けなかった(図3)。また、プラゾシン投与後にアドレナリン(Ad)を投与するとAdによる血圧上昇は、GR103691の場合と同様にほぼ完全に抑制されたが、心拍数は上昇が認められた(図3(B))。
(4)α、β遮断薬のラベタロール(3mg/kg)を投与すると血圧及び心拍数がともに低下し、GR103691単独の作用に類似した結果となった(図4)。
(5)アンジオテンシン(AT) IIは、1及び10μg/kgの投与で用量依存的に血圧を上昇させ、心拍数をわずかに減少させた(図5(A))。GR103691(3mg/kg)は、AT IIによる血圧上昇に顕著な影響を及ぼさなかった(図5(B))。
(6)カルシウム拮抗薬であるジルチアゼム(1mg/kg)は、血圧、心拍数をともに低下させたが、血圧がGR103691と同程度低下したのに対し、心拍数低下の程度はGR103691に比較しかなり低かった(図6)。一方、ジルチアゼム投与後にAT IIを投与したところ、GR103691の場合とは異なり、血圧上昇を抑制した(図6)。
【0023】
以上より、GR103691は血圧を低下させること、及び、血圧低下作用はアドレナリンα1受容体遮断によるものであることが明らかとなった。また、GR103691は、β遮断作用を併せ持つことが示唆された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式(1)
【化1】

(式中、R1は水素原子又は低級アルコキシ基を示し、R2は水素原子又は低級アルカノイル基を示し、nは2〜5の数を示す)
で表されるビフェニルカルボキサミド化合物を有効成分とする高血圧症予防治療薬。
【請求項2】
1が低級アルコキシ基であり、R2が低級アルカノイル基であり、nが4である請求項1記載の高血圧症予防治療薬。
【請求項3】
1がメトキシ基であり、R2がアセチル基であり、nが4である請求項1記載の高血圧症予防治療薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−184889(P2010−184889A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−29497(P2009−29497)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】