説明

高負荷伝動ベルトのピッチノイズ評価方法

【課題】測定は比較的容易に行うことができ、また測定条件を一定に保つことが可能であり、ベルトのピッチノイズ発生の比較を、より簡単で正確に行うことができる評価方法を提供する。
【解決手段】センターベルト3にブロック2を所定ピッチで装着した高負荷伝動ベルト1のピッチノイズ評価方法において、プーリPに巻きかけたベルトに加速度計を取り付けた状態でベルトを回転させ、ブロック2がプーリPから抜け出る際のベルト振動を計測し、その振動の大小にてピッチノイズの大小を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センターベルトの長手方向に沿って所定ピッチでブロックを固定した高負荷伝動ベルトにおけるベルトのピッチノイズを評価する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ベルト式無段変速装置に使用するベルトは、プーリのV溝幅を変化させることによってベルトがプーリに巻きかかる有効径を変えて変速比を調節するものである。ベルトはプーリに巻きかかって高いトルクがかかった状態でプーリの溝内をベルトが上下動するのでベルトの側面には大きな側圧がかかり、それを支えることができるものでなければならない。また、無段変速用途以外の用途であっても通常のゴムベルトでは寿命が短くなりすぎるような場合には、特別に高負荷に耐えるようなベルトを用いる必要がある。
【0003】
そのようなベルトとして使用されるものとして、例えば特許文献1にはセンターベルトにブロックを固定してベルト幅方向の強度を高めた引張伝動式の高負荷伝動ベルトがあり、具体的な構成としては、心線をゴムなどのエラストマー中に埋設したセンターベルトにボルトやリベットなどの止着材を用いてセンターベルトに固定したものが開示されている。また、特許文献2には、ブロックの嵌合溝にセンターベルトを差し込むことによって組み立て固定したベルトなどがある。
【0004】
【特許文献1】特開昭61−70247号公報
【特許文献2】特開昭62−151646号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなセンターベルトに所定ピッチでブロックを装着したベルトの問題点として、騒音の問題が挙げられる。ブロックが装着されていないゴムと心線、帆布といった繊維材料のみからなるVベルトの場合、プーリと接触するベルト側面が連続した面であるのに対して、このようなセンターベルトにブロックを装着したベルトではベルトの側面が1つのブロック単位で途切れた不連続面となってしまう。
【0006】
このようなブロックを装着したVベルトがプーリに巻きかけられて走行する時に、プーリとの接触が途切れ途切れとなる。ブロックがプーリに巻きかかった状態から更に進行してプーリから抜け出そうとする際に、ブロックがプーリに挟まれてプーリとともに回ろうとする力に対してセンターベルトがプーリからブロックを引き抜こうとする力が勝ったときにブロックはプーリから抜け出す。よって、ブロックがプーリに挟まれた状態で少しベルトの進行方向から外れて連れ回りした後に、センターベルトによって引き抜かれるといった動きを呈する。
【0007】
そして、ブロックがプーリから引き抜かれる際に発生するピッチノイズがこのタイプのベルトの発音の中で最も大きなものと考えられ、このベルトを設計するに際してブロックの形状を変更したり素材や樹脂配合を検討したりした結果、得られたベルトの良し悪しを判定する際にピッチノイズの大きさの測定が重要な判断基準のひとつとなっている。
【0008】
ところが走行中に発生するピッチノイズの測定は、ベルトをプーリに巻きかけて通常通りに走行させなければならず、簡単に測定することができなかった。また、測定方法は騒音計による計測や聴感で大小を判定していたために、走行中の音計測では、走行条件、測定位置や周囲の音など測定毎に同一の評価条件を設定することが困難で、複数のベルト同士の比較が難しいという問題があった。
【0009】
そこで本発明は、ベルトが発生するピッチノイズの大小をより簡単に、一定の条件で測定することができ、ベルトの良し悪しの判定を助けることができる高負荷伝動ベルトのピッチノイズ評価方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記のような目的を達成するために本発明の請求項1では、心線をエラストマー中に埋設してなるセンターベルトと、該センターベルトの長手方向に沿ってブロックを所定ピッチで取り付けてなる高負荷伝動ベルトのピッチノイズ評価方法において、プーリに巻きかけたベルトに加速度計を取り付けた状態でベルトを回転させ、ブロックがプーリから抜け出る際のベルトの振動を計測し、その振動の大小にてピッチノイズの大小を評価することを特徴とする高負荷伝動ベルトのピッチノイズの評価方法としている。
【発明の効果】
【0011】
請求項1のようにベルトを回転させてブロックがプーリから抜け出る際のベルト振動を測定することによってピッチノイズの大小を評価するという方法を採っており、測定は比較的容易に行うことができ、また測定条件を一定に保つことが可能であり、例えばブロックの形状を変えたり樹脂組成を変えたりしたものの性能比較が、より正確に行うことができる。
【0012】
請求項2においては、ベルト振動を測定する際のプーリの回転数を5〜30rpmの範囲としており、通常のベルトの走行時における回転数などと比べると極めて低回転であり、ごく簡単に振動の測定を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付図面に従って本発明の詳細を説明する。図1は、プーリPにベルト1を巻きかけ振動を測定しているところの概要図であり、センターベルト3に所定ピッチでブロック2を装着した高負荷伝動ベルト1をプーリPに巻きかけた状態で、プーリPを回転させることによって、ブロック2がプーリP中に入って巻きかかり、プーリP中を通過してプーリPから抜け出す。
【0014】
本発明での高負荷伝動ベルト1のピッチノイズの評価方法の手順としては次の通りである。例えば、ある特定の樹脂組成で構成されたブロック2を用いた高負荷伝動ベルト1に装着されているブロック2の一つの背面に加速度計20を取り付けておき、プーリPを回転させる。加速度計40を取り付けたブロック2がプーリから抜け出した直後に発生したブロック2の振動を加速度計40によって拾う。加速度計40は表示記録装置41に接続されており、加速度計40で捕らえたブロック2の振動を電気信号に変換して、前記表示記録装置21に送り込み、ブロック2がプーリPから抜け出す際の振動の大きさを測定記録する。
【0015】
次に別の樹脂組成で構成されたブロック2を用いた高負荷伝動ベルト1を用いて、前記の手順と同様にしてブロック2がプーリPから抜け出す際の振動の大きさを測定記録する。
【0016】
このようにして2種類の樹脂組成からなるブロック2を用いた高負荷伝動ベルト1のブロック2がプーリPから抜け出す際の振動の大きさを比較する。振動が大きいほどそのときに発生するピッチノイズも大きくなると推定されるので、2種類の樹脂組成のうちどちらを採用するとピッチノイズを低下させることができるかを判定することができる。
【0017】
振動の大きさを測定する際のプーリの回転数は5〜30rpmで行うことが好ましい。5rpm未満の回転数で測定すると、発生する振動が小さくなって、誤差が大きくなることと振動の大きさの比較がしにくくなることから好ましくない。また、30rpmを超えるような回転数としても数値の誤差や比較のしやすさはあまり変わらないが、回転数が速くなるので測定のための装置や操作が大掛かりになってしまう問題がある。
【0018】
本発明のピッチノイズの評価を行う高負荷伝動ベルトとしては次のようなものが挙げられる。
【0019】
図2は本発明で組み立てる高負荷伝動ベルトの一例を示す斜視図であり、図3は側面図である。本発明の高負荷伝動ベルト1は、エラストマー4内に心線5をスパイラル状に埋設してなる同じ幅の二本のセンターベルト3、3と、このセンターベルト3、3に係止固定されている複数のブロック2とから構成されている。このブロック2の両側面2a、2bは、プーリのV溝と係合する傾斜のついた面となっており、駆動されたプーリから動力を受け取って、係止固定されているセンターベルト3、3を引張り、駆動側プーリの動力を従動側プーリに伝動している。
【0020】
ブロック2は、図2、図3に示すように、上ビーム11および下ビーム12と、上下ビーム11、12の中央部同士を連結したピラー13からなっており、ブロック2の両側面2a、2bには一対のセンターベルト3a、3bを嵌めこむ溝14、15が形成されている。また、溝15内の溝上面16および溝下面17にはセンターベルト3a、3bの上面に設けた凹条部18と下面に設けた凹条部19に係合する凸条部20、21に係合するようになっている。
【0021】
図4は、別のベルトの例であり、ビーム部31の両端から上方に向かって一対のサイドピラー32、33が延びており、このサイドピラー32、33の上端からそれぞれブロック2の中心に向かって延びるロック部34、35が対向するように設けられている。そして、これらビーム部31、サイドピラー32、33及びロック部34、35によって張力帯3a、3bが嵌合する嵌合溝30が形成されている。この嵌合溝30に、張力帯3a、3bが、ロック部34、35間の開口部より挿入され装着される。また、ロック部34、35の嵌合溝30側には、凸部37がそれぞれ設けられており、この凸部37が、張力帯3a、3bに所定ピッチで設けられている凹部36に嵌合する。これによって、張力帯3a、3bは、装着後はブロック2から抜けにくい状態となる。
【0022】
ブロック2として用いられる素材として、熱可塑性樹脂に少なくとも繊維補強材を配合した樹脂組成物からなり、樹脂組成物の全量に対して熱可塑性樹脂は40〜90質量%、繊維補強材は10〜60質量%の割合で配合してなる。
【0023】
熱可塑性樹脂としては、ナイロン系で例えば4,6−ナイロン、6−ナイロン、6,6−ナイロン、9,T−ナイロンや、液晶ポリマー、ポリアリレート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルフォン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミド等を挙げることができる。これらの中でもTgが100℃以上もしくはJIS K7191に準拠した荷重1.82MPaでの熱変形温度が120℃以上のものを使用することが好ましい。これらの樹脂は熱可塑性樹脂の中でも曲げ剛性及び耐疲労強度に優れ、繊維補強材を添加することでその特性が一層向上するものである。また、射出成形が可能になることから、ブロックの成形を行うのがより簡単であるというメリットもある。特に、摩耗面が100℃付近まで発熱した時にも樹脂は剛性が維持されるため、ブロックの摩耗が少なくなる。
【0024】
9,T−ナイロンは、芳香環と長鎖ジアミンを有するポリアミド樹脂で、ノナンジアミンとテレフタル酸の重縮合により製造され、芳香環と高級脂肪族鎖を有していることから、耐熱性、低吸水性を有している。また、ホモポリマーで結晶化度が高いため、結晶化度の低いポリアミドと比較すると4,6−ナイロンと同様に耐摩耗性、耐衝撃性、耐疲労性に優れている。従って、本材料を使用することにより、耐摩耗性、耐衝撃性、耐疲労性、熱時の曲げ剛性などの物性に優れているとともに吸水性の問題も少ないブロックを得ることができる。9,T−ナイロンの商品の例としては株式会社クラレの「ジェネスタ」を挙げることができる。
【0025】
また、その他の樹脂の具体例として、以下のものが挙げられる。6,6−ナイロン:旭化成ケミカルズ株式会社「レオナ」、6−ナイロン:宇部興産株式会社「UBEナイロン」、液晶ポリマー:新日本石油化学株式会社「ザイダー」、ポリアリレート:ユニチカ株式会社「U−ポリマー」、ポリフェニレンサルファイド:出光興産株式会社「出光PPS」、大日本インキ化学工業株式会社「DIC・PPS」、ポリフェニレンエーテル:旭化成ケミカルズ株式会社「ザイロン」、日本GEプラスチック株式会社「ノリル」、ポリエーテルサルフォン:住友化学株式会社「スミカエクセル」、ポリエーテルエーテルケトン:ビクトレックス・エムシー株式会社「PEEK 450G」、ポリエーテルイミド:日本GEプラスチック株式会社「ウルテム」、ポリアミドイミド:ソルベイアドバンストポリマーズ株式会社「トーロン」、三菱ガス化学株式会社「AIポリマー」、ポリイミド:三井化学株式会社「オーラム」。
【0026】
繊維補強材を配合することでブロックの剛性や耐摩耗性を向上させることができるが、本発明で用いられる繊維補強材としては、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、ポリエステル繊維等からなる短繊維を挙げることができる。ブロックの剛性をより高めるとともに耐摩耗性を向上させるという面から前記の繊維の中では炭素繊維を用いることが最も好ましく、更に好ましくはPAN系炭素繊維を用いることである。
【0027】
PAN系炭素繊維はそもそも弾性率が高くて補強効果の高い繊維であるが、そのなかでも特に弾性率が280〜700GPaと高いものを用いることによって、本発明のような高負荷伝動ベルトのブロックとして用いる場合にも十分に耐えうる素材を提供することができる。弾性率が280GPa未満であるとブロックの耐側圧性はある程度得られるものの耐摩耗性に関しては不足気味になり、700GPaを超えると弾性率の高いものにしても耐側圧性や耐摩耗性の向上はあまり見られずコスト的に高いものとなるので好ましくない。
【0028】
繊維補強材の長さは通常0.1〜10mm程度のものを用いる。繊維補強材の配合量は10〜60質量%としており、10質量%未満であると十分な補強効果を得ることができず、60質量%を超えるとブロックの射出成形が困難になるので好ましくない。
【0029】
また、熱可塑性樹脂と繊維補強材に加えて摩擦低減材を配合してもよく、摩擦低減材としては炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、超高分子量ポリエチレン、フッ素樹脂、チタン酸カリウム、グラファイト、ホウ酸アルミニウム、アルミナ、鉄粉、酸化亜鉛、二硫化モリブデン、マイカ、タルク(含水ケイ酸マグネシウム)、パイロフィライト(ろう石クレー)等を挙げることができる。
【0030】
センターベルト3a、3bのエラストマー4として使用されるものは、クロロプレンゴム、天然ゴム、ニトリルゴム、スチレン−ブタジエンゴム、水素化ニトリルゴムなどの単一材又はこれらを適宜ブレンドしたゴムあるいはポリウレタンゴム等が挙げられる。そして、心線5としてはポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、スチールワイヤ等から選ばれたロープが用いられる。また、心線5はロープをスパイラル状に埋設したもの以外にも、上記の繊維からなる織布、編布や金属薄板等を使用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
ベルトに装着したブロックの複数方向の撓みを抑えて割れを防止することができ、自動車や自動二輪車、農業機械の無段変速装置など、プーリの有効径が変化し大きなトルクを伝達するようなベルトに用いるピッチノイズ評価方法として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】プーリにベルトを巻きかけ振動を測定しているところの概要図
【図2】高負荷伝動ベルトの一例を示す斜視概略図である。
【図3】図2に示す高負荷伝動ベルトの側面図である。
【図4】高負荷伝動ベルトの別の例を示す斜視概略図である。
【符号の説明】
【0033】
1 高負荷伝動ベルト
2 ブロック
3 センターベルト
4 エラストマー
5 心体
6 上面
7 下面
11 上ビーム部
12 下ビーム部
13 センターピラー
14 嵌合溝
15 嵌合溝
18 凹条部
19 凹条部
20 凸条部
21 凸条部
40 加速度計
41 表示記録装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心線をエラストマー中に埋設してなるセンターベルトと、該センターベルトの長手方向に沿ってブロックを所定ピッチで取り付けてなる高負荷伝動ベルトのピッチノイズ評価方法において、プーリに巻きかけたベルトに加速度計を取り付けた状態でベルトを回転させ、ブロックがプーリから抜け出る際のベルト振動を計測し、その振動の大小にてピッチノイズの大小を評価することを特徴とする高負荷伝動ベルトのピッチノイズの評価方法。
【請求項2】
プーリの回転数は5〜30rpmである請求項1記載の高負荷伝動ベルトのピッチノイズ評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−85755(P2009−85755A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−255361(P2007−255361)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】