説明

高負荷伝動ベルト

【課題】ベルト走行時にブロックとの間で摩擦が生じたとしてもセンターベルトの摩耗を防止してベルトの切断といった故障を低減することができ、また、発熱を少なくすることもでき、ブロックを構成する樹脂材料の劣化の防止も可能な高負荷伝動ベルトを提供する。
【解決手段】エラストマー4中に心線5をスパイラル状に埋設したセンターベルト3と、該センターベルト3の長手方向に沿って複数のブロック2を設けた高負荷伝動ベルト1において、センターベルト3のブロック2と当接する面に繊維強化樹脂からなる保護材10を配置しブロック2との摩擦からセンターベルト3を保護してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センターベルトの長手方向に沿って多数のブロックを固定した高負荷伝動ベルトに係り、詳しくはセンターベルトとブロックとの摩擦によって発生する摩耗を低減しセンターベルトの切断といった原因によるベルトの故障を防止した長寿命な高負荷伝動ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
ベルト式無段変速装置に使用するベルトは、プーリのV溝幅を変えることによってプーリに巻きかかる有効径を変化させ変速比を調節する様な変速プーリに巻き掛けて使用するものであり、プーリからの側圧が大きくなるのでベルトは大きな側圧に耐えるものでなくてはならない。また、無段変速の用途以外にも通常のゴムベルトでは寿命が短くなりすぎるような高負荷伝動の用途には特別に高負荷に耐えうるようなベルトを用いる必要がある。
【0003】
そのようなベルトとして使用されるものの中に、センターベルトにブロックを固定してベルト幅方向の強度を高めた高負荷伝動ベルトがあり、具体的な構成としては、心体をゴムなどのエラストマー中に埋設したセンターベルトにボルトやリベットなどの止着材を用いてセンターベルトに使用しているエラストマーよりも比較的硬質のエラストマーからなるブロックを止着固定したものや、特許文献1に示すようにブロックの両側面に溝を有しており、一対のセンターベルトを前記側面に設けた溝に嵌合したようなベルトがある。
【0004】
このような引張伝動式の高負荷伝動ベルトはベルトの走行中にブロックがセンターベルトに対する揺動や、幅方向の動きによって、ブロックとセンターベルトとの間で常に摩擦が発生しており、ブロックやセンターベルトが摩耗するという問題があった。両者の摩耗によりブロックとセンターベルトの間の嵌合が緩むことで、更に動きが大きくなって摩擦も大きくなり摩耗が進むことになる。最終的にはセンターベルト表面に配置したカバー帆布が摩耗摩滅してしまい、ゴムの層にクラックが生じて心線とゴムとの剥離が生じたり、心線にまで摩耗が到達したりすることでセンターベルトが切断するなどベルトの寿命を迎えることになる。
【0005】
センターベルトの摩耗を低減してベルトを長寿命化するために、特許文献1にはセンターベルトの表面に耐摩耗性に優れた水素化ニトリルゴム等からなるゴム層を形成することで、センターベルト表面の摩耗を防止する工夫がなされている。
【0006】
特許文献5にはセンターベルトに積層した帆布の表面に更にフッ素樹脂繊維を積層配置することによって、表面の摩擦係数を低下させてセンターベルトの摩耗を防止する技術が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開2003−156103号公報
【特許文献2】特開2006−177549号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記特許文献1や特許文献2のような耐摩耗性に優れたゴム層を配置する構成を採ることで、摩耗を低減する効果はあるものの、効果の程度としてはまだまだ十分ではなく、例えば排気量の大きいエンジンでの駆動用途で高トルクを伝達する用途として適用するには耐久性が不足しており、更なる改良が必用とされているところである。
【0009】
そこで本発明ではベルト走行時においてブロックとセンターベルトとの間の動きが発生したとしても、センターベルトの摩耗を低減することができ、センターベルトの切断によるベルトの早期に寿命に到達するのを防止できる高負荷伝動ベルトの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記のような課題を解決するために本発明の請求項1は、センターベルトと、該センターベルトの長手方向に沿って複数のブロックを設けた高負荷伝動ベルトにおいて、センターベルトはエラストマー中に心体を埋設すると共に少なくともブロックと接触する部位の表面に繊維に熱硬化性樹脂を含浸して成形した繊維強化樹脂からなる保護材を配置してなることを特徴とする。
【0011】
請求項2では、保護材として使用する繊維強化樹脂を構成する繊維が炭素繊維である請求項1記載の高負荷伝動ベルトとしている。
【0012】
請求項3では、保護材として使用する繊維強化樹脂を構成する樹脂が熱硬化性樹脂である請求項1〜2のいずれかに記載の高負荷伝動ベルトとしている。
【0013】
請求項4では、保護材として使用する繊維強化樹脂を構成する熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である請求項3記載の高負荷伝動ベルトとしている。
【0014】
請求項5では、保護材を構成する繊維がベルト長手方向に配向されてなる請求項1〜34いずれかに記載の高負荷伝動ベルトとしている。
【0015】
請求項6では、保護材は、カバー帆布の上に保護材をせきそうしたものである請求項1〜5のいずれかに記載の高負荷伝動ベルトとしている。
【発明の効果】
【0016】
センターベルトの表面に保護材を配置することによってベルト走行時にブロックとの間で互いにこすれあう状態が発生したとしても、ブロックとセンターベルトの間の摩擦を極力抑えることができる。よってブロックの摩耗を低減すると共にセンターベルトの摩耗を極力抑えることができるので、長時間走行させてもブロックとセンターベルトとの嵌合が緩むこともなく長期間走行しても両者の間のガタツキの発生も少なく、センターベルトの摩耗によりベルトが切断に至ってしまうという問題を防止することができる。
【0017】
請求項2では保護材に用いる繊維を炭素繊維としていることから、保護材の強度や対摩耗をあげることができ、ベルトの走行に伴ってブロックとの間で摩擦が発生したとしても、保護材は長期にわたってセンターベルトを保護し、高負荷伝動ベルトの寿命を大幅に延長することができる。
【0018】
請求項3および4では、保護材に用いる樹脂を熱硬化性樹脂とし、更には熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂としていることから、やはり保護材の強度や耐摩耗性を高いものとすることができるので、センターベルトの摩耗を防止し、高負荷伝動ベルトの寿命を大幅に延長することができる。
【0019】
請求項5では、保護材に用いる繊維をベルト長手方向に配向しており、ブロックのセンターベルトとの接触する面がベルト幅方向に延びる面であり、センターベルトに対するブロックの動きは幅方向の動きと前後方向の揺動となることから、センターベルトの幅方向に平行な摩擦を生じて同方向の亀裂を生じやすく、保護材を構成する繊維をその直角方向であるベルト長手方向に配向することで、より摩耗を低減させることができる。
【0020】
請求項6では、センターベルトはカバー帆布を有しており、該カバー帆布の上に繊維強化樹脂を積層した保護材を用いた構成としているので、センターベルトはカバー帆布での補強に加えて繊維強化樹脂にて保護することができ、センターベルトの切断といった問題をより低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1は、本発明に係る高負荷伝動ベルト1の一例を示す斜視概略図であり、図2はその側断面図である。本発明の高負荷伝動ベルト1は、エラストマー4内にロープ状の心体5をスパイラル状に埋設してなる同じ幅の二本のセンターベルト3と、このセンターベルト3に所定ピッチで取り付けられた複数のブロック2とから構成されている。ブロックの側面6、7に嵌合溝8、9を有しており、該嵌合溝にセンターベルト3が装着されている。このブロック2の両側面6、7は、プーリのV溝と接触する傾斜面となっており、駆動されたプーリから動力を受け取って、係止固定されているセンターベルト3を引張り、駆動側プーリの動力を従動側プーリに伝達する。またセンターベルト3の表面には本発明の特徴である保護材10がセンターベルト3と一体的に積層配置されている。
【0022】
ブロック2は、図1に示すように、上ビーム部11および下ビーム部12と、上下ビーム部11、12の中央部同士を連結したセンターピラー13からなっており、ブロック2の両側面には前述のようにセンターベルト3の嵌合溝8、9が形成されており、嵌合溝8、9内の溝上面および溝下面にはセンターベルト3の上面に設けた凹条部15と下面に設けた凹条部16に係合する凸条部17、18が設けられている。
【0023】
図3は、別のベルトの例であり、ビーム部21の両端から上方に向かって一対のサイドピラー22、23が延びており、このサイドピラー22、23の上端からそれぞれブロック2の中心に向かって延びるロック部24、25が対向するように設けられている。そして、これらビーム部21、サイドピラー22、23及びロック部24、25によってセンターベルト3が嵌合する嵌合溝20が形成されている。この嵌合溝20に、センターベルト3が、ロック部24、25間の開口部より挿入され装着される。また、ロック部24、25の嵌合溝20側には、凸部27がそれぞれ設けられており、この凸部27が、センターベルト3に所定ピッチで設けられている凹条部26に嵌合する。これによって、センターベルト3は、装着後はブロック2から抜けにくい状態となる。そして、センターベルト3の表面には保護材10がセンターベルト3と一体的に積層配置されている。
【0024】
センターベルト3のエラストマー4として使用されるものは、クロロプレンゴム、天然ゴム、ニトリルゴム、スチレン−ブタジエンゴム、水素化ニトリルゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレンなどの単一材またはこれらを適宜ブレンドしたゴムあるいはポリウレタンゴム等が挙げられる。そして、心体5としてはポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、スチールワイヤ等から選ばれたロープが用いられる。また、心体5はロープをスパイラル状に埋設したもの以外にも、上記の繊維の織布、編布や金属薄板等を使用することもできる。
【0025】
図2に示すように、センターベルト3は上下両面に保護材10が配置されており、ベルト走行時に発生するセンターベルトとブロックとの摩擦からセンターベルトを保護するようになっている。このような構成を採ることによって、センターベルト3の摩耗が防止されるのでベルトの切断による故障を低減することができる。
【0026】
本発明における保護材10は、繊維に熱硬化性樹脂を含浸して成形した繊維強化樹脂(FRP)であり、このような保護材10をセンターベルト3の表面に積層配置することで、ブロック2との間の摩擦によりセンターベルト2表面が摩耗して、亀裂を生じ、最後には切断にいたってしまうといったベルトの故障を抑制することができるので、より長寿命なベルトとすることができる。
【0027】
保護材10に用いることができる繊維としては、炭素繊維を挙げることができ、また保護材10の繊維に含浸する熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂を挙げることができる。
【0028】
また、保護材10は図4に示すようにカバー帆布10aの上に繊維強化樹脂10bを積層した構成にすることも可能であり、そうすることによってカバー帆布10aと繊維強化樹脂10bとでセンターベルトをより強固に保護することができる。両者の積層一体化は、例えば次のような方法で行うことができる。繊維に半硬化の熱硬化性樹脂を含浸させたプリプレグを用意して、それをカバー帆布10aに重ね合わせ、加熱・加圧することによって半硬化状態の熱硬化性樹脂をカバー帆布10a側に滲ませると共に硬化させて両者を一体化し、その後冷却することで積層一体化する。
【0029】
カバー帆布10aとして用いられるのは、平織物、綾織物、朱子織物などを挙げることができ、全てがアラミド繊維である必要はなく例えばベルト長手方向の緯糸にアラミド繊維を用いる形態が挙げられる。アラミド繊維としてはパラ系アラミド繊維でもメタ系アラミド繊維でもいずれでもよいが、0.3〜1.2デニールの原糸を収束したマルチフィラメント糸を用いることが好ましい。また、アラミド繊維以外にポリアミド繊維やウレタン弾性糸を混撚りした糸も用いることができるが、アラミド繊維の占める割合が緯糸の全重量の20〜80%であることが好ましい。原糸の太さが0.3デニール未満であるとベルト長手方向のカバー帆布10aの引張強さが低下し、耐摩耗性にも劣ることになるので好ましくない。逆に1.2デニールを超えるような太さであると製織後にカバー帆布10aとしての剛性が高くなりすぎて経糸と緯糸とのバランスが取れなくなったり帆布にしわを発生させたりする原因となるので好ましくない。
【0030】
パラ系アラミド繊維としては、例えば商品名をケブラー、テクノーラ、トワロンを挙げることができ、メタ系アラミド繊維としたは、商品名でノーメックス、コーネックスを挙げることができる。
【0031】
また、ベルト幅方向の経糸についても緯糸と同様にパラ系アラミド繊維やメタ系アラミド繊維などのアラミド繊維からなるフィラメント糸としてもよく、その他6ナイロン、6,6−ナイロン、12ナイロン等のポリアミド繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維などのフィラメント糸を用いることができる。
【0032】
このような構成のカバー帆布10aをセンターベルトの表面に積層接着するために接着処理がなされる。接着処理としては例えばRFL液、イソシアネート溶液あるいはエポキシ溶液による処理が挙げられる。RFL液はレゾルシンとホルマリンとの初期縮合物をラテックスに混合したものであり、ここで使用するラテックスとしてはスチレン・ブタジエン・ピリジン三元共重合体、水素化ニトリルゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、エピクロルヒドリンなどのラテックスである。また、ゴムを溶剤に溶かしてゴム糊状にしたものをカバー帆布10aの表面に付着させる糊引き処理、ソーキング処理、コーチング処理も接着処理として挙げることができる。
【0033】
図5において高負荷伝動ベルト1はエラストマー4内に心線5をスパイラル状に埋設したセンターベルト3と、このセンターベルト3の上下面に所定ピッチで形成された凹条部15、16に嵌合し、係止固定されている複数のブロック2とから構成されている。このブロック2の両側面6、7は、プーリのV溝と係合する傾斜のついた面となっており、駆動されたプーリから動力を受け取って、係止固定されているセンターベルト3を引張り、駆動側プーリの動力を従動側プーリに伝動している。また、センターベルト3の表面には図示しないが保護材10がセンターベルトに一体的に積層配置されておりブロック2との間の摩擦によりセンターベルト3が摩耗しないように保護している。
【0034】
ブロック2は、図5に示すように、上ビーム部11および下ビーム部12と、両側部14、14が一体的にセンターベルト3の周囲に形成されている。ブロック2の中央にはセンターベルト3を嵌めこむ開口部19を有し、開口部15内の上面および下面にはセンターベルト3の上面に設けた凹条部15と下面に設けた凹条部16に係合する凸条部が形成されている。
【0035】
金型にセンターベルトをセットした状態で樹脂を射出しセンターベルトの周囲にブロックを形成する図5に示すような高負荷伝動ベルトの製造するにあたり、図6および図7に示すように一対の金型30、31を用い、その金型30、31にはセンターベルト保持部32を有するとともに、一対の金型30、31が合さった状態でブロック2を成形するためのキャビティ33を形成するようになっており、センターベルト3を前記センターベルト保持部32にセットした状態で金型30、31内のキャビティ33にゲート34から樹脂を射出する。センターベルト3には上下面のブロック2と嵌合する凹条部41、42の間に金型のセンターベルト保持部32と嵌合する凹部43、44を有しており、ブロック2を射出成形で成形する際にセンターベルト3の位置決めを行うようになっている。
【0036】
キャビティ33はセンターベルト保持部32にセンターベルト3を嵌め込んだ状態でセンターベルト3を取り囲むように配置されており、キャビティ33でブロック2を成形するとセンターベルト3にブロック2が凹条部41、42で嵌合された状態で成形されるようになっている。
【0037】
以上のような工程を経て、ブロック2を成形すると同時にセンターベルト3にブロック2を取り付けることができる。
【0038】
図7に示す例では、金型30、31に設けられたキャビティ33は5箇所であり、一度に成形できるブロックの数は5個である。よって5個のブロックを成形した後に金型から一度ベルトを取り外してブロック5個分を図4中の矢印方向に回転させて次の位置にブロック2を成形できるようにして再度金型30、31に装着し、次の位置に5個のブロック2を成形する。このような操作を繰り返してベルト全周のブロック2全部を成形してベルトが完成する。ブロック2の全数と同じ数のキャビティを有する金型を用いて一度に全部を成形しても構わない。
【0039】
この射出成形によってセンターベルトの周囲にブロックを成形する方法で製造される高負荷伝動ベルトは図5で示した例に限られることはなく、様々な形態を採ることができる。図8に示すベルトは図5に示すベルトとほぼ同じ形状を有しているが、センターベルト3の幅方向の中央にブロックを取り付けるのと同じピッチで貫通孔51を有しており、ブロック2が成形される際にその貫通孔51を通して樹脂が連結52されている。
【0040】
このようにセンターベルト3に設けた貫通孔51を通して上下でブロックを形成する樹脂が連結52されていることによって、ブロック2とセンターベルト3との固定力がより強固なものになる。ベルト1が長期にわたって走行を続けるとブロック2とセンターベルト3とのがたつきが発生し、それが原因でベルト1の騒音が大きくなったり、ブロック2の破損やセンターベルト3が切断したりといった故障につながることがあるが、ブロック2とセンターベルト3の固定力を高めることによってベルト1の寿命を長期化することができるものである。
【0041】
図8の例では一つのブロック2につきセンターベルト3に設けている貫通孔51の数は一つであるが、一つであることに限定されるものでなく、二つや三つといった複数の孔を設けることも可能である。
【0042】
ブロック2は金属などからなるインサート材に樹脂材を被覆したものでも、そうでない樹脂材のみからなっているものでもどちらでもよい。アルミニウム合金など金属などからなるインサート材を用いていないブロック2を用いた場合、インサート材を埋設したブロックを用いたベルトよりも、軽量化が可能なので高回転で使用してもベルトに発生する遠心力が小さいという優位点があるが、自動二輪などの比較的軽負荷で高回転の用途に向いている。
【0043】
射出成形で製造する場合でも、このブロック2は合成樹脂素材のみからなっているものに限られず、センターベルト3にアルミニウム合金などの金属などからなるインサート材を装着した状態で金型にセットしてブロックを成形することも可能である。
【0044】
図1〜図3に示すようなベルトの場合は、ブロック2の樹脂として用いることができるのは、具体的には硬度90°JIS A以上の硬質ゴム、硬質ポリウレタン樹脂、液晶樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、メタアクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、ポリエーテルスルフォン(PES)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂等のゴムや合成樹脂が用いられる。
【0045】
図6〜7で説明したような成形でブロックを成形する場合に用いられる素材の樹脂としては、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、ポリエーテルスルフォン(PES)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂等の合成樹脂が用いられるが、中でも低摩擦係数で耐摩耗性に優れ、剛性があるとともに曲げに対しても弾力性を有しており、簡単に破損してしまうことのない樹脂がよく、ポリアミド樹脂、なかでもナイロン46が好ましいといえる。
【0046】
また、これらの樹脂中に、綿糸、ポリアミド繊維やアラミド繊維等の化学繊維、ガラス繊維、金属繊維、カーボン繊維等からなる織布、フィラー、ウィスカ、シリカ、炭酸カルシウムなどの無機材料等を混入してもよい。
【0047】
繊維状やウィスカ状の補強材を配合することは可能であり、繊維状の補強材は15〜40重量%の範囲で配合する。15重量%未満であると補強効果が少なくブロックの耐摩耗性が十分でないなどの問題があり、40重量%を超えると樹脂への配合が困難になったり射出成形が困難になったりするなどの問題があるので好ましくない。
【0048】
なお、これらの他に、二硫化モリブデン、グラファイト、フッ素系樹脂から選ばれてなる少なくとも一つを混入することによってもブロック2の潤滑性を向上させることができる。フッ素系樹脂としては、ポリ4フッ化エチレン(PTFE)、ポリフッ化エチレンプロピレンエーテル(PFPE)、4フッ化エチレン6フッ化プロピレン共重合体(PFEP)、ポリフッ化アルコキシエチレン(PFA)等が挙げられる。
【0049】
樹脂材中にインサート材を埋設したものの場合、インサート材は、ブロック2の耐側圧性や曲げ剛性を持たせる部分となるインサート材であり、素材としてはアルミ合金、セラミックス、セラミックスとアルミニウムとの複合材料、炭素繊維強化樹脂や鉄などの素材が挙げられる。
【0050】
耐側圧性や曲げ剛性を持たせるという面では金属材料が好ましく、金属材料の中ではアルミ合金の弾性率が7000kgf/mmで比重が2.8であるのに対し、鉄は弾性率が22000kgf/mmで比重が7.8であり、強度的には鉄を用いるほうが高いといえるが、高速で回転するベルトにとって、ベルト重量は寿命に大きく影響を与えるため軽量化の面で有利なアルミ合金を用いることが好ましい。ただし、耐側圧性や曲げ剛性を持たせるという面では金属材料が優れており、インサート材22の所定箇所に樹脂材21を被覆したブロック2を用いることが好ましい。
【0051】
樹脂材を所定の箇所に配置する場合、ブロック2の大きさよりもひと回り小さい金属材料からなるインサート材を用いてそのほぼ全面を樹脂材で被覆したものを用いると、部分的に樹脂材を被覆配置したものに比べて、樹脂材の剥離などの問題が発生しにくいので好ましい形態ということができる。ただし、全面といっても製造工程の上で樹脂材を被覆する際にインサート材を固定する部材が接触しているところは、インサート材が露出する箇所が発生することになるが、その程度のインサート材の露出は、実質的に全面を樹脂材で被覆している形態に含まれるといってよいものである。
【0052】
なお、本発明にかかる高負荷伝動ベルトに用いられるブロックには、本実施形態に示した形態に限定されるものではない。
【0053】
次に、本発明の特徴部分であるセンターベルト3の表面に繊維強化樹脂からなる保護材10を積層した場合の摩耗を低減する効果を、以下のように実施例および比較例を挙げて確認した。
【実施例】
【0054】
(実施例1)
炭素繊維にエポキシ樹脂を含浸させたプリプレグであり、エポキシ樹脂の含有割合は33%のものを保護材として使用した。保護材に用いる炭素繊維はベルト長手方向に相当する一方向に配向したものとしている。カバー帆布にはアラミド繊維からなるものを使用している。このプリプレグとカバー帆布を夫々25mm×240mmの大きさに切り取り、それらを重ね合わせ、130℃の温度で5kg/cmの圧力で加圧し、90分加圧加熱した状態で静置し、その後50℃まで冷却した後で加圧を解除した。そのようにして得られた表面に繊維強化樹脂を積層したカバー帆布からなる試験サンプルを用いて評価を行った。評価は、ベルト走行時のセンターベルトとブロックとの摩擦動作に相当する、学振型堅牢度試験機特型(AB−301、テスター産業株式会社製)を用いて、図9に示すような摩耗試験とした。尚、相手材としてはブロックの素材として用いられるポリアミド46に炭素繊維を30質量%配合した材料(PA46/CF)を用い、速度1.93m/分、荷重11N、圧力1.93MPaの試験条件とした。
【0055】
(比較例1)
比較例1としては繊維強化樹脂からなる保護材を設けていないカバー帆布のみの試験サンプルを用いて、その他試験条件等は実施例とまったく同じにして摩耗試験を行った。
【0056】
(比較例2)
比較例2としては実施例において保護材を形成するプリプレグの炭素繊維の方向をベルトの幅方向に相当する一方向に配向し、それ以外は試験条件等も含めて実施例とまったく同じにして摩耗試験を行った。
【0057】
比較例1では、39時間時点で試験サンプルが破断したのに対して、繊維強化樹脂からなる保護材を積層した実施例では100時間経過した時点でも試験サンプルに大きな損傷は認められず、更には相手材の摩耗もほとんどない状態であった。
【0058】
比較例2では、15時間時点で表面のプリプレグからなる保護材が局所的に摩耗し、摩耗した部分でカバー帆布が視認できるようになり、摩耗試験の相手材の摩耗量を測定すると−0.47wt%であったのに対して、実施例では100時間経過した時点でも、保護材の様子の変化が認められず、摩耗試験の相手材の摩耗量も0wt%であった。
【0059】
以上の結果から、センターベルトの表面に繊維強化樹脂からなる保護材を積層配置することによって、ベルト走行中にブロックとの間で摩擦が発生しても、保護材、ブロック共に摩耗を少なく抑えることができるので、センターベルトに亀裂が発生したり、切断にいたってしまったり、その他摩耗によってブロックとセンターベルトとの間のガタツキが発生してベルトに異常を来たすといった問題を解消することができることがわかった。
【0060】
更に、リング・オン・ディスク摩擦摩耗試験を行い、センターベルト表面に繊維強化樹脂からなる保護材を積層配置した場合の耐摩耗性を確認した。
【0061】
(実施例2)
実施例2では、経糸が6ナイロン繊維、緯糸がアラミド繊維と66ナイロン繊維とウレタン弾性糸を混撚りした糸から構成されたカバー帆布に繊維強化樹脂からなる保護材として炭素繊維にエポキシ樹脂を含浸させたプリプレグであり、エポキシ樹脂の含有割合は33%のものを使用した。炭素繊維はベルト長手方向に相当する一方向に配向したものとしている。この繊維強化樹脂からなる試料の1枚もののディスクを台の上に固定した。相手材としては、ブロックの素材として用いられるポリアミド46に炭素繊維を30質量%配合した材料(PA46/CF)からなるリングを用いて、前記ディスク上に当接させ摺動回転させた。速度21.7m/分、面圧2.06Pa、雰囲気温度は常温の試験条件とした。試験サンプルが破断するまでの時間を表1に示す。
【0062】
(実施例3)
カバー帆布に繊維強化樹脂からなる保護材として、実施例2で使用したのと同様のプリプレグで図10に示すように炭素繊維CFが同心の四角となるよう配置したものを使用した以外は、実施例2と同じ条件とした。もちろん試験条件も実施例2と同様である。試験サンプルが破断するまでの時間を表1に示す。
【0063】
(実施例4)
カバー帆布に繊維強化樹脂からなる保護材として、実施例2で使用したのと同様のプリプレグを炭素繊維の向きが同じになるように2枚重ねた状態のものを使用した以外は、実施例2と同じ条件とした。もちろん試験条件も実施例2と同様である。試験サンプルが破断するまでの時間を表1に示す。
【0064】
(実施例5)
カバー帆布に繊維強化樹脂からなる保護材として、実施例2で使用したのと同様のプリプレグを炭素繊維の向きが直角方向になるように2枚重ねた状態のものを使用した以外は、実施例2と同じ条件とした。もちろん試験条件も実施例2と同様である。試験サンプルが破断するまでの時間を表1に示す。
【0065】
(比較例3)
カバー帆布の表面に何も積層することなくそのままの状態で試験サンプルとしリング・オン・ディスク摩擦摩耗試験を行った。試験条件は実施例2と同様とした。試験サンプルが破断するまでの時間を表1に示す。
【0066】
(比較例4)
カバー帆布の表面にHNBR系のソーキングを施したものを試験サンプルとしてリング・オン・ディスク摩擦摩耗試験を行った。試験条件は実施例2と同様とした。試験サンプルが破断するまでの時間を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
以上の結果からカバー帆布の表面に繊維強化樹脂を積層することで耐摩耗性は大幅に改善され長期にわたって摩耗してしまうことなくセンターベルトを保護することができることがわかった。繊維強化樹脂を積層したものの中でも、摺動する方向に炭素繊維の長手方向を近づけた実施例3において破断するまでに時間が長い結果となっており、炭素繊維をベルト長手方向に配向した繊維強化樹脂を用いるものがより寿命が長くなるということが推測される。また、複数層の繊維強化樹脂を重ねて配置する場合には、炭素繊維を同じ方向に配置したほうが破断までの時間が長いという結果になった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
自動車や自動二輪車、農業機械の無段変速装置など、プーリの有効径が変化し大きなトルクを伝達するようなベルトの製造に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の高負荷伝動ベルトの要部斜視図である。
【図2】本発明の高負荷伝動ベルトの側面図である。
【図3】本発明の別の例を示す高負荷伝動ベルトの斜視図である。
【図4】本発明で用いる保護材の側面図である。
【図5】本発明の更に別の例を示す高負荷伝動ベルトの斜視図である。
【図6】本発明の製造方法で用いられる製造装置の概要斜視図である。
【図7】金型を開いたところから見た正面図である。
【図8】本発明の更に別の例を示す高負荷伝動ベルトの斜視図である。
【図9】学振型堅牢度試験機での試験の様子を示す概要図である。
【図10】実施例3における試験サンプルの炭素繊維の配置を示す平面図である。
【符号の説明】
【0071】
1 高負荷伝動ベルト
2 ブロック
3 センターベルト
4 エラストマー
5 心線
6 側面
7 側面
8 嵌合溝
9 嵌合溝
10 保護材
10a カバー帆布
10b 繊維強化樹脂
11 上ビーム部
12 下ビーム部
13 センターピラー
15 凹条部
16 凹条部
17 凸条部
18 凸条部
30 金型
31 金型
32 センターベルト保持部
33 キャビティ
34 ゲート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センターベルトと、該センターベルトの長手方向に沿って複数のブロックを設けた高負荷伝動ベルトにおいて、センターベルトはエラストマー中に心体を埋設すると共に少なくともブロックと接触する部位の表面に、繊維強化樹脂からなる保護材を配置してなることを特徴とする高負荷伝動ベルト。
【請求項2】
保護材として使用する繊維強化樹脂を構成する繊維が炭素繊維である請求項1記載の高負荷伝動ベルト。
【請求項3】
保護材として使用する繊維強化樹脂を構成する樹脂が熱硬化樹脂である請求項1〜2のいずれかに記載の高負荷伝動ベルト。
【請求項4】
保護材として使用する繊維強化樹脂を構成する熱硬化樹脂がエポキシ樹脂である請求項3に記載の高負荷伝動ベルト。
【請求項5】
保護材として使用する繊維強化樹脂を構成する繊維がベルト長手方向に配向されてなる請求項1〜4のいずれかに記載の高負荷伝動ベルト。
【請求項6】
カバー帆布の上に保護材を積層したものである請求項1〜5のいずれかに記載の高負荷伝動ベルト

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2010−112546(P2010−112546A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−41471(P2009−41471)
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】