説明

高速、高精度に指令が可能なガスレーザ発振器における指令装置

【課題】複数の電源がある場合にベース放電および最大注入電力を短時間で調整する。
【解決手段】複数の放電管(21、22)と対応する複数の電極(23、24)とを有するガスレーザ発振器における複数のレーザ電源(11、12)の指令装置(10)は、複数のレーザ電源の指令を作成する指令作成部(5)と、作成された指令をバイアス指令、出力指令、オフセット指令およびゲイン指令とに分離する分離部(36)とを具備し、バイアス指令および出力指令は複数のレーザ電源に対して共通であり、オフセット指令およびゲイン指令は複数のレーザ電源のそれぞれの放電管に少なくとも応じて定まり、さらに、複数のレーザ電源に対して共通のバイアス指令および出力指令を複数のレーザ電源に送信すると共に、複数のレーザ電源の放電管に少なくとも応じて定まるオフセット指令およびゲイン指令を複数のレーザ電源に対応してシリアルで送信する送信部(37)とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスレーザ発振器における指令装置に関する。特に、本発明は高速、高精度に指令が可能なガスレーザ発振器における指令装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガスレーザ発振器には、所要のレーザ出力に応じて複数のレーザ電源が備えられている。図3は従来技術におけるガスレーザ発振器において二つのレーザ電源を備えた例を示す図である。図3に示されるガスレーザ発振器200は二つのレーザ電源110、120を備えている。図3に示されるように、CNCにて作成された指令は出力指令装置100の通信IC350に送信されてバイアス指令410と出力指令420とに分離される。
【0003】
これら指令はそれぞれD/A変換部440a、440bにてD/A変換された後で、加算回路460により加算される。次いで、加算されたアナログ指令電圧はそれぞれのレーザ電源110、120に共通に送信される。レーザ電源はマッチングユニット150、160を介してガスレーザ発振器200の放電管210、220の電極230、240にアナログ指令電圧に比例した電力を供給する。それにより、ガスレーザ発振器200からのレーザ出力が制御される。
【0004】
通常、レーザ運転状態、つまりレーザビーム出力可能な状態においては、一定のバイアス指令が常に送信されている。そして、バイアス指令に加算されるべき出力指令を変化させることにより、ガスレーザ発振器200からのレーザ出力を制御している。
【0005】
これらバイアス指令および出力指令は両方のレーザ電源110、120に対してそれぞれ共通の値である。ところで、ガスレーザ発振器200のレーザガス循環路250における放電管210、220の電極230、240、放電管210、220内のレーザガスの圧力、これら電極230、240にそれぞれ隣接して配置された補助電極310、320、およびマッチングユニット150、160の特性には互いにバラツキがある。以下、これらをまとめて単にレーザ電源の負荷と呼ぶ場合がある。
【0006】
このため、従来技術においては指令電圧調整回路130、140をレーザ電源110、120にそれぞれ設けている。これら指令電圧調整回路130、140は、各レーザ電源110、120においてバイアス指令時のベース放電の調整と、最大出力指令時におけるレーザ電源の最大注入電力の調整とを行い、上記バラツキを吸収していた。
【0007】
ベース放電を調整する際には、出力指令420をゼロにしつつバイアス指令410のみを送信する。そして、放電管230、240の放電が消えてレーザ発振器200が発振閾値以下であること(レーザ出力が0W)、且つ、補助電極310、320による補助放電が維持されていることとを目視で確認しつつ、操作者は指令電圧調整回路130、140にそれぞれ設けられたオフセット調整用の可変抵抗(図示しない)を調節する。
【0008】
また、レーザ電源の最大注入電力を調整する際には、バイアス指令410と最大出力指令420とを送信する。つまり、レーザ電源にはバイアス指令と最大出力指令を加算したアナログ指令電圧が送信される。そして、レーザ電源の能力を最大限に利用できるようにレーザ電源の注入電力を測定しながら、操作者は指令電圧調整回路130、140にそれぞれ設けられたゲイン調整用の可変抵抗(図示しない)を調節する。
【0009】
ガスレーザ発振器200が高出力のレーザ発振器になるほど、一つの発振器あたりに備わるレーザ電源の数が多くなる。このため、レーザ電源の数が増えると、操作者が指令電圧調整回路の可変抵抗を調整してベース放電および最大注入電力を調整するのがさらに煩雑になりうる。
【0010】
ここで、特許文献1に開示される指令方式では、各レーザ電源の負荷のバラツキを吸収するため、DC電流を検出して指令電圧を調整している。特許文献1においては、同様なアナログ電圧の調整回路130、140が必要とされる。
【0011】
さらに、特許文献2においては、CNCからバイアス指令および出力指令の2種類の指令をレーザ電源に送信する装置を有するレーザ発振器が開示されている。この方式では、CNCからバイアス指令および出力指令を各レーザ電源に独立して送信して、ベース放電と最大注入電力の調整を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第4141562号
【特許文献2】特許第2633288号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1においては、指令電圧調整回路130、140および前述した負荷のバラツキや温度などの環境の変化により調整精度の低下や検出時の応答時間が遅延するという問題があった。さらに、指令電圧調整回路130、140の回路構成が複雑になるという問題があった。さらに、アナログ電圧の調整回路では、複数の電源で同じ値であるバイアス指令および出力指令に対して各レーザ電源のオフセット調整とゲイン調整の可変抵抗における調整量を管理できず、レーザ電源が故障して交換する度にベース放電と最大注入電力とを調整する必要があった。
【0014】
また、特許文献1においては、ベース放電の調整ミスにより加工不良が発生する可能性がある。つまり、出力指令をゼロにしてバイアス指令のみ送信した状態であっても、レーザ発振器の発振閾値を超えてレーザ出力が発生する場合がある。そのような場合には、ワークにケガキ線が形成されるという問題がある。
【0015】
さらに、特許文献1において補助放電が消滅した状態で出力指令を急峻に上昇させると、レーザ電源と負荷とのインピーダンスマッチングの整合がとれずに、レーザ電源が破損する可能性もある。さらに、最大注入電力を調整する際には、注入電力が不足して加工不良(レーザ出力不足)が生じたり、注入電力が過剰になってレーザ電源、マッチングユニット、放電管などが破損するという問題があった。
【0016】
さらに、特許文献2においては、一つのレーザ発振器あたりに搭載されるレーザ電源の数が増えると、送信するデータ数が増える(12bit×2種類×搭載されるレーザ電源の数)という課題があった。通常、使用可能なデータ数は、ハードウェア(通信IC)やCNCのソフトウェアに応じて制限されており、従って、レーザ電源の数もそれに応じて定まる。また、この方式においては、特許文献2の図3(b)のフローチャートに示されるように各レーザ電源毎にベース放電と最大注入電力とを順次調整している。それゆえ、レーザ電源の数が多い場合には、レーザ電源の調整時間が大幅に長くなる可能性があった。
【0017】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、レーザ電源の数が多い場合であってもレーザ電源の調整時間を長くすることなしに、ベース放電と最大注入電力とを容易に調整することのできるガスレーザ発振器における指令装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前述した目的を達成するために1番目の発明によれば、複数の放電管とこれら複数の放電管に対応した複数の電極とを有するガスレーザ発振器における複数のレーザ電源の指令装置において、前記複数のレーザ電源に対する指令を作成する指令作成部と、該指令作成部により作成された指令をバイアス指令、出力指令、オフセット指令およびゲイン指令とに分離する分離部とを具備し、前記バイアス指令および出力指令は前記複数のレーザ電源に対して共通であり、前記オフセット指令およびゲイン指令は前記複数のレーザ電源のそれぞれの前記放電管に少なくとも応じて定まり、さらに、前記複数のレーザ電源に対して共通の前記バイアス指令および前記出力指令を前記複数のレーザ電源のそれぞれに送信すると共に、前記複数のレーザ電源のそれぞれの前記放電管に少なくとも応じて定まる前記オフセット指令および前記ゲイン指令を前記複数のレーザ電源のそれぞれに対応してシリアルで送信する送信部とを具備する、レーザ発振器における指令装置が提供される。
【0019】
2番目の発明によれば、1番目の発明において、前記送信部は、前記複数のレーザ電源のそれぞれの前記放電管および前記電極のうちの少なくとも一方応じて定まる前記オフセット指令を前記複数のレーザ電源に対して共通の前記バイアス指令に加算して前記レーザ発振器におけるベース放電を調整する加算調整部と、前記複数のレーザ電源のそれぞれの前記放電管に少なくとも応じて定まる前記ゲイン指令を前記複数のレーザ電源に対して共通の前記出力指令に乗算して前記レーザ発振器における最大注入電力を調整する乗算調整部と、を含む。
【0020】
3番目の発明によれば、1番目の発明において、前記レーザ発振器は、前記複数のレーザ電源のそれぞれと前記レーザ発振器との間に配置された複数のマッチングユニットと、前記複数の電極のそれぞれに隣接して配置された補助電極とを含んでおり、前記オフセット指令および前記ゲイン指令は、前記複数のレーザ電源のそれぞれの前記放電管、前記放電管の圧力、前記マッチングユニットおよび前記補助電極のうちの少なくとも一つに応じて定まるようにした。
【発明の効果】
【0021】
1番目の発明においては、オフセット指令およびゲイン指令をセットにして各レーザ電源にシリアル送信しつつ、バイアス指令および出力指令を各レーザ電源に対して同じ値を送信している。従って、レーザ電源の数が多い場合であっても、バイアス指令および出力指令を更新する周期が低下することはない。また、オフセット指令およびゲイン指令をシリアルで送信しているので、複数のレーザ電源を備えるレーザ発振器であっても一つのレーザ電源を備えるレーザ発振器であっても送信すべきデータ数は変わらない。つまり、備えるレーザ電源の数に関わらず同じ調整時間で足りる。
【0022】
2番目の発明においては、レーザ電源固有の負荷のバラツキをオフセット指令およびゲイン指令を用いて出力指令装置内で調整しているので、指令電圧調整回路130、140は不用となる。なお、レーザ電源固有の負荷は、マッチングユニット、放電管、放電管内の圧力、補助電極などである。また、各レーザ電源の負荷に応じてオフセット指令およびゲイン指令が定まるので、レーザ電源の故障でレーザ電源を交換した場合であっても、レーザ発振器の製造時に記憶した元のオフセット指令およびゲイン指令の値で安全にレーザ発振器を立ち上げることが可能となる。また、調整ミスによる加工不良やレーザ電源の破損を未然に防止できる。さらに、負荷が変化した場合、例えば放電管内のレーザガスの圧力の設定を変更した場合やマッチングユニット、放電管、補助電極が劣化して交換した場合であっても、負荷に応じてオフセット指令およびゲイン指令の設定を変更することで負荷の変化にも容易に対応できる。
【0023】
3番目の発明においては、負荷に応じて定まるオフセットおよびゲイン指令をデジタル値で管理することにより、より精密な制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に基づくガスレーザ発振器の概略図である。
【図2】図1に示される出力指令装置の機能ブロック図である。
【図3】従来技術におけるガスレーザ発振器を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の図面において同様の部材には同様の参照符号が付けられている。理解を容易にするために、これら図面は縮尺を適宜変更している。
図1は本発明に基づくガスレーザ発振器の概略図である。本発明におけるレーザ発振器20は放電励起型である比較的高出力のガスレーザ発振器である。レーザ発振器20から出力されるレーザ光は、図示しないレーザ加工装置においてワーク(図示しない)を加工するのに使用される。
【0026】
図示されるように、レーザ発振器20のレーザガス循環路25は放電管21、22を含んでいる。このレーザガス循環路25はレーザガス圧制御システム33に接続され、レーザガス圧制御システム33において、レーザガスを供給、排出することにより、レーザガス循環路25の圧力を制御する。
【0027】
また、レーザガス循環路25にはターボブロワ26が配置され、ターボブロワ26の上流および下流には熱交換器27、28がそれぞれ配置されている。さらに、レーザ発振器20は冷却水循環システム34に接続されている。これにより、レーザガス循環路25内のレーザガス、特に放電管21、22内のレーザガスなどが適宜冷却される。
【0028】
図1に示されるように、一方の放電管21の一端には部分反射鏡のリア鏡29(共振器内部ミラー)が設けられており、他方の放電管22の他端には部分反射鏡の出力鏡30が設けられている。出力鏡30はZnSeから形成されており、出力鏡30の内面は部分反射コーティングされると共に出力鏡30の外面は反射防止コーティングされている。
【0029】
前述した二つの放電管21、22はリア鏡29および出力鏡30の間の光共振空間内に位置している。各放電管21、22は一対の電極23、24によりそれぞれ挟まれている。これら電極23、24は同一寸法であって、金属メタライズされているか、または金属部材が取付けられているものとする。さらに、補助電極31、32がそれぞれ電極23、24から各放電管21、22のレーザガスの上流側に配置されている。
【0030】
補助電極31、32と放電管21,22の電極23、24にはマッチングユニットを介して同じ電圧が印加される。補助電極による補助放電は、通常、電極23、24に印加される電圧よりも低い電圧で放電するため、電極23、24間の放電が消滅した場合であっても、補助放電は維持される。このように補助放電が維持される場合には、レーザ電源への指令が急峻に高められたとしても放電管電圧が過剰に上昇するのを回避し、レーザ電源の破損を防止することができる。
【0031】
図1に示されるように電極23、24および補助電極31、32はそれぞれマッチングユニット15、16を介してレーザ電源11、12に接続されている。二つのレーザ電源11、12は共通の出力指令装置10に接続されている。さらに、出力指令装置10は、CNC5に接続されている。
【0032】
図2は図1に示される出力指令装置の機能ブロック図である。図2に示されるように、出力指令装置10は、CNC5と通信するための通信IC35を含んでいる。通信IC35は、CNC5からの指令をバイアス指令Cb、出力指令Co、オフセット指令Csおよびゲイン指令Cgに分離する分離部36に接続されている。
【0033】
ここで、バイアス指令Cbは、レーザ運転状態(レーザビーム出力可能な状態)において、CNC5から常に指令される所定の指令値である。また、出力指令Coは、レーザ出力を制御する指令であり、レーザ発振器20が何Wのレーザビームを出力するかを決定する。ベース放電においてはレーザ出力がゼロWになるように、バイアス指令Cbが設定されるので、バイアス指令Cbに加算される出力指令Coを変化させることにより、レーザ出力を所望のW数で制御することができる。
【0034】
バイアス指令Cbおよび出力指令Coはレーザ加工において高速な制御が要求されるので、複数のレーザ電源11、12に対して共通の値を使用している。そして、バイアス指令Cbおよび出力指令Coの指令データ更新周期も所定の短時間に維持される。
【0035】
これに対し、オフセット指令Csおよびゲイン指令Cgはそれぞれのレーザ電源11、12の負荷に応じて定まる値である。図1から分かるように、レーザ電源11には、マッチングユニット15、放電管21および補助電極31が関連付けられている。同様に、レーザ電源12にはマッチングユニット16、放電管22および補助電極32が関連付けられている。これらマッチングユニット、放電管、放電管内の圧力、および補助電極を以下、レーザ電源の負荷と適宜呼ぶことにする。
【0036】
オフセット指令Csは、バイアス指令Cbに対する各レーザ電源11、12の負荷(マッチングユニット、放電管、管内圧力、補助電極)の特性のバラツキ量である。また、ゲイン指令Cgは、出力指令Coに対する各レーザ電源11、12の負荷の特性のバラツキ量である。
【0037】
レーザ電源11、12の負荷は、マッチングユニット15、16内のキャパシタンスやインダクタンスの特性のバラツキ、放電管21、22の太さなどのバラツキ、および補助電極31、32の寸法のバラツキ、および放電管21、22内のレーザガスの圧力(レーザガスの流速)に応じて変化する。従って、これら負荷はレーザ電源11およびレーザ電源12の間でバラツキがあり、搭載するレーザ電源の数に従って、負荷のバラツキが存在する。
【0038】
このため、本発明では、出力指令装置10内に記憶部40を設け、記憶部40内に各レーザ電源のオフセット指令Csおよび各レーザ電源のゲイン指令Cgのデジタル値をレーザ発振器の製造時やレーザ電源の負荷を交換した際に自動的に求め記憶している。なお、CNC5内に記憶部40を設けるようにしてもよい。
【0039】
なお、CNCソフトから分離部36を介してオフセット指令Csおよびゲイン指令Cgのための指定信号を作成する。指定信号000はレーザ電源11のオフセット指令Cs、指定信号001はレーザ電源12のオフセット指令Cs、指定信号010はレーザ電源11のゲイン指令Cg、指定信号011はレーザ電源12のゲイン指令Cgである。
【0040】
オフセット指令Csおよびゲイン指令Cgについては、レーザ電源11、12を調整しているときおよびレーザ発振器20の起動時にのみ、更新すれば足りる。このため、オフセット指令Csおよびゲイン指令Cgは指定信号と一緒にシリアルで送信され、指定信号に基づいて順次切替えられる。一般に指令データの更新周期はレーザ電源の数が増えるにつれて低速になる。しかしながら、レーザ発振器20の制御は主にバイアス指令Cbおよび出力指令Coにより行われるので、レーザ加工制御自体に遅れが生じることはない。
【0041】
図2に示されるように、分離部36は送信部37に接続されている。送信部37は、複数のD/A変換部44a〜44fと、データセレクタ45と、複数の加算回路46a〜46dとを含んでいる。送信部37は各種指令を変更無しであるいは後述するように変更して、レーザ発振器20のレーザ電源11、12にそれぞれ送信する。なお、本発明において、オフセット指令Cs、ゲイン指令Cgおよび指定信号の送信には、シリアル方式が採用されるものとする。
【0042】
以下、図2を参照しつつ、本発明のガスレーザ発振器の動作について説明する。
【0043】
CNC5がレーザ発振器20のための指令データを作成し、出力指令装置10の通信IC35に送信する。次いで、分離部36がそれら指令をバイアス指令Cb、出力指令Co、オフセット指令Csおよびゲイン指令Cgに分離する。
【0044】
前述したようにバイアス指令Cbおよび出力指令Coはレーザ電源11、12に対して共通の値である。図2から分かるように、バイアス指令Cbは送信部37のD/A変換部44aによりD/A変換され、加算回路46a、46bに入力される。出力指令CoはD/A変換部44bによりD/A変換され、他のD/A変換部44e、44fに入力される。
【0045】
一方、出力指令装置10内、またはCNC5内に設けた記憶部40で記憶された各レーザ電源11、12毎のオフセット指令Csおよびゲイン指令Cgを定め、さらに前述したように指定番号を各指令に設定する。これらオフセット指令Csおよびゲイン指令Cgならびに指定番号は、データセレクタ45に入力される。データセレクタ45は、指定番号に基づいて、オフセット指令Csおよびゲイン指令Cgを各レーザ電源11、12に応じてそれぞれD/A変換部44c〜44fに入力する。
【0046】
そして、D/A変換部44c、44dにそれぞれ入力されたレーザ電源11、12のオフセット指令CsはD/A変換されて加算回路46a、46bにそのまま入力される。これに対し、D/A変換部44eにおいてはレーザ電源11の出力指令Coにレーザ電源11のゲイン指令Cgが乗算されてD/A変換される。同様に、D/A変換部44fにおいてはレーザ電源12の出力指令Coにレーザ電源12のゲイン指令Cgが乗算されてD/A変換される。
【0047】
従って、D/A変換部44e、44fは、出力指令Coにゲイン指令Cgを乗算してこれを調整する乗算調整部39としての役目を果たす。そして、調整された出力指令Coは加算回路46c、46dにそれぞれ入力される。
【0048】
図2に示されるように、加算回路46aにおいては、バイアス指令Cbとレーザ電源11のオフセット指令Csとが加算される。さらに、加算回路46bにおいては、バイアス指令Cbとレーザ電源12のオフセット指令Csとが加算される。これら加算回路46a、46bは、バイアス指令Cbにオフセット指令Csを加算して調整する加算調整部38としての役目を果たす。その後、加算回路46a、46bにおいて加算処理されたバイアス指令Cbはそれぞれ別の加算回路46c、46dに入力される。
【0049】
図2に示されるように、加算回路46cは、加算処理後、つまりレーザ電源11のオフセット指令が加味されたバイアス指令Cbと、乗算処理後、つまりレーザ電源11のゲイン指令が加味された出力指令Coを加算して、レーザ電源11に入力する。さらに、上記と同様に加算回路46dは、加算処理後、つまりレーザ電源12のオフセット指令が加味されたバイアス指令Cbと乗算処理後、つまりレーザ電源12のゲイン指令が加味された出力指令Coを加算して、レーザ電源12に入力する。
【0050】
このように、本発明においては、オフセット指令Csおよびゲイン指令Cgをセットにして各レーザ電源11、12に所定の制御周期毎にシリアル送信しつつ、共通のバイアス指令Cbおよび出力指令Coを各レーザ電源に送信している。このため、レーザ電源11、12の数が多い場合であっても、指令の更新周期が低下することはない。
【0051】
そして、本発明において、ベース放電を調整する際には、バイアス指令Cbのみを送信して、出力指令Coがゼロの状態にする。そして、指定信号に基づいて振り分けられた各レーザ電源11、12のオフセット指令Csをゼロの状態から変化させて、電極23、24間の放電が消滅して、補助電極31、32の補助放電が消えずに維持するデジタル値を自動で求め記憶部40に記憶する。さらに、加算回路46a、46bにおいて共通のバイアス指令Cbに加算する。これにより、各レーザ電源11、12毎にベース放電を調整することが可能となる。
【0052】
さらに、最大注入電力を調整する際には、最大出力指令時(バイアス指令Cbと出力指令Coとの合計)に、指定信号に基づいて振り分けられた各レーザ電源11、12のゲイン指令Cgをゼロの状態から変化させて、各レーザ電源の注入電力が所定の値になるデジタル値を自動で求め記憶部40に記憶する。さらに、D/A変換部44e、44fにおいて共通の出力指令Coに乗算する。これにより、各レーザ電源11、12毎に最大注入電力を調整でき、従って、レーザ発振器20が所要の最大レーザ出力を得ることが可能となる。このように、本発明においては、各レーザ電源11、12の負荷のバラツキをオフセット指令Csおよびゲイン指令Cgによって吸収している。
【0053】
従来技術においては、図3に示されるように、レーザ電源110、120にそれぞれ設けられたアナログの指令電圧調整回路130、140のオフセットおよびゲインの可変抵抗によってベース放電および最大注入電力を調整していた。このため、調整量を管理することができなかった。また、オフセットおよびゲインの調整作業は指令電圧調整回路130、140のバラツキの影響を受けやすく、レーザ電源110、120を交換するたびに、ベース放電および最大注入電力を調整する必要があった。
【0054】
しかしながら、本発明においてはオフセット指令Csおよびゲイン指令Cgをデジタル値として管理している。このため、操作者の熟練度により調整作業に差が出ることなしに、高精度で調整作業を行うことができる。
【0055】
また、レーザ電源11、12を故障などにより交換した場合であっても、各レーザ電源11、12の負荷であるマッチングユニット15、16、放電管21、22、補助電極31、32は変わらない。このため、記憶部40が予め記憶しているオフセット指令Csおよびゲイン指令Cgの値を用いれば、レーザ電源の調整作業自体を行う必要がない。従って、本発明においては、レーザ発振器20を安全かつ迅速に立上げることが可能となる。それゆえ、本発明においては、調整ミスに基づく、ワークの加工不良や、レーザ電源、マッチングユニット、および放電管の破損を回避することができる。
【0056】
さらに、本発明では、複数、例えば三つ以上のレーザ電源を備えている場合であっても、(1)バイアス指令Cb(12bit)、(2)出力指令Co(12bit)、(3)オフセット指令Cs・ゲイン指令Cg(12bit)および指定信号のみのデータ数で足りるので、複数のレーザ電源をデータ数の上限値に縛られることなく容易に指令することが可能である。
【0057】
このとき、000→001→010→011…のように指定番号を順次切替えながらゲイン指令Csおよびゲイン指令Cgを所定の制御周期毎に送信している。つまり、或る制御周期においては、一つの指定信号に対応するゲイン指令Csまたはゲイン指令Cgのみが送信されることになる。従って、単一のレーザ電源のみを調整する場合と複数のレーザ電源を調整する場合とで、調整時間は変わらず、同じ調整時間で調整作業を完了することができる。
【0058】
さらに、負荷が変化した場合、例えば放電管21、22内のレーザガスの圧力の設定を変更した場合であっても、負荷に応じたオフセット指令およびゲイン指令を予め記憶しておくことにより、レーザ電源の負荷の変化にも自動的に対応することが可能である。
【符号の説明】
【0059】
5 CNC(指令作成部)
10 出力指令装置(指令装置)
11、12 レーザ電源
15、16 マッチングユニット
20 レーザ発振器
21、22 放電管
23、24 電極
25 レーザガス循環路
26 ターボブロワ
27、28 熱交換器
29 リア鏡
30 出力鏡
31、32 補助電極
35 通信IC
36 分離部
37 送信部
38 加算調整部
39 乗算調整部
40 記憶部
44a〜44f D/A変換部
45 データセレクタ
46a〜46d 加算回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の放電管とこれら複数の放電管に対応した複数の電極とを有するガスレーザ発振器における複数のレーザ電源の指令装置において、
前記複数のレーザ電源に対する指令を作成する指令作成部と、
該指令作成部により作成された指令をバイアス指令、出力指令、オフセット指令およびゲイン指令とに分離する分離部とを具備し、前記バイアス指令および出力指令は前記複数のレーザ電源に対して共通であり、前記オフセット指令およびゲイン指令は前記複数のレーザ電源のそれぞれの前記放電管に少なくとも応じて定まり、
さらに、
前記複数のレーザ電源に対して共通の前記バイアス指令および前記出力指令を前記複数のレーザ電源のそれぞれに送信すると共に、前記複数のレーザ電源のそれぞれの前記放電管に少なくとも応じて定まる前記オフセット指令および前記ゲイン指令を前記複数のレーザ電源のそれぞれに対応してシリアルで送信する送信部とを具備する、レーザ発振器における指令装置。
【請求項2】
前記送信部は、前記複数のレーザ電源のそれぞれの前記放電管および前記電極のうちの少なくとも一方応じて定まる前記オフセット指令を前記複数のレーザ電源に対して共通の前記バイアス指令に加算して前記レーザ発振器におけるベース放電を調整する加算調整部と、
前記複数のレーザ電源のそれぞれの前記放電管に少なくとも応じて定まる前記ゲイン指令を前記複数のレーザ電源に対して共通の前記出力指令に乗算して前記レーザ発振器における最大注入電力を調整する乗算調整部と、を含む、請求項1に記載のレーザ発振器における指令装置。
【請求項3】
前記レーザ発振器は、前記複数のレーザ電源のそれぞれと前記レーザ発振器との間に配置された複数のマッチングユニットと、前記複数の電極のそれぞれに隣接して配置された補助電極とを含んでおり、
前記オフセット指令および前記ゲイン指令は、前記複数のレーザ電源のそれぞれの前記放電管、前記放電管の圧力、前記マッチングユニットおよび前記補助電極のうちの少なくとも一つに応じて定まるようにした請求項1に記載のレーザ発振器における指令装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−26271(P2013−26271A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156689(P2011−156689)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】